5664.米国の保護主義でどう世界はなるのか?



米国のトランプ候補やサンダース候補は、保護貿易主義を主張して
いる。今までは、第2次大戦の教訓から自由貿易主義を米国は実践
していた。

戦前は、米国の工業が最盛期であり、米国にとって利益があったこ
とも事実であったが、現時点では、米国のブルーカラーにとっては
、最悪の政策である。

とうとう、このブルーカラーが、声を上げ始めた。1%の金持ちと
99%のブルーカラーとなり、民主主義では、99%の人たちの意
見がその世界を作ることになる。

ということで、米国は、遅かれ早かれ保護主義になる。高関税が障
壁として、貿易の前面に立ちはだかる。そうすると、世界的な保護
主義が蔓延する。

もう1つが、地域貿易圏が重要になり、ブロック経済化が進むこと
になる。1929年以降の世界に逆戻りしたことになる。

中国は、自分の生存権を中央アジアに求めて出ていくことになる。
ロシアも同様に中央アジアに出ていく。日本は東南アジアに出てい
く。

世界の貿易が止まると、各国の経済成長は鈍化するので、世界的な
不況になる。このため、再度、紛争が頻発してくる。

というような経緯に進むことになりそうである。そのトリガーを米
国が、またもや引くようである。

さあ、どうなりますか?


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 2016年 04月 20日 12:57 JST 
コラム:トランプ氏は正しい、自由貿易は米国民を殺す
Robert L. Borosage
[14日 ロイター] - 2016年の米大統領選に向けた政治論争
のなかで、通商政策が焦点となっている。共和党指名争いでトップ
を走る不動産王ドナルド・トランプ氏は中国からの輸入品に45%
の関税を主張している。
また、民主党指名を目指すバーニー・サンダース上院議員からのプ
レッシャーを受け、ヒラリー・クリントン前国務長官まで、オバマ
米大統領が進める環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に反対
している。同氏は以前、貿易協定の「模範」とまで称賛していたに
もかかわらずだ。
いま明らかになりつつあるのは、米国のグローバル通商政策・関税
政策がいかに破壊的なものだったかという点だ。確かに、輸入品の
価格低下とその多様化は、米国民に恩恵を与えた。だが、その一方
で米国は過去に類を見ないほどの貿易赤字を抱えており、その額は
現在、年間約5000億ドル(約54.5兆円)、すなわちGDP
(国内総生産)の約3%に相当する。
中国との貿易に限っても、米国は1990年から2010年までに
、推定240万人の雇用を失っている。対中貿易収支も、記録を開
始して以来となる過去最大の赤字である。企業は人件費が安く環境
保護・消費者保護の規制がほとんどない中国のような国々へ良質な
雇用を移転させてしまい、米国には地域社会が丸ごと荒廃してしま
った例がいくつもある。
エコノミストの試算によれば、人件費の安い国々との貿易に伴い、
米国のブルーカラー労働者の賃金は年間約1800ドル低下してし
まったという。解雇された労働者は所得も家も失い、結婚もできず
、希望を失っている。次の職を見つけるために驚くほど長期にわた
って苦労したあげくに、多くは以前よりも低い収入の職に就かざる
を得ない。
貿易協定による恩恵の大部分は、企業のバランスシートを改善し、
投資家、経営上層部を潤わせる。一方で労働者は、所得も、雇用の
安定も、力も失っている。
では、米国の新たな通商政策とはどのようなものだろうか。
第1に、批准待ちの状態になっているTPPを放棄し、現在進行中
の環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の交渉を中断す
ることにより、最近の貿易協定のテンプレート(ひな形)とは縁を
切ることだ。
新たな通商政策は、今までとは異なる原理に基づくものになる。ハ
ーバード大学ケネディスクールで国際政治経済学を研究するダニ・
ロドリック教授が主張するように、貿易は、それ自体が目的ではな
く、手段として見なされるべきだ。連邦政府は、米国が、そして他
国が、自身の価値観を追求できるような貿易システムを模索すべき
なのである。
良識あるシステムの下では、各国は労働者の権利保護や環境関連法
制など、自国の社会的な取り決めを守っていけるだろう。議会は、
貿易協定について明確な目標を定め、何を交渉の対象とするかを決
定する権限を取り戻し、進行中の交渉内容を知ることができるよう
になる。大統領に秘密交渉を認め、議会は合意内容を修正できずに
賛否だけを表明せざるを得なくなるファストトラック権限は撤回さ
れるだろう。
また、貿易協議の実質も大きく変わるだろう。たとえば、製薬会社
の特許権の執行に関する詳細な交渉の代わりに、労働者に影響を与
える差し迫った問題が新たに注目を集めることになる。「パナマ文
書」が暴露した租税回避スキャンダルが裏付けているように、グロ
ーバル企業に対する課税の強化と調和、タックスヘイブン(租税回
避地)の閉鎖と協調的な税務執行が交渉の中心になるだろう。気候
変動対策としてグローバルな炭素排出価格の設定推進も優先課題に
なる。各国が通貨操作に対して報復する権限を与えることも重要だ。
経済政策研究センターのディーン・ベイカー共同所長が提案する取
り組みとして、医師、歯科医師、弁護士の過剰な所得を守っている
障壁の排除がある。海外で訓練を受けた医師や歯科医師が米国で開
業できるようになれば、年間900億ドル、1人あたり約300ド
ルの医療費が節約できるとベイカー氏は試算している。
また国際的な交渉によって、医療研究に対する公的な直接融資を行
うグローバル基金が誕生する可能性もある。研究の成果はパブリッ
クドメインのままとなる。ベイカー氏の試算では、米国において、
医薬品のコストが下がれば、年間3600億ドル、対GDP比で2
%、1人あたり約1100ドルの節約になるという。これはTPP
推進派が同協定から得られるとする恩恵よりもはるかに大きい。
下院最大の議員連盟として70名以上が参加する「進歩的議員連盟
」は、思慮に富む代替的な包括通商政策を提示している。この計画
では貿易の拡大、ただしバランスの良い貿易を目標として掲げてい
る。米大統領の立場から、米国が5年間で貿易収支をほぼ均衡状態
にまで持っていくことを計画していると発表することもできる。そ
うすれば貿易黒字を抱える諸国は、国内需要を増やし、輸出主導の
成長への依存を低下させなければならないと気づくだろう。またグ
ローバル企業も、もし米国市場にアクセスしたければ、米国内でも
っと投資した方がいいことに気がつくはずだ。
より均衡のとれた貿易を求める声は、2009年の金融危機発生後
に開催された主要20カ国・地域(G20)会合でも支持されてい
た。だがドイツと中国が危機を脱するために輸出に力を入れたこと
で、この合意は長続きしなかった。
貿易収支均衡は、かつて著名投資家ウォーレン・バフェット氏が提
唱したように、トレードバウチャー制度によって実現することも可
能だ。一定の額の財を輸入する権利を企業に与え、毎年その額を予
想輸出額に近づけていく仕組みだ。または、米国の主要貿易相手国
について、米国が遵守すべき貿易赤字の上限をそれぞれ定めてもい
い。そうすれば貿易相手国には、輸入増加と輸出削減を迫るプレッ
シャーがかかり、さもなければ事実上の関税として作用する課徴金
を支払うことになる。
第2に、議連が提案する計画には、労働者の権利、人権、消費者保
護、環境保護を実現する手段を詳述している。これらの課題につい
て各国がその希望に応じてより厳しい法制を定める権利も保護され
る。貿易協定によって必須医薬品に対する妥当な価格でのアクセス
が確保されることも必要とされる。こうなれば、特許による保護を
拡大しようとする製薬会社の企ても抑制されるだろう。
第3に、議連の計画では、貿易協定が「国家としての権利」を尊重
することを求めている。これを実現するために、投資家対国家間の
紛争解決制度(ISD制度)は撤廃され、グローバル投資家は各国
の法制度に依拠せざるをえなくなる。グローバル企業が腐敗した国
内制度に懸念を持つのであれば、自家保険をかけるか、別の国に投
資すればいい。
また計画は、政府調達に関する「米国製品優先購入(バイ・アメリ
カン)」政策を拡大し、擁護することになる。自分が納めた税金が
、世界中の雇用を支えるためではなく、自国の雇用を支えるために
使われることを要求できるようにすべきなのだ。
第4に、実はこの計画は、自由貿易主義者が理屈のうえで支持して
いることをうまく達成することになる。つまり、グローバル貿易の
勝者が敗者に補償を与えるということだ。
失業した米国の労働者は、拡大貿易調整支援法に基づく支援を得ら
れる。以前より賃金の低い仕事に就かざるを得なければ、拡大され
た失業給付・賃金保険を受けられる。新たなイニシアチブでは、工
場閉鎖によって打撃を被った地域社会に対する的確な支援が提供さ
れるだろう。米国よりも労働者の賃金が高いデンマークとドイツで
は、労働者が貿易システムの犠牲にならないよう、米国よりはるか
に多くのリソースを高度な研修・就職斡旋プログラムに投じている。
明快な産業戦略も、より均衡のとれた貿易のためにプラスになる。
すなわち、すでに世界を席巻しつつある「グリーン産業革命」に欠
かせない製品の発明、製造、販売における優位を生かすことに特化
した戦略である。
米政府の現在のシステムの支持者は、自由貿易か保護主義かという
選択を装っている。だが、現在のような貿易協定は自由貿易を生み
出すものではない。特定の利権のための選択的な保護を行っている
だけだ。米国の破滅的な貿易赤字は、グローバリゼーションの避け
がたい帰結ではなく、通商・関税政策の意図した結果なのである。
サンダース、トランプ両候補は、米国の現在の針路の愚かしさを暴
くのに貢献した。
我が国の通商政策は、少数の利益に有利なルールの典型的な例であ
る。労働者が不利になり、CEOたちがますます高額の所得を得る
なかで、エコノミストたちも、米国の異常なまでの格差拡大に彼ら
が直接貢献していることを認めるようになっている。進歩的議員連
盟の提案は、理にかなった代替案が可能であることを示している。
米国の現在の窮状は、政治と権力の問題であり、運命ではないのだ。
*筆者は進歩主義的な米シンクタンク「Institute for America’s 
Future」の設立者。姉妹団体「Campaign for America’s Future」
の共同ディレクターも務める。




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