5809.米国の孤立化で世界秩序が変わる



トランプ政権は、外交・安全保障は共和党主流派が担い、国内政治
と経済は保守強硬派が担う体制になりそうである。そして、米国孤
立化により、どのような変化が世界に起きるのかを検討しよう。 
                         津田より

0.トランプ政権の構造と政策
マイケル・フリン氏かペンス次期副大統領が、ロムニー氏を国務長
官にする提案をしたような気がする。外交問題は、信頼関係の上で
継続が必要であり、極端なフレを起こすことはできない。

安倍首相は、トランプ次期大統領と会談したが、その席にフリン氏
がいたことで、安心できたのではないかと思う。そして、ロシアと
日本の交渉経緯を説明したような気がする。その上でロシアのプー
チンとの会談に臨んだ。そのとき、トランプ氏からのメッセージを
伝えれば、日本の立場は強化できる。恐らく、そうしたように感じ
る。

マイケル・フリン氏は、中東政策では、大きく変更するはずである
。オバマ大統領の中東政策に反旗を立てて退役させられたのである
からそうなる。中東での戦争は、無意味というのが軍人たちの共通
した認識であり、その認識を現実化することになる。

そのフリン氏が日本に来て言ったことは、日米同盟は堅持するが、
日本にも応分の負担を求めるということである。中国の拡大主義を
止める必要も認識している。ということで、あまり変化がないか、
より中国に強硬になる可能性もある。

経済政策は、インフラ整備、減税と保護貿易になる。移民政策も厳
しいことになる。温暖化防止のエコ政策もなくなる。このような政
策を米国がやると、この思想全体が世界に伝播することになる。

世界秩序の根幹が変化するのは仕方がない。この影響を受けるのが
、新興国や中国とヨーロッパである。もちろん、日本も受けるが、
より小さな影響になる。少し前の日本の考え方を米国が行うために
、今までに準備できているためである。

リベラルの考え方は、グローバリズムの進展で、この考えが世界秩
序の根幹であったが、それが変更されることになる。無くなるとし
た方が良いかも知れない。

1.次の時代はどうなるのか?
「グローバリズムの死」で、ナショナリズムが蔓延るというが、現
時点の世界で自国だけで生きていけるのは、米国しかない。という
ことは、ナショナリズムではほとんどの国は生きていけないことに
なる。

世界経済の上では、グローバリズムは無くならずに、徐々には拡大
することになる。しかし、自国民の犠牲の上で新興国の安い製品を
輸入することはなくなる。多国籍企業の安い労働力を求めて海外生
産した製品の輸入を米国は拒否する。この考え方は欧州でも同様に
なるはず。

自国消費する製品は自国で作るという思想になる。それでも、多国
籍企業は健在で、消費国での生産ということになる。輸入するのは
、自国では生産できない農産物、エネルギーや工業製品では高度な
部品などであろう。アセンブリの部分は消費国での生産になる。

欧州も同様で、EUはグローバリズムの世界秩序上にできたので、
その崩壊が起きることになる。

移民も無くなる。国境の自由な移動ができなくなる。特に文化が著
しく違う民族を受け入れなくなる。これが英国EU離脱であり、英
連邦の人たちはOKであるが、EUの人たちはNGとなる。米国も
白人はOKであるが、ヒスパニックなど他民族はNGとなるはず。

水野和夫氏は、「トランプ後の世界は中世に回帰」というが、この意
味は、中世でも、技術者はラテン語を話して、諸国を放浪できたの
と同じように、多国籍企業の社員は英語を話して、世界を股に掛け
て歩くことになる。世界的に技術が必要であり、雇用を作るために
も技術と資本は入れる必要がある。

2.トランプ大統領の歴史的な意味
1989年のベルリンの壁崩壊と同じ程度の世界秩序変更が起きる
ことになる。この1989年の世界秩序変更は共産主義の崩壊で、
世界は資本主義だけになった。中国も市場社会主義と言ったが、国
家資本主義である。社会主義としては格差が拡大した。

グローバル化で、新興国の国民は豊かになったが、先進国の労働者
は相対的に貧しくなったので、この揺り戻しになる。消費者を増や
して、より製品を買う人を増やすということと、コスト削減ができ
ることで企業は、このようなグローバル化の行動をとった。

しかし、それを富者の資本主義として、一番最先端でその資本主義
を求めてきた米国が、その資本主義を変更することになったのであ
る。

平均的な国民の収入を確保できる資本主義になる。中産階級資本主
義とでも言うのであろうか?

とうとう、日本が目指す資本主義に米国も近づいてきたことになる。

日本は世界第3位の経済大国ではあるが、富裕層が少ない。世界の
トップ50人に金持ち数人しかランキングされていない。このよう
な資本主義が必要なのである。

もう1つが、米国の脱工業化が失敗したのである。知的産業を活性
化するために世界から優秀な人を入れたが、プログラマーとしては
、米国人よりインド人の方が優秀であり、米国人の職を奪われたの
である。この見直しを行うようである。

金融業もバブルを作り、崩壊して大きな損害を国家に与えている。
こちらも、民主党政権のような強い規制はないが、規制はするよう
である。

温暖化という旗印でエコ技術のイノベーションを企てるが、米国は
脱工業化で基礎的な機械産業や部品産業がなくなっているので、後
塵を拝してしまうことになる。このため、温暖化対策を止めること
にしたのである。

当分は、日本もエコ技術の技術開発を行い、石油や天然ガスに対応
できる価格になったら、普及するほうが良いかもしれない。

イノベーションが次のフロンティアを広げる手段であるが、その手
段から米国は退いたことになる。経済拡大の方法が戦争であるが、
この準備を米国は行うとしている。軍事拡大をするとした。

3.中国の生存権
新興国では、経済維持のために生存権の拡大という考え方が出てく
る。この考え方になるのが、米国に大量に輸出していた国家であり
、中国である。中国は自国発展のために、生存権という考え方に傾
斜することになる。

欧州も中国からの輸入品を止めるので、どうしても第3世界に製品
を売る必要がある。ここで中国製品を迎え撃つのが、日本企業の現
地生産品となる。

米国に変わって、中国が世界に出てくるが、そのとき摩擦が起きる
ことになる。

この解決方法を中国が軍事力に頼ると、世界的な紛争になってしま
うことになる。国際的な法体系に従った行動をしてほしいと思うが
どうなるであろうか?

大変な時代になるような気がするが、どうであろうか?

参考資料:
What America’s Economy Needs from Trump
https://www.project-syndicate.org/commentary/trump-agenda-america-economy-by-joseph-e--stiglitz-2016-11

US against the world? Trump’s America and the new global order
https://www.ft.com/content/6a43cf54-a75d-11e6-8b69-02899e8bd9d1

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トランプ政権の国務長官にロムニー氏就任か
これまでトランプ氏を強く批判していた人物
ロイター 2016年11月18日
[ニューヨーク?17日?ロイター] - トランプ次期米大統領は2012年
大統領選の共和党候補ミット・ロムニー氏と20日に会談し、国務長
官への就任を要請する可能性がある。関係筋が17日明らかにした。
関係筋はロイターに、広範なテーマについて意見交換する予定で、
国務長官のポストについて協議することもあり得ると述べた。
ロムニー氏はこれまでトランプ氏を強く批判し、共和党支持者に別
の候補に投票するよう呼びかけていた。
大統領選でトランプ陣営の選挙対策本部長を務めたケリーアン・コ
ンウェイ氏は、トランプ氏とロムニー氏の会談について「(実現に
向けて)取り組んでいる」と述べ、なお調整中であることを示唆し
た。
国務長官候補にはジュリアーニ元ニューヨーク市長やボルトン元国
連大使、コーカー上院議員(テネシー州)、サウスカロライナ州の
ヘイリー知事らの名前が挙がっており、ヘイリー氏は17日にトラン
プ氏と会談した。
コーカー上院議員はCNNに対し16日、候補には入っているが、トラン
プ氏は選挙戦で自身に近かった人物を選ぶかもしれないと語った。
コーカー氏は17日に政権移行チームを率いるペンス次期副大統領と
会談した。
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トランプ氏 安全保障政策担当の大統領補佐官にフリン氏起用
11月19日 5時00分NHK
トランプ次期大統領は18日、ホワイトハウスで安全保障政策を担
当する大統領補佐官にマイケル・フリン元国防情報局長官を、司法
長官にジェフ・セッションズ上院議員を、さらに、CIA=中央情
報局長官にマイク・ポンぺイオ下院議員を起用すると発表しました。
大統領補佐官に起用されたフリン元長官は陸軍の退役中将で、大統
領選挙では早くからトランプ氏を支持し、外交や安全保障の分野で
助言を行ってきました。
また、司法長官に起用されたセッションズ上院議員と、CIA長官
に起用されたポンペイオ下院議員も、共和党の中でいち早くトラン
プ氏への支持を表明し、とりわけセッションズ議員は、強硬な不法
移民対策を主張して、トランプ氏の発言にも影響を与えてきたと見
られています。
トランプ氏は、4年前の大統領選挙の共和党の候補者だったロムニ
ー氏との会談を予定するなど、政財界の要人らと意見を交わしなが
ら、新政権の人事に向けた党内の調整を進めていて、アメリカの外
交と安全保障の鍵を握る国務長官と国防長官に誰を起用するのか、
注目されます。
フリン氏の経歴と起用の狙い
安全保障担当の大統領補佐官に起用されたマイケル・フリン元国防
情報局長官は57歳。アメリカ陸軍の退役中将で、大統領選挙でア
メリカの外交・安全保障を担ってきた元政府高官ら、多くの専門家
が反トランプ氏の姿勢を鮮明にする中、早くからトランプ氏への支
持を表明して選挙運動でも積極的に演説を行い、外交・安全保障政
策の顧問を務めた側近の1人です。
アメリカ陸軍の現役時代には、アメリカ中央軍の情報部門の責任者
を務めるなど、情報分野の専門家としてイラク戦争やアフガニスタ
ンでの対テロ作戦にも関わり、国防情報局長官に就任しましたが、
上層部との確執などから任期途中で退役を迫られたとされ、以来、
オバマ政権のテロ対策に批判的な立場を示してきました。
一方、選挙期間中のことし7月のNHKとのインタビューで、日米
関係について、「極めて重要なパートナーで、強固な関係を持ち続
ける」と述べ、日米同盟を重視する姿勢を強調しながらも、トラン
プ氏がアメリカの厳しい財務状況を踏まえ、同盟関係を再検証する
べきだとしていることは支持していました。
フリン氏の起用について、トランプ氏は声明で、「イスラム過激派
組織を打ち負かすため、側近として迎え入れることを誇りに思う。
私の政権で、かけがえのない存在となるだろうと」と述べ、フリン
氏への期待を示しました。
トランプ氏としては、最優先課題に掲げる過激派組織IS=イスラ
ミックステートの壊滅に向け、フリン氏を新政権の外交・安全保障
政策の要となる大統領補佐官に起用することで、この分野でのみず
からの経験不足を補う狙いもあると見られます。
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2016.11.19 15:00サンケイ
【経済インサイド】
「トランプノミクス」はレーガノミクスに酷似 日本の金融業界に
は恩恵も
 米国の次期大統領、ドナルド・トランプ氏が掲げる経済政策は
1980年代のロナルド・レーガン大統領による経済政策「レーガ
ノミクス」を想起させる。世界の金融市場で、こんな見方が広がっ
ている。大型減税などの供給力重視の政策姿勢が酷似しているため
だ。レーガノミクスはドルの独歩高を招き、当時の先進5カ国によ
るドル高是正の「プラザ合意」は日本がバブル景気に突入する引き
金となった。果たして「トランプノミクス」は日本に何をもたらす
のか−。
 トランプ氏の大統領就任が決まって以降、米国債の利回りは急上
昇し、為替相場はドル高・円安に傾いた。日本国債の利回りもじり
じりと上がり始め、17日には日銀が指定した利回りで国債を無制
限に買い入れる「指し値オペ」を初めて通告する事態に至った。
 トランプ氏の大統領就任を前に、市場参加者はすでにトランプノ
ミクスを織り込み始めているようだ。
 トランプ氏がこれまで主張してきた経済政策は(1)大型減税
(2)インフラ投資拡大(3)保護主義的な通商政策(4)金融規
制の緩和−などが柱だ。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノ
ミストは「法人減税や規制緩和など供給力重視の経済政策は企業収
益の拡大を通じて『強い米国』を作り上げようとしたレーガン政権
と共通する部分がある」と指摘する。
■ロナルド・レーガン 俳優から政治家に転身し、カリフォルニア
州知事を経て、1981年に米国第40代大統領に就任。大型減税
と財政政策を柱とする経済政策「レーガノミクス」を打ち出したも
のの、貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」に苦しんだ。旧ソビエ
ト連邦などの共産主義陣営に対抗し、冷戦の終結に貢献した。中曽
根康弘元首相とは「ロン」「ヤス」と呼び合う親密な関係を築いた
。大統領退任後に自らのアルツハイマー病を告白し、治療に専念し
ていたが2004年、93歳で死去した。
 レーガン大統領が誕生した1981年当時、米国は景気が後退し
ているにもかかわらずインフレが進行するというスタグフレーショ
ンに陥っていた。レーガン政権は大幅な投資減税と金融引き締めで
苦境を打開しようとしたが、高金利政策は過度なドル高に直結。そ
の結果、米国は巨額の貿易赤字と財政赤字という「双子の赤字」を
抱え込むことになった。
 こうした状況に耐えきれなくなった米国の呼びかけで実現したの
が1985年9月のプラザ合意だ。これにより、米国、日本、西ド
イツ、フランス、英国の5カ国は協調介入に動き、円相場は1年で
1ドル=240円から150円台に急騰。政府・日銀は財政出動や
金融緩和で経済を下支えしたが、行き過ぎた緩和政策はバブル景気
とその崩壊、「失われた20年」へとつながった。
 SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは「積極財政と
金融引き締めのポリシーミックス(政策の組み合わせ)はトランプ
ノミクスも同じだ。ドル高や貿易赤字の悪化という同じ帰結が想定
できる」と警戒する。
 ただ、その場合もプラザ合意のような主要国による協調介入は現
時点で予想しにくい。今の国際社会では「為替水準は市場での自由
な取引に委ねられるべきだ」という考えが浸透しているからだ。
 気掛かりなのは、トランプノミクスが貿易不均衡の是正策として
、輸入制限などの保護主義的な政策に走りかねないことだ。
 トランプ氏は選挙期間中、メキシコからの輸入増を問題視し、北
米自由貿易協定(NAFTA)を「史上最悪の協定だ」とこき下ろ
した。メキシコには、トヨタ自動車やホンダが製造拠点を構え、メ
キシコで作った車を関税なしで米国に輸出している。トランプ氏は
「日本車にかける関税を38%に引き上げる」と発言したこともあ
り、日本車への関税引き上げが議論される恐れがある。そうなれば
、日本の自動車産業にとっては大きな打撃だ。
 牧野氏は「米国で売れる日本車は高級車が増えているし、ドル高
になっても価格を下げているわけではない」と指摘。こうした状況
にトランプ政権が理解を示せば、実際に関税が引き上げられる可能
性は低いとみる。妥協策として、想定されるのが日本側による車の
輸出の自主規制だ。これはレーガン政権の意向を受け、日本が実際
に取った措置でもある。
 一方、日本の金融機関にとってはトランプノミクスがプラスに働
くとの見方が強い。金融規制の緩和に加え、米金利の上昇による収
益の押し上げや米国内のインフラ整備に関連する投融資機会の拡大
が見込まれるからだ。マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリス
トはインフラ関連の投融資について「2%程度の利ざやが取れれば
、3メガバンク合計で1460億円の増益要因となる」と試算する。
 だが、外銀への規制が逆に強化される可能性も否めず、邦銀では
「推測は難しい」(三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信
行社長)とトランプノミクスへの不安が拭えないのが実情だ。(米沢文)
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水野和夫氏「トランプ後の世界は中世に回帰」
アメリカは自らグローバル化に幕を引いた
水野 和夫 :法政大学教授 2016年11月18日TK
今回、ほとんどの人が予測できなかったトランプの大統領就任。こ
れまで、多数の著書の中で成長信仰への批判と資本主義の限界を訴
えてきた水野和夫氏は、この出来事が、マイナス金利の導入やイギ
リスのEU脱退にも見られる、現代世界に流れる新たな潮流、「中世
への回帰」の1つなのではないかと指摘します。
現代を生きる私たちは、今日よりも明日がよりよくなることを疑わ
ず、日々生活しています。こうした「成長への信仰」は、20世紀に
おける人口の大量増加と、それに伴う資本主義システムの確立によ
って成り立っています。しかし、今後も世界は成長を続けていくと
断言することはできるのでしょうか。
現代社会は、再び「ゼロ成長」の時代へ戻っていく
日本やドイツのマイナス金利導入、先進国における人口減少予測、
そしてイギリスのEU離脱などを見るにつけ、世界がこれまでと変わ
らない歩みを続けていくことをにわかに信じることはできません。
先進国の人口が減少に向かい、そして経済が成長を止める中、世界
はいったいどこへ導かれていくのでしょうか。
私は、現代社会と中世ヨーロッパとの間にいくつかの共通点を見出
し、現代は今まさに、「中世への回帰」という流れの中にあると考
えています。
経済の観点から見ると、ヨーロッパ中世(500〜1500年)はゼロ成長
の時代でした。西ローマ帝国が滅んだ直後から中世が終わるまでの
間(500〜1500年)、世界の1人あたりの実質GDP成長率は、わずか年
0.03%(500年間で1.35倍)です。
それが近代(1500〜2010年)になると、実質GDP成長率はぐんと上が
り、年0.22%となります(同期間で26.9倍)。特に第2次世界大戦後
の1950年から、石油危機直後の1975年までの成長率は著しく、世界
の1人あたりの実質GDPは年3.4%となりました。
ところが、日本が金融危機に直面した1997年から2015年までの1人当
たり実質GDPは、年0.6%です。名目GDPで見ると、同期間で年マイナ
ス0.6%になります。中世の成長率よりはまだましですが、名目利子
率から期待インフレ率を差し引いた「自然利子率」がゼロ、ないし
はマイナスであることを考えると、今後は中世のような定常経済と
大きくは変わらない状況になると予想されます。
人口減少社会が到来していることも、中世に共通しています。中世
の人口は、減少してこそいないものの、その増加率は年0.08%と、
ほとんどゼロ成長でした。一方、近代(1500〜2015年)の人口増加
率は年0.54%で、とりわけ戦後(1945〜1975年)は年1.82%と、人
口爆発の時代となります。そして、それは同時に資本主義の黄金時
代でもありました。
しかし、これは例外中の例外です。21世紀の前半に入ると、人口増
加率はあっという間に減速し、2015〜2050年には年0.80%になると
予想されています。産業革命から第2次世界大戦まで(1850〜1945年
)の増加率、0.66%とほぼ等しくなるということです。
21世紀の後半には、年0.28%の増加率となり、産業革命前(1500〜
1850年)の増加率である年0.29%とほぼ同水準です。現代でも人口
が増加を続けているアフリカを除けば、さらにマイナス0.12%とな
り、ついに世界が人口減少の時代を迎えることになるのです。
イギリスのEU離脱も「中世への回帰」の一潮流だ
2016年6月23日、イギリス国民はEUからの離脱(Brexit)を選択しま
した。これも「中世への回帰」の動向から理解することができます
。EUはEuropean Union(ヨーロッパ連合)の略であり、ヨーロッパ
は「中世の創造物」だからです。これを理解するためには、まずヨ
ーロッパという概念がいつからでき上がってきたのかを検討してい
く必要があります。
ヨーロッパは、地中海世界と北部ヨーロッパが一体化する過程で、
徐々にその姿を現してきました。その原型は、およそ800年前にあり
、現在のドイツ、フランス、ローマを含む北部イタリア、そしてバ
ルセロナを含む北部スペインにあたる地域でした。そこで重要なの
は、その中にイギリスが含まれていなかったことです。
この史上初のヨーロッパ形成体は、アラブ人が地中海を閉鎖したこ
とで崩壊しました。現在のヨーロッパの大きな課題の1つであり、イ
ギリスのEU離脱の原因の1つともなったのが、アラブや東欧からの移
民問題であることを思うと、中世と同じ問題に直面していることが
分かります。
ヨーロッパへの脅威は、いつも東から来ます。北は北極海、南はサ
ハラ砂漠、西は大西洋といった天然の要塞で守られているのですが
、東は無防備なのです。EUの中で人の移動を自由にした結果、「陸
の国」である東欧や中東からの移民流入に対して、「海の国」イギ
リスは自国の秩序が守れなくなったので、EU離脱を選んだのです。
一方、アメリカにおけるグローバリゼーションの幕引きは、オバマ
大統領から始まったといえます。クリントン、ブッシュ大統領が続
けてきたグローバリゼーションは、イスラームの反撃という形で世
界の平和秩序を破壊するようになりました。
アメリカ国民がトランプを支持するのは必然だった
オバマ大統領は、このことを受けて、アメリカが「世界の警察」で
あることを辞めると宣言したのです。しかし、平和秩序を保たない
ものが、経済秩序だけを保つことはできません。あの発言から、グ
ローバリゼーションの終わりが始まりました。
そして2年前、ピケティ氏の「1%対99%の格差」の言説は、グロー
バリゼーションを通して貧困に苦しむ多くの人々に「反エスタブリ
ッシュメント(反既存体制)」という目標を与えました。現状を維持
しようとするクリントン氏と、反資本主義、孤立主義など、この反
エスタブリッシュメントを支持する人々の心に響くフレーズを連呼
したトランプ氏が戦った大統領選において、国民がどちらを選択す
るかは、明白でした。
そして、トランプ氏が大統領として選挙公約を守るとすれば、アメ
リカは自らの手で推進してきたグローバリゼーションに幕を引くこ
とになるのです。
ドイツの法学者であり、政治学者でもあるカール・シュミットは、世
界史は「陸と海との闘い」であると定義しました。市場を通じて資
本を蒐集するのが「海の国」であるのに対して、「陸の国」は領土
拡大を通じて富を蒐集します。どちらも蒐集の目的は、社会秩序の
維持です。
フランク王国に起源をもつヨーロッパは「陸の国」ですが、近代を
作ったのはオランダ、イギリス、アメリカといずれも「海の国」で
す。「陸と海との闘い」において、近代とは「海の国」の勝利の時
代でした。
しかし、今はそれが揺らいでいます。「海の国」がもっとも恐れて
いたこと、すなわち世界最大の大陸であるユーラシアの一体化が現
実味を帯びてきたのです。
そしてまさに、米大統領選においても、トランプが大統領に就任し
たことによって、TPPをはじめとしたグローバリゼーションは収斂に
向かい始めました。「海の国」である英米が、グローバリゼーショ
ンを推進することにより、地球が1つになったかに見えたまさにその
瞬間、「陸の時代」へと逆向きの力が作動し始めたというわけです
。これも中世への回帰の流れの1つと言えます。
19世紀半ば以降、蒸気の力を得て発達していった近代社会の原理は
、「より早く、より遠くに、より合理的に」でした。そしてそれは
、資本経済社会を支配してきた「成長」という概念にほかなりませ
ん。
21世紀は「よりゆっくり、より近く、より寛容に」
しかし、「より遠く」は、太平洋をノンストップで飛行するジャン
ボジェットの引退で、「より速く」は、大西洋をマッハ2で横断した
コンコルドの運航停止で、そして「より合理的に」も、最も効率的
エネルギー源であった原子力工学における安全神話が、2011年の東
日本大震災で自然の力の前にあっけなく崩壊したことで、それぞれ
限界を迎えたと言えます。
もはや「物理的・物的空間」にはそれらの成長を実現する場所はあ
りません。
21世紀のシステムは、20世紀の延長線上ではなく、潜在成長率がゼ
ロであるということを前提に構築していくことが必要です。それに
のっとれば「よりゆっくり、より近く、より寛容に」が、21世紀の
原理であるのです。
これを資本主義の中核を担っていた株式会社に当てはめれば、減益
計画で十分だということ、現金配当をやめること、過剰な内部保留
金を国庫に戻すことです。
おそらく2020年の東京五輪くらいまでは、「成長がすべての怪我を
治す」と考える近代勢力が力を増していくでしょうが、それも向こ
う100年という長期のタイムスパンで見れば、ほんのさざ波に過ぎま
せん。この22世紀へ向かう大きな潮流こそが、「中世への回帰」で
あるといえるのではないでしょうか。



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