5641.リフレ論者の誤り



リフレ論者の誤りを、吉田繁治氏が指摘している。インフレには3
つの種類があり、1つがデマンドプル型のインフレ、2つが、コス
トプッシュ型インフレ、3つには資産バブル型インフレであり、良
いインフレは、1番目のインフレだけで、後の2つは悪いインフレ
である。

日本は円安にしたことで、円安による原材料の値上がりでコストプ
ッシュ型インフレになり、企業は利益を得られずに賃金の上昇がな
く、このため、消費が減少する事態になっている。

景気が減速すると、「スタグフレーション」となる。また、円札を
増刷したことで、3つ目の資産バブル型インフレも起こり、これは
バブルであり、この崩壊は金融危機になる。

ということで、良いインフレなら良いが、悪いインフレを起こそう
して日銀や政府が努力している。円安にすることが目的になって、
日本経済には非常に悪いことをしている事の認識がない。

しかし、。私は量的緩和を推奨した。米国や英国で量的緩和をして
いるのに、日本だけが正常な金融政策をしていると、円高で1ドル
=75円になってしまうので、対応的な量的緩和をして帳消しした
ほうが良いという意味の量的緩和であり、本格的な量的緩和をする
べきではないとした。

1ドル=110円程度までの正常値になるレバルの量的緩和を提案
したが、リフレ派学者がおかしなことをして、日本でも貧富の差が
拡大している。

そろそろ、過度な量的緩和のインフレ政策をやめ、1ドル=110
円の正常値を取り戻すことである。

吉田繁治のコラムは、わかりやすく説明している。

==============================
クルーグマンと浜田宏一氏の誤り〜『2020年 世界経済の勝者と敗者
』を読む=吉田繁治  
2016年3月8日 mag2
本稿のテーマは、「『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む」です
。今年1月26日に出版された書籍で、ノーベル賞経済学者のポール・
クルーグマンと、内閣官房参与の浜田宏一氏の対論です。
クルーグマンは『流動性の罠』の論を書き、浜田宏一氏は内閣官房
参与として、政権に異次元緩和というリフレ策を提唱しています。
両氏は、2013年4月からの異次元緩和の仕掛け人です。リフレ策とは
インフレにもって行く政策セットを言います。
異次元緩和は、日本経済と財政の将来を大きく決めるものでもある
ので、3年間、重大な関心を持ち続けています。両氏のリフレに関す
る本は、出版されたほとんどを読みました。
この本は、クルーグマンと浜田氏の対論を、翻訳家の大野和基氏が
訳してまとめたものです。口語調になっていますが、裏には、経済
理論があります。読んでいて、両氏の基本認識に誤りがあるのでは
ないかと感じたことが、本稿を書く動機になったのです。
(『ビジネス知識源』吉田繁治)
浜田宏一氏は誤りを認め、政策を修正することが必要である
1.「インフレ目標」の前提になった消費論
浜田宏一氏:
 インフレ目標が必要なのは、人々におカネにしがみつくのをやめさ
せて、失業を解消したり所得を増加させたりして、日本社会をより
よいものにするためです。本来の「目標」はそこであって、インフ
レそのものが目標なのではありません。いわば、おだやかなインフ
レは「手段」です
出典:『2020年 世界経済の勝者と敗者』 P80 
【解釈】
インフレ目標が必要なのは、人々がお金にしがみついて使わないか
らだと浜田氏は言っています。「お金にしがみつく」とは、所得の
うち貯蓄にまわすものが多いということでしょう。
マクロ経済では、「所得=消費+貯蓄」です。貯蓄が大きいと、消
費が少なくなります。50万円の月収の人が15万円(30%)を貯蓄す
れば、消費は35万円です。消費は企業の売上です。世帯全体の、貯
蓄が増えて消費が少なくなれば、260万企業の売上は減ります。作ら
れた商品が売れない。つまり不況になります。
浜田氏は、幾度も、貯蓄が多いのは、人々が物価は先になれば下が
ると考えているからだと言っています。今年は1000円ですが、来年
は950円に下がると思えば、人々は消費を先延ばしにするでしょう。
つまり消費は減って、貯蓄が増えます。
貯蓄が増えることを、浜田氏は「お金にしがみつく」と表現してい
ます。その上でもっとお金を使ってもらうためには、インフ目標が
必要だと論じます。ここが「リフレ必要論」の根幹です。リフレは
、金融政策でインフレを起こすことを言います。
【貯蓄率についての誤り】
ここに、浜田氏の認識の誤りがあります。わが国の5300万の世帯は
、1990年代までのようには貯蓄していないからです。事実で言いま
す。原データから抽出し、3年毎に示します。
   可処分所得 消費 貯蓄  貯蓄率
1995年 300兆円 274兆円 29.2兆円 9.9% 
1998年 307兆円 283兆円 27.0兆円 8.8% 
2001年 292兆円 283兆円 10.4兆円 3.6% 
2004年 288兆円 283兆円 5.0兆円 1.7% 
2007年 290兆円 289兆円 1.0兆円 0.3% 
2010年 278兆円 278兆円 -1.9兆円 -0.7% 
2013年 287兆円 289兆円 -3.7兆円 -1.2% 
出典:内閣府 国民経済計算(P8〜9)[PDF]
 (注)可処分所得は、総所得から税金と社会保険料を引いたもの。
年間2兆円くらいの年金準備金の減少は省略しているため、この表だ
けでは、その分合計が一致していません
1990年代まで、わが国の世帯には、平均で可処分所得の8%から10%
の貯蓄がありました。しかし、退職者が増えた2000年代から、貯蓄
率は急減して、2010年にはマイナスになっています。65歳以上の退
職世帯は、厚生年金(世帯平均20万円/月)では足りないため、年間
で60万円の預金を崩すことも、この要因のひとつです。
主要国の比較でも、わが国世帯の貯蓄率の低さは、イタリアを下回
り、先進国のなかで最低である0%付近です。
以上の事実は、世帯は所得以上に消費していることを示す以外では
ないでしょう。お金にしがみつくのではなく、所得以上に使ってい
るのです。1995年の可処分所得だった300兆円が、2013年には289兆
円(1世帯あたり545万円)に減っているため、貯蓄の余裕がなくな
っているのです。
以上の事実を無視し、あるいは知らず、浜田氏は「人々は、消費を
せず、おカネにしがみついている」と断じています。重大な事実認
識の誤りがここにあります。
所得が上がらない中で物価が上がるのは、スタグフレーションであ
る】
世帯が可処分所得以上にお金を使っていて、貯蓄ができなくなって
いるとき、店頭の物価が上がればどうなるか。貯蓄を崩さない限り
、買うことができる商品の量が減るでしょう。
物価が上がる中で消費が減るのは、「スタグフレーション」です。
わが国のように、所得が増えていないとき、あるいは世帯の総所得
が上表のように減っている中で物価が上がれば、需要が増える好況
どころか、消費は減って不況になります。
【家計消費の減少】
事実、2014年4月に消費税が上がった後の家計消費は、減っています
。最も近い2015年12月の、5300万世帯の家計消費は、物価上昇を引
いた後の実質(=買った商品の数量)で、4.4%も減っています。
異次元緩和開始後、2年9か月が過ぎましたが、ボーナスを含む12月
の世帯所得は、名目で2.7%、物価上昇を引いた実質で2.9%減って
います。以上が「現実」です。
 ※家計調査(二人以上の世帯)平成28年(2016年)1月分速報 (
平成28年3月1日公表) ? 総務省統計局
【家計貯蓄率に関する若干専門的なこと】
世帯の消費には、帰属家賃が含まれています。持ち家の世帯も、借
家の世帯と同じように家賃を払ったと仮想したものです。2014年度
で28兆円です(消費額のうち10%)。実際には家賃としては払われ
ていないので「貯蓄」であると主張する人がいます。
しかし持ち家世帯の多くは、住宅ローンを支払っています。住宅ロ
ーンの支払いは負債の返済なので、国民経済計算では貯蓄勘定です
。実際の消費支出ではありませんが、ローン支払いが貯蓄なので、
多くが相殺されます。帰属家賃28兆円が含まれているから、実際の
貯蓄はもっと多いという論は、成立しません。
【結論】
「物価が下がるから、人々がお金にしがみつき、消費を増やさない
」という浜田氏とリフレ派(クルーグマンを含む)の立論は、2000
年代になって世帯所得が減り、貯蓄率が大きく減っている日本では
誤りです。
 (注)リフレ派のエコノミストがこの誤りを無視したのは、不思議
です
誤った事実認識が前提のリフレ論は、結論まで間違えてしまってい
るのです。
クルーグマンは専門的に、物価が下がっている日本では、消費や投
資より、現金と預金を好む「流動性選好」が生じていると言ってい
ます。お金を貯め込むことを専門語で言ったのが「流動性選好」で
す。
これをもとに、現金を貯め込んで使わないという『流動性の罠』を
説き、日本に、円を増刷してインフレを起こす異次元緩和を奨めた
のがクルーグマンです。インフレになれば、人々はお金を多く使う
という前提からです。消費が増えれば好況になる。好況になれば、
企業の利益が増えて賃金も上がる、賃金が上がれば消費が増える好
循環になるというのが、日常語で言ったリフレ理論です。
ところが上表が示すように、日本の世帯では、「流動性選好」は生
じていません。逆に、所得が減ったため消費を増やすことができな
くなっているのです。所得が減ったため、消費も貯蓄も増えないと
いう状況が生じているのです。
 (注)260万社の企業合計では、中小企業ではなく、大手企業を中
心に、設備投資が減って貯蓄を増やす流動性選好が生じていますが
、世帯では生じていません
日本のデフレ対策は、日銀がマネー発行量を増やすことでなく、「
賃金を年5%上げる」ということを、リフレ策にしなければならなか
ったのです。
【賃金上昇奨励法の奨め】
無謀なことを承知で言いますが、世界に類のない賃金上昇奨励法を
制定することで、これが可能になります。一定率以上の賃金を上げ
た企業には、大きく減税をするのです。
1980年代までの賃金は、年齢加算を含むと、5%〜7%は上がってい
ました。企業では、毎年5%程度の賃金を上げることは、事実上、義
務化していたのです。今からでも、遅くはない。賃金上昇の奨励政
策を実行することです。ただし企業では、生産性上昇が年3%は必要
です。
企業が賃金を上げれば、売る商品の価格を上げねばならない。商品
、ホテル代、理容費、医療費、交通費、通信費の価格が3%上がって
も、1年に5%賃金が増えれば、消費(=企業の売上)は増えるから
です。
21世紀になって、わが国世帯の、平均所得が減っていることを見る
につけて、忍びなくなります。ほぼ20%の世帯は所得が増えていま
すが、80%の世帯は減っているのです。お金にしがみつくのではな
く、しがみつく所得が減っているのです。
2.インフレターゲットの本来の意味と「3つのインフレ」を理解する
浜田宏一氏:
 アベノミクスが目指す2%のインフレ……それは「物価を毎年、常
に2%ずつ上げていく」ということです。しかしインフレはモノの値
段が上がるということですから、「物価高=悪」というイメージを
持っている人もいるのではないでしょうか。しかし物価が上がると
いうことは、企業が儲かるということです。すると、設備投資や雇
用も進みます。もちろん、給料も上がります。インフレとはこのよ
うな経済全体の上昇を指しているわけです。
出典:『2020年 世界経済の勝者と敗者』 P83 
インフレには、浜田氏が、ここでいう、所得上昇と設備投資を生む
好循環のものだけではなく、悪循環を生むもの(後述の2種)があり
ます。よいインフレは1種で、あとの2種は悪いインフレです。確認
して、整理します。
【1種目:よいインフレ ? デマンドプル型のインフレ】
これが、浜田氏がいう上記のインフレです。所得の増加期待がある
社会で、物価が上がると、人々は消費を増やす。消費は企業の売上
だから、売上が増えれば、利益が増える。
利益が増えれば、企業は賃金を上げて、雇用も増やすだろう。将来
のための設備投資も行い、経済は成長する。これが上記です。デマ
ンドプル型のインフレです。つまり所得が増え、需要が増えること
によるインフレです。
【2種目:悪いインフレ ? コストプッシュ型のインフレ】
これが、異次元緩和後の日本で起こったことです。安倍内閣になり
、日銀が円を増発するという予想から、2012年10月から$1=80円が
、まず100円に、次に120円に向かって下がりました。増発される通
貨は、通貨価値が下がり、売られます。50%もの円安です。
この円安と、2014年6月までは、1バーレル$100だった原油価格と、
輸入の金属資源、穀物やコーヒー、砂糖、油脂など食料の原材料を
含むコモデティの価格のため、輸入物価が50%も上がったのです。
国際コモデティは、米ドルで取引されるからです。
輸入物価の上昇は、資源を輸入に頼るわが国工業の、商品原価を上
げ、卸価格も上がって、物価は上昇に転じています(2013年から)
。これはエネルギーと原材料の価格が上がることによる、コストプ
ッシュ型のインフレです。需要が増えることによるデマンドプル型
とはまるで異なります。
コストプッシュ型のインフレでは、製造原価が上がるので、その分
商品価格が上がっても、企業利益の増加がありません。利益の増加
が見込めないと、賃金は上がりません。雇用も増えない。設備投資
も増えません。
これが、2013年、14年とアベノミクスで上がった物価の正体でした
。政府と日銀は、コストプッシュ型の物価上昇を「デフレ脱却」と
言っていますが、これは、実は「悪いインフレ」です。
浜田氏は、インフレを区分せず、「物価が上がることは企業が儲か
る」ことだと単純化し、異次元緩和のリフレ策を推奨しています。
ここに、インフレの3区分をしていない浜田氏と、浜田氏にリフレ策
の経済理論の根拠を提供したクルーグマンの誤りがあります。
3種のインフレを無視し、よいインフレであるデマンドプル型のイン
フレに単純化しているからです。
【3種目:悪いインフレ ? 通貨価値の下落と、資産バブル型のイン
フレ】
通貨が増刷され、その通貨が投機に使われて、資産価格(株価、不
動産、債券)の価格が上がるインフレです。この場合、消費者物価
は、あまり上がらない。資産価格が2倍、3倍になるインフレであり
、これは「通貨価値の下落」です。これも、経済に好循環を生まな
い悪いインフレです。
資産価格のインフレが進み、消費者物価の上昇になって行くと、物
価が数倍に上がるインフレになることがあります。
資産バブル型のインフレの怖い点は、負債で行われた投機的な投資
によって上がった株価と不動産が暴落する時期が、必ず来ることで
す。
そのとき、不良債権の発生(マネーの不良化)により、バブル後の
恐慌か、恐慌に近くなる。1990年から日本のバブル崩壊、2008年の
リーマン危機で起こったことがこれです。原因は、資産価格のバブ
ル的なインフレでした。
3.異次元緩和によるリフレ策の誤りを認め、政策を修正することが
必要
以上のように、インフレには、
1.デマンドプル型(いいインフレ)
2.コストプッシュ型(悪いインフレ)
3.資産バブル型インフレ(わるいインフレ)
の3種があります。
実際インフレは、3種が混合した形で起こることも多い。「インフレ
=善の結果を生む」と、単純な線的論理では言えないのです。
浜田氏は、ここでも誤りを犯しています。誤りなら、誤りを認めて
修正せねばならない。
異次元緩和によるリフレ策の誤りが、論理的に指摘されることは少
ない。これが、本論を書いた目的です。経済政策は、人々を経済的
に幸せにするものでなければならないと思うからです。


コラム目次に戻る
トップページに戻る