5623.「同一労働同一賃金」実現には



「同一労働同一賃金」実現には、日本人の労働倫理の精神革命が必
須である
  佐藤
●「同一労働同一賃金」の実現は、経団連と労組から陰に陽に激し
い反発に遭うだろう。
●そもそも、例えば皆を置いて残業せずに帰るのを許さないような
、協力し合うのを美徳とする日本の労働倫理は、古代からの稲作文
化のDNAに根差したものだ。
●これらを改変するには、欧米のように「同一労働」の定義や「ジ
ョブ・スクリプト」よる個別の労働契約が必要だが、それには終身
雇用制への決別を含む日本人の労働倫理革命への覚悟が必要だろう。

◆安倍首相と野党の本音◆
安倍首相は先月下旬に施政方針演説で、「同一労働同一賃金」の実
現を目指すと表明した。
日本の労働状況を単純化して概観すれば、一旦正社員のレールから
外れた者は、二度と低賃金の非正規労働から抜け出せない一方、特
に若手の正社員は一応終身雇用が約束されているのと引き換えに深
夜に及ぶサービス残業を強いられている。

同一労働同一賃金が実現すれば、これらは均衡し解消に向かうと共
に、雇用の流動化が進み経済の変化のスピード化と国際化に合わせ
た適材適所が進むだろう。

しかし、その実現には人件費を安く抑えたい経団連始めとする経営
側と正社員の既得権を守るのが主要ミッションである労組から、陰
に陽に激しい反発に遭うだろう事は容易に予想され、実現には困難
が付き纏う。

安倍首相は、「同一労働同一賃金」実現の一方で、これまで労働政
策の中核として「非正規労働者の正社員化促進」を繰り返し述べて
おり、雇用を流動化したいのか、したくないのか腰が定まっていな
いように見える。

また、民主党を筆頭とした野党も、口では「同一労働同一賃金」を
唱えるが、労組と公務員の支援が最大の基盤であるため、少なくと
も早期には本音ではその実現を願っていない。

◆少子高齢化への楔◆
日本の終身雇用制は、戦時体制下に出来て戦後復興、高度成長で定
着したもので、戦前の日本の労働流動性は高かったと言われる。

しかしながら、明治から戦前までの近代国家としての勃興期や、戦
国時代が特殊な時代であり、弥生時代や江戸時代を見ても終身雇用
制は稲作文化のDNAが基盤にあると思われる。

現在、少子高齢化を迎え、何か抜本的な対策を打たねば、年金財政
を始めとして早晩日本は破綻する。

移民もある程度必要だろうが、移民のもたらすメリット、デメリッ
トを勘案すると、それ以前に日本自身が拡大再生産する施策が必要
である。

その一つとして、在職老齢年金の減額制度の改変がある。

簡単に言うと、現在、一定以上働くと年金は減額され「働き損」と
なる事が、老齢者を早期の年金生活に誘導してしまっている。

この減額分を積み立てて置き、年金生活に入った際に一定額を増額
支給(但し遺族年金等へは不算入)すれば、老齢者の就労を促し、
医療費の圧縮、消費の拡大、人手不足解消、年金財政の継続性、老
後の不安軽減による出生率の増加等に繋がるだろう。

このような施策は、政府が法律改正を起案すれば容易に出来る事だ
が、恐らく厚労省と財務省が目先の算盤勘定から反対しているのだ
ろう。

「同一労働同一賃金」は、こんなものに比べると遥かに難しい。

それには、これまで述べてきたように、日本の労働倫理の革命が必
要だからだ。

例えば、日本代表のサッカーを見ても、集団性・連携プレーの強さ
を活かしながらも、個の決定力の強さが求められている。

筆者は、日本が縮小から拡大に転換するには、職場に於いても集団
性の強さを活かし日本的工夫を加えつつも、「同一労働同一賃金」
の実現による個の確立、活性化、冒険心の醸成が不可欠だと考える。
                    以上

佐藤 鴻全



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