この頃、野村證券のリチャード・クーがテレビの解説に出てこない し、量的緩和を行ってバランスシート不況から脱出したはずである が、リチャード・クー氏は、現状をどう見ているのか知りたくて、 野村証券主催の資産運用フェアに行ってきた。リチャード・クー氏 の講演会は、朝9:30から始まるので、家を7:30分に出た。 このため、久しぶりに朝の大混雑する通勤電車に乗った。 (講演内容) (バランスシート不況) 20年間もゼロ金利になっている。米国はやっとゼロ金利から脱却 できるが、この20年間、バランスシート不況が続いていた。 このバランスシート不況に、中央銀行は量的緩和を行い、資金を市 場に供給していた。米国ではマネタリー・ベースは2007年1月 を100とすると、2015年7月では472であり、4倍になっ ているが、11年間で銀行預金は159、民間信用は116と、 15%UPや16%UPであり、ほとんど増えていない。 量的緩和で市中の銀行には資金が行くが、その先には行かない。銀 行に滞留している。借りる人がいない。このため、インフレになら ない。米国は現時点で、1.3%である。 EUは米国より悪く、マネタリー・ベースは184であるが、銀行 預金は118、民間信用は99と1%も減少している。 日本も同様で、マネタリー・ベースは949であるが、銀行預金は 197、民間信用は113である。このため、消費者物価はー0.1 %でしかない。 白川前総裁と黒田総裁で比較しても、銀行預金も民間信用もほとん ど変化がない。物価もほとんど変わらない。量的緩和は、ほとんど 実体経済に影響を与えていない。 しかし、量的緩和は為替では変化を齎した。米国の量的緩和で円は 40%も上昇して、80円以下にまで円高が進んでしまった。量的 緩和は、マネーサプライには影響しないが、為替市場には教科書に 書いてあることと同じような影響を持つことがわかる。 このため、日本の量的緩和で円安になり、日本企業は息を吹き返し 、企業利益は増えている。株価も上昇している。 なぜ、このようなことになるのか? バブル崩壊して、借金して買った資産が値下がりして、超過債務状 態になって、借金返済を全員が行った結果である。 一国の経済では、貸す人と借りる人がいないと成り立たない。借り る人が少ないと金利を下げて借りやすくし、多いと金利を上げて、 調節をしている。 しかし、中央銀行が量的緩和をして、金利ゼロにしても借りる人が いないと、銀行に資金が溜まり、その先にはいかない。 全体の経済が1000円であるとき、全員で100円預金して、借 りる人がいないと経済は、900円になりシュリンクいてしまう。 これが大恐慌のメカニズムであり、これと同じようなことが起きて いたのである。 このため、1995年に金利ゼロにしたが、日本企業は返し続けた。 10年間、企業は30兆円を返し、民間は80兆円を預金していた。 しかし、日本の1990年以降のGDPを見ると、バブル崩壊した 1990年より高い。シュリンクしていない。 これは、政府が財政赤字で民間の預金や借金返済分を使ったからで ある。財政赤字が日本を救ったのである。1990年から2005 年まで累積GDPは、2000兆円の効果があったことになる。 財政赤字は315兆円であるが、これはうまくやったと思う。 民間が使わないなら、政府が使いことが絶対必要なのである。 そして、2005年に企業の借金は無くなり、動けるようになった。 しかし、2008年にリーマンショックがあり、企業は内部留保を 増やした。預金を増やしたのである。25年間6%を預金している。 このため、日本企業は金を借りようとしない時期が長く続いた。や っと、2012年から少し借り始めたが、まだ不足である。 企業が借りない理由は2つあり、1つが借金に対するトラウマであ り、もう1つが、高齢化、人口減少である。借金のトラウマに対し ては、第1の矢の金融緩和と第2の矢の財政出動で対処した。 トラウマ対策として、投資減税や一括償却を認めることで、投資を 促した。しかし、2014年4月に消費増税をしたことで、最終需 要がマイナスになり、企業は投資ができなかった。 第3の矢の構造改革は、効果が出るのに5〜10年かかる。レーガ ンの改革が成果を出したのは、クリントン政権になってからである。 15年かかった。そして、クリントン時代は財政黒字にもなる。 すぐに改革で効果が出たのが、インバウンド消費であり、GDPと して3兆円の効果があったが、ビザの簡素化や撤廃が大きい。アジ アから大量の人が日本に来て、買い物をし始めた。 日本と同じ状況に、2008年のリーマンショクで、米国も同じ様 になり、バランスシート不況とバーナンキなどは気がつき、政府は 財政赤字にして、民間の5%預金を使った。2012年から民間が 借金をし始めた。やっと、財政立て直しができるようになった。 EUは、マーストリヒト条約で財政赤字を3%以下にすることが義 務付けられている。民間預金が8%であるのに、財政赤字は3%に なっている。このため、バランスシート不況が続行している。この 条約は、大きな問題を抱えている。 (量的緩和からの離脱は難しい) そして、米国は、やっと量的緩和を止めて、出口になった。しかし、 量的緩和を行った中央銀行は、これからが大変なことになる。金利 ゼロ+量的緩和のために、インフレになる可能性がある。銀行は資 金が大量に有り、無限大に貸せる状態にある。 このため、資金を銀行から回収する必要がある。現在、米国では一 部インフレになっている。不動産価格が2008年より上昇してい る地域がある。このため、インフレを未然に防ぐ必要がある。 しかし、非伝統的金融政策を取ってきたことで、人類は一度も経験 したことがない。何が起こるかわからない。 量的緩和で少し景気回復は早まるが、国債の金利が低いので、誰も 買わないことで、突然、国債の長期金利が急上昇する可能性があり 、この金利の急激な上昇を防止しないといけなくなる。 と思っていたら、為替レートで起きた。長期金利は低いのに、ドル のレートが急上昇で、世界最強の通貨になってしまった。このため、 ドル高で製造業がダメになってきた。ドルにリンクしている中国の 人民元も上昇して、製造業が大変になり、デカップリングしようと 、切り下げたら資金流出という別の問題が起きてしまった。 新興国全体で問題が起きている。銀行は中央銀行から資金を無限に 供給されたので、国内に借り手がいずに、新興国、株、債権、不動 産に資金を出した。 ドル金利が上昇して、資金が米国に戻り始めた。このため、資金流 出を止めるために、金利を上げないといけなくなった。世界経済は 悪くなる。米大手企業のCEOの調査でも、2016年は2015 年より悪くなると言っている。米大手企業は海外に出ているので、 世界の状態を見ている。 米国の需要がUPすると、世界の需要はDOWNすることになるよ うだ。イエーレン議長は、金利を早くUPする必要がある。インフ レが2%になってから資金回収をすると、突然の金利急上昇が起き ると心配している。 早め早めに動くことが重要である。インフレが1.1%の時にバー ナンキは、テパーリングを始めた。インフレ率が1.3%の時に、 イエーレンは金利を上げる。そして、金利を徐々に上げるようだ。 黒田総裁は、どうするのかが問題である。現時点のインフレ率は、 1.1%であるが、まだ量的緩和を継続する、追加緩和をすると騒 いでいる。そうではなくて、量的緩和を早めに止める方向に舵を切 る必要がある。 日銀は、引当金を積み増すことにして、国債の値下がり、金利上昇 に備える動きをし始めたようである。 そして、量的緩和から脱出する方法を書いた論文が1つもない。す べて、手探りで進むしかない。しかし、早めに動くことが必要であ り、黒田総裁もそうするべきであると思う。