5657.「トランンプ大統領」に備えよ。



■「トランンプ大統領」に備えよ。 ?TPP、米露同盟、および核武装?
                       佐藤
●トランプの主張するTPP参加破棄は、別の方法で中国包囲網機能が
補完されるならば日本にとってウェルカムである。
●トランプとプーチンは、公言し合っているように肌が合う。「米
露同盟」が結ばれる場合には、日本は可能なら3国同盟化、少なくと
も仲介等により優位な立場で絡まなければならない。
●トランプであろうが無かろうが、ファイナンスに行き詰まった米
国は日本により防衛負担増を求める。日本はこれを、自主防衛を高
める契機とすべきである。
ただし、核武装は別次元の問題であり、切り離して駆け引きしなけ
ればならない。

◆ジュリアーニ副大統領?◆
米大統領選挙の行方は予断を許さないが、共和党予備選挙の焦点は
、ドナルド・トランプ候補の副大統領候補選定に焦点が移った感が
ある。
4月7日に、ジュリアーニ元ニューヨーク市長がトランプ支持を正式
に表明した。
もしジュリアーニを副大統領候補とするなら、本選挙で民主党のヒ
ラリー・クリントンを本拠地のニューヨークにある程度釘付けする
効果があるだろう。
また、市長在任中に治安対策等で確実な成果を上げた手堅い行政手
段が、共和党主流派のアンチ・トランプ感情を宥めるのに多少役立
つ。
トランプは、不法移民対策やテロ対策である意味現実離れした過激
な主張をする一方、自分は政治家ではないので、実際の行政はプロ
の政治家に任せるとも発言しており、副大統領候補選び(ペイリン
元アラスカ州知事となる場合は、国務長官選び)が実際の「トラン
プ政権」を性格付けるだろう。
何れにしても、大統領予備選挙および本選挙の結果は、様々な要素
、なかんずく今後大なり小なり起こる可能性のある米国内外のテロ
の規模、背景、タイミングにより、米国世論がどちらに転ぶかによ
って大きく左右されると思われる。

◆TPP参加破棄◆
さて前置きが長くなったが、米国「トランプ政権」が成立する蓋然
性が相当程度ある以上、我が国日本としても、その備えをして置く
事は当然に必要である。
外務省が情報収集を始めたと既に公式に発表したが、それと並行し
て国家レベルでの対応基本戦略を今から検討して置かねばならない。
まず、トランプは「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は米国民の
利益にならず参加を破棄する」と公言しているように、もしトラン
プ政権が成立すれば恐らく破棄するであろう。
そもそもTPPには、次の3つの機能がある。(1)自由貿易の理想の実
現、(2)中国包囲網の構築、(3)米国(グローバル)企業による
日本からの収奪である。
(1)と(2)は、日本の利益になるが、(3)についてはISDS条項(
投資家対国家間の紛争解決条項)や、ラチェット規定 (自由化不可
逆規定)のような強力な武器がTPPに組み込まれており、丁々発止の
米国(グローバル)企業・弁護士・ロビーに動かされる米議会によ
り日本企業・政府・国民が手玉に取られ毟り取られる可能性が高い。
もし、TPPの持つ中国包囲網の機能が別の方法で補完されるならば、
米国のTPP参加破棄は日本にとってウェルカムである。
ただし、トランプは誤解も含めて中国と並んで日本を貿易不均衡国
として名指ししており、更に過酷な要求をしてくる可能性は想定し
て置かねばならない。

◆「米露同盟」と日本◆
「トランプ政権」となった場合に、「米露同盟」が締結される可能
性も相当程度ある。
トランプとプーチンは、公言し合っているように肌が合う。
トランプが「米国の復活」を本気で進めるならば、「米露同盟」締
結で中国を牽制し、中東関与を薄め、軍事予算を減らすのは合理的
な選択肢だろう。
これまで、その選択を阻害していたのには、中国贔屓のキッシンジ
ャーと、オバマの外交指南役にしてポーランド難民で旧ソ連に恨み
を持つブレジンスキーという米外交戦略の2大巨頭の力が大きかった。
しかし、東欧・中東での度重なる失策と中国の台頭で2人の発言力も
低下し、若しくは微妙に方向転換しており、ハードルは下がって来
ている。
「米露同盟」が結ばれる場合には、日本は北方領土問題に筋道を付
けて置き可能なら3国同盟化、少なくとも仲介等により優位な立場で
絡まなければならない。
米露が日本の頭越しで同盟を結ぶ場合、日本の関与する余地は少な
いが大国同士の面子維持のため調印式は第三国で行う等で、最悪象
徴的な意味だけでも日本が絡むことは可能である。

◆防衛負担増と核武装、および新秩序◆
トランプであろうが無かろうが、ファイナンスに行き詰まった米国
は日本により防衛負担増を求めて来る。
トランプ等の言う、日本安保ただ乗り論は、日本が相当額の米軍駐
留経費を負担しているとしても、ある意味正しい。
米軍が日本を守っても、昨年成立した安保関連法によっても基本的
には日本は米国を守らないのが日米安保条約の内容である。
トランプ等の主張する防衛負担増への対応には、日本が米軍駐留経
費等を増額する選択と日本がより自主防衛を高める選択の2つがあ
る。

筆者は、前者は選択すべきでないと考える。
理由として、トランプは大きく吹っかけて来るだろう。
第一、それにより日本がより主体性を失って行く事になる。
日本はこれを、自主防衛を高める契機とすべきである。
場合によっては、米国や米軍が危機に在るとき日本が助けに行って
もよい。
しかし、例えばイラク戦争のような筋の悪い戦争に、従属的に付き
合うべきではない。
兵を出す際には、国際的大義を伴い、かつ長期的国益に適う場合に
のみ主体的に出さねばならない。
その原則を具体化するために、日本は安全保障基本法を成立させ、
進んでは憲法改正をすべきである。

ただし、トランプの言う、日韓から米軍が撤退した場合、両国の核
武装を容認するという発言には飛躍がある。
米軍が撤退しても、米国の西向きおよび太平洋等の潜水艦搭載の核
ミサイルは、中国と北朝鮮とロシアに向いている事は変わらないの
で、米軍の核配備費用が削減される訳ではない。(ただし、日韓が
中・北に攻撃されたとき、米軍核ミサイル使用で米国が反撃される
リスクは減る。)

トランプの日韓核武装容認発言は、不動産王としての交渉術の側面
が強いだろう。
日本にとって、核武装は別次元の問題であり、切り離して駆け引き
しなければならない。
核拡散の危険性(残念ながら日本の現在の核管理能力の不足も含め
て)を考えれば、費用負担の引き換えに米国管理の核ミサイルの発
射ボタンを日本がシェアリングする、所謂「レンタル核」が現実的
だろう。
もちろん、米国が日本の永遠の味方である保証はなく、そのために
核の自主開発を出来る能力と核物質を(核管理能力を高めて)、国
際社会を説得しつつ保持して置く必要もある。
よく言われるように、モンロー主義的に米国が他国への軍事的関与
を減らして行くというのは、トランプもオバマも同じである。
ただ、オバマは負け犬風に、トランプは吠えながら撤退戦を行おう
としている。
米国が覇権を降りたら、米国の衰退は止まらず、世界も多極化し大
混乱するとの恐れが外交軍事の専門家から語られており、筆者も賛
同する。
しかし、米国も無い袖は振れまい。
筆者は、米露同盟に日本が加わり世界の安全保障体制の基軸を為す
一方、イスラムを世俗化穏健化して統一させキリスト教はこれと和
解し、他国も合わせ中国包囲網を完成させてその牙を抜く事が、今
後の世界秩序の大戦略であらねばならないと考える。
これは、次期米大統領が誰になっても変わらない。
しかし、トランプ政権となった場合、事態は加速する。
日本はタフな交渉で国益を確保しつつ、この画を実現させるべく、
より主体的に動く事が必要となるだろう。

                    以上

佐藤 鴻全



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