5709.ドイツ帝国完成が悲劇の始まり



ブレグジットにより、英国が抜けてEUの支配権を完全にドイツが
握った。第2次大戦の戦争ではドイツは欧州を支配できなかったが
、平和の構築というEUにより支配できたことになる。しかし、こ
のことが今後、大きな悲劇になる可能性が出てきた。その検討。
                 津田より

0.英国の離脱でドイツの支配権確立
英仏独の3国のパワー・バランスで、EUは運営されてきた。この
中から英国が離脱すると、EUの中心はフランスとドイツであるが
、パワー的にはドイツが優勢になり、ドイツの意見が通り、ドイツ
の支配権が高まる。

これは、ドイツ帝国、神聖ローマ帝国の復活を夢見たヒトラーの夢
が実現できたことになる。戦争で得られなかった欧州を、平和の構
築という理想で欧州の支配権を手に入れることになったのだ。

しかし、このドイツの支配権が確立すると、ドイツの我が儘が明確
化することになる。安いユーロ通貨で輸出して経済的な恩恵を受け
ながら、総体的に高いユーロ通貨で、輸出ができないその他の国を
支援しないことや財政的な制限を設けて経済的発展ができない状態
にするため、ドイツ以外の国では不満が増すことになる。

英国はユーロ通貨を採用せず、ドイツの通貨支配権がなかったので
いいとこ取りの経済発展してきたが、その英国が最初に離脱したこ
とで、他の国はより一層の離脱思考になるようだ。

フランスやオランダなどでは、極右政党が勢力を増している。イタ
リアでも同様である。しかし、東欧は、移民を送り出し本国送金や
ドイツ企業の工場進出で潤っているので離脱はないが、南欧などで
は労働賃金が、相対的に東欧より高いので工場の進出もなく、ユー
ロの通貨高でのマイナスが出ていることで離脱思考になる。

ドイツが対応を誤ると、離脱の方向に南欧などのEU諸国が向かう可
能性が否定できない。このため、EUの多様化を推進して、次の離脱
を防ごうとしているようである。

しかし、英国の離脱は、金融危機を伴う経済的な混乱を起こす可能
性がある。

1.ソロスの行動
著名投資家ジョージ・ソロス氏は、欧州議会で演説して、英国のブ
レグジットは、金融と難民の2つの迫り来る危機を悪化させるとし
た。

そして、ソロスは、24日のブレグジットでドイツ銀行株の大量空
売りを仕掛けたようである。この行動からブレグジットの次の焦点
が、ドイツ銀行のデリバティブ取引の損害やハイブリッド証券の暴
落などに市場関係者の関心は移っている。なんせ、ソロスが現役復
帰して、その最初にドイツ銀行の大量空売りであるから、これは大
変である。

ポンドの暴落で、デリバティブ取引で大損をした可能性がドイツ銀
行にはあるのではないかと見ているようである。

デリバティブの市場規模は巨大だが、証券取引所などの公開市場を
介さない取引が主流である。当事者同士が相対で取引を行うデリバ
ティブのことを「店頭デリバティブ」と呼ぶが、店頭デリバティブ
の取引残高は493兆ドルに上る。

店頭デリバティブ取引の主役は、米シティグループやJPモルガン・
チェース、ドイツ銀行などの国際金融グループである。

ドイツはファンダメンタルズの面で、先進国の中で最も良好とされ
ているが、そのドイツの株式市場が暴落した。

その理由について、「ドイツ銀行に対する漠然たる不安」を挙げる
声が少なくない。ドイツ銀行株は、リーマンショック後の最悪期よ
りも割安になっている(6月29日付ブルームバーグ)。ドイツ銀行が
保有するデリバティブの残高が巨額であることに加え、レバレッジ
比率(企業の自己資本に対する有利子負債等の割合)が47倍と高い
(世界大手金融機関のレバレッジ比率の平均は24倍)と推測されて
いるからである。

デリバテイブを扱う大手金融機関に巨額損失が発生している可能性が
高いが、デリバテイブの多くは数カ月後に満期を迎える。このため数
ヶ月後に巨額の損失を抱えた金融機関がハイブリッド証券のトリガ
ー発動に追い込まれるのではないかとの観測が高まるようだ。

また、ドイツ銀行と英国の銀行は同様である。そして、銀行が発行
した偶発転換社債(ハイブリッド証券)のパニックによりリーマン
ショクと同様な金融恐慌が起きる可能性が出ているようである。

そこに目をつけて、ソロスは勝負を仕掛けてきたのかである。

リーマンショック時、その危機を回復させたのは、シェールオイル
企業と中国であるが、その2つともに、現在、調子が良くない。

英国離脱で石油価格が下落して、シェール企業が大量に発行してい
るジャンク債の恐怖指数が急上昇しているし、中国の工業指数は、
50と、ここ数年の最低になっている。

2.自由主義経済の終焉
英国の離脱や米国のトランプ氏が大統領候補になるなど、経済合理
や今までの寛容を基礎とした自由主義とは違い、人種差別やナショ
ナリズムで理念や経済合理性ではなく、国民感情で動く政治になっ
てきた。

英国EU離脱で、最初の国民感情での動きが金融破綻に結びつき、そ
の金融危機で、経済的に苦しくなり、次のナショナリズムの動きが
出てくることになる。

特に、日本にとっては、中国が危険な感じがする。

金融危機になれば、経済的に苦しくなるので、フランスやオランダ
でもEU離脱派が選挙に勝利する可能性も出てくるし、中国の民衆が
騒ぐので、習近平政権も国内対策としての南シナ海、東シナ海の紛
争を起こす可能性もある。特に7月上旬に国際仲裁裁判所の判断で
、中国の南シナ海権益を無効とすると、中国国内の反発で、大変な
ことになる。

まるで、1930年代から1945年の繰り返しを世界は演じてい
るような感じになってきた。

経済的な相互依存を、国民感情がナショナリズムの感覚で破壊して
、その破壊でより経済的に厳しくなり、その厳しさで、ナショナリ
ズムがより沸騰してしまい、戦争という手段に出てしまうことにな
る。

富者が、貧者の配分を減らし富者の配分を増やしたことで、貧者が
経済合理性を無視した反乱をして、その反乱で経済的に苦しくなり
、特に貧者が苦しくなり、より大きな反乱を企てることになるよう
だ。その行き着く先が戦争ということになる。

益々、イヤな感じになってきた。

さあ、どうなりますか?

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ドイツはEUを「監獄」のようにしてはならない
英国を離脱させてしまったEUの問題点とは?
唐鎌 大輔 :みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 
2016年07月02日TK
国際金融市場を揺るがせた英国のEU(欧州連合)離脱(Brexit)決
定から1週間が経過した。6月28〜29日に開催されたEU首脳会議では
、初日こそ英国のEU離脱時期に関する話し合いが28か国で行われた
ものの、2日目となる29日は英国抜きの27か国で議論が行われた。英
国抜きのEUが動き出した歴史的な日でもある。
初日会合では、離脱通知は9月以降に先送りする方針で合意されてい
る。キャメロン英首相が9月に辞任し、9月9日に後任が確定するとい
うスケジュールのため、もはやキャメロン首相とEUが交渉する意味
はなく、先送りは不可抗力だ。だが、これが英国がEUへ通す最後の
わがままとなるかもしれない。採択された共同声明では「(通知は
)可能な限り早く行われるべし。通知前のあらゆる交渉は有り得な
い」と明記され、「早く出ていけ。問答は無用」というメッセージ
がクリアに示されている。
次回のEU首脳会議は27か国で、9月16日、ブラチスラバ(スロバキア
)で実施されるが、その頃には新しい英首相とEUが既に顔合わせを
済ませているだろう。
「脱走者」と形容された英国
なお、上記の声明文からでも十分伝わるが、離脱決定から1週間で見
られた、EU高官の発言を見ると、メルケル独首相は「(Brexitの)
決定を覆す道はないと断言したい」、「離脱を望む国は、特典を維
持しながら責任を回避できると期待すべきではない」と述べ、ユン
ケル欧州委員会委員長は「脱走者が歓迎されることはない」と英国
を脱走者と表現した。筆者の事前想定通り、EUは離脱ドミノへのけ
ん制という意味から、極力英国には「見せしめ」になって欲しいと
いうスタンスを貫きそうである。
ちなみに国民投票自体に法的拘束力はなく、制度上は政府も議会も
決定を無視できるという解釈に立って再投票を求めるムードがある
ことも取り沙汰されている。しかし、EU首脳会議後、キャメロン首
相が「後悔していない。英国民の判断は受け入れられなければなら
ない」と述べ、メルケル首相も上述のように「断言」していること
を見るにつけ、その可能性はほぼゼロなのだと思わざるを得ない。
そもそも本気で離脱票に投じた層には、結果が出て怖くなったから
国民投票をやり直すという行為自体が民主主義に対する愚弄と映る
はず。Brexitの本質的なテーマが、ブリュッセル(≒EU本部≒欧州
委員会)から「自分たちの民主主義」を取り戻すことであった点を
踏まえれば、国民投票の無視は本末転倒である。希望的観測として
一縷の望みを抱く気持ちは正直筆者にもあるが、期待すべきもので
はないのだろう。
離脱が覆らないとの前提に立てば、今後、両者の「新たな関係」構
築に向けて対英交渉に臨むEUはこれまでの優柔不断で決定力に欠け
るEUとは一味違うはずだ。EUはギリシャも、アイルランドも、ポル
トガルも、キプロスも、危ない時には不承不承ながらも必ず助けて
きた。それは彼らがEUの一員であり、また共通通貨圏の一員でもあ
ったからだ。EUでも共通通貨圏でもなく、しかも発足以来手心を加
えてきた相手から恩を仇で返されて、よい気分がするはずがない。
ユンケル欧州委員会委員長の「脱走者」という比喩がEUの本問題に
対する基本認識を最も端的に表している。
両者の「新たな関係」を巡る交渉は新たな英首相の下で9月以降に行
われることになるが、残された選択肢はほぼ見えている。結局は英
国がEUからいかにメリットを分けてもらうかしか争点はなく、EUは
常に優位な目線から交渉を進めるだろう。英国から何か差し出せる
ものがあれば、交渉も一進一退の様相を呈しようが、両者の実力が
伯仲していない以上、「交渉」というよりも英国からEUへの「懇願
」にしかならない。
「奥の手」まで使ってしまった英国
こうしてみると英国とギリシャの違いを感じずにはいられない。国
内銀行部門が青息吐息になりながらもギリシャが今でもEUやIMF(国
際通貨基金)に対してぶしつけな態度を取れるのは、「ユーロ圏か
らの離脱」というカードを持っているからである。英国も「EUから
の離脱」というカードを持っているうちは、2月に合意したEU改革案
に代表されるように自己主張を通すことができた。だが、このカー
ドはもうない。現状の英国とギリシャの立ち位置を比べると、「奥
の手」は最後まで見せてはならず、見せるならばさらに「奥の手」
を持たなければならないという交渉の本質がよく分かる。
「BrexitはRegrexit(後悔の離脱)」という言葉も流布し始めてい
るように、離脱派には勝利した後の青写真がなく「奥の手」はなか
った。それどころか事前に提示してきた離脱後の公約を早くも撤回
する動きすら見られ始めた。交渉によって英国が得られる果実はあ
まり期待が持てそうにない。
結局、キャメロン首相が党内の支持基盤固めのために国民投票へ打
って出たことは、超ハイリスク・ローリターンのギャンブルに過ぎ
なかった。仮に残留派が勝っても、これほど世論が分断しているこ
とを明らかにしてしまっては、それによって支持基盤が固まったの
かどうか怪しい。そう考えると、そもそも賭けとして成立すらして
いなかったようにも思えてくる。
一方、キャメロン首相の博打が責められるのは当然にしても、EUに
反省の余地はないのか。周縁国の債務問題で金銭的負担を強いられ
つつも、ユーロという「永遠の割安通貨」によって荒稼ぎし、その
上で共同体への利益還元に消極的なドイツの教条主義的な政策運営
は今や欧州を超え、G20など国際経済外交の場でも摩擦を引き起こし
ている。これがBrexitの遠因となった側面は無視できない。英国を
脱走者と名指しすることに違和感はないが、脱走させてしまうよう
な「酷な環境」を作ってしまったことについての自省は必要である。
例えば移民問題は今回、離脱派勝利の最大のポイントになったと言
われる。特に、5月26日に英国政府統計局(ONS)が公表した英国へ
の移民純増数は、2015年12月までの1年間で33万人に達したというも
ので、これが、離脱派にとって強い追い風になったといわれている。
この点、「EU経済の低迷→失業者の増加→英国への移民増加」など
の経路も相応にあったであろうことを踏まえれば、EUとりわけユー
ロ圏の経済・金融政策運営とBrexitの因果関係を議論する声はもっ
とあってもよいかもしれない。
ユーロフォリア崩壊の尻拭いに英国は嫌気
実際、2000年初頭から増え始めたEU域内から英国への移民は債務危
機が深刻化した2009年以降に急増している。
ユーロフォリアと言われた2000〜07年の時代、南欧諸国はユーロ導
入に起因する為替リスクプレミアムの消滅を契機に低金利環境を満
喫した。その結果、何が起きたのかに関し、もうここで改めて説明
する必要はないだろう。元より通貨ユーロを使っていない英国がこ
うしたブームの尻拭いをさせられていると錯覚してもさほど不思議
なことではない。
また、ユーロ圏の失業者数を見るとリーマンショック後の2008年末
に約1200万人だったものが2015年末は約1740万人(欧州委員会予測
)であり、差し引き約540万人の雇用が失われたままである。この点
、完全雇用状態にある日米の雇用市場とは彼我の差を感じる。こう
した失業者がユーロ圏外にあってEU最大の経済大国である英国を目
指した可能性は容易に想像がつく。
ユーロ圏の経済・金融情勢の低迷とその後の事態収拾のまずさが英
国への移民増加につながった側面はなかったとはいえない。この点
、離脱派の主張にもうなづける部分はあった。とはいえ、英国への
移民に関しては、依然としてEU域内からよりもEU域外からの方が多
く、「移民≒EU」という離脱派の主張はミスリーディングな部分が
あるのも事実である。英国がEUから離脱してもEU域外からの移民が
減る理由にはならない。
よく指摘されているように、そもそも英国がEUに入ったのは経済的
恩恵を被るためであり、政治統合の理想までを共有していたわけで
はなかった。EUの前身となる欧州共同体(EC)に加盟申請を行い、
実際に加盟した1960〜70年初頭は、英国病と揶揄されるほど同国の
景気が低迷していた時代であり、欧州との連携強化が景気の底上げ
に寄与するとの思いがあったといわれている。だからこそ、1975年
に実施されたEC残留の是非を問う国民投票では残留派が離脱派にダ
ブルスコア(残留:67.2%、離脱:32.8%)で勝利することができ
た。
具体的には、加盟や国民投票があった1970年初頭から半ばにかけて
は1人当たり名目GDPで見たEUと英国の経済格差は史上類を見ないほ
ど拡大していた。経済的メリットを念頭に欧州の一員に残るという
選択は至極妥当な結論だったといえる。こうした「EU>英国」とい
う構図は1997年頃に至るまでは辛うじて維持された。
だが、2000年を手前にしてこの両者の関係は逆転し、今日に至るま
で「英国>EU」の構図が定着するようになった。この間、欧州債務
危機を経て、欧州安定メカニズム(ESM)や欧州銀行同盟など大掛か
りな汎欧州的枠組みが次々と生まれ、必然的にブリュッセルやフラ
ンクフルトがEUの経済・金融政策において一段とプレゼンスを拡大
した。これが英国の不満につながった側面もある。
荒稼ぎする異形のドイツ、還元をしないのか
こうした状況と並行して、ドイツはユーロというドイツにとっての
「永遠の割安通貨」によって荒稼ぎを続け、中国を追い抜き世界最
大の経常黒字国となった。
現状、ドイツ経済の貯蓄・投資(IS)バランスは国内部門が全て貯
蓄過剰という異形を実現している。端的にいって、外需を貪ること
で景気が下支えられているのである。ドイツ企業の優れた技術力の
みならず、弱い国を駆け込むことによって実現した安い通貨ユーロ
が競争力を高めるドライバーになったことは疑いようがない。
問題は、これを周縁国に還元するような姿勢が今に至るまでまった
く見られていないことである。理想的にはユーロ圏共同債のような
装置を介した「持てる国」から「持てない国」への積極的な所得再
配分が求められるが、現状では共同債に関する議論など半永久的に
棚上げされている。一足飛びにこうした財政統合への道が難しいに
しても、ドイツの緊縮路線(≒過剰な経常黒字)は既に欧州を超え
てG20などの国際会議の場でも世界経済を不安定化させる要因として
批判され始めており、何らかの対応策が求められる状況にある。
せめて安定・成長協定(SGP)や財政協定に代表される機械的なEUの
財政規律を柔軟に運用するよう、方針を見直すことについて、ドイ
ツにはリーダーシップを発揮する義務があると筆者は思う。ECBが非
伝統的な金融政策によって金利を抑制し、「時間稼ぎ」をしている
今だからこそこうした対応は可能ともいえる。また、欧州系金融機
関の体力を奪い続ける過度な資本規制やマイナス金利政策なども見
直すことに価値はあろう。今回、離脱派が主張するメリットの中に
「EUの過度な規制に縛られず、緩和的な規制を設けることで資本を
引きつけられる」といった類の声があった。これは一面では真実に
思われる。
メルケル首相が言うように、もう英国は戻ってこない。これからEU
が考えるべきことは脱走者を罵倒するだけではなく(それもEUを支
えるために、ある程度は必要な政治パフォーマンスではあるが)、
追随する脱走者を出さないような環境作りである。
ドイツ流の押しつけでなく、多様性の容認を
そのためにはドイツの意識改革が重要になる。ドイツのような規律
正しさやその結果としての内需過小な状態をほかの加盟国にも押し
つければ、ユーロ圏を主体とするEU統合プロジェクトは、一部の国
々にとって脱走したくなるほど辛い「監獄」での「しばき上げ」で
しかなくなってしまう。あくまで「ドイツがドイツらしくいられる
のはほかの国がドイツではないから」という事実を再度認識した上
で、統合戦略の練り直しが必要であろう。
必然的に、今後の統合の進め方は変わっていくことになるはすだ。
ショイブレ独財務相は英国民投票の前に「あるEU加盟国の一部の人
は6月23日に間違った決定(≒離脱)が下された場合、EUへの権限移
行を強化すべきだと考えているが、ほかの加盟国の人達はそれはと
んでもないと言うだろう。教訓を学んでいないのだろうか(6月13日
、ブルームバーグ)」と述べた。要するに、従前の統合方式を見直
した上で、ついて来られる国とそうでない国を切り分けてプロジェ
クトを進める必要性があるという認識である。
これは例えば、ドイツやフランスなどのコア国が先行して通貨統合
を超える財政・政治統合を目指す「2速度式欧州」ないし「マルチ・
スピード欧州」などと表現されることがある。また、各国が参加し
たい統合分野だけに限定し、部分的な離脱も可能にするアラカルト
方式を求める声も見られている。一口にEUといっても、通貨ユーロ
、欧州銀行同盟、財政協定、シェンゲン協定など様々な参加メニュ
ーがあって、自由な選択が許されるという運営である。
2000年代以降、「拡大」と「深化」を順当に進めてきたEU政策当局
からすれば屈辱的な路線変更かもしれないが、2人目の脱走者を出さ
ないためには、現状の「監獄」にも喩えられる環境を相応に緩和し
てあげるような複眼的な戦略が必要になってくる。そうした方向性
はEUの「多様性の中の統一(Unity in diversity)」という理念に
も合致する。
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英EU離脱が引き起こす金融危機、震源地はここだ
世界の金融市場に波及しかねない局所的パニックとは
2016.7.2(土)  藤 和彦
「これから英国とEUとの間で政治・経済の分離に向けた長く複雑な
交渉が行われ、世界の金融市場は混乱が続く可能性がある」
著名投資家ジョージ・ソロス氏は6月25日、ウェブサイト「プロジェ
クト・シンジケート」への寄稿でこう述べた。同氏は「2007〜2008
年の世界金融危機と似たような金融市場の危機が解き放たれた」と
見る。
国民投票による英国のEU離脱決定で翌日(6月24日)の世界の金融市
場は大荒れとなり、日本の株式市場の下げ幅は世界最悪で2008年9月
のリーマン・ショック時よりも大きかった。
冷静に考えてみると、リーマン・ショックの時のように世界の金融
市場を揺るがすような巨大銀行が倒産したわけではない。英国がEU
に対して「離脱交渉を開始する」と通告してから実際に離脱に至る
までには最低でも2年かかるとされており、しばらくの間は実体経済
にこれといった悪材料があるわけではない。そのため日本では「ユ
ーロ圏景気の失速はない」「世界経済への影響は限定的」との見方
も有力になってきている。
だが、筆者は「リーマン・ショックのように、デリバティブ市場を
震源地とする金融危機が早ければ数カ月以内に発生するのではない
か」と危惧している。
ポンドは暴落、英国債は2段階格下げ
デリバティブ(金融派生商品)は元々株式や債券、外国為替などの
金融商品のリスクを軽減されるために開発された。最近では、リス
クを覚悟して高い収益性を追求する手法として用いられるのが一般
的になっている。
その市場規模は巨大だが、証券取引所などの公開市場を介さない取
引が主流である。当事者同士が相対で取引を行うデリバティブのこ
とを「店頭デリバティブ」と呼ぶ。国際決済銀行(BIS)によれば、
店頭デリバティブの取引残高は493兆ドルに上る(「市場デリバティ
ブ」の取引残高は100兆ドルに満たないと言われている)。
リーマン・ショックの引き金となった「CDS」(クレジット・デフォ
ルト・スワップ)というデリバティブの取引残高はピーク時の5.1兆
ドル(2008年末)から現在は1兆ドル未満に減少している。一方、店
頭デリバティブの取引残高のトータルはリーマン・ショック前の水
準に回復している。
店頭デリバティブ取引の主役は、米シティグループやJPモルガン・
チェース、ドイツ銀行などの国際金融グループである(6月27日付ブ
ルームバーグ)。店頭デリバティブで取引されるデリバティブの原
資産は金利や為替に関連するものが多いという。
その金利や為替が、6月23日の英国のEU離脱決定で猛烈に変動したの
である(コンピューターが取引するファンドが主導したとされてい
る)。
英国の場合、国民投票の当日の為替のスポット取引が急増し、通貨
ポンドは1985年以来の安値に暴落した。6月27日には大手格付け会社
が英国債の格付けを2段階引き下げる事態となった。
国内の過剰債務問題が深刻化している中国でも資金流出が加速した
。市場の過剰反応を鎮めるために人民銀行は再三にわたり「中国の
債務・金融リスクは制御されている」との声明を発表したものの、
効果はなく、人民元は記録的な低水準となっている。
警戒されるハイブリッド証券への波及
想定外だったのは、ファンダメンタルズ(経済成長率・物価上昇率
・財政収支など)の面で、先進国の中で最も良好とされているドイ
ツの株式市場が暴落したことである。
その理由について、「ドイツ銀行に対する漠然たる不安」を挙げる
声が少なくない。ドイツ銀行株は、リーマンショック後の最悪期よ
りも割安になっている(6月29日付ブルームバーグ)。ドイツ銀行が
保有するデリバティブの残高が巨額であることに加え、レバレッジ
比率(企業の自己資本に対する有利子負債等の割合)が47倍と高い
(世界大手金融機関のレバレッジ比率の平均は24倍)と推測されて
いるからである。
ドイツ銀行は、2015年に68億ユーロの損失を計上するなど経営危機
が囁かれている。2016年2月には、2014年に発行した「偶発転換社債
」(規模は1085億ドル)の利払いが遅れるとの憶測が流れたため、
市場関係者の間に動揺が走った。
偶発転換社債とは、「金融機関の自己資本比率が一定水準を下回っ
た場合などにトリガー条項を有する(元本の削減または普通株式へ
の強制転換)債券」のことである。債券でありながら株式としての
性質を有するため「ハイブリッド証券」と広く呼ばれ、高い利回り
で投資家の人気を集めている。
だが、ハイブリッド証券を発行している金融機関への懸念が広がれ
ば、二束三文の株式に強制転換される前に債券が投げ売りされる事
態になりやすいとのリスクが指摘されている。6月16日付けロイター
も、英国がEU離脱決定をした場合の警戒される金融波及ルートとし
てハイブリッド証券に注目している。
リーマン・ショック後、BISは新たな自己資本規制(バーゼル3)を
2013年に導入したが、新規制はハイブリッド証券を自己資本に参入
することが認めた。これがきっかけとなって金融機関によるハイブ
リッド証券の発行が急拡大した。その規模は2015年末に約60兆円と
なり、「そのうち英国の銀行が発行しているのは2割弱ある」とされ
ている。
EU離脱決定後の英ポンドの急落で、英国の銀行の海外資産(リスク
アセット)が増加したため、自己資本比率は低下する。英国債が格
下げされたために英国の銀行の格下げがドミノ倒しのように起きて
いる(6月27日付ロイター)。中でもバークレイズの株価が急落し、
市場関係者の注目を集めている(7月1日付ブルームバーグ)
英国の銀行はドイツ銀行以上にレバレッジ比率が高いとされている
。英国のEU離脱決定という想定外の事態によりデリバテイブを扱う大
手金融機関に巨額損失が発生している可能性が高いが、デリバテイブ
の多くは数カ月後に満期を迎える。このため数ヶ月後に巨額の損失
を抱えた金融機関がハイブリッド証券のトリガー発動に追い込まれ
るのではないかとの観測が高まるのではないだろうか。
そうなればトリガー条項を発動した金融機関の信用力低下によるカ
ウンターパーティーリスク(デリバティブ取引の相手方が契約満期
前に経営面で行き詰まり、契約上定められた支払いが履行されない
リスク)が一気に高まる。
取引所取引であれば清算機関が整備されているため、カウンターパ
ーティーリスクは問題は起こりにくい。しかし、デリバティブ取引
の大半が、いまだに相対である。カウンターパーティーリスクの上
昇から信用収縮が発生し、世界規模の金融危機に発展したのがまさ
にリーマン・ショックであった。あれから8年近くが経っても店頭デ
リバティブ取引に対する市場の整備が進んでいないため、カウンタ
ーパーティーリスクが高まりやすい状況のままである。
リーマン・ショックの際は、サブプライムローンに関連するCDSとい
うデリバティブがリーマンブラザーズの息の根を止めた。今回は、
店頭デリバティブで巨額の損失を発生させた金融機関が発行したハ
イブリッド証券市場に「流動性の蒸発」が生じ、この局所的なパニ
ックが世界全体の金融市場に波及することになるのだろうか。
中国の輸入減少で原油価格はさらに低下?
金融市場に暗雲が立ちこめる中、原油価格は今後どうなるのだろうか。
英国のEU離脱決定後、高リスク資産が投げ売りとなったため、WTI原
油先物価格は大幅に下落し、27日の終値は1バレル=46.33ドルと2月
24日以来の50日移動平均線割れとなった(6月28日付ブルームバーグ
)。その後も荒い値動きが続いている。
国際金融商品と化した原油先物価格が市場の雰囲気に振られやすい
のは当然である。6月27日付ブルームバーグによれば、原油相場の強
気派は、英国のEU離脱決定で打撃を被っている可能性が高いという。
ドル建てで取引される原油価格はドルの欧州通貨に対する値上がり
で割高感が生まれているが、原油市場の需給見通しに変化があるの
だろうか。
まず供給面だが、ナイジェリア政府と武装勢力との間の停戦に伴う
原油生産の回復が予想以上に順調のようである。ナイジェリアで操
業している英蘭シェルは6月27日、「日量137万バレルだった5月の原
油の生産水準が既に日量180〜190万バレルとなり、来月には同220万
バレルに達する」の見通しを明らかにした。
一方、28日、「ノルウェーの7カ所の油田等の労働者が賃金交渉が難
航していることから7月2日から大規模ストライキに入る可能性があ
る」との報道もある。日量約190万バレルの原油供給が途絶されるリ
スクが浮上しており(スト実施による原油減産の規模は小さいとの
見方が強い)、一進一退と言ったところだ。
需要については、欧州が混乱し世界経済が減速するとの警戒感が高
まったとしても、直ちに減少することはなさそうだ。
だが、市場のセンチメントが悪化したため、これまで無視されてき
た「弱い材料」に市場は敏感に反応することになるだろう。
これまで無視されてきた材料の筆頭は、なんと言っても中国である
。見かけの原油輸入量が記録的な水準に達しているが、その内実は
お寒い限りである。
中国が輸入した原油の1割以上はガソリン・軽油などの石油製品とし
て海外に輸出されている。この原油輸入拡大の立役者は、独立系の
小規模製油所(「ティーポット」)だった(参照「原油市場で注目
を集める中国の『ティーポット』」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47052)。
しかし国際的な原油価格上昇により精製マージンが急激に縮小した
ため、原油輸入に対する積極的姿勢が減退しているとの観測が出て
いる。原油価格の上昇は、低迷が続いてきた国内での原油生産量を
増加させる契機となることから、今年後半の中国の原油輸入量は減
少する可能性が高い。
ガソリン需要のポテンシャルに期待が高まるインドも、中国以上に
金融市場の混乱による悪影響を被るリスクが高い。
原油価格下落が金融市場の混乱に拍車
主要国で唯一良好な経済を誇る米国のルー財務長官は、「英国のEU
離脱決定により、金融危機の再来の兆候は出ていない」としている
。だが、6月27日付ブルームバーグは、シェール企業が大量に発行し
ているジャンク債の恐怖指数が急上昇していると伝えている。同時
に「シェールオイルの生産地を中心に商業用不動産はバブル崩壊の
危機にある」との警鐘も出始めている(6月21日付ブルームバーグ)。
原油価格は1バレル=45ドルが現在心理的な抵抗線となっているが、
これを下回れば同40ドル割れも時間の問題である。原油価格のさら
なる下落というストレスが加われば、金融市場の混乱はますます高
まるばかりである。
リーマン・ショック後は「中国」と「シェール革命」が世界経済を
救ったが、次の金融危機が発生したとしても再び「救世主」が現れ
る保証はない。
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百貨店4社、6月売上高は全社マイナスだった 
富裕層消費の減速が直撃
ロイター 2016年07月01日
[東京?1日?ロイター] - 大手百貨店が1日に発表した6月の売上高
速報は、4社そろって前年比減少した。年初からの株安が影響し、富
裕層の消費が減速。訪日外国人の免税売上高も減少している。
大丸・松坂屋を運営するJ.フロント リテイリング<3086.T>は前年同
月比6.9%減、三越伊勢丹ホールディングス<3099.T>は同4.4%減、
高島屋<8233.T>は同2.5%減、そごう・西武は同3.4%減となった。
Jフロントは、建て替え中の心斎橋本館を除けば4.0%減だった。
免税売上高については、客数は増加しているものの、ラグジュアリ
ーブランド商品から化粧品などへと購入対象が変化していることな
どから、客単価の下落が続いている。加えて、年初からの株安が時
間を経て影響度合いを強めており「富裕層中心の国内消費が鈍い」
(高島屋)との指摘も聞かれた。
(清水律子)
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自由主義的な世界秩序の終焉
The Collapse of the Liberal World Order
2016年7月1日(金)16時00分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授
=国際関係論)
<アメリカでのドナルド・トランプ人気、欧州の極右政党の台頭、
あげくにイギリスのEU離脱──一時は世界を席巻しそうな活気を誇
った民主主義が危うくなり始めている。最大の理由は、自由な社会
にはデマゴーグに乗っ取られやすい弱点があるからだ>
 今は昔――といっても1990年代のことだが、多くの優秀で真面目
な人々が、これからは自由主義的な政治秩序の時代で、必然的にそ
れが世界の隅々に浸透するものと信じていた。アメリカとそアメリ
カと同盟を組む民主主義国はファシズムと共産主義を打倒し、人類
を「歴史の終点」まで連れてきたはずだった。
「共同主権」の壮大な実験場だったEU(欧州連合)では、事実ほと
んど戦争がなくなった。多くのヨーロッパ人は、民主主義と単一市
場、法の支配、国境の開放という独自の価値観を掲げたEU文民の「
シビリアン・パワー」が、アメリカ流の粗野な「ハード・パワー」
と同等かそれに優る成果を上げたと信じていた。
 その頃アメリカは、「民主的統治圏」の拡大や独裁者の一掃、民
主的な平和の地盤を固めることによって、善意で恒久的な世界秩序
を導こうとしていた。
危機を招く「行き過ぎた民主主義」
 だが、90年代に盛り上がった自由主義的な秩序に対する楽観論は
、その後悲観論に取って替わられた。米ニューヨーク・タイムズ紙
のコラムニスト、ロジャー・コーエンは、「分裂を煽る勢力が拡大
」しており、「戦後世界の基盤が揺らいでいる」と指摘した。一方
、今年4月に公表された世界経済フォーラムの白書は、自由主義の世
界秩序は今、独裁政権や原理主義者の挑戦を受けていると警告。政
治ブログの草分け、アンドリュー・サリバンはニューヨーク・マガ
ジン誌で「民主的になり過ぎた」ためにアメリカが危機にさらされ
ている可能性があると書いた。
 懸念は理解できる。ロシアや中国、インド、トルコ、エジプトな
どはおろかアメリカでさえ、強権主義の復活や国民の不満を一掃し
てくれそうな「強い指導者」待望の動きが見てとれる。米フーバー
研究所の上級研究員、ラリー・ダイアモンドによれば、2000〜2015
年の間に世界の27カ国で民主主義が崩壊した。一方で「既存の独裁
政権の多くはますます閉鎖的になり、国民の声に耳を貸さなくなっ
ている」と言う。
 今やイギリスがEUからの離脱を決め、ポーランドやハンガリー、
イスラエルなどの国では自由主義とは真逆の方向へ舵を切っている
。そしてアメリカでは、こともあろうに大統領候補の一人が、自由
主義的な社会に欠かせない寛容の精神を公然と否定し、人種差別的
な発言や根拠のない陰謀説を繰り返し、裁判官まで侮辱する始末。
自由主義の理想を信じる者にとっては不幸な時代というほかない。
 私自身の主義を問われれば、国際政治経済学者のロバート・ギル
ピンと同じ「現実的な自由主義者」になるだろう。私は自由な社会
の美徳を評価し、そこに生きられることに感謝し、もし自由な仕組
みや価値観がより広範に受容されれば、世界はより良い場所になる
と考えている。だが、現実はそうはならなかった。なぜそうならな
かったのか、その理由が重要だ。
 第一の問題は、自由主義を擁護する側がその利点を誇張しすぎた
ことだ。我々は次のように言われてきた。もし独裁者が次々に失脚
し、より多くの国家が民主選挙を実施し、言論の自由を守り、法に
よる支配を実行し、競争市場を導入し、EUやNATO(北大西洋条約機
構)に加盟すれば、広大な「平和地帯」が生まれ、繁栄の輪が広が
って、政治的な対立は自由主義的な秩序の枠組みの中で容易に解決
に向かうだろうと。
自由主義で損をした人々の反乱
 だが現実にはそうは行かなかった。自由主義の社会で不利益を蒙
る人々も出てきたのだ。ある程度の反動は避けられなかった。自由
主義世界のエリートたちは、統一通貨ユーロの導入やイラクへの侵
攻、アフガニスタン再建、2008年の世界金融危機など、数々の致命
的失敗を犯してきた。そうした過ちは、戦後の世界秩序の正当性を
傷つけ、自由を好まない勢力の台頭を許し、社会の特定の層に属す
る人々を排外主義に追いやる結果を招いた。
 自由主義的な世界秩序を広げる動きは、それによって権力を失う
など直接の脅威にさらされる指導者や組織の反発を招いた。例えば
、イランとシリアがアメリカのイラク戦争を妨害したのは驚くにあ
たらない。イラクの独裁政権が倒れれば、次はイランとシリアの独
裁政権の番がくるからだ。中国やロシアの指導者が「自由主義」の
価値観を広げようとする欧米の動きを脅威と感じ、あらゆる手を使
って妨害しようとするのも当然のなりゆきだ。
 自由主義の擁護者たちはまた、民主主義という制度を作るだけで
は自由な社会は実現できないことを忘れていた。民主主義の基礎を
成す価値観、とりわけ「寛容」に対する強い信念が必要になること
を見落とした。イラクやアフガニスタンの例で明らかなように、単
に憲法を制定し、政党を結成し、「自由で公正な」選挙を実施する
だけでは真の自由主義的な秩序は生まれない。社会を構成する個々
人や集団も自由主義の規範を受け入れて初めて実現する。それは一
夜にして生まれるものではないし、外から強制して出来るものでも
ない。
 冷戦後の自由主義者は、民族、部族、宗派などへの帰属意識や愛
国主義が果たす役割を過小評価していた。古いものへの執着はだん
だんに死に絶えて、政治色のない文化に変容するか、よくできた民
主的な仕組みのなかで飼いならされるだろうと考えていた。
 だが現実には、自由主義者のいう「自由」より、国を愛する気持
ちや歴史的な反目、国境や伝統を重んじる人々のほうが多かった。
もしEU離脱の是非を問うイギリスの国民投票に教訓があるとすれば
、それは、有権者のなかには、純粋な経済合理性よりそうした感情
に動かされやすい人々が存在するということだ。
ポピュリスト政治家の思う壺
 我々は自由主義的価値観が世界的に認められたと思いがちだが、
別の価値観が勝つ場合もある。伝統的な秩序との摩擦がとくに大き
いのは、社会的な変化が急激で予測不可能なときと、かつては同一
性の高かった社会が短期間のうちに異質な人々を受け入れなければ
ならなくなったときだ。
 自由主義者がいくら寛容の重要性や多文化主義の効用を叫んでも
、一つの国で様々な文化が共存するのは簡単なことではない。文化
的緊張が高まれば、それこそポピュリスト政治家の思う壺だ(「ア
メリカを再び偉大な国に!」)。郷愁の力は昔ほどではなくなった
が、今でも十分恐るべき力を発揮する。
 だが自由主義が困難に陥っている最大の理由は、自由な社会の自
由は、それを逆手に取る悪意の人物に乗っ取られやすいことだ。米
共和党の大統領候補指名がほぼ確実なドナルド・トランプがこの1
年間に繰り返し証明しているように(他にもフランスの極右政治家
マリーヌ・ルペン、同じくオランダのヘルト・ウィルダース、トル
コのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領など挙げればきりが
ないが)、うわべだけの自由を売り物にする政治指導者や政治運動
は、開かれた社会の裏をかいて支持者を増やすことができる。そし
て民主主義のなかには、そうした試みを確実に挫くしくみはない。
 私は内心、思う。欧米にアメリカ政府の欧州への関与を必死でつ
なぎ止めようとする人が非常に多いのはこのためではないか。強硬
なロシアが怖いというより、ヨーロッパ自身を恐れているのではな
いか。自由主義者の願いは、平和で寛容で民主的なヨーロッパがEU
の枠に収まっていてくれることだ。最終的には、旧ソ連のジョージ
ア(グルジアから呼称を変更)やウクライナもヨーロッパの民主主
義圏に引き込みたいと夢見ている。
 同時に彼らはヨーロッパに今の状況を収拾できるとは思っておら
ず、アメリカという安定剤がなくなればすべてが瓦解すると思って
いる。ヨーロッパ版の自由な社会は繊細過ぎて、永遠にアメリカか
ら乳離れできないと。
 彼らが正しいのかもしれない。だがアメリカの資源は無限ではな
いし、永遠に裕福な国々の防衛を支援することなどあり得ない。だ
とすれば、ヨーロッパにかろうじて残った自由な秩序を守り続ける
には世界のどこか別の場所を犠牲にしなければならない。自由主義
者にその用意はあるのだろうか。
From Foreign Policy Magazine
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ソロス氏「ブレグジットは金融市場に危機解き放った」 
欧州議会で発言
2016/6/30 18:57日本経済新聞 電子版
【NQNロンドン=菊池亜矢】著名投資家ジョージ・ソロス氏は30
日、欧州議会でスピーチした。英国の欧州連合(EU)離脱につい
て、ブレグジットはEUを立て直す窓口を開いた一方で、金融と難
民の2つの迫り来る危機を悪化させたと指摘。「ブレグジットは2007
年から08年の重大さに匹敵する危機を金融市場に解き放った」と警
告し、緩やかに進行してきていた危機がブレグジットによって加速
され、すでに広がっていたデフレ傾向を強めるだろうと語った。欧
米メディアが伝えた。
 また、ユーロ圏経済は「他の地域に比べて回復が遅れている」と
指摘。今や差し迫った景気減速に取り組まなければならないとした。
 一方、EUを維持しようとする運動がより強固でより良い欧州へ
の肯定的な勢いを作っている、とも指摘した。
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ソロス氏が売ったのはドイツ銀行株 
2016/6/29 10:23日経
 英国民投票の前、欧州連合(EU)からの離脱が決まれば「私の
60年間の経験によれば、英ポンドは急落する」と指摘していた米著
名投資家のジョージ・ソロス氏。「もし離脱となれば、少なくとも1
5%、場合によっては25〜30%急落しよう」と語っていた(詳細は21
日付本欄「ソロス氏警告、24日にはブラックフライデーも」を参照
されたい)。
 1992年に英中央銀行のイングランド銀行を相手にポンドを売りま
くり、英中銀に勝った男として名を馳(は)せた。それだけに、当
然、今回もポンド売りを仕掛けたと市場では見られていた。
 しかし、英国民投票後、ソロス氏のスポークスマンは「ポンドは
ロング(買い)だった。しかし、世界市場への悲観的な見方から他
の投資でもうけた」と語っていた。
 その「他の投資」がドイツ銀行株の空売りであると、独当局への
報告で判明し、独主要紙の報じるところとなった。その規模は約700
万株の売りで、日本円に換算すると約100億円相当に達する。株価は
23日に15ドル台から急落。28日には、やや戻したが12ドル台である。
 国民投票で英国のEU離脱が決まった後、リスク回避で独国債が
安全資産として買われる傾向が強くなった。マイナス金利幅がさら
に拡大するなかで、銀行の経営環境は厳しさを増し、欧州を中心に
世界的に銀行株が売られた。しかし、28日には売られ過ぎの反動に
よる買いとなっている。とはいえ、銀行株価の本格的回復は難しそ
うだ。
 ソロス氏は既に、保有するドイツ銀株の一部を売り払ったとの噂
も流れている。一時は現場から退き、院政を敷いていたが、最近「
現役復帰」を宣言していた。1930年8月生まれの85歳。お見事な腕
前。脱帽である。
豊島逸夫(としま・いつお)


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