5364.ウクライナ紛争の決着か?



FPの「Why Ukraine's failing Donbass region is becoming a big 
headache for Russia.」、NIの「Europe's Next Ukraine Nightmare: 
A Massive Financial Default」がウクライナ問題に触れている。

現時点、ウクライナ経済はデフォルト寸前であり、IMFも入り経済再
建をする方向である。一番問題はドンバスなどの地域問題である。

しかし、親露派が占拠したドンバス地域も経済でも社会的にも崩壊
状態である。ロシアもウクライナも両方ともに失ったことが多い。

この地域には500万人が住んでいたが、200万人が出て行って、
残ったのは、子供と年金生活者である。戦争が続き、工場もなくな
り、インフラも壊れている。この地域をプーチンは、ウクライナ政
府が修繕するべきというが、親露派がいる限り、ウクライナ政府は
、この修繕や年金の支払いはしないという。

このため、親露派がこの地域を占拠していると、プーチンの負担が
増えていくことになる。この親露派の構成はロシアからの正規軍と
ボランティアであるので、市民戦争でもない。

このため、ロシア経済も大変であり、この地域をなんとかしないと
プーチンも思っているようだ。

戦闘がある時は、勝つことが重要であるが、ミンスク合意ができて
、地域の統治となると、経済的なことや社会的なことが重要になり
、親露派の人たちは戦闘員であり、その統治なことができないし、
ロシアからカネを持ってくることしか考えない。このため、ロシア
政府も面倒が見ることができない。

その上、親露派は次の戦争をしようとしている。このため、ロシア
としてもこれ以上のお荷物を増やすわけにはいかない。また、欧米
からの制裁が厳しくなる。米国は次の戦争を始めたら、ウクライナ
に武器を提供すると警告している。ロシアはミンスク合意を守るし
かない。

このため、時間が経てば経つほど、キエフの政府の方が有利になる
という。

この観点から見ていると、とうとう、ロシア大統領府によると、ウ
クライナとロシア、ドイツ、フランスの4カ国首脳は4月30日、
電話会談し、ウクライナ和平実現に向けた「連絡調整グループ」に
作業部会を設け、約1週間後に最初の会合を開催する方向で合意し
たとなり、ウクライナ東部の親ロシア派幹部は5月4日、ポロシェ
ンコ政権などとの和平協議が6日にベラルーシの首都ミンスクで行
われると明らかにした。

さあ、どうなりますか?


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6日にウクライナ和平協議=作業グループ設置へ
 【モスクワ時事】ウクライナ東部の親ロシア派幹部は4日、ポロ
シェンコ政権などとの和平協議が6日にベラルーシの首都ミンスク
で行われると明らかにした。インタファクス通信が伝えた。
 東部各地で局地的な戦闘が再燃する中でも、2月の停戦合意に基
づく和平プロセスを前進させるため、四つの作業グループを発足さ
せる見通しだ。(2015/05/04-19:15)
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ウクライナ和平の作業部会開催へ ロ、独、仏4カ国首脳が合意
 【モスクワ共同】ロシア大統領府によると、ウクライナとロシア
、ドイツ、フランスの4カ国首脳は4月30日、電話会談し、ウク
ライナ和平実現に向けた「連絡調整グループ」に作業部会を設け、
約1週間後に最初の会合を開催する方向で合意した。
 同グループは、ウクライナとロシア、ウクライナ東部の親ロシア
派武装組織などで構成されている。東部では2月の停戦合意後も局
地的戦闘が続き、4月30日もウクライナ兵1人が犠牲になった。
事態打開に向け、作業部会で話し合いの機運を高める狙いとみられ
る。
2015/05/01 05:30   【共同通信】
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ロシア経済に重くのしかかるドンバス問題
ウクライナのデフォルト危機で経済支援が不可欠に
2015.4.30(木)  藤森 信吉
 ウクライナ東部ドンバス(ドネツク、ルガンスク州)地域で「ド
ネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」を名乗る勢力が現
れてちょうど1年が経過した。
 2014年4月、彼らやロシアのウラジーミル・プーチン大統領の表現
を借りれば「ファシスト政権に抵抗した市民」、ウクライナ側の表
現では「ロシアの工作員と扇動された集団」が治安機関・行政施設
を次々に占拠し、親国家ウクライナから独立した人民共和国の創設
を宣言したのだ。
 これに対するウクライナ側のカウンター・テロ作戦(ATO)が発動
され、2度の停戦合意を挟み100万人を超える避難民と6000人以上の
犠牲者を出しながら、両人民共和国は今日でもドンバスの3分の1程
度の領土と300万の住民を維持し続けている。
 言うまでもなく、彼らの存続はロシア政府の支援にかかっている
。しかし、ロシア政府に併合はおろか国家承認の意図すら見えない
。人民共和国の維持コストの負担を明らかに避けているのだ。
独立に適さないドンバス地域
 かつて、ドンバスは、ウクライナの国内総生産(GDP)の6分の1、
貿易輸出の3分の1を叩き出す、ウクライナ経済を牽引する地域であ
った。その一方で、せっかく稼いだ富は、キエフや西ウクライナに
流れている、というのが彼らの反キエフ的言説の根拠となっていた。
 しかし、実際は異なる。
 ドンバス炭鉱は老朽化し、国際競争力を失って久しく、政府の補
助金で何とか生き永らえてきた。ロシア炭の2倍近い値段だったドン
バス石炭の価格は、政府が半額負担することで、国内で消費されて
きたのだ。
 石炭産業への補助金は「エネルギー自給率の向上」として正当化
されていたが、中央政界に巣食う強力な石炭ロビーの力も大きく作
用した。こうした補助金漬けの石炭と、政府が逆ザヤで安く売る天
然ガスを利用した鉄鋼の輸出がドンバス経済を支えていた。
 ウクライナの旧ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権は、こうしたド
ンバスの石炭産業と鉄鋼産業を支持基盤としていた。現在の政権は
、国際通貨基金(IMF)指導の下でリストラを推進中で、その過程で
補助金を切られたドンバスは見かけ上の生産力を失っている。
 もう1つは、年金生活者などの社会保障受給者の多さである。平時
においてドンバス人口に占める高齢者の割合は全国平均を上回って
おり、特にドネツク州は率・数とにもウクライナ随一の高齢化地域
であった。
 そのうえ年金の平均支給の平均額はウクライナで最も高い。
 軍事衝突の激化に伴い、有産階級や若者はいち早くドンバスから
避難したため、社会保障を必要とする住民の率は相対的に上昇して
いる。
 現在、両人民共和国には、合計120万人を超える年金受給者が暮ら
しており、人民共和国政府は、域内産業の低迷と徴税能力の低さか
ら、社会保障費の財源確保に四苦八苦している。
 特に、昨年12月1日以降、ウクライナ政府が、占領地域に対する予
算執行を停止し年金・社会保障費や公務員給料の支給を切ったため
、両人民共和国における現金不足は一層、深刻なものとなっている。
 ルガンスク人民共和国は4月から独自に年金支給を開始したが、ド
ネツク人民共和国独自の年金支給は一部に限定されたままである。
人民共和国公務員に対する遅配・欠配は解消されていない。
 ウクライナ通貨だけでは足りず、様々な通貨で支給したり、果て
は、ウクライナ政権に対し域内住民に対する年金・社会保護費の支
払を要求する、という「独立国」にあるまじき発言すら飛び出して
いる。
 これに対し、ウクライナ政府は、ウクライナ側がコントロールす
る地域に登録し受け取りにこられる年金受給者には全額支給してお
り、その数は90万人に達している、と反論している。
 ドネツク人民共和国のザハルチェンコ元首は、依然としてドネツ
ク全州の住民を「ファシスト政権から解放」する姿勢を崩していな
いが、軍事的に可能であっても、これ以上住民が増えるとどうなる
のか、理解できないわけではあるまい。
併合・国家承認に消極的なロシア政府
 生産力がなく高齢者が多い地域をロシア政府が併合するとどうな
るか。2014年3月に編入された人口230万人のクリミア半島を例に取
ると分かりやすい。
 ロシア紙「独立新聞」の報道によると、ロシア連邦政府は、2014
年だけでクリミア政府の予算に1250億ルーブルを移転し、本年度も
1000億ルーブル以上が見込まれている。連邦政府の財政負担率は80
%にも達する。ケルチ架橋などの国家的投資案件はこれとは別予算
である。
 クリミア住民の年金、公務員給料は、ウクライナ統治時代の2倍と
ロシア連邦水準に引き上げられた結果、クリミア予算の42%はこれ
ら公務員給料や年金などの社会保障費の支払いに消えることとなっ
ている。
 ドンバスの両人民共和国の人口はクリミアより多く、さらには、
ライフラインの供給、破壊されたインフラの復興を考慮すると、追
加的な経済制裁を考えるまでもなく、ドンバス併合は多大な負担を
ロシアに強いることになる。
 一方で、ロシア政府は「国家承認」も考えていないようだ。2月、
ウクライナ当局は、ドンバス地域への天然ガス供給を「戦闘による
パイプライン損傷」を理由に停止した。
 これに対し、ロシア政府は即座に「人道的観点から」、ロシア国
境から人民共和国領に直接つながるパイプラインを通じて供給を開
始した。
 しかしながら、「ドンバスはウクライナの消費者である」という
理由から、現行のロシア・ガスプロムとウクライナ・ナフトガス社
間の契約を適用し、ウクライナの勘定から決済することを宣言して
いる。
 あえて国家承認しないことで、天然ガスのツケを親国家に回す供
給方法は、沿ドニエストルの事例と全く同じである。
 仮にロシア政府が、人民共和国を国家承認した場合、「ドンバス
はウクライナ=ウクライナがガス代を支払う」というロジックを使
えなくなる。
 現在、両国間のガス供給契約は、前払い制に移行しており、ウク
ライナ側が入金した分をロシアが供給することになっている。
 ウクライナ側は、ナフトガス社が発注する供給量・通過ルート指
定を無視してガスプロムが独自に供給しデポジットから引き落とそ
うとしている、として反対し、決済は実現していない。
 仮にロシアが国家承認した場合、決済能力ゼロの両人民共和国へ
のガス供給はロシア=ガスプロムが被ることになるが、両人民共和
国の天然ガス消費レベルは年25億m3程度、現在のガス価格(1000m3
当たり250ドル)で計算すると6億ドルに達する。
 デフォルト同然のウクライナはもちろんのこと、ロシアにとって
も大きな数字である。国家承認した場合、国際社会からの経済制裁
も覚悟しなければならないし、ドンバスに広範囲の自治権を付与さ
せてウクライナ枠内にとどめ、キエフ政権の対外政策に制約をかけ
るという政策も放棄しなければならない。
ロシアの狙いは人民共和国をウクライナ財政に寄生させること
 上記の観点から、2015年2月12日に調印されたミンスク合意(「ミ
ンスク合意の履行に関する複合的な措置」)を読み直すと、人民共
和国の維持は、ウクライナの予算執行を前提としていることに気づ
く。
 例えば、第8項には「年金支出やその他の支出(給与、歳入、公共
目的の一時支出、ウクライナの法源の枠内における税の徴収)など
の社会的な再構成を含む社会・経済的関係の完全な回復に関する様
式を規定」(小泉悠氏による翻訳)があり、また、決済のための銀
行システム回復の義務もウクライナ側に課せられている。
 実際、交渉過程で、プーチン大統領が強硬に主張したのは、「独
立」ではなく、ウクライナ枠内での「自治」であった。
 ウクライナ国家枠内であれば、ウクライナ予算の対象となる。ロ
シア政府は人民共和国の代理人として振る舞うが、恒常的・制度的
にドンバス経済の面倒を見るのはもっぱらウクライナ、ということ
である。
ロシアの対ドンバス政策は持続可能か?
 人民共和国の経済状態は悪化を続けており、特に高齢者の危機的
な医療・食糧状況が国連やNGOの報告から伝えられている。
 ロシア政府や人民共和国は、ミンスク合意の履行、すなわち憲法
改革、分権化、ドンバス地域との経済関係の再開をウクライナ側に
強く求めているが、ウクライナ側の反応は鈍い。それどころか、ウ
クライナ政府は、料金を徴収できないドンバス被占領地域へのライ
フラインを次々に切り始めている。
 ウクライナ財政にドンバスを押しつける、というロシア政府の狙
いは、空振りに終わっている。それどころか、最近のウクライナ側
のデフォルト危機進行で、その目論見はますます実現困難となって
いる。
 ロシアには、再度の軍事攻勢、所有するウクライナ国債30億ドル
の早期償還、ガス契約の違約金請求など、ウクライナ政府を譲歩さ
せる手段は残されている。しかし、今のウクライナにはロシアの要
求を実現できるだけの経済的余裕はない。
 ない袖は振れない、というわけである。目下の経済情勢ではドン
バスをウクライナに寄生させることは不可能で、ロシアはドンバス
維持のために短・中期的に自らが宿主となる覚悟を持たなければな
らなくなっている。



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