5665.内需拡大策としての同一労働同一賃金と移民政策



今、日本は本格的な内需拡大策を構築しないと、円安にした外需拡
大策では、諸外国の不満が生じてしまう。このため、日本社会の構
造改革も必要であるが、人口減少問題を解決しないと、内需拡大は
できない。この問題を検討しよう。   津田より

0.現状
日本の衰退は、家電産業の衰退で63兆円もの産業が半分以下にな
ったことが大きい。観光として、外国人が2000万人も訪日した
が、1人10万円を使ったとしても2兆円程度の規模であり、航空
機代で30万円としても6兆円であり、家電産業の63兆円を代替
できない。この家電は、大きの部品産業も下に抱えていたので、多
くの雇用も失われたのである。

日本の衰退の大きな原因は、家電などの製造業の衰退で、給与が安
いサービス産業が代替として大きくなり、そのため非正規雇用の安
い労働力に頼る産業しか雇用先がなくなったことによる。

この事実が重い。それを金融政策や財政政策でヘリコプターマネー
までも導入しようとしているが、それだけでは製造などの高付加価
値産業が復活するはずがない。その上に、非正規雇用の低賃金を問
題にしているが、正規雇用の賃金が下がるだけで、全体的な低賃金
の問題は解決できないであろう。

そして、手も拱いている間に、人口減少問題が追い打ちをかけてき
た。労働人口が毎年20万人も減る事態になり、この労働力不足問
題も解決しないと、日本の衰退は急速に進むことになる。

親戚が人材派遣業をしているが、最初に雇用問題が起きるのは、時
給が安い建設、農業、港湾、飲食店やコンビニなどであり、多くの
外国人研修生や在日外国人を派遣しているが、それでも足りないと
いう。もう一歩進めないと、労働不足になり、現場が回らなくなる
と。

日本人労働者は、比較的賃金が高い倉庫や夜間勤務が多く、その仕
事に優先的に回しているようだ。日本語の問題がキーになっている。

現時点の失業率は3%程度であり、ほとんど完全雇用状態である。
国民総生産を維持するためには、労働者数を維持して、その労働者
が生産する価値を上げるしかない。しかし、価値を上げるためには
、製造業の構築が重要になる。サービス産業でも、高付加価値な高
級ホテルなどが重要になる。

しかし、非正規雇用が40%にもなり低賃金であり、高付加価値な
ホテルやスーパーを利用できない方向になってきた。ここに大きな
問題があるのだ。作っても利用客がいない。

この大きな問題を無視して、政治家も評論家も小手先の金融政策や
財政施策、同一労働同一賃金などの問題に血眼になっている。問題
の本質を忘れている感じを受ける。

1.労働力不足問題
一歩一歩、本質の問題を解決することが重要なのである。最初は、
労働力不足問題であり、女性の社会進出を促進することが第1で、
そのために子供の保育は、国の責任としていくしかない。

ウーマノミックスと口では安倍首相は言うが、実態はほとんど変わ
っていないことが判明したのが、「保育園落ちた。日本死ね」のお
母さんの叫びである。子供の貧困問題が起きる原因は、母親に非正
規雇用の低賃金と保育所に入れない問題のミックスで襲いかかるこ
とによる。

第2に移民などの労働力増強である。
移民に対して日本国民の反発が大きいので、政治家も移民政策を推
進できないでいる。しかし、移民政策にも段階がある。労働者数の
拡大が重要であり、最初の1歩は日系人の労働者で、第2歩は外国
人研修制度であり、第3歩としては、企業の期限を設けた労働ビザ
の発給である。4歩目は日本語や技能資格による在日期間の長期化
などを制度として確立することである。

知的労働者には、永住権が3年で与えられるが、その延長上に技能
資格が上位にある外国人労働者も同様な扱いができるようにするこ
とである。このように技能などが高い労働者を日本は確保すること
である。

移民問題で、大きいのはテロなどの危険性が増すことであるが、宗
教上の理由が大きい。仏教は自己の人格を高める方向にあるが、イ
スラム教やキリスト教は神との関係が重要であり、他宗教に寛容で
はない。このため、仏教国民には、その理解が難しい。このため、
なるべく、理解可能な仏教徒を中心に移民政策を進めることが重要
である。親日仏教国とFTAを結び、移民政策を行うことだ。

2.同一労働同一賃金
移民労働者は、多くが非正規雇用になるので、非正規問題は移民労
働者も共通になる。

移民を受け入れる各業界毎に、国際条約から内外民平等があるので
、移民受け入れ時同一労働同一賃金にするために、各個人に技能等
級を付けて置くことが必要になる。

そして、この制度は、国内の同一労働同一賃金政策でも利用でき、
かつ、業界全体で育成プログラムを統一化して、業界標準を作る必
要になる。当面、コンビニ、農業、建設、港湾や飲食業界では必要
になる。

正規労働者賃金も、技能等級+管理能力等級の賃金体系にして、非
正規労働者でも管理業務を担わせるなら、管理等級の賃金を払うこ
とである。これで透明化ができるし、同じ労働者が同一業界他社へ
も転職もできるようにしておくことだ。

今後、日本人労働者の減少が続くことになり、管理業務を日本人労
働者がおこない、外国人労働者が技能面を行うようになると見てい
る。その時点で欧米と同じ様な社会構造になるのであろう。

3.付加価値を上げること
付加価値を上げるためには、サービス産業では高級ホテルなどを誘
致して、労働単価を上げることである。外国人観光客でもセレブ層
を日本に来てもらう努力が必要になるが、高級ホテルは需要がある
と見る。しかし、高級スーパー、デパートは現時点では、今以上は
無理かもしれない。

しかし、製造業の方が付加価値は上げられるが、今ある製品では付
加価値を上げることは難しい。イノベーションを起こして、その製
品を実用的な価格にして普及することが重要である。日本には多く
の途上製品がある。セルロース・ナノ・ファイバー、燃料電池自動
車、EV車や人工光合成、IPS細胞などであり、米国発の人工知
能なども候補になるが、この成熟を待つしかない。

その立ち上げができるまでの繋ぎとして、日本が強い自動車の車検
期間を長くしたり、安全等の規制を緩くして自動車価格を抑えるこ
となど規制緩和が重要になる。日本の強い産業の競争力や販売数量
を上げる施策などで、内需拡大を行うことである。規制緩和を日本
産業の競争力向上に向けることが重要だ。

自動車の公的な規制が強くて、価格や維持費が掛かりすぎているこ
とで若者の車離れを引き起こしているように思う。

また、企業は海外拠点で作っている安い車を国内でも生産して、販
売数を上げる努力が必要であると思う。

4.今後の政策の基本
金融政策や財政政策では、日本が抱える根本問題を解決しないと理
解して、根本問題の解決を優先的に行う必要がある。金融政策は時
間稼ぎであると、量的緩和を提案した時に最初に述べたことである。

アベノミクスの第3の柱である構造改革に、企業経営者の法人税率
削減などの提案に多くの時間が割かれ、私が期待した移民政策や女
性活用政策、規制緩和政策に十分な時間が投入されていない。

このため、量的緩和で稼いだ時間がとうとう尽きたようである。

政治家にも民間委員にも、日本の百年の大計を構想している人がい
ないのが残念である。どうして、これだけ統計が確立した日本で、
その統計を見て根本的な問題点を把握しないのであろうか?

人口統計で、日本が10年後陥る問題は、現時点でわかっているで
はないか、それに解決案を作り、国民を説得していくのが、政治家
の役割である。それを放棄している。

そのため、日本は衰退の道を加速度をつけて、転がり下っている。
早く根本原因を見極めて、政策対応しないと手遅れになるぞ。

非常に心配である。
さあ、どうなりますか?

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永住権緩和で人は本当に来るのか?
2016年04月21日 10:16アゴラ
岡本 裕明
4月16日の日経トップは熊本の地震を抑えて「永住権緩和で人材誘致
」となっています。また、安倍首相は19日の産業競争力会議で「永
住権取得までの在留期間を世界最短とする」と表明しました。
 意気込みには敬意を表します。
政府の本当の意図とそれに対する可能性について考えてみたいと思
います。
日本は世界でも有数の永住権が取りやすい国の一つです。日本国籍
は取りにくいのですが、永住権は好対照にあると言えるでしょう。
ちなみに永住権と国籍の違いは一般に参政権のあるなしの違いのみ
です。よって、外国人へ門戸を開くことに抵抗がある日本にとって
ある程度しっかりしたバックグランドを持つ参政権のない永住者は
ウェルカムだということでしょう。
ほぼ同じコンセプトを持つのがカナダであります。世界で二番目の
国土を持つカナダも人口はわずか3500万人。よって、政策的に年間
20万人以上の移民を受け入れ続けています。これは人口比で0.5%程
度になりますので日本に当てはめると60万人も受け入れているの
と同じ計算になります。
人口増は消費増となり、経済は当然活性化します。バンクーバーや
トロントの住宅ブームの一因は高い能力を持った移民受け入れに伴
う住宅需要や消費需要、更には投資も引き起こす好循環でありまし
ょう。
日本の移民規制の緩和は数年前から言われていましたが、首相がこ
の期に至ってあえて強調し始めたのは今の訪日外国人ブームが一時
的に終わることなく、次にバトンを繋いでいくという発想に他なら
ないと思います。観光などで来て日本の良さを感じてもらったら次
は日本に住んで働いてみませんか、ということかと思います。特に
安倍首相は人工知能やロボットなどの第4次産業革命を睨み、IT関連
のプロフェッショナルを招きたい、としています。
発想は分かります。が、成功はしないと思います。
永住するかどうか、それを決めるのはあまりにも多くのファクター
があります。社会が移民を受け入れているのか、税制などにメリッ
トがあるのか、住環境が優れているのか、子供の教育に適している
のか、などなど多くの判断材料があります。特に永住に対してはフ
ァミリーの場合、奥様の意向が出やすく、その場合、当然、子供た
ちのことを第一義にするケースが多いように感じます。
私もカナダへの移民権所有者であり、周りにいる仲間たちと20年も
そんな会話をしていますのでこの点については間違いはないと確信
しています。
安倍首相のプランが魅力的ではないのは日本政府の勝手な都合だと
いうことです。つまり、日本に住みたいと思わせる魅力づくりが十
分ではないのに第4次産業革命を推進する為に優秀な外国人を移民権
で釣り上げろ、というようなものであります。優秀な人材であれば
あるほど今は世界中を転々としています。何カ国も渡り住み、そこ
でフレッシュな刺激を受けながら創造力と経験でモノを作り上げて
いきます。
私が若くてIT関連の仕事をしているなら、サンフランシスコにも住
みたいし、インドの実態も知りたい、そのためにはシンガポールが
ちょうど真ん中で居心地がよいと思うかもしれません。今はPT(パ
ーマネントトラベラー)と称する人々がごく普通にいて、自分の好
きなところで好きな仕事をするスタイルが最先端な発想であります
。ならば日本にわざわざ永住権を取る必要がどこにあるのか、分か
りません。
「高度専門職」と称する在留資格を3年程度保持した上で移民権を申
請すれば提供しますよ、というのが今回の趣旨であります。日経新
聞によると15年4月にできたこの制度で15年末までに1508名が高度専
門職の在留資格を取得、うち、中国人が64%とのことであります。
ここから移民権まで申請する人が何%いるでしょうか?こう考えれ
ば政府が目論むであろう人口減対策として良質な外国人居住者の増
加による経済規模を維持するプランは机上のものとなりそうです。
私がカナダで移民としてエンジョイできる理由は何でしょうか?ま
ず、国民が移民権者を差別扱いしません。移民権者にも同等の可能
性があるともいえます。次に人々がギスギスしておらず、優しいし
親切です。困っている人を助けるという精神も立派ですし、新しい
人と出会えば割とすぐに心を開いてくれたりします。子供たちの教
育に於いても英語が母国語ではない人の為のプログラムも充実して
います。そして最後に環境がよい点を上げておきます。夏のバンク
ーバーに一度でも来たら誰でも虜になるのはまるでリゾートの中で
仕事をしているようなものだからでしょう。
それに対して日本はどうでしょうか?通勤からしてストレスフルで
す。業務時間は長く、仕事仲間は保身的でオープンな感じがしない
ところも多いでしょう。ファミリーで移住した方の場合、奥様や子
供が都会の中で楽しく過ごせるかといえば疑問符がつきます。日本
在住の外国人の奥さんが他の外国人の方たちとつるみやすいのは言
葉のハンディもありますが価値観の多様性に日本の社会が適応して
いないからではないでしょうか?
移民申請者は日本が魅力的であれば勝手に増えていきます。緩和し
たから移民が増えるという短絡的なものではないでしょう。私は口
が酸っぱくなるほど言っていますが、日本の国際化をもっと進めな
いと日本は本当に埋没してしまいます。国際化とは日本人が日本を
知ったうえで外国人ときちんとコミュニケーションを行い、相手と
通じ合うことが出来るという意味です。これが出来ないと政府が望
むタイプの移民は日本に来ません。
日本が良い国というのはよくわかります。が、時として相手を否定
してまで日本が一番だと押し付けるような声も耳にします。日本と
カナダを行ったり来たりしている私にとってこのあたりの温度差は
何年たっても変らない気がします。
では今日はこのぐらいで。
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金融政策や財政政策は根本問題を解決しない
対症療法でむやみに薬を飲むべきではない
櫨 浩一 :ニッセイ基礎研究所 専務理事  
2016年04月23日TK
4月14-15日にワシントンで開催されたG20(20カ国財務相・中央銀行
総裁会議)の声明は、前回2月末の上海での会議に続いて「金融政策
のみでは均衡ある成長に繋がらない」と金融政策の限界に言及した
。財政政策の活用については、「経済成長、雇用創出及び信認を強
化するため機動的に財政政策を実施する」と、前回よりもう一歩踏
み込んだ表現となっており、5月に日本で開催されるG7サミットでは
財政政策による景気刺激が焦点になりそうだ。
リーマンショック後、先進諸国ではそれ以前には実施すべきではな
いと考えられていた「非伝統的」と呼ばれる大胆な金融緩和政策を
採用してきた。FRB(米国連邦準備制度理事会)は2008年11月〜2010年
6月のQE1(量的緩和第一弾)、2010年11月〜2011年6月のQE2、2012
年9月〜2014年10月のQE3と、3次にわたって大規模な量的緩和政策を
実施した。
ECB(欧州中央銀行)は、2014年6月にマイナス金利を導入した。こ
の影響でユーロを採用していないスイス、スウェーデン、デンマー
クは、ユーロ圏からの大量の資金流入に見舞われ、資本の流入を抑
制するためにマイナス金利政策に追随することとなった。
大規模で非伝統的な金融政策の効果は通貨安のみ
日本では1990年代に入ってから金融緩和が行われてきたが、不十分
だという論調が強まり、日本銀行は1999〜2000年にゼロ金利政策を
実施し、2003〜2006年には量的緩和政策を実施した。さらに第2次安
倍政権のもとで2013年4月に誕生した黒田東彦総裁率いる日銀は、量
的・質的緩和を導入、「異次元」ともいわれる大胆な緩和に踏み切
った。そして、今年1月にはマイナス金利政策を付け加えた。
このように大規模な金融緩和を行ってきたにもかかわらず、先進諸
国の経済は低迷が続いている。日本も欧州も低迷を脱することはで
きておらず、米国も昨年末にようやく利上げに辿り着いたものの経
済の回復は力強さに欠け、金融政策の正常化には予想よりはるかに
長期間を要しそうだ。
一般的に金融緩和の狙いは、投資に関わるコストを低下させて設備
投資や住宅投資を刺激することにある。しかし、実際に目に見える
効果があったのは、欧州でも日本でも通貨安を作り出したことだ。
マイナス金利の導入でユーロは大幅に下落し、量的・質的金融緩和
で円も大幅に下落した。
今年に入って円安は一服し、円高に転じている。昨年末頃には1ドル
=125円近い水準だったことからすれば、108円程度の現状は大幅な
円高で、輸出企業にとっては厳しい状況だ。このため日銀が追加金
融緩和で円安に戻すべきだという期待が市場にある。
しかし、金融緩和は為替レートを操作するためではなく国内経済の
刺激を目的として行うものだというのがG7やG20における建前だ。競
争的な通貨の切り下げは回避しなくてはならないという認識を日本
も共有している。
長期に円安を持続することはできない
そもそも、円安で外需依存の経済成長を実現することを期待しても
、長期に持続することは難しい。円安で輸出が好調になれば経常収
支の黒字が膨らんでしまうので、大幅な円安という状態を長期に続
けられなくなるからだ。
黒田日銀の異次元金融緩和によって予想以上に円安が進んだのは、
東日本大震災を境に日本の経常収支黒字が急速に縮小して、2014年
初めころには一時赤字となったことも原因だ。
しかし、その後は円安の効果もあって貿易・サービス収支が改善し
、さらに原油価格の大幅下落が加わって、2015年には黒字の水準は
ほぼ震災前に戻っている。米国の利上げ速度が予想より遅いことや
国際経済の不安も原因だが、日本の経常収支黒字の再拡大も円安の
動きが止まり、反転した大きな要因だ。
さらなる金融緩和を行っても円安に頼った景気回復は長続きしない
のだから、円安に頼らない日本経済の立て直し、つまりは外需依存
ではなく内需の拡大による景気回復の道を模索するべきだ。
5月下旬に予定されているG7サミットでは、安倍総理はホスト国の首
相として議論を主導する立場にあるため、3月から「国際金融経済分
析会合」を開催して、内外の有識者との意見交換を行っている。会
議は非公開のため詳細は不明だが、何人かの有識者が2017年度に予
定されている消費税率の10%への引き上げを延期すべきと発言した
と伝えられている。
安倍総理は景気下支えのために2016年度予算の前倒し執行を指示し
ており、年度半ばには補正予算によって事業費の追加が必要になる
ことは確実だ。
かつては各国ともに財政政策を使った景気刺激を活用していたが、
財政政策の多用は慢性的な財政赤字を生みやすく、次第に景気平準
化には金融政策の使用が優先されるべきだという考え方が広まった。
そうした中で日本は他の先進工業国に比べれば財政状況が良かった
こともあって財政政策による景気対策が利用され続け、1990年代初
めにバブル景気が崩壊した後の景気刺激でも多用された。当初は公
共事業の増加による需要の追加が行われ、次いで1994年分所得税・
個人住民税の特別減税、1995年度以降の制度減税、1999年度の恒久
減税、地域振興券の発行などによる消費の刺激が試みられた。
財政出動による景気刺激策で赤字が慢性化
しかし、このような大規模な財政政策による景気刺激でも日本経済
を安定成長軌道に復帰させることができなかったのは金融緩和が不
十分だからだという主張が力を増し、ゼロ金利や量的緩和、量的・
質的緩和といった非伝統的金融政策が採用されるに至った。今また
、非伝統的金融政策では経済を復活させることはできないので財政
政策が必要だという議論になっているのは、再び振り出しに戻って
しまったかのようだ。
政府・日銀はデフレ脱却を目指してきたが、財政・金融政策による
刺激によって2005〜2008年頃や、2013〜2015年頃のように、ある程
度の期間、物価を上昇させることはできたものの、持続的に物価が
上昇を続けるという状態をつくりだすことはできなかった。
物価が下落を続けるデフレが引き起こす問題に注意が集まった結果
、ある程度の物価上昇を作り出しさえすれば日本経済の抱えている
問題が解決するかのような議論が横行した。そもそもなぜ日本経済
を回復軌道に乗せることができないのかという問題が放置されてし
まった。
確かに物価が下落を続けるということは、経済が変調を来たしてい
るという証拠だが、それ自体が問題の根源というわけではない。病
気になると熱が出るが、発熱自体は病気の本体ではないので解熱剤
で熱を下げたところで病気は治らず、薬が切れればまた熱が出てき
てしまう。これと同じように、物価が下落するという症状だけを経
済政策で変えても根源にある問題を解決したわけではないので、政
策を縮小していくと元に戻ってしまうのだ。
財政支出の増加や減税による需要創出を行えば、需要不足という問
題は緩和して経済活動は活発化する。経済の悪化が、何かのショッ
クが引き起こした一時的な需要不足によるものであるならば、経済
は元の経路に戻り大幅な財政赤字は短期間で終了させることができ
る。
しかし、バブル崩壊後の日本経済は慢性的な需要不足になっており
、財政赤字による景気刺激を縮小しようとすると景気が悪化してし
まい、財政赤字を縮小することができないでいる。
対症療法を繰り返すと体力は低下していく
このまま経済の低迷が続く中で大幅な財政赤字を出し続ければ、ど
こかで国債の信用が低下して、国債の借り換えが難しくなるという
形で財政運営が困難になっていくだろう。一方で、財政政策と金融
政策を駆使して大規模な景気刺激を行えば、日本経済を安定成長経
路に戻すことができるという保証はない。景気刺激のために政府債
務を大幅に積み増すというのは、財政危機に陥る時期を早めてしま
うリスクが大きい。
幸いなことに現時点での日本経済は、失業率が3%程度にまで低下し
ていて、今すぐに大規模な景気刺激策を打ち出さなければならない
という危機的な状況ではない。
病気の本体を治療せずに対症療法だけを繰り返していても患者の体
力が低下していくだけだ。2017年度の消費税率引き上げの可否に注
目が集まってしまったが、国際金融経済分析会合で高名な経済学者
が日本経済不振の根本的な原因についてどのような診断を述べたの
かは興味深い。むやみに薬を飲まずに、病気の原因を見極めるべき
だ。
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ヘリコプターマネーの誘惑、日本国民に大惨事招くとJPモルガン
警告
野沢茂樹、Kevin Buckland
更新日時 2016年4月20日 13:55 JST 
日本銀行の黒田東彦総裁による前例のない金融緩和でも景気回復と
デフレからの完全脱却を果たせない中、安倍晋三内閣と日銀の経済
活性化策が「ヘリコプターマネー」的な色彩を強めていくのではな
いかとの懸念が市場で浮上している。
  政府の景気刺激策の財源を中央銀行の紙幣増刷で賄うヘリコプ
ターマネーは、ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマン
氏が1969年に提唱した。20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総
裁会議は第2次世界大戦の遠因にもなった通貨安競争をけん制し、
金融緩和効果の限界に言及。有望視される財政拡張の資金源として
、ヘリコプターマネーをめぐる議論が世界的に広がっている。
  JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、日
本政府がヘリコプターマネーに踏み切る「環境が完全に整った」と
みる。円安要因となる金融緩和の強化とは異なり、財政拡張は「基
本的に国内政策であり、他国から批判されにくい」と説明。ただ、
ひとたびヘリコプターマネーの領域に踏み入れば、日本経済、とり
わけ国民は最終的に「大惨事」に見舞われる恐れが強いと懸念する。
  ヘリコプターマネーには、米連邦準備制度理事会(FRB)の
議長に就任する前のベン・バーナンキ氏も2002年の講演で言及。金
融不安とデフレ下の日本に対して提案した経緯があり、市場では「
ヘリコプター・ベン」とも呼ばれる。中銀による財政ファイナンス
は日米欧とも法律で原則禁止されているが、英銀スタンダードチャ
ータードは日本が早ければ年内にも国債の日銀引き受けに踏み切る
可能性があると読む。
  BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「財政が
拡張方向にあり、追加的な赤字が国債増発でファイナンスされれば
ヘリコプターマネーだ」と言う。日本は13年に10兆円規模の補正予
算と異次元緩和の導入で「アベノミクスの初期段階からヘリコプタ
ーマネーに手を染めていた」と指摘。今年度も日銀の国債保有増が
財政赤字の2倍超に上るため、「追加財政を打つ分だけヘリコプタ
ーマネー的になる状況だ」とみている。
  今月15日のワシントンG20会合後の記者会見で、ルー米財務長
官は日本の為替介入をけん制し、財政出動や構造改革による内需主
導の成長押し上げを要望。増税の時期にも配慮を求めた。国際通貨
基金(IMF)は最新の世界経済見通しで、広範囲な長期停滞局面
に陥るリスクが高まっていると警告。今年の成長率を3.2%、来年は
3.5%に引き下げた。特に日本は16年が0.5%に半減、17年は円高や
消費増税を背景に0.3%からマイナス0.1%に下方修正した。
ブルームバーグ
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2016.4.20 05:00サンケイ
平成27年度の訪日外国人旅行者数、2千万人突破 26年度比で
1・4倍
 平成27年度(27年4月〜28年3月)の訪日外国人旅行者数
が2千万人を突破したことが19日、関係者への取材で分かった。
26年度(約1467万人)比で約1・4倍も増えた。27年通年
ベースで2千万人は目前だったが、今年に入っても中国人客らが春
節(旧正月)休暇に多く来日するなど増加ペースを維持した。
 日本政府観光局(JNTO)が20日に推計値として公表する予
定だ。
 関係者によると、訪日客数は昨年1〜12月に1973万7千人
となった以降も、28年1月が前年同月比52%増、2月も36%
増と大幅プラスで推移した。3月も中国人客などを中心に前年水準
を上回った。
 アジア地域をはじめとする周辺諸国の経済成長に加え、アベノミ
クスによる円安効果により、海外の訪日旅行需要が拡大。地方空港
での国際路線の乗り入れが進んだことに加え、政府がビザ発給要件
の緩和や消費税免税制度の拡充などのインバウンド対策を打ち出し
たことも奏功した。
 安倍晋三政権は、3月下旬にとりまとめた「明日の日本を支える
観光ビジョン」で「32年に4千万人」「42年に6千万人」とい
う新目標を設定した。
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「同一労働・同一賃金」は実現できるのか
問題は「正社員」をなくす雇用の自由化だ
2016.2.26(金)   池田 信夫  JBPRESS
安倍首相は今年に入って「アベノミクス」をほとんど言わなくなり
、最近は盛んに「同一労働・同一賃金」を言うようになった。確か
に正社員と非正社員の差別がひどいことが日本の労働市場の最大の
問題であり、これが賃金の低下を招いて不況の原因になっている。
しかしどうやって同一賃金を実現するのかについては、首相は「一
億総活躍国民会議」で議論してくれというだけで、具体的な政策を
明らかにしていない。というより、明らかにできないのだ。それを
政府が本気でやろうとすると、雇用慣行を根本から変える必要があ
るからだ。
単純な「結果の平等」は実現できない
いま日本の労働人口の中で、無期雇用の「正社員」と呼ばれる労働
者以外の契約社員、派遣社員、アルバイトなどの「非正社員」は40
%に達した。非正社員の賃金は正社員の約60%で、雇用条件も賃金
も大きく違う。
しかし単純な結果の平等を実現することは不可能だ。たとえばある
スーパーマーケットの売り場で正社員が10人、パートタイマーが30
人働いており、労働条件はまったく同じだとしよう。正社員の年収
が(社会保険料・ボーナスなどを含めて)500万円、パートが300万
円だとすると、この売り場の1年間の人件費は、
500万円×10人+300万円×30人=1億4000万円
である。この売り場の(仕入れ原価などを引いた)利益は年間6000
万円としよう。ここで正社員とパートを同一賃金にすると、すべて
の労働者の賃金は
1億4000万円÷40=350万円
となる。これはパートにとっては50万円の賃上げだが、正社員にと
っては150万円の賃下げになる。これを労働組合に提示したら、間違
いなく拒否されるだろう。
では正社員の賃金を維持したままパートの賃金を同一にすると、人
件費は
500万円×40人=2億円
となり、利益はゼロになってしまう。これでは企業はやっていけな
いので、人件費を変えないでパートを削減すると、
500万円×10人+500万円×18人=1億4000万円
となって12人のパートが職を失い、今まで300万円もらっていた人が
失業者になってしまう。つまり安倍首相の考えているのは雇われて
いる労働者の中の平等であり、失業する最も弱い立場の労働者のこ
とは考えていないのだ。



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