5814.世界秩序の変化法則



米国第一主義を掲げるトランプ次期大統領の主張は、日本の歴代政
権が掲げていたことであり、日本のようになると思えば良いが、世
界秩序の変化が起きる。この世界秩序の変化法則を検証しよう。
                     津田より

0.プラウト(進歩的活用理論)
インドの哲学者、社会改革者であったP.R.サーカーによって提唱さ
れた社会経済理論である。サーカーの弟子の一人で思想・理論的継
承者である経済学者ラビ・バトラの著書などで発展させて紹介され
た。

このラビ・バトラは、資本主義を根本的に崩壊させる主因となるも
のとして「富の過剰な集中」と「自由貿易」という2つの要因を挙
げている。彼は「現在の世界ではごく少数の資産家に富が偏り、そ
の偏った富が世界の金融経済を動かしている。そして、その一方で
は明日の生活の糧を得ることもままならない貧しい人たちが数多く
存在している。

富の集中しているごく少数の資産家たちは、自分たちが大量に貯め
た金を使おうとせずに、より金持ちになろうとするがためにただひ
たすら貯蓄に励み、消費活動をあまり行わず、その一方で貧しい人
たちはもともとお金がないため、無い袖は振れず、消費活動を活発
に行うことが出来ない。消費活動が鈍化すれば、いくら供給を喚起
しても無駄なのである。」と主張している。

企業はコスト最小にするために、発展途上国に工場を移して、労働
賃金を最低にして、安い商品を先進国に売ることになる。このため、
先進国の貧しい人はより貧しくなる。そして、この貿易を円滑にす
るために自由貿易が蔓延る。

とうとう、この状況に現在なったような気がする。

資本主義崩壊後に誕生する経済社会システム、とラビ・バトラが予
測している「プラウト主義経済」とは、大まかに言えば均衡貿易、
賃金格差の縮小、均衡財政、自国産業保護、終身雇用、環境保護、
銀行規制等による「所得格差の少ない安定した共存共栄の社会」の
ことを指す。彼は昭和30年代中盤頃〜昭和40年代頃の日本社会がプ
ラウト主義経済に最も近い理想的な社会だったと述べており、当時
「一億総中流社会」を実現していた日本を絶賛している。

彼は恩師サーカーと同様に、数々の著書で「必ずやプラウト主義経
済は過去に一億総中流社会を実現していた日本から始まるだろう。」
と述べている。

1.社会循環論
米国は今まで「富者の時代」であり、富者が政治の中心を占めて、
富者に有利な政策を行ってきたが、とうとう、民衆の不満が頂点に
立ち、次の時代になると予言している。

それが「武人の時代」である。すなわち、物理的に強力な力を持ち
、その力が社会を支配すると信じる人たちが政治を行う時代になる
ということである。武力を持って、社会を変えていくことになる。
フィリピンのドウテルテ大統領を思い出すが、武力を使って社会の
安定を作る志向になる。

「武人の時代」の次には、「知者の時代」になる。知者としては、
大学などの学者であるが、宗教者もこの中にあり、この政治を行う
のがイランであるが、宗教政治もこの中に含まれる。「知者の時代」
で平和な時代が続くと、富を蓄えた「富者の時代」になる。

というような社会の支配階層の循環が起きることになる。

2.米国政治の予測
米国のトランプ次期大統領も富者であり、武人ではないが、トラン
プ政権の中心は、武人になると見える。米国が「武人の時代」への
繋ぎとしてのトランプ次期大統領であるからだ。

ということは、この政権の中心にいるマイケル・フリン氏の存在は
重要となる。徐々に注目され始めているが、この人が中核的な存在
である。

事実、トランプ次期大統領は、軍人を多く起用しているが外交安全
保障分野は、強い米国を目指して、中東からの撤退と中国対抗の戦
略が出てくると見る。「武人の時代」で武力がないと他国に殺られ
ると考えるからである。

労働者階級の要求も実現することになる。農産物を他国に輸出しつ
つ、工業製品を輸入しないことを考える。このためには、2国間で
のFTAが有効である。そして、米国の武力も利用する。特に、日
本には核の傘を提供しているから、農産物の輸入を自由化しろとく
るはずである。取引は分野を超えて行うことになる。同盟関係を維
持したかったら、防衛費を2%にしろともくるはず。

この多くが、ミサイル防衛費になり米国防衛産業への支払いになる。

日本は、工業製品の米国への輸出が関税ゼロで可能にならないのを
心配する。

米国は国内産業育成を行うはずで、日本企業が工場を米国に立てる
ことは奨励させることになる。また、法人税が安いので、米国立地
は有利でもある。

米国は2国間FTAにして、広域な自由貿易圏を止めるはず。取引
には相手の弱みを突いて、工業製品輸入を止めて、農産物輸出を押
し込むことになる。その時のカードが武力と資本になるような気が
する。

米国製品メーカは、米国に戻ることになる。自国生産で輸出したほ
うが得な環境になり、他国での生産が不利になるからである。

3.経済の仕組みから
しかし、それは相手国もその方向になるので、経済的な相互関係で
米国だけが得をすることはないからである。交渉はタフになり、長
い時間を掛けた交渉になる。米国を抜いた自由貿易圏は徐々に多く
なり、その中心は中国と日本のような気がする。経済的なメリット
も米国から日本になる。特に大きいのが基軸通貨がドルではなくな
ることであると見ている。

EUは、苦しい時を迎える。自国優先主義は、米国がそうなると全
ての国がそうなる。リベラルな理想からナショナリズムの時代にな
るからである。大きな転換点を迎える。相互作用からそうなる。

米国はNATOから離脱するより、欧州各国の防衛費をUPさせる
ことになる。ロシアは経済力が世界の8位程度であり長い戦争がで
きないし、欧州を攻めることは無理である。ロシア人が多い地域を
併合することぐらいである。経済力のないロシアは、米国としても
恐ろしくない。

このため、中国を抑えるために、ロシアとは組むことになる。

武人が思考するような政治が行われることになる。武力を取引材料
にして、考えると間違えない。経済面が2の次になり、米国はトク
をするより損することが多くなるような気がする。

4.日本はどうなるか?
日本の時代が来る。米国は日本の1980年代を理想とした政治を
行うことになる。自国優先の均衡貿易、格差の縮小、自国産業保護
である。

日本文化が広く世界に伝播して、日本への観光が増えてくるし、完
全雇用状況になる。円も世界的な通貨になり、マネーサプライが増
えても、外国の準備預金が増えて、円の供給不足が起きることにな
る。インフレが起こりにくい環境になる。

日米は共同的な同盟関係になるはず。日本は、損して得を取れであ
ろうか?

さあ、どうなりますか?

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トランプ氏vs.製造業 メキシコ移転で神経戦 
2016/11/26 2:00日本経済新聞 電子版
 【ニューヨーク=中西豊紀】「雇用拡大」を公約に掲げて当選し
たトランプ次期米大統領が、国内製造業へ圧力を強めている。隣国
メキシコでの生産を検討する自動車大手フォード・モーターなどを
標的に、ツイッターを介して国内生産を維持するよう迫り、企業は
対応に追われる。北米自由貿易協定(NAFTA)の取り扱いも焦
点となるが、企業は公約への協力の見返りに大型減税や産業支援な
どを期待し、駆け引きを繰り広げる。
 「感謝祭の日でさえも私はキヤリア社が米国(インディアナ州)
に残留するよう精いっぱい働いている」。米国民が家族と過ごす24
日の感謝祭の祝日。トランプ氏の唯一のツイートは、空調機器大手
に対する「脅し」ともとれる発言だった。
 世界有数の空調機器メーカーで日本に東芝との合弁会社も持つキ
ヤリアは2月、2019年をめどにインディアナ州の工場を閉鎖し、生
産をメキシコに移すと発表した。従業員への移転通告の模様が動画
サイトで流れ、約1400人の解雇が米国内で話題になった。
 トランプ氏は選挙戦中の4月に「大統領になれば計画を100%撤回
させる」と述べ、労働者の不満の象徴として同社の名前を使い続け
た。
 同様な攻撃を受けるのがフォードだ。トランプ氏は17日、ツイッ
ターに「(会長の)ビル・フォード氏と電話で話した。ケンタッキ
ー州のリンカーン工場はメキシコには行かない」と書き込み、メキ
シコ移転の翻意を勝ち取ったと誇示した。
 ケンタッキー工場のメキシコ移転計画はもともとなかった。移る
のはミシガン州の小型車生産だが、別の車を造るため国内の雇用は
減らない。事実を知ってか知らずか、トランプ氏は代表的な米企業
をたたいて労働者層の支持を取り込んだ。
 「メキシコからの輸入関税を35%にする」。トランプ氏は企業を
悪役に仕立て、NAFTA見直しなどの保護主義を正当化してきた
。だが製造業のメキシコ移転で関税は理由の一部にすぎない。キヤ
リアの場合、インディアナ州で時給20ドル(約2300円)の人件費が
メキシコでは同3ドルだ。
 米企業にとり陸続きのメキシコの利用価値は大きい。米議会の資
料によると、メキシコへの直接投資の累計額はNAFTAが発効し
た1994年に170億ドルだったが、約20年後の15年は928億ドルと5.5倍
に膨らんだ。自動車や機械の関連工業の集積が進んだ。
 問題は企業がどこまでトランプ氏の意向をくむかだ。キヤリアは
「次期政権とは議論を続けている」との声明をツイートした。同社
が移転を取りやめれば「禁じ手」だった個別企業への政治介入に前
例ができ、影響は米製造業全体に波及する。
 米企業も防戦一辺倒ではない。「リンカーン工場はメキシコには
いかない」というトランプ氏のツイートに対し、フォードは「そも
そも計画がない」とは反論せず「国内生産を続けられるよう、米国
の競争力を高める取り組みに期待している」とコメントした。
 トランプ氏は現在35%の米連邦法人税の15%への引き下げや、10
年間で1兆ドルという戦後最大のインフラ投資を公約に掲げた。「
我々の取引は長期の通商政策の上に成り立っている」。米農機・建
機大手ディアのサミュエル・アレン最高経営責任者(CEO)は保
護主義をけん制しつつ「政府が建機を買ってくれるならありがたい
」と財政出動に期待を示した。
 米ワシントン・ポスト紙は「米大企業は国内生産維持の見返りを
勝ち取るべく水面下で交渉している」と分析する。
 「NAFTAからの脱退または再交渉」を公約に掲げたトランプ
氏も、当選後はNAFTAに言及していない。「米自動車ビッグ3
が反対する政策はとりにくい」と読む業界関係者は多い。
 ▼北米自由貿易協定(NAFTA) 米国、カナダ、メキシコ3
カ国が相互に市場を開放し、自由貿易圏をつくるための地域協定。
1994年1月1日に発効し、08年1月に関税が完全に撤廃された。カ
ナダやメキシコへの農畜産物の輸出増など米国にもメリットは大き
いが、自動車を中心に生産拠点の流出を招いているとして大統領選
のたびに争点となる。
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2016年11月25日
「トランプ軍団が最優先」を宣言
海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
 今回のテーマは「トランプ次期米大統領のビデオメッセージとそ
の意図」です。共和党ドナルド・トランプ次期米大統領は、投開票
日から2週間が経過した11月21日、動画サイト「ユーチューブ」を通
じてメッセージを発信しました。本稿では、「なぜこのタイミング
なのか」「誰にどのようなメッセージを発信したのか」「意図は何
か」の3点を中心に同氏のビデオメッセージを分析します。
絶妙なタイミング
 国際社会の目は、ペルーの首都リマで開催されている環太平洋経
済連携協定(TPP)参加12カ国による首脳会議に向いていました。各
種メディアによりますと、参加国は発行に向けて国内の手続きを推
進することで一致しました。そのタイミングを計ったかのように動
画を通じてトランプ氏は、就任初日にTPP離脱の意思を通知すると明
言して公約を果たす決意を示したのです。オバマ大統領の医療保険
制度改革(通称オバマケア)及び米国とメキシコの国境に建設する
壁では修正案を出しましたが、TPPに関しては妥協の余地はないとい
う明確なメッセージを参加国に突き付けたのです。
 選挙期間中トランプ氏は、自分は「自由貿易」の反対論者ではな
いが「賢明な(スマート)貿易」が好ましいと繰り返し主張しまし
た。同氏は、現在の自由貿易体制は愚かな職業政治家によって構築
されたものであり、その体制下で中国、メキシコ並びに日本が勝ち
、米国は負けていると指摘したのです。  
 今回のビデオメッセージの中には、無能な職業政治家に代わって
自分が多国間ではなく2国間交渉を行い、公平で賢い取引をするとい
うメッセージも含まれています。選挙期間中、トランプ氏は「自分
は世界の大統領になるのではない。米国の大統領になるのだ」と断
言し、通商において米国1国のみが勝ち続ける体制の構築の必要性に
訴えてきました。それが「米国第一主義」であり、2国間交渉によっ
て実現すると同氏は言いたいのです。
労働者階級の利益第一主義
 ビデオメッセージは、国民向けに発信されたものであることは言
うまでもありません。従ってメッセージの受信者は国民です。ただ
勝利宣言でもそうでしたが、今回公開されたビデオにおいてもトラ
ンプ氏は、ことに白人の労働者階級を意識したメッセージを送って
います。
 鉄鋼の生産及び自動車の製造などにおける次世代の改革を米国内
で行い、富と雇用を米国人労働者のために作り出すとトランプ氏は
ビデオの中で強調しました。この文脈を読みますと、「米国第一主
義」は「(白人)労働者階級の利益第一主義」と置き換えることが
可能です。今後、トランプ政権では選挙期間中同氏を熱狂的に支持
した白人の労働者並びに退役軍人から構成される「トランプ軍団」
の利益に焦点を当てた政策が最優先されることは容易に理解できま
す。
内紛の否定
 米メディアは新政権の閣僚人事をめぐって、政権移行チームで内
紛が発生したと報道しています。「共和党主流派対反主流派」の内
部抗争に「トランプ・チルドレン」と長女イバンカ氏の夫であるジ
ャレッド・クシュナー氏が関与しているというのです。
 今回のビデオメッセージの冒頭でトランプ氏は、政権移行チーム
は円滑に、効率よく効果的に進んでいると述べました。その意図は
、明らかに内紛説の全面否定です。
 トランプ氏は11月23日に第2回目のビデオメッセージを公開し、今
回の米大統領選挙で分断が一層深化した社会に対して懸念を抱き国
民に結束を呼びかけました。今後も同氏は動画を活用して中間所得
層を立て直すための追加政策を述べます。その際、2回のビデオで触
れていない北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、米国とメキシコの国
境に建設する壁の費用並びに不法移民の強制送還について言及する
のかに注目です。


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