5397.中東におけるイスラム過激派の動向と今後の展望



中東の情勢は混沌としてきた。米空軍がイスラム国を爆撃しても、
イスラム国の勢いは衰えない。これは何かがあると思っていたら、
AP通信記者のムハンマド・ダラグメ氏の講演があると聞き、溜池に
行ってきた。モデレータはNHKの出川解説委員である。

(講演)
中東の庶民の意見や実生活をお話したい。ISの軍事活動を話さない。

アルカイダやISは、ワハビ主義のグループである。ワハビとは、イ
スラム法の解釈が厳格な原理主義である。イスラム教には、いろい
ろな独自の解釈があり、いろいろなバージョンが存在し、多様化し
ている。

政治と宗教が混じっている。そして、政治上でこれが確立している。
アルカイダは、1980年代に遡る。シーア派のイラン革命からスンニ
派にも宗教的な政治活動が必要として広がった。

独裁的な政権を変えようとして始まったのである。当初、リベラル
や共産主義、ナショナリストなど多様な運動が起きたが、全て失敗
した。

これらが政権を取っても前政権と同じように腐敗して、独裁的な政
権になるだけである。結果、庶民は失望した。

このため、イスラム革命しかないということになった。アルカイダ
からISが生まれたが、その残虐性が問題視されているが、政権サイ
ドも残虐的であり、抑圧された人たちがISに参加して復讐している
のである。

このため、ISの兵士に「何故、殺すのか?」と聞くと、答えは、我
々の仲間を殺したので、殺すのであるという。

イラクのアルカイダは、以後のISは、対ソ連ゲリラ戦をしたアフガ
ニスタンから帰って、アルガザルが組織化した。米国に反抗して殺
される。そのあとをアル・バグダディが継いで、シリアのアサド政
権に対抗して、世界から多くのジハーディストの参加を得て、2014
年イラクに攻め込んで、カリフ制のイスラム国を作る。

そして、イスラム国は、多くの地域を統治すると宣言した。

ヨルダンから来たという兵士を取材したり、シリアやイラクの戦闘
員の家族を取材した。この人たちは、強くイスラム国を支持してい
ると感じた。

イスラムの昔のムハンマドの歴史は、すごい。地域の強国であり、
世界最高の文化と技術を持っていた。それに比べて、今のヨルダン
は、政府の役人は汚職と腐敗で潤い、国民は貧困のままである。

若い人たちは、多くが無職であり、何もないし遊びもない。街は整
備されていずに、電気も水もない。このような失望から若い人は、
ISに参加するかギャングに参加するしかない状態である。

しかし、イスラム国では、まず貧しい人たちに燃料を配り、ラマダ
ン期間中は食料を配っている。しかし、ヨルダンでは政府の人たち
は、自分だけ良い暮らしをして、庶民は貧乏のままである。

このような不満があったので、ヨルダン政府は、シリアとの国境を
閉鎖して、ヨルダン国民がISに参加しないようにした。

しかし、ヨルダン庶民は、イスラム国がヨルダンにも来て、カリフ
国を作って欲しいという。国王と大臣は富に溺れ、国民は貧困に溺
れていると比喩する。

カリフ制で国民全員が平等な暮らしをして欲しいと、ヨルダン庶民
は訴える。

カルフ国は、栄光の歴史として学校の教科書に乗っている。残虐な
行為は、カリフ国での実行されていた。裏切った人たち700人を
処刑したことは歴史で教えている。ということで、イスラム国の行
動は、教科書上で正当化されている。

中東は、他の宗教が排除されている。他の宗教を信じると地獄に行
くと教師も教えている。モスクに行くと、宗教指導者はより厳しく
イスラム教でないといけないとという。

このようにイスラム国が正当化されているので、ジハーディストは
当然のように、ISに参加することになる。

敵や盗みなどの人たちを処刑している。シーア派とイラク軍が、ラ
マディを奪還しようとしている。しかし、イラク軍の指揮は低い。
ISは、西部からバクダッドを狙っている。そして、ラマディへの米
軍の空爆は疑問である。

中東地域の将来展望としては、昔の戻ることを庶民が望んでいる。
イスラム教国であるイスラム国を望んでいる。

ISとその組織は10年でこの地域を制圧すると言っている。サウジ
の若い人たちも腐敗している王制から本物の近代化、民主化が必要
であるという。

欧米が、イスラム国により強く当たると、より民衆がイスラム国IS
に靡くことになる。欧米は失敗することが確実である。

しかし、ヨルダンのパイロットを焼き殺したのは、失点であり、イ
スラム教としてやってはいけないことであった。
この後、ムードは一時的に一変した。王をサポートしたが、その後
また、IS支持に戻っている。

出川さんからの質問
Q1.ヨルダン・パイロットの処刑前、ISはイスラム法の正しい解
釈えしていると庶民は見ていたのか?
A1.ISの敵はISである。イスラム法の解釈では極端な解釈をして
いる。ヨルダン・パイロットを交換していたら、ヨルダン国民は、
より強くイスラム国を支持していたと思う。イスラム法の解釈は、
政治である。受け入れるしかない。ISはワハビであり、カリフ制に
戻ろうという意見が多い。今後王制は厳しくなる。

Q2.教科書の思想が正しいと思われているのか?
A2.肯定的な記述になっている。今後、教科書の改革を行うと政
府は言っている。穏健的なイスラム教を推進するようにするという。

Q3.人々は何を求めているのか?民主化なのか、イスラム化なの
か?
A3.政治環境が厳しいので、そのために環境を変えようとしてい
る。チェニジアは民主化しているので、ジハーディストの活躍はで
きない。イラクやシリアは政権が残虐なので、反対派も残虐になる。
部族制社会から近代的な社会に移行しようとしている。
パレスチナは穏健なので、イスラム国とは違う。

Q4.ISのシリアやイラクはどうなるのか?
A4.宗教で分離するしかない。軍事行動ではISに勝てない。ISは
生き残る。欧米は失敗する。ISは、公平・平等を掲げている。ガザ
の人たちは、現在失業率が43%であり、ISへの支持が高い。同胞団は
穏健であったが、失敗した。

Q5.パレスチナの独立はどうなるのか?ネタニエフ首相はパレス
チナの独立を認めないというが?
A5.2つの要素がある。イスラエル社会が変わってきた。右派政
権であり、もう1つが、アラブ世界が混乱して、パレスチナ独立を
応援できる状況ではなくなってきた。平和交渉時、パレスチナで、
ハマスの支持が増えてしまい、イスラエルの左派が失望されてしま
った結果が現時点になっている。

このため、パレスチナは、国際的な支持を得る方向になってきた。
国際裁判所や国連での活動である。この結果、欧州ではフランスを
始め12ケ国がパレスチナを国家と認めるとしている。

ここから、会場からの質問になり、
Q6.サウジでのISが内戦を仕掛けるのか?
A6.正解である。サウジも内戦になる可能性がある。若い世代に
相当、浸透している。サラフィー主義には2つある。平和的な派と
ジハーディスト派と。サウジ政府はコントロールできない。

Q7.イスラム教と民主化は共存できないのか?もう1つ、アジア
のイスラム教から何か学べないのか?
A7.政治環境が全てであり、アジアとは違うので学べない。
今、中東は、欧州の中世と同じで政治と宗教が一体化している。こ
のため、宗教戦争が起きている。

Q8.日本へ何か期待することはありますか?
A8.欧米は致命的な失敗をしている。米国はサダム・フセインを
倒し、イラクをシーア派政府にして、ISができた。シリアではアサ
ドを倒そうとして、混乱になった。全て失敗である。このため、撤
退するしかない。

中国、ロシア、日本が次の中東を作る手伝いをすることである。
ISは、エルサレムを解放すると言っている。イスラエルを拒絶して
いるので、新しいプレーヤーの登場が必要になっている。

コメント:
シーア派、スンニ派王制・独裁国、スンニ派民主、イスラエルと4
つが複雑に絡み合った関係になり、これは大変なことになりそうで
ある。まず、打倒されるのが、スンニ派王制・独裁国なのであろう
。次にはイスラエルが危ない。

中東の混乱が続くことは確かである。



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