5803.アメリカ・ファーストで日本が米国の代わりに



トランプ大統領になって、日本の時代が到来したようだ。米国だけ
が一国で経済の充足できるが、その他の国は他国との貿易でしか生
きていけない。その自由貿易をどう守るかが問われている。
その検討。                 津田より

0.トランプ政権の政策を確認
トランプ政権は米国第一主義で、製造業を復活させて、海外の紛争
には、米国の防衛に重要なことしか行動しないし、インフラ投資を
行い、保護貿易で中国や日本、メキシコなどからの輸入を止める。

移民政策も厳格化して、H1B(技術者ビザ)、J1(交換留学生
ビザ)などやグリーン・カードなどを原則廃止や取りにくくするし
、ヒスパニックやイスラム教圏からの移民を排除、不法移民は強制
送還という強い対応を行う。また、出生主義から血統主義に国籍取
得基準も変更するというし、米国の鎖国化である。今までの日本の
ようでもある。

トランプ政権が理想としているのは、今までの日本のような気がす
る。移民を認めず、古い工業もなるべく存続させて、輸入もなるべ
く入れないようにすることである。日本を非難しているが、米国は
その非難した少し前の日本を見習ったようだ。

これでどうなるのか、1930年代の世界的な保護貿易主義が蔓延
する可能性もあるが、米国以外の国は、保護貿易では死んでしまう
ことになる。すでに歴史上で学んでいるので、米国以外の国は保護
貿易が良いとは思わないはずである。

保護貿易ができる条件は、食糧とエネルギー、鉱物資源があり、か
つ工業国家で基本的な生活物資を自給できる国であり、それは米国
しかない。食料とエネルギーを自給できる国としても、豪州、ロシ
ア、ブラジル程度しかないので、完璧な保護貿易ができる国は米国
しかないのである。

法人税を15%するとか、所得税を大幅減税するので、税収は減る
が、インフラ投資と軍備拡張で、財政支出は大幅に増えることで、
財政赤字が増えて、国債の発行量が増えることになる。このため、
長期金利が上昇し、ドル高になる。よって、この数年はトランプ景
気と呼ばれるくらい景気は非常に良くなる。

1.世界の景気はどうなるか?
米国一国景気上昇になる。それが世界には波及しないことになり、
新興国経済は最悪になる。特に中国の景気減速はハッキリするはず
。日本は人口減少で、労働力不足になってきて、現在も成長率0%
であり、それでも活況であるので、そこまでは心配がない。

世界経済は下降か良くても停滞でしょうね。ドル高になるが、米国
への輸出ができないので、ドル高の恩恵を受けない。

技術者や留学生も米国には入れないので、新興国の学生は、EUや
英国、日本などに来るしかないことになる。インド人の技術者が入
国できないので、グーグル、マイクロソフト、インテル、オラクル
、フェイスブックなど知的産業は、米国から日本などに開発拠点を
移すしかない。英語圏である英国やアイルランド、豪州なども候補
になるが、交通の便、気候、食糧などで日本が候補になると見てい
る。

2.米国の4年後や中長期の見通し
4年後には、インフラ投資でバブルが成長し、輸出ができないので
経済成長は止まることになる。財政赤字も限界に来るので、バブル
の崩壊が起きて、経済的なショックが起きている。

貧困層はより貧しく、富裕層は資金を海外逃避して、よりお金持ち
になる。10%程度の富裕層が得をするようなっている。トランプ
氏は、貧困層に受ける政策を言いながら、その実、自分たち旧産業
の富裕層が、現時点より儲かる政策をして、知的産業の新興富裕層
を突き放すことも考えているように感じる。

4年後には、バーニー・サンダース議員のような本当に貧困層の味
方をする大統領が民主党から出てくるような気がする。という意味
では、トランプ大統領は、今は貧困層の支持を得ているが、4年後
は失望になり4年後の再選はできないと思う。

この4年間を世界は忍耐強く我慢するしかないようである。

クルーグマンも、同様な見立てのようである。当面は米国は景気上
昇で沸くが、中期的には米国の衰退が起きると見ている。

また、中長期に見ると、自国優先というナショナリズムが高揚する
と保護貿易が蔓延して世界の経済規模は縮小し、自国生存権の拡大
を目指した戦争になりやすいという歴史の教訓もある。嫌な感じが
するのは私だけではないと思うがどうであろうか?

3.日本は自立し、米国へ援助を
米国は旧産業の工場再建が必要であるが、米国にはその技術がない
。このため、日本の技術が必要になる。米国に工場を日本企業が作
り、白人労働者に雇用を提供することになる。

NAFTAを廃止するので、メキシコの工場は閉鎖して。その工場の設備
を米国に移す必要がある。高関税なので米国への輸出ができないの
で、米国内に工場を建てるしかない。現地生産現地消費になるし、
現地デザインでしょうね。

日米防衛は、日本の自立、対等な関係を求められるので、これが日
本が乗り越えるべき試練かもしれない。GDP1%から3%程度の防衛
費が必要になる。今5兆円であるが、15兆円にはなる。

憲法の改正も必要になる。集団的自衛権もほとんどが可能になるよ
うな変更が必要である。9条の変更も避けて通れないし、核兵器の
保持、運用も必要になるかもしれない。中国との戦争抑止のために
出来る方法を検討しないといけない。この時は日米同盟破棄の時か
もしれないが、その可能性も見ておくしかない。

日本の安全保障政策は大きな転換点に来ているようである。トラン
プ政権で外交安全保障担当大統領補佐官になる可能性があるフリン
さんが日本に来て、日米安全保障の重要性はキープするが、内容は
厳しいものになると述べている。

当分の間、米国の孤立化が起きて、日本を含めた米同盟国は苦境に
なり、欧州はEU離脱をする国が増えてNATOの力が落ちて、中
露の時代が訪れる。中国も米国への輸出がないので苦しいが、日本
も中国との関係に苦しむと思う。

4.日本は基軸通貨国に
もう1つが、日本が自由貿易を標榜しTPPなどを推進して、自由
貿易の旗手になることである。日本は、保護貿易では生きていけな
いので、保護主義を止める役割を担うしかない。

よって、世界は保護貿易の米国から自由貿易を推進する日本にシフ
トしてくる。日本は人口減少で、世界の留学生も受け入れ、技術者
の入国も簡単であり、かつ、グリーンカード取得も簡単であるので
、米国が締め出したことで、日本に来るしかないし、米国の知的産
業も日本に開発拠点を置くはず。しかし、企業の本社は日本には移
さない。法人税が高いためである。

自由貿易を破棄する米国のドルは基軸通貨ではなくなる。中国の人
民元も国際的な取引を制限しているので、基軸通貨にはなれない。
ユーロは、ユーロ構成諸国が、トランプ政権に影響されてEU離脱
になるから安定していない。英国のポンドは、衰退経済なので基軸
通貨には無理ということで、円が基軸通貨になる可能性もある。

ということで、日本の時代が来る。

日本の円が強いのは、今でもトラブルがあると日本の円に世界の投
資家は退避してきて、円高になる。このように、円は強い通貨であ
るが、今はドルがあるので、基軸通貨はドルになっているが、米国
が世界から孤立すると、ドル基軸の理由がなくなる。

耐え難い円高になったらヘリマネを行えばよいので、円安にするの
は簡単である。

さあ、どうなりますか?


参考資料:
Japan’s Smart-tech Firms Offer Investors Big Rewards
https://www.linkedin.com/pulse/japans-smart-tech-firms-offer-investors-big-rewards-julian-bashore


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2016.07.18 MON 09:00wired
「トランプはイノヴェイションに災いをもたらす」テック界のリー
ダーたちからトランプへの公開書簡、全文
米大統領の共和党候補、ドナルド・トランプの言説に、ピエール・
オミダイアやS・ウォズニアックら、米テック界のリーダーたちは危
機を募らせている。彼らの賛同を得て発信をした、Color Genomics
のCMOでツイッターのグローバルメディア担当ヴァイスプレジデント
を務めた著者によるオープンレターを、転載して公開。
TEXT BY KATIE JACOBS STANTON
わたしたちは、テック業界に従事する発明家、アントレプレナー、
エンジニア、投資家、研究者、ビジネスリーダーである。わたした
ちは米国のイノヴェイションが世界の羨望の的であり、広く共有さ
れる繁栄の源泉であり、我が国の国際指導力を代表するものである
ことを誇りに思っている。
わたしたちは機会と創造性、均等な機会を育成する包括的な国家を
信じる。ドナルド・トランプはそれを信じない。彼は怒りや偏狭、
新しいアイデアや人々への恐怖、アメリカが弱り衰退化していると
いう基本的信条を掲げてキャンペーンを行っている。
わたしたちはこの1年間ドナルド・トランプのことばに耳を傾けた結
果、「トランプはイノヴェイションに災いをもたらす」という決断
を下した。彼のヴィジョンはオープンな意見交換や人々の自由な移
動、生産的な外界との関わりを阻むものだ。これらは我が国の経済
に必要不可欠であり、イノヴェイションと成長の源泉だ。
まず、イノヴェイションを進める人材について考える。わたしたち
はアメリカの多様性は我が国の強みであると信じる。素晴らしいア
イデアは社会のあらゆる部分から生じ、わたしたちはその幅広い創
造的潜在力を支えるべきだ。
また、進歩的な移民政策は科学者やアントレプレナー、クリエイタ
ーなど世界で最も優れた逸材をひきつけつなぎ止めるのに役立つも
のと信じる。事実、フォーチュン500社の4割の創業者は移民または
移民の子孫だ。一方、ドナルド・トランプは人種・民族のステレオ
タイプを撒き散らし、繰り返し女性を侮辱し、移民には公然と敵対
している。彼は壁の設置や大量国外追放、プロファイリングを約束
している。
わたしたちはまた、インターネット利用を含む自由でオープンな意
見交換がイノヴェイションを生じる源泉であると信じる。ドナルド
・トランプはセキュリティー戦略としてインターネットの一部の「
シャットダウン」を提案し、稚拙な判断力とテクノロジーの仕組み
に関する無知を露呈している。彼の検閲への強い嗜好は、記者証の
剥奪や彼を批判するメディアプラットフォームを処罰するという脅
迫にまで及んでいる。
最後に、政府はインフラや教育、科学研究の分野への投資によって
テクノロジー経済界で重要な役割を果たすものと信じる。ドナルド
・トランプは常軌を逸した矛盾するいくつかの政策を明確に掲げて
いる。彼の我が国の法制度や政治機関への無謀な無関心さは、アメ
リカでの起業と事業拡大への魅力を一変させる恐れがある。彼は市
場歪曲、輸出減少、雇用創出減速の危険を犯している。
わたしたちは対立を生むドナルド・トランプの立候補に反対し、ア
メリカのテクノロジー業界をつくり上げている理想──表現の自由
、新規参入者の受け入れ、機会均等、研究とインフラへの公共投資
、法規の尊重を受け入れる候補者を希望する。アメリカのイノヴェ
イションが引き続き機会、繁栄、リーダーシップを後押しできる、
より包括的な国を目指す楽観的なヴィジョンをこそ、わたしたちは
受け入れる。
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日本は孤立没落の危機!トランプ時代の世界はブロック化する
上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究
所所長]
【第145回】 2016年11月12日diamond
?アメリカ大統領選挙が投開票され、共和党候補のドナルド・トラン
プ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破り、当選確実とな
った。まさかの結果に、日本中が衝撃を受けているが、この連載で
はトランプ氏の当落にかかわらず、現在の国際社会の状況を「時代
の大きな転換点」と位置付けて論じてきた(連載第134回、第142回
など)。その意味では、今回の結果に対して、特に大きな驚きはな
い。
?時代の大きな転換点とは、世界が国境を越えてすべての国が相互依
存を深める「グローバル化」から、それぞれの国が『生存圏』をど
う確立するかを考える「ブロック化」の時代に変わっていくことだ
。ボリス・ジョンソン英外相の登場による「英国のEU離脱」で明
らかになってきた大転換は、トランプ氏の米国大統領選勝利で、確
実な流れとなったと認識すべきだろう。
?そして、それは日本が国際社会の中で、非常に厳しい状況に陥ると
いうことを、覚悟すべきだということを意味する。トランプ大統領
の登場で「世界のブロック化」が現実化していけば、軍事力も資源
も十分に持たない日本は、「極東の一小国」の地位に落ちてしまう
リスクが高いからだ。
「生存圏」を確保し
「ブロック化」を目指す世界の新潮流
 「生存圏」とは、例えば英国の「英連邦」である。資源大国のカナ
ダ、オーストラリア、南アフリカ、世界で2番目に人口が多いハイテ
ク国家のインドや、マレーシア、シンガポールなど今後最も成長が
見込まれるアジアの多くの国、今後「世界の工場」となるアフリカ
諸国が含まれる(第142回・p4)。この巨大な経済圏が英国の「生
存圏」である。実際、テリーザ・メイ英首相は先週、インドを訪問
した。英国がEU離脱後に、英連邦との関係を固めようと動くのは
当然のことだ。
?一方、米国は「シェール革命」によって世界有数の産油国になり、
世界最大の石油の輸入国から輸出国に転じようとしている。そして
、米国内で「ものづくり」を復活させ、米国内に360万人もの新しい
雇用を生み出すという。米国は、トランプ氏が主張する「孤立主義
」に向かっても自立できる「生存圏」を持っているといえる。
?また、中国が「一帯一路(One Belt, One Road)」計画を打ち上げ
て、大陸と海洋の両方で拡張主義を取るのは、12億の人口を賄うた
めの資源を確保するためである(第103回)。これも「生存圏」を固
めるための動きである。
?衰退したとはいえ、ロシアも確固たる「生存圏」を持つ国だといえ
るだろう。これに対して、EUはNATO軍を持ち、安全保障面で
は高い自立性を持つが、資源については再生エネルギーなど多角化
を図ってはいるもののロシアへの依存度が高い。「生存圏」という
観点では弱みがある。
?巨大な「生存圏」を持つ国が、「ブロック化」に動けば、資源も食
料も防衛力も自立できない日本のような国はなすすべがないことを
、我々は自覚しなければならない。安倍政権が、ロシアとの関係強
化に前のめりになるのも、TPPの国会承認を急ぐのも、米国が「
孤立主義化」、世界の「ブロック化」が進むことを見通しての動き
だろう。
?いわゆる「トランプ・ジョンソン現象」は、英米両国にポピュリス
トが偶然台頭したという話ではなく、世界中で起こっている、時代
の大きな転換点の中での現象だと考えるべきなのである。
米軍撤退による日本の
「自主防衛」は「負け組」への道
?この連載では、12月に開催される日露首脳会談について、「負け組
同士の歩み寄り」と表現した(第142回・p5)。なぜ日本が「負け
組」になるのか。トランプの日米関係についての発言から考えてみ
よう。
 (もし中国などが日本を攻撃したらどうするかという質問に)「ア
メリカが一歩引いても、日本は自ら防衛できるだろう。日本は中国
との戦争に勝ち続けた歴史がある。なぜ、アメリカは日本を守って
やっているのか?ご存じの通り、日米安保条約は心憎い。なぜなら
、他国がアメリカを攻撃しても、日本はアメリカを助けなくてよい
。なのに、他国が日本を攻撃したら、アメリカは日本を助けなけれ
ばならない」
?つまり、日米安保の「片務性」を批判している上に、中国が日本を
攻めてきても、日本は自分で防衛できると主張しているのだ。
?トランプ氏の大統領選中の様々な発言については、選挙で勝つのが
目的のものなので気にする必要がないとか、そもそも実情を理解し
ていない荒唐無稽なものなので、大統領になっても実現不可能だと
いう見方がある。しかし、「米軍の日本からの撤退」というのは、
「常に最悪を想定して準備すべき」という国際社会の常識から考え
れば、無視できないものだ。
?そもそも、バラク・オバマ現大統領も、2013年9月に対シリア内戦
への軍事不介入声明を発表した際、「もはやアメリカは世界の警察
官ではない」と宣言し、中東からの米軍撤退、将来韓国からの米軍
撤退(公表)、2020年から2026年の間に沖縄から海兵隊を含む全米
軍撤退(非公式)、NATO(北大西洋条約機構)の閉鎖又は欧州
中央軍への統合、中南米、アフリカ地域からの米軍撤退等々を打ち
出している。「世界の警察官を少しずつやめていく」というのは、
米国内で党派を超えたコンセンサスだといえる。
?米国が自国内の利益をがっちりと固める「ブロック化」を進めてい
けば、莫大な予算を投じて海外に展開している米軍は、巨額な財政
赤字の一因として無駄とみなされ、縮小していくということはあり
得る。在日米軍が縮小し、遂には撤退ということになれば、どうな
るか。
?沖縄などから基地がなくなれば万歳、と単純に喜べる話ではない。
急激に膨張する中国とどう対峙しようというのか。ハイテク装備の
自衛隊は、軍事費は急拡大しているが、まだまだ近代化が進んでい
ない中国人民解放軍と、尖閣諸島などの「局地戦」であれば、勝て
るだろう。
?しかし、中国がそれで引かず、日本本土を攻撃するなど、「全面戦
争」の構えを見せて長期化したらどうか。自衛隊だけでは絶対に勝
ち切ることはできない。そもそも、圧倒的な戦力的優位があった日
中戦争でさえ、泥沼に入って日本は勝ち切れなかった。地政学的に
いえば、「シーパワー」は「ランドパワー」を完全に倒すことは不
可能なのである(前連載第64回)。
?従って、保守派が常々主張しているような「自主防衛」などあり得
ない。日本は、集団的自衛権のネットワークを構築して、やっと領
土を守れる国なのだということを、強く自覚しなければならない。
もちろん、国家予算の大半を費やして、国家総動員体制を作り、超
精強なハイテク軍事国家を作って中国と自力で対峙するというなら
、それも1つの考え方だが、「豊かさ」「自由」「民主主義」を享受
する日本国民に、絶対に同意は得られない。要するに、国際社会の
「ブロック化」が進めば、日本は安全保障的に孤立して怯える小国
になるということだ。
日本が先進国になれたのは
米国に製品をどんどん買ってもらったから
?次に、日本経済と国際社会の「ブロック化」を考えてみる。再び、
トランプ氏の発言である。「日本から、何百万台もの車が、ひっき
りなしに輸入されてくる。アメリカは、日本に何か買わせたか? 牛
肉を輸出した、だが日本は買いたがらない。これは貿易不均衡だ」
。日米の貿易摩擦の歴史は長く、日本人にとっては、もはや聞き飽
きた、よくある米国人の発言だとはいえる。だが、よくある発言だ
からこそ、日本経済の本質を捉えているものでもある。
?日本がどのように高度経済成長を成し遂げて、経済大国となったか
を振り返ってみる。戦後、米国は日本を占領した当初、日本の再軍
事化・大国化を恐れて財閥解体を恐れ、重工業化を許さなかった。
しかし、東西冷戦期になると、日本はソ連・中共の共産圏と対峙す
るフロントラインとなり、日本を経済成長させる必要性が出てきた
。1950年の「朝鮮戦争」をきっかけに、日本の製造業は劇的に成長
することになる。
?日本が高度経済成長を成し遂げたのは、端的にいえば、米国が東西
冷戦期に日本を成長させるために、日米安保条約に基づいて日本の
安全保障を肩代わりし、日本の製品をどんどん購入してくれたから
である。「軽武装経済至上主義」の「吉田ドクトリン」を打ち出し
た吉田茂元首相は、これについて「日本は米国を番犬として飼って
いると思えばいい」とまで言った。日本がしたたかに米国を利用し
て、先進国にのし上がったという見方もできる。
?しかし、日本は先進国になりながらも、米国にどんどん輸出をする
一方で、市場を保護して米国からの輸入をブロックし続けた。これ
が、米国の不満となり、70-80年代には、日本は上記のトランプ氏の
ような発言を、米国から散々聞かされた来た歴史がある。
?これは日本だけの話ではない。東西冷戦期から今日に至るまで、世
界中の新興国が、米国に製品を買ってもらって成長しているし、米
国に守ってもらっている。しかし、エネルギーを世界中で探す必要
がなくなった米国が、「世界の警察」をやめ、世界中の国からモノ
を買うのをやめて、米国製品を世界に売り始めたらどうか。実は、
米国はなにも困らない。しかし、日本など世界の多くの国は、頭を
抱えてしまうことになるということだ。
日本が生き残る道は「自由貿易」
「グローバリゼーション」にしかない
?現在でも、日本経済は基本的に変わっていない。安倍政権の経済政
策「アベノミクス」の主たる目的が、円安政策による輸出産業の利
益増であることが、端的にそのことを示している(第80回)。日本
は、いわゆる「輸出主導型」の経済システムであり、「グローバリ
ゼーション」という名の、「米国を中心とした相互依存型の国際経
済」の中で生きているのである。
?これを、前述した英国が「英連邦という巨大経済圏」を持っている
ことと、比較してみるといい。いかに日本経済の構造が脆弱である
かを、嫌というほど痛感させられるはずだ。要するに、確固たる「
生存圏」を持つ国が、経済を「ブロック化」してしまったら、資源
がない小さな島国である日本は生きていけないのだ。日本は、なん
としても「自由貿易体制」と「グローバリゼーション」を死守しな
ければならない立場にあるのだ。
?この連載では、安倍政権を様々な角度から散々に批判してきた。し
かし、安倍政権は、この「ブロック化」が日本に与える「リスク」
の恐ろしさを、非常によく理解してると高く評価したい。「集団的
自衛権の限定的行使」を閣議決定し、「安保法制」を通したのは、
安全保障面における「ブロック化」への備えであるのはいうまでも
ない。日露関係の進展を急ぐのも、経済・安全保障両面での戦略的
行動だろう。そして、TPP(環太平洋経済連携協定)である。
?TPPは野党の強硬な反対が続いたが、ようやく国会承認を得た。
国会が空転したのは、世界の大きな潮流を理解しない、愚かなこと
だと考える。元々、TPP参加を決めた当の本人のはずの野田佳彦
民進党幹事長(元首相)が先頭に立って「次期米国大統領候補が
TPPに反対していて、米国が批准するかどうかわからないのに、
なぜ日本が先にTPPを批准する必要があるのか」「政府が『聖域
』とした農業などの国益が守られていない」などと批判を続けたの
は、狂気の沙汰だ。
?小さな日本という島の中で、こんな重箱の隅の問題に難癖をつけて
争っている場合ではないのが現実だ。農業を「聖域化」して「国益
」だという。平等な国際競争の条件下で、農業の競争力を高めるこ
とは大事だ。だが、わずか200万人の農業を何としても死守するため
に、平等な競争を求める自由貿易の枠組を否定することが「聖域」
というのは、もはや「カルト宗教」の域である。
?そんなことより、何度でも繰り返すが、「自由貿易体制」を守るこ
とこそが、日本の絶対的に死守すべき「国益」である。日本は、
TPPを承認し、なんとしてもこの枠組みを維持するために米国を
説得する以外に、生きていく道はないということを知るべきだ。
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2016-11-12himaginaryの日記
長期戦Add Star
9日エントリで紹介したマンキューや11日エントリで紹介したディロ
ーの楽観論を戒めるかのように、「The Long Haul」という悲観的な
ブログエントリをクルーグマンが書いている。
(拙訳)
今日の論説で書いたように、トランプが選挙に勝ったからといって
、彼が災害だと考えていた人は考えを変えるべきではない。実際、
彼はあらゆる面で災害となるだろう。そして最終的に彼は、自分自
身の評判と一緒に共和党を奈落の底に引き摺り込むだろう。問題は
、彼が国全体や世界をも巻き添えにするかだ。
しかし重要なのは、それがすぐに起きると考えるべきではない、と
いうことだ。経済政策や外交政策の崩壊が即座に起きると予言した
いという誘惑がある。私は火曜の夜にその誘惑に負けたが、すぐに
自分がブレグジット反対派と同じ間違いを犯していることに気付い
た(ブレグジットについては私は正しかった*1)。ということで、
その予測についてはここで撤回したい。少なくとも財政赤字の拡大
は、短期的にはどちらかというと経済を強くする可能性がある。詳
細は月曜の論説で論じることになろう。
他の点についても、すぐに証明されると期待すべきではない。米国
の評判の資本ストックは巨大で、何世代にも亘って積み重ねられて
きた。トランプでさえそれを散財するのには時間が掛かるだろう。
トランプのどうしようもなさは、時間が経つにつれ明らかになって
いくことになろう。悪いことは起きるものだが、その時に彼はどう
対応して良いか分からないだろう。例えが欲しければ、カトリーナ
がブッシュ政権の空虚さを炙り出したことを思い出して、それを100
倍すれば良い。
古き良き時代を取り戻すという彼の約束も、結局は化けの皮が剥が
れて嘘であることが明らかになるだろう。
だが、そうしたことは1年以内には起きないだろう。従って米国の品
位を取り戻す努力は、持続力をもって行われねばならない。我々は
事例を積み上げ、組織し、枠組みを作らねばならない。そしてもち
ろん、誰が正しいかを忘れてはならない。
荒野で過ごす時間は長く、つらいものになろう。私は落ち着いて達
観しているように聞こえるかもしれないが、そうではない。心配し
ている他の人たちと同じように、私は疲れ切って、眠れず、意気消
沈している。しかし我々は決然としていなくてはならないのだ。


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