5483.長期停滞での政策は?



米国の学者の議論を見ると、「長期停滞モデル」の理論が整備され
てきたことが分かる。

このモデルで、人口成長率(特に若年層)が鈍化する中、金融危機
などの外的ショックによって、投資減・外部資金調達減が発生した
場合、潜在成長率が長期的に低下する現象が起こりうることが理論
的に明らかにされた。

この状態から抜け出すには、中央銀行の財政ファイナンス(国債買
いオペ増額)を伴う財政支出拡大が、長期停滞を克服するのに有効
なポリシーミックスであるとなるが、これを長期に続けると、国債
市場が不安定になる。

ということで、次の政策を考える必要がある。

円安での輸出主導の景気回復は、海外の景気が悪くなる現状から限
界がある。国内での資金需要を増やすしかない。

もう1つが、財政ファイナンスを伴う財政支出を続けることで、貧
富の差が拡大するので、社会の公平性の観点から富裕層の課税強化
が必要になる。

2つの政策で、財政規模を維持しながら、長期停滞の原因である人
口減少を止めて、日本文化と適合しやすい民族の若年労働者の移住
を認めることが必要である。

米国は移民がいて、人口が増加していることで、長期停滞が起こり
にくい。このため、景気が上向いている。

さあ、どうなりますか。

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「富裕層2万人」 課税強化で10の選定基準(真相深層) 
2015/9/3 3:30日本経済新聞 電子版
 国税当局が富裕層の課税強化に乗り出している。1月に所得税や
相続税の最高税率を引き上げ、7月には有価証券1億円以上の保有
者の海外移住による課税逃れを防ぐ「出国税」を導入した。国の借
金が1000兆円を超えるなか、「取れるところから取る」という強い
姿勢が垣間見える。国税当局が注視する富裕層(大口資産家)とは。
その選定基準が取材で明らかになった。
 国税庁は、職員向けに税務調査の事務マニュアルに当たる「個…
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安達誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」
米国の出口政策は成功するか? 
2015/09/03gendai
利上げに前向きなFRBと、追加緩和を促す「長期停滞論」のせめぎ合
い
「年後半にインフレ率がしかるべき水準まで上昇する」
今週も世界の株式市場は大荒れである。もちろん、中国経済の先行
き不安もあろうが、今週の株価調整のきっかけは、8月29日に開催さ
れたカンザスシティ連銀主催のシンポジウム(ジャクソンホール会
議)に出席したスタンレー・フィッシャーFRB副議長の、9月利上げ
の可能性に含みをもたせた発言であった。
フィッシャー副議長は、マクロ経済学の標準的な教科書を執筆する
ほどのアメリカ経済学会の大物であり、現在のFRBの金融政策にも多
大な影響を与えている可能性が高い。
そのフィッシャー副議長が、中国経済の動向を注視する必要がある
としながらも、年後半にはインフレ率が上昇すると信じるに足る理
由があり、インフレ率が上昇する可能性が高い状況下では、実際の
インフレ率が目標値に到達する前に利上げを実施しても米国経済に
は大きな影響はない、という内容の発言を行った。
世界的な株式市場の混乱から、9月利上げを予想する市場関係者の割
合は急低下していたため、この発言は市場に大きなサプライズをも
たらした。
この「年後半にインフレ率がしかるべき水準まで上昇する」という
見通しは、FRBだけではなく、イングランド銀行や日本銀行も共有し
ている。そして、その理由が、原油価格の落ち着きや需給ギャップ
のマイナス幅の縮小である点も共通項である。
ただ、なぜ原油価格が落ち着くと予想されるのか等の判断基準がい
まひとつ明確ではなく、正直いって、この楽観的な見通しに至った
背景が、筆者にはどうしても理解できない(筆者個人の力不足もあ
るだろうが)。
厳密な議論が可能になった「長期停滞仮説」
ところで、このほかに、このタイミングでの利上げの是非の判断を
難しくしているのが、ここ数年来、米国で論争となっている「長期
停滞仮説(Secular Stagnation Hypothesis)」の存在である。
ここでいう「長期停滞仮説」とは、ローレンス・サマーズ元財務長
官が2013年11月にIMFの会議で提唱したものに端を発している。
サマーズ氏は、1)2008年のリーマンショック以降、金融危機をきっ
かけに始まったデ・レバレッジ(負債削減)が投資減をもたらした
こと、2)担保価値の毀損によって外部資金調達が従来に比べて困難
になったことから、企業が予備的なキャッシュポジションを積み上
げ、貯蓄超となった点を指摘した。
そして、その帰結として、先進国経済の潜在成長率が低下したと主
張する。また同時に、米国において、人口増加率の低下に伴う労働
投入の減少、所得格差の拡大なども発生しており、これらも潜在成
長率の低下に影響している可能性が高いと指摘している。
そして、このような潜在成長率の低下が、自然利子率(完全雇用で
資源が効率的に配分されている状況下で成立する実質金利)をマイ
ナスの水準にまで低下させたため、QE政策によって実質金利が低下
しても投資拡大の効果は決して大きくなく、それが、景気回復(経
済の正常化)を遅らせている、と結論づけている。
この「長期停滞仮説」に対しては、ベン・バーナンキ(前FRB議長)
をはじめ、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン(プリ
ンストン大学教授)や「テイラールール」で知られるジョン・テイ
ラー(スタンフォード大学教授)らが反論を提示し、大きな論争と
なった。
彼らは言わずと知れた米国経済学会の超大物であるが、論戦は、も
っぱら個人のブログや新聞紙面で展開されるなど、ジャーナリステ
ィックな側面が強く、厳密な経済モデルを用いた議論がなされてこ
なかったため、いまいちかみ合わない部分が多かった。
だが、最近になって、ブラウン大学のガウチ・エガートソン氏らが
、この「長期停滞論」の理論モデルを提示した(「A Model of 
Secular Stagnation(NBER Working Paper Series No.20574)」)。
これによって厳密な議論が初めて可能になったと思われる。
だが、日本でこの論文が紹介される機会はほとんどなく、依然とし
てジャーナリスティックであいまいな議論に終始している感が強い。
そこで、その概要を極めて簡単にではあるが、以下に紹介したいと
思う。
潜在成長率が長期的に低下する現象
エガートソン氏らがこの論文で提示した経済モデルは、「Overlapping 
Generation Model(重複世代モデル、OLG)」と言われるもので、若
年層、中高年層、老年層の3世代で経済が構成されている。
そして、若年層はネット借入超過(例えば、教育や住宅投資など)
で、そのファイナンスを中高年層の貯蓄で賄う(すなわち、中高年
層はネット貯蓄超過)と仮定されている。なお、老年層は貯蓄を取
り崩して消費を行い、貯蓄投資バランスはニュートラルと仮定され
ている。
このモデルでは、中高年層の貯蓄額(もしくは貯蓄率)は、人口構
成等で先決されるとの仮定がおかれている。そして、貯蓄(資金供
給)が先決される中で、何らかの外部ショック(例えば、リーマン
ショック等の金融危機によるデ・レバレッジ、もしくは若年層の人
口減)によって若年層の投資が減少した場合、投資需要の減少によ
って貯蓄と投資のバランスが崩れるため、それを均衡させるために
自然利子率が低下することになる。そして、当然、投資減によって
経済成長率も低下する。
ところが、話はこれにとどまらない。そのまま時間が経過し、世代
が変わり、若年層は中高年層となった状況を考えると、前期に投資
を減らした若年層はその利払い負担は低いため、中高年層になって
からのネットの貯蓄が増加する(前述のように貯蓄額は前期に決ま
る)。一方、若年層人口の減少トレンドが持続する場合、投資需要
も減少するので、経済全体の貯蓄超過は改善されず、自然利子率は
やはり低下する。
ここでいう自然利子率とは、経済全体にとっての投資のリターンを
意味する。実際の実質利子率とインフレ率は金融政策を含む需要面
との関係で決まる。ここで、自然利子率が実質金利より低ければ、
投資のリターンが調達金利を下回ることになるため、さらに投資は
減少し、その結果、経済成長率(潜在成長率)も低下していくこと
になる。
以上より、エガートソン氏らが提唱した経済モデルでは、人口成長
率(特に若年層)が鈍化する中、金融危機などの外的ショックによ
って、投資減・外部資金調達減が発生した場合、潜在成長率が長期
的に低下する現象が起こりうることが理論的に明らかにされた。
長期停滞の克服に有効なポリシーミックス
この論文で興味深いのは、金融政策に対するインプリケーションで
ある。具体的にいえば、この論文では、「長期停滞」から抜け出す
ためには、より高いインフレ目標を設定した上でこの目標にコミッ
トすること、すなわち、より強い景気刺激策をとることが正しい経
済政策であるとされる。
一方、逆に、「ゼロ金利制約」に拘束される状況下で、金融政策が
現状維持(すなわち、ゼロ金利政策の維持)である場合、経済がデ
フレ状態で続くか、それとも、通常のインフレ状態に戻るかは「神
のみぞ知る」という点である(つまり、これは、理論的な経済の「
均衡点」として、デフレ均衡とインフレ均衡の2つが存在することを
意味する)。
これを現実の金融政策論に適用すれば、中央銀行がゼロ金利政策を
維持する中で事前にコミットする「フォワード・ガイダンス」は、
「長期停滞」には有効ではないということになる(エガートソンら
もこの点に言及している)。
以上より、もし、「長期停滞論」が現実の米国経済で妥当するとす
れば、FRBのとるべき金融政策は、1)インフレ目標を現行の2%から
3〜4%程度にまで引き上げた後に、2)追加緩和(QE4)を実施する、
ということになる。
また、この論文では、中央銀行の財政ファイナンス(国債買いオペ
増額)を伴う財政支出拡大が、長期停滞を克服するのに有効なポリ
シーミックスであると結論づけている。言うまでもなく、現状の米
国当局はこの論文の政策提言を全く取り入れていない。
もっとも、現状の米国経済が、この「長期停滞」に妥当するかどう
か自体が論争の的であることから、この論文の結論をもって現行の
FRBの金融政策が失敗すると結論づけることはできない。
今後実施される「利上げ」で論争に決着がつく
ちなみに、サマーズ氏が提唱した「長期停滞論」は、元々は、1938
年に、当時、全米経済学会会長であったアルヴィン・ハンセン氏が
全米経済学会のスピーチで提唱したものである。サマーズ氏は、こ
れを現代によみがえらせたに過ぎない。
ハンセン氏は、大恐慌後の世界において米国経済が直面した長期的
な景気低迷の原因を、人口増加率が鈍化する局面での投資減・貯蓄
余剰と金融危機による資金需要の低下に求めた。1938年という年は
、前年の1937年にFRBが出口政策に失敗し、量的緩和を復活させた年
である。
FRBは1936年から1937年にかけて、十分景気は回復し、量的緩和に
よって膨張したマネーを放置しておけば、資産バブル等の大きな副
作用が生じかねないとして、出口政策を断簡的に実施した。ただ、
その出口政策は失敗し、1937年には大恐慌期に次ぐ深刻なデフレと
なった。米国は、1938年以降、このエガートソン論文が提示したポ
リシーミックス(量的緩和による財政ファイナンスと財政支出拡大
)によって、景気を回復軌道に乗せた。
現在の米国経済は、大恐慌期直後ほどの悪化幅ではないが、ほぼ同
種の経済停滞に直面してきた。だが、前述のフィッシャー副議長の
認識は、「長期停滞モデル」の提示した政策提案と相反するもので
ある。
本当に9月に実施されるか否かは不透明だが、今後実施される利上げ
は、長期停滞に関する論争に決着をつけることになりそうだ。



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