5502.ロシア軍の行動の背景は



ロシアがシリアで活動している狙いと目的が今一、ハッキリしない。
このロシアの狙いを推測してみよう。

国際軍事情報大手IHSジェーンズは22日、人工衛星画像を分析
した結果として、シリア西部のアサド政権の支配地ラタキアにある
空港北方の軍事施設2カ所で、ロシア軍部隊を受け入れる準備をし
ているとした。

プーチン大統領は28日、国連総会演説で、シリア軍やイランを
含めた対「イスラム国」共同戦線の構築を米国など国際社会に提案
する予定。ブルームバーグによると、米国が拒否した場合、ロシア
は独自の空爆も辞さない構えという。

とイスラム国への戦闘を準備しているが、それと引き換えにアサド
政権の維持を国際社会に受け入れさせると見ていた。

しかし、、CSTO(集団安全保障条約機構)の会議でプーチンは演説
しているが、それを読み解くと違う面が見えてくる。

CSTOは、 旧ソ連のロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタ
ン、キルギスタン、タジキスタンの6カ国で構成されている。

1997年まで続いたタジキスタン内戦では、ロシア政府やウズベキス
タン政府の支援を受けた政府軍と、アフガニスタンやウズベキスタ
ンのイスラム過激派に支援された反体制派とが激しい争いを繰り返
し、政情がある程度安定した後もロシア軍が駐留を続けている。

そのタジキスタンで今月4日、国防省や警察の庁舎が百数十人規模の
武装勢力によって襲撃されるという事件が発生した。襲撃を指揮し
たのはナゾルザダ国防次官とされる。
 国防次官が国防省の施設を攻撃するというのは何とも奇妙だが、
同人は内戦期に反政府勢力側でタジキスタン政府軍と戦ったという
経歴を持つ人物で、背景にはイスラム過激主義とのつながりが指摘
される。タジキスタンでは6月にも内務省治安部隊の司令官が「イ
スラム国(IS)」に参加するという事態も生じていた。

現在、タジキスタンには第201ロシア軍事基地(201RVB)と呼ばれる
6000人規模の部隊が駐留している。(これは中央アジアに常駐する
ロシア唯一の地上戦力である)

そしてロシア側からは度々タジキスタンへのロシア国境警備隊展開
が打診されていると言われるほか、ロシア軍が現在駐屯している南
西部の平野部だけでなく、イスラム過激主義ゲリラの浸透ルートに
なりやすい東部山岳地域への展開も示唆されるようになってきた。

 ロシアがタジキスタンへの軍事力展開を急ぐ背景としては、米軍
やISAF(国際治安支援部隊)がアフガニスタンから撤退して以降の
情勢不安定化と、それが旧ソ連の中央アジア諸国へ波及する懸念と
がよく指摘される。

上記に続いて、プーチン大統領は以下のように述べている。
「アフガニスタン領域内の既知の組織に加え、いわゆるイスラム国
が影響を拡大していることで、その脅威は深刻化しているのです。
この組織の活動範囲は、イラク及びシリアの国境を越えて遠くまで
及んでいます。テロリストたちは大量処刑を行い、カオスと全人民
の貧困をもたらし、文化財や宗教的聖物を破壊しています」と。

ということで、中央アジアのイスラム過激派を叩くと同時にシリア
への軍派遣を正当化しているようである。

しかし、イスラム教と接する国は、過激派の攻撃を受けて大変な事
態になっているようである。

さあ、どうなりますか?


==============================
「イスラム国」単独空爆計画=米が共同戦線拒否なら−ロシア
 【モスクワ時事】米ブルームバーグ通信は24日、シリアのアサ
ド政権を軍事支援するロシアが過激派組織「イスラム国」への単独
空爆を計画していると報じた。ロシアの大統領府筋および国防省筋
の話として伝えた。
 プーチン大統領は28日、国連総会演説で、シリア軍やイランを
含めた対「イスラム国」共同戦線の構築を米国など国際社会に提案
する予定。ブルームバーグによると、米国が拒否した場合、ロシア
は独自の空爆も辞さない構えという。(2015/09/24-18:12)
==============================
ロシア、シリアにさらに2拠点建設か=「駐留準備」と軍情報大手
 【ワシントン時事】国際軍事情報大手IHSジェーンズは22日
、人工衛星画像を分析した結果として、シリア西部のアサド政権の
支配地ラタキアにある空港北方の軍事施設2カ所で、ロシア軍部隊
を受け入れる準備が進んでいるもようだと発表した。
 画像は13日付。新たな建物の建設や舗装作業などが進行中で、
ロシア軍が用いるのと同種のテントも確認できる。
 ロシアはラタキアの空港に、爆撃機を含むジェット機計28機な
どを配備済みとされる。米政府は、過激派組織「イスラム国」など
と戦うアサド政権を支援する形で、ロシア軍がシリア内戦に直接介
入する可能性もあるとみて、警戒を強めている。
(2015/09/23-16:34)
==============================
相乗りしようとするロシア
ドゥシャンベでのプーチン演説を読み解く(前編)
2015年09月25日(Fri)  小泉悠 (財団法人未来工学研究所客員研
究員)
日本ではほとんど知られていないが、CSTO(集団安全保障条約機構
)という組織がある。
 旧ソ連のロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キル
ギスタン、タジキスタンの6カ国で構成されており、「集団安全保障
」とは銘打っているものの、実態は外敵への共同防衛を謳った集団
防衛条約である。かつてはグルジアやウズベキスタンも加盟してい
たが、加盟国間の関係悪化などを経て現在は上記の6カ国のみが参加
している(正確に言えばウズベキスタンは加盟を「停止」している
。しかし、完全に脱退した訳ではない)。
 CSTOは毎年加盟国内で各級のハイレベル会合を実施しているが、
その最高意思決定機関である集団安全保障会議(首脳会合)が9月15
日にタジキスタンの首都ドゥシャンベで開かれた。
 同会合ではいくつかの興味深い決定が採択されたが、中でも注目
されたのはロシアのプーチン大統領による演説である。一言で言え
ば、これは現在の世界のありようをイスラム過激主義との戦いと位
置付け、それによって国際社会から孤立したロシアやシリアの立場
を回復しようとするものと言える。以下の本稿では、その内容をい
くつかに分けてご紹介したい。
「中央アジア不安定化」の虚実
 これも日本ではなじみが薄いが、旧ソ連の南端、アフガニスタン
との国境にタジキスタン共和国がある。1997年まで続いたタジキス
タン内戦では、ロシア政府やウズベキスタン政府の支援を受けた政
府軍と、アフガニスタンやウズベキスタンのイスラム過激派に支援
された反体制派とが激しい争いを繰り返し、政情がある程度安定し
た後もロシア軍が駐留を続けている。
 そのタジキスタンで今月4日、国防省や警察の庁舎が百数十人規模
の武装勢力によって襲撃されるという事件が発生した。襲撃を指揮
したのはナゾルザダ国防次官とされる。
 国防次官が国防省の施設を攻撃するというのは何とも奇妙だが、
同人は内戦期に反政府勢力側でタジキスタン政府軍と戦ったという
経歴を持つ人物で、背景にはイスラム過激主義とのつながりが指摘
される。タジキスタンでは6月にも内務省治安部隊の司令官が「イ
スラム国(IS)」に参加するという事態も生じていた。
 前述のCSTO首脳会議は問題の襲撃事件からわずか11日後に開催さ
れたということもあり、当日はタジキスタン駐留ロシア軍が通りを
全面封鎖するなどして厳戒態勢の中で実施された。プーチン大統領
の演説も、まずはタジキスタン情勢に関する話題から始まっている。
「エモマリ・シャリポーヴィチ(訳注:タジキスタンのラフモン大
統領を指す)に感謝申し上げます。
 何よりもまず、現在のタジキスタンにおける奮闘に感謝の言葉を
お伝えしたいと思います。
 タジキスタンは我々の戦略的パートナーであり、同盟国であると
いうことを申し上げておきたい。ここタジキスタンにおいて、皆さ
んは多くの問題、明白な攻撃、情勢を不安定化させようとする企て
に直面しています。同時に、次のようにも申し上げたい。共和国(
訳注:タジキスタンを指す)の治安機関及び軍は、今起こっている
諸問題に首尾よく対処しつつあるものの、我々はこれらの脅威を的
確に評価し、常に支援及び援助を行うよう検討することができると
いうことです」
 以上のプーチン発言で注目したいのは、タジキスタンへのロシア
の「支援及び援助」に言及している点である。現在、タジキスタン
には第201ロシア軍事基地(201RVB)と呼ばれる6000人規模の部隊が
駐留しているが(これは中央アジアに常駐するロシア唯一の地上戦
力である)、2005年まではロシアの国境警備隊がタジキスタン国境
警備隊と共同で対アフガニスタン国境の警備に当たっていた。
タジキスタンへの軍事力展開を急ぐロシア
 これに対してロシア側からは度々タジキスタンへのロシア国境警
備隊再展開が打診されていると言われるほか、ロシア軍が現在駐屯
している南西部の平野部だけでなく、イスラム過激主義ゲリラの浸
透ルートになりやすい東部山岳地域への展開も示唆されるようにな
ってきた。
 ロシアがタジキスタンへの軍事力展開を急ぐ背景としては、米軍
やISAF(国際治安支援部隊)がアフガニスタンから撤退して以降の
情勢不安定化と、それが旧ソ連の中央アジア諸国へ波及する懸念と
がよく指摘される。
 たとえば上記の発言に続いて、プーチン大統領は以下のように述
べている。
 「我々は、CSTOの責任圏内における情勢と地域的・国際的諸問題
について具体的な議論を行い、我々の組織(訳注:CSTOを指す)の
さらなる強化に関する施策を決定しました。CSTO加盟国が多方面に
おいて対峙する脅威が増大していることについても確認されました。
 アフガニスタン問題に関する状況は我々の懸念を呼んでいます。
国際治安支援部隊はこの国に大変長く駐留し、肯定的なものも含め
ていくつかの働きをしました。しかし、結果として見れば、彼らは
情勢の質的、根本的、最終的な改善をもたらすことはできなかった
のです。外国軍部隊(訳注:ISAF及び米軍)の大部分が撤退したこ
とにより、残念ながら同国は不安定化しつつあります。
 アフガニスタンと国境を接する国々の領域内において、テロ組織
及び過激主義組織の危険が現実に高まっています。しかも、アフガ
ニスタン領域内の既知の組織に加え、いわゆるイスラム国が影響を
拡大していることで、その脅威は深刻化しているのです。この組織
の活動範囲は、イラク及びシリアの国境を越えて遠くまで及んでい
ます。テロリストたちは大量処刑を行い、カオスと全人民の貧困を
もたらし、文化財や宗教的聖物を破壊しています」
 14年に渡る駐留を経ても西側はアフガニスタンを安定化すること
はできず、あまつさえ「イスラム国」の影響さえ及びつつある、し
たがってロシアを中心とするCSTOの強化を図らねばならないという
ロジックである。
 ただ、このようなロジックが今回のタジキスタンにおける襲撃事
件と直接結びつくかどうかはもう少し踏み込んだ検討を要する。
 9月18日にタジキスタン最高検察庁が発表したところでは、ナゾル
ザダ国防次官はタジキスタン・イスラム復興党(IRPT。これは中央
アジアで唯一のイスラム政党である)指導部の指示を得て今回の襲
撃に及んだことになっている。IPRTはタジキスタン内戦における反
政府勢力の中核政党で、内戦終結後の1998年に合法化されていた。
イスラム潰しで思惑一致
タジキスタン政府の主張を裏書きする
 しかし、同党は議席わずか2議席の弱小政党に過ぎない上、現在は
政権打倒を目指す訳でもなく、穏健路線を歩んでいる。IRPTが政府
機関攻撃を画策したとすればあまりにも脈絡がなく、国民の広範な
支持を集めているわけでない同党が蜂起しても成功の見込みは薄い。
 実際、ナゾルザダの蜂起は一過性に終わり、逃亡後、治安部隊に
よって殺害されるという幕切れを迎えた。ナゾルザダ自身がこのよ
うな行動に出た背景はまだはっきりしないものの、これを奇貨とし
てタジキスタン政権側がIPRTの一掃を図ろうとしている、というほ
うがしっくり来るように思われる。
 一方、プーチン大統領がタジキスタン政府のこうした主張を裏書
きする演説を行うのは、それがロシアの利益にも叶うためと考えら
れる。
 第一に、旧ソ連諸国を「勢力圏」と見なすロシアは、CSTOを通じ
て部分的にではあるが旧ソ連への軍事的影響力を確保しようとして
きた。その際、国際的にも対内的にも最も支持を得やすい大義名分
がイスラム過激派の脅威である。
 もちろん、アフガニスタンの不安定化によるタリバーン勢力の中
央アジアへの浸透や、旧ソ連のイスラム過激派とシリア内戦との連
動がロシアにとって現実の脅威であることには変わりはない。その
一方、こうした脅威を過大に喧伝することでロシアが軍事的影響力
を及ぼそうとしてくることに対して中央アジア諸国側の警戒感が根
強いことも事実であった。
ロシアの念願が実現 CSTO合同航空部隊の創設
 実際、ロシアはこれまでもイスラム過激主義の脅威を理由として
CSTOの軍事統合強化やタジキスタン、キルギスタン等への軍事援助
を提案してきたが、中央アジア諸国は総じて消極的である。今回の
タジキスタンにおけるCSTO首脳会議ではCSTO合同航空部隊の創設が
正式決定されたが、これも数年前からロシアが主張してようやく承
認されたものであった。
 もうひとつの背景としては、シリア情勢に関するロシアの思惑が
ある。8月以降、ロシアはシリア内戦をISに対する「テロとの戦い」
と再定義することでアサド政権の延命を図ろうとする動きを活発化
させており、タジキスタンにおけるイスラム過激主義の脅威を強調
することはこうしたロシアの対中東戦略にも資するものと考えられ
るためだ。
 そこで次回の小欄では、プーチン演説の後半を紹介しつつ、この
点に焦点を当ててみることにしたい。



コラム目次に戻る
トップページに戻る