5413.ドイツの三大学で「自然に学ぶ」を講演



ドイツの三大学で「自然に学ぶ」を講演
 −500系新幹線電車の開発&走行試験の経験をベースに―              
                平成27年(2015)6月8日(月)              
                      仲津 英治

 去る平成27年(2015)5月18日(月)&同20日(水)ドイツの三大学で
「自然に学ぶ」というテーマで講演する機会を得ることができました。
「500系新幹線電車の開発&走行試験」の経験をベースにしたものです。
もちろん私費で参りました。

 今回訪独する切掛けは、インチ-=INCHと言うドイツの技術系学生向け
の英語雑誌の編集責任者であるマテイアス マイヤー氏からの500系
新幹線に関する照会からでした。マイヤー氏は、INCHの2014年11月号
に題名「Bullet Train and Birds」(弾丸列車と鳥たち)という論文で、
500系新幹線の開発&走行のためには、静かに走る事が一番肝要であった
こと、そして野鳥に学んだことを詳述して下さったのです。

 そのマイヤー氏は、2012年4月私のことを自ら主宰する生物科学系
インターネット季刊誌に紹介して頂いた米国のトム・マックケアグ氏
からの情報に基づいて、私にアプローチされて来られたようです。ご
縁の繋がりの有難さを感じました。 

 マイヤー氏の記事をきっかけに、私がドイツを訪問し、「自然に学ぶ」
と言うテーマで講演することを提案したのです。大いに歓迎となりまし
た。久々のドイツ旅行で同地好きの妻も喜んで同行することになりまし
た。 
 マイヤー氏の紹介で協力して頂いた大学は、シュトゥットガルト大学、
カールスルーヘ工科大学の2つで、そしてかつて私も留学したことのある
ブラウンシュヴァイク工科大学も対象に加えることができました。いず
れも工学系の交通・鉄道工学関連の研究室が窓口です。

講演第1
シュトゥットガルト大学(旧シュトゥットガルト工科大学)
機械要素研究室 軌道車両工学講座
主任教授;コリーナ・サレンダー教授(女性) DB(ドイツ鉄道)出身の
方のようです。

 シュトゥットガルトは、ドイツが誇る高級車ベンツを製作するダイムラー
社の本社がある人口60万人の大都市です。工業都市ですが、緑の溢れる中々
綺麗な街でした。

 同大学のコリーナ・サレンダー教授が、マイヤー氏からの話を受け、ぜひ
自分の研究室で仲津のレクチュアーを聞きたいと申し出て下さり、私の
講演が実現しました。
 技術系の女性教授は欧州でも珍しいようで、インターネット情報によれ
ば、サレンダー教授は、本年3月25日にプロフェッサーに就任したばかり
の47歳の新進気鋭の教授です。本人曰く、何と全欧州の大学の鉄道系講座
で初めてしかもただ一人の女性教授であるとのこと。

 今回のドイツでの講演は、挨拶などはドイツ語で、講演本体は英語で行な
わせて頂きました。日本では日常使うことが少ないドイツ語では難しさを
感じていたからです。
    
 シュトゥットガルト大学の大きな講義室には40人ほどの聴講者がおり、
中々国際的でした。日本人学生も含め、ドイツ人以外、色んな肌の色の方
がおられたように思います。
 質疑の時間になると、パンタグラフの集電性能に関する専門的な質問があ
りました。このような分野に関する質問をすること自体、中々のものであ
り、ドイツの工学系大学の研究レヴェルを推察できるものでしょう。また、
よく勉強している学生だなと思いました。

講演第2
カールスルーヘ工科大学
車両システム技術研究室・軌道システム講座
ペーター・グラーツフェルト教授

 カールスルーヘは、人口27万人の中都市で、300年前からの幾何学的庭園
を伴ったお城があり、西ドイツ時代から、最高裁判所の置かれていること
でも有名です。
 カールスルーヘ工科大学は、私の国鉄時代からの元DB(ドイツ国鉄)の
友人が二人連れで聴講に来てくれていました。主任教授のグラーツフェルト
教授は、マイヤー氏の親友でもあり、そのご縁で今回最初に講演日程が決
まりました。               

講演第3
ブラウンシュヴァイク工科大学 
鉄道工学・交通安全工学研究室
イエルン パハル教授 

 ブラウンシュヴァイク工科大学は、私が1972〜74年に留学させて頂いた
大学です。その時の鉄道工学・交通安全工学研究室の主任教授がクラウス・
ピア-リック先生でしたが、今回はご高齢のため、お会いすることが出来ませ
んでした。その後任の方が旧東ドイツから来られたイエルン パハル教授です。
同研究室は今回で4回目の訪問となりましょうか。訪独する前にイエルン
 パハル教授に意向を伺うと、ぜひ学生を相手に特別講演を行なって欲しいと
の提案を戴いておりました。

 質疑応答の中で新幹線のトンネル走行に伴う、車体の金属疲労に関する
質問がありました。
 複雑な地形の日本列島を走る新幹線は、高速用の線形を確保するため、
トンネルが多いのです。山陽新幹線は51%がトンネル区間で、しかも工事費
を節約するためにトンネル断面は狭く、そこへ五列座席の幅広の高速列車
が突入しますと、車体内外の圧力変動によって車体が収縮&膨張を繰り返
し、車体に負担が掛かるのです。 
   
 500系では、先頭車をカワセミに近似させ、車体高さを低くし、車両断
面積を減らしてその圧力波対策を講じたのです。この質問も実践知識を
踏まえた中々の質問だなと思いました。
 
 最後に今回のドイツ訪問で、全体として感じたことを述べさせて頂きます。
路線長13,600■と世界最高密度の無料高速道路網=アウトバーン・ネット
ワークを誇るドイツも、高規格道路に必要とする多大な面積、多額を要
する保守工事あるいは炭酸ガス排出による地球温暖化問題など、自動車
化社会の限界を認識し始めているようです。2016年には乗用車もアウト
バーンが有料となります。道路破壊量の大宗を占める大型トラックは、
既に1995年にアウトバーンが有料化されています。

 ドイツは、国を超えた高速鉄道網の拡充と相互乗り入れ(例フランスと)、
路面電車の再整備、都心部における歩行者地域の大幅拡大等により、
脱自動車の方向に動いていると感じました。    
 
 高速鉄道に関しては、「新幹線によって世界に先駆けた日本が先生である」
とドイツ人&フランス人からも伺ったことがあります。しかし都市交通に
関しては、多くの都市で路面電車を廃止せず、むしろ整備拡充している
ドイツを見習うべきでしょう。次の機会に詳述させて下さい。                        
                                以上 
「地球に謙虚に運動」代表

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