5539.米国労働市場の問題点



エコノモニターにクリントン政権で労働長官であったライシュの
「The Rigging of the American Market」が載っている。

それと、エコノミスト誌に「White middle-aged Americans are 
getting sicker」が載っている。どちらも最後にリンク。

米国労働市場での問題点が明らかになりつつある。これは他人事で
はなく、金融緩和による貧富の格差により、同じことが起こる可能
性がある。

米国では、他の先進国に比べて医薬品や医療の価格が高い。ライシ
ュはそれは不正行為であり、米国の経済を不正から守ることが必要
であると述べている。それが原因となって、ミドルクラスの白人の
死亡率が上昇している。
他の国は、死亡率が減少しているのに、米国は上昇しているのであ
る。

この死亡率上昇の原因は、自殺と肝硬変、麻薬中毒による上昇であ
る。肝硬変は、酒の飲みすぎであろう。

そして、米国では2014年、25〜54歳の男性の12%(ほぼ8人に1人)
が職に就いておらず、求職活動もしていなかった。労働参加率が他
国に比べて低い。同世代の世代の女性の26%も労働市場に参加して
いない。日本より少ないという状況である。

米国の働き盛りの男女が長期にわたって、これほどの規模で労働市
場から退出し続けているのはなぜなのか。働かずにいる方が楽だか
らという説明は成り立ち得ない。米国は、高所得国の中では福祉が
最も手厚くない国だからだ。

失業率はあまり高くないが、最低賃金が低いことと、市街地が延々
と続く大都市圏に住む労働者では通勤の交通費の負担が重くなるこ
とも、低賃金労働を割に合わないものにしている可能性がある。

そして、米国の監獄は、どこも定員よりオーバーしている。

このように、労働市場を自由放任にして、最低賃金が低いと労働参
加率を下げて、犯罪や自殺や飲酒、麻薬に走り、社会的な安定が崩
れることになる。

日本も、労働の自由化の行き着く先は米国のようになると見える。

英国のオズボーン財務相が行った最低賃金をロンドンで子どもを育
てる生活賃金とした政策を参考にした方が良いと思うが、どうであ
ろうか?

母子家庭の貧困化率が高いので、そこに優先的に手を付けることは
重要であろうと思う。

さあ、どうなりますか?

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機能不全に陥った米国の労働市場
働き盛りが家族を養えない? 問題は労働参加率の長期低下傾向
2015.11.5(木)  Financial Times
米国では2014年、25〜54歳の男性の12%(ほぼ8人に1人)が職に就
いておらず、求職活動もしていなかった。これはイタリアの水準に
非常に近く、主要7カ国(G7)に名を連ねるほかの高所得国をはるか
に上回る値だ。英国のそれは8%で、ドイツとフランスは7%、日本
に至っては4%にすぎなかった。
同じ2014年、米国に住む働き盛りの世代の女性の26%は職に就いて
おらず、求職活動もしていなかった。この値は日本のそれと全く同
じで、両国を上回るのはイタリアだけだ。
つまり、十分な所得を稼ぐことが必要不可欠になっているはずの責
任ある世代の男女について言えば、米国労働市場のパフォーマンス
は際だってお粗末だったことになる。
一体何が起こっているのだろうか。

大きく変容する労働市場
米国では以前から、16歳以上の人々の労働参加率が世界金融危機後
に低下していることが議論の焦点になっている。確かに、この比率
は2009年年初の65.7%から2015年7月の62.8%へと低下している。
米大統領経済諮問委員会(CEA)によれば、この低下幅のうち1.6ポ
イントは高齢化によるもので、0.3ポイントは景気循環の影響による
ものだ(後者は、当初に比べれば縮小しているという)。残りの約
1ポイントは説明がついていない。
現在はプリンストン大学に籍を置くアラン・クルーガー前CEA委員長
は、長期失業者の多くは就職をあきらめてしまっていると論じてい
る。循環的な失業の長期化はそうやって労働力人口の恒久的な縮小
を引き起こすというのだ。
ということは、失業率は2つの正反対の理由で低下する可能性がある
ことになる。1つは、仕事が見つかるという歓迎すべき理由。もう1
つは、失業者が就職を断念するという歓迎できない理由である。
幸い、米国では、世界金融危機の後、前者の方が優勢だ。米国全体
の失業率(国際比較が可能なベース)は2009年につけたピークの10
%から5ポイント低下している。総じてみると、この5ポイントのう
ち、労働参加率の低下による部分はせいぜい4分の1だ。

ほかの国々との比較でも、米国の失業率はなかなか良好だ。
2015年9月の値は英国と同じであり、ドイツや日本よりは少し高いも
のの、ユーロ圏の10.8%に比べればかなり低い。
従って、米国の景気循環による失業のパフォーマンスは、ほかの国
々の基準に照らせば少なくとも「まずまず」だと言える。ただ、米
国大統領経済報告2015年版で指摘されているように、英国は高齢化
のトレンドが米国のそれに似ているにもかかわらず、グレートリセ
ッション(大不況)以降に労働参加率の低下が見られなかった。
景気循環ベースで見ても、米国の労働参加率の低下は懸念材料だ。
しかし、本当に厄介であるに違いないのは長期のトレンドの方であ
る。働き盛りの世代のそれは特にそうだ。

働き盛りの米国人の苦悩
1991年には、米国の働き盛り*1の男性のうち、職に就いておらず求
職活動もしていない人の割合は7%にすぎなかった。よって、就職を
あきらめた人の割合は5ポイントも増えたことになる。同じ時期に英
国では、働き盛りの男性のうち労働力にカウントされない人の割合
は6%から8%にしか増えていない。フランスも5%から7%への増加
にとどまっている。
つまり、働き盛りの世代の男性を労働力としてつなぎ止めておくと
いう面では、硬直的だと一般に思われているフランスの労働市場の
方が、柔軟性の高い米国の市場よりも高い成績を上げていることに
なる。しかも、米国では男性の労働参加率が第2次大戦後間もないこ
ろからずっと低下傾向を描いている。
*1=本稿では25〜54歳の世代を指す

働き盛りの女性の労働参加率にも、男性のそれに勝るとも劣らない
興味深いことが起こっている。
米国では2000年まで女性の労働参加率が力強く上昇し、世界でも指
折りの高さになった。
ところがそれ以降はG7で唯一、働き盛りの世代の女性の労働参加率
が一貫して低下している。かつて大きく出遅れていた日本にも追い
つかれてしまった。
米国の働き盛りの男女が長期にわたって、これほどの規模で労働市
場から退出し続けているのはなぜなのか。働かずにいる方が楽だか
らという説明は成り立ち得ない。米国は、高所得国の中では福祉が
最も手厚くない国だからだ。
法定最低賃金が高いために雇用の創出が妨げられ、スキルに乏しい
労働者が就職をあきらめる要因になっているというわけでもない。
経済協力開発機構(OECD)によれば、2014年の米国の最低賃金は実
質ベースで英国のそれより20%低く、高水準なことで知られるフラ
ンスのそれを大幅に下回る。しかも、米国の労働市場はOECD加盟国
の中では最も規制が少ない。
長期トレンドを説明する理由は・・・
では、この労働参加率のトレンドは何で説明できるのだろうか。働
き盛りの女性については、手ごろな料金の保育施設・サービスがな
いことが有力な説明の1つに上げられそうだ。どうやら社会は、女性
を労働市場にとどめておく費用を負担したくないと思っているよう
だ。
2008年から米国ベビーブーマー大量引退、その影響は?
また、労働市場が柔軟であるがゆえに、雇用主が働き盛りの世代の
労働者に代えて若者や高齢者を雇うことができるという説明も可能
だろう。実際、米国では15〜24歳の労働参加率が比較的高い。
65歳以上の高齢者の労働参加率も、2000年の13%から2014年の19%
へと大幅に上昇している。この高齢者の値は、G7では日本に次ぐ2番
目の高水準だ。
最低賃金が低いことと、市街地が延々と続く大都市圏に住む労働者
では通勤の交通費の負担が重くなることも、低賃金労働を割に合わ
ないものにしている可能性がある。
特に男性の場合、いわゆる大量投獄によって犯罪歴を持つ人の数が
増えたことも、職探しの困難さやそれを受けた労働市場からの退出
を説明する要因になるかもしれない。
最後に、働き盛りの世代の労働参加率が低下していることは重要な
問題なのだろうか。答えはイエスだ。重要であるに違いない。
もし、家族を養えるだけの収入が労働市場では得られないと思って
いる人が多いのであれば、労働参加率の低下は重要な問題である。
子供のいる女性たちが労働市場とのつながりを失っている場合も同
様だ。
労働市場に参加する働き盛りの割合が米国で一貫して減ってきてい
ることは、この国の市場に重大な機能不全が起きていることを示唆
している。注目や分析に値することだが、それにはとどまらない。
これは行動を起こすに足る問題だ。
By Martin Wolf



The Rigging of the American Market
White middle-aged Americans are getting sicker

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