5653.中国の混乱はだれが起こしたか?



中国の習近平独裁体制確立が危ぶまれる状況になっている。しかし
、この状況を作ったのは、誰なのかを考察する必要がある。
                         津田より

0.中国の動向
20年くらい新聞・雑誌を毎日読み、記事を保存・検索できる状態
にしている。何か変わった事態が起こったら、関係する過去の記事
を入念に読んで、なぜそうなったのかを考察するようにしている。

前回中国のコラムで、中国の政治体制は、軍部と政府が相互に干渉
できないために、統一的な外交ができない。軍部は対外的には強硬
な立場であり、政府は経済的な相互関係があるので、対外的には融
和である。このため、両者の主張や行動は、外から見ると中国がバ
ラバラで信用できないと見えてしまう。このため、両者を統制する
必要がある。

しかし、両者を統制できるのは、党中央の総書記だけである。党中
央政治局も軍事部門の行為をチェックできないようになっている。
このため、中国が危機に直面すると、党総書記に権力を集めて、両
者を統制しないといけないことになる。

このため、総書記に政治権力を集めるために、個人崇拝をするよう
な方向に向かってしまうのであるが、権力を集めるために政治的に
は難しくなる。今まで、前総書記・胡錦涛時代には危機ではなかっ
たので、党の民主化をして共産党員の比較的自由な発言を許容して
いたからだ。

中国が発展すると、その民主化を徐々に広げる方向であろうと、世
界、特に米国のリーダーたちは見ていた。しかし、中国の現在進ん
でいる方向は、期待とは違い毛沢東の文革に近い、個人崇拝と党員
でも自由な議論を取り締まる方向に舵を切ったように見える。

このため、中国国内の不満も高まり、諸外国も中国への期待を裏切
られた為に不満、不安が高まっている。国内と国外の両方で不満が
あるということは、そこに工作の余地ができることになる。

それを米国は、2015年から始めていた。オバマ大統領は、国防
総省の南シナ海での海軍艦船の航海を許さずに、政治工作をしてい
たようである。

1.王岐山の行動
中央規律検査委員会トップの王岐山は、中国では珍しい清廉潔白な
人であり、その人物が中国の政治家たちを取り締まっているために
、政治家や行政官が我慢できるか、海外に逃げ出しているのである。

この王岐山は、時々行方不明になっている。多くの場合は、省トッ
プの汚職を摘発するするために、行動していると見えているが、米
国などの要人と会っている可能性もあった。

王岐山が経済担当の副首相時代に、当時のヘンリー・ポールソン米
財務長官と親友になり、そのポールソンを経由して、いろいろな情
報を得ることが出来る。もう1つ、中国の経済的な発展をするため
には親米的である必要を強く感じている。

2014年に習近平が団派の追い落としのために、胡錦濤・前国家
主席の最側近である令計画を汚職で逮捕したが、令計画は、習近平
など党要人の不正蓄財や情事に関する情報を集めていた。その情報
を義弟、完成氏に預けて、もしものことがあったら米国に逃亡して
情報を米国政府に渡すように指示していた。

このため、米国政府は習近平の汚職情報を持っている。この情報を
返還してもらう交渉を習近平は王岐山に指示して、王岐山はポール
ソンを交渉窓口にして、米政府に完成氏の中国へ引渡しと情報の返
還を求めた。

2.王岐山の反乱
王岐山も危機的な状況での総書記への権力集中を了解していたが、
習近平は、個人崇拝のために、毛沢東の文化大革命と同じようなこ
とをし始めて、共産党内の自由な議論も制限し始めた。

自分の親友である任志強が、「人民の政府はいつ党の政府になった
?」「すべてのメディアの姓が党になって人民の利益を代表しない
ようになったら、人民は忘れ去られて片隅においやられるんだ!」
といった批判をネットの微博上でつぶやいた。

これに対して、中国の大手ネットメディアらは「任志強は西側憲政
民主の拡声器だ」「任志強は民衆の代弁者のふりをして、民衆の反
党反政府の憤怒の情緒を扇動している」などとバッシングを開始し
た。これは、あたかも、文革のつるし上げの様相であった。

王岐山は2月28日、汚職Gメンこと中央規律検査委員会巡視隊を中央
宣伝部に派遣し突然の“ガサ入れ”を行って、中央宣伝部およびメ
ディアを黙らせるとともに、3月1日に中央規律検査委機関紙「中央
規律検査監察報」上に「千人が唯々諾々と語るより一人の士の諤々
とした発言の方がまさる(千人之諾々、不如一士之諤々)」と題し
た原稿を発表させた。一人の士とは、任志強である。

とうとう、王岐山まで習近平に反乱したことを見て、習近平批判を
して投獄された著名ジャーナリストでコラムニストの賈葭氏(35
)も釈放されたのである。

王岐山は、全人代でも習近平に気安く声をかけていたが、王岐山は
習近平の汚職情報を持ち、いつでも習近平を刺すことができるよう
である。

このように、王岐山の反乱で、習近平の権力集中は失敗したのであ
る。

中央軍事紀律検査委員会書記(中央軍事委副主席兼務)のポストに
親友の劉源を迎え、王岐山と同じような役割を期待したが、殺され
ると劉源は固辞して退役している。これにより、軍部も抑えること
ができない状態になっている。

3.今後の方向は
ということで、習近平は、軍部の意向を止めることができずに、米
中首脳会談で「航行の自由を口実とした利益侵害は認めない」と、
米中の懸案事項を述べている。米国は次の手を繰り出してくること
になる。

経済的な面での不利益を中国に行うように感じる。高級ホテルの買
収を中国企業が優位に進めていたが、それを米国政府は妨害してい
る。太子党の子弟たちは国営企業にいるが、経済的には米国との関
係が強いので、その不利益は太子党としても無視できないことにな
る。

中国経済は、不良資産、不良債権などが、ドンドン積み上がってい
る。この状況と政治的な不安定を見て、富裕層はカナダなどに移民
を開始して、中国での有名人も米国に移民している。この富裕層た
ちが大量の資金を中国から持ち出している。資金流出は、この富裕
層の失望から起こっているのである。

政治的なもろさが経済的なリスクになりつつある。サプライサイド
経済学を推進すると政府は言うが、広範な産業構造転換を断行すれ
ば、最終的に失業と社会不安をもたらすことになるのは避けられず
、政権は確信を持って産業の改革を行う必要があるが、政治的な不
安定で出来るかどうかわからない状態になった。

しかし、世界経済は中国の成長に依存している。中国の政治的な失
敗は、株式市場の乱高下や通貨危機よりも破滅的な影響をもたらし
得る。

特に、日本の近傍に中国があり、経済的相互関係も強いので、中国
の経済的な失敗は、大きな悪い悪影響を日本にもたらしてしまう。

もう1つが、中国の失敗が、地域の緊張を増す可能性もある。軍部
が政府より上位になり、愛国心を高めるために、中国の力を見せる
という行動に出る可能性も高い。

この軍部の行動を習近平は抑えられない。周辺諸国は、中国の経済
的な失敗が軍事的な攻勢に置き換わる可能性と、米国の引きこもり
が起きて、米国も助けてくれない事態を想定する必要が出ている。
今後の政治家は、泣きたくなる状態を想定して政治を行うしかない。

さあ、どうなりますか?


参考資料:
China’s Next Agenda
https://www.project-syndicate.org/commentary/china-growth-through-pro-market-reforms-by-martin-feldstein-2016-03

The Key to Understanding China’s Economy: Its Politics
http://www.nationalinterest.org/blog/the-buzz/the-key-understanding-chinas-economy-its-politics-15015?platform=hootsuite

China’s Next Stimulus
https://www.project-syndicate.org/commentary/china-structural-reform-fiscal-stimulus-by-yu-yongding-2016-03

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米中首脳会談、中国国家主席「航行の自由を口実とした利益侵害は
認めない」―中国メディア
配信日時:2016年4月1日(金) 11時50分 
2016年4月1日、新華社によると、核セキュリティーサミットに出席
するため米ワシントンを訪れた中国の習近平(シー・ジンピン)国
家主席は現地時間31日、オバマ米大統領と会談した。 
習主席は近年の米中関係の発展を評価した上で、世界1、2の経済大
国である米中は世界の平和、繁栄に大きな責任を持っていると指摘
。協力拡大の重要性を挙げると同時に、「米中は互いの核心的利益
を尊重しつつ、対話によって両国の間に横たわる問題解決を図るこ
とが必要」との認識を示した。 
北朝鮮問題をめぐっては、「中国は一貫して朝鮮半島の非核化、対
話による問題解決の道を堅持」と説明し、「各国は緊張情勢を高め
るような言動を慎み、国連安全保障理事会の決議を厳格に履行すべ
きだ。他国の安全保障上の利益や地域戦略の均衡に影響する可能性
のある措置を取るべきではない」と語った。また、南シナ海におけ
る中国の主権を改めて主張し、「中国は国際法に基づく各国の航行
と飛行の自由を尊重する。航行の自由を口実に、中国の主権と利益
を脅かす行為はいかなるものであっても認められない」「南シナ海
の平和と安定に向け、米国が建設的な役割を果たすことを期待する
」と発言した。 
習主席は台湾問題も取り上げ、米中関係の長期的な発展に有利に働
くとして「1つの中国」政策の堅持を米側に申し入れた。
(翻訳・編集/野谷) 
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記事 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)
2016年03月31日 10:53
 中国政治のもろさ、経済を損なうリスク  
 【上海】中国経済はもはや崩壊が差し迫っているようには見えな
い。人民元の下落に賭けたウォール街のヘッジファンドは大きな損
失を抱え、暴落した株式市場は安定化しつつある。
  実のところ、中国経済が崩壊する可能性は少しもなかった。中国
政府が言明してきた通り、中国は短期間のうちに安定性に対する脅
威を撃退し、経済の失速を防ぐために十分な財政力を発揮した。
  今はそれよりもっと可能性の高そうな何か、つまり政治の失敗を
心配すべき時だ。
  中国指導部は自ら約束した経済の大改革に覚悟を決めて着手する
ことに二の足を踏んでおり、それが問題の根っこになっている。経
済の大改革は赤字続きの、「ゾンビ」と呼ばれる国有企業の閉鎖か
ら始められるはずだった。ここにきて、長く先送りされてきた改革
を一気に始める機会が訪れた。だが、当てにしてはいけない。
  そこに欠けているのは政治的決意だ。国有企業の損失が銀行業の
健全性を脅かしていた1990年代に、国有企業の改革に踏み切った当
時の指導部が見せたのと同様な強い政治的決意が今の指導部には必
要だ。90年代の指導部はその後、再び自己満足感が覆い始めた2001
年に世界貿易機関(WTO)に加盟することで、国有企業を世界の優良
企業と正面から競争する環境に置き、国内経済に衝撃を与えた。
  現在の指導部は政治的決意の代わりにスローガンを打ち出した。
その一つが「新常態(ニューノーマル)」だ。過剰な生産能力と企
業利益の縮小、急速に膨らむ赤字を主因とする成長の減速を釈明す
る自己防衛の常套句(じょうとうく)である。それに、指導部はレ
ーガン米大統領とサッチャー英首相時代に流行した経済理論を焼き
直した。「サプライサイド経済学」だ。
  習近平政権による重要な成果は反汚職キャンペーンだ。もっと早
くにやっておくべきだったという点ではほとんど異論はないだろう
が、疑問も残る。次はどういう展開になるか、という疑問だ。
  「これはとても価値のある質問だ」と胡祖六(フレッド・フー)
氏は言う。胡氏はプライベートエクイティ(PE=未公開株)投資会
社の春華資本集団(プリマベーラ・キャピタル・グループ)の創業
者で、過去に何度か政府の非公式経済アドバイザーを務めたことも
ある。
  習氏が政権に就いて間もなく、共産党内部の腐敗に総攻撃を始め
た際、これは目的を達成するための手段だと大半の人が考えた。家
をきれいにした上で、産業構造の転換という本来の仕事を始めるだ
ろうとの見方だ。
  ところが、まるで反汚職運動それ自体が目的であるかのような様
相が強まっている。大勢の政府関係者を引きずり下ろすことで、習
氏は政敵を排除し、権力を掌握し、一般大衆の間での人気を確固た
るものにしてきた。
  胡氏は中国指導部が自ら約束した改革を断行する「政治的決意と
手腕」を併せ持っているか疑問を呈しているものの、望みを捨てて
はいない。
  今後が期待できる兆候の一つは、同氏によると、国有企業の破綻
件数が急増していることだ。これは指導部がとうとう改革を始めた
証しだという。
  しかし、フィルターにかけられた上で各地方から戻ってくる報告
は、政権が国有企業の大量の閉鎖ではなく、再編を考えているらし
いことを示唆している。国家の政策立案者は恒常的に過剰生産が続
いている業界――セメント、鉄鋼、石炭、ガラス――の大手企業に
対し、同じ地域にある体力の劣る同業他社を乗っ取るよう指示を出
している。換言すれば、政治的には競争の拡大ではなく、さらなる
独占が指向されているということだ。
  一方、個人消費がけん引する経済への転換という難事業を進める
ために、個人の創造性と社会的な活力へのテコ入れを必要としてい
るまさにその時に、国の政治システムが閉鎖性を増している。また
習氏の権勢と政治的弾圧は切っても切れない関係にある。
  こうしたことすべてが共産党内部の対立を先鋭化させ始めている
。その証拠に、習氏の辞任を要求する謎の書簡が今月、中国のニュ
ースサイトに掲載された。現在、犯人捜しが行われているが、この
サイト運営会社と関連会社の従業員が十数人、行方不明になってい
る。
  政治的なもろさが経済的なリスクになりつつある。広範な産業構
造転換を断行すれば、最終的に失業と社会不安をもたらすことにな
るのは避けられず、政権は確信を持って産業の改革を行う必要があ
る。経済が急激に減速しているため、中国政府は政治的に難しい改
革の断行を余儀なくされ、それが以前よりさらに抑圧を強める可能
性もあると指摘するエコノミストもいる。
  ドイツのガウク大統領は先週、上海にある中国有数の同済大学で
講演し、中国が独裁色を強めていることに対して、中国と交易のあ
る西側諸国が懸念していると話した。
  中国を訪問する欧米諸国の首脳は政治的な論争を敬遠しがちだが
、ガウク大統領は珍しく、丁寧ではあるものの率直な言い方で、共
産党が支配した旧東独の人々のみじめな暮らしについて語った。ガ
ウク大統領は旧東独の「大半の人は幸せでも自由でもなかった」と
述べた。大統領は学問的な自由や、市民が自発的に参加する社会、
人権、労働組合を擁護した。これらはすべて、現在の中国政府の弾
圧により危険にさらされている。
  ガウク大統領は学生たちに向けて、「中国の安定と繁栄はドイツ
にとって重要だ」と語りかけた。
   ドイツに限らす、世界中にとっても重要だ。世界経済は中国の
成長に依存している。中国の政治的な失敗は、株式市場の乱高下や
通貨危機よりも破滅的な影響をもたらし得る。
 (筆者のアンドリュー・ブラウンはWSJ中国担当コラムニスト)
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習近平は「十日文革」で“友達”を失った
「鬼平」「軍師」「大番頭」が消え、揺らぐ足元
福島 香織
2016年3月30日(水)日経bp
 習近平と王岐山の関係に亀裂が走っている、という話を聞いた。
“十日文革”と揶揄される任志強バッシングがそのきっかけだとい
う。任志強は王岐山の幼馴染にして今なお深夜に電話で話し込むよ
うな大親友関係であり、2月以降に盛り上がった任志強バッシング報
道は実は王岐山バッシングであったことは誰もが感じとっていたこ
とだろう。私は劉雲山VS王岐山・習近平の戦いの文脈でこの事件を
読んでいたのだが、現地の中国の政治ウォッチャーたちが読み解く
権力闘争構図はそう単純ではないようだ。
 任志強がどういう人物か、簡単に説明しておこう。
 父親は元商業部副部長まで務めた高級官僚・任泉生。本人は不動
産大手・華遠集団総裁を務めたことのある太子党の不動産王である
。2014年に企業家から足を洗っているが、中国不動産協会副会長な
ど役職を務める不動産業界のドンであることは変わりなく、また北
京市政治協商委員(市議に相当)、北京市西城区人民代表(区議に
相当)という役職にも就いている。
「中国のトランプ」を一斉にバッシング
 本人がその回顧録でも明らかにしているように、中央規律検査委
員会トップの王岐山と幼馴染で、その親密な関係を隠しもしていな
い。王岐山は言うまでもなく、習近平政権の反腐敗キャンペーンを
指揮する“中国汚職改筆頭”の“鬼平”であり、官僚・企業家たち
から蛇蠍のごとく嫌われ恐れられている人物であるが、その王岐山
の親友であることを背景に、任志強は“中国のドナルド・トランプ
”のあだ名がつくほどの放言癖がある。
 中国の大手メディアが足並み揃えて一斉に“任志強バッシング”
を始めたきっかけは2月19日。習近平が党総書記としてCCTV、人民日
報、新華社を視察に訪れたとき、CCTVが習近平に忠誠を誓っている
ことをアピールするために、テレビ画面に大きく「CCTVの姓は党、
絶対忠誠を誓います。どうぞ検閲してください」と卑屈な標語を掲
げたことに対して、任志強が「人民の政府はいつ党の政府になった
?」「すべてのメディアの姓が党になって人民の利益を代表しない
ようになったら、人民は忘れ去られて片隅においやられるんだ!」
といった批判をネットの微博上でつぶやいた。
 この発言は、ネットユーザーらのみならず、体制内知識人にも大
いに受けた。任志強は党中央メディアの卑屈な習近平擦り寄りぶり
を批判しているのだが、その本質は個人崇拝をメディアを通じて仕
掛けている習近平自身に対する批判でもある。
 これに対し22日、中国の大手ネットメディアらは「任志強は西側
憲政民主の拡声器だ」「任志強は民衆の代弁者のふりをして、民衆
の反党反政府の憤怒の情緒を扇動している」などとバッシングを開
始した。これは、あたかも、文革のつるし上げの様相であった。
 2月28日には、大手ポータルサイト新浪と騰訊の任志強のアカウン
トも国家インターネット情報弁公室の命令で閉鎖させられた。
「山を隔てて牛を打つ」権謀術数の只中で
 だが中国メディアおよび中央宣伝部がかくも威勢よく任志強バッ
シングを展開した本当の狙いは、別に習近平への忠誠心からではな
く、任志強の発言が反党・反政府的であったからでもない、と見ら
れている。
 任志強バッシングを最初に開始した「千龍ネット」(北京市党委
宣伝部主管のニュースサイト)が掲げた「誰が任志強を“反党”的
にさせたか」という一文では「任志強が夜中に頻繁に電話する指導
者」(王岐山を指す)を挙げており、要するに任志強が恐れること
なく習近平政権批判めいたことを言える黒幕は王岐山だ、というこ
とをほのめかしている。
 「指桑罵槐」というか「山を隔てて牛を打つ」というか、権力闘
争や権謀術数の激しい中国では往々にして、このようなけんかのや
り方をする。つまり、中国メディアと中央宣伝部が任志強バッシン
グで本当に矛先を向けているのは王岐山だった。あるいは、習近平
に忠誠を誓うふりをしながら、習近平と王岐山の中を割こうとする
中央宣伝部の画策かもしれない。
 中央宣伝部は中国メディアを統括する党中央機関。新華社、CCTV
、人民日報は中央宣伝部直属のメディアである。中央宣伝部を指導
する党中央政治局常務委員はもともと江沢民派に属し、目下習近平
とは微妙に対立関係にある劉雲山であり、中央宣伝部部長は胡錦濤
派に属し、やはり習近平とは微妙に対立関係にある劉奇葆。劉雲山
も劉奇葆も汚職の噂が絶えず、いつ王岐山率いる中央規律検査委の
取り調べ対象となっても不思議はない。彼らが任志強バッシングの
体を借りて王岐山攻撃を始めた、あるいは習近平と王岐山の間に亀
裂を入れようとしている、というのが中国政治ウォッチャーの見立
てであった。
 この任志強バッシングを受けて北京市西城区党委員会は、任志強
に対して党籍剥奪処分などを行おうとしたのだが、王岐山は2月28日
、汚職Gメンこと中央規律検査委員会巡視隊を中央宣伝部に派遣し突
然の“ガサ入れ”を行って、中央宣伝部およびメディアを黙らせる
とともに、3月1日に中央規律検査委機関紙「中央規律検査監察報」
上に「千人が唯々諾々と語るより一人の士の諤々とした発言の方が
まさる(千人之諾々、不如一士之諤々)」と題した原稿を発表させ
る。
 タイトルにある“一士”が任志強を指していることは間違いなく
、中央規律検査委、つまり、王岐山は習近平礼賛メディアを批判す
る任志強を表立って擁護したことになる。ちなみに、その直後に前
回のコラムで取り上げた「無界新聞・習近平引退勧告公開書簡事件
」が起きたのだ。この件については、習近平が激怒して犯人探しが
猛烈な勢いで行われているところだという。新疆ウイグル自治区主
管の新興ニュースサイト・無界新聞は閉鎖が決まり、この件に関与
した疑いで著名コラムニスト賈葭ほか30人前後が、身柄を拘束され
取り調べを受けている。私の聞いている範囲では、身柄拘束された
人たちのほとんどが事件に無関係の“冤罪”らしいが、取り調べが
あまりに厳しいので、あることないこと“自白”してしまい、それ
が権力闘争に利用される可能性もありそうだとか。
その時、習近平が止めなかったゆえに
 この事件の真相はまだ不明であり、任志強バッシング事件とのつ
ながりがあるかどうかも分からないのだが、一つ言えるのは、主だ
ったメディアは“党への忠誠”を声高に叫んではいるが、彼らの言
う党への忠誠は必ずしも習近平への忠誠ではない、ということであ
る。3月3日の人民日報は「ある指導者はメンツを失うのを恐れ、群
衆の批判の言葉を聞こうとしない」という題の論説を掲載。この“
ある指導者”が習近平を指すとしたら、中央規律検査委巡視隊の進
駐を受けて、中央宣伝部が王岐山批判から習近平批判に転じた、と
いう見方もできる。
 3月23日、新浪微博のあるアカウントが「北京市西城区の規律検査
委員会で、ほらふき任(志強)の党籍剥奪が決定された」というコ
メントを発信。すぐさま削除され、これは習近平と王岐山の対立を
煽るための「デマである」との見方が一部消息筋の間で伝えられた
が、その一方で、習近平は本気で任志強潰しに動き始めている、と
いう情報もやはり一部消息筋に出回っている。習近平は実はメディ
アが自分を礼賛しすぎるのを苦々しく思っており、メディアが任志
強バッシングを始めた時、自らやめるように指示した、という情報
も大紀元など体制外華字メディアで報じられているが、同時に、任
志強・王岐山バッシングの時、習近平はメディアを止めようとしな
かったので、王岐山と習近平の亀裂はもはや決定的となった、とい
う話も耳に入っている。私はどちらかというと後者の情報を重視し
ている。
 実際のところ、政権のメディア・言論統制のひどさ、習近平政権
の経済政策や外交政策の危うさに対する不満は、体制内知識人たち
や官僚の間に高まっており、歴史学者でコラムニストの章立凡や中
央党校教授の蔡霞、独立派の経済学者・茅予軾、上海財経大学教授
の蒋洪らが任志強を表立って擁護することで、習近平政権の政策の
過ちへの批判姿勢を示している。
“文革”勝ち抜き、王朝滅亡の分析本を推薦
 任志強バッシング事件は、中央宣伝部が習近平と王岐山の間に亀
裂を入れようという狙いで仕掛けたのは事実かもしれないが、私の
観察したところ、王岐山が習近平との関係を修復するために、任志
強に批判をやめさせるように働き掛けた形跡はない。結果的に十日
文革が、習近平と王岐山の権力闘争の形となったのは否めない。
 3月8日の任志強の誕生日の写真を人民公安大学教授の黎津平が微
博に流していたが、その時の任志強は紙でできた赤い王冠をかぶり
、手にバースデーケーキを持って花束やご馳走に囲まれており、そ
の表情は“文革”を勝ち抜いた自信に溢れていた。3月23日には、公
式ブログで推薦図書として清朝が滅亡した理由を分析した「帝国的
潰敗」(張鳴著)などを紹介しており、ネットユーザーたちはこれ
を共産党王朝を滅亡に導こうとしている習近平政権への批判、皮肉
と受け取っている。
 2月19日の習近平のCCTVなど3大中央メディア訪問を機に始まった
三大メディアによる習近平礼賛報道は、一種の“文化大革命”の発
動であったと捉えられている。メディアを使って習近平個人崇拝を
展開し、一気に習近平は毛沢東的な絶対権威の地位を築く腹積もり
だった。毛沢東の文革は10年続いたが、だが習近平の“文革”は、
任志強(あるいはそのバックの王岐山)に阻まれ、10日で終わった
。だから一部知識人や体制外メディアでは任志強事件は「習近平の
十日文革」と皮肉られているわけだ。
 この十日文革によって習近平と王岐山の関係に決定的亀裂が入っ
たかどうかはひとまず置いておくとして、最近、習近平は友達がず
いぶん減ってしまった、というのは事実のようである。
 話は少し遡るが、劉少奇の息子で解放軍上将であり、習近平の“
軍師”の立ち位置にあった親友・劉源が2015年暮れ、軍制改革を前
に完全引退を表明したのは、実は劉源自身が習近平と距離を置きた
かったためだという。習近平は軍制改革の中で新たに設立する中央
軍事紀律検査委員会書記(中央軍事委副主席兼務)のポストに劉源
を迎え、彼に軍内汚職の徹底摘発を行わせることで軍を掌握するつ
もりであったが、それを劉源は辞退した。なぜか。
太子党の大ボス・曾慶紅にこう諭されたという。「軍の汚職摘発の
筆頭がどれほど危険かをよく考えないといけない。官僚相手の汚職
摘発を行う王岐山ですら何度も暗殺の危機にさらされている。軍の
汚職摘発は相手が武器と部隊を持っているのだから、命がいくつあ
っても足りない。習近平のために、そこまで泥をかぶる必要がある
のか」。こう説得されて、劉源は習近平と友達であり続けるのが怖
くなったのだという。
「習近平のために泥をかぶる者は、もういない」
 もう一人、習近平と友達をやめたそうな動きをしているのが栗戦
書だ。栗戦書は習近平が河北省時代から交流を持ち、今は中央弁公
庁主任という立場で“習近平の大番頭”とも呼ばれている側近だ。
だが、彼は最近、習近平と距離を置こうとしているらしい。聞くと
ころによると、全人代で、栗戦書が「習近平を核心とする党中央」
(いわゆる習核心キャンペーン)を提言するシナリオがあった。だ
が、十日文革の顛末を見た栗戦書は、習近平の求心力が意外に小さ
いことに気づき、全人代で習核心キャンペーンを打ち出すのをやめ
たという。
 今、共産党中央で何が起きているのかは、外からは非常に分かり
にくい。博訊や明鏡といった体制外華字ネットニュースの報じる内
容は、参考にはなるが、いざ体制内の情報通に話を聞いてみるとか
なり解釈が違ったりする。
 一つだけ、はっきりしているのは、習近平政権の経済、外交、軍
政そしてイデオロギー政策については、官僚や共産主義青年団派だ
けでなく、太子党内にも不満が広がっているということ。「習近平
のために泥をかぶって仕事しようという政治家も官僚はもういない
。あの王岐山ですら愛想を尽かしている」。現地の情報通はこうさ
さやく。
 来年の第19回党大会までに、さまざまな権力闘争が展開されるの
だろうが、従来のような胡錦濤・李克強派(共産主義青年団)VS習
近平派という単純な構図ではなく、習近平派の中から、習近平に引
導を渡そうという人物が出てくる可能性も少し頭に入れておく必要
がある。
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中国、首脳会談打診に返答せず
31日の核サミットで
2016/3/29 18:16 共同
 政府が、米ワシントンで31日から開かれる核安全保障サミットに
合わせ、安倍晋三首相と中国の習近平国家主席による会談開催を打
診したが、中国政府から返答がないことが29日、日本政府関係者の
話で分かった。政府は、会談は困難と判断し立ち話形式の接触を模
索する。昨年4月以降行われていない習氏との会談は、中国で9月開
催の20カ国・地域(G20)首脳会合以降に持ち越しになる可能性が高
まった。
 日中外交に詳しい関係筋は「中国は南シナ海への首相の関与に不
満を募らせており、無視する考えではないか」と指摘した。習氏は
オバマ米大統領、朴槿恵大統領とは個別に会談する。
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まるで文革時代!不気味すぎる 
習近平ソングが大人気のワケ
2016年03月29日(Tue)  西本紫乃 (北海道大学公共政策大学院専
任講師) 
3月16日に中国の政治のビックイベントである全人代が終わったが、
今年の全人代はPM2.5でかすむ北京の空同様に、政治的閉塞感が漂う
大会だと中国国外メディアは評している。
 全人代が終わり、中国では今こんな風刺言葉が流行っているそう
だ。
 北京に来なければ、文革をまだやっているなんて知らなかった。
 南シナ海について語らなければ、中国にとっての友人がこんなに
少ないなんて知らなかった。
 全人代を開かなければ、習近平と李克強の仲がこれほど悪いとは
思わなかった。
 政治空間と言論空間の統制がますます強まり、この先どこまで党
と政府の締め付けが強まるのか見通しが立たないなか、庶民はひね
りの効いた風刺で世相を皮肉っている。
文革時代に逆戻り? 今年の全人代
 実際に「文革をまだやっているなんて知らなかった」と思わず言
いたくなるような、50年ほど時代を巻き戻したようなことが、最近
の中国では増えている。
 先日閉幕した全人代ではチベットの人民代表18人がそろって国家
指導者の顔写真がついたバッチを胸に付けて人民大会堂に現れた。
彼ら自身の政治的な正しさを表わすためのパフォーマンスなのか、
あるいは本気で、父親を慕うかのように国家指導者個人を敬慕する
家族主義が色濃い地方の政治意識の後進性か、いずれにしても時代
錯誤な感じは否めない。
 今年の全人代では湖南省の代表団の政治工作報告では、湖南省の
代表者から習近平主席に対し、省内の極貧地区の一つである十八洞
村の村民の平均収入が、2年で倍以上になったことが報告された。中
国の貧しい農村では嫁不足も深刻で、湖南省の代表者と国家主席と
のあいだでは、こんなやりとりもあった。
 習近平「去年は何人が嫁を娶れたのか?」
 代表「7人です。中年男性7人が所帯持ちになれました」
 十八洞村は2013年11月に習近平主席が視察に訪れたことを契機に
、農産品生産や観光開発など重点的に脱貧困に向けた取り組みが行
われた村だ。習近平が視察に訪れたことで村の136戸の生活が劇的に
変化した地区で、まさに「習近平さまさま」である。今年2月には村
人の習近平に対するあふれんばかりの感謝の気持ちを表現する歌『
あなたを何とお呼びすべきか』が湖南省の肝入りで制作されていて
、この歌についても全人代で報告された。
 この『あなたを何とお呼びすべきか(不知該怎麼称呼?)』の歌詞に
は習近平の名前こそ入っていないが、ミュージックビデオ(MV)には
習近平主席が十八洞村が訪れた際に村民たちに「貧困地区の支援に
は地道な取り組みが必要だ」と語りかける場面の映像も付いている
。湖南省の地方幹部の習近平個人へのゴマすり感たっぷりのこの歌
は、中国国内では概ね不評でネット上では「気味悪い」、「吐き気
がする」といった率直な感想があふれている。
習近平個人崇拝ソングの登場
 習近平主席への権力集中、専制化が顕著になってくる中で、今年
に入ってからバッジだとか歌だとか「まるで文革時代」な個人崇拝
の傾向が取りざたされることが多くなった。しかし、習近平個人崇
拝ソングは習近平政権一年目の2013年から既に作られている。『習
近平のメッセージ(習主席寄語)』と題された曲は、
「♪能力がある時は小さなことも喜んでやろう。お金に余裕があれ
ば善いことをしよう/権力がある時は実務に尽力しよう。動ける時は
少しでも多くのことをしよう」
 と道徳教育のような歌詞で、習近平自らの作詞だとされている。
MVは200人の高校生を動員し中国中央電視台が撮影しており、かなり
のハイクオリティに仕上がっている。いわば、党のお墨付きの歌だ。
 他にも、2014年1月に習近平主席が真冬の内蒙古の国境警備隊視察
を歌った『主席が私の傍まで来られた』という歌がある。
 「♪白い衣に包まれた興安嶺で、銃を握りしめて辺境を守る、四
方が見渡せる歩哨の拠点に、主席がやって来られた」
 と歌うこの歌も、内蒙古の権威のある音楽家が制作した歌で官制
のプロパガンダ・ソングだ。
 こうした国家指導者個人を称賛する歌はケ小平時代、江沢民時代
、胡錦濤時代にも無くはなかった。しかし、何といっても思い起こ
されるのは毛沢東時代の『毛主席、あなたは私たちの心の真っ赤な
太陽です(毛主席、?是我們心中的紅太陽)』とか、『偉大なリーダー
毛沢東(偉大的領袖毛沢東)』などの毛沢東崇拝ソングだ。
 21世紀の今日、再び国家主席個人を賛美する歌が次々につくられ
ていく風潮は、かつての毛沢東に習近平を重ねようとする意図がど
ことなく透けて見える感じがする。
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「中国の夢」の終焉 〜急増する富裕層の移民
田中 信彦 2016年03月28日 WISDOM
「国家の屋台骨」がカナダに移民
 旧正月を終えた今年2月半ば、ある出来事が中国のSNS上などで衝
撃を巻き起こした。中国中央テレビ局の著名な司会者、女優、作家
でもある倪萍(ニーピン、NiPing)さんという人物が、カナダのバ
ンクーバーへの移民を宣言したのである。 
 なぜ1人のタレントの移民がそんなに話題になるのか。それはニー
ピンさんが、かつて「共和国の脊梁(せきりょう=背骨、大黒柱)
」という称号を受けたこともある、それこそ国家的なレベルの超有
名人だったからである。 
 マスメディアがほぼ全て国家の統制下にあり、そこで最大の影響
力を持つ中央テレビ局の威厳は、外国人にはなかなか実感しにくい
ほどのものがある。看板番組の司会者や夜7時のメインニュースのキ
ャスターともなれば、国家指導者にも匹敵する影響力を持つと言っ
てもいい。ニーピンさんは、そこで日本の「紅白歌合戦」に相当す
る大晦日の看板番組「春節晩会」の司会を13回も勤め、おまけに2002
年には映画に出演、中国映画界最高の栄誉とされる「中国電影金鷄
賞」主演女優賞を獲得、出版したエッセイは権威ある文学賞を受賞
、最近では超人気番組「中国達人秀」(米国で大ヒットした「アメ
リカズ・ゴット・タレント」の中国リメイク版)の審査員を務める
など、中国ではまさに知らない人はいないと言っていい人物である。 
 そんな経緯で2011年には「共和国の脊梁(国家の屋台骨?)」に
認定されている。この賞は新聞社などが主催して選定する民間の称
号で、公的な権威はないが、要は「国を支えるほどの人物」という
ことで、彼女が中国を代表する著名人であることは間違いがない。
 そのニーピンさんが祖国を去って移民するというニュースに庶民
は騒然となった。SNS上にはすぐさま「国家の背骨がなくなったら、
共和国はどうやって立つんだ?」という書き込みが現れ、国民的ジ
ョークとなった。本人はその後、反響の大きさに驚いたのか、中国
パスポートを示しつつ「移民はしていない」といった趣旨のことを
述べたと伝えられるが、すでにバンクーバー市内の学校に子息の入
学手続きを済ませており、移民の意志は明らかと受け止められてい
る。
急増する富裕層の移民
 最近、富裕層の海外移民に対する関心が急速に高まっている。メ
ディアでもその話題がよく取り上げられるし、私の周囲でもそうい
う気分を感じる。その背景にあるのは国内景気の先行き不安や政府
の「思想的締め付け」の強化、国際的な資産分配(人民元の切り下
げへの懸念)といったことだろう。要するに、1990年代半ば以降、
20年以上にわたって続いてきた中国経済の急成長で恩恵を受けた層
、つまり1960年代生まれ以前の人たちが「まあそれなりの資産もで
きたし、そろそろこの辺ではないか」と思い始めたということであ
る。 
 先頃発表された「中国国際移民報告2015」(中国社会科学文献出
版社など刊)という報告書に興味深いデータが掲載されている。い
ま流行りのビッグデータを活用したもので、中国で最も多く使われ
ている検索サイト「百度(バイドゥ)」が公表する「百度指数」(
あるワードの注目度をビッグデータ解析で指数化したもの)による
と、「移民」は2015年初め頃までは同指数6000ポイント前後で数年
間、ほぼ横ばいが続いてきた。しかし2015年に入ると急に上昇を始
め、中国の株価が急落した同年夏には40000ポイントと、わずか半年
あまりで6〜7倍に急上昇した。株価と移民の確かな因果関係は不明
だが、株式相場の急騰、急落をきっかけに富裕層が移民や資産の海
外移転に関心を向けた可能性は高い。少なくともこの1年ほどの間に
、社会の「移民」に対する関心が急激に高まったことは間違いない。 
 同報告書によれば、2014年の中国からの海外移民は年間約15万人
で、内訳は大洋州(オーストラリア、ニュージーランド)35.3%、
次いで北米(アメリカ、カナダ)25.7%、欧州22.5%と続く。この
3地域で全体の8割以上を占めている。近年、増加率の伸びが顕しい
のは米国、そしてポルトガル、スペイン、ギリシャなどの南欧諸国
。例えば米国は2014年(財務年度)の中国人投資移民は9128人と対
前年比46%増で、投資移民全体の85%以上を占める。またポルトガ
ルでは投資移民制度を導入した2012年末以来、2016年1月までに
2853人に居住権を認めたが、うち79%が中国人だった。 
 一方、中国人移民の急増に耐えかねて投資移民プログラムそのも
のを中止する国もある。カナダは5年間に80万カナダドル(約6800万
円)を指定の案件に投資すれば永住権が取得できるプログラムを実
施していたが、2015年2月、この制度を打ち切った。
「ネガティブ移民」が増加
 中国大陸からの移民は以前から存在したが、ブームと呼べるよう
な時期は過去3回あった。今回の「第4次移民ブーム」の特徴は、中
国経済の先行き不安や政治情況の不透明感、大気汚染の深刻化とい
ったさまざまな問題で中国での生活に希望を失い、安全・安心な生
活先を求めるというネガティブな動機に基づくものが多いという点
にある。さらに不動産価格の上昇や株式投資、自身の事業の成功な
どで一定の資産を築いた層が、より安全・安心な資産の配分先を求
めて海外に目を向けているという面もある。 
 振り返ってみると、中国の第1次移民ブームは改革開放政策が始ま
った直後の1970年代末〜1980年代初頭にかけて。この時期、合法的
に移民するだけの経済力を持つ人はほとんどいなかったので、沿岸
地域からの密航や不法就労など生活苦が理由の労働移民が多かった
。一種の経済難民といえる。第2次移民ブームは1990年代初頭。1989
年の天安門事件の武力鎮圧とその後の政治的抑圧を経験した学生や
若手知識層の間に社会体制に対する失望感が広がった。形の上では
留学や海外企業への転職といった形態をとったが、実際には海外に
定住する覚悟を持った事実上の移民という人が多かった。緩やかな
意味での政治難民と言ってもいいかもしれない。この世代の人たち
は現在40歳代後半から50歳代で、日本社会で活躍している人も少な
くない。 
 第3次移民ブームと呼ばれたのは2008〜2010年頃である。当時はリ
ーマンショック後の経済対策として打ち出された「4兆元」(当時の
レートで約60兆円)公共投資の効果もあって経済は好調、不動産価
格も上昇してバブル的様相を呈し、着実に富裕層が形成されてきた
時期に相当する。移民の動機はさまざまだが、従来なら「夢」にす
ぎなかった海外移住が実現可能な選択肢に入ってきたことで、世界
に開かれた教育環境で子供を育てたいといった思いも含め、より明
るい未来を切り開こうという積極的な移民が少なくなかった。
「守り」に入る富裕層
 しかし、今回の移民ブームはちょっと様相が違う。先に「ネガテ
ィブ移民」と書いたが、すでに一定の資産を持った人たちの間で、
中国での生活に疲れ、そろそろ安定した静かな環境で、ゆっくりし
た生活に入りたいという「守り」の要素が強く感じられるのである。 
 ある地方都市で従業員200人ほどの電子機器メーカーを経営してい
る50歳代の友人は「どんなに頑張っても、いい目を見るのは国有企
業と役人だけ。商売はどんどん厳しくなっている。製造業に見切り
を付けてサービス業へ転換した人もいるが、人手不足で採用が難し
く、人件費は上昇の一途。おまけに競争が激しすぎて、すぐに競合
が現れ、儲けが出ない」と嘆く。10数年間稼働してきた工場と自宅
マンションを処分し、同郷人のコミュニティがあるイタリア・ミラ
ノへの移民を考えていると言う。「若い頃に向こうに行った連中が
、“こっちの商売は気楽だから早く来い”って言うんだ。子供も大
学を出たし、多少の蓄えもあるから、小さな商売でもすれば夫婦2人
ならなんとかなる。もう疲れたよ」と話す。 
 昨今の政府による情報管理の強化に「文化大革命の再来」を本気
で心配する声も出てきた。テレビや雑誌、出版、インターネット上
の発言などに対する権力の統制はここへ来て非常に厳しくなってい
る。 
 例えば、今年の春節(旧正月)の大晦日に放映された中央テレビ
局の「春節晩会」(前述)では、抗日戦争を体験した90歳を超える
老兵が舞台上に車椅子姿で登場、当時の体験を涙ながらに語りつつ
、弱った足腰にムチ打ってスックと立ち上がり、満場の観衆に敬礼
するや拍手喝采の渦――といった演出や、人民解放軍の本物の兵士
による模擬大閲兵が舞台上で繰り広げられるなど、「愛国色」の非
常に強い内容になった。 
 演じられる楽曲や舞踊にも党と習近平国家主席への讃歌を高らか
に謳い上げる内容が目立ち、一部にかつての毛沢東時代礼賛的な風
潮が見られることに強い違和感を持った人は中国人の中にも多い。
ある60歳代の日用品工場オーナーは「私の祖父は実は戦前に国民党
の高官だった。70年も経ってまさかとは思うが、何を言われるかわ
からない恐さはある」と話す。
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中国で売掛金残高が膨張、台湾GDP超える規模に
Ye Xie、Fox Hu
2016年3月21日 23:09 JSTブルームバーグ
中国では売掛債権の回収遅延が大きな問題に浮上している。
  販売完了から現金回収までの期間を示す売掛債権回転日数は、
中国でいまや83日となり1999年以来の長さ。他の新興国と比べると
ほぼ2倍に上る。中国の支払い遅延は鉱工業からテクノロジー、消
費財にまで広がり、国有企業の売掛金残高は過去2年間で23%増の
約5900億ドル(約66兆円)に膨らんだ。この額は台湾の年間域内総
生産(GDP)を上回る。
  1999年前後は朱鎔基首相(当時)が改革を進め、国有企業数千
社が倒産した時代だった。それ以来の長さとなる売掛債権回転日数
は、経営の危うい企業の現金不足が銀行や債券保有者だけでなく中
国の巨大なサプライチェーンをも脅かしていることを意味する。企
業破綻が今年は2割増加すると見込まれる中で、中国企業は厳しい
二者択一を迫られる可能性がある。破綻する恐れのある顧客に資金
を提供し続けるか、資金供給を止め売り上げが減っていくのを見守
るかだ。
  中国の金融市場を20年以上にわたって追跡し、共同著作「レッ
ド・キャピタリズム」があるフレーザー・ハウウィー氏は「中国経
済全体に連鎖反応が起きている」と指摘。「デフォルト(債務不履
行)と倒産。これらはゲーム終盤の一コマである」と語った。
原題:China Has a $590 Billion Receivables Problem as Bills Go Unpaid(抜粋)
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著名コラムニストを釈放=習氏批判書簡めぐり拘束−中国
 【北京時事】中国公安当局に拘束されていた改革志向の著名ジャ
ーナリストでコラムニストの賈葭氏(35)が25日夜に釈放され
たことが分かった。本人が、中国版LINE「微信」で「皆さんあ
りがとう」と伝えた。賈氏は家族と面会した。
 賈氏は15日夜、香港に向かおうとした際、北京空港で北京市公
安局に連行された。公安局は、3月初めに習近平国家主席に辞任を
要求した公開書簡が新疆ウイグル自治区政府系ニュースサイト・無
界新聞に掲載されたことをめぐり、賈氏から事情を聴いていたが、
無関係と判断したとみられる。(2016/03/26-12:29)
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中国の市場経済への移行、一筋縄ではいかない=米財務長官
2016年03月23日(水)04時54分
[ワシントン 22日 ロイター] - 米国のルー財務長官は22日
、下院金融サービス委員会で行なった証言で、中国の市場原理に基
づいた経済への移行は一筋縄ではいかないとの考えを示した。また
、中国のこうした移行は世界的な経済成長の将来の道筋に影響を及
ぼすものとなるとの見方も示した。
同長官は中国が市場原理に基づいた経済への移行に失敗すれば余剰
生産能力が重しとなり、システミックリスクが増大すると指摘した。
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令計画氏弟の“機密爆弾”に習政権戦慄 党幹部の不正蓄財や情事
ビデオも
2015.08.12ZAKZAK
習近平政権に粛清された令計画氏(左下)。その弟、令完成氏が機
密情報で習政権を揺さぶる(共同)【拡大】
 中国共産党を率いる習近平指導部に重大懸念が浮上している。失
脚した令計画・人民政治協商会議副主席の実弟が党指導部に関する
機密資料とともに米国に亡命。2700点に及ぶ資料には複数の党
幹部の不正蓄財や情事に関する情報が含まれるともいわれ、注目を
集めている。亡命劇の背後には、「中国共産主義青年団(共青団)
派」トップの胡錦濤・前国家主席の影もちらついているという。習
氏がおびえる“機密爆弾”の中身は−。
 米紙ニューヨーク・タイムズなどが報じた習政権の新たな火種。
その渦中にいるのは、胡錦濤・前国家主席の最側近として知られ、
日本の官房長官に当たる政権の大番頭役、党中央弁公庁主任を長年
務めた令計画氏の弟、完成氏だ。
 同紙などによれば、亡命した完成氏は、カリフォルニア州に豪邸
を構え、妻とともに「ジェイソン・ワン」などの偽名を使って暮ら
していたという。
 兄の計画氏は、習政権が主導する「反腐敗運動」のターゲットと
された末に当局に拘束され、先月、党籍剥奪の処分を受けた。しか
し、立場上、党の機密情報に触れることができた計画氏は、「もし
もの事態」に備えて集めた情報を弟に託したのだという。
 その舞台裏を『月刊中国』発行人の鳴霞(めいか)氏は、「計画
氏が在職中に仕入れた機密情報は計2700点に及ぶといわれてい
る。弟の完成氏はその資料を携えて、おいとともに中国を出国し、
シンガポール経由で米国に渡ったといわれている」と明かす。
 持ち出された資料の大部分は党幹部の海外での不正蓄財に関する
情報だったが、「なかには幹部の情事の一部始終を隠し撮りしたビ
デオも含まれるといわれており、その範囲は、習政権のみならず、
旧政権時代にまで及ぶ」(鳴霞氏)。
 明るみに出れば、現政権の権威失墜は避けられない。
 習政権は、そんな爆弾情報を握る完成氏の身柄引き渡しを米国に
繰り返し求めてきた。今春に予定されていた、反腐敗運動を取り仕
切る王岐山・党中央規律検査委員会書記の訪米も、主な目的は完成
氏の引き渡し要求だったともいわれている。
 その完成氏は、反腐敗運動でとらわれの身となった一族への便宜
を図るよう習政権に揺さぶりをかけているとされる。
 しかし、その背後にはより大きな黒幕の存在も見え隠れする。
 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「完成氏の背後には、兄の計
画氏がかつて仕えた胡錦濤氏がついている可能性がある。胡氏は、
完成氏が握る機密情報を権力闘争を勝ち抜くための“最後のカード
”として利用する腹づもりなのだろう」と指摘する。
 習政権は、腐敗官僚の撲滅をうたってスタートさせた反腐敗運動
を使って敵対勢力の追い落としを図ってきた。
 そのメーンターゲットとなってきたのが江沢民・元国家主席率い
る「上海閥」だった。周永康・前党政治局常務委員ら派閥に属する
複数の幹部を次々と粛清してきた一方、胡氏を後ろ盾とする「共青
団派」とは微妙な距離を保ってきた。しかし、習政権が胡氏の右腕
的存在だった計画氏を失脚させたことで、関係は一気に緊迫化した
格好だ。
 「胡錦濤氏は、2017年の党大会をにらんでいる。ここで江沢
民氏の影響下にある幹部が軒並み定年を迎え、『上海閥』は一掃さ
れる。その機会に配下の『共青団派』の幹部を政権中枢に送り込ん
でイニシアチブを握り、習政権から実権を奪うつもりだろう。完成
氏が持つ機密情報をそのための切り札に使い、習政権から大幅な譲
歩を引き出そうとしている可能性がある」(石平氏)
 習政権をめぐる権力闘争は抜き差しならない状況になってきた。
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中国・王岐山氏 米国から通信記録狙われ習体制揺らぐ事態も 
NEWSポストセブン  2015年7月28日 07時33分
 5月1日付の英紙フィナンシャル・タイムズは「米中の行く手に待
ち受ける『冷たい平和』台頭する中国」の見出しで、中国が南シナ
海の岩礁を埋め立てて、軍事基地を建設しようとしていることに米
国が強く反発し、米中が「冷たい平和」の関係に突入していると説
く。
 ジャーナリストの相馬勝氏が、米中間の相互不信関係についてレ
ポートする。
 * * *
 米中軍事対立の可能性も現実化するなかで、米側は意表を突く手
段に打って出た。
 米司法省と米証券取引委員会(SEC)は4月下旬、米金融大手ゴー
ルドマン・サックスやJPモルガン・チェースなど6社に対し、いまや
腐敗摘発で習近平指導部の実質的ナンバー2にまでのし上がった感が
ある王岐山をはじめ党・政府高官35人との通信記録を提出するよう
命じたのだ。
 米国の海外腐敗行為防止法に基づくもので、王らがこれら6社に対
して、政府高官の子女を雇用するよう働きかけたとの疑惑が浮上し
ているためだ。
 特に、王は中国建設銀行総裁や中央銀行の人民銀行副総裁を歴任
するなど金融界出身で、副首相時代には当時のティモシー・ガイト
ナー財務長官らと親密な関係を築いたことで知られる。また、王は
2008年9月のリーマン・ショック時に、当時のヘンリー・ポールソン
米財務長官と密に連絡を取り合い、金融政策についてアドバイスを
受けたとされる。
 ポールソンは近著「DEALING WITH CHINA」で王との親密な関係に
言及。…



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