5667.トランプ候補より、大問題は「米国民の内向き志向」



トランプ候補の引きこもり政策は、非常に日本にとっても世界にと
っても大きな問題かもしれないが、それより大きい問題なのは、米
国民の内向き志向であり、今回、クリントンが大統領になろうと、
その政策は保護貿易主義や孤立主義的な政策になっていくことは確
実である。

議会の多数が保護主義的な議員になる確率も高い。三権分立でも、
大統領と立法機関が共に保護主義になる可能性が、徐々に高くなる。

それだけ、米国民の多数は、グローバル化により損をしていること
になる。民主主義は多数意見を実現する国家システムであり、良い
悪いと評論家は言うが、多数の国民の意思がそうであれば、それを
実現するのが、民主主義である。

米国は今まで、下層階級が得票に行けないようなシステムを作り、
そのため、民主主義ではあるが、一部富裕層の意見が反映する政治
システムを作り上げていたが、99%の貧乏人と1%の富裕層とな
り、とうとう99%が反乱を起こしているのだ。

これは長くこの傾向が続くことになる。そのため、富裕層は米国か
ら他国に移ることになる。その時に選ばれる国は、税金が安く、そ
して治安が良い国である。英語圏でシンガポールなど、このような
国は極めて少ない。

さあ、どうなりますか?


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記事 新潮社フォーサイト
2016年04月27日 12:11
 日本は「トランプ大統領」を「正しく怖がれ」 - 渡部恒雄 
昨今、トランプが大統領になったら日本はどうするか? という質
問を受ける機会が多い。もちろん、現在進行中の共和党大統領選挙
予備選でトップを走るトランプ候補が共和党の指名を獲得する可能
性は十分にあるし、本選挙も民主党のクリントン候補が優位とはい
え、「トランプ大統領」が誕生する可能性がないわけではない。当
然、「トランプ大統領」になったときの日米関係や、日本の対外戦
略を考えておくことは重要だ。
  しかし、現在の選挙戦でのトランプ発言をそのまま額面通りに
受け取って、極端なシナリオを想定して、心配を煽りすぎるのはあ
まり賢いとはいえない。福島原発事故の直後、日本社会の中で、放
射線の人体の影響について、極端な悲観論と楽観論が入り乱れたこ
とがあったがその時期に、「正しく怖がれ」というメッセージが専
門家から発せられた。トランプ現象についても「正しく怖がる」必
要がある。 
トランプ発言を「額面通り」に受け取るな
 トランプの発言を額面通りに受け取るべきでない理由は以下の3点
による。第1に、トランプが今のような極端な政策や発言を続けて、
大統領本選に残った場合、勝利する可能性は少ない。第2に、米国の
大統領が議会や社会の合意なしにできることは限られている。第3に
、政治家の選挙での発言がそのまま政策になることは、どのような
民主主義国にもない。ましてや1年以上も選挙運動が継続する米国で
は、大統領候補の選挙戦での公約が守られなかった歴史のオンパレ
ードである。
  第1の点だが、鍵を握るアメリカの浮動層が本当に大統領を決め
るのは、11月8日の投票日の直前、9月末から10月にかけて行われる
3回の大統領候補のディベートを見てからである。もし、トランプ対
クリントンの対決になった場合、トランプがこれまでの共和党予備
選で圧倒してきた、政治経験も浅くアピール力も弱い候補たちとは
違い、政策経験が豊かで、政治の修羅場も何度も潜り抜けているク
リントン候補と直接対決をすることになる。しかもレベルが高い厳
しい司会者がおり、これまでのように意見をはぐらかして笑いをと
るだけでは勘弁してもらえないだろう。
  トランプが共和党の大統領候補に指名された場合、まずは政策ア
ドバイザーチームを立ち上げて勉強しなくては、クリントンには勝
てないはずだ。もしトランプがそれをまじめに行うとすれば、その
政策は現実的なものになり、ディベートで生き残った「トランプ大
統領」は、われわれが現在懸念している人物ではなくなっているだ
ろう。
議会の抵抗
 第2の点だが、2014年の中間選挙で民主党が上下院の過半数を失っ
て以来、オバマ政権が苦労しているように、三権分立による行政府
と立法府同士のチェック・アンド・バランスの機能が発達し、議会
に大きな権限がある米国において、「トランプ大統領」が行えるこ
とは限られている。とくにトランプが共和党のエスタブリッシュメ
ントを敵に回したまま大統領になったとすれば、議会の共和党の一
部と民主党を敵にするわけだから、やれることはかなり制限される
ことになる。米大統領選挙では「コートテール効果」というのが重
視される。大統領のコートの裾に乗っかって当選する議員の存在だ
。それは大統領の人気にあやかって当選した議員が多く生まれるこ
とで、議会が大統領の味方になり、大統領が政権就任当初に多くの
政策を実現することができる。オバマ政権も、オバマブームに乗り
当選した民主党の上下院での多数を背景に、リーマン・ショック後
の経済対策、オバマケアなどを実現させた。「トランプ大統領」が
、共和党のエスタブリッシュメントと対立したままでは、「トラン
プ大統領」は議会の大きな抵抗にあう可能性が高く、議会が反対す
るであろう政策、例えば日本や韓国などから米軍を撤退させること
、などはできないだろう。 
「公約不履行」は稀ではない
 第3の点だが、過去の米大統領が選挙中に公約として挙げながら、
実際には現実的でなかったために実現できなかった例として以下の
ようなものがある。ジミー・カーター大統領は、在韓米軍の撤退を
公約にしたが、結局、冷戦中の安全保障上の勢力バランスを考えれ
ば、とり得る政策ではなく大統領も断念した。ロナルド・レーガン
大統領は、選挙中に、中華人民共和国と断交して、再度、台湾と国
交を持つと公言していたが、やはり現実的には取り得る政策ではな
く、レーガン政権はむしろ中国との良好な関係を構築した。オバマ
大統領は、選挙中にNAFTA(北米自由貿易協定)を見直すと発言した
が見直しをしなかった。選挙中に経済政策アドバイザーが、オバマ
政権は本気ではないという失言をして問題視されたこともあり、政
権成立後の履行無視は特に大きな問題にはされなかった(クリント
ン候補のTPP反対も同じようになると予想されている)。
大問題は「米国民の内向き志向」
 以上が、「トランプ大統領」を過度に怖がるべきでない理由だ。
一方で、日本が正しく怖がるべきなのは、トランプおよびサンダー
ス現象を引き起こした「米国民の内向き志向」だ。
  現在、共和党のエスタブリッシュメントが、トランプ降ろしに動
けば動くほど、トランプが草の根の支持を増やしているという事象
は、米国政治に大きな地殻変動が起こっていると考えるべきだ。ト
ランプ現象を起こしている米国のそもそもの変化をみておかなけれ
ば、第2、第3の「トランプ現象」を見誤ることになる。
  民主党における「サンダース現象」も政治の地殻変動が生み出し
たものだ。しかし共和党の病状はより深刻だ。それはひとえに、共
和党の政策と支持層の矛盾が民主党のそれより大きいからだ。共和
党は小さな政府を目指し、経済の自由主義を志向して、民主党のよ
うな課税による所得の再分配や、社会福祉の充実による大きな政府
を求めていない。
  そして問題は、共和党は高所得層だけではなく、低中所得層の白
人の保守派からも支持を集めてきたことだ。しかし経済のグローバ
ル化が進む中で、この支持層の所得が伸び悩み、社会的な地盤沈下
が進んできた。それに対して、共和党の伝統的な小さな政府を目指
す政策はなにもできなかったし、将来のビジョンも示していない。
  理屈からいえば、白人の低中所得層の支持は、民主党に集まりそ
うだが、白人の共和党支持層のプライドは、マイノリティーを優遇
する民主党よりも、減税と自助努力をベースにする小さな政府の政
策に彼ら自身を向かわせた。たとえば、2010年の中間選挙で、共和
党を下院の多数派にしたティーパーティー支持層などだ。しかしそ
の共和党議会は、オバマ政権と出口のない泥仕合を続けるだけで、
何の具体的な成果も出せなかった。
  そこに現れたのが、白人のプライドをくすぐり、ブルーカラーの
苦境を理解してくれそうな、そして何より歯に衣着せぬ発言で自分
たちの「敵」である移民労働者、マイノリティー、中国、メキシコ
、日本などの貿易ライバル国、自由貿易協定そして旧来の共和党の
エスタブリッシュメントを滅多切りにしてくれるトランプ候補だっ
た。
「集団的自衛権」容認はタイムリーな政策
 このような構造を理解しない限り、トランプ現象は理解できない
。そして、この層が一定の政治勢力となり影響力を行使するのであ
れば、TPPなどの自由貿易政策には逆風が吹き続け、米国の海外での
軍事力行使のハードルも高いままである。ただし、トランプが共和
党大統領候補として勝ち残るためには、弱体化している白人ブルー
カラー層だけの支持だけでは不十分で、高所得のホワイトカラー層
からの支持も不可欠だ。共和党がトランプの政党になるという心配
はしなくていいが、白人ブルーカラー層の「内向き」の不満が継続
することは心配すべき点だ。
  また国際関係を冷静に考えれば、北朝鮮の核能力が拡大し、中国
の南シナ海での拡張姿勢が続くアジア太平洋地域で、「トランプ新
政権」が、中国と劇的なディールをしない限り、日本や韓国という
同盟国との関係を捨てることは不可能だ。しかし、その中国こそが
、トランプを支持する米国のブルーカラーの職を奪ってきた存在な
のである。しかも劇的なディールをするには中国の将来の経済状況
はあまりにも脆弱であり、損得勘定が先行するビジネスマンのトラ
ンプが飛びつく政策だとは思えない。
  結局のところ、日本人は米国民の内向き志向を正しく怖がる必要
がある。日本は、米国にアジアでのプレゼンスを維持させることが
死活的利益であり、内向きの米国民に、同盟国が「タダ乗り」をし
ているという誤解を解き、それが米国民の利益にもなっているとい
う事実を実感させる必要がある。その意味で、安倍政権の打ち出し
た「積極的平和主義」は、日本が自らアジア地域の安定に汗を流す
ことであり、集団的自衛権行使は、内向きの米国民に日本が安保「
タダ乗り」をしていないことを伝えるタイムリーな政策ともいえる
。今後、その遂行は日本の生き残りのために重要な課題となろう。



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