5637.中国バブル崩壊は防止できるのか?



中国のバブル崩壊が騒がれている。ソロスも中国のハード・ランデ
ィングを現時点で見ていると述べている。この中国のバブル崩壊を
防ぐ方法と、その結果を検討しよう。  津田より

0.中国の現状
日本の日経平均株価が1万7千円になり、やっと危機的な状況から
やや回復した状態である。この危機は中国経済崩壊を先読みしたこ
とで起こっている。しかし、今後の中国バブル崩壊はないのであろ
うか?

中国の経済崩壊は、日本に多大な影響を与える。日本の貿易統計を見
れば、中国との貿易量は米国の1.5倍程度も多い。もし、中国の
経済が崩壊したら、日本との貿易量も激減することになり、日本経
済も大きなダメージを受けることになる。このため、日経平均株価
は、大幅なダウンに陥ったのである。

しかし、中国政府は自国の経済システムを「社会主義市場経済」と
定義している。米国や日本の資本主義市場経済とは違い、金融崩壊
を国家の力で抑えることが出来る。市場経済が国家より下というこ
とであり、経済活動の中心が国営企業であり、国家が前面に出てく
ることができる。

このため、日本の財務官僚も黒田日銀総裁も、中国に助け舟を出し
たくなるのは、サンケイの田村秀男さんとは違い分かる気がする。
日本経済も道ずれになることが怖いので、中国の資本規制を容認す
ることになったと思う。

国家が経済活動を制御する方法が、我々とは違い、多様に存在する
のである。しかし、制御を失敗すれば、資本主義経済より大きなダ
メージを受けることにもなる。このため、中国政府の統治能力が重
要な要素なのである。日本とは違い、ソロスに対抗することもでき
るのだ。

G20では、世界経済の混乱回避のために、通貨競争をしないこと
。中国は構造改革に取り組むこと。資本規制などの政策を容認する
ことが決まった。中国が議長であり、中国にとって良いと思われる
政策をG20に容認させたことになる。

1.なぜバブル崩壊の危機
しかし、中国経済がなぜバブル崩壊の危機になるのであろうか?
2008年のリーマンショックで、中国は52兆円という財政出動
をして、インフラ整備を行う。このインフラに供給する資材を製造
するために、過剰生産になってしまった。この過剰な生産設備を破
棄することと、雇用を守るために新しい産業を育成していく構造改
革が必要になっている。

しかし、この2008年から始まる生産設備投資のために、多額の
借金を地方政府と企業はしている。この借金の返済が必要になって
いる。しかし、地方政府と企業の借りた資金量がGDPの約2倍と
いう規模になっている。

米国やその他のバブル崩壊時の借金量より格段に大きいのである。
それなのに、逆になぜバブル崩壊しないかというと、人民銀行が大
量の資金を地方政府や企業に市中銀行経由で、貸出しているからで
ある。運転資金があるということだ。

しかし、利益を生まない設備の廃棄をすることが重要であるが、設
備廃棄は雇用解雇でもある。この雇用解雇は、鉄鋼業だけで160
万人、その他を含まると300万人にもなる。

今まで、地方政府は賃金上昇を企業に指導していた。このため、繊
維・雑貨などの産業は企業競争に負けて衰退している。その上に、
重化学産業の廃棄をすると雇用の確保ができないことになる。この
ため、地方政府は抵抗している。

もう1つ、人民元をドルとリンクしているので、ドルが上昇すると
人民元も上昇することになる。ここでも企業競争力が衰退している
のである。

しかし、AV系、スマホ、インターネットやドローンなどの分野で
ある最先端技術の商品で中国は実力を上げている。しかし、部品は
日本や韓国から買っている。

というのが現状の状態である。

2.人民銀行の買い支えと構造改革
中央銀行は資金をゾンビ企業に貸出して、企業倒産を防いでいる。
金融緩和的な政策であるが、一方で米国など海外からの投資が流出し
ていて、資金流出が止まらない。そのままにすると人民元の暴落に
なり、IMFのSDRになった人民元の立場がない。このため、人
民元の買い支えを行っている。この行為は、人民元買いドル売りの
為替介入であり、人民元を市場から買い戻すということで、金融引
締的な政策である。

もう1つ、この買い支えができるのは、外貨準備高がある間しかで
きない。中国の外貨準備高は世界最大であるので、当分はできるが
いつかはできなくなる。また1月で1000億ドル程度減少してい
るので、その減少スピードも早い。

このため、人民元買い支えはできなくなるので、資本流出を止める
には資本規制をするしかない。通貨の自由な流通を止めことである。

もう1つが、買い支えができるまでに、構造改革ができるかどうか
である。

そして、経済成長を輸出から国民消費に変える必要がある。

しかし、先端産業の雇用は少なく、このため、大量の雇用が無くな
り、国民不満が出てくると、独裁国家が陥る海外での侵略で愛国心
を煽り、国内は締め付けることで、政権維持を図ることになる。
すでに、ロシアがやっていることである。これを中国が行うと日本
も、その影響を受けることになる。

3.海外進出の軋轢で
この海外進出を行うと世界との軋轢を招くことになる。すでに南シ
ナ海や東シナ海で問題を起こしている。この軋轢が高じると、欧米
日などが経済制裁を行うことになると見る。これも既にロシアに行
っている。

軋轢が起こると、直ぐに軍事衝突を言う軍事専門家は言うが、それ
はあまりない。まずは経済制裁などの開始になるはずである。

しかし、この経済制裁は中国が進めようとする構造改革とは逆な方
向であり、経済崩壊になる可能性が出てくる。最先端分野は中国に
代替できる国がある。AV、スマホ、ドローンなどは中国以外にも
製造できるからである。

このように、中国のジレンマは、経済崩壊を防ぐことと、政権維持
に必要なことでのトレード・オフが存在するのである。このバラン
スを取って進めることが必要になっている。

しかし、政府機関と軍部は相互に干渉できない位置づけになってい
る。両方のバランスを取るには、権力の集中が必要になる。集中し
て政策実施が必要である。政権維持のためにも必要になっている。

このため、習近平総書記に権力を集中させる必要が中国はあるのだ。
中国は危機になると権力を集中させる必要があるのだ。

権力を集中させると、軍部の一方的な行動は制御されるし、政府の
民主化政策も制御されることになる。両者をバランスさせることに
なる。

難しい局面に中国経済は来ていることは間違いないし、発行資金量
が拡大していることも事実であり、もし、資金量がある限界を超え
ると人民元が暴落して国内にインフレが起こり、経済成長がマイナ
スになる可能性も否定できない。

さあ、どうなりますか?

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中国 5年間の成長率目標は年平均6.5%以上
3月5日 11時55分NHK
中国の重要政策を話し合う全人代=全国人民代表大会が5日から始
まり、李克強首相は2020年までの5年間の経済成長率の目標を
年平均6.5%以上として、去年までの5年間よりも引き下げる方
針を示しました。
全人代は日本時間5日午前10時から北京の人民大会堂で始まりま
した。初めに李克強首相が施政方針演説に当たる政府活動報告を行
い、2020年までの5年間の経済成長率の目標を年平均6.5%
以上とし、去年までの5年間よりも引き下げる方針を示しました。
李首相は、この目標について、「2020年までにGDP=国内総
生産と、国民1人当たりの所得を2010年の2倍にするためだ」
と述べ、構造改革を推し進めていくと強調しました。また、ことし
の経済成長率の目標は7%程度としていた去年より引き下げて、
6.5%から7%としました。
さらに、ことしの主な政策としては構造改革を強化し、過剰な生産
能力を解消するため鉄鋼や石炭などの業界で合併や再編などを通じ
、経営が悪化している、いわゆる「ゾンビ企業」に適切に対処する
としています。
一方で、財政赤字のGDPに占める割合を3%に引き上げるなど、
改革の痛みを和らげ、景気の安定に配慮する姿勢も示しました。
中国では不動産投資の冷え込みなどで、去年の成長率は6.9%と
25年ぶりの低い水準になり、景気の減速が鮮明になっています。
習近平指導部は成長の速度よりも質と効率性を重視する経済を目指
していて、李首相は「発展は流れに逆らって船を進めるのと同じで
前進しなければ後退してしまう」と述べ、目標の達成に強い決意を
示しました。 
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2016.3.5 22:10sankei
【お金は知っている】
G20の勝者・中国と敗者・日本 中国に手を貸した財務官僚に呆
れた
 先週末、上海で開かれた20カ国・地域(G20)の財務相・中
央銀行総裁会議の共同声明は回りくどく、インパクトに欠けた。だ
が、よくよく読むと、勝者と敗者が浮かび上がる。前者は中国、後
者は日本であり、日本はその中国に手を貸した。ばかばかしい限り
だ。(夕刊フジ)
 同声明は英文で1万6000字、一見するとうんざりだが、キー
ワードは為替変動、資本、金融である。
 ポイント部分は「金融政策のみでは、均衡ある成長につながらな
い」「我々は機動的に財政政策を実施する」「為替レートの過度の
変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え
得る」「我々はより適時なリスクの特定を含め資本フローをよりよ
く監視し、各国の経験を踏まえ、巨額で変動しやすい資本フローか
ら生じる課題に対処する上でとり得る政策手段及び枠組みについて
現状評価を行い、適切に検証を行う」といったところ。200字程
度だ。
 どう読むか。中国は人民元の暴落を食い止めたい。そのためには
資本規制を強化する必要がある。ところが、中国は国際主要通貨の
集合体である国際通貨基金(IMF)・特別引き出し権(SDR)
入りの条件として金融自由化を約束しているので、自ら規制を言い
出せない。
 本欄ですでに指摘したように、率先して助け舟を出したのが日本
の財務官僚と黒田東彦(はるひこ)日銀総裁である。元暴落を恐れ
る米欧や他の新興国にも、「為替安定」のためなら異論はない。さ
すがにモロに「資本規制」を認めるとIMFとの約束違反だから避
けたが、代わりに規制を意味する「政策手段」を評価さえすればよ
いことにした。見え見えの官僚式猿知恵だ。こうして北京は安心し
て外為市場を管理し、元相場安定のために強権を発動してでも株式
など資本市場を規制しても文句を言われなくした。
 これで今年10月予定の元のSDR入りの障害はなく、習近平政
権は心置きなく国際通貨元を発行し、アジアインフラ投資銀行
(AIIB)の原資に充当できる。日本の企業も銀行も元建て決済
の受け入れを迫られるだろう。
 日本はどうか。日銀の「マイナス金利」について、米独などが通
貨安競争になるとして、強く牽制(けんせい)した。しかも金融偏
重は効果がないと決めつけられた。となると、黒田総裁は今月中旬
の日銀政策決定会合で、マイナス金利の追加策を打ち出しにくくな
った。北京を後押ししたのに、見返りなし。
 他方で、財務省は、財政の出番だとする国際合意によって、緊縮
財政と消費税増税を押し通しにくくなった。財務官僚は声明文が日
本の財政を縛るわけではないと言い張るが、増税の後遺症で経済が
マイナス成長に落ち込んでいる日本が再増税するなら、世界から嘲
笑混じりのブーイングを浴びるだろう。
 対照的に、元の安定を心がけ、財政出動にも前向きな中国は、世
界から称賛されるという結末が見える。日本の財務官僚の自損行為
のせいだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)
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上海の不動産が大変なことになってます!
2016年03月05日(Sat)  高田勝巳 (株式会社アクアビジネスコン
サルティング代表) 
2月半ばの春節の休暇明けから、上海の不動産が暴騰を始めた。1週
間で30%以上上昇した物件もあるようだが、上海の仲介会社による
と今年に入ってから概ね10%ー30%程度上昇しているイメージだそ
うだ。
上海バブルは終わらない?
 はっきりしているきっかけは、2月19日に交付された不動産取引税
軽減策と言われている。といっても、軽減されるのは、上海市の場
合でも一時取得のケースで140平方メートル以上(この面積は共有部
分も入って建築面積といわれるものなので、日本流の占有面積で言
えば100平方メートル程度)の物件の取引税3%が1.5%になった程度
であるが、これでも、買替え需要を随分と刺激しているようだ。
 最近話をした上海の不動産デベロッパーの友人も、にわかに、新
規開発用地の取得の動きが出始めて忙しくなってきたという一方で
、あまりにも急な値上がりとその背景に心配もしているとのことで
あった。
 中国のネットメディアをみても、今回の暴騰は異常であり、その
危険性を指摘する声もでている。
 昨年のコラムで、中国崩壊はありえないとの考えを表明した自分
ではあるが、この程度の相場の暴騰、暴落はあり得るのが中国であ
ると認識している。
ただ、この友人の話を聞いていて、私もさすがに少し心配になって
きたので、今回聞いた話を読者と共有したいと思う。彼の話を少し
補足して整理すると以下のとおり。
 1 不動産の価格の上昇は、昨年深センから始まった。今年1月ま
でに半年間で価格が約50%程度の上昇となった。
 2 上海は、春節明けから始まった。不動産取引税の軽減は確かに
一つのきっかけであることは間違いないが、大きな背景としては、
地方財政の問題があるのではないかと睨んでる。
 3 中国の地方財政を支えている一つの柱はなんといっても国有土
地使用権の払い下げによる現金収入だ。しかしながら、最近の経済
の減速、外資の進出の減少、投資用不動産の投資規制などの影響に
より、土地の払い下げが減少しており、当然、地方財政を圧迫して
いる。こうしたなか、確認できる地方債務の総額は30兆元に達する
といわれている。そうなると、政府としては、何としても、不動産
取引を活性化し、新たな物件の開発につながる環境を作りたいと思
っても不思議ではない。
官製バブルの懸念も
 4 以下の諸点は、あるネットメディアの分析であるが、現在の
不動産関連政策は、不動産市場の活性化のために、最近10年ないし
、少なくとも2008年以来最も緩和された状況と分析している。こう
してみると国を挙げて不動産市場を下支えしようとする政府の意図
が見て取れる。
(1)一戸目の住宅ローンの自己資金の下限がこれまでの30%から
、地域によって20?25%に引き下げられている。二戸目以降は30%。
 (2)住宅ローンの金利は08年以来最低レベル。
 (3)2線都市は営業税が免除。
 (4)不動産取引税の減税。
 (5)上場不動産企業は、昨年3000億元の社債を発行したが、この
金額は14年の18倍。
 その他、別の上海の友人の話によると、二戸目の購入時で、かつ
中古物件の購入の場合の自己資金の比率が70%から40%に引き下げら
れた影響が大きいと考えている。これまで二戸目を買えず、うずう
ずしていた人たちが一気に買いに入ったと。
 5 もしそうだとすると、昨年の株式市場のように、もともとは市
場の活性化を意図した中での、経済実態を反映しない株価の暴騰が
、最終的には株価の暴落で治ったと同じことになるのではないかと
心配している。もちろん、不動産は、株式と違って、実際に居住の
ための実需があるので一概にはいえないが、これまでの不動産開発
に頼りすぎた経済成長政策のために、市場に供給しすぎて在庫にな
っている不動産があるなかでの話なので、こうした懸念が出ている。
大学生は自己資金ゼロで住宅ローンが組める
 6 もっと心配しているのは、遼寧省の瀋陽市で出された大学生は
自己資金0でも住宅ローンを借りて住宅を買えるという政策。いず
れ学生が住宅ローンを払えなくなり、中国版サブプライムになり、
最終的に銀行にそのしわ寄せが行くのではないかと心配している。
 7 自分も不動産を複数所有しそれが資産形成になっているが、一
方で、中国経済の健全な発展を考えると、不動産価格ばかりが上が
る状況に対する疑念も強くもっている。これは中国でよく聞かれる
笑い話であるが、本当の話である。中国はこれから産業の高度化が
必要であるのに、これではだれもまともな事業に投資しようとはし
ないのではないか。
 (1)10年前に自分の唯一の資産であるマンションを80万元で売却
しそれを元手に事業を始めた。
 (2)身を粉にして働いて事業は一応成功し、10年後に400万元の
貯金ができた。
 (3)この金で10年前に売却したマンションを買い戻そうとしたら
400万元だった。
 全く、中国経済の矛盾、問題点が凝縮された話である。
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崩壊しそうでしない中国経済の不思議
改革を先送りにして不良債権は積み上がるが・・・
2016.3.4(金)   柯 隆 
日本では、ここしばらく中国経済崩壊論を唱える論者が少なくない
。だが、中国経済はいまだに崩壊していない。
中国政府は自国の経済システムを「社会主義市場経済」と定義して
いる。社会主義と市場経済はいわば水と油の関係にある。そのなか
で中国経済は成長を続けてきた。2010年までの30年間で中国経済は
年平均10%も成長し、2010年にその経済規模は日本を追い抜いて世
界第2位となった。
「中国経済は言われているほど順調に発展していない」と言う論者
もいる。中国のマクロ経済統計が信用できないというのだ。しかし
時系列でみた場合、中国経済が発展していることは確かだ。もし中
国経済が発展していなければ、主要国に対して中国経済の減速は
ここまで影響を及ぼさないはずである。
国際社会が注意しなければならないのは、中国はその全体の規模が
大きいため、周辺諸国に及ぼす影響はその実力以上に大きいという
ことである。今、国際社会は中国の台頭を脅威と受け止めているが
、中国の経済発展が挫折した場合の影響も大きい。中国経済と世界
経済の相互依存関係は、国際貿易と国際投資を通じて予想以上に強
化されている。中国経済の減速は世界経済の発展を押し下げていく
可能性が大きい。
中国経済はなぜ崩壊しないのか
ただし、中国は経済大国になったものの経済の強国ではない。中国
は「世界の工場」の役割を果たしているが、「メイドインチャイナ
」は決してブランドにはなっていない。中国発のオリジナルの科学
技術はほとんどないし、中国本土でノーベル賞を受賞した科学者は
1人のみである(薬学)。
では、なぜ中国は脅威とみなされるのか。一党独裁の政治において
は、政府はあらゆる資源を動員する強い権限を持っている。したが
って、国中の資源を動員して、例えば宇宙開発やミサイル開発に注
ぎ込むことができる。その一分野のみ考えれば脅威とみなされても
不思議ではない。
だが、一国の国力をみる際は、ある一分野の実力ではなく、その国
の総合的国力を測るべきである。今、中国国内では「総合的国力」
に関する議論が盛んになっている。中国の総合的国力をみると、ぎ
りぎり“中進国”といえる程度であろう。
中国経済の不合理性と非効率性は明白である。だが、なぜ中国経済
は崩壊しないのだろうか。
実は今の中国経済はいわば「メタボリックシンドローム」の状態に
ある。安い人件費と割安の為替レートを頼りにキャッチアップして
きた中国経済は、政府の財政出動によりその規模が年々拡大してい
る。
また、中国でもっとも盛んな製造業は「外包」と呼ばれるアウトソ
ーシングだ。最近の製造業はモジュール化し、企画・開発・設計を
手掛ける企業は自ら製造工場を構える必要がない。例えばアップル
はiPhoneを設計するが、製造のほとんどはアウトソーシングしてい
る。キーコンポーネントと呼ばれるハイテク部品は日本企業に製造
を委託し、組み立ては中国の企業に行わせる。アップルはパテント
などの知財権を握り、売上の68%を得ると言われている。それに対
して、中国企業は1台のiPhoneを製造して売上の6%しかもらえない。
結局のところ、中国はいまだに低付加価値製造業の規模をどんどん
拡大させているということだ。こうした構造が一旦できてしまうと
ストップさせるのは難しい。なぜならば、低付加価値の製造業ほど
多くの労働者を雇用しているからだ。これらの工場を閉鎖すると、
失業が深刻化し、社会不安が高まる。だから政府は工場や企業の閉
鎖について慎重な姿勢を崩さない。逆の見方をすれば、こうしたゾ
ンビ企業は政府を虜にしているのである。
口先だけで行われない「改革」
ここ十数年来、中国政府はほとんどの改革を先送りしてきた。毎年
の政府活動報告では、「穏やかな成長を続けている」という陳腐な
表現が繰り返されている。今までの経済成長はかなりの部分におい
て朱鎔基元首相が進めた改革の結果と言えるが、その恩恵はすでに
なくなりつつある。李克強首相は就任当初、「人口ボーナスこそな
くなるだろうが、これからは“改革ボーナス”が経済成長を牽引す
る」と豪語した。しかし、改革らしい改革はいまだになされていな
い。
政府、企業、家計のバランスシートをみると支出のほうが多く、新
たに蓄積される富が急減している。地方政府はこれまで中央政府が
進めた経済政策に呼応するために、巨額の債務を借り入れた。これ
らの有利子負債の返済は延滞しており、国有銀行の不良債権となっ
ている。しかし、国有銀行は地方政府の債務を取り立てることがで
きない。これはいわば政策的不良債権である。
地方政府が破綻処理されることは考えにくいが、最終的に国有銀行
は不良債権を処理することになる。結局、そのコストを払うのは納
税者か預金者のいずれかである。
中国が民主主義の国であれば、おそらくとっくに経済危機に突入し
ているだろう。民主主義の国において政策運営の失敗は、まずその
責任が追及されてから問題の処理に着手する。一方、社会主義の国
においては、責任を追及する前に問題を処理してしまう。題処理の
際は往々にして一部の者の利益を犠牲にする。大部分の人にとって
は、自分とは関係ないので無関心である。結果的に経済危機が起き
にくい体質ができてしまっている。
まず社会の根本的な価値観を明らかに
中国政治においてもっとも重要とされる言葉は「国益」である。そ
れを分かりやすく示す言葉として、よく使われるのが「大河没水、
小河干」(大河に水がなければ、支流の小河は乾いてしまう)だ。
本当はこの表現は自然に反している。自然界においては、支流の小
河から大河に水が流れ込む。したがって、大河よりも小河のほうが
重要である。なのに、中国では国益の重要性を強調するために、自
然の摂理に反する表現が作られてしまっている。
中国では、国益に反する者は売国奴と罵られる。これはもっとも恐
ろしい罪と言えるかもしれない。国益のために犠牲になった子ども
は「光栄なことだ」とも教えられる。だが子どもの幸福を犠牲にす
る国に国益など存在するまい。
中国は、社会主義を建設するか市場経済を構築するかという議論の
前に、まず社会の根本的な価値観を明らかにし、国民の間で共有で
きるようにすべきであろう。
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G20もサジを投げた「ヤバすぎる中国経済」〜選択肢は三つ。ただし
、どれを選んでも崩壊の可能性
2016年03月04日(金) 長谷川 幸洋
G20が出した結論
いったい中国はどうなるのか。いま世界中の企業や家計がこの1点を
心配している。ところが、先に開かれた20カ国・地域(G20)財務相
・中央銀行総裁会議の結論はあいまいで、矛盾を孕んだ態度に終始
した。あらためて問題の核心に迫ろう。
マスコミは「中国についてG20がどんな姿勢を示すかが焦点」と連日
のように事前報道した。ところが、会議の後の報道ぶりを一言で言
えば「結論はよく分からない」だった。
たとえば、2月28日付の朝日新聞は「G20『政策を総動員』 共同声
明採択 市場安定化図る」という見出しを掲げて「G20の合意が市場
の安定化につながるかは見通せない」と書いた。なんのことはない
「どうなるか、分かりません」という記事である。
G20の声明には、景気回復のために「すべての政策手段(金融、財政
および構造政策)を個別にまた総合的に用いる」と書いてある。
だがそれは、何もいまさら大げさに言わなくても、当たり前の話に
すぎない。
あえて書き込んだのは、マスコミ向けに「見出しになるような文言
を加えたほうがインパクトがある」と大臣たちが考えたからだろう
。マスコミがそれに調子を合わせて、上っ面の言葉を見出しにする
ようでは、なめられたも同然だ。肝心なのは政策の中身である。
ちなみに「金融、財政および構造政策」というのは「アベノミクス
3本の矢」でもある。ということは、アベノミクスは経済政策の世界
標準を並べてみせただけで、安倍晋三首相のオリジナルでもなんで
もない。
それを「アベノミクス」というキャッチフレーズに包んで、印象深
く打ち出しただけだ。いわば当たり前の政策なのに、マスコミはあ
たかも新しい政策パッケージであるかのように報じてきた。言葉と
中身の虚実をマスコミはきちんと分かっているのだろうか。
本論に戻す。G20が打ち出した政策の中身を見ると、目新しさはほと
んどない。機動的な財政政策と緊密な為替協議、通貨の切り下げ競
争回避、それに資本流出の監視強化である。あえて言えば、資本規
制の検討が加わった程度だ。
激減する中国の「外貨準備高」
1つずつ順に評価しよう。まず「機動的な財政政策の実施」を打ち出
したのは、世界経済の下方リスクに対応するのに、金融政策だけで
は十分でないと認識したからである。現状認識はなかなか厳しい。
声明はずばり「世界経済の見通しがさらに下方修正されるリスクへ
の懸念が増大している」と書き込んだ。
日本にあてはめれば「追加の景気対策で財政支出を増やしてくださ
いね」という話になる。これを見ただけでも、消費税の再増税があ
りえないのは明らかである。G20が財政出動を求めているのに、日本
が増税では政策ベクトルが完全に逆行してしまう。増税どころか減
税を考えるべき局面なのだ。
日本のマスコミではG20が打ち出した方向と消費増税がいかに相反し
ているか、といった解説にほとんどお目にかからなかった。経済記
者たちは財務省の言い分を垂れ流しているだけなのだ。
次が「緊密な為替協議と通貨の切り下げ競争回避」。これは中国の
人民元下落を念頭に置いている。人民元が下がり過ぎると、中国の
輸出が有利になる。それは他のメンバー国にとって不利だから「為
替安定のために連絡をとりあって、必要なら介入しましょうね」と
いう話である。
ずばり言えば、中国に対して人民元下落を阻止するために「しっか
り介入してくれ」と要求したのだ。
中国はいまでも強烈なドル売り・人民元買い介入をしている。それ
は当局が発表しなくても、外貨準備の急落になって表面化している。
2月12日公開コラムで指摘したように、中国の外貨準備はいま毎月
1000億ドルペースで減っているのだ。
中国人民銀行が人民元買い介入をすると、実質的に金融引き締めに
なってしまう。経済社会に出回る通貨量を吸収するからだ。いま中
国は景気崩壊の淵に立っているのだから、本来なら引き締めでなく
、逆に金融緩和しなければならない。
そこへ金融引き締めなら、中国は一段と景気が悪くなる。いわばG20
は中国の景気悪化を犠牲にしても、人民元相場の維持を求めた形で
ある。
短期的には自国の輸出を不利にしないために正解だったとしても、
中期的には中国の崩壊が巡り巡って世界経済と自国の景気悪化を招
くのだから、自分で自分の首を締めるようなものだ。
外貨制限のウワサも漂う
当の中国はどう認識しているかといえば、中国人民銀行がG20閉幕直
後の2月29日、預金準備率を引き下げたところに本心がにじみ出てい
る。預金準備率の引き下げは銀行が中央銀行に強制的に預ける預金
を減らして融資に回せる資金が増えるから、金融緩和になる。つま
り中国当局は緩和が必要と分かっている。
G20は為替介入して人民元相場を維持せよと求めたが、緩和は逆に人
民元下落に働く。実際、預金準備率引き下げ発表後、人民元は一段
と下落した。これをみても、G20と中国の行動がちぐはぐなのは明ら
かだ。
3つ目の資本規制強化となると、何をか言わんやという話である。
国際通貨基金(IMF)を軸にした世界経済は本来、自由な資本移動が
大原則だ。もともとIMFは自由な資本移動を促した結果、貿易代金の
支払いに窮する国が出てくれば、危機を脱出するために緊急資金を
貸し出すのが役割の国際機関である。
G20が大真面目に資本規制を検討するとは、裏返せば、それほど中国
が危機一歩手前に追い込まれている証拠である。まして、中国はIMF
の特別引出権(SDR)通貨入りを果たしたばかりだ。
中国はSDR通貨として人民元を危機国に貸し出すどころか、自分自身
が危機一歩手前の状態に陥ってしまったのだから、ほとんどお笑い
と言っていい。他国に貸すどころか、自分が借りるかもしれないは
めになっている。
いくらなんでもSDR通貨国が借りるとは恥ずかしいから、その前に資
本規制して流出を止めようという話になっている。資本規制すれば
、市場のドル買い人民元売り圧力が和らぐので、為替の安定効果が
ある。
だが一方、中国に投資した海外企業は人民元で得た利益をドルやユ
ーロに転換して本国に送金しにくくなるから、投資を冷やす結果に
なる。企業は「これ以上、中国に投資しても利益を送金できないな
ら意味はない」と考える。これがまた中国経済にダメージを与える。
中国人による爆買いもやがて終わるだろう。当局にしてみれば「外
貨準備が急落しているのに、中国人が日本で買い物して貴重な外貨
を消費するのはとんでもない」という話になる。すでに中国人が使
える外貨に制限を加える話も飛び交っている。
結局、有効な対策は何もない
以上が、G20の描いた危機への処方箋だ。総じて評価すれば、G20は
自分たちの目先の損得を優先して、中国経済の崩壊については何の
有効な対策も講じられなかった。
供給過剰が顕在化している中国に一段の財政出動を求めても、ゴー
ストタウンが広がるだけだ。為替介入の要求は金融を引き締め、経
済を収縮させる。そして資本規制は外資の中国離れを加速するのだ。
原理的に言えば、どうやったところで他国が中国を救うことはでき
ない。それは中国自身の問題である。中国人自身が人民元を売り払
って中国から脱出しかかっている。キャピタルフライト(資本逃避
)が始まってしまったのだ。
資本流出が続けば、中国は結局、人民元の下落を容認するか、資本
規制を導入するか、あるいは猛烈な介入を続けるか、の3つしか選択
肢はない。そのどれもが崩壊への道につながっている。
著名投資家のジョージ・ソロスは事態の本質を見抜いて「中国のハ
ードランディング(強制着陸)はもう始まっている」と語っている
。ソロスは人民元下落に賭けるつもりなのだろう。中国の通貨危機
というドラマの幕開けが近づいている。
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中国:国防費の伸び7−8%に鈍化へ、習国家主席は軍改革に重点 
2016/03/04 15:27 JST
    (ブルームバーグ):中国の国防費の伸びは今年、7−8
%に鈍化する見通しだ。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)
の開幕を翌日に控えた4日、推計が明らかにされた。 
国家統計局のデータによると、今年の国防費の伸びは、2010年の7.7
%以来の低い水準となる見通し。昨年の国防予算は前年比10%増の
8869億元(約15兆5000億円)だった。 
習近平国家主席は軍事力の向上を目指し数十年ぶりの大規模な軍改
革に重点を置いている。人民解放軍の陸軍と海軍、空軍、新設のロ
ケット軍を1つの指令系統の下で一元管理し、国内での主権および
拡大する海外での利権の防衛強化を狙う。 



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