5531.海洋中の放射性物質の生体濃縮と発癌メカニズム



海洋中の放射性物質の生体濃縮と発癌メカニズム
From:tokumaru
皆さま、

3・11東日本大震災で福島第一原発が事故を起こし、大量の放射
性物質が海洋に投棄され、水大気循環によって流入し、雨水や川の
水によって海に流れ込むようになって以降、私は「海で獲れるもの
を食べてはいけない」、「とくに骨ごと食べる小魚は絶対にいけな
い」、と考えるようになりました。その理由をこれからお話ししま
す。

先般、某医学部の教授をしている友人と飲むことがあり、私なりの
考えを説明したところ、「その話はもっともらしい。説得力がある
。自分もこれからそう考えよう」といってくれました。

また一緒に合気道をしている友人は、「これまで放射能の危険性に
ついて聞いてきたのは、すべて人からまた聞きした話だけだったけ
ど、はじめて自分の頭で考えた人の話を聞いた」と喜んでくれまし
た。

拙論がどこまで正しいかを評価できる専門家はいません。なぜなら
これは専門的な話を学際統合している話だからです。また海洋汚染
、生体濃縮、転写後修飾は目にみえない現象です。「学際+不可視
=複雑」ですので、それを理解するためには、頭の中で論理を組み
立てる必要があります。

以下に、拙論をご紹介し、皆さまのご判断を仰ぎたいと思います。
顔を突き合わせながら話をすると5分で終わることも、言葉にすると
けっこう長くなります。どうかおつきあいください。

1.	海洋汚染のメカニズム
福島第一原発の事故のあと、大量の汚染水が海洋に投棄されました。
それ以外にも、大気中に拡散した放射性物質は、陸上や海洋に降下
しています。また、いったんは土壌を汚染した放射性物質が、水や
雨に流されて川に流れ込んだり、植物に吸収されてそれが落ち葉と
なって川を通じて海に流れ込んでいます。その他いろいろな経路に
よって、放射性物質が海洋中に流入しています。

「海は広いな、大きいな」と学校唱歌にありますが、現在地球の表
面にある海水の量はおよそ13億立法キロメートル。ひとりの人間に
とっては無限に感じられるとしても、70億の人口にとっては、ひと
りあたり0.2立法キロメートルで、たいした量ではありません。

海は広くて大きくて、そして深くて流れているから、海洋中に流入
した放射性物質は希釈されて、流れていくから、汚染されてももと
に戻るのではないかと期待している方もおられるでしょう。ところ
が、海洋生物は、希釈された放射性物質を、積極的に体内に取り込
んで生体濃縮するのです。
 
2.	生体濃縮はなぜ起きるのか
皆さまは、工場の排水中に含まれていた水銀が、魚に濃縮されて食
卓に運ばれて、魚を食べた人が病気になった水俣病のことはどれだ
け知っておられますか。

また、鉱山開発の結果、付近の川にカドミウムが流れ込み、下流の
田んぼを汚染して、そこで獲れたお米を食べた人々をむしばんだイ
タイイタイ病という病気が、富山でおきました。上流の鉱山は、神
岡鉱山でした。

これらの公害病のときに、「生体濃縮」という言葉に触れた気がし
ますが、そもそも生体濃縮がどういう仕組みで起きるのかについて
、私は理解していませんでした。以下は、私なりの生物学です。

生命体の細胞を構成している細胞膜は、外部の有毒物質から細胞を
守る機能を果たしています。一方で、細胞内部に栄養物質を選択的
に取り込む役目を果たしています。栄養素といえば、炭素(C)、窒素
(N)、リン酸(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)などです。電子配列
が+4で安定している炭素(C)は、糖として取り込んでいると思われま
すが、他はカリウム+1やカルシウム+2などのイオン状態で取り込ん
でいると考えられます。

ここで元素記号表を見ていただきたいのですが、セシウム(Cs)は、
カリウムの2つ下、ストロンチウム(Sr)はカルシウムの1つ下に位置
しており、一番外側の電子配列が同じになっています。つまり、セ
シウムはカリウムと非常によく似たイオンとなり、ストロンチウム
はカルシウムと非常によく似たイオンになるのです。

こうして生物の細胞は、栄養素だと思って、環境中のセシウムやス
トロンチウムを細胞内部に積極的に取り込んでいくのです。

水銀やカドミウムは遷移元素で、セシウムとストロンチウムは典型
元素です。この違いがどのような意味をもつのか、私はよく理解で
きていませんが、おそらく典型元素は遷移元素より激しい反応を体
内で生むのではないかと思われます。セシウムやストロンチウムの
ほうが、水銀やカドミウムよりも毒性が強いといってもよいのでは
ないでしょうか。

海洋中に流入した放射性セシウムと放射性ストロンチウムは、こう
して魚介類や海草類の細胞内部に栄養素と間違えられて取り込まれ
ます。そしてそれを食べた人間の細胞が、その栄養素と同じ電子配
列をもつ強毒性物質を細胞内部に取り込むというわけです。

3.細胞内部に取り込まれた放射性物質はタンパク質情報を破壊する
3.1 内部被ばくとは何か
さて、細胞内部に放射性物質が取り込まれて、細胞内部で放射線が
放出される状態を、「内部被ばく」と呼びます。

空気中の放射性物質を肺が取り込んで、肺細胞の外から放射線を浴
びせるのは、「内部外部被ばく」、胃腸などの消化器から放射性物
質が取り込まれて、それが各細胞に送られて細胞の器官を構成する
のは「内部内部被ばく」であると分類することも可能です。そこま
での分類にはまだお目にかかったことはありません。肺の場合も、
消化器の場合も、どちらも細胞に至近距離から放射線を浴びせる内
部被ばくと考えてよいでしょう。

3.2	真核生物の核内でおきる転写後修飾
生物には、原核生物と真核生物の2種類があります。原核生物という
のは、バクテリアなど細胞膜のなかに核膜が存在しない単細胞の生
物です。核膜がないため、DNAは環状構造をして細胞質のなかにあり
ます。タンパク質の産生は、DNAの転写領域にRNAが付着するかたち
で始まり、RNA3つごとにその場でアミノ酸に翻訳されます。つまり
、DNAの記憶する情報にそのまま従って、タンパク質が生みだされま
す。

原核生物のほうが真核生物よりも古く、また熱や放射線などの環境
ストレスに強いことが知られています。

真核生物は原核生物が進化したもので、細胞内部に核膜をもち、DNA
はその中に保存されています。核膜は、もともとは細胞膜であった
ものが陥入して、独立したものと考えられています。おそらく20億
年前に小惑星が地球に衝突したあとの厳しい環境下で、生物が生き
延びるために核膜を生みだしたものと思われます。

そして、厳しかった環境が比較的穏やかになったときに、核膜は外
部の雑音を防ぐ必要がなくなって、その代わりに二重の膜で保護さ
れた低雑音環境を利用して、もっと別の進化を生みだしました。そ
れが真核生物の核膜内部で起きる「転写後修飾(Post Transcriptional 
Modulation)」と呼ばれる現象です。

真核生物のDNAの転写領域には、タンパク質をつくるための情報であ
るメッセンジャーRNA(mRNA)になってアミノ酸に翻訳される部分(エ
キソン)と、mRNAになる前に切り取られてしまう、アミノ酸に翻訳さ
れない部分(イントロン)の2種類があります。原核生物には基本的に
イントロンはありません。

タンパク質を産生せよという指令が細胞の核に送られると、DNAの二
重らせんが開いて、そこにRNAが集まってきて、mRNA前駆体(Precursor 
mRNA)がつくられます。これにはエキソンとイントロンが交互に入っ
ています。

そして、mRNA前駆体からイントロンが切り取られて外されるスプラ
イシングという現象がおきます。イントロンはアミノ酸に翻訳され
ませんので、これまで一部の学者はイントロンになるDNAの部位を「
ジャンクDNA」と呼んでいました。

ところが、アミノ酸に翻訳されない非コーディングRNA(ncRNA)が、
さまざまな形でエキソン部分を修飾して、タンパク質を複雑化し、
タンパク質の種類を増やしていることがわかってきたのです。この
ために真核生物になって、多細胞化し、環境適応能力を高めて、生
命体は多様になりました。

3.3 転写後修飾の弱点は雑音
ところが、生命体を多様化した転写後修飾には、ひとつ大きな弱点
があるようなのです。

それは雑音に弱いということです。

細胞膜と核膜という二重の生体膜によって保護された超低雑音環境
だからこそ、転写後修飾という繊細な現象が可能になったのです。
それは雑音によって容易に阻害されます。

肥田舜太郎さんという広島原爆のときに広島におられたお医者さん
と、被ばく問題に関する映画を何本も作っておられる映画監督の鎌
仲ひとみさんが著した「内部被曝の脅威」(ちくま新書,2005)によ
れば、「生体内では 0.25~7.9 電子ボルトという小さな単位のエネ
ルギーがやりとりされている.」そうです。

ところが放射線一個の粒子がもつエネルギーは、通常の生体内のエ
ネルギーの100万倍もあります。たとえば「アルファ線分子は一個の
粒子が 420万電子ボルトのエネルギーをもって新陳代謝の中へ割り
込んでくる」のです。

だから「放射線の内部被曝は,線量がどんなに微量でも大きな被害
を引き起こす」のだといいます。

アルファ線やベータ線は飛距離は短いですが、内部被曝の場合 「半
径1ミリメートルの射程距離内には直径7~8ミクロンの細胞は少なく
とも30~50 個はゆうに存在」します。アルファ線でもベータ線でも
、付近の細胞核内に大きな影響を与えます。

この本は、放射線が「DNAを直撃して DNA損傷を起こす」ほか、「酸
素の溶け込んだ体液の中で酸素分子に衝突し、電気を帯びた毒性の
強い活性酸素を作り出す」ということが指摘されています。

しかしながら、核膜内で起きるmRNAの転写後修飾にも悪い影響を及
ぼすであろうと思われます。そして、おそらく、DNAの損傷や酸素の
活性化よりも、うんと少ないエネルギーで転写後修飾は阻害される
のです。転写後修飾が阻害されると、タンパク質をつくるのに必要
なmRNAが破壊されて、必要なタンパク質ができなくなります。

あるいは、細胞質内でmRNAがリボソームによってポリペプチドに翻
訳された後のタンパク質への三次元化のプロセスも阻害されると、
やはり必要なタンパク質が不足するでしょう。

4. タンパク質情報の破壊が癌や内出血などさまざまな病気を生
みだす
mRNAというタンパク質を生みだす情報が破壊されるということは、
生命体にとっては危機です。

2年前に生命情報若手の会というところで教えてもらった数字によれ
ば、ひとつの細胞のなかで毎秒3000個のタンパク質が生みだされて
います。そこに放射線が当たれば、そのタンパク質情報はほとんど
がゴミになってしまってアミノ酸に翻訳されないか、仮にアミノ酸
に翻訳されてもおかしなタンパク質になると考えられます。

一回や二回、そういう事故がおきたとしても、生命体は復元能力を
もっています。できあがったタンパク質が希望通りのものでなけれ
ば、核膜内部に、再度そのタンパク質をつくるように指示が送られ
ます。

しかし、放射線による妨害が増えると、細胞内部にデキソコナイの
タンパク質が山のようにたまって代謝の妨害をしたり、再生要求も
間に合わなくなって細胞が死んでしまうという現象が予想されます。

デキソコナイのタンパク質で充満した細胞が、おできではないでし
ょうか。細胞死すると、ケロイドのようになるのではないでしょう
か。それが外からでは目にみえない体内でおきているのが病気で、
放射性セシウムはカリウムと間違えられて筋肉や血管をつくる細胞
に送られますから、癌や心筋梗塞、脳内出血が生まれ、放射性スト
ロンチウムはカルシウムと間違えられて骨や歯をつくる細胞に送ら
れますから、虫歯、歯の欠損、骨折、白血病などの病気を引き起こ
すのです。

癌や白血病や心筋梗塞だけでなく、単なる虫歯、単なる骨折と診断
されてきた病気が、じつは内部被ばくによるタンパク質産生異常が
原因だったという可能性があります。

5 対策はあるのか
放射能の恐怖を聞きたがらない人たちは、はじめ「放射能は危険で
はない」、「これくらいの被ばくで病気にならない」という反応を
示して耳を貸さず、こちらが丁寧にその危険性を説明すると、「自
分だけ長生きしたいとは思わない」、「自分はもう十分生きてやり
たいことがないから、いつ死んでもいい」という投げやりな反応を
とって、放射能の危険性を理解しようとしません。

医学博士なら3分で理解できることでも、細胞やタンパク質について
の知識がまったくない人にとっては、ひとつひとつの概念を新たな
記憶として獲得し、さらに考え続けてそれらの概念を相互にネット
ワーク化させる必要があるので、たしかに面倒くさいことです。

でも、子供たちや、これから日本で生まれる世代に、放射能の危険
性を伝えることが我々の使命です。そうしないと、とくに魚食文化
をもつ日本人はまもなく全滅するでしょう。

我々に求められているのは、(1) 環境に放出された放射性物質は、
電子配列の似た栄養と同じ挙動をするために、生命活動にとっては
大いなる脅威であるということを、何度も何度も繰り返して頭に叩
き込むことです。

そして(2) できるだけ放射性物質を体内に取り込まないように、食
材の産地や被ばく可能性に思いを致すことです。放射性物質が体内
に取り込まれてしまった場合には、下痢や蕁麻疹のような形でなん
としてでも排出するぞという決意をすれば、それが細胞レベルに伝
わる可能性もあります。

そして肥田先生がいっておられるように、(3) 暴飲暴食をせず、免
疫力を低下させない生活を続けることも大切です。温泉につかって
のんびりするのもよいでしょう。

今年のノーベル文学賞を受賞したアレクシエービッチ著『チェルノ
ブイリの祈り』のなかに、「最初はチェルノブイリに勝つことがで
きると思われていた。ところが、それが無意味な試みだとわかると
、くちを閉ざしてしまった。自分たちがしらないもの、人類が知ら
ないものから身を守ることはむずかしい。」という言葉があります。

福島第一原発事故のあと、着実にチェルノブイリと同じ状況が展開
されています。「知らないものから身を守ることはむずかしい」な
ら、「知る」という行為によって、多少なりとも状況を改善するこ
とはできないものでしょうか。

「複雑なものを正しく知る」手法について、これまで我々ははじめ
からあきらめていて、きちんと構築しようとしてきませんでした。
「複雑=正しく理解できない」として、いいかげんに扱ってきまし
た。地球レベルで行き詰ってしまった現代文明の終焉に対応するた
めに、今、複雑なものを正しく理解することが求められています。
どうか皆さま、訓練してみてください。

得丸公明(思想道場 鷹揚の会)


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