5485.アベノミクス後の経済政策



アベノミクスは、海外の需要に輸出することで国内の景気を上げよ
うとするために、円安にする政策であるが、海外の景気後退になり
、国内消費が伸びずに破産した。それが株価暴落の原因である。
今後の経済政策を考えよう。  津田より

0.世界市場の混乱原因
やっと、日本のエコノミスト(熊野英生氏)でも現状の危機を認め
る発言が出てきた。「8月上旬から始まった世界連鎖株安は、まだ
楽観してはいけない段階にある。過去、株価が下落したときには、
背後に実体面での変化が隠れていて、株価はそれを先取りするかた
ちで反応していることが多かった。」というが、その原因を特定す
ることが重要である。

明確に、リスクは2つがある。1つが中国経済の減速で、2つには
米金利切り上げで、世界から資金が引き上げられることへの警戒で
ある。

この内、米国の金利切り上げは、米国経済が順調に拡大しているこ
とであり、日本にとっては良いことであるが、新興国にとっては悪
いことになる。その新興国にも日本は輸出しているので、その面で
悪いことでもあるのだ。

しかし、G20財務相・中央銀行総裁会議でも米利上げを牽制する
文言が入り、9月のFOMCで切り上げを行うことはないと見てい
る。

ということで、今当面の焦点は、中国経済である。20カ国・地域
(G20)財務相・中央銀行総裁会議がトルコで行われていたが、
そこでも話題の中心は、中国経済であったようだ。

麻生太郎財務相は4日夜(日本時間5日未明)、記者団に「市場の
変動は本来、中国が取り組むべき構造的問題を映し出している」と
強調。会議でも中国側に対し、過剰設備の解消と人口減少に応じた
社会保障制度の見直し、不良債権処理などの改革に取り組むよう注
文したという。日本以外の国からも、中国に、経済政策運営の透明
性を求める声が相次いだ。

中国に進出している日本企業は多く、その企業を中心に今後中国市
場の縮小により、赤字になる可能性が有り、いち早く中国から逃げ
るしかないようである。しかし、工場を建てた企業は、そう簡単に
逃げることができない。このため、企業業績として中国が足を引っ
張ることになる。

しかし、今までは中国は豊富な外貨準備高を持ち、海外での工事な
どを作り、そう簡単に景気後退にはならないと見ていたが、どうも
そうではないようである。

中国の外貨準備高を疑う必要がありそうである。サブプライム問題
でも根深い問題になってしまったが、どうも中国も嘘と虚数の数字
で実体経済を膨らましていた可能性が出てきたのである。

1.外貨準備高の減少
この件では、武者 陵司のレポートが面白い。
中国の絶大な競争力に基づく貿易黒字・経常黒字が中国経済を牽引
したのは2009年までで、それ以降中国経済成長を牽引したのは投資
であったが、その投資を可能にしたのは巨額の対外純資本流入であ
った。この資本流入に大いなる変調が起きている。

それを示すのが、一貫して増加してきた中国の外貨準備高であるが
、2014年6月の3.99兆ドルをピークに、12月末3.84兆ドル、2015年3
月末3.73兆ドル、7月末では3.65兆ドルと大きく減少している。

2014年7月から2015年3月までの経常収支は2148億ドルの黒字、にも
かかわらずこの間の外貨準備高が2632億ドル(=3兆9932億ドル−
3兆7300億ドル)減少していたのであるから、この9カ月間だけで中
国からの純資金流出(外貨準備以外の対外資本収支)が4780億ドル
に上っていたと計算される。

また、対外純資産残高も2013年末の1兆9960億ドルをピークに2015年
3月末には1兆4038億ドルと5922億ドルの激減していることが判明し
た。本来、対外純資産残高は経常収支差額分だけ増加する計算であ
るはずなのに逆に減っているのだ。

これらの膨大な現象を説明できるのは、簿外の資金流出(=資本逃
避)が起きているしかない。

とはいえ、中国への総資金流入は、2015年3月まで大幅な増加を続け
ている。中国の対外債務残高は、対外純資産が減少に転じた2013年
12月末以降も、大幅な増加を続けている。2013/12月末 3兆9901億ド
ル 14/3月末 4兆1374億ドル 14/6月末 4兆3163億ドル 14/9月末 4兆
4918億ドル 14/12月末 4兆6323億ドル 15/3月末 4兆9769億ドルと、
ここ15カ月で24.7%、金額にして9868億ドルも急増しているのであ
る。

ということは、中国への資金流入の主体は厳正な審査を伴う金融機
関を介さない、中国人や華僑系資本家による個人 or 家産資金にシ
フトしていることになる。資本逃避を埋め合わすために、そうして
いるようである。

ひとたび中国のバブル崩壊が起きればそうした資産劣化が周辺国や
中国人のリスクテイク能力を奪う悪連鎖の可能性は排除できなくな
る。このように東南アジアの華僑国家も大きな下落に遭遇する可能
性がある。具体的にはシンガポール、タイなどであろう。

これは中国が友達ネットワーク社会であり、友達を助ける仕組みが
あることによる。

外貨準備高とは日本では政府が持つ米国債のことであるが、中国は
政府、中央銀行のほかに国有銀行など民間保有の短期外貨資産が含
まれているので、意味合いが違う。短期外貨資産には、海外からの
借り入れが大きく寄与している。嘘で固めた外貨準備高である。

このため、真の金融力は対外純資産額なのであり、2015年3月末の対
外純資産が日本は2.9兆ドル(349兆円)であるのに対して中国が1.4
兆ドルと半分しかない。中国の対外金融余力は日本の半分に過ぎな
いというのが実態だ。このため、アジアインフラ投資銀行などとい
うのは絵空事である。

この状況で、人民元切り下げは、元が上昇し続けるという元高神話
を砕いてしまい、それにより中国企業の国際資金調達は今後著しく
困難化し、中国からの資本逃避にも弾みがつくことになるはず。

このため、人民元の対米ドル基準値は2日に1ドル=6.3619元となり
、前営業日に比べて133ベーシスポイント上昇し、6.36元台に戻し
た。

このように、中国はジレンマの中にいる。どちらにしても中国経済
は大きな調整局面に有り、構造改革が必要なのである。欧米と同じ
基準で正しい数値を出し、その上で人為的な市場操作を止めること
である。その結果、元の大幅な切り下げが必要になる。

中国の元安で、日本経済も大きな影響を受ける事になる。アベノミ
クスは、海外の旺盛な需要を円安で取り込んで、輸出を増やして国
内消費を活性化する政策であるが、それが壁にぶつかることになる。

もう一度、長期停滞モデルを見直す必要があるようだ。

2.アベノミクス後について
ローレンス・サマーズ元財務長官が提唱した長期停滞モデルは、日
本の現状の状態を見て仮説として提案していたが、これをブラウン
大学のガウチ・エガートソン教授が理論化して公表した。(A Model 
of Secular Stagnation)

これによると、量的緩和で財政ファイナンスを伴う財政支出を続け
、そして貧富の差が拡大するので富裕層の課税強化をして、その上
で長期停滞の原因である人口減少を止めて、日本文化と適合しやす
い民族の若年労働者の移民を認めることが必要である。

もう1つが、現状、非正規労働者が全体の40%まで上昇している
ので、非正規労働者の賃金も上げることである。最低賃金の大幅な
賃上げが必要である。

このように政策の複合化をして、この経済的な長期停滞を乗り越え
ないと、中間層中心の日本社会から階級社会になっていく。貧富の
差が固定化していくことになるようだ。

さあ、どうなりますか?


参考資料
5439.次の経済政策は?
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270718.htm

5483.長期停滞での政策は?
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270904.htm

The Art of Capital Flight
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-capital-flight-by-kenneth-rogoff-2015-09

China Confronts the Market
http://www.project-syndicate.org/commentary/defending-chinas-economic-management-by-jeffrey-frankel-2015-09

A False Alarm About China
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-stock-market-crash-false-alarm-by-shang-jin-wei-2015-09

Globalized Crisis
http://www.project-syndicate.org/commentary/globalized-economic-crisis-by-harold-james-2015-09

A Model of Secular Stagnation
http://cep.lse.ac.uk/seminarpapers/20-05-14-GE.pdf
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麻生氏「中国、普通の国ではない市場介入」 上海市場への対応批判
2015.9.6 01:23
 麻生太郎財務相は5日夕(日本時間6日未明)、20カ国・地域
(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、上海株式市
場の乱高下をめぐる中国当局の対応を「普通の国ではないような市
場介入だった」と批判した。G20共同声明に盛り込まれた金融政
策の透明性向上や市場との対話を進めるよう求めた。
 G20での中国側の経済問題に関する説明は「もっとはっきり言
えば、という所もなくもない」と述べ、十分ではなかったとの認識
を示した。
 一方、会見に同席した日銀の黒田東彦総裁は「各国が経済情勢に
沿った対応をすることで、世界経済はバランスの取れた持続的な成
長を遂げられる」と述べた。(共同)
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「バブル弾ける動きあった」 G20で中国人民銀総裁 構造改革
に注文相次ぐ
2015.9.5 09:02sankei
 【アンカラ=米沢文】4日開幕した20カ国地域(G20)財務
相・中央銀行総裁会議は、直近の国際金融市場の混乱を踏まえ、中
国経済が抱える構造問題に議論が集中した。日本を含む多くの国か
ら、中国経済が世界経済の脅威となっていることへの懸念が示され
た一方、中国側からも構造改革への決意が改めて示された。
 「バブルが弾けるような動きがあった」
 財務省筋によると、初日の討議の冒頭、中国の周小川総裁から、
世界金融市場にショックをもたらした上海株式相場の急落に関する
言及があった。周総裁は3回ほど「バブル」の表現を用いたものの
、株安の原因分析までは触れなかった。
 麻生太郎財務相は4日夜(日本時間5日未明)、記者団に「市場
の変動は本来、中国が取り組むべき構造的問題を映し出している」
と強調。会議でも中国側に対し、過剰設備の解消と人口減少に応じ
た社会保障制度の見直し、不良債権処理などの改革に取り組むよう
注文したという。日本以外の国からも、中国に、経済政策運営の透
明性を求める声が相次いだ。
 4日発表された米国の雇用統計は市場予想を下回り、9月の利上
げ観測はいったん遠のいた。新興国にとって米利上げは自国経済の
重しとなりかねない問題で、市場との対話の必要性を強調する複数
の意見が出た。
 ただ、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は「もし米国が利上げす
るとすれば、それは米国経済がよりしっかりと成長してくことを物
語っている」と述べ、世界経済全体にとってはプラスとの見方を示
した。
 5日は成長戦略や国際課税などのテーマ別に討議。世界経済の持
続的な成長に向けた共同声明を採択し、閉幕する予定だ。
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17年4月の消費増税、予定通り行う=安倍首相
2015年 09月 4日 16:27 JST
[東京 4日 ロイター] - 安倍晋三首相は4日午後、訪問先の大
阪市でテレビ番組に出演し、2017年4月の消費税率の引き上げ
について、予定通り行う考えを示した。
安倍首相は17年4月の10%への消費税率引き上げについて「予
定通り行う考えだ。リーマンショックのようなことが起これば別だ
が、今の状況であれば、今年の冬のボーナスも来年の給料も上がっ
ていく」と語った。
また「消費が伸びていくような様々な政策を打っていきたいと思っ
ている」と語った。企業の投資を促す政策を打っていく考えも同時
に示した。
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アングル:東大物価指数が上昇中、週平均で1.5%
 2015年 09月 4日 17:58 JST
[東京 4日 ロイター] - 東大日次物価指数が上昇率を高めてい
る。直近の9月1日を基準にした週間ベースは前年比1.5%上昇
した。スーパーの特売が減少する一方、食品価格の値上げが相次い
でいることが影響したとみられる。このまま物価の基調が強くなっ
ていくのかどうか、日銀も注目しそうだ。
東大指数は、スーパーなどの販売データを集計し毎日公表。物価の
動向をタイムラグなしにチェックできるとして、市場関係者だけで
なく政策当局者の注目度も上がっている。
昨年4月の消費増税の直後、いったん前年比1.3%まで上昇した
ものの、その後は消費の低迷でほぼマイナス圏で推移。10月はマ
イナス1%以上下落していた。
ところが、今年2月以降は反転を始め、今年5月には同0.5%上
昇となり、直近データでは同1.5%上昇まで加速してきた。日時
ベースでは、8月31日に同2.9%上昇と、2009年以来の上
げ幅を記録した。
この急テンポな上昇の背景には、値下げしなくても売り上げが維持
できるようになったスーパーの特売減少があると、多くの専門家が
指摘する。
2%の物価目標必達を掲げる日銀内でも、カボチャなど生鮮野菜の
値上げの影響もあるが、雇用・所得の改善で価格転嫁が進みやすく
なったとの見方が多い。
もっとも昨年夏は、天候不順や消費増税で消費が低迷し、各スーパ
ーが特売の乱発で値下げ競争に走った経緯があり、前年比の価格は
上がりやすくなる地合いにあるとの見方もある。
他方、昨年の増税による消費低迷で延期されていた価格転嫁が、こ
こにきてようやく出てきたとの見方もある。
日銀が政策運営の指針とする生鮮を除く消費者物価指数(コアCP
I)は、7月に前年比横ばい。2%達成には、足元で指数を押し下
げているエネルギー価格の上昇と、食品・日用品の継続的な上昇が
必須条件となる。
東大指数の注目度が、今後一段と高まる展開になりそうだ。
(竹本能文)
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コラム:世界株安の教訓、次の過大評価は何か=熊野英生氏
2015年 09月 4日 15:10 JST
[東京 4日] - 8月上旬から始まった世界連鎖株安は、まだ楽観
してはいけない段階にある。過去、株価が下落したときには、背後
に実体面での変化が隠れていて、株価はそれを先取りするかたちで
反応していることが多かった。
背後にある悪材料は、株価下落の局面ごとにその素顔が異なってい
て、一様ではない。そのため、「今回は過去とは違ってみえるから
、大丈夫」という楽観のバイアスに常に流されてしまう。
上記の議論は実例を示した方が、話が早い。代表的な株価下落は
2008年のリーマンショックである。このときは、手前にサブプ
ライムローン問題があって、時間をおいて同年9月にリーマン・ブ
ラザーズの破綻があった。隠れたレバレッジと証券化商品の損失拡
大がこれほど広範囲に隠れていたとは、その6カ月前のベアー・ス
ターンズ救済時には十分に認識されていなかった。
直近では2013年5月のバーナンキショックがある。あのときは
、金融緩和の終了を示唆しただけで、新興国通貨の下落が誘発され
た。事前に、ドルの過剰流動性がそこまで新興国通貨の買われ過ぎ
を生じさせていたことが認識されていなかった。
2000年のITバブルの崩壊は、米国の新興企業の株価上昇が行
き過ぎていることが十分理解されていなかった。1997年のアジ
ア通貨危機は、アジアの新興国の経済成長力を見誤っていた。
それぞれの局面における株価・通貨下落に共通するのは、実体面で
何らかの過大評価が起こっていたという点である。局面ごとに材料
視される対象は変わるが、共通点は、その対象を事前には過大評価
していて、それが何かの弾みで暗転することだ。過大評価が是正さ
れるときには、金融市場の予想が悲観に大きく振れて、マーケット
における売られ過ぎを引き起こす。実体の変化に対して、期待形成
の振れが大きくなるから株価などの振れがより大きくなるわけだ。
<今回の過大評価は中国経済>
とはいえ、何が過大評価だったのかは、後講釈で語るのは易しい。
反対に、現在や未来に対して、何が過大評価であり、何が将来の過
大評価になるのかを特定することは甚だしく困難である。問題の核
心はまさにそこにあるにもかかわらず、である。
今、株価下落の背後にあるものは何に対する過大評価なのだろうか
。上海株の下落と、日米欧の株価下落が連鎖することは、資金移動
では説明できない。人によっては、上海株の下落は、本当は関係な
いとみえるかもしれない。筆者は、上海株の下落は、中国経済への
楽観や中国政府の管理能力への過度の期待がはがれ落ちたものだと
みている。
今、考えると、「新常態(ニューノーマル)」は、景気悪化を安定
成長と読み替えるレトリックだった。新常態という言葉が、評価を
偽装するものだったように思える。すると、個別企業の中国関連ビ
ジネスの採算性もどうなるかわからない。中国関連ビジネスの悪化
は、これから先進国企業の収益に表れてくるだろう。
もしかすると、筆者自身でさえ、まだまだ中国の経済成長に楽観し
ている部分があるかもしれない。今後、中国経済に対する不都合な
事実が判明すると、現時点の楽観が修正されて、金融市場の波乱を
生じさせる可能性がある。
現在のように株価が下落して、きな臭い状態が予感される局面だか
らこそ、甘い将来展望に注意を払い、現時点で隠れているリスクに
気を配ることが有意義になる。
*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。
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人民元基準値が4日連続で上昇、元安観測は転換―中国
Record China 9月4日(金)8時36分配信
2015年9月3日、人民元の対米ドル基準値は2日に1ドル=6.3619元と
なり、前営業日に比べて133ベーシスポイント上昇し、6.36元台に
戻った。中国人民銀行(中央銀行)の4営業日連続での元の対ドル基
準値の大幅引き上げであり、4日間で累計466ベーシスポイントの上
昇となった。新京報が伝えた。
8月11日、人民銀が人民元レート基準値の形成メカニズムを調整する
と、元の対ドル基準値は過去20年間で最大の単日の下げ幅を記録し
、元相場は8月にまれな下落局面に入ったが、9月になるとひとまず
下落傾向は止まったと発表された。
8月28日以降、元の対ドルレート基準値が4営業日連続で大幅上昇し
たことについて、専門家は、「これは人民元の値下がり観測がほぼ
転換したことを意味する。現在はさきに中央銀行が想定した水準に
ほぼ達している」と話す。
人民銀と国家外国為替管理局はさまざまな措置を打ち出して、レー
ト形成メカニズムの調整がもたらす可能性があるレート変動の衝撃
を緩和しようとした。これには8月12日に発表された「国家外国為替
管理局総合司の最近の銀行による顧客に代行しての外国為替受渡業
務のモニタリングの強化に関する緊急通知」が含まれる。外国為替
を購入する大口顧客に対するモニタリングの実施を強化するよう銀
行に求めるもので、営業日ごとの同局への報告などを要求する。ま
た9月1日にインターネットで伝えられた人民銀の緊急通達が市場の
注目を集めた。この通達は、金融機関に対し外貨予約におけるマク
ロプルーデンス管理を強化するよう求めるもので、10月15日から顧
客に代行して外貨予約取引を行う金融機関は外貨リスク準備金を預
け入れることになり、準備率は当面20%とされる。だがこの通達は
人民銀の公式サイトにはまだアップされていない。
市場関係者は、「外貨の買い予約は人民元市場の予約取引に一定の
元安圧力をもたらすことになる。外貨リスク準備金の準備率が引き
上げられて予約取引市場への投機行為のコストが上昇すれば、資本
の流出を回避することができる」と話す。
(提供/人民網日本語版・翻訳/KS・編集/武藤)
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外貨逼迫する中国、脆弱な対外金融力、再元安不可避に
2015.9.2(水)  武者 陵司 JBPRESS
(1) 世界市場のアキレス腱、中国
バンピーな世界株式
 世界経済と金融市場のアキレス腱が中国であることがはっきりし
てきた。国際金融市場を不安にしている資源国やアセアン、アジア
NIES諸国の通貨下落、経済悪化はひとえに中国経済の急減速を原因
としている。
 鉄道貨物輸送量、粗鋼生産量、発電量、輸出・輸入額など中国の
基本的なミクロデータはいずれもゼロないしはマイナス圏にあり、
7%成長という公式統計は実態を反映せず、中国の経済は失速したと
いう観測も誤りとは言えないかもしれない。
 上海株式の再暴落を引き金に世界主要国株式はここ1週間で軒並み
10〜20%の急落症状を呈し、ヘッジファンドの仕掛け売りが功を奏
した形となった。中国の経済金融危機が醸成されているという可能
性が排除できなくなったのである。
まだ暗雲は晴れない
 急落に伴い、当然のリリーフラリーが起きている。売り方の買戻
し、日本の投資家などのポートフォリオリバランスによる株式比率
引き上げ(GPIFなどの投資資金は日本株急落で日本株式投資比率が
急低下しており、比率を復元させるための新規買いが必要となる)
はある時点から株式需給を大きく改善させ、株価のリバウンドをも
たらすだろう。
 しかし、その株式反発が持続性のあるものになるためには、@中
国経済が着実な成長軌道に戻ること、もしくは、A中国経済の悪化
が世界に波及しないこと、のいずれかが満たされる必要がある。そ
れの見極めがつくまでは、中国問題が市場の重石となり続けるだろ
う。
 以下では中国リスクの鍵となる、国際収支と対外バランスについ
て分析を試みる。
(2) 資本逃避激増を示唆する外貨準備と対外純資産の減少
中国外貨逼迫の進行、外貨準備、対外純資産ともに急減
 中国のアキレス腱はどこにあるかと言えば、それは対外資本収支
であろう。中国の絶大な競争力に基づく貿易黒字・経常黒字が中国
経済を牽引したのは2009年までであり、それ以降中国経済成長を牽
引したのはもっぱら投資であったが、その投資を可能にしたのは巨
額の対外純資本流入であった。この資本流入に大いなる変調が起き
ている、ここに中国のアキレス腱があると言える。
 対外純資本流入の変調は、外貨準備高の減少に現われている。一
貫して増加してきた中国の外貨準備高が、2014年6月の3.99兆ドルを
ピークに、12月末3.84兆ドル、2015年3月末3.73兆ドル、7月末では
3.65兆ドルと大きく減少している。
 2014年7月から2015年3月までの経常収支は2148億ドルの黒字、に
もかかわらずこの間の外貨準備高が2632億ドル(=3兆9932億ドル−
3兆7300億ドル)減少していたのであるから、この9カ月間だけで中
国からの純資金流出(外貨準備以外の対外資本収支)が4780億ドル
に上っていたと計算される。
 対外純資本流入の変調は、外貨準備高の減少に現われている。一
貫して増加してきた中国の外貨準備高が、2014年6月の3.99兆ドルを
ピークに、12月末3.84兆ドル、2015年3月末3.73兆ドル、7月末では
3.65兆ドルと大きく減少している。
 2014年7月から2015年3月までの経常収支は2148億ドルの黒字、に
もかかわらずこの間の外貨準備高が2632億ドル(=3兆9932億ドル−
3兆7300億ドル)減少していたのであるから、この9カ月間だけで中
国からの純資金流出(外貨準備以外の対外資本収支)が4780億ドル
に上っていたと計算される。
 さらに問題なのはそうした統計で捕捉されているものに加えて、
簿外の資金流出が起こっていると見られることにある。それは2015
年6月から初めて公表されたIMF基準にのっとった対外資産負債残高
(International Investment Position)統計により明らかになった。
地下での資金逃避が急増している可能性
 外貨準備高と同様に対外純資産残高も2013年末の1兆9960億ドルを
ピークに2015年3月末には1兆4038億ドルと5922億ドルの激減してい
ることが判明した。本来、対外純資産残高は経常収支差額分だけ増
加する計算であるはずなのに逆に減っている。この5四半期(2014年
1Qから2015年1Q)合計の経常黒字は2952億ドルなので、純資産減少
額と合わせて合計8874億ドルの対外資産価値が消失したことになる
。為替換算損などがあり得るとしても、この差額は極めて大きい。
 その原因として、@簿外の資金流出(=資本逃避)が起こってい
る、A帳簿上の資金流入が架空である、B対外資産において巨額の
損失が発生した、C統計そのものが信用できない、の4つの可能性が
あるが、消失した金額の巨額さを説明できるのは(統計を信頼する
とすれば)、@の資本逃避だけであろう。それは深刻な通貨信認に
対する懸念と言える。
(3) 逼迫する中国の外貨事情、資本逃避、野放図の対外投資と流
入資金の質の劣化
能力を超える対外投資
 推測される資本逃避に加えて中国の外貨事情逼迫に拍車をかけて
いるのが、@野放図の対外直接投資・融資と、A国際金融システム
経由の資金流出、である。
 中国企業の旺盛な海外投資と企業買収、「一帯一路」構想の下で
の巨額の対外投資、対外融資は止まらない。中国の直接投資残高は
2013年末6605億ドルから2015年3月末9858億ドルと、15カ月で5割の
急増となり、中国の対外プレゼンスを大きく高めている。また中国
による対外ローンも同期間に3089億ドルから4319億ドルへと4割増と
なっている。
対中与信に懸念強まる
 しかし他方中国への国際金融システムを経由した資金流入は大き
く減少に転じている。中国に対するローン残高は2014年6月末6775億
ドルをピークに2015年3月には4581億ドルへと急減している。海外金
融機関がバブルの崩壊や企業収益悪化などの懸念を強め、対中国与
信に警戒を強め新規融資を減らし既存ローンの回収を強化している
とも考えられる。
 とはいえ、中国への総資金流入は、2015年3月まで大幅な増加を続
けている。中国の対外債務残高は、対外純資産が減少に転じた2013
年12月末以降も、大幅な増加を続けている。2013/12月末 3兆9901億
ドル 14/3月末 4兆1374億ドル 14/6月末 4兆3163億ドル 14/9月末 4
兆4918億ドル 14/12月末 4兆6323億ドル 15/3月末 4兆9769億ドルと
、ここ15カ月で24.7%、金額にして9868億ドルも急増しているので
ある。
 ただし資金流入の経路が大きく変わっている。15カ月間に9868億
ドル増加した対外債務増加の中身は直接投資4203億ドル、証券投資
(株式投資主体)5811億ドルの2つで、ローン減少1061億ドルを大き
くカバーしているのである。
 このように中国への資金流入の主体は直接投資、株式投資という
名の、(厳正な審査を伴う)金融機関を介さない、またほとんどデ
ューデリジェンスを経ない中国人や華僑系資本家による個人 or 家
産資金にシフトしていると見られる。
対中流入資金の質の低下
 2015年3月末中国の対外債務残高の内訳は直接投資2兆7515億ドル
、証券投資9676億ドルの2つで全体の75%に上っている。直接投資の
内訳は香港経由が2兆ドル、他の先進国が7000億ドルとなっており、
いかに中国が不安定、不確かな海外資金に依存してきたかが分かる。
ひとたび中国のバブル崩壊が起きればそうした資産劣化が周辺国や
中国人のリスクテイク能力を奪う悪連鎖の可能性は排除できなくな
る。その過程では企業会計や統計に対する疑念、データの修正など
も起きるだろう。
来る数四半期のデータ悪化は想像を絶する可能性も
 問題は上述のデータは株価が上昇途上にあり、中国経済の減速も
強く意識されていなかった2015年3月末時点までのものであることで
ある。株価の暴落が始まり人民元切り下げが起こった6月末(9月末
発表)、9月末(12月末発表)、12月末 (2016年3月末発表)でどの
ようなことになっているか、想像がつかない。
 株価が暴落しているのだから証券投資の激減は避けられず、直接
投資も増加し続けられるか疑わしい。加えて簿外の資金流出(資本
逃避)がこれまでの年間数千億ドル規模で続いているとすれば、対
外純資産と、外貨準備高の減少はより深刻なものになり、市場心理
を悪化させるということになるかもしれない。
4) 中国外貨事情の特徴、巨額の対外資金依存体質
実は借金に依存している中国の外貨準備
 なぜ突如中国の対外資金不安が高まったのだろうか。それは「中
国は世界最大の貿易黒字国でありその結果外貨準備高は世界最大の
4兆ドル弱、第2位の日本の3倍という巨額の規模となり、中国は世界
最強の金融力を持っている」というコンセンサスの誤りが、露呈し
たからである。
 新たに発表されたIMF準拠の国際収支統計、対外資産統計により実
態が白日の下にさらされた。そもそも中国の成長に貿易が大きく寄
与したのは2007年までで、それ以降はもっぱら投資が成長をけん引
してきたが、その投資資金は巨額の外貨流入、対外借り入れによっ
て賄われた。その対外借入資金の増加が外貨準備の急増をもたらし
、それを裏づけとしてなされたマネーの供給が空前の投資を可能に
したと言える。対外金融力の象徴とされている外貨準備高も実は過
半が他国資本に依存したものであるとすれば、中国の対外金融力は
相当に脆弱であると言わねばなるまい。
日中の外貨準備の性格が大きく異なる
 そもそも外貨準備高の性格が日本と中国ではまるで違うことに人
々は気がついてこなかったのではないか。外貨準備高とは対外決済
や為替市場の安定のために当局が保有する資金である。日本の定義
では日銀と財務省が保有する外貨の総額で、その大半はかつての外
貨介入によって取得されたものであり、その源泉は全てが過去の経
常黒字にある。また2015年7月末残高1.27兆ドルであり、その90%の
1.12兆ドルが外国証券、大半は米国債となっている。
 それに対して中国の外貨準備高には政府、中央銀行のほかに国有
銀行など民間保有の短期外貨資産が含まれていると見られる。そし
てその源泉は、過去の経常黒字の積み上がりに加えて、海外からの
借り入れが大きく寄与していると考えられる。中国は民間や外資企
業の外貨保有を厳しく管理しているため、貿易収入や対外借り入れ
などによって取得した外貨の過半は銀行に預託され、その預託額が
外貨準備にカウントされていると考えられるのである。
 だから日本の対外総資産額に対する外貨準備高の比率は16%に過
ぎないが、中国の対外総資産額に占める外貨準備高の比率は59%と
異常に高いのである。
著しい過大評価、中国の対外金融力
 また中国の外貨準備高が対外純資産の2.7倍に達するという奇妙な
ことが明らかになった。外貨準備高のうち自国資本の裏付けが37%
に過ぎず、63%は外国資本によって支えられているのである。ちな
みに日本の外貨準備高は対外純資産の41%であり、フルに自国資本
によって裏付けられている。
 だから日中間では外貨準備高に3倍の開きがあるのに、米国国債保
有高は日本1.22兆ドル、中国1.26兆ドルとほぼ拮抗している(2015
年7月末)ということも起きるのである。
 このように見てくると、中国の外貨準備高は対外金融力や外貨介
入余力を示すものとは到底言えないことが分かる。真の金融力は対
外純資産額なのであり、2015年3月末の対外純資産が日本は2.9兆ド
ル(349兆円)であるのに対して中国が1.4兆ドルと半分しかないと
いうことは、中国の対外金融余力は日本の半分に過ぎないというの
が実態なのである。
 日本の外貨準備はひも付きのない自由な資金だが、中国の外貨準
備の過半は多大なる債務を負っている資金、つまり他国資本なので
あり介入には投入できない。故に中国に投融資している華僑系の膨
大な資本が回収に転じ始めたら、上げ底の過大表示されている外貨
準備高では到底足りなくなるという事態もあり得るのである。
(5) 元高信仰の消滅が引き起こすもの
二律背反に追い込まれた中国の為替政策
 以上のような外貨ひっ迫状況の下で実施された人民元切り下げは
、元が上昇し続けるという元高神話を砕いてしまった。それにより
中国企業の国際資金調達は今後著しく困難化し、中国からの資本逃
避にも弾みがつくことも予想させる。
 前回レポートしたように、8月11日から13日までの元安誘導は、景
気悪化に直面している中国経済に対しては整合的なものであった。
中国の輸出は1〜7月累計で前年比-0.3%、7月単月では前年比-8.3%
と落ち込み、これまでとは打って変わって輸出が成長の足かせとな
っている。
 今では中国主要都市の賃金はアジア新興国で最高となり、価格競
争力の減衰が顕著になってきた。元高が競争力を弱めているのであ
る。
 また、今進行中の金融緩和を実効性のあるものにするためには、
人民元安を容認せざるを得ないという事情がある。金融緩和により
下落圧力を受ける人民元の価値を維持するためには元買いドル売り
介入が必要だが、それは金融緩和を尻抜けにさせてしまう。やはり
弱い経済実態には通貨安は必然なのである。
 しかし元高神話が砕かれたことで、それは巨額の対外資本流入を
所与としてきた中国金融をさらにひっ迫させ一段の元安期待を醸成
せずにはおくまい。景気対策のためには元安が必要、しかしそれは
中国経済の命綱である資金流出を招くという二律背反に中国当局が
追い込まれていることも示唆している。
(6) 追加的不安、権力闘争と地政学
不安を高めているのが、国内の権力闘争と海外の厳しい習近平政権
批判
 国内ではハエも虎も叩く整風運動が経済活力を奪いリスク回避心
理を強めざるを得ない。また習近平政権の相次ぐライバルの訴追に
より、本来集団指導であるはずの共産党統治が個人独裁化している。
それは中国政府の統治能力、経済危機管理能力を大きく削いでいく
可能性がある。
地政学的リスクも無視できない
 米国と世界のリベラル・デモクラシー世論の対中硬化が顕著であ
る。エコノミスト誌は、”Xi’shistory lessons”という過激なカ
バーストーリ―を掲載した。
 表紙には、習近平国家主席が鉄砲を持っていて、鉄砲の先にペン
が描かれている。エコノミスト誌の主張は ”How China rewrites 
thepast to control the future”、中国は、過去の歴史を書き換え
ることによって、軍事的台頭という将来の野望を正当化しようとし
ている、というものである。エコノミストは中国習政権による過去
の歴史の書き換えとして、@日本の侵略に対して戦ったのは蒋介石
率いる国民党政府であるのに、その成果をあたかも毛沢東率いる共
産党の手柄にしていること、A過去70年間一発の発砲もしなかった
平和主義の日本を侵略性を持つ国と悪魔化している、の2点を挙げ、
それが中国習政権の軍事的野望を正当化するものとなっている、と
している。
 このエコノミスト誌の主張は、「侵略の過去を軽んじ、中国の脅
威を誇張する」として、日本の保守主義者や安倍首相に批判を浴び
せてきた、その見解そのものであり、エコノミスト誌が急速に軸を
変えていることを示している。それは国際的リベラル・デモクラシ
ーの陣営が大きく対中警戒にシフトしていることを示唆する。
 米国は中国の南沙岩礁埋め立てによる滑走路、軍事基地建設を絶
対に容認しないだろう。すでにレッドラインを超えた中国は、どう
対応するのだろうか。9月の習近平訪米は、この問題を巡って正面衝
突を引き起す公算が強い。この中国の意図をくじくにはどうするか
、直接軍事的に退治できないとすれば、中国経済の衰弱しかないで
はないか、米国政権の優先順位は経済から地政学へとシフトし、そ
れが世界株式の当面の制約要因になる、という要素を考えておくべ
きかもしれない。
(7) 当面の市場をどう見るか
 以上は中国問題の潜在的リスクがいかに大きいかを物語るが、そ
れが直ちに顕在化するとは限らない。また中国リスクは対中債権の
大半を保有する、華僑資本が影響力を持つ国に集中しており、米日
欧先進国への波及は限定的と見られる。
 言うまでもなく米・日・欧先進国は経済拡大の途上にあり、世界
リセッションの可能性は低い。加えて中国リスクの高まり、世界的
株価下落に対しては各国では追加的政策、量的金融の増額、財政拡
大が打ち出され、それも株価をさえるだろう。他方中国でも超弩級
の景気対策、資本取引規制や為替統制、市場価格操作などが打ち出
され、一定の成長復元、市場の鎮静化がなされる公算もある。
 当面リーマンショックのようなスパイラル的悪循環の可能性は考
えにくく、一方方向の株価下落にもならないだろう。当面振幅の大
きなアップダウンが繰り返されるのではないだろうか。
(*)本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティ
ン」より「第146号(2015年9月1日)」を転載したものです。
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安達誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」
米国の出口政策は成功するか? 
2015/09/03gendai
利上げに前向きなFRBと、追加緩和を促す「長期停滞論」のせめぎ
合い
「年後半にインフレ率がしかるべき水準まで上昇する」
今週も世界の株式市場は大荒れである。もちろん、中国経済の先行
き不安もあろうが、今週の株価調整のきっかけは、8月29日に開催さ
れたカンザスシティ連銀主催のシンポジウム(ジャクソンホール会
議)に出席したスタンレー・フィッシャーFRB副議長の、9月利上げ
の可能性に含みをもたせた発言であった。
フィッシャー副議長は、マクロ経済学の標準的な教科書を執筆する
ほどのアメリカ経済学会の大物であり、現在のFRBの金融政策にも多
大な影響を与えている可能性が高い。
そのフィッシャー副議長が、中国経済の動向を注視する必要がある
としながらも、年後半にはインフレ率が上昇すると信じるに足る理
由があり、インフレ率が上昇する可能性が高い状況下では、実際の
インフレ率が目標値に到達する前に利上げを実施しても米国経済に
は大きな影響はない、という内容の発言を行った。
世界的な株式市場の混乱から、9月利上げを予想する市場関係者の割
合は急低下していたため、この発言は市場に大きなサプライズをも
たらした。
この「年後半にインフレ率がしかるべき水準まで上昇する」という
見通しは、FRBだけではなく、イングランド銀行や日本銀行も共有し
ている。そして、その理由が、原油価格の落ち着きや需給ギャップ
のマイナス幅の縮小である点も共通項である。
ただ、なぜ原油価格が落ち着くと予想されるのか等の判断基準がい
まひとつ明確ではなく、正直いって、この楽観的な見通しに至った
背景が、筆者にはどうしても理解できない(筆者個人の力不足もあ
るだろうが)。
厳密な議論が可能になった「長期停滞仮説」
ところで、このほかに、このタイミングでの利上げの是非の判断を
難しくしているのが、ここ数年来、米国で論争となっている「長期
停滞仮説(Secular Stagnation Hypothesis)」の存在である。
ここでいう「長期停滞仮説」とは、ローレンス・サマーズ元財務長
官が2013年11月にIMFの会議で提唱したものに端を発している。
サマーズ氏は、1)2008年のリーマンショック以降、金融危機をきっ
かけに始まったデ・レバレッジ(負債削減)が投資減をもたらした
こと、2)担保価値の毀損によって外部資金調達が従来に比べて困難
になったことから、企業が予備的なキャッシュポジションを積み上
げ、貯蓄超となった点を指摘した。
そして、その帰結として、先進国経済の潜在成長率が低下したと主
張する。また同時に、米国において、人口増加率の低下に伴う労働
投入の減少、所得格差の拡大なども発生しており、これらも潜在成
長率の低下に影響している可能性が高いと指摘している。
そして、このような潜在成長率の低下が、自然利子率(完全雇用で
資源が効率的に配分されている状況下で成立する実質金利)をマイ
ナスの水準にまで低下させたため、QE政策によって実質金利が低下
しても投資拡大の効果は決して大きくなく、それが、景気回復(経
済の正常化)を遅らせている、と結論づけている。
この「長期停滞仮説」に対しては、ベン・バーナンキ(前FRB議長)
をはじめ、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン(プリ
ンストン大学教授)や「テイラールール」で知られるジョン・テイ
ラー(スタンフォード大学教授)らが反論を提示し、大きな論争と
なった。
彼らは言わずと知れた米国経済学会の超大物であるが、論戦は、も
っぱら個人のブログや新聞紙面で展開されるなど、ジャーナリステ
ィックな側面が強く、厳密な経済モデルを用いた議論がなされてこ
なかったため、いまいちかみ合わない部分が多かった。
だが、最近になって、ブラウン大学のガウチ・エガートソン氏らが
、この「長期停滞論」の理論モデルを提示した(「A Model of Secular 
Stagnation(NBER Working Paper Series No.20574)」)。これに
よって厳密な議論が初めて可能になったと思われる。
だが、日本でこの論文が紹介される機会はほとんどなく、依然とし
てジャーナリスティックであいまいな議論に終始している感が強い
。そこで、その概要を極めて簡単にではあるが、以下に紹介したい
と思う。
潜在成長率が長期的に低下する現象
エガートソン氏らがこの論文で提示した経済モデルは、「Overlapping 
Generation Model(重複世代モデル、OLG)」と言われるもので、若
年層、中高年層、老年層の3世代で経済が構成されている。
そして、若年層はネット借入超過(例えば、教育や住宅投資など)
で、そのファイナンスを中高年層の貯蓄で賄う(すなわち、中高年
層はネット貯蓄超過)と仮定されている。なお、老年層は貯蓄を取
り崩して消費を行い、貯蓄投資バランスはニュートラルと仮定され
ている。
このモデルでは、中高年層の貯蓄額(もしくは貯蓄率)は、人口構
成等で先決されるとの仮定がおかれている。そして、貯蓄(資金供
給)が先決される中で、何らかの外部ショック(例えば、リーマン
ショック等の金融危機によるデ・レバレッジ、もしくは若年層の人
口減)によって若年層の投資が減少した場合、投資需要の減少によ
って貯蓄と投資のバランスが崩れるため、それを均衡させるために
自然利子率が低下することになる。そして、当然、投資減によって
経済成長率も低下する。
ところが、話はこれにとどまらない。そのまま時間が経過し、世代
が変わり、若年層は中高年層となった状況を考えると、前期に投資
を減らした若年層はその利払い負担は低いため、中高年層になって
からのネットの貯蓄が増加する(前述のように貯蓄額は前期に決ま
る)。一方、若年層人口の減少トレンドが持続する場合、投資需要
も減少するので、経済全体の貯蓄超過は改善されず、自然利子率は
やはり低下する。
ここでいう自然利子率とは、経済全体にとっての投資のリターンを
意味する。実際の実質利子率とインフレ率は金融政策を含む需要面
との関係で決まる。ここで、自然利子率が実質金利より低ければ、
投資のリターンが調達金利を下回ることになるため、さらに投資は
減少し、その結果、経済成長率(潜在成長率)も低下していくこと
になる。
以上より、エガートソン氏らが提唱した経済モデルでは、人口成長
率(特に若年層)が鈍化する中、金融危機などの外的ショックによ
って、投資減・外部資金調達減が発生した場合、潜在成長率が長期
的に低下する現象が起こりうることが理論的に明らかにされた。
長期停滞の克服に有効なポリシーミックス
この論文で興味深いのは、金融政策に対するインプリケーションで
ある。具体的にいえば、この論文では、「長期停滞」から抜け出す
ためには、より高いインフレ目標を設定した上でこの目標にコミッ
トすること、すなわち、より強い景気刺激策をとることが正しい経
済政策であるとされる。
一方、逆に、「ゼロ金利制約」に拘束される状況下で、金融政策が
現状維持(すなわち、ゼロ金利政策の維持)である場合、経済がデ
フレ状態で続くか、それとも、通常のインフレ状態に戻るかは「神
のみぞ知る」という点である(つまり、これは、理論的な経済の「
均衡点」として、デフレ均衡とインフレ均衡の2つが存在することを
意味する)。
これを現実の金融政策論に適用すれば、中央銀行がゼロ金利政策を
維持する中で事前にコミットする「フォワード・ガイダンス」は、
「長期停滞」には有効ではないということになる(エガートソンら
もこの点に言及している)。
以上より、もし、「長期停滞論」が現実の米国経済で妥当するとす
れば、FRBのとるべき金融政策は、1)インフレ目標を現行の2%から
3〜4%程度にまで引き上げた後に、2)追加緩和(QE4)を実施する、
ということになる。
また、この論文では、中央銀行の財政ファイナンス(国債買いオペ
増額)を伴う財政支出拡大が、長期停滞を克服するのに有効なポリ
シーミックスであると結論づけている。言うまでもなく、現状の米
国当局はこの論文の政策提言を全く取り入れていない。
もっとも、現状の米国経済が、この「長期停滞」に妥当するかどう
か自体が論争の的であることから、この論文の結論をもって現行の
FRBの金融政策が失敗すると結論づけることはできない。
今後実施される「利上げ」で論争に決着がつく
ちなみに、サマーズ氏が提唱した「長期停滞論」は、元々は、1938
年に、当時、全米経済学会会長であったアルヴィン・ハンセン氏が
全米経済学会のスピーチで提唱したものである。サマーズ氏は、こ
れを現代によみがえらせたに過ぎない。
ハンセン氏は、大恐慌後の世界において米国経済が直面した長期的
な景気低迷の原因を、人口増加率が鈍化する局面での投資減・貯蓄
余剰と金融危機による資金需要の低下に求めた。1938年という年は
、前年の1937年にFRBが出口政策に失敗し、量的緩和を復活させた年
である。
FRBは1936年から1937年にかけて、十分景気は回復し、量的緩和によ
って膨張したマネーを放置しておけば、資産バブル等の大きな副作
用が生じかねないとして、出口政策を断簡的に実施した。ただ、そ
の出口政策は失敗し、1937年には大恐慌期に次ぐ深刻なデフレとな
った。米国は、1938年以降、このエガートソン論文が提示したポリ
シーミックス(量的緩和による財政ファイナンスと財政支出拡大)
によって、景気を回復軌道に乗せた。
現在の米国経済は、大恐慌期直後ほどの悪化幅ではないが、ほぼ同
種の経済停滞に直面してきた。だが、前述のフィッシャー副議長の
認識は、「長期停滞モデル」の提示した政策提案と相反するもので
ある。
本当に9月に実施されるか否かは不透明だが、今後実施される利上げ
は、長期停滞に関する論争に決着をつけることになりそうだ。
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「富裕層2万人」 課税強化で10の選定基準(真相深層) 
2015/9/3 3:30日本経済新聞 電子版
 国税当局が富裕層の課税強化に乗り出している。1月に所得税や
相続税の最高税率を引き上げ、7月には有価証券1億円以上の保有
者の海外移住による課税逃れを防ぐ「出国税」を導入した。国の借
金が1000兆円を超えるなか、「取れるところから取る」という強い
姿勢が垣間見える。国税当局が注視する富裕層(大口資産家)とは
。その選定基準が取材で明らかになった。
 国税庁は、職員向けに税務調査の事務マニュアルに当たる「個…



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