5749.トランプは「王様は裸だ!」と叫ぶ少年



■トランプは「王様は裸だ!」と叫ぶ少年 
ー大統領選とその後の世界秩序ー
                       佐藤
●暴言により、トランプへの支持率が失速している。普通は大人の
知恵により自制しそうなものだが、攻撃スタイルで不動産王となっ
た成功体験がそれを阻んでいる。
●今後、本人の一部発言に対する反省、大規模な米国内テロの発生
、メール問題の再燃・展開等によるヒラリーの失点および健康問題
、暴言の中にあるリアリズムへの理解等の複合作用により、挽回す
る可能性は残る。
●大方の予想に反してトランプが大統領になれば、各分野で直感的
に「正しい」と思う方向に進む。外交ではプーチンのロシアとの事
実上の同盟を標榜する。日本はこの「米露同盟」に一枚乗るのが、
あるべき外交基本戦略となるだろう。
 
◆トランプ失速◆
比較的お行儀よくこなした共和党大会での大統領候補指名後、ご祝
儀相場もあったが、トランプへの支持率がヒラリーの支持率を上回
った。
そのまま、メール問題の再燃等のヒラリーの失点を待てば、選挙参
謀だったマナフォートの言う通り、本選挙勝利はそれ程難しいもの
ではないと思われたが、トランプは民主党大会で戦死した米軍将校
のパキスタン移民である両親の演説に過剰反応し一気に支持率を落
とした。
 
戦死者の家族への攻撃は、古今東西のタブーで、登壇させた民主党
側にどんな意図や目的が在ろうとも、受け止めて見せるのがお約束
事であり大人の知恵だが、自身の徴兵回避問題を蒸し返された部分
等に対しトランプは自制が効かなかったようだ。
保守系「国策指導新聞」であるウォールストリート・ジャーナル紙
も、一旦トランプ支持の論調に変わりかけていたが、これで踵を返
した。
 
◆裸のトランプ◆
反対派のアーティスト集団によるトランプ裸像が各都市に建てられ
ているが、トランプは、いわば「王様は裸だ!」と叫ぶ少年の側で
ある。
自身やそのビジネスへの非難を含め、不法移民、テロ対策、イラク
戦争、一連の中東民主化革命での米国の不首尾、誤解を含めてメキ
シコ、日本、中国との貿易不均衡等、主観的に「おかしい」と思っ
た事に対して、攻撃を緩めない。
これまで、直観と攻撃スタイルで不動産王となったビジネスでの成
功体験が、この手法への確信へと変えている。
 
映画監督のマイケル・ムーアが、「トランプは本当は大統領になん
かなりたくなく、よりネームバリューを上げ、ビジネスに使おうと
考えている。」と唱えている。
トランプの本選挙勝利への合理性を欠く言動を考えると、確かにさ
もありなんという気もするが、恐らくトランプが16日にウィスコン
シン州のテレビ局に対し下記のように語ったのが本心だろう。
「誰も彼もが『方向転換しなければならない』というが、私はそう
したくない。自分を変えたくない。ありのままでいるべきだ。もし
方向転換したら不正直になる」。
なお、トランプは本選挙敗戦後に備え、過激保守系メディアの立ち
上げも準備しているようだ。
 
◆本選挙の行方と世界秩序◆
さて本選挙の行方はどうなるか。
筆者も、現状(8月27日時点)では四分六でヒラリーが勝つと見る。
しかし、大方の予想のようにほぼヒラリーに決定とはせず、トラン
プに四分の可能性ありとする立場だ。
今後、本人の一部発言に対する反省、大規模な米国内テロの発生、
メール問題の再燃・展開等によるヒラリーの失点および健康問題、
暴言の中にあるリアリズムへの理解等の複合作用により、挽回する
可能性は残る。
 
仮にトランプが大統領になれば、各分野で直感的に「正しい」と思
う方向に進むだろう。
日本に関していえば、金融、為替、貿易政策により、大幅な円高、
関税引き上げにより輸出産業が大打撃を受ける可能性がある。
また、費用もしくは戦力で、より防衛負担を求めて来る。
 
亀井静香と石原慎太郎が、本選挙前にトランプに会いに行くと外国
人記者クラブで会見していたが、あの話はどうなったのか?その実
現性は不明だが、その意気やよし。
トランプ勝利の場合に備え、政府、各党、経済界、学会も事前に陣
営にアクセスして日本の立場の説明、働き掛けをすべきである。
 
外交においては、順当にヒラリーが当選すれば、オバマ外交の枠組
みのままである。その上で、自身の性格や、中国や軍産複合体との
柵から更に事態を悪化させる。
中東に於いては、尻も拭けないのに余計な介入を続けて行く。
また放っておけば、中露は「不信同盟」を深めて行く、そしてそれ
を後押しに今までは中国軍人の戯言だった太平洋の米中2分割論が現
実に近付いて行く。
 
トランプの場合はどうか。
このところの世界情勢では、トルコ、イランとの連携強化等、プー
チンの存在感が突出している。
トランプは、現状の言動の延長線で、プーチンのロシアとの事実上
の同盟を標榜するだろう。
これが、中露間に楔を打ち込み、米国が単独スーパーパワーから「
相対的スーパーパワー」へシフトして衰退を遅らせると共に、中国
とイスラムから牙を抜き新たな世界秩序を形成する唯一の道である。
普通に考えればそうなるが、トランプ以外の多くの米国知識層はそ
れに気付いていない。
もしトランプが実質上の「米露同盟」を目指しても、プーチンvs米
議会の図式は続く。
 
日本としては、ヒラリーが勝った場合は、米国の介入を受け流し、
中露の仲を裂くべく先回りしてプーチンのロシアに接近し、そして
トランプが勝った場合にはこの「米露同盟」に一枚乗ると共に後押
しするのが、あるべき外交基本戦略となるだろう。
 
                    以上
佐藤 鴻全


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