5582.セルロース・ナノファイバー



セルロース・ナノファイバーCNFが話題になっている。この材料は、パ
ルプなので安い。炭素繊維に比べて10分の1程度であるが、生物
体であるので、均一性が保証できない。この均一性をどう担保して
、かつ水を吸収するので、その防止などのコストがどの程度の価格
でできるかが、用途開発に必要な研究課題である。

このCNF製造の実用化を日本製紙などの製紙会社が主に取り組んで
いる。

特に、日本製紙は原料生産に本気のようである。しかし、試験的な
量産製造ラインができたという。この原料で各社が用途開発するよ
うである。

どうも、このCNFの用途開発を星光pmcが取り組んでいるようである。

さあ、どうなりますか?

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原料は樹木!鋼鉄の5倍も強くて軽い注目の“万能材料”――車のボ
ディから住宅、家電製品まで、木材で作る時代がやって来る
矢野浩之
http://www.mugendai-web.jp/archives/2863
日本は世界でも類いまれなる森林大国だ。四季に恵まれ、夏は高温
多湿な風土で樹木がよく育つ。その自然を利用した林業は、かつて
日本の代表的産業だったが、戦後は安い輸入材に押され、国産材に
よる供給率が少なくなった。それでも、国土の7割を森林が占め、今
でも先進国ではトップクラスの緑の国土を誇っていることに変わり
はない。
 私たちにとってそんな身近な「木」という天然資源が、いま、夢の
材料として大いに注目され始めているのをご存知だろうか。その材
料とは、「セルロースナノファイバー」。植物の構造の骨格を成し
ている基本物質「セルロース」をほどいて再構成した繊維材料、そ
れがセルロースナノファイバーだ。
 「セルロースナノファイバー」は、炭素繊維(カーボンファイバー
)の6分の1程度のコストで、車のボディから家電製品まであらゆる
工業製品の材料になる可能性を秘めている。
この新材料が社会で本格的に活用される時代を迎えれば、日本はま
さに再生可能な資源大国になるといった未来像さえも描ける。
そこで、この夢の新材料の生みの親、京都大学生存圏研究所の矢野
浩之教授に、セルロースナノファイバーの研究開発のいきさつから
実用化に向けた道筋、そしてその“先”に見えているものを語って
いただいた。

強度は鋼鉄の約5倍、熱に強く、プラスチックよりも軽くて、ガラス
のように透明
木から作ることのできるセルロースナノファイバーには、数多くの
優れた特徴がある。鋼鉄の5分の1の軽さで、強度はその約5倍。し
かも熱に強い。プラスチックよりもさらに軽くて、透明材料にもな
る。なにより日本の産業にとって有望なのは、樹木という自然資源
を大いに活用できることだ。
どんな樹木や植物からもセルロースナノファイバーの原材料である
セルロースを得ることができる。この新材料が社会で本格的に活用
される時代を迎えれば、日本は再生可能な素材の資源大国になると
いった未来像さえも描ける。
1990年代から、このセルロースナノファイバーの研究開発を地道に
続けてきた人物が、京都大学生存圏研究所の矢野浩之教授である。
 「植物が、私たち人間の生活にも役立つ素材の構造体を作ってくれ
る。それならば作り手である植物の“思い”を聞かなければなりま
せん」
自然が樹木の作り手であれば、その樹木にどうなりたいのかを聞く
。こうした矢野教授の日本人的といえる研究姿勢が、いま新素材の
実用化という形で結実しようとしている。
京都府宇治市の京都大学宇治キャンパスの一角。ログハウスのよう
な生存圏研究所の木造研究棟で、矢野浩之教授が「これがセルロー
スナノファイバーです」と容器を示した。容器には、白色半透明な
ゲル状の物質が入っている。見た目は糊に似ていて、驚くところは
ない。だが、この材料には、多くの驚くべき特性が詰まっている。
まず、材料力学的な特性。軽さは鋼鉄の5分の1しかないのに、強度
は鋼鉄の5倍以上もある。だからといって硬いわけではなく、しなや
かな物性をもっている。軽いため、従来のプラスチック材に配合す
るだけでも、製品を軽量化することができる。そのため省資源化や
二酸化炭素排出量の削減にも貢献する。さらに、熱に対しても強く
、線熱膨張率はガラスの50分の1で、石英ガラスと同等の低さ。
透明化できることも大きな特徴だ。透明化できる理由は、この材料
の構造がナノメートルレベルであることにある。赤、青、緑といっ
た可視光の波長は400〜800ナノメートル程度。これに対して、セル
ロースナノファイバーの繊維1本の径は4〜20ナノメートルほどしか
ない。これだけ細ければ、可視光の波はセルロースナノファイバー
で散乱せずに透過してしまう。つまり透明な状態を保てるわけだ。
少量でよいというのであれば、こうした優れた材料を他にも得るこ
とはできる。セルロースナノファイバーがそうした素材と異なるの
は、原料が大量に存在するという点だ。地球上に広く存在する植物
に原料のセルロースが含まれている。樹木は容積が大きいために原
料の対象として注目されているが、木質だけでなく、茎にも皮にも
、ほぼ同質のセルロースが存在する。つまり、セルロースは植物の
構造の基本を成す物質なのだ。
エネルギーや工業原料などの資源として使われる生物体をバイオマ
スというが、地球上のバイオマス総量は1兆8000億トン。これは、石
油の原油埋蔵量1630億トンの10倍以上の量にもなる。
 実用化されれば、私たちの生活にとっても、日本の産業にとっても
、大きな変革をもたらしうるセルロースナノファイバー。その研究
開発を続けてきた矢野教授は、どのような経緯でこの夢のような物
質を研究するに至ったのだろうか。

木はどのようになりたいのか 台風の日に答が分かった
「もともと木材に興味があったわけではないんです」と、矢野教授
は切り出す。一浪して京都大学に入学したものの、志望していた医
学部ではなく、“第7志望”だった林産工学科に進むことになった。
「この学科について調べてみると、木材について勉強するところで
、就職先はベニヤ板やらトイレットペーパーやらをつくるメーカー
だといいます。自分はそんなのを勉強するためにこの大学に入った
のかとショックでした」
2年生まではほとんど勉強しなかった。3年生になり専門分野の授業
が多くなると、徐々に「木材というのも、意外と面白いかもな」と
思えるようになってきた。就職のことを考えると、大学院の修士課
程まで進んでおいたほうがよい。
 「学内には同分野の進路として、農学研究科林産工学専攻と、生存
圏研究所の前身の木材研究所がありました。木材研究所のほうも修
士課程から受け入れてくれるということで宇治キャンパスまで見学
にいくと、のちに師となる先生がランニングシャツ姿で研究棟をう
ろうろしておられる。研究所全体が大らかな雰囲気でした。『好き
なことを研究したらいいから』とも言われ、宇治に通うことになり
ました」
これでセルロースナノファイバーの研究開発がすぐに始まる、とい
うわけではない。矢野教授が考えて選んだ研究テーマは、楽器の音
響的特性の解明というものだった。木目の向きによって、バイオリ
ンやギターの音の響き方がどう変わってくるかなどを研究するもの
だ。さらに博士課程に進むと、化学修飾により木材を処理すること
で楽器の音色を変える研究に取り組んだ。その成果をもとにバイオ
リンを試作したところ、「ストラディバリウス並みのバイオリン誕
生」という見出しの新聞記事にもなった。ギターのほうも自身の名
が刻まれた製品が売られるなどした。結婚もした。研究人生も順風
満帆そのものに見える。ところが、33歳になったとき、悩みが生じ
たという。
「自分は一生この研究を続けていて良いのだろうか、と考えるよう
になりましてね。協力してくれていた楽器の製作家は、『この木は
バイオリンになるために生まれてきたようなものだ』などとおっし
ゃるけれど、どうかなぁと悩みだしたんです」
 本当のところ、木はどのようになりたくて育っているのか。こうし
た根本的な自問を繰り返す時期がしばらく続いたという。悶々とし
ながら37歳まで、楽器の研究を続けてはいた。その答が出たのは台
風の日だった。
「当時、私は京都府立大学で教えていました。3階の部屋で過ごして
いると、台風が接近していたので風がどんどん強くなり、そのうち
暴風となってきました。心配になって窓の外をふと見ると、ヒマラ
ヤスギが、しなやかにたわんで台風による強風を受け流し、懸命に
身をを守っている姿がありました。このとき、私は『ああ、木は強
くなりたかったんだ』と気付かされたのです」
yano_1-4木材の特性を活かす製品を開発してきた矢野教授にとって
、製品のもともとの“作り手”は木ということになる。 “作り手”
の思いに耳を傾けて、その思いに沿った研究開発を進めていけばい
い。
 「こうして、ひたすら強くなりたかった木の思いや特質を汲み取り
、それを生かした材料を作ろう、という新たな研究テーマがようや
く見えてきたんです」

何度やっても木材が強くなってくれない……
樹木の幹にあたる部分は木質とよばれる。木質は、よく鉄筋コンク
リートにたとえられる。鉄筋の役目を果たすのが、セルロースナノ
ファイバーだ。このセルロースの構造的空間を埋めるようにあるの
がコンクリート役のリグニンという物質。生ける木は、主にこの“
鉄筋”と“コンクリート”で天に向かってすっくと伸びていく。
セルロースが主成分として使われているものにパルプがある。パル
プは紙の原料だ。
 「パルプというと薄くてすぐ破れてしまうものです。でも、そのパ
ルプの繊維を摘んで引っ張り出した人がいます。すると、その強度
は1.7GPa(ギガパスカル)もあったというのです。これは鋼鉄の4倍
以上にもなります」
この事実に矢野教授は驚いたが、「もっと木材は強くなるはず」と
も思った。そこで、木に樹脂を配合させて、材料の強度を高くしよ
うとした。
ところが期待しているほど、木は強くなってくれない。計算上、導
いていた強度の半分くらいの力を加えると、その材料は折れてしま
った。
「さんざん試してみて、おかしいなと思っていたとき、『ああ』と
気付きました。樹木は生きるために水を吸い上げています。垂直方
向だけでなく水平方向にも液体などの成分を回しているのです。で
も、乾燥した木材では、細胞のつなぎ目や横方向の組織が構造的欠
陥になっていたのでした。パルプ繊維1本だけなら強くても、その集
合体には構造的欠陥があることに気付きました」
では、本来のパルプ繊維のもっている強さを活かすには、どうすれ
ばよいか。細胞どうしでつくる構造が欠点をもたらすのであれば、
その構造をほぐしてしまえばいい。矢野教授はそのように考えた。
 調べると、製紙用パルプをナノスケールまで解きほぐした「セリッ
シュ」という製品がすでに市販されていることを知った。セリッシ
ュに樹脂を混ぜて、乾燥させたのち圧縮形成する。始めのうちは、
100MPaほどしか出なかったが、セリッシュをシート化したうえで乾
燥させ、樹脂を染み込ませ、これを重ねて熱圧する方法を試みた。
すると、強度が高まっていった。
そして2001年夏、ついに鋼鉄の強度400MPaを超える材料を開発する
に至ったのである。

研究体制は強化された。実用化も視野に
こうして矢野教授は、「強くなりたい」という木の思いを、セルロ
ースナノファイバーという材料で形にした。植物原料で、世界一高
強度の材料を開発したのは、矢野教授の研究が世界初となった。
 大学で生まれた知的財産を社会に活かすための技術移転機構(TLO)
からの勧めもあり、特許を取得して2004年には大型研究事業「地域
新生コンソーシアム」に応募した。当初は準備不足もあり予算申請
が通らなかったが、それでも手を差し伸べてくれた企業とともに研
究計画を練り直し、再度応募した。すると全国トップレベルの評価
で研究予算を獲得することができ、これで勢いが付いた。製紙会社
や化学メーカーなどの企業も矢野教授の研究に興味を示し、研究に
加わった。さらに2010年以降は、自動車メーカーなどのエンドユー
ザーの企業も研究プロジェクトに加わっている。
2014年には、セルロースナノファイバーの研究に大きな追い風も吹
いた。政府が掲げた「日本再興戦略」(アベノミクス第三の矢)の
中で、「世界を惹きつける地域資源で稼ぐ地域社会の実現」という
テーマの具体的施策の1つにセルロースナノファイバーの研究推進が
盛り込まれたのだ。
これまでも経済産業省などがセルロースナノファイバーに対して高
い関心を示してきたが、今後は国全体としてセルロースナノファイ
バーのマテリアル利用を後押しすることになった。
「成長戦略に載ってから状況は変わりました。省庁もさらに関心を
もっていただき、『ナノセルロースフォーラム』というコンソーシ
アムもできました。2014年は日本におけるセルロールナノファイバ
ー元年といえる年でした」
セルロースナノファイバーの原料は樹木である。ゆえに、山間地域
での産業が振興されていくという将来性もある。「経済産業省も検
討していますが、2015年は“地域元年”ということになればと思っ
ています」。
 実用化に向けた研究体制は強いものになった。実際、どのような実
用化が、矢野教授の視野にあるのだろう。
「材料の構造材としての用途は筋がいいと思います。ターゲットの
1つに、プラスチック材をセルロースナノファイバーで強化するとい
うことがあります。
 例えば、私たちの身の回りで使われているプラスチックに、セルロ
ースナノファイバーを5%だけ配合すると、これだけで弾性率は3〜4
倍高まります。
 自動車などにこのセルロースナノファイバー配合プラスチックを使
えば、軽くなるので燃費もよくなるでしょう。あらゆるプラスチッ
クに配合してもよいと思います。軽くなって原料の使用量も減るの
ですから。また、セルロースナノファイバーは、宇宙での太陽光発
電にも活用できる可能性を持った素材でもあります」
「日本は、国土の約7 割が森林で覆われている世界的に見ても珍し
い森林国です。そのうち持続的生産が可能な人工林では、毎年、鋼
鉄の5分の1の軽さで鋼鉄の7〜8倍も強いセルロースナノファイバー
が1500万トンも増え続けています。これは、日本で消費されている
石油由来のプラスチック1000万トンの1.5倍の量に匹敵します。
 緑豊かな日本は、将来、木質バイオマスにより資源大国になる可能
性があります。その日本の持っている森林資源を使って、高性能の
材料を作り、それを海外に輸出するのが、これからの1つの産業の在
り方だと思っています」

評判と実質の一致に向け、今はまだ解決すべき課題が残っている
2001年に鋼鉄の強度を超えてから14年あまり。セルロースナノファ
イバーの実用化が間近に迫っている雰囲気が出はじめている。企業
がセルロースナノファイバー量産への道筋をつければ、あとは夢の
材料が実用化される日を待つばかり、とつい思ってしまう。 だが、
矢野教授は、そんな今の雰囲気を「まだ羊頭狗肉の状況」と表現す
る。素晴らしい機能ばかりが注目されているが、実用化までにはま
だ解決すべき技術的課題がいくつかあり、現状は評判と実質が一致
していないと率直に語る。
「実際は大変です。たとえば、セルロースナノファイバーをプラス
チックに配合して、これを自動車用材料などに使えば、軽くて安く
て使い勝手のよい自動車が実現することになります。ところが、大
部分のプラスチック材料は油分でできています。一方のセルロース
は植物中では水と親和性が強い。油と水の性質のものを混ぜても、
サラダドレッシングと同様、なじんでくれないのです」
この課題に対しては、矢野教授の研究チームの一員である京都大学
の中坪文明名誉教授が、プラスチックとセルロースナノファイバー
の相溶性を高めるための化学修飾の技術を研究開発しているところ
だ。有効な解決が期待される。 透明化できることを考えると、ガラ
ス材の代替材あるいは配合材としての用途も考えられる。
「ガラスと置き換えられたら、確かに面白いですね。でも、車のフ
ロントガラスを代替するのはまだ難しい。厚みをもたせながら透明
感を出さなければならないし、ワイパーが動いても削られないよう
にしなければなりません」 矢野教授は「まだ本当のところは完成度
は高くありません。知恵を絞っていますが、今はまだ解決すべき課
題は残っています」と語る。

“作り手”の思いにさらに寄り添い、自然の力を借りて、日本人な
らではの材料作りを
研究者として根源的に持ち続けている「“作り手”の思いをどのよ
うに形にしていくか」という考え。矢野教授はこの考えを強調する。
 「自然の力をどう借りるかが、基本的な考え方です。人が開発した
炭素繊維や金属、セラミックスとはだいぶスタンスが異なると思い
ます。 材料を作る過程のうち、一番大変なところである99.9%は植
物が既にやってくれています。残りの0.1%を人間の知恵を一所懸命
出すことで材料としての形に変えて行く。セルロースナノファイバ
ーとはそういう素材です」
“作り手”の思いに本気で従っていることを感じさせる、こんな発
言も飛び出した。
 「植物がどうなりたかったのか聞いた結果として、強くなるという
方向が見えたため、今は植物が創りだした力を借りて、セルロース
ナノファイバーという形にしています。でも、この研究をずっと続
けるかは分かりません。“作り手”の植物からすれば、完成度が最
も高いのは樹木の状態なのです。そこからブレークダウンした構造
体であるセルロースナノファイバーは、人間にとっては使い勝手が
よいけれど、“作り手”からすればあくまで1つのパーツに過ぎませ
ん。だから将来的には、木材というより高次な構造体から、ハイパ
フォーマンスな材料を創り出せたらなとも思っているのです」
すでに私たちは、構造体からすれば木材という高次の材料を使って
、家を立てたり、家具を作ったりしてきた。だが、矢野教授の頭の
中には、そうした木製品よりもさらに“作り手”の思いを活かせる
ような材料の姿があるようだ。 「従来の木製材料で、自動車を作り
ました、飛行機を作りましたというような、エコを前面に押し出す
ような感じではありません。研究としては、セルロースナノファイ
バーよりももっと先のものを作りたいという気持ちはあります」
矢野教授の示すこうした考え方は、同じセルロースナノファイバー
関連の材料を研究する世界の研究者とも一線を画すものだ。それは
、自然にある資源を搾取しようとするのではなく、使わせてもらう
という日本人の感性がストレートに研究姿勢に反映されたものとい
えよう。
「人間が自然を支配するという感性だと、自然に対する驚き、つま
りセンス・オブ・ワンダーは生まれてこないと思います。世界初の
ものを作り出して、海外の研究者から『どうしてお前はこれをつく
ったんだ』と聞かれたら、『私はジャパニーズだから』と答えられ
たらうれしいなと思っています」





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