5381.新免疫療法薬、がんに効果



NHKのサイエンスゼロで、新免疫療法の話が出た。ガンに免疫療法と
いうと、胡散臭い療法であり、全然効かないというのが医療界での
常識であった。

しかし、免疫細胞のPD−1という免疫のブレーキ分子を発見、その
PDー1をがん細胞が押すことで、免疫が働かないということが分
かり、このため、このPDー1にカバーをして、ブレーキが効かな
い状態にすると、がん細胞を攻撃し続けることになるという。

このPDー1を発見したのは京都大学名誉教授の本庶佑(ほんじょ
・たすく)先生たちの研究グループで、1992年のことでした。本庶
さんは日本の免疫学を長年、リードしてきたエース研究者の一人で
ある。

残念ながら、日本での臨床実験ができずに、米国で臨床実験が行わ
れて、大きな効果があり、日本においては2014年7月4日製造販売が
承認され、2014年9月小野薬品工業からニボルマブ(英: nivolumab、
商品名「オプジーボ」)として発売が開始された。

欧米ではすでに標準治療薬となっているイピリムマブとニボルマブ
を併用することで、腫瘍への客観的反応は53%にみられた。

また、免疫力を高めることにより悪性腫瘍を攻撃する新しいタイプ
の抗がん剤であり、世界的な革命技術として、アメリカの科学雑誌
サイエンスの2013年のブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトッ
プを飾った。

さあ、どうなりますか?

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新免疫療法薬、試験でがん治療に効果
By PETER LOFTUS AND RON WINSLOW
2014 年 6 月 3 日 11:27 JST
【シカゴ】がん患者の体内の免疫システムを働かせる仕組みの薬品
は、治療の困難ながんについて一部の患者の生存を大幅に伸ばすこ
とができる。

 最新の証拠は次のようなものだ。ブリストル・マイヤーズ・スク
イブの2種類の免疫療法薬の臨床試験では、皮膚がんメラノーマ患者
が3年以上生存したことが、2日に発表された研究結果で明らかにな
った。もう一つの試験では、メルクの免疫治療薬を投与された進行
メラノーマ患者は治療後1年たっても生存していた。

 医師らは、最近までは進行メラノーマ患者のほとんどは生存期間
が1年に満たなかったことから、これらの試験結果は素晴らしいと述
べている。

 2日に開かれた米臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で報告されたこれ
らの研究成果は、免疫療法はメラノーマばかりでなく、肺がん、膀
胱がん、腎臓がんなど、その他のがん治療でも大きく進歩させられ
るのではないかと、がん専門医たちの期待を強めている。

 医師らはこの数年間、一連の新免疫療法薬は相当多くの患者の治
療が困難な腫瘍ができることを知るようになった。しかし、最新の
生存データは、その効果が多くの患者の中で持続するようであるこ
とを示している。これとは対照的に、他の一部の種類の抗がん剤―
化学療法と、腫瘍の増殖のもととなる遺伝子変異をターゲットにす
る新しい作用物質を含む―は腫瘍が耐性を持つとしばしば効果がな
くなる。研究者たちは、免疫療法薬は時に治療後も長期にわたって
腫瘍を抑え続ける「免疫学的記憶」の引き金になると信じている。

 米ジョージタウン大学ロンバルディ包括がんセンターのディレク
ター、ルイ・ウェイナー氏は年次総会の場でのインタビューで、「
がんの歴史での大きな変化だ」とし、「われわれはがんに対して人
体の免疫反応を操作できるすぐ近くまで来ている。人体は自分でが
んに対処するようになる」と話した。

 ただ、この新しいアプローチにも警戒を要する理由がある。ある
研究では、初期のメラノーマを外科的に切除した患者にブリストル
・マイヤーズの免疫療法薬ヤーボイ(Yervoy)を投与したところ、
再発リスクは25%減ったが、その費用は高かったことが明らかにな
った。また、副作用が激しく、患者の半分は治療を続けられず、5人
は治療に関連した疾患で死亡した。肺がん患者を対象にした別の研
究では、ヤーボイと同社の治験免疫療法薬ニボルマブ(nivolumab)
を併用したところ、重篤な副作用が高率で見られた。

 一部の医師は、免疫療法薬の臨床試験データのほとんどは初期か
ら中間段階の試験のもので、その後の段階における試験が必要だと
している。また、ヤーボイの標準治療で費用が12万ドル(1230万円
)もかかることから、これらの薬品のコスト効率に疑問が呈され、
今後の免疫療法薬についても同様に高いコストになるのではないか
と見られている。

 カロライナ・ヘルスケア・システム(シャーロット)のレバイン
がんセンターのDerek Raghavan所長は「メラノーマ薬は流れを変え
る」とし、「しかしながら、薬品会社と研究者らが当初の成功を他
の腫瘍にまで拡大しようとしているが、医師や費用の負担者は『こ
れは突破口なのか。もしそうなら、どの程度大きな突破口なのか』
と尋ねるだろう」と語った。その上で、「十分に大きな突破口でな
いなら、多額のカネをはらう価値があるのだろうか」と付け加えた。

 2011年に発表されたヤーボイは、他の部分に転移したり、手術が
不可能なメラノーマの治療薬として承認された。この薬は、大腸炎
など免疫システムの過活動に関連した重い副作用を起こすことがあ
る。医師らは、ヤーボイの副作用はステロイドやその他の治療、あ
るいは一時的なヤーボイ使用の中止によって緩和できるとしている
。ヤーボイだけの投与では、全般的な生存期間の中央値は10カ月だ
が、臨床試験では患者の20%以上は3年後も生存していた。

 新しい種類の薬品はPD-1と呼ばれる免疫細胞のコンポーネントを
ターゲットにする。PD-1は免疫のブレーキとして働き、免疫が健康
な細胞を攻撃しないようにする。がん細胞はPD-1を使って免疫シス
テムによる破壊を免れることで、このメカニズムを利用できる。

 ブリストル・マイヤーズの治験PD-1阻害剤ニボルマブとメルクの
治験薬候補ペンブロリズマブ(pembrolizumab)はPD-1をブロックし
、免疫ががん細胞を攻撃できるようにする。ロシュ・ホールディン
グとアストラゼネカも同様の薬品を開発中で、いずれも数十億ドル
の市場を目指している。メルクの薬品は以前にMK-3475のコードネー
ムが付けられていた。

 今検討されている戦略は、単独で使用するよりも効果が高まるか
どうか調べるために併用することだ。ブリストルはニボルマブとヤ
ーボイの併用を50人以上の患者を対象に、さまざまな投与量で試験
をした。その結果、約41%の患者の腫瘍が縮小した。生存期間の中
央値は40カ月近くで、79%の人は治療開始後2年でも生存していた。
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免疫のブレーキ役、PD-1をご存知ですか?
 もし「PD−1」といっただけでピンときたら、あなたは免疫学の
かなりの専門家であるに違いありません。今回は、免疫の分野で最
近、にわかに注目を集め始めた生体分子、PD−1のお話です。
 
 この分子はとても奇妙な分子で「免疫のブレーキ役」といわれた
り、「T細胞抑制因子」や「負の補助刺激受容体」とも呼ばれたり
しています。
 
免疫とは「疫」病から「免」れるように体の外から侵入してきた病
原体(時には抗原とも呼ばれます)を排除する巧妙な生体システム
です。しかし、不思議なことに、免疫細胞の表面に顔を出している
PD−1という分子にしかるべきシグナルが入ると、免疫細胞は病原
体を排除する営みにブレーキをかけてしまいます。
 
なぜ、私たちの体にはこのような風変わりな分子があるのでしょう
か。免疫の営みは強ければ強いほど良いのに、どうして、免疫は自
らの力を弱めるような行為をするのでしょうか。
 
それは免疫のやりすぎを防ぐためです。実は免疫の力が強すぎると
、免疫細胞は間違って自らの体を攻撃してしまうことが分かってい
ます。そうして起きるのが自己免疫疾患というめんどうな病気の数
々で、病気が進むと関節の骨が破壊されてしまう関節リウマチはそ
の典型です。
 
さて、そこで。PD−1という分子が最近、にわかに関心を集めてい
るのは、この生体分子ががんの免疫治療と深くかかわっていること
が分かってきたからです。
 
体のどこかにがん細胞が発生したとしましょう。すると免疫はこれ
を異物とみなして攻撃してくれます。でも、がんとのかかわりでい
うとPD−1は困った存在です。PD−1は刺激を受けるとがん細胞
を攻撃する免疫の働きを弱めてしまうからです。
 
そこで世界の研究者は巧みなアイデアを思いつきました。免疫細胞
の表面に顔を出しているPD−1を他の分子で覆ってしまい、不要な
シグナルをブロックしてしまう作戦です。
 
そのためにはバイオ工学を駆使して作った「抗PD−1抗体」とい
う抗体医薬を用います。PD−1と抗PD−1抗体はいわば凹凸の関
係。PD−1を抗体でがっちり抑えてしまえば、免疫細胞はがん細胞
としっかり戦ってくれるはずです。
 
PD−1という分子を発見したのは先日、文化勲章を授与された京都
大学名誉教授の本庶佑(ほんじょ・たすく)さんたちの研究グルー
プで、1992年のことでした。本庶さんは日本の免疫学を長年、リー
ドしてきたエース研究者の一人です。
 
ただし少々、余計なことを書くと、本庶さんたちは発見当初、この
PD−1という分子をいわゆるアポトーシス(予め定められたプログ
ラムによってもたらされる細胞死)と関連した分子とにらんでいた
ようです。
 
なぜならPD−1の正式名称は「Programmed cell death 1」。日本
語に強いて直せば「プログラムされた細胞死1」といったところでし
ょうか。
 
生命科学の世界では、研究が進むに連れて発見当初とは異なる営み
が突き止められて、名前と働きが一致しない生体分子が数多くある
といわれます。PD−1もその一つであることは間違いありません。

今、世界の医薬品企業は抗PD−1抗体を使ったがん免疫療法の開発
を競っています。生命科学や免疫に好奇心のある人は「PD−1」に
注目です
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15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬 
2014/10/24付 日経
 日本人の死因のトップであるがん治療には、外科的手術や放射線
治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変
わる可能性が出てきた。免疫を使ってがん細胞を攻撃する新たな免
疫治療薬「抗PD―1抗体」が実用化されたからだ。世界に先駆け
て実用化したのが関西の中堅製薬、小野薬品工業だ。画期的な免疫
薬とは――。

■「オプジーボは革命的なクスリ」と高評価
 「がん研究、治療を変える革命的なクスリだ」。慶応義塾大学先
端医科学研究所所長の河上裕教授は9月から日本で発売が始まった
小野薬の抗PD―1抗体「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)をそ
う評価する。

 ニボルマブは難治性がんの1つ悪性黒色腫(メラノーマ)の治療
薬として小野薬と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が
共同開発した新薬だ。がんは体内の免疫に攻撃されないように免疫
機能を抑制する特殊な能力を持つ。ニボルマブはこの抑制能力を解
除する仕組みで、覚醒した免疫細胞によってがん細胞を攻撃させる。

 世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレ
ークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク
、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使っ
た免疫薬の開発を加速させている。

 悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極め
て危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を
抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河
上教授)。

 米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取り
やめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん
、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。

 世界の製薬大手が画期的な新薬開発に行き詰まるなか、なぜ小野
薬が生み出せたのか。

 1つは関西の1人の研究者の存在がある。「PD―1」という分
子を京都大学の本庶佑名誉教授らの研究チームが発見したのは1992
年だ。小野薬もこの分子に目をつけ、共同研究を進めた。PD―1
が免疫抑制に関わっている仕組みが分かったのは99年で、創薬の研
究開発が本格的に始まるまでにおよそ7年。実際の治療薬候補が完
成し治験が始まったのは2006年で、開発から実用化までにおよそ15
年かかったことになる。

 当時は「免疫療法は効果が弱い」「切った(手術)方が早い」な
ど免疫療法に対する医療業界の反応は冷ややかだった。医師や学会
だけでなく、数々の抗がん剤を実用化した製薬大手も開発に消極的
だった。

 そんな中で小野薬だけが“しぶとく”開発を続けてきた背景には
「機能が分からなくても、珍しい機能を持つ分子を見つけ、何らか
の治療薬につなげるという企業文化があった」(粟田浩開発本部長
兼取締役)という。

 もともと小野薬は極めて研究開発志向の強い会社だ。売上高(14
年3月期は1432億円)に対する研究開発比率は国内製薬メーカーで
は断トツの30%台だ。しかもがん治療薬は初めて参入する分野で、
「かならず成果を出す」という研究者の意欲も高かった。

 小野薬は血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「
オノン」の2つの主要薬で高収益を維持した。だが、特許切れや後
発薬の攻勢で陰りが出てきたところでもあった。

 免疫療法に対する風向きが変わり始めたのは米国で抗PD―1抗
体の治験が始まった06年からだ。一般的な抗がん剤はがんの増殖を
抑える仕組みのため数年で耐性ができ、結局は延命効果しかない。
しかし抗PD―1抗体で「がんを根治できる可能性も出てきた」(
河上教授)。

■年間数百億円のロイヤルティー効果
 副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅さ
せる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、
製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が
出ていない人も一定の割合で存在する。その場合は「他の抗がん剤
や免疫療法と組み合わせれば、効果が上がる可能性がある」(粟田
本部長)という。

 足元の業績が低迷するなか、ニボルマブ効果で小野薬の市場評価
は高まっている。昨年10月時点で6000円前後だった株価は今年に入
って急騰。23日の終値は9340円とわずか1年足らずで3000円以上伸
びた。アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円
は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬に
なるだろう」と自信をみせる。

 ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD―1抗体の治験を
拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の
製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。その意味で
同社が置かれている環境は必ずしも楽観視できない。

 がんの新たな治療法の扉を開けた小野薬。日本発の免疫薬に世界
の目が注がれている。
(高田倫志)




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