5746.中国・欧州関係の進展とその世界的影響



8月24日、ケント・E・カルダー博士の講演会を聞きに、いつもの
ように、虎ノ門の笹川平和財団に行ってきた。カルダー先生は、ジ
ョンズ・ホプキンズ大学ライシャワー東アジア研究所所長で日本研
究の第一人者であり、日本語も上手であるが、講演は、英語のよう
である。
(講演)
日米関係の専門家が、なぜ欧中関係を研究するかというと、日米に
大きく影響するからである。また、問題がある所を知るために現場
主義をとっている。

日米の今後を知るためには、グローバルな大変化を見る必要がある。
特に欧州は大きく変化していて、日米にもこの影響は波及する。
3週間、欧州の変貌を見てきた。東欧にも行ったが大きな変化があ
った。

問題を一番目に欧州を見て、二番目にユーラシアを見て、その後に
日米への影響を見たい。

1.欧州にどんな変化があるのか?
ソ連から東欧は離脱した後、中立化したが、その後にNATOに入
り、EUに加盟し、ユーロ圏になっている。バルト三国は、ロシア
の昔の首都であるサンクトペテルグルクまで200キロもない。国
境の近くに、皇帝の離宮がある。

NATOに東欧がほとんど加盟して、つい最近はモンテネグロまで
加入した。ウクライナもモンテネグロも西側になっている。ワルシ
ャワ条約機構の諸国のほとんどがNATOに加盟した。

しかし、この東欧は、ロシアのエネルギー依存度が高い。東欧は、
ロシア経済の影響を受けるが、安全保障上ではロシアと敵対してい
る。空や陸で軽い対立も出ている。

EUも拡大し、ユーロ圏も拡大している。バルト三国もユーロにな
っている。ユーロ圏は、ドイツとの関係が強くなる。

このようなEUとユーロ圏拡大で、地中海諸国の経済は縮小してい
る。ギリシャ、イタリア、キプロスなどが財政赤字。

ウクライナは政治危機になり、ユーラシアに影響を与えている。

このような東欧に中国が関係を強化しているのである。ロシアは、
中央アジア諸国と経済圏を作って、ルーブルを共通通貨としたが、
中国からすると、ロシアは通過国でしかない。

欧州と中国の関係では、地中海諸国に投資や貿易を拡大している。
東欧と地中海諸国に積極的な融資をしている。

2.ユーラシア
中印が近接している。中東のエネルギー依存度が高いのは、日本、
韓国、インドであり、中国はヘッジをして、アフリカやロシアの次
に中東である。中東との関係も強くする方向である。

上海から地中海までの距離の半分が中国国内であり、パイプライン
や鉄道も半分が中国国内での建設になる。一帯一路は国内の建設目
的でもある。

そして、温暖化で北極海航路ができて、欧州まで25日、11500キロ
であるが、スエズ運河経由に比べて、半分になる。

このような建設費を賄うために、AIIBを作り、欧州諸国は雪崩を打
って、AIIBに参加した。

Brexitで英国は変化した。メイ首相は原発プロジェクトへの中国の
融資を拒否した。しかし、人民元の国際化を英国は関わりたいので
、どうなるかわからない。

ドイツのメルケル首相は、8回も中国を訪問している。フォルクス
ワーゲンは中国での販売が大きい。このため、関係を強化している。

3.結論
欧州は本質的な変化をしている。EU拡大で28ケ国になり、調整
が難しくなり、脆弱性が増している。この隙に中国が欧州に食い込
んでいる。

これで、日本も大きな影響を受けている。日本はNATOとの会話
をすることが必要である。ロシアとも対話するべきである。もう1
つが、G7との関係を強化することである。G20は大き過ぎる。

中国と欧州の関係が強いことを考慮する必要にある。ソフトパワー
外交で、前向きに対応することである。

Q&A
Q1.米国は欧州と中国の接近でどう対応するのか?
A1.冷戦は終わった。パワー・ゲームをしない。制度など多層的に
、中国との関係を構築する。NATOと日本の関係を構築する。
柔軟な対応をすることになる。
Q2.米国は内向きになってきたと思うがどうか?
A2.トランプの反動が来ている。クリントンは、同盟を強化すると
言っている。
Q3.ロシア・プーチンはどうなるのか・
A3.新大陸主義で中東地域に行く。ソ連時代は人口が2.5億人いたが
ロシアでは1.3億人しかいない。このため、地政学的にも脆弱である。
そして、リカバリーも難しい。中国はロシアのことをジュニア・パ
ートナーという。
Q4.AIIBで欧中関係はどうなるか?
A4.大きな関係ができる。ADBとの関係も構築して金利も同じにする
と言っている。
Q5.中国の南シナ海や東シナ海での攻勢に、欧州はどのような行動を
とってくれるのか?
A5.まず、日本はベトナムとの関係を強化して、フィリピンなどに経
済援助をして、中国国内のナショナリズムをどう抑えるかを考える
ことも必要。ベトナム・フィリピンに軍事力を増強しておく。
アメとムチの関係を強化する。日中交流強化などもする。
欧州は関与しない。
このため、防衛技術が中国に行かないように気をつけてと日本は、
欧州に言うことである。ココムがなくなったので、軍事技術の流出
が起こる可能性が高い。
Q6.アメリカの立場、裁定が出た後、中国を非難しなくなったがどう
してなのか?
A6.米国は、非難が中国国内の政治問題、ナショナリズムを悪化させ
る可能性があると見て、止めた。ナショナリズムが嵩じると、南シ
ナ海での防空識別圏設定などを行う可能性が高くなる。しかし、事
前に始めた南シナ海自由航行などを行っていく。
Q7.欧州と中国の関係で日本がNATOと関係強化するというのは、幻想
ではないか?
A7.G7を通じて、技術的な面、サイバー攻撃への対応や知財権、人
権などをテーマにすればできる。このような分野で日米欧で基盤を
作り、地政学的なバランスを取るしかない。
米国も単独主義を捨てて、多元主義になってきている。

(感想)
日本が、対中関係でも難しい状態になってきたことを再認識した。


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