5522.チェルノブイリの祈り



チェルノブイリの祈り
From:tokumaru  Date: Mon, 12 Oct 2015
皆さま、
『チェルノブイリの祈り』の著者がノーベル文学賞を受賞しました
。よろこばしいことです。この機会に、原発事故後10年のベラルー
シの人々と、あらためて本を通じて心を通わせたいと思います。

書評めいたもの、ツイートめいたもの、3年前のレジュメをお送りし
ます。3年たって、本の内容を新鮮に受け取るのか、懐かしいと受け
取るのか、わがこととして受け取るのか。人それぞれかもしれませ
んが、わがこととして受け取ることができたらそれが道元の教える
「悟り」というものかもしれません。

実はこのレジュメ、ホームページも、パソコンも、どういうわけだ
が何度もファイルが消去されているいわくつきのものです。特定個
人へのサイバー攻撃というものがあるのかないのか、興味あること
です。とはいえ、それだけの価値があるということかもしれません
ので、ぜひとも繰り返し読んで、消去不能な形で意識化してくださ
い。

得丸

I(ミニ書評)
今年のノーベル文学賞を受賞したアレクシエービッチ著『チェルノ
ブイリの祈り』は、1986年のチェルノブイリ原発事故から10年後に
行ったインタヴューをまとめたものだ。原発事故の消火活動に従事
したために体がどんどん腐って人間のものとは思えない容姿になっ
た夫に寄り添う妻、放射能で汚染され見捨てられた大地で生きてい
く人々、どれもこれもチェルノブイリ以前には考えられなかった未
曽有の人生である。既存の価値観や行動様式が一切通用しない世界
を孤立無援で生きる人々は否応なく哲学者になり、「チェルノブイ
リ以後」という新しい時代の到来を告げる。語り手の気持ちを理解
するには、一回の読書では不可能だ。既成概念を捨てて無心に読む
、少し時間をあけて繰り返し読む、「非思量呈を思量せよ」という
禅の教えを思いだして読むのがよい。チェルノブイリ後暦26年(2011
年)におきた原発事故でフクシマ人になった魚食民に欠けているのは
、魚介類が生体濃縮した毒を食卓に運ぶミナマタの悲劇で、これに
は『苦海浄土』三部作を読むのがよい。

II(ツイート)
アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』は、原発事故10年
後の人々の心を描いた名著だが、魚の放射能汚染については描かれ
ていない。魚食文化の日本人はそこをおぎなって読む必要がある。

水俣病と同じことが始まった。魚を食べる人が病気になって死んで
いく。魚は海洋中に放出されたセシウムとストロンチウムを栄養素
とまちがえて生体濃縮して、食卓に運んでくる。魚食文化の日本人
には酷だが、放射性物質を生体濃縮する魚を食べるのは危険である。

骨ごと食べる小魚は特に危険だ。骨にはカルシウムと同じ電子配列
のストロンチウムが蓄積される。それが食べた人の骨に蓄積される
と、白血病、骨癌、骨折など様々な病気をひきおこす。

水俣病は、魚に濃縮された有機水銀が、それを食べた人々の神経を
切断しておきた病気だが、放射性元素を取り込んだ場合はもっと激
しい反応がおきる。それは細胞内部でおきているタンパク質の産生
過程の破壊である。細胞核内でDNAが転写された後、タンパク質情報
を作る過程が破壊される。

もう海産物を食べてはいけない。日本近海だけではなく、おそらく
世界規模で汚染は広がっていると思われる。海産物には海洋投棄さ
れた放射性元素が生体濃縮されている。海に捨てられた放射性物質
を生命体が細胞内に取り込んでいる。日本の魚食文化を捨てなけれ
ばならない時期に来ている。

海洋に放出されたセシウムやストロンチウムなど放射性元素は、栄
養素カリウムとカルシウムと間違えられて魚や貝や海藻の体内に積
極的に取り込まれ生体濃縮し、海洋生物のタンパク質代謝を破壊し
、それを食べた人のタンパク質代謝も破壊する。2011年以降海産物
は地球規模で危険になった。

水俣病を起こした水銀と、イタイイタイ病を起こしたカドミウムは
、典型元素。セシウムとストロンチウムは典型元素。この違いが、
体内に摂取したときの反応の違いに結びつくのではないか。放射性
典型元素の体内摂取は、どんなにわずかでも危険だから避けること
を心がけるべき。

フクシマ原発事故で環境中に放出された放射性元素は、汚染水とし
て、草木を焼却して気体となって、土壌を汚染した後雨に流されて
、多くが海洋中に流れ込んだ。世界でおきている海洋生物の大量死
は、放射性物質による被ばくによると考えられる。魚を食べること
は慎むべきだ。

魚を食べることは、海洋投棄された放射性元素を体内に取り込むこ
とである。米や野菜は、産地の汚染された土壌の放射性元素を取り
込むから、産地に注意することで被ばくは防げるが、海の水は流れ
ている。世界の海はひとつにつながっている。

魚は危険。魚を食べることは全国的にキケン。魚を食べることは、
命を失うことを受け入れることである。

地球規模海洋放射能汚染の時代。地球規模で、海の水のなかに、放
射性物質が含まれるようになった。それを海洋生物の細胞が、栄養
素と間違って体内に取り込んでいるから、海産物を食べることは、
生命体にとって危険なことになった。

水俣病と同じことが起きている。人類が生みだした核のゴミが、一
見無限と思われる海洋中に放出される。単位リットルあたりごく微
量な放射性元素を、魚介類や海草の細胞膜は電子配列が同じ別の栄
養元素と取り違えて吸収する生体濃縮が起き、食卓に戻ってくる。
日本人は魚食文化を今すぐ捨てなければ、滅びる運命にある。

III 読書会レジュメ 2012年12月21日
アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』

真実の言葉で紡がれた言語情報は、仮想現実を通じて経験の知恵を
伝える。

言葉を使って考えるな。言葉で考えると過去の記憶(既存の論理)に
束縛されるから。

心の目を開き、言葉から著者の見た現象世界を意識上に復元・構築
せよ、そして得られた仮想現実に身を置いて、言葉が熟すのを待て。
                得丸公明(思想道場 鷹揚の会)

1.	なぜ本を読まなくてはならないのか?
知りたいことを教えてくれる,生きるお手本

2.	どんな本を読めばよいのか? 
真実の言葉が紡がれている本.よく考えた後の言葉.
ロシアにはポリフォニー文学の伝統があるソルジェニーツィン『収
容所群島』(命がけの地下出版)

3.	どのように読まなくてはいけないのか
良い本は三回読む。はじめは馴染むため。自分の意識(記憶、先入観
)が素直に読む邪魔をするので、一度読んで障害を取り除く。二度目
にようやく本の言葉が頭に入ってくる。三度目に、本の言葉が生き
生きと感じられるようになり、自分の意識(Σ記憶)と融合・反応する。
	
4.	心に残った本書の言葉:これらの言葉を反芻すればチェル
ノブイリの知恵を吸収できるか?
5.	
(1) チェルノブイリは私たちが解き明かさねばならない謎です。

21世紀への課題・挑戦。

ここでは過去の経験はまったく役に立たない。チェルノブイリ後、
私たちが住んでいるのは別の世界です。

起こりつつあることの異常さ … 理解するためには、人は自分自身
の枠から出なくてはなりません。感覚の新しい歴史がはじまったの
です。

チェルノブイリは聖地になり、なげきの壁になるでしょう。いまは
まだ解き明かす公式がない。理念がないのです。

チェルノブイリはぼくら人間の経験や、人間の時間で推しはかるこ
とができない。

(2) ヒロシマと比べていた。でもだれも信じていませんでした。
…理解しようとどんなに努力してがんばってみても、結局わからな
い 

ぼくら全員、自分たちがすでに知っている行動パターンをさがして
いた

解き明かすことも理解することも無理です。どちらにしろ、ぼくら
はなにか自分の人生に似かよったものを思いつくんです。

起こったことをだれも信じていなかった。学者でさえも信じること
ができなかった。

無知と閉鎖性が結託している

(3) 一人の人間によって語られるできごとはその人の運命ですが、
大勢の人によって語られることはすでに歴史です。

最初はチェルノブイリに勝つことができると思われていた。ところ
が、それが無意味な試みだとわかると、くちを閉ざしてしまった。
自分たちがしらないもの、人類が知らないものから身を守ることは
むずかしい。

(4) 妨害工作にちがいないよ。仕掛けたやつがいる

これはテロ行為だ。敵の破壊工作だ。

(5) チェルノブイリは戦争に輪をかけた戦争です。人にはどこにも
救いがない。大地の上にも、水のなかにも、空のうえにも。

いつも戦争と比較されていますが、これはもっとひどい・・・。戦
争なら理解できます。でもこれはなんなの?

(6) 水なしでどうしろというんだね? 人間のからだは水だよ。水が
なくちゃ誰も生きられない。

(7) 世界が終わろうとするときにも、悪のメカニズムは機能するの
です…この世の最後を前にしても、人はいまとなんら変わることは
ないんです。

ぼくらの国では「なんでもあり」なんです


人間よりも恐ろしいものってほんとうにあるのでしょうか 

人間は、私が思っていた以上に悪者だった

(8) どうしてあそこに残っている動物を助けちゃいけなかったの?

一匹の小さな黒いプードルが、いまだに哀れでならない。/頭の片
隅にひっかかったままなんだよ。かわいそうなことをしたよ。

こんなことは狂った人間のやることです。

(9) たくさんの人があっけなく死んでいく。ベンチにすわったまま
たおれる。家をでて、バスを待ちながら、たおれる。

説明のつかない死が多かった。突然死 

多くの人が脳卒中や心筋梗塞を起こしました、駅やバスのなかで。

(10) 少し時がたつと人間らしいふつうのくらしがはじまった。

あそこでは恐怖が消えていく。恐怖が目に見えないんだ。

(11) 「チェルノブイリのりんごを食べてもいいでしょうか」。答え
「よろしい。ただ食べ残しは地中深く埋めるように」

「とんでもない、売れるんだよ。姑や上司にって買う人がいるんだよ」/

「ぼくはぜったいに年をとらない….ぼくらはみんな、もうすぐ死ん
じゃうから」

(12) 物理学の時代はチェルノブイリで終わったのです。

(13) 私にとって役に立つ本は一冊もなかった、知りたいことを教え
てくれる本はなかった。/とつぜんお手本がなくなり、ママは途方に
くれてしまった…もし、科学者や作家がなにも知らないのなら、私
たちが自分たちの生と死をもってお手伝いしましょう。

作家や、哲学者は? 彼らはどうして口を閉ざしているの?

生徒たちは古典文学がきらいになりました。…子どもたちはSFを読
み、人間が地球をはなれ、宇宙時間をあやつり、いろんな世界を行
ききする、そんな話に夢中なんです。

(14) 私はほかのことについても聞きたかったのです、人間の命の意
味、私たちが地上に存在することの意味についても。… この人々は
最初に体験したのです。私たちがうすうす気づきはじめたばかりの
ことを。

世界を立て直そうとしている …  人はこの土地から永久に去って
しまったんです。ぼくらは、この<永久>を体験した最初の人間です。

私たちの永遠不滅のもの、それはチェルノブイリ。

チェルノブイリ。ぼくらにはもうほかの世界はありません。… 変わ
らずに残ったのは人間の苦悩だけ。ぼくたちのたったひとつの財産
です。

私たちはこれから、チェルノブイリを哲学として理解しなくてはな
りません。

私たちはチェルノブイリの被災者であると同時にチェルノブイリの
神官なのです。

チェルノブイリの事故が起きたのは哲学者を生むため…. 人間のこ
とは「ものいう大地」とよんでいた。おれたちは土にできたものを
食っている、つまり大地でできているから

土になるのはなんと簡単なことなんだろう

(15) ぼくたちがことばを使って考えているだけではなく、ことばも
またぼくらを使って考えています

ぼくはなにかととなり合わせだった、なにかファンタスティックな
ものと。

私が見たのは、ほかの人がまだ見たことのないもの。何か恐ろしい
ものが私たちの前に最初にあらわれた。

(16) どうやってモスクワまで行ったのか、道中はまたもや私の記憶
から抜け落ちています。/ただ彼に会いたい一心だけ。

姿は問題じゃない。彼がいる、それだけでいいの。

(17) ああ、神さま、この子はほほえんだのです。

私、もし障害児を生んでもやっぱり愛してやるわ。

5. 新文明、チェルノブイリ後暦(PC)は始まっている。フクシマは
チェルノブイリ。日本人はフクシマ人。

政府の隠ぺい体質、マスコミの嘘、3・11以前のふつうのくらし
を続ける人々、増える突然死、生きるお手本と哲学の不在、知識人
の沈黙⇒どうして同じ過ちが繰り返され、同じ嘘に騙されるのか。

「チェルノブイリの祈り」を思考の出発点に置き、時間を節約する
ことが重要。

物理学の敗北は、量子力学の混迷を解決することで乗り越えられな
いか。

ことばを正しく使うこと。すべての論理概念・高次情報概念は、逆
論理操作によって現象と物質に還元しなければならないという規則
を徹底する必要がある。          

以上


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