5715.非相互依存経済へ移行する世界と日本の役割



相互依存の経済中心主義から相互依存を否定した国家中心主義に、
欧米を中心として変化している。遅れてきた中国も古い国家主義で
、この2つの潮流が、相互依存の国際化を阻害することになる。
その検討。              津田より

0.英国のEU離脱
1990年代、ソ連崩壊後、世界の全ての国が市場主義経済になっ
たことで相互依存が進み、国家を意識しなくて済む国家連合やFT
Aの時代になっていった。その象徴がEUの統合であり、国家を無
くしてヨーロッパ全体が1つの国になると思われていた。

移民や難民もEU、特にドイツは受け入れた。人口増加が経済発展
には必要であり、労働人口が多いと、それだけ経済規模は増加する。
この移民を送り出すのが東欧であり、西欧はその受け入れ先であっ
た。また、難民は中東やアフリカからであり、その地域に、積極的
に欧州と米国は介入して、難民を生み出した。

言語や文化が違う移民、難民をドイツがEUに引き入れるために、
EUの国境を無くすシェンゲン協定により、難民や移民は、EUの
どこでも行けることになってしまった。

しかし、2010年からユーロ危機が起こり、ギリシャ危機になり
経済的な意味でもEUの限界が来ていた。EU統合の理想が崩壊し
始めたのだ。この原因は、ドイツの身勝手であるが、この解決のた
めに、ドイツはより統合のレベルを上げることを目指した。

この2つを各国民が難民拒否とアイデンティティが無くなると否定
的になり、各地で反EU勢力が台頭してきた。

この発展系が、英国のEU離脱であり、英国民は主権を取り戻すと
EUに反旗を翻した。しかし、英国のエリート層は、経済的な恩恵
は維持したいと、EUとの自由貿易圏を主張しているが、それはEU
側は拒否している。また、他国が離脱しないように、見せしめを英
国にするという主張もある。

1.新しい時代へ
EUは、強度の相互依存の経済圏であり、英国のロンドン金融街は
、EU全体のハブであったが、ここにある金融機関が大陸に、本店
や支店を移動させることになる。国家と経済のどちらを取るのかの
選択を欧州各国国民は迫られている。

同じ動きが、米国でも起きて、トランプ大統領候補もクリントン候
補もTPP反対と言って、4年もかけて合意に達した自由貿易圏を
批准しないという。トランプ候補は日米安保やNATOも米国の役
割を大幅に削減するとしている。

このように相互依存の世界経済は危機になってきた。経済的には損
でも、国民感情的な傾向に国家は従うしかないのである。

新しい時代が始まったと言うしかない。経済より国家という流れで
ある。

2.中国の経済
もう1つの動きが中国経済であり、中国国内の供給が国内需要の数
倍もあり、この輸出先を拡大するために、一帯一路と国際化のよう
な戦略を出してきた。しかし、この戦略は一方向であり、中国から
世界に商品を出すことであり、相互依存の考え方はない。また、中
国に進出した企業を追い出す方向に中国は政策を変化させている。
というように中国中心の貿易輸出主義という一時代前の国家主義経
済である。

この輸出のために、アジアやアフリカのインフラを整備するとした
のが一帯一路であるが、そこに需要が存在しないのに整備しても、
運営会社が赤字になるだけである。中国の鉄道公団も全国を走る高
速鉄道は大幅な赤字になっている。

相互依存的な経済ではないので世界との協調が必要ではなく、国内
対策として、習近平政権は南シナ海の海洋権を自国のものであると
主張して、領土拡張を志向している。

というように、国家主義であり、欧米の国家主義と同様なことにな
っているが、歴史的には周回遅れである。その分、軍事的な圧力を
増している。ということで第2次大戦前夜のドイツとよく似ている。

しかし、2つの国家主義は、相互依存を否定して、ぶつかるとそこ
は軍事衝突になる可能性がある。

3.日本の位置づけ
欧米も中国も国家主義になっているのに、日本は欧米の今までの相
互依存的な国際化を進めている。観光客をアジアから大量に招き入
れて、観光鎖国をしていた状態から開放に向かい、労働不足が起き
ていることから、移民も受け入れる方向になってきた。

日本の農産品が差別化されていることが分かり、輸出できると自信
を持ち、TPPも当初は反対したが、今では反対がない。今度の参
議院選挙でもTPPを反対する政党がない。

どうも、日本は欧米とも中国とも違う世界的な位置にいることが分
かる。世界的な寛容さがなくなりつつある世界に、日本の存在は、
大きな意味を持つ。

国を開くということを、積極的にし始めたことで、日本文化が世界
に認知されてきている。日本料理、共生的な社会構造、安全重視の
法令と秩序重視の社会、正確な時間管理、職人の技術中心主義、貧
富の差が少ない社会などが知れ渡ってきた。

しかし、ここに移民を入れたら、社会構造が変化して日本の良さが
無くなると主張している保守系の人達がいるが、観光の開国でも、
犯罪が多くなり日本が変化すると騒いだが、その犯罪率はそれほど
には上がっていない。これと同じである。

今や、日本よりシンガポールなどの方が賃金が高いので、高い賃金
だけの理由で移民するなら、シンガポールの方が旨みが大きい。日
本の文化が知りたいとか、日本の技術を知りたいとかの志向がない
と、日本には来ない。

労働不足になり、潜在経済成長力はゼロかマイナスになってきたの
で、このままでは日本は衰退して、社会保障も構造改革もできない
状態になる。

もう1つ、移民受け入れは、受け入れ国を選ぶことが出来る。FTA
などを結び、輸出などの経済的な特典と引換にすれば良いのである。

ということで、日本は相互依存が減少する世界で、唯一、相互依存
を拡大する国家になる。相互依存拡大で国際化することで、人・金
・物が東京などに集まることになる。

金融機関や世界的な企業が集まることになり、その投資で日本は活
気づくことができる。隠していたジョウカーを、もう1枚、出すこ
とになるのだと思う。

さあ、どうなりますか?

参考資料:
From Brexit to the Future
https://www.project-syndicate.org/commentary/brexit-future-of-advanced-economies-by-joseph-e--stiglitz-2016-07

Globalization’s Political Fault Lines
https://www.project-syndicate.org/commentary/globalization-political-fault-lines-by-nouriel-roubini-2016-07


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離脱派の勝利で激動するイギリスの今
2016年07月07日(木)15時30分NWJ
<国民投票でEU離脱派が勝利して以降、イギリスでは日々政治情
勢が激変している。一方で、離脱が多数派だったイングランドを心
が狭いと非難する声が上がったり、EUを代弁するパッテン卿が国
民投票の結果を恐ろしいことだと語ったり......>
 イギリスには、「政治に1週間は長い」という言葉がある。政治
においては1週間あれば激変が起こり得る、という意味だが、この
言葉が今ほど当てはまる時はないだろう。
 僕は以前、面白いマンガを目にした(ここで紹介したかったがネ
ット上では見当たらなかった)。僕の記憶が正しいなら、2人の学
生が出てきて、1人が相手にこう言う。「僕は政治学コースを受講
している。扱う時代は、木曜午後から金曜夜までだ」
......野暮な解説でこのジョークの面白みを台無しにするのはやめ
ておこう。
「イングランド人は偏狭」という難癖
 ここのところ、「リトル・イングランダー」について語られるこ
とが多い。この言葉はつまり、EUからの離脱に投票したのはイン
グランドの人々ばかりであり、彼らは心の狭い外国人嫌いの連中だ
、と暗に示しているらしい。
 ウェールズでも離脱票が多数を占めたのは重要な点なのに、「リ
トル・ウェールザー」などという言葉は耳にしたことがない。離脱
票は北アイルランドとスコットランドで少数派だったが、圧倒的な
敗北というわけではなかった(離脱派は北アイルランドで44%、ス
コットランドで38%)。でも明らかに、離脱票イコールイングラン
ド人特有の病理、と決めてかかるほうが都合がいいらしい。
 僕が何より驚いたのは、「リトル・イングランダー」の本来の意
味を誰も思い出していないように見えること。元々は、19世紀の帝
国主義に疑念を唱える人々を指して作られた言葉だ。イギリス史上
最も偉大な指導者の一人、ウィリアム・グラッドストーン元首相も
含まれる。
 リトル・イングランダーは反帝国主義者で、迅速に統治できる国
家を望み、それによってイギリス経済も改善すると考えていた。つ
いでに言えば、帝国のおかげで能力に関係なく快適な閑職に就ける
貴族の子息たちに、怒りをおぼえてもいた。
 時々僕は「現代版リトル・イングランダー」を自称すべきだと思
ったりするが、おそらく周りの人からは正しい意味で捉えてもらえ
ないだろう。
EUの代弁者パッテン卿
 僕は日本の読者数人から興味深いメールをもらった。1つは特に
思慮に富んだもので、そのうちにでもぜひ返答したくなるような質
問が書かれていた。ほかに、クリス・パッテン(以前にこのブログ
で紹介した、ブレグジット国民投票自体を認めようとしない残留派
の有名政治家だ)が日本のメディアに登場していたことを教えてく
れたメールもあった。彼は、EU離脱を決めた日が、イギリスにと
ってなんと恐ろしい日であったかと述べていた、と。
 僕はパッテンのその記事を読んだ。そして、以前のブログで紹介
した、頭にくるパッテンの記事のときと比べると、離脱派に対して
失礼な感じはやや薄まっているように感じた。もしかしたら、以前
にブログで書いたときには、僕のほうがパッテンに対してトゲトゲ
していたのかもしれない。
 でもその後、パッテンがEUからけっこうな額の年金を受け取っ
ていることを知った。しかもその年金は、彼がEU批判を口にしな
いからこそもらえるものらしい。解雇された社員が時に企業との間
で結ぶ「非難禁止条項」みたいなものだ。もちろん僕は、パッテン
が自身の年金のためだけに離脱派を罵っていた、などと言うつもり
はない。彼はきっと、イギリス政府は国民をかえりみるのではなく
、ブリュッセルのEU本部のエリートたちの言いなりになったほう
がいいと、心底信じているからこそあんなことを言っていたのだと
思う。
 それにしても、そんな条項を結ぶとは、EUはなんと被害妄想で
支配したがりの組織だろうか。
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何が欧米でポピュリズムを台頭させているのか
2016/07/09FAJ
ヨーロッパでなぜポピュリズムが台頭しているのか。既存政党が政
策面で明らかに失敗していることに対する有権者の幻滅もあるし、
「自分たちの立場が無視されていると感じていること」への反動も
ある。難民危機といまも続くユーロ危機がポピュリズムを台頭させ
る上で大きな役割を果たしたのも事実だ。(ブローニング)
今回の国民投票がヨーロッパプロジェクトを解体へ向かわせる一連
の動きを誘発することになるかもしれないが、一方で、ブレグジッ
トの政治・経済・社会コストがイギリスにとって非常に大きなもの
になり、他のメンバー国がEUからの離脱を問う国民投票の実施を
躊躇うようになる可能性もある。(マコーミック)
グローバル化が「有権者が政府に対して望むもの」と「政府が提供
できるもの」の間のギャップをますます広げ、政府は人々の要望に
応えられなくなっている。政府の行動を、グローバル市場の現実、
恩恵をより公平に分配することを求める大衆社会の要望に適合させ
るとともに、痛みと犠牲を分かち合えるものへと変化させていく必
要がある。(クプチャン)
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中国の外交政策:造った者が支配する
2016.7.8(金)  The Economist
(英エコノミスト誌?2016年7日2日号)
中国の外交政策は世界経済の大きな部分を変える力を秘めている。
かつて中国の商人を中央アジアや中東、アフリカ、さらには欧州の
商人と結びつけた巨大な交易ネットワークのシルクロードは、戦乱
のために利用できない時代が数百年間続いた後、紀元7世紀になって
最初の復活を遂げた。
中国の習近平国家主席は、この時期が「パックス・シニカ(中国の
支配下での平和)」の黄金時代だったと考えている。当時は、中国
製の高級品を欲しがる人が世界各地におり、シルクロードは外交面
や経済面で勢力を拡大するための通り道になっていた。
シルクロードという名称自体は19世紀にドイツの地理学者が考案し
たものだが、中国はこれを大喜びで受け入れた。習氏はこのシルク
ロードと、それに付随していた栄光を復活させたいと考えている。
現代のシルクロードを行き交うのは、幌馬車やラクダではなくクレ
ーンと建設作業員だ。今年4月には中国の海運会社、中国遠洋海運集
団(COSCO)がギリシャで2番目の大きさを誇るピレウス港の権益を
67%取得した。このピレウスからはハンガリーに至る高速鉄道網が
ほかの中国企業数社によって建設中で、ゆくゆくはドイツとも結ば
れる。
パキスタンでは、中国が設計した原子炉の建設工事が7月から第3段
階に入る。パキスタンについては、中国が大規模な高速道路の建設
資金を提供したり、タール砂漠の炭坑に20億ドルを投じたりする計
画を先日発表したばかりだ。実際、中国が今年の1月から5月にかけ
て外国と交わした契約のうち、半分以上はシルクロード沿いの国々
がその相手になっている。中国の近代史においては初めてのことだ。
建設作業員の背後では、政治家たちが負けないぐらい忙しく働いて
いる。習主席は6月にセルビアとポーランドを訪問し、数々のプロジ
ェクトをばらまいてからウズベキスタンに飛んだ。6月末にはロシア
のウラジーミル・プーチン大統領が北京に立ち寄り、習氏とモンゴ
ル大統領との3人で、それぞれの国のインフラ整備計画を新シルクロ
ードにリンクさせることを約束した。またこの時には60カ国近くの
財務相が北京に集まり、こうしたプロジェクトに資金を融通すべく
設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の第1回年次総会を開い
ていた。大きな音をたてながら駅を出ていく蒸気機関車のように、
中国最大の外交経済政策はゆっくりと勢いをつけつつある。
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中国事業、56%が「困難」
欧州企業、改革停滞に失望
2016/7/6 16:40
 【北京共同】北京の欧州連合(EU)商工会議所は6日までに、中国
に進出した欧州企業のうち56%が、中国事業の困難さが増したと見
ているとの調査結果を公表した。中国の景気減速や経済改革の停滞
への失望を背景に、昨年の調査と比べ5ポイント上昇した。
 同会議所は、外国企業に対する市場開放を加速するよう中国政府
に求めている。
 今年中国で事業拡大を検討していると答えた企業は47%にとどま
り、昨年より9ポイント低下した。近い将来に中国で研究開発を強化
する方針だという企業も、13ポイント減の72%だった。
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ビデオニュース・ドットコム2016年07月02日 19:55BLOGOS
イギリスのEU離脱で世界はこう変わる
イギリスの国民投票によるEU離脱は、世界の民主主義の在り方を根
底から変えるかもしれない。
 イギリスは6月23日に行われた国民投票で、EU(欧州連合)からの
離脱を選んだ。予想外の事態に、直後から市場はパニックに陥り、
世界経済への長期的な影響は計り知れないとの指摘が根強い。
 世界5位の経済規模を持つイギリスが、長い歴史を経てようやく統
合を果たしたEU市場から離脱することの市場への影響や経済的な損
失は当然大きい。また、それがEUの将来に暗雲を投げかけているこ
とも確かだろう。
 しかし、もしかすると今回のイギリスのEU離脱、とりわけ国民投
票という直接民主主義による意思決定は、これから世界の民主主義
が根底から変質していく上での大きな分水嶺として、歴史に刻まれ
ることになるかもしれない。
 人、モノ、カネが国境を越えて自由に交錯するグローバル化が進
み、世界中で貧富の差が拡がる中、これまで民主主義と一体になっ
て進んできた資本主義の原則を優先する政治に不満を持つ人の数が
増えている。グローバル化は総体としては世界をより豊かにしたが
、その過程で中間層を没落させ、われわれの社会を一握りの富裕層
と巨大な貧困層に分断した。そのプロセスは今も続いている。
 そのような状況の下で国民投票のような直接民主主義的な意見集
約を行えば、数に勝る貧困層の意見が優勢になるのは時間の問題だ
った。そして、それがグローバル化によって現出した現状に対する
強烈な拒絶反応になることも。
 EUやイギリスの政治史に詳しく、今回の国民投票を現地で調査し
てきた国際政治学者の遠藤乾・北海道大学大学院教授は、EUに主権
を握られていることに対するイギリス国民の不満が予想した以上に
強かったと指摘する。今回の国民投票結果の背後には移民に対する
不満があることは広く指摘されているが、これは現在のイギリス政
府が好き好んで積極的に移民を受け入れているのではない。EUに加
盟している以上、域内の人の移動の自由を保障しなければならない
というEU縛りがあるのだ。国民の多くが不満を持つ移民受け入れ政
策に対して、イギリス政府は事実上、自国の政策を選択する主権を
有していない。EU本部が置かれたベルギーのブリュッセルで決めら
れた政策に縛られ、その影響を受けることを理不尽に感じるイギリ
ス国民が多いのは当然のことだった。
 元々EUは発足当初から、加盟国の主権を部分的に制限してでも、
統一した市場を維持することが、アメリカや他の地域に対してヨー
ロッパ諸国が優位に立つことを可能にし、結果的にそれが各国の利
益に繋がるという前提があった。しかし、その後、旧東欧諸国の多
くがEUに加わり、今やその数は28カ国にまで拡大している。加盟国
間の格差は広がり、イギリスの場合もポーランドやリトアニアなど
の旧共産圏の国から大量の移民が流れ込むようになった。ピューリ
サーチによる世論調査でも、旧東欧圏の新たに加盟した貧困国では
EUに対して好意的な意見が多い一方で、イギリスやフランスなどそ
の負担を背負う側の国では、EUへの支持が年々低下していた。
 アメリカでは、メキシコ移民に対する不満をぶちまけることで白
人労働者層の支持を集めた不動産王のドナルド・トランプが、共和
党の大統領候補になることが確定しているが、その支持層は今回の
イギリスの国民投票でEU離脱を選んだ層と多くの点で共通している
。イギリスの国民投票の結果についてトランプはすかさず、「イギ
リス国民は政府を取り戻した」と、これを讃える声明を出している。
 今回のイギリスの選択は、近代国家を支えてきた民主主義と国家
主権、そして資本主義のトリアーデ(3つの組み合わせ)が、同時
に成立しなくなっていることを示しているのではないか。イギリス
では資本主義的な利益を度外視してでも、主権を取り戻すことが重
要と考える人が過半数を超えた。今後、格差が拡がりつつある日本
でも、イギリスやアメリカで起きている現象とは無縁ではいられな
いだろう。日本でその矛盾がどういう形で顕在化するかについては
、今後注視していく必要がある。
 イギリスのEU離脱という選択がわれわれに突きつける課題につい
て、イギリスの国内事情やEUの歴史などを参照しながら、ゲストの
遠藤乾氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真
司が議論した。
遠藤乾 北海道大学大学院教授
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極右が嫌う移民こそが、オーストリアを救う
経済停滞と政情不安招いた元凶は人材不足だ
ダリア・マリン :独ミュンヘン大学教授2016年07月02日TK
5月、オーストリアの大統領選挙で極右政党「自由党」の候補が僅差
で敗れた。この結果について自由党は今も異議を唱えている。
自由党は多くの民衆の支持を集めており、欧州政治や難民危機への
対応について、不安をあおる主張を繰り返している。重要なのは、
何がオーストリアにとっての病かを正確に診断することだ。さもな
ければ、治療しても病がさらに悪化する事態になりかねない。
オーストリアはかつて欧州でも有数の経済成長を遂げた。しかし2012
年以降の同国経済はまるで線香花火のように消えかかっている。15
年のGDP(国内総生産)成長率はわずか0.7%。これを下回る国は欧
州でギリシャとフィンランドだけだ。一方で失業率は10年の5%から
今では10%にまで上昇している。
 オーストリアの繁栄の源泉を理解するには、過去に同国がいかに中
欧や東欧の諸国と関連が深かったかを見ていく必要がある。まず欧
州連合の東方拡大政策の恩恵を受けた。その際、オーストリア企業
は東欧諸国へ重点的に投資を行ったのだ。企業のみならず銀行も進
出し、融資を実行。これらは事業として奏功し、自国の経済成長に
つながった。
人材の欠乏が成長を減速させた
しかし、その勢いも長くは続かなかった。原因は人材にあった。中
欧や東欧諸国は国民1人当たりの収入は少ないが、優れた専門知識を
有する人材を多数抱えている。一方、オーストリアは比較的豊かだ
ったが、専門知識のある人材に乏しかった。1998年時点で中・東欧
諸国における学位取得者の割合は全国民の16%だったのに対し、オ
ーストリアのそれは7%だった。
そこでオーストリアの企業は、東欧に投資する際、専門性の低い製
造業は移転せず、専門性の高い部品の製造業を同地域へ移転させ、
研究開発も同地域で行った。
私の調査では、90年から01年までオーストリア企業の東欧における
子会社で雇用された学位取得者の数は、親会社の5倍に上った。
オーストリア企業の子会社がもたらした研究開発の成果で、東欧諸
国は急速な経済成長を遂げた。現在、オーストリア企業の多くの子
会社が立地するブラチスラヴァ、プラハ、ワルシャワといった都市
の住民1人当たりの収入は、ウィーンよりも高い。ある調査によれば
、08年にこの3都市は、購買力平価でウィーンを上回ったという。何
世紀もの間、これらの都市がウィーンを基準にしていたことから考
えれば、目覚ましい発展といえる。
一方、皮肉なことに、専門性の高い製造業が外国へ流出したオース
トリアの経済成長は減速した。
ドイツとの違い
ドイツ経済にオーストリアのような傾向は見られない。これには3つ
の要因がある。まず共産主義の衰退後、オーストリアは対外直接投
資先をほぼ東欧に絞ったが、ドイツの対外直接投資で、東欧に移っ
たのは一部にすぎなかったことだ。
2つ目の要因は、ドイツは専門知識を有する人材を多く抱えていたこ
とだ。98年時点で、ドイツ国民の学位取得者の割合は15%と、オー
ストリアの倍以上だった。
3つ目の要因は、東欧に進出した多くのオーストリア企業が外国企業
の子会社だったのに対し、ドイツ企業の多くは、ドイツ人が主体の
多国籍企業だったことだ。オーストリア企業は東欧の環境に事業を
適応させ、現地人を要職に就かせた。一方、ドイツ企業は中欧、東
欧の子会社に自社の企業文化を移植し、ドイツ人を多く要職に就か
せた。その結果、自国の成長につながったのだ。
オーストリアがかつての成長を取り戻すには、まず企業が優れた人
材を確保しなければならない。その育成には時間がかかるが、移民
という選択肢もある。オーストリア国民は、極右政党が非難した移
民政策こそが、経済復活の希望となりうることを認識すべきであろ
う。
(週刊東洋経済7月2日号)



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