5612.マイナス金利導入でどうなるのか?



いろいろな人から、マイナス金利導入で、日本経済はどうなるのか
という質問をもらう。有料版で詳しく述べるが、その前に基本的な
ことだけを記述しておく。

日銀黒田総裁が、またサプライズを起した。事前には日銀はマイナ
ス金利はしないと言っていたので、皆が日銀の金融緩和は行き詰ま
ると見ていた。

もう1つが、日銀当座預金金利が0.1%もあるので、海外銀行は
、円に退避して日銀当座に預けようとしていた。危機時の円シフト
というのは、日銀当座に金利が付いていたことによる。

欧州の国債の多くは、既にマイナス金利であり、国債に逃げること
ができないし、欧州の多くの国の中央銀行の当座預金はマイナス金
利になっている。

日本国債も若い年数のものは、すでにマイナス金利になっている。

このため、信用ある国に通貨逃避しようとすると、日本の円かドル
になるが、米国の国債は海外投資家が多く、安定していない。また
、FRBの当座預金はない。このため、中央銀行の当座預金で確実な日
銀当座に預けることが一番良いことになる。

円高理由の日銀当座の0.1%金利をマイナスにしたことで、この
部分の円買いはなくなる。

この事実を誰も指摘していない。

市中銀行の貸出量を増加させることは、池尾先生によると無理であ
るが、海外銀行の円買いがなくなることで、円高を抑制できること
になる。

独保険大手アリアンツの首席経済アドバイザー、モハメド・エラリ
アン氏によると、日銀のマイナス金利導入は、多くの国が成長支援
のために通貨安を望んでいることを浮き彫りにしているとした。

ということは、通貨安戦争が起きることになる。

1929年から始まった大恐慌の通貨戦争に似てきたことになる。

1929年=2008年という図式が徐々に、今後を見通す道しる
べになりそうである。

さあ、どうなりますか?

詳しくは月曜日有料版で述べます。

==============================
日銀総裁「量・質・金利の3次元で緩和可能に」  
2016/1/29 17:34 nikkei
 日銀の黒田東彦総裁は29日、金融政策決定会合の終了後の記者会
見で、今回決めたマイナス金利の導入について「量、質、金利の3
つの次元で緩和が可能になる」と説明した。これまでの主要な政策
手段である大規模な国債買い入れに加えて、日銀当座預金の一部に
マイナス金利を適用しイールドカーブ(利回り曲線)の起点を引き
下げることで、「金利全体を押し下げる強い圧力が働く」とした。
マイナス金利は「必要であればさらに引き下げる」とも述べた。
 黒田総裁は年明けからの世界的な金融市場の混乱に加え、新興国
や資源国経済の先行き不透明感が「企業のコンフィデンス(景況感
)や人々のデフレマインド(心理)の転換に悪影響を与えるリスク
が高まっている」と指摘し、マイナス金利導入にはリスクの顕現化
を未然に防ぐ目的があると説明。実質金利を押し下げることで消費
や投資が喚起され、ポートフォリオリバランス(運用資産の組み替
え)が起こるとの見方を示した。
 マイナス金利の導入は「量的・質的金融緩和が限界に達したとい
うことではない」として、あくまで政策手段の拡充であるとの考え
を強調した。国民の政策への理解を問われると、「重要なのは2%
の物価安定目標に強くコミット(約束)し、必要な措置は何でもや
るという姿勢」と述べた。
 当座預金に適用する金利を3階層としたことについては、「金融
機関の収益に過度な影響を与えるのを避けるため」とした。マイナ
ス金利の導入で「短期的には金融機関の収益に影響が及ぶことは避
けられない」とする一方、金融緩和を継続しできるだけ早くデフレ
脱却を図ることが重要との見方を示した。
〔日経QUICKニュース(NQN)〕
==============================
2016年 01月 30日 05:20 JST 
日銀マイナス金利、世界の通貨安志向浮き彫りに=エラリアン氏
[ニューヨーク 29日 ロイター] - 独保険大手アリアンツの首
席経済アドバイザー、モハメド・エラリアン氏は29日、日銀のマ
イナス金利導入は、多くの国が成長支援のために通貨安を望んでい
ることを浮き彫りにしていると指摘した。ロイターのインタビュー
に応じた。
「世界的な影響を考慮せず、自国の目標達成にまい進する動きが出
ている」とし、「これが顕著なのが為替だ。米国を除き、大半の国
は通貨安を望んでいる。日銀の決定もこれに該当する」と述べた。
また「米連邦準備理事会(FRB)が、非常に慎重にアクセルから
足を踏み外そうとし続けるなか、欧州中央銀行(ECB)、日銀、 
中国人民銀行(中央銀行)は、さらに力強く(景気)刺激のアクセ
ルを踏もうとしている」と指摘。各国中銀政策の方向性が異なり、
世界的な政策調整の動きもない、新たな現実の到来と述べた。
各国は、システムが対応可能な緩やかな成長を創出する政策を模索
するのではなく、わずかな成長を目指すにとどまっていると指摘し
た。「これは大きな悲劇だ。より高い成長ができるのに、勢いが抑
えられている」とした。
日銀のマイナス金利導入などを受け、円は対ドルで急落した。エラ
リアン氏は、ドルがさらに5━10%上昇すれば、「FRBは懸念
を抱き始めるだろう」と見通した。
世界経済成長の鈍化や市場混乱を受けて、エラリアン氏は、年内の
米利上げは2回というのが基本シナリオと説明。経済や金融市場情
勢が悪化すれば、1回かゼロとなる可能性もあると予想した。
==============================
マイナス金利政策により予想されること
池尾 和人(@kazikeo)
2016年01月29日20:42agora
商品の現物価格と先物価格の関係を説明する際に、コンビニエンス
・イールド(利便性の利得)という概念が使われる。Hatena Keyword
の説明を引用すると、コンビニエンス・イールドとは「現物を保有
することによって得られるメリット」のことである。「具体的には
、一時的な品不足などで利益を得る可能性や生産を継続することに
よるメリットなどが考えられる」。そして「現物を保有する代わり
に先物を買うことで、保管コストや金利コストを負担せずにすむが
、現物を保有することで得られるメリットは失う」ことになる。
 預金と現金を比較した場合にも、ある種のコンビニエンス・イール
ド(利便性の利得)が預金にはあるといえる。現金は、少額の決済
にはきわめて便利な手段である。しかし、多額の価値保蔵手段とし
てみたときには、利便性に劣る面がある。現金には盗難のリスクが
伴い、多額になるとかさばり、保管に大きなスペースを必要とする
。安全な保管スペースを用意するのにはコストがかかる。銀行に預
金しておけば、そうしたコストはかからない(さらに加えて、口座
振替が利用できるなどのメリットもある)。この分が、預金のコン
ビニエンス・イールドだといえる。すると、預金の現金に対するメ
リットは、厳密には預金金利とコンビニエンス・イールドの和であ
る。
それゆえ、預金のコンビニエンス・イールドが2%だとすると、預
金金利がたとえ−1%であったとしても、現金よりも預金を保有す
る方が有利だ(−1+2=1>0)と考えられる。換言すると、預金のコ
ンビニエンス・イールドの範囲内までであれば、マイナス金利は可
能だということになる。しかし、預金のコンビニエンス・イールド
を(絶対値で)超える値のマイナス金利は可能ではない。そうした
大幅なマイナス金利が実施されると、預金をすべて引き出して現金
で保有した方がよいということになってしまうからである。
 預金のコンビニエンス・イールドがどのくらいの大きさかは、よく
分かっていないけれども、この間のヨーロッパの経験等からは1%
強くらいはあるのではないかとみられている。また、預金のコンビ
ニエンス・イールドの値は、マイナス金利がどのくらいの期間継続
すると見込まれるかによっても変わってくると考えられる。という
のは、金庫を設置する等は固定費的な支出だからである。マイナス
金利が一時的なら、金庫を購入するまでもないと判断されるとして
も、長期化すると見込まれるならば、思い切って金庫を用意しよう
ということになり易い。こうした固定投資の有無によって、預金の
コンビニエンス・イールドの大きさは変化する。
 準備預金(リザーブ)は、民間銀行が中央銀行(日銀)に預けてい
る預金のことなので、上で述べた議論が基本的に当てはまる。すな
わち、少しのマイナス金利の導入で、銀行が準備預金を保有しない
ようになるとは思われない。しかし、もちろん銀行の資産選択行動
には様々な影響が生じるとみられる。可能性はいくつか考えられる
けれども、そのすべてが緩和的・景気刺激的なものだとはいえない。
 1つは、銀行が預金者に負担を転嫁することである。これまで徴収
していなかった口座維持手数料をとるようにするなどのかたちで、
預金金利をマイナスにする。マイナス幅が預金のコンビニエンス・
イールド未満であれば、直ちに現金流失が生じるおそれは少ない。
0%の金利で集めた預金を0.1%の金利が付く準備預金に再預金する
のと、−0.2%の金利で集めた預金を−0.1%の金利が付く準備預金
に再預金するのは、銀行にとっての利ざやは同じである。もっとも
、一斉に口座維持手数料を導入するのでない限り、導入した銀行か
ら導入していない銀行への預金シフトが生じる可能性があり、銀行
同士がすくみあって預金者への負担転嫁は実現し難いかもしれない。
もう1つは、日銀の買いオペに応じず、国債保有を続けることであ
る。量的・質的金融緩和とは、日銀が長期国債を買い上げ、代わり
に付利付きの準備預金を提供する交換にほかならない。民間銀行か
らみて、代わりに提供される準備預金の魅力が乏しくなれば、そう
した交換に応じる誘因も乏しくなる。したがって、マイナス金利の
導入は、ベースマネーの積み上げを難しくしかねない。民間銀行に
交換に応じさせるためには、結局、日銀がより高価に国債を購入し
、民間銀行に利益供与をするしかない。付利水準を下げた分を国債
購入価格に上乗せするわけで、見かけだけの変化にしかならない。
 他の可能性としては、有望な貸出先があるならば、民間銀行はとっ
くの昔に貸出を増やしているはずなので、準備預金のリターンが0.1
%から−0.1%に低下しただけで大きく貸出が増加するとは考えがた
い。もっとも、外貨建て資産への選好が強まることで、為替レート
に円安効果が生じることは考えられる。ただし、円安を促進するこ
とがいまの日本経済にとって望ましいのかどうかは別の問題である。
 −−
 池尾 和人@kazikeo



コラム目次に戻る
トップページに戻る