5769.ロンドン都市鉄道の拡充、世界有数の都市交通ネットワーク



ロンドン都市鉄道の拡充、世界有数の都市交通ネットワーク
           平成28年(2016)9月24日(土)
             「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治

1.初めに
 去る6月13日から23日まで英国とノルウエイに妻と共に講演旅行に行って参りました。

 昨年京都でバイオミティクス(生体工学)をテーマに化学系業界団体のセミナーがあり、
「自然に学ぶ」をテーマに講演を行なった時、メインの講師であったオックスフォード
大学動物学研究室のジュリアン・ヴィンセント教授とのご縁を頂きました。
 その戴いたご縁から、英国のエジンバラ大学、シェフィールド大学、ケンブリッジ大学
さらにノルウエイはオスロにあるバイオミミクリ研究所で、500系新幹線電車をベースに
した「自然に学ぶ」というテーマでお話をさせて戴くこととなったのです。

 但し、残念ながらエジンバラへは行けませんでした。6月14日英国航空(BA=British 
Airways)が、遅延したドイツ航空(Luft Hansa)の接続便を、ロンドン ヒースロー空港
で待ってくれなかったからです。90名の聴衆者が私の話を楽しみに待ってくれていたとの
ことで、残念なことでした。BAはキャンセル航空料金も返さず、臨時ホテル代とそこへの
往復のタクシー代を追って払ってくれただけでした。

 そこで浮かんで来た川柳
 「人待たず 二度と乗るまい 英国航空」

 ホテルへ向かうタクシー運転手が言いました。「英国航空はサービスが悪い、最低だ。
Luft Hansa&Air France(フランス航空)の方が、ずっと上だ。そして一番良いのはANA
とJALだ」と、日本を持ち上げてくれました。市井の市民の声です。

〇改善された食べ物の味と鉄道の信頼性
 今回の英国旅行で二つの事が大いに改善されていることを感じました。まず食べ物の味が
各段に良くなっていること、そして鉄道のかなりの定時性回復でした。
 以前西独留学中、1973年の春頃、妻と英国を車で旅行した時、売店のサンドウィッチや
レストランの魚料理のまずさには閉口し、同じ材料を使って何と勿体無いことだと思った
ものです。今回は、これはひどいというメニューには遭遇しませんでした。イタリアレス
トランがかなり増えていたように感じました。

 また、英国鉄道(National Rail)もかつては事故が多く、1時間や2時間の遅れはざら
でしたが、今回、私の利用した範囲内(ロンドンのセント・バンクラス駅⇔シェフィールド
駅、ロンドン・リバープール・ストリート駅⇔ケンブリッジ、ロンドン・ヴィクトリア駅
⇔リーズ城方面そして頻繁に乗った地下鉄を含む)の都市鉄道も、ある線の運休以外は、
定刻運転がほとんどでした。ロンドン・オーバーグラウンド線のある駅での発車時刻の電光
表示板においても、10列車ともOn Time(定刻)と右側に表示されていました。

 もっとも、帰国後、「あの定刻は、遅れ10分以内という意味ですよ」との声も聞きまし
たが。

2.ロンドン地下鉄の拡充
 今回の旅行では西ロンドンのホテルに7連泊しましたので、移動に市内観光にロンドンの
地下鉄をフルに活用しました。
 ロンドン地下鉄はロンドン・アンダーグラウンド(London Underground)と呼ばれ(市民
にはチューブ=Tubeの愛称)、日夜、通勤・通学に、ビジネスにそして観光に大いに利用
されています。世界最古の地下鉄で1863年に開業しています。日本では遅れること1927年。
東京地下鉄の上野〜浅草間(約2.2km)が地下鉄の嚆矢です。

 今やロンドン地下鉄は、線路延長402キロの11路線&270駅に亘るネットワークを有し、
毎日の平均利用客は約273万人に上ります。1973(昭和48年)当時、訪れた時は、この路線
規模にほぼ達していたようです。最新の建設線は、1999年年(平成11年)5月14日、
ウエストミンスターからロンドン橋を経て東ロンドンのストラトフォード>に向けて延伸
されたジュビリー線です。  

 このジュビリー線を除いた366キロに亘る地下鉄ネットワークでも凄いレベルだと、1973
年当時思ったことを記憶しています。

 ところが今回、ロンドンを訪問した際、ロンドン・オーバーグラウンド(London 
Overground=直訳すれば地上鉄)と呼ばれる都市鉄道が加わり、さらに東ロンドン地区
には、工場地帯の貨物線に新たに整備したドックランド新交通システムDLRも整備され
ていました。
 このDLR(Docklands Light Railway)は、無人運転で、大阪南港のニュートラム、東京都
のゆりかもめのようなシステムです。ロンドン交通局の都市鉄道を整備する尽力ぶりには
驚きました。

 第2項で詳述します。

2.ロンドン・オーバーグラウンド(ロンドン地上鉄=直訳)
 ロンドン・オーバーグラウンド(London Overground)は、ロンドン地下鉄と同じ
デザインのマークですが、オレンジを基調にした色違いで表示されていました。

 Wikipediaによれば、ロンドン・オーバーグラウンドは、大ロンドン市内および近郊
区間を走る鉄道のブランド名で、2007年に開業し、2013年現在6路線からなります。
貨物列車が走るのも見られましたので、英国鉄道(National Rail)の貨物線を改良
して、電車を走らせるように整備したように思えました。主に地上を走ることから
ロンドン・オーバーグラウンドと命名されているとのことです。4線軌条の地下鉄とは
異なり、3線軌条でした(1線は、動力電源用)。
 
 大赤字を出していた英国の鉄道も大改革を経験しています。英国の鉄道事業改革
(国鉄分割民営化)によって、かつての英国国鉄(British Railways)は1994年
(平成6年)4月、1社の線路保有会社、25社の旅客鉄道会社そして6社の貨物鉄道会社
に地域に分割されたのです。その後、紆余曲折を経て、ロンドン近郊区間の運営が
ロンドン交通局に移管され、2007年ロンドン・オーバーグラウンドとして誕生した
ようです。
 

 上記ロンドン・オーバーグラウンドのホームページによれば、2015年までに4路線
の新線が整備拡充され、今も新規整備計画があるようです。
 ロンドン・オーバーグラウンドの路線キロ、駅数等の正確な情報が無いのですが、
営業キロは120■以上、駅数も100以上あるように推定されましょう。

 このネットワークがロンドン地下鉄に加わったのです。

 今回の旅行で、筆者の宿泊ホテルがまさにこのロンドン・オーバーグラウンドの
西南のケンシントン(オリンピア)という駅のそばにあり、その駅から、ロンドン
市内各地へ見物に出かけました。地下鉄とは異なり、地上鉄道ですので、古い建物
が多いが、緑が滴り、高層ビルもそびえる市街地を眺めることができました。

3.ドックランド新交通システム
 更に新たな軌道系交通システムが導入されていました。英語ではDockland Light
 Railway Systemと呼ばれています。

 かつての工業地帯であった、東ロンドンの中でもさらに東側のドックランドと
呼ばれる地域の工業地域の貨物鉄道路線の廃線&不使用路線が、新交通システム
に生まれ変わっていました。1984年に工事が開始され、1987年8月31日、タワー・
ゲートウェイ駅〜ストラトフォード駅等が開業(15駅、総延長13Km)で営業開始し
ました。2011年8月31日、カニング・タウン駅〜ストラッドフォード国際駅が開業し、
国際列車のユーロスターに接続しています。

 2012年開催されたロンドンオリンピックを盛り上げたことでしょう。 

 今まで述べた、大ロンドン都市圏の軌道系交通機関を一枚の路線図に表すと、
路線網550キロ以上はあろうと思われる巨大な軌道系都市交通ネットワークが構成
されています。これに都心と郊外を結ぶ英国鉄道(NR)の路線も加わります。車を
持たない観光客が、次に述べるオイスターカードという共通カードで、非常に
スムーズにロンドン市内を移動でき、徒歩で大都市観光を堪能できます。我々も
1週間有効のオイスターカードで、賑やかなロンドンを楽しむことができました。

 ロンドンの軌道系都市交通システムは、市民の足としてだけでなく、内外からの  
来訪者に自動車無しで生活&旅行を満喫できる体系を提供しているのです。

4.ロンドン都市交通鉄道の運賃
 運賃は、交通機関共通でゾーン制を敷いており、6ゾーンあります。普通乗車券を
買うと初乗り4ポンド(1ポンド≒130円)と、円換算では\520と割高です。我々が
旅行していた時は1ポンド≒155円でしたから、もっと高かったことになります。

 しかし普通は、SUICA,ICOKAに似たようなオイスターカードを使います。このカード
はプリペイド方式のICカード型乗車券で地下鉄、バス、トラム、英国鉄道の一部区間
で使用可能です。1.60(ゾーン1)〜3.80ポンド(ゾーン1〜6)で割安となっていま
す。 
 我々夫婦は1週刊有効のオイスターカードを購入し、連日乗り降り自由で活用しまし
た。               
 デポジット(保証金)は3ポンドで、我々は記念オイスターカードを持ち帰りまし
たので、この保証金を支払ったことになります。
 
 日本は、高度経済成長時代には旅客需要が増大し、かつ都市交通機関間の競争が激
しかったせいか、共通運賃制度は普及しておらず、運賃は、交通機関ごとに別体系に
なっています。最近、SUICA,ICOKA(JR系)およびPASMO、PITAPA(私鉄系)など交通
カードが普及し、しかもカードが相互に利用できるようになって、切符の購入手間が
減り、運賃精算などが楽になりました。

 しかし、観光客などビジターの事を考えると、ゾーン制の共通運賃制度に切替えれば、
料金体系も判り易く、割安にできるので、さらなる観光客誘致に繋がり、観光客にも
喜ばれるでしょう。

5.歩行者地域 
 私の記憶では、パリ、ロンドン、ベルリンのような大都市では、歩行者地域は、
1972〜1974頃、設けられていなかったと思います。当時私の住んでいた西独の
ブラウンシュヴァイク(人口23万人)のような中小都市には、都心部に必ず、歩行者
地域が整備され、自動車は乗入制限され、通行人は、ウィンドーショッピング等を楽し
んでいました。
 
 今回、そのロンドンの都心、例としてピカデリーサーカスのような繁華街にも歩行者
地域があり、人々で賑わっていました。日本の都市も歩道を拡げるだけではなく、
平日も思い切って自動車をシャットアウトする地域を都心に設けるべきでしょう。
歩行者、店舗経営者相互が幸せになるでしょう。如何でしょうか?

6.鉄道駅での貸自転車システム
 宿泊ホテルに近隣のロンドン・オーバーグラウンドのケンシントン駅の上の道路に
路上貸自転車システムがありました。車道の一部を削って、コイン式貸自転車を10数台
置いています。まだ、設備も自転車も新しく、最近設けられたばかりのようです。
 
 他の地下鉄駅でも随所に見かけました。省エネ・省資源で健康に良い自転車が、
有効利用される仕組みかと思います。

7.ロンドンの路面電車 
 ロンドンの路面電車は、トラムリンクと呼ばれています。

 テニスで有名な南西ロンドンのウインブルドンを起点にクロイドン地区を
走っています。クロイドン・トラムリンク(Croydon Tramlink)とも呼ばれて
います。
 今回の旅行では地下鉄でウインブルドンまで行きましたが、路面電車には時間
の関係で乗れませんでした。トラムリンクは、ロンドン都心から離れており、
観光客にはあまり知られていないようです。

 しかし、建設費&工期もかかる地下鉄より路面電車の方が経済的であり、ロンドン
郊外にロンドン交通局が2010年に新たに整備したようです。ロンドン・トラムリンク 
という会社が運営しており、前述のオイスターカードも使えるようです。都市軌道系
交通の整備方法として良い選択かと思います。

8.ロンドンと東京の地下鉄比較
 今回、インターネットを主なデータベースとして調べて見ました。ロンドンでは
オーバーグラウンド(ロンドン地上鉄)の数字が一部明確になりません。

 これらによりますと、東京の地下鉄には、東京メトロと都営地下鉄があり、その
利用者数を合計すると、一日866万人、年間で31.6億人にもなります。これに首都圏
のJR東日本の一日1,700万人さらに私鉄の1,350 万人を加えると軽く4,000万人近
くになります。一人の旅客が複数の鉄道を利用しているケースも多く、全体の旅客
数は、これより下回ると思われますが、東京首都圏が世界一の鉄道都市であること
は間違いありません。但し、東京都には人口912万人の神奈川県、同726万人の埼玉
県そして同623万人の千葉県が隣接しており、当然とも言えましょう。

 しかも東京の地下鉄は、架線からではなく、第三軌条より動力電源を集電する
銀座線&丸ノ内線並びにリニアモーター方式で、在来鉄道と相互乗入れできない
都営地下鉄大江戸線を除いて、JRと私鉄との相互直通運転が、全て実現しており、
この世界的にも優れたシステムが、世界一の鉄道利用客を生んでいるのも事実です。

 ロンドン地下鉄は、三交通機関合わせて一日500万人強の旅客があると推計できます。
地下鉄のみの利用客数ですと東京に近づきます。地下鉄に関しては、日本で二番目に
発達した大阪市営地下鉄は、営業8路線129.9■、100駅&一日231万人(平成24年度)の
利用客で、ロンドンよりは小規模です。
 
最後に
 
 この6月の旅行で、ロンドンを訪れ、1週間ほど滞在し、地下鉄などに乗車できて、
その実情を見聞できたことは、大いなる勉強の機会ともなりました。特に鉄道発祥
の地、英国、世界最初の地下鉄を走らせたロンドンに於いて、安全正確な鉄道が復活
し、新たな都市鉄道網が拡充され、新交通システムが大がかりに導入されていることを
知ったことは、貴重な情報でした。 

 鉄道復権の動きが、世界中で進行しつつあることを英国でも確認できました。また、
旅客鉄道に関しては世界トップの日本ですが、共通運賃制度などソフト面においては、
欧州のシステムを学ぶべきだと改めて認識しました。

 長文にお付き合い、有難うございました。
                               以上

「地球に謙虚に運動」代表


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