5526.キッシンジャーのご託宣



ロシア・ツデイ紙に「Kissinger: Let Russia defeat ISIS, its 
destruction more important than overthrow of Assad」という記
事が載っている。

この記事はWSJのキシンジャーの記事「A Path Out of the Middle 
East Collapse」を解説したものである。

米国は、イランとの核合意で、この地域の米同盟国と摩擦を起こし
ているし、米軍が反政府軍などに軍備などを援助しても、それをイ
スラム国に奪われて、イスラム国の軍備を増強しているようなもの
であり、米国は、現在、この地域での活動を押さえるべきである。

ロシアは、アサド政権を支援するために、この地域に介入したが、
ロシアとイラン、ビスボラは、イスラム国を倒すことが出来る。現
在は、アサド政権を倒すよりイスラム国を倒すことのほうが優先レ
ベルが高い。

イスラム国を倒したあと、シリアを連邦制にして、シーア派、スン
ニ派地域の自治を認めて、その上に連邦政府を作るように、イラン
などと米国は協議するべきである。

イランは自分の影響力をアラブ全体に及ぼそうとしているが、ロシ
アにはそのような野望はない。よって、米ロが協力して安定的な体
制を確立できる。

現時点での米国の役割は、味方のスンニ諸国に対して、イラン核の
抑止力を提供することである。

キッシンジャーは、ロシアの意図を認めているようだ。イスラム国
を倒した後の中東の秩序をどうするかの議論に移っている。

しかし、米国の知識人は、この意見に反対しても、現実にはキッシ
ンジャーが言っているようにしか、ならないと見るが、どうであろ
うか?

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衝突回避策で合意=シリアでの飛行手順で覚書−米ロ
 【ワシントン時事】米ロ両政府は20日、シリア領空を飛行する
両軍の有人・無人機の安全確保策の内容で合意し、手順を定めた覚
書を交わした。ロシア軍は過激派組織「イスラム国」掃討を名目に
シリアで空爆を開始。米軍も同組織への空爆を続けており、両政府
は空中での偶発的衝突を懸念し、今月初めから高官協議を重ねてい
た。
 覚書には、飛行中の安全な距離の確保、操縦士同士の交信に用い
る無線周波数の指定、交信不能の際に使う地上通信回線の設置が盛
り込まれたが、全文は公開されていない。覚書は有志連合の一員と
して米軍と共にシリア空爆に参加するアラブ・西側各国軍も対象と
し、即日発効した。米ロは覚書の履行をめぐる作業部会も設ける。
 米政府は9月、ロシアの呼び掛けに応じ、ロシアのウクライナ侵
攻を受け凍結していた軍事対話を衝突回避に焦点を絞り再開するこ
とに同意。報道などによれば、同月末のロシアによる空爆着手以降
、ロシア機が米軍機から約150メートルの距離まで接近したり、
米軍機がロシア機を避け経路を変更したりする事態が起きていた。
(2015/10/21-06:10)
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米露軍事衝突への序章
ロシアによるシリア介入
2015年10月21日(Wed)  岡崎研究所  WEDGE
米戦略国際問題研究所(CSIS)のコーデスマンが、同研究所のウェ
ブサイトに9月23日付で掲載された論説において、シリアへのロシア
の介入の実態を紹介するとともに、米・ロ衝突も予見されるなか、
米はロシアについての考え方を再考すべきである、と論じています。
 すなわち、プーチンはシリアでのロシアの軍事的役割を次の通り
拡大している。
 * タルトゥスのロシアの港湾施設の海軍基地強化とラタキアの南
の飛行場の空軍基地化、
 * SU27戦闘機(3-4機)・SU24戦闘機(12機)・SU10支援戦闘機
(12機)・無人航空機の配備、
 * 高周波信号・通信車両の提供、新型大砲(数は不明)の提供、
 * 6台以上のT-90戦車と35台以上の戦闘車両その他の提供、
 * 2000人の兵士用プレハブ住宅建設、
 * 地上配備SA-22防空システムの配備(数不明)、
 * 200人の海兵隊員の派遣とアサドの家近くでの1500人以上の住
宅建設。
 ロシアは冷戦時代の1971年、シリアに小さな海軍基地を取得し、
海軍部隊も駐留させていたが、1991年以来、プレゼンスを縮小した
。シリア内戦でロシア海軍は意味のある役割は果たさなかった。ロ
シアのシリアへの兵器供給も新しい事ではなく、シリア軍の兵器は
ほぼ全部ロシア製である。ロシアは内戦でアサドを支持、2011年以
来その延命を助けてきたが、シリア政府は優秀な武器があったにも
かかわらず、支配地域を失い続けた。
 いま世界が注目しているのはロシアが空軍基地を作り、支援戦闘
機を配備し、シリア内戦に活発に介入しようとしていることである
。これは米国やその連合軍のIS空爆に挑戦する能力になりうる。シ
リアに飛行禁止地帯を作る妨げにもなる。
 プーチンは2008年、ポーランドへのMD配備、ジョージア侵略での
西側との関係悪化に対抗して、シリアでの海軍基地強化を示唆した
。今回のロシアのプレゼンスはアサドの延命、反対派の妨害のほか
に、米国やその同盟国の空軍力使用に影響を及ぼす問題である。
 プーチンはハイブリッドな政治戦争で軍事力を使う。中国の南シ
ナ海埋め立てと同様、一発も撃たないでロシアの力を示せる。プー
チンはこれで現地の強権的指導者を支持し、米国の支配拡大のため
だと考える「カラー革命」に反対し、イランにも米への対抗勢力で
あると示しうる。プーチンが計算を間違い、米国、その同盟国、イ
スラエル、米が支援する反対派と軍事的衝突が起きることもありう
る。歴史は制限戦争がしばしば深刻な緊張や紛争にエスカレートす
ることを示している。
 米国はロシアや中国についての考え方を見直す必要がある。両国
とも、複雑な政治戦争を行う能力がある。米はそれに対抗すべきで
ある。今のところホワイトハウスは行動しないことを選択しすぎて
いる、と論じています。
出典:Anthony H. Cordesman,‘Russia in Syria: Hybrid Political Warfare’(CSIS, September 23, 2015)
http://csis.org/publication/russia-syria-hybrid-political-warfare
*   *   *
 この論説は、ロシアがシリアでしていることをコンパクトに紹介
しており、参考になります。
 ケリー米国務長官はロシアのシリアでの軍事力拡大問題をラブロ
フ・ロシア外相との電話会談でも何度も取り上げていますが、ロシ
ア側はISと戦う力があるのはシリア政府軍だけで、アサドは支援に
値するなどと述べて、米側の自制要求に応じていません。
 何故ロシアがこういうことをしているのか、正確な動機は分かり
ませんが、米国に対抗すること、シリアに橋頭堡を築いておくこと
、イランとの協力を強化することなど、諸考慮があると思われます。
同時にこのロシアの政策は、米国、トルコ、NATO、サウジなどの湾
岸諸国、イスラエル、ヨルダンなどとの関係を損なう恐れが大きい
です。ロシアがシリア内戦に巻き込まれることがロシアに利益をも
たらすか否か疑問に思いますが、ロシアが国際社会の大半およびシ
リア人の多数がシリアの指導者として見限っているアサドをイラン
とともに支えると言うのなら、それもロシアの選択です。話し合い
で自制させられるものではなく、こういうことには、政治的に、あ
るいは軍事的に対抗していく以外に方策はありません。
 シリア問題をめぐる米ロ対立は、たとえばロシアの対空兵器で空
爆実施中の米軍機が撃墜されたような場合、深刻な紛争になる可能
性があります。
 米ロ関係については、ウクライナの問題に加え、この問題が出て
きています。そういう中で日本は岸田外相を訪ロさせ、年内のプー
チン訪日の実現などを目標にした対ロ外交をしています。日本の抗
議を無視して行なわれたメドヴェージェフ首相の択捉訪問の直後に
、プーチン訪日準備のための岸田外相の訪露を実施したのは理解し
がたく、反発すべき時には反発し、それにできるだけ実効性、持続
性を持たせるのが対ロ外交では必要です。軽率な対ロ外交は、北方
領土では何らの進展もない中で、対ロ関係でG7の結束を乱し、米国
の対日信頼を傷つけるなど、国益に反します。

Kissinger: Let Russia defeat ISIS, its destruction more important than overthrow of Assad

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