5490.ヨハネスブルグの出来事



9月2日と3日の出来事
みなさま、

学会が終わり、昨日無事にヨハネスブルグに移動しました。

何の予定もたてずにいたのに、移動中にいつのまにか盛りだくさん
の予定が埋まり、さらに予想もしていなかったハプニングがありま
した。

得丸


9月2日 ポッチでの学会は、定年で辞めていく3人の白人の人類学
者の特別講演で幕となった。一人目の話が少し長くなったときに、
南部アフリカ人類学学会の新たな会長が、「みなさん、予定の13
時を少し伸ばして質疑応答を十分にやりますか、それとも質疑応答
はメールでやることにして13時にきっぱり終えますか。挙手で決
めたいと思いますのでお願いします」と決をとった。
僕は、フレデフォートドーム見学ツアーのガイドに13時30分に
迎えにくるようにお願いしていたので、祈るような気持ちできっぱ
り終わるほうに手を上げたところ、そちらのほうが大多数だった。
前日の僕の講演に来てくれたアフリカーナ白人2人、黒人1人の三
人をご招待していたのだが、土壇場になって、黒人の女性が子供の
面倒をみなければならなくなったので来れないという。仕方がない
から、「じゃあ、君が誰かもう一人の人を指定してください」とい
うと、ドイツ人の留学生を指定した。
黒人じゃないのか、残念。それともこれは、内部で圧力でもかかっ
て、黒人に参加を辞退させたのだろうか。本当のところはわからな
いままだった。

フレデフォートドームは、衛星画像でみると、北西部分に同心円状
の形状があって、そこには高低差があると思い込んでいて、陥没地
形だと思っていたのですが、そうではなかったことがわかりました。
隕石衝突によって、リバウンドによるドームが形成され、何億年も
かかってそこれ侵食されて平坦な地形ができている。同心円状に形
成されているのは、堅い岩盤が垂直の地層を示して侵食されずに残
っている丘陵地帯だったのです。

9月3日 動物農場
ポチェフストロームのゲストハウスを7時半に出た。迎えにきてく
れたリムジンの運転手は黒人で、このあたりで育ったというから、
「アパルトヘイト時代と何も変わってないね」というと、「より貧
しくなる一方」という。
「ANCよくないね」「あまりよくない」
「法律はなくなったけど、アパルトヘイトは続いているね」「その
とおり」
それ以上語ることもなく、黙って座ってヨハネスブルグに向かって
いたら、ハウテン州に入った標識があった。
大好きなミリアム・マケバの「ハウテン」を口ずさんていたら、涙
が流れてきた。
https://www.youtube.com/watch?v=j565A5You78
こんな国になるとは、僕のクールな予想でも予想しきれなかった。
ケニア人の友人から紹介を受けて、今日のゲストハウスを予約して
くれたパトリックに「今晩、面白い芝居やってないかな。ウォザア
ルバート、みたいな」とSMSしたら、すぐに「マーケットシアターで
、ジョージ・オーウェルの動物農場をやっているよ」と連絡がきた。
パトリックと彼の次男のポールと三人でみてきた。
ヨハネスブルグは、二か月ぶりの雨が夕方から降り出したのが、ず
っと夜中まで続いている。
「フリーダムファイターの涙雨だね。そういえば2012年の12
月のときも、急に雨になったんだ。僕の涙かもしれない。
ソウェトのシェビーンでひたすらビールを飲んで、その後ソウェト
のクラブに行ったんだ。そこでもひたすら飲むだけ。
これって、ソウェト蜂起のときに、高校生たちが大人に向って飲ん
だくれているのはやめてくれといった光景の再現じゃないか。そう
考えているうちに、ものすごい雨になったんだ。」

芝居は5人の女優だけでテンポよく進む力強い演出だった。
正直いって英語は半分くらい聞き取れなかったのですが、ブタが仲
間を屠殺して生き血を飲む最後のシーンは、やはりグンときました。
芝居が終わると、スタンディング・オベーションで拍手喝さいでし
たが、カーテンコールはありません。

9月3日午後 進化研究所の講演会
やはりヨハネスブルグに向かう車の中で、ウィッツ大学のガビから
SMSで連絡がきた。11:30から、人類学講座でセミナーがあると
いう。ゲストハウスに荷物をおいて、そのままヤンスマッツ通り1
番地にあるウィッツ大学にリムジンで送ってもらった。
ウィッツ大学の人類学は社会学部にあるので、セミナーの内容もイ
ンドのバラモン階級の老後みたいな話で、あまり話についていけな
かった。ヨーロッパの修道院で科学が生まれたのと比べて、インド
の老後では何も生まれないのだろうか。違いがどこにあるのか質問
しようかと思ったが、時間もなかったのでやめた。
医学部にレイモンド・ダート文庫があるというので、キャンパスを
移動するための無料バスに乗ろうとして歩いていたら、「進化研究
所」というのがあった。「13時15分からの講演会は場所が変わ
りました」と張り紙がある。
へえー、進化研究ってどんなことをしているのだろうと思って、ド
アに手をかけたら、中から女性が出てきて、「講演会にいらしたの
ですね。二階です。」とさっさと二階に向かって歩き出したので、
ついていく。ダイノザウルスがテーマだというので、恐竜にはそん
なに興味はないなあと一瞬思ったのだけど、とにかく彼女が歩いて
いくのを追いかけた。
しかし、講師はロンドンの自然史博物館の学芸員で、非常におもし
ろかった。ダイノザウルスの化石の購入や発掘、さらにレーザー測
量で三次元化する技術の紹介など、最先端の話だった。
せっかくだからここで少し顔を売っておこうと思って、質疑応答の
ときに、4人ほどが質問して次が途切れたので、「私は現生人類進
化の研究をしているけれども、三次元化してシミュレーションする
技術などは、現生人類の下顎や喉頭の研究に適用できそうですね。
もうやっている人はいるのでしょうか」という質問をした。いるそ
うだ。
講演のあと、僕の隣にいたシニアなおじさまから、「日本語話しま
すか」と声をかけられた。東大の諏訪元さんとの共同の仕事で本郷
に何か月かいたことがあるという。
ここから話がめちゃくちゃはずんで、なんと、1924年に発掘さ
れた「タウングチャイルド」のオリジナル化石を見せてもらい、1
時間ほど話をすることになった。
正直いって、鳥肌がたった。
こんな展開もあるのかと、びっくりしている。
3年前にケープタウンで会ったサラ・ウルツ博士もこの研究所にい
て、短い挨拶をさせてもらった。世界は狭いし、そのうえ何か流れ
があるようだ。どこかで誰かの霊がいたずらしているような気がす
る。



コラム目次に戻る
トップページに戻る