5816.トランプ政権の経済政策とリスク



トランプ政権の人事もようやく決まりかけてきたことで、政権の経
済政策方向も見えてきたようである。政権の経済政策とそのリスク
を検証しよう。                 津田より

0.政権内対立や台湾総督との電話
国務長官人事で政権内に対立があると言われている。軍人起用を進
める安全保障担当補佐官フリン氏と共和党政治家起用を進める首席
補佐官プリーバス氏の対立である。

国防長官と国務長官に軍人を起用として、外交・軍事を軍人が取り
仕切ることをフリン氏は考えているが、商務長官、財務長官を金融
関係者に取られたプリーバス氏は、国務長官を共和党政治家にした
いようだ。

今後もこのフリン氏とプリーバス氏の対立は続くことが予想できる。

トランプ次期大統領は、軍人を信用しているが、政治家を信用して
いない。貿易や財政などの内政問題の要職をビジネスマンにしてい
る。それも金融関係者と重厚長大産業の企業家であり、雇用創出諮
問委員会にも、現時点IT関係企業家がいない。

思いつきで話し、70歳を超えているトランプ次期大統領は、大き
な指示を出すが、細かいところは部下に任せるタイプの大統領にな
るようだ。そして、軍人は嘘をつかないと思っているので、任すこ
とができると考えている。よってフリン氏の方が信用されている。

この時期にトランプ次期大統領は台湾の蔡英文中華民国総統と電話
で話したが、要は、中国との貿易交渉で、台湾カードを使えると見
ているからである。中国からの輸入を止めるためには、どうするの
かを考えている。もちろん、日米同盟カードを使う可能性もある。

南シナ海での中国の海上権をどうするかであるが、英国も空母を送
り込んで、海上警護を日米英で行うことも検討しているとニュース
になっているが、これもカードである。取引には使えるカードを多
く持ったほうが良いというのである。

1.金融バブル形成
もう1つが、金融機関への規制を緩くして利益を上げさせて、バブ
ルに近い形を作りたいようだ。財務長官など金融関連の重職に、次
々と米大手投資銀行ゴールドマンサックス社の幹部が登用されてい
る。金融規制緩和と長期国債を出すと財務長官ムニューチン氏は言
う。

このため、金融がバブル気味になって、大儲け出来ると見込みニュ
ーヨーク株価は連騰しているのである。市場は短期のディーリング
売買が主体となっている。このため、市場の中心にいる短期投資家
は大歓迎である。米国の金融界は大儲けする。すると、トランプ氏
の出身母体である不動産業界にも追い風となる。

このため、イエレンFRB議長が慎重に出口戦略を進めているが、
それは次のバブル発生とインフレ襲来を未然に防ごうとする政策で
ある。しかし、トランプ政権は、FRBの利上げを歓迎していない。

イエレン議長、フィッシャー副議長の任期が終える2018年での
再任はないとしている。金利を上げずにドル安にして、輸出を拡大
したいのであろうが、大量の国債発行をすると長期金利は上がって
しまう。

ということで、この金融バブルは、いつか崩壊する。ジム・ロジャ
ーズ氏によると、トランプ政権では市場が荒れると言う。移民規制
や保護主義での中国との貿易戦争などの問題が起きるごとに、株価
は大きく乱高下するという。

どちらにしても、金融バブルが形成されるので、株価が最高点にな
ったら逃げるしかない。株価の最高点はどこかという話になるが、
これはわからない。2万円を超える点かなと漠然と見ているが。

しかし、乱高下するということは、儲けるチャンスも多くなるとい
うことでもある。来年は儲けのチャンスが多いということもできる。
逆に、損をする可能性も高いということである。

2.雇用維持・拡張
また、重厚産業の雇用を守るために、保護主義や補助金、税制優遇
などを行うことになる。広域自由貿易圏を止めて、2国間FTAを積極
的に行い、米韓FTAのような米国に大きく有利な貿易協定を目指すこ
とになる。米韓FTAで、米国はこれは良い方法と目覚めたようである。

しかし、そうは問屋が卸さない。多くの国とのFTAは交渉が難航する
ことが予想できる。

トランプ次期大統領は、空調機大手のキャリアがメキシコ工場に移
転して国内工場を閉鎖しようしていたことで、キャリアの親会社ユ
ナイテッド・テクノロジーズ(UTX)の社長に直接電話して、メ
キシコ移転を中止させた。その代わりに税金を8億円削減すると約
束したようである。フォード自動車にも同様な電話をして雇用を守
っている。

トランプ氏は、今後、米国の工場を他国に移転することは一切でき
ないと思えと経営者に宣言した。法律で禁じているわけではなく、
口頭での脅しである。

サマーズ元米財務長官は、このトランプ氏の介入について、米国の
資本主義からの危険な逸脱行為だと非難した。豊かで成功している
国にはルールに基づいた資本主義の強力な土台があるが、トランプ
氏の行為は、その土台を壊す行為であるという。「アメとムチ」の
その場しのぎの行為では資本主義はおかしくなる。

トランプ次期大統領は、法律や規則ではなく、交渉で問題を解決す
る経営者感覚で、政治を行うので、恣意的な政策になる可能性が出
てくる心配があるようだ。

台湾総督との直接的な電話も米国に存在する「中国に遠慮した外交
プロトコル」を破る行為であるが、トランプ氏は交渉のカードと見
ているので、原則がない。中国と同じような法治から人治になる可
能性も出てくる。米国政治の原則がよくわからないことになる可能
性がある。

法律を守っていても、罰せられる可能性も出てくると、米国への投
資ができなくなる。そのようなことにはならないとは思うが、心配
な点である。

3.新興国経済
保護主義的政策による世界貿易の減速や、来月以降に予想される米
国の追加利上げは、外貨借り入れコストを押し上げてこうした経常
収支赤字国に痛みをもたらす。

日本の輸出の多くが中国など新興国であり、日本の部品を利用して
製品を作り米国に輸出しているのが新興国である。この新興国経済
が岐路に立たされることになる。

まずは、米国の金利上昇で、新興国から資金流出が起きている。経
常収支赤字国では、自国通貨の下落を止めることができずに、高イ
ンフレになり、食料輸入ができずに、庶民の不満が出て、政権が倒
れるリスクも出てくる。

新興国経済の高度成長により、先進国経済も成長していたが、この
新興国経済が減速すると、当然、日本などの先進国経済も減速する
ことになる。

保護主義的な政策や利上げによるドル高基調になったら、やはり世
界経済全体の減速になり、米国だけが景気が良くなるということも
ないはずである。

ということで、米国の行き過ぎた保護主義やドル高による景気後退
局面もあると想定することも必要である。これは当面ではなく、
2017年の中頃と予想できる。

4.ということで
2017年は、年初めは米国の景気が良くて、バブル気味になるが
、2017年中頃には、保護主義的な政策やドル高で、徐々に景気
の腰折れになるのではないかと見える。

さあ、どうなりますか?


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記事
澤上篤人2016年12月02日 12:57BLOGOS
見えてきた、トランプ政権の方向性
 なんでもかんでも米国優先の保護主義に走るのか、ある程度は国
際社会との協調を図るのか、トランプ次期米大統領の政策に世界中
が注目している。
 そんな中すこし見えてきたのが、金融ビジネス寄りの政策色が濃
くなりそうだということだろう。 財務長官など金融関連の重職に
、次々と米大手投資銀行ゴールドマンサックス社の幹部が登用され
ている。
 良くいえばマーケットの声を聴く、悪くいえば金融バブルを再現
しかねない政策を、次期政権はどんどん打ち出してくるのだろう。
 マーケットの声を聴くといっても、最近はマーケット参加者の大
半が短期指向となっている。 それもあって、マーケットが発信す
る情報といっても、短期のディーリング売買が主体となる傾向が強
い。
 短期のディーリング売買では、迅速性と資金力が大きな力を持つ
。 果たして、どこまで経済合理性を反映した価格形成となるかは
、大いに疑問である。
 ひと昔前までは、マーケットの一角を長期投資家がどっしりと抑
えていたから、長期視野の企業経営をサポートする価格情報もマー
ケットからは発信された。
 残念ながら、企業経営すなわち経済の現場を反映した価格情報は
、どんどん片隅に追いやられている。 その横で、目先のディーリ
ング売買から形成される、マネーゲームの価格情報でマーケットは
あふれ返っている。
 一方、金融バブルの再来はいくらでも想定できる。 イエレン
FRB議長が慎重に出口戦略を進めているが、それは次のバブル発
生とインフレ襲来を未然に防ごうとする政策である。
 ところが、次期政権で金融主体の政策を打ち出してくれれば、金
融をバブル気味に持っていって大儲けしようという連中にとっては
大歓迎となる。
 上手い具合に、米国の大手銀行はリーマンショックの不良債権処
理を終えて、どこも身軽になっている。 その横で、ヨーロッパの
銀行はいまだに金融バブルの後始末に追われている。
 米国の大手銀行はどこも、世界マーケットで攻勢をかける絶好の
立ち位置にある。 そこへ、トランプ政権が金融寄りの政策を打ち
出せば、まさに米国一人勝ちの図式である。
 それはそのまま、米国優先を唱えるトランプ政策の成功例となる。
 そして、米国の金融界は大儲けする。 トランプ氏の出身母体で
ある不動産業界にも追い風となる。
 まあ世の中、そうそう上手くは運ばないもの。 おそらく、金融
バブルと長期金利の上昇とが入り混じった、収拾のつかない混乱に
マーケットは翻弄されることになろう。
 米国の長期金利は、トランプ政権の財政出動増加を読み込んで早
くも上昇に転じている。 それは、経済合理性を反映したマーケッ
トらしい動きである。
 そういったごく自然体の金利上昇を抑え込みながら、次期政権が
金融ビジネス優先の政策を推し進めるとすれば、それだけ強引に金
融バブルの種を蒔き続けることになる。
 しかし、今度の金融バブルは長期金利の上昇すなわち経済合理性
との戦いを伴っている。 ひどい混乱となるのだろうが、本格的な
長期投資家にとっては別にどうってことない話。
 われわれ本物の長期投資家は、どんなに大きな経済混乱の波をも
乗り切っていく。 なぜなら、常に経済合理性を意識した行動に徹
しているからだ。
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記事
広瀬隆雄2016年12月03日 08:21
ドナルド・トランプが台湾の蔡英文中華民国総統と電話で話した。
1979年以来の出来事
ドナルド・トランプが台湾の蔡英文(さいえいぶん)中華民国総統
と電話で話をしました。これは米国に存在する「中国に遠慮した外
交プロトコル」を破る行為です。
1979年以来、米国は中国を優先しているので、米国の大統領が台湾
のリーダーと直接話をすることはありません。
今回の電話では経済、政治、安全保障の面で、台湾と米国の間には
緊密な関係が存在することが確認されたそうです。
またトランプは蔡英文が5月に総統に就任したことを祝福しました。
トランプはこれまでに、既に50か国のリーダーと電話で話していま
す。
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2016年 12月 3日 07:24 JST 
トランプ氏が雇用創出諮問委、委員に米主要企業のトップ
[ワシントン 2日 ロイター] - トランプ次期米大統領は2日、
雇用創出に向けた政策を助言する諮問委員会を設立すると明らかに
した。ブラックストーン・グループ(BX.N)のスティーブ・シュワル
ツマン最高経営責任者(CEO)が委員長を務め、米主要企業のト
ップが委員として参加する。
トランプ氏は声明で「次期政権は民間部門のノウハウを活用し、米
企業の雇用や改革などを抑制してきた官僚主義を打ち破ることにコ
ミットしている」と指摘。同委員会は企業経営を阻害する規制の撤
廃のほか、法人税率引き下げなどを主眼に置くとした。
同委員会に委員として参加するのは、ゼネラル・モーターズ(GM
)(GM.N)のバーラ最高経営責任者(CEO)、JPモルガン・チェ
ース(JPM.N)のダイモンCEO、資産運用大手ブラックロック(BLK.
N)のフィンクCEO、ディズニー(DIS.N)のアイガーCEO、IBM
(IBM.N)のロメッティCEO、ゼネラル・エレクトリック(GE)(
GE.N)元CEOのジャック・ウェルチ氏、航空機大手ボーイング(BA.
N)のCEOを務めたジム・マクナーニ氏ら。
このうちアイガー氏、マクナーニ氏、ロメッティ氏らはオバマ政権
の諮問役も務めた。
アルファベット(GOOGL.O)傘下のインターネット検索大手グーグル、
アップル(AAPL.O)、フェイスブック(FB.O)などのトップは含まれて
いないが、関係筋はハイテク業界のトップも今後加わる可能性があ
るとしている。
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サマーズ氏、トランプ氏の工場移転阻止を資本主義への脅威と批判
Jeanna Smialek
2016年12月3日 15:51 JST
サマーズ元米財務長官は、ドナルド・トランプ次期米大統領がユナ
イテッド・テクノロジーズ(UTX)とインディアナポリス工場の
雇用を維持することで合意したことを批判した。このトランプ氏の
介入について、米国の資本主義からの危険な逸脱行為だと指摘した。
  クリントン政権で財務長官を務めた民主党員のサマーズ氏は、
豊かで成功している国にはルールに基づいた資本主義の強力な土台
があると主張。トランプ氏はこの伝統に従わず、「アメとムチ」を
使ってUTXが子会社キヤリアの工場の雇用をメキシコに移すこと
を阻止したと同氏は指摘し、これを「その場しのぎの合意に基づく
資本主義」と呼んだ。
  サマーズ氏は2日のブログで「大統領が国民が何を求めている
か見当をつけ、それを国民に与えるよう企業に圧力をかけるのが良
いことだという原則が確立されつつある」と指摘した。
原題:Summers Slams Trump’s Carrier Move as Threat to Capitalism (1)(抜粋)
最新の情報は、ブルームバーグ
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新興国襲うトランプ台風、メキシコの次はトルコか
ロイター 2016年12月1日
[ロンドン29日 ロイター]  米大統領選でトランプ氏が勝利した
ことの衝撃で、メキシコ金融市場は急落したが、同氏の保護主義的
政策でより大きな危険にさらされるのはトルコかもしれない。市場
の関心は既にトルコへと移りつつある。
メキシコの通貨ペソ、株、債券は11月8日の米大統領選後に急落。
これに対応して同国中央銀行が今年4度目の利上げに踏み切ると、ペ
ソは過去最安値から約4%回復した。
しかしトルコの経常収支赤字はメキシコより40%も大きく、国内総
生産(GDP)の5%近くにも相当する。
保護主義的政策による世界貿易の減速や、来月以降に予想される米
国の追加利上げは、外貨借り入れコストを押し上げてこうした経常
収支赤字国に痛みをもたらす。
トルコは政情も不安定だ。7月のクーデター未遂事件以来、政府は約
12万5000人を拘留あるいは更迭した。主要な貿易相手である欧州連
合(EU)との関係も悪化している。
こうしたことから通貨リラは下落を続け、今月の下落率はペソに匹
敵するほどになった。大統領からの利下げ要請をよそに、トルコ中
銀も通貨防衛のために利上げを余儀なくされたが、リラは下げ止ま
らない。
リラ建て債券の保有者は今月、ドル・ベースで10%の損失を被った
。これはメキシコや新興国の債券指数と比べても大きな下げだ。
トルコのドル建てソブリン債の利回りは、メキシコに比べればわず
かに高いだけだが、ジャンク級のブラジルを約30ベーシスポイント
(bp)、やはり経常収支赤字国である南アフリカを80bpも上回
っている。
HSBCのストラテジスト、ムラット・トプラク氏は「市場はトル
コを新興国市場の中の弱い鎖だと見なしている。メキシコや南アに
比べて政治リスクが高いと認識されていることが一因だ」と説明。
メキシコについては、「米大統領選の影響を既に織り込み、今はト
ランプ氏が公約した政策のうちどれが、どのように実行に移される
かを見守っている段階だ」と話した。
トルコの最大の弱みは、政府が中銀に緩和圧力を掛け、中銀がその
言いなりになっている構図かもしれない。中銀は先週の利上げに先
立ち、今年は7回も利下げを実施している。
資産運用会社ブルーベイの新興国市場ソブリン調査責任者、グレア
ム・ストック氏は「メキシコの強みは国内のファンダメンタルズが
良好だということだ。体制は強固で安定している。トルコはそうで
はないところが心配だ」と述べた。
(Sujata Rao記者)
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○トランプ次期政権の主要人事
・ 首席補佐官 ラインス・プリーバス(44)共和党全国委員長
・ 首席戦略官兼上級顧問 スティーブン・バノン(62)前ブライト
            バートニュース会長
・ 国家安全保障補佐官 マイケル・フリン(57)元国防総省情報局
           長官、陸軍中将
・ 国務長官 ??ミット・ロムニー、ルディ・ジュリアーニ、
        ジョン・ボルトン、ペトレアス将軍??未決定
・ 国防長官 ジェームズ・マティス
・ 財務長官 スティーブン・ムニューチン(53)元ゴールドマンサ
      ックス
・ 司法長官 ジェフ・セッションズ(69)アラバマ州選出上院議員
・ 商務長官 ウィルバー・ロス(79)投資家、ジャパンソサエティ
      会長
・ 厚生長官 トム・プライス (62)下院予算委員長
・ 教育長官 ベッツィ・デボス (58)米児童連盟委員長
・ 運輸長官 イレーン・チャオ(63) 元労働長官
・ 国連大使 ニッキー・ヘイリー(44)サウスカロライナ州知事 
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○当面の米国政治日程
12/9 暫定予算が失効
12/13-14 FOMC(利上げは実施へ)
12/15 トランプ次期大統領が初の記者会見
12/16 議会がクリスマス休暇入り
12/19 選挙人による投票日
<2017年>
1/3 新議員が議会初登庁、第115議会が発足
1/20 大統領就任式=第45代大統領が誕生。就任演説(Inauguration)
2月 大統領予算教書の提出
3/15 債務上限の適用再開
4/29 「最初の100日間」が終了 
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2016年12月1日WEDGE
人事をめぐるいざこざを楽しむトランプ
ロムニー氏起用めぐり対立激化 、トランプ氏側近が“裏切り”と反発
佐々木伸 (星槎大学客員教授)
 トランプ次期米大統領(70)は新たに財務、商務長官などの重要閣
僚の人事を発表したが、最重要の国務長官にミット・ロムニー元共
和党大統領候補(69)を起用するかをめぐって側近グループの対立が
激化。トランプ氏がロムニー氏指名に傾いていると見られる中、第
3の候補も急浮上している。
三つ星「ジャン・ジョルジュ」で再会談
 国務長官は大統領継承順位で言えば、副大統領、下院議長、上院
議長に次いで第4位の最重要閣僚で、歴代米政権の中でもとりわけ特
別視されてきたポストだ。トランプ政権の国務長官候補として、当
初リードしたのはジュリアーニ元ニューヨーク市長だった。
 元市長はトランプ氏が予備選に立候補した時からの熱烈な支持者
で、同氏への忠誠心はことのほか強い。外交政策や考え方もトラン
プ氏に同調しており、強硬派の側近グループが強く推薦、自身も国
務長官就任への意欲を隠すことなく示してきた。
 しかし外交は全くの素人で、その手腕に大きな疑問符が付く上、
国際的に展開するビジネスが公職との利益相反に抵触する恐れが強
いことなどから一歩後退した格好。その代わりに有力候補に踊り出
たのが元共和党大統領候補で、党主流派のロムニー氏だった。
 トランプ氏はロムニー氏と19日に会談。29日もニューヨークの「
トランプ・インターナショナル・ホテル」内の三つ星フレンチ「ジ
ャン・ジョルジュ」で夕食を共にしながら再会談した。会談には、
ホワイトハウスの首席補佐官に任命されたプリーバス共和党全国委
員長も同席した。
 約2時間の会談後に記者団の前に姿を現したロムニー氏はトランプ
氏のこれまでの政権人事を称賛し「彼こそ明るい未来に導いてくれ
る人だという希望を与えてくれる」と語った。酒をたしなまない両
氏だが、最高級のフレンチに舌鼓を打ちながら人事にまで話が及ん
だのか、全米の注目の的だ。
 選挙期間中の2人の非難合戦はひどいものだった。ロムニー氏がト
ランプ氏を「ペテン師」「インチキ」と口を極めて非難すると、ト
ランプ氏がロムニー氏を「ぺンギンのように歩く何をやっても失敗
するヤツ」と罵った。
 トランプ氏がこうしたロムニー氏を国務長官候補として検討して
いるのは、ロムニー氏のビジネスやマサチューセッツ州知事時代の
手腕を評価していることに加え、同氏を政権内に取り込むことによ
って政権への批判を封じ込め、ぎくしゃくしてきた党主流派との融
和のシンボルにしたいとの意向が働いているからだ。
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トランプ政権を迎え撃つ我が国の覚悟
2016年12月01日 20:00
長島 昭久
「不動産王」転じて「暴言王」と称されたドナルド・トランプ氏が
激戦の米大統領選を制すると予測できた人は世界中でもほんの一人
握りではなかったでしょうか。すでに、保護主義が加速するのでは
ないか、欧州に暗い影を落としている排外的な政治勢力がますます
台頭するのではないか、第二次大戦後にアメリカを中心に構築され
たリベラルな国際秩序が崩壊するのではないか、などなど有識者を
中心に世界中で懸念が広がっています。我が国でも、ヒラリー・ク
リントン女史の勝利を前提に組み立てられてきた安倍外交が、肝心
のTPPと日露関係で大きく変調を来しています。
とりわけ、日米同盟の行方が気懸りです。2009年に起こった日本の
政権交代でも日米関係が安定するのに約1年かかりましたが、今度は
全く新しいタイプのアメリカ大統領の登場(8年ぶりの共和党政権と
いう以上に、政治家でもなく軍務経験も持たない史上初の大統領の
誕生)ですから、日米同盟の基本構造に大きなインパクトを与える
ことになるのは明らかです。現に、選挙キャンペーン中には、米軍
の駐留経費負担や日本の核武装、防衛費などをめぐって歴代米政権
とは全く異質の見解が示されました。
しかも、巷間伝えられるところによれば、選挙後に会談したヘンリ
ー・キッシンジャー博士はトランプ氏に対し「中国とのグランド・
バーゲン」を働きかけたといいます。その意味するところはハッキ
リしませんが、ニクソン政権で同盟国の頭越しに電撃的な米中和解
を実現させたキッシンジャー博士の発言だけに、これまでのアジア
太平洋地域における国際秩序の根幹を揺るがすような「変化」が起
こる可能性を覚悟せねばならないでしょう。最近のインタビュー記
事で「同盟関係を考え直す必要がある」と明言しているキッシンジ
ャー博士だけになおさらです。
政権の中枢であり対外関係を取り仕切る国務、国防両長官がいまだ
に決まっていない段階でトランプ政権の外交・安全保障政策を予測
することは困難です。しかし、キッシンジャー博士の言葉があろう
がなかろうが、日米同盟が真に試されるのは対中戦略をめぐってで
あることは自明ですから、我が国のNSC、外務、防衛当局は一刻も早
くトランプ次期政権のカウンターパートと的確なコミュニケーショ
ンを図る必要があるでしょう。
その意味で、私が10月上旬に4時間にわたり懇談したマイケル・フリ
ン次期大統領補佐官(国家安全保障担当)の役割は重要です。彼は
、ロシアのプーチン大統領と直接のパイプを持ち、米国防総省の情
報トップを務めた将軍ですから、同盟の重要性もアジア太平洋地域
の地政戦略にも知悉しており、我が国の外交・安保チームが日本の
国益に基づく戦略方針をインプットするには最適の人材だと思いま
す。私も国会が閉会したら、さっそくフリン将軍やその他の次期政
権中枢と意見交換するため、ワシントンへ足を運んでこようと思っ
ています。
その際大事なことは、日本は、これを機に、独立自尊の精神に立脚
して、日米同盟の基本構造、アジア太平洋地域の平和と安定と繁栄
の秩序づくりにおける自国の責任と役割について、今一度ゼロベー
スで考え直す必要があるということです。いつまでもアメリカに依
存した姿勢で乗り切れるほど今後の国際環境は甘くないと腹をくく
り、トランプ新政権と対等の立場で同盟戦略を再構築していくので
す。
その際には、日米間で不均衡となっている同盟の基本構造、すなわ
ち日米安保条約の第5条と第6条の見直しも視野に入れた息の長い協
議を覚悟すべきでしょう。既成概念にとらわれないトランプ大統領
の登場により、対米依存で膨らむ米国の有事リスク(第5条)を過剰
ともいえる日本の平時コスト(第6条)で補完してきたこれまでの同
盟構造を変革する好機が到来したともいえるのではないでしょうか。


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