今の世界経済を的確にみているのが、野村総合研究所のリチャード ・クー氏であろう。 彼のバランスシート不況の理論が、現在世界の中央銀行が行う金融 政策の失敗を証明できるように思う。米国のFRBは、量的緩和の後始 末の段階にあるが、苦労をしているし、トランプ次期大統領のよう な自由貿易を蔑ろにする人が米国の指導者になる。 この結末をどうリチャード・クー氏は見ているのを知りたくて、今 日、野村IR資産運用フェア2016に行ってきた。 1.トランプ政権 民主党クリントン政権の時に、労働者の党から中道で資本家の党に 替えた。このため、資本家の要求で、NAFTAや中国をWTOに入れたの である。自由貿易を推進した。 現在の民主党の基盤は、東のウォール街と西のシリコンバレーとハ リウッドであり、この2つは世界的に競争力があり、自由貿易で大 きなメリットを受けるので、今での民主党の基盤である。 しかし、民主党は、シカゴなど中部の製造業の労働者を見捨てたの である。共和党はもともとから資本家の党であり、自由貿易賛成で あるので、中部の製造業労働者の声を代弁する党がなくなってしま ったのである。 そこに、共和党のトランプ候補が出てきて、規制緩和と製造業労働 者の声を代弁したことで、大統領に当選したのである。 トランプ次期大統領の政策で正しいのは、インフラ投資で財政出動 することと、規制緩和することである。バランスシート不況では、 皆が超過債務状態であり、金利を下げても誰も金を借りない。この ため、政府が皆が使わない金を使い、経済を維持する必要がある。 しかし、減税しても消費に回らずに貯蓄するだけである一方、政府 は国債を発行するので長期金利が上がり、景気を冷やすことになる。 ユーロ圏は、マーストリヒト条約の規定で、財政赤字は3%以内と なっているので、政府が金を使わないために経済苦境から抜け出せ ない状態が続いている。 しかし、米国は関税をメキシコに対しては35%、中国には45% にするというが、1930年代の世界貿易を崩壊したスムート・ホ ーリー関税の再来になってしまう。世界貿易が1/3になったと同 じことが起きる可能性がある。 こうしないためには、リーガンが行ったプラザ合意が必要であるが 、中国がどう出てくるかである。中国国内の強硬派を勢いつかせる ことになる心配もある。 2.現状の姿 従来の経済学は、資金需要があることを前提にした理論になってい るが、バブル崩壊後、資金需要がない世界になっている。お金を借 りる人がいない。 石油価格が上がってきても、消費は伸びず物価上昇率はマイナスの ままである。バブル崩壊後、銀行の倒産を政府は食い止めたが、借 り手を作ることはできない。 現時点、皆が貯蓄している。米国は貯蓄率5%、日本は9%である。 このため、銀行が貸している資金量は、ほとんど増えていない。中 央銀行が、いくら資金を出しても、銀行から先に資金が貸し出せて いない。米国は2008年8月を100とすると、マネーベースは 428であるが、マネーサプライは170、ローン・リース残高は 125にしかならない。8年間で25%しか増えていないのだ。 日本でも同じであり、企業は貯蓄に勤しんでいる。家計も同様であ り、使っているのは政府と海外である。 しかし、大量の資金が市中の銀行にある。少しでも借り手が出てく ると、大量に資金が流れて行く。米国の商業用不動産価格が高騰し て、バブル期よりも21%の高くなっている。サンフランシスコの 住宅価格も同様で、バブル期より6%も高くなってきた。バブルの 発生である。資金が動くとすぐにバブルを形成してしなうことにな り、FRBは早め早めに資金を回収する必要が出てきている。 テパーリングを開始したのは、物価上昇率1.1%の時であるし、 物価上昇率1.5%で、0.25%の金利引き上げを行っている。 特にトランプ次期大統領の政策で景気が良くなると、大量の資金が 問題になるようだ。 もう1つ、FRBの持つ国債の償還のために借換え国債の問題が出てく る。この借換債は、新規国債と同様に市中資金を集めることになる。 この量が金額が、財政赤字で必要な国債を同じ程度にもなる。この ため、ますます長期金利が上がることになり、景気を冷やすことに なる。日本は米国の3倍も国債を日銀が買っているので、この問題 も大きくなる。 どちらにしても、量的緩和を行った中央銀行と政府は、今後苦労す ることになる。特にトランプ氏は、保護貿易へ行くと世界経済は縮 小してしまうし、自由貿易を堅持すると、為替調整などの方法で自 国経済の維持をするしかなくことになる。 大変な時代になった。1930年代の似たような世界になってきた ようである。