5447.世界経済の動向



エコノミスト誌に「The great bear market」が載っている。鉄、
銅、石油などの資源価格が低迷している。これは世界経済が悪化す
る前兆であり、中国などの新興国経済は鈍化したことで、資源価格
が下がり、そうすると、価格上昇時に鉱山を開発したが、その鉱山
閉鎖が起き、その鉱山で使用している機械類が売れなくなり、そし
て、世界全体の景気を下げることになる。

鉄については、中国の粗鋼生産量は2000年の約1億トンから2013年に
かけて8.2億トンまで急拡大してきたが、潜在成長力の低下や世界的
な景気減速で、2014年の生産は横ばい。マーケット・リスク・アド
バイザリーの新村直弘代表は、「需要拡大を見越して増産していた
鉄鉱石が余る見通しになり、2013年からいち早く価格下落が始まっ
た」と言う。
2015年は8.1億トン弱と、実に34年ぶりに前年を下回ると、中国の業
界団体は予測している。

鉄鉱石の生産はヴァーレ(ブラジル)、BHPビリトン(豪州)、リオ
ティント(豪州)の3社で6割のシェアを握る。最大手のヴァーレは
2014年に鉄鉱石を3.3億トンと前年比で7%増産。リオティントも11
%増やした。
その結果、需給バランスが崩れ、価格も今年6月時点で62ドルまで下
落。2011年のピークから4年で3分の1の水準へ暴落した。

原油市場についても再び弱気相場入りした。7月22日のWTI原油先物
価格は、米エネルギー省が発表した週間石油在庫統計で「原油在庫
が増加し、引き続き5年間の季節平均を上回った」ことが明らかにな
り、3カ月半ぶりに1バレル=50ドルを下回った。翌23日も4カ月ぶり
に同48ドル台に続落した。

しかし、シェールオイル企業が少々減産したとしても石油輸出国機
構(OPEC)の増産傾向が止まらない。これに中国需要への不安が加
わり、世界的な供給過剰状態は一向に改善しない。このため、市場
関係者の間で「1バレル=30ドルの水準まで下落する可能性がある」
との声が囁かれている。そうなれば、低油価に抗してきたシェール
企業も「万事休す」かもしれない。

ということで、日本の景気にも世界的な資源価格の下落が忍び寄っ
てくる可能性がある。

さあ、どうなりますか?

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鉄鉱石の価格暴落によって次に起きること
需要減退の状況でも供給側は増産を止めず
松浦 大 :東洋経済 編集局記者 2015年07月26日TK
鉄の原料となる鉄鉱石の価格下落に歯止めがかからない。鉄鉱石は
石油や銅と違って先物市場がない。最大の購入者である中国の需要
家と資源メジャー各社が交渉して決定された価格が、グローバルな
指標となる。
指標のひとつである中国・天津港の輸入価格は、2011年2月に1トン
当たり187ドルの高値をつけた。金融危機後の2008〜2009年にかけて
、中国は4兆元(当時のレートで約57兆円)にも上る景気対策を実施
。中国の資源“爆食"を見込んだ投機資金が石油などのコモディティ
に流入し、鉄鉱石の価格も高騰した。
中国経済はその後いったん息切れし、鉄鉱石価格は一時100ドルを割
り込んだ。が、中国政府が12年秋に景気対策を実施したことで、道
路などのインフラ建設で鉄鋼の需要が拡大。一方で、鉄鉱石の主要
産地である豪州が洪水に見舞われて供給が滞ったこともあり、2013
年1〜2月に価格は150ドル台まで持ち直した。
供給側は増産やめず
その後、鉄鉱石価格は再び下落に転じた。中国の粗鋼生産量は2000
年の約1億トンから2013年にかけて8.2億トンまで急拡大してきたが
、潜在成長力の低下や世界的な景気減速で、2014年の生産は横ばい
にとどまった。マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代
表は、「需要拡大を見越して増産していた鉄鉱石が余る見通しにな
り、2013年からいち早く価格下落が始まった」と言う。
2015年は8.1億トン弱と、実に34年ぶりに前年を下回ると、中国の業
界団体は予測している。それでも鉄鉱石を供給する側の増産が続く
ことが価格下落に拍車をかける。鉄鉱石の生産はヴァーレ(ブラジ
ル)、BHPビリトン(豪州)、リオティント(豪州)の3社で6割のシ
ェアを握る。最大手のヴァーレは2014年に鉄鉱石を3.3億トンと前年
比で7%増産。リオティントも11%増やした。
その結果、需給バランスが崩れ、価格も今年6月時点で62ドルまで下
落。2011年のピークから4年で3分の1の水準へ暴落した。
各社が鉄鉱石価格の下落を覚悟のうえで増産を続けるのは、シェア
を拡大して生産性の低い業界下位を駆逐するため。寡占化を進める
ことで、将来的に価格支配力を強めようという狙いがある。
将来の安定調達に不安
日本の大手鉄鋼メーカーもこうした動きに困惑ぎみだ。ある購買担
当の役員は「これ以上、供給側の寡占化が進むと安定調達に支障を
来す」と表情は冴えない。足元の鉄鉱石価格の下落は原価低減につ
ながるが、長期的には不利な状況に追い込まれる可能性があるから
だ。
今後の価格見通しについて、今年5月時点でIMF(国際通貨基金)は
、2016年まで50ドルを下回る展開が続くと予想している。新村氏は
、「中国は今後、公共投資などの景気対策を講じてくる。そうする
と2015年下期から2016年にかけて鉄鉱石の価格はやや戻すだろう」
と見ている。ただ、かつての水準からすれば停滞感は否めない。
(「週刊東洋経済」2015年7月25日号<21日発売>「価格を読む」を転載)
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シェール革命の風雲児が危ないOPECの増産、中国経済の変調─なお
続く原油の供給過剰状態
2015.07.27(月)藤 和彦  JBPRESS
原油市場が再び弱気相場入りした。7月22日のWTI原油先物価格は、
米エネルギー省が発表した週間石油在庫統計で「原油在庫が増加し
、引き続き5年間の季節平均を上回った」ことが明らかになり、3カ
月半ぶりに1バレル=50ドルを下回った。翌23日も4カ月ぶりに同48
ドル台に続落した。
 7月17日、米資源開発サービス大手のベーカーヒューズが「米国の
稼働中のリグ数が7基減少した」と発表したにもかかわらず、原油価
格は反転しなかった。シェールオイル企業が少々減産したとしても
石油輸出国機構(OPEC)の増産傾向が止まらない。これに中国需要
への不安が加わり、世界的な供給過剰状態は一向に改善しないとの
認識が広がり、原油価格の下押し圧力が高まっているためである。
サウジが主導するOPECの「暴走」
 このような状況下でも、OPEC加盟国関係者は、「今月に入っての
原油価格の下落は短期的なもので、世界経済の成長で価格上昇が見
込めるため、市場シェア確保のために生産量を高水準で維持すると
いう機構の方針に変更はない」と述べた(7月22日付ロイター)とい
う。
 筆者はかねてからOPECの見通しに対し違和感を抱いていたが、7月
18日にバーレーンのエネルギー戦略研究所が発表した報告書の内容
は衝撃的だった。その内容をかいつまんで言えば、「サウジアラビ
アは制裁解除後のイランの石油生産拡大を妨害するため、過剰な量
の原油を世界市場に供給することで原油価格下落の要因を無理やり
作り出そうとしている」というものである。この推測が正しいとす
れば、サウジアラビア関係者がしきりに「来年の原油需要は拡大す
る」と強調している理由が分かるような気がする。
 しかしサウジアラビアと並ぶ原油生産大国であるロシアにとって
、「最近の原油値下がりは、リセッションが来年も続き、ここ20年
で最長となることを意味する」(7月22日付ブルームバーグ)
 ロシアでは今年に入り6カ月連続で新車販売が前年に比べて大幅減
になっている。7月23日付CNNによれば「3月末の貧困層が前年比で
300万人増加した」という。来年9月に議会選挙を控える現政権への
圧力は高まっており、ロシアのノバク・エネルギー相は7月30日に
OPECのバドリ事務局長と石油市場とイランの状況について協議する
ことを明らかにした。一方で、ロシアは中国の原油市場でサウジア
ラビアとシェア争いを演じるなど利害が対立しており、OPECの「暴
走」を止めるのは難しいだろう。
中国経済に立ち込める暗雲
 世界の原油需要拡大の頼みの綱だった中国経済には、ますます暗
雲が立ちこめている。
 中国の自動車市場の不振は誰が見ても明らかだ。フォルクスワー
ゲンの今年上半期の中国市場での出荷台数は2005年以来初の減少と
なった(前年比3.9%減の174万台)。7月23日付ブルームバークによ
れば、世界の自動車メーカー各社は中国での工場の稼働率を抑制す
る「転換点」を今年中に迎えるという。
 中国政府も7月22日、「製造業は深刻な供給過剰の状態が続いてお
り、潜在需要の強い海外へ生産施設を移転することでしか解決しな
い」との見方を示した。
 中国が官民挙げて株式市場下支え策に投じた金額は、リーマン・
ショック後の経済対策(4兆元)を超える5兆元相当に上った(7月23
日付ロイター)。中国メデイアによれば、「6月中旬から始まった株
価暴落の影響により、中国の家計資産に占める株式資産が6.8兆元
(約136兆円)目減りした」という。株式市場に連動して不動産市場
が一段と悪化すれば、「住宅ローンによる大規模な焦げつきが家計
に発生して、金融システムが混乱する恐れがある」(7月20日付ドイ
ツ連邦銀行月報)
「中国の株式市場のリスクよりも、中国企業が抱える債務の方が深
刻だ」とする声も高まっている。
 格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は7月16日に
発表した報告書で「中国政府主導の独自の資本主義のもとで、企業
の債務負担は政府の8倍に達する」ことを指摘した。また、7月16日
付ロイターは「中国の企業債務は2013年のGDP比120%から2014年は
同160%の16.1兆ドルに拡大し、米国の2倍の規模に達した」と報じ
た(米マッキンゼーは28兆ドルと試算している)。
 膨大な規模の借金を抱える中国企業にとって、さらなる悩みの種
は資金の海外流出である。米JPモルガンは7月17日に発表した報告書
の中で、「過去15カ月に中国から流出した資金は5200億ドル(2011
年から中国に流入した資金の総額と同額)に達した」と分析。その
理由は「投資家が中国の経済成長を悲観的に見ているため」として
いる。
シェール革命で駆け上がり、転落したチェサピーク
 以上のような状況を踏まえ、市場関係者の間で「1バレル=30ドル
の水準まで下落する可能性がある」との声が囁かれている。そうな
れば、低油価に抗してきたシェール企業も「万事休す」かもしれな
い。
「米チェサピーク、7〜9月期以降の配当中止へ」──2015年7月21日
付ウォール・ストリート・ジャーナルは米石油・ガス生産大手のチ
ェサピーク・エネジー(以下「チェサピーク)が苦境に陥っている
状況を報じた。
 チェサピークといえば、「シェール革命の風雲児」である。1990
年にオーブリー・マクレンドン氏が従業員10人で立ち上げた会社は
、現在エクソンモービルに次ぐ全米第2位のガス生産会社に成長した。
 その成長の原動力はシェール革命だった。シェールガス・オイル
の生産を可能にした水平掘削や水圧破砕などの技術の将来性にいち
早く注目したマクレンドン氏は、偉大なる「ランドマン(地権交渉
人)」となり、地主を説得し、所有地での掘削権のリース契約を結
ぶ交渉人を何千人も集めて生産性の高い米国のシェール埋蔵地のほ
ぼすべてに多大な権益を確保した。こうしてマクレンドン氏は2009
年米500社CEOの報酬ランキング1位(約112億円)に輝くなど、アメ
リカンドリームを達成した。日本でも各種メデイアがチェサピーク
を取り上げ、視察ツアーが相次いだ。
 しかし、チェサピークの転落は早かった。シェール層からの天然
ガスや石油の生産が可能と分かるとシェールブームが起こり、多く
の企業が参入した。そのため、米国内の天然ガスがあふれ、天然ガ
ス価格が急落したからだ。
 2008年に百万BTU当たり13ドル超の高値を記録した米国のガス価格
は、2009年には3ドル台に落ち込み、エクソンモービルなどガス生産
会社は軒並み赤字に転落。チェサピークは経営危機に見舞われた。
 危機を乗り切るためにチェサピークは、他のガス生産会社と同様
にシェールガスの生産から徐々に手を引き、価格が高い原油などの
生産にシフトする。同時に、豊富に有するシェールガス関連権益を
売却する動きに出た。2010年10月に中国海洋石油(CNOOC)が約11
億ドル、2011年2月に世界最大の鉱山会社である英豪BHPビリトンが
約48億ドルでチェサピークの権益を取得するなど資産売却は順調に
進んだが、チェサピークの経営は想定通りには改善しなかった。2012
年に入ると米国の天然ガス価格が100万BTU当たり2ドル前後まで下落
し、業界全体で年間約100億ドルの赤字という事態になってしまった
からである。
 マクレンドン氏は2013年1月にCEOを退任することとなったが、ま
さに「シェール革命の浮沈を体現する人物」だったと言えよう。
 体制を一新したチェサピークは経営立て直しのために、さらなる
資産売却とシェールオイル・ガスの増産に努めてきた。しかし2014
年後半以降の原油価格急落で2015年第1四半期は大幅な赤字に転落し
た。2014年9月時点で25ドル台だった株価は、2015年7月には9ドル台
と低迷(前述の「配当停止」報道後、株価は8ドル台に下落した)、
さらなる資産売却も困難になりつつある。
資金難に陥るシェール企業が続出
 7月に入り、海外勢で最もシェール事業への投資額が多い多国籍企
業、BHPビリトンがシェール事業で多額の損失(28億ドル)を計上し
、米シェール事業への設備投資額を2016年6月期は前年度より55%減
らすことを明らかにした。大手石油・ガス企業では、英BPが21億ド
ルの評価損を計上。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルも多額を投じた
開発が失敗に終わるなどシェールブームはすっかり冷え込んでいる。
 2013年1月31日付フィナンシャル・タイムズは、「チェサピークは
前払いで現金を受け取る見返りに将来生産する石油やガスを現物で
支払う『ボリュームメトリック・プロダクション・ペイメント(VPP
)』などの不透明な金融契約を駆使して債務を積み上げている」と
報じている。原油価格の下落で、チェサピークの生産物の価値はま
すます下がり、借金の返済のために赤字覚悟の生産の増加に迫られ
ることになる。
 リーマン・ショック後からシェール革命の最大の支援者だったウ
ォール街は、銀行監督当局がシェール企業への融資に関連するリス
クについて警告を発しているため、今後融資返済に向け圧力を強め
つつある(7月21日付ブルームバーグ)。銀行の与信枠の再検証は通
常4月と10月に実施されるが、生産物の価値に基づく与信枠が10月ま
でに縮小されれば、チェサピークは資金繰りに窮する事態に追い込
まれるだろう。
 7月22日付ブルームバーグは、「資金難に陥る企業が増える中で、
投資家たちは次に支払いが難しくなる企業がどこか探し、もっと大
きな賭けを行いたいため、レバレッジを活用する複雑なクレジット
デリバテイブの一種である『インデックストランシュ』と呼ばれる
金融商品の取引が急拡大している」と報じ、この商品を「金融危機
前に人気を集めた仕組み商品と瓜二つだ」と評している。
 1兆ドル規模のサブプライム関連CDS(クレジット・デフォルト・
スワップ)市場が、世界を金融危機に引きずり込んだことは記憶に
新しい。現在100億ドル超のインデックストランシュ市場が、今後、
ウォーレン・バフェットが言う「金融版大量破壊兵器」にならない
という保証はない。
サウジとロシアが核で協力?
 最後にサウジアラビアとロシアの気になる動きを紹介したい。
 サウジアラビア政府系投資ファンドが、ロシアに100億ドルの投資
を行うことになった。主導したのは、6月中旬のサンクトペテルブル
ク国際経済フォーラムに参加したサウジアラビアの副皇太子、ムハ
ンマド国防相である。
 そして、その見返りの一環として「同フォーラムでロシアによる
原子力発電所建設を視野に入れた原子力協定が締結された」(7月23
日付産経新聞)という。
 7月22日付ロイターは、イラン核合意を受け「中東域内でイランと
の権力争いを続けるサウジアラビアが、自国の原子力計画を加速し
、将来的に核武装を可能にする核のインフラ構築に動く可能性があ
る」と指摘している。
 イラン核開発疑惑が10年越しに解決した矢先に、今度はサウジア
ラビアによる核開発疑惑が浮上してしまうのだろうか。原油価格下
落圧力を食い止めるための最後の手段として、中東地域で危機を演
出するというシナリオだけはやめてほしいものである。

The great bear market

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