5361.日本の電力をどうするのか?



経済産業省が2030年の望ましい電源構成(エネルギーミック
ス)案について原子力発電比率を全電源の20―22%に設定する
方向とした。しかし、これで良いのであろうか?今回は日本の電源
構成を検討したい。  津田より

0.原発20%はどういうことか?
太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーの比率は22―24%
にする。原発比率は11年の東日本大震災前(10年度28・6%
)から低減させつつ、化石燃料利用増による電気料金高騰を抑える
ためには一定の原発稼働が必要と判断した。 30年の原発比率を
20―22%に維持するためには、現在全基が停止中の原発の再稼
働が前提となる。

2030年に20%以上を原発で賄うには、現時点の原発の建設年
を見ておかないといけない。1970年代に福島第1の全6基、美
浜の全3基、東海第2の1基、大飯2基、高浜2基、、敦賀1基、
島根1基、玄海1基、伊方1基などである。1980年代に川内2
基、玄海1基、伊方1基、島根1基、敦賀1基、高浜2基、柏崎1
基、福島第2の4基、浜岡1基、泊1基、女川1基など、日本の半
分以上の原発が1980年代以前に建設されている。

現時点の廃炉基準は、建設後40年であるので、2030年までに
は、この全部が廃炉になるか、規制委が認めれば、1回に限り最長
20年延長できる。しかし、老朽原発の審査について規制委の田中俊
一委員長は、「新しい炉ではないので、簡単ではない」と述べてい
る。「原則廃炉」を骨抜きにするような甘い審査をすれば、規制委
自身が大きな批判を浴びることになる。老朽原発の新規制基準適合
性審査で焦点となるのが、電気ケーブルの火災対策だ。

1980年以前に運転を始めた古い原発は、燃えやすい材質の電気ケー
ブルを使っている。だが、新規制基準は難燃性ケーブルの使用を義
務化した。原発のケーブルは、一基当たり総延長数百キロメートル
以上もあるといわれ、これをすべて交換することになると、膨大な
コストと期間がかかり、再稼働しても採算が厳しくなる。

ということで、2030年前に、28基の廃炉が決まることになる。

これでは原発20%は無理である。ということは、新しい原発を建
設する必要があることになる。

吉岡斉・九州大学大学院教授は、原発比率20〜22%というのはあま
りに非現実的な数字だという。このパーセントは、経産省案ではそ
の43基と建設中の3基(島根3号、大間、東京電力・東通1号)の
ほぼすべてを稼働させ、運転期間を原則40年から60年に延長しよう
としていることになる。その通りである。

橘川武郎・東京理科大学大学院教授によると、40年廃炉原則にのっ
とれば、2030年には原発比率は15%程度になる。このままで新設の
原発を作らずに、廃炉の基準を見直さなければ、そうなるという。

1.対案はあるか?
しかし、再生エネルギーの問題は、風力や太陽光の不安定性であり
、この除去には、電気分解による水素での備蓄と必要時に発電でき
る燃料電池が必要であるが、このシステムが2030年までに完成
しているかどうかわからない。

もし、不安定性を放置して、送電線に入れると、電力障害を起こす
ことになる。これを避けるためには、火力発電所を太陽光や風力と
同じだけ持つことが必要になるが、それでは採算性が合わないこと
になる。

ということで、水素社会ができるまでは、原発に依存することも視
野に入れるべく、原発廃炉分は大事故にはならない、コストも安い
石炭火力を使い、既存ある原発を使うことである。そうすると15
%となる。

足りない分は石炭火力を水素社会が来るまでは、新設すればよいの
である。

既存原発は、中国との戦争を想定していない。既存の原発の大きな
問題点は、ウランからより危険度が高い物質を生み出して、事故が
起こると、その一帯が住めなくなることである。現時点、日本中に
原発があり、戦争等で使用済燃料のプールに通常ミサイルが当たっ
ただけで、日本には人が住めなくなる。日本の終わりになる。

もう1つは、軽水炉は、もうタイプとしても古い。これからはウラ
ン使用では、高温ガス炉であり、トリウムであればトリウム溶融塩
炉である。高温ガス炉は1000℃の温度が出るので、水から水素
を安価に製造できる。また、トリウム溶融塩炉は600℃であるが
、改良ISループでやはり水素が安価に製造ができる。

軽水炉は、最大でも300℃以下の温度であり、水から水素を生成
できない。電気を起こすには良いが、それ以外の用途には使用でき
ないのだ。

そして、トリウム溶融塩炉は、ウラン炉とは違い、危険物質の生成
がなく、このため、戦争等の大惨事になっても、燃料を炉の地下に
落として反応を止めてしまえば、危険がなく、付近に人が住めるこ
とになる。日本のように領土が狭く、事故後土地を放棄できない国
には、トリウム溶融塩炉の方が向いている。特に近傍に戦争が想定
出来る中国がある限り、ウラン使用炉は向かない。

しかも、トリウムはレアメタルの残土に多く含まれて、今は厄介な
ゴミとして取り扱われている。タダみたいなものである。

ということで、もし、水素社会の実現が遅れた場合の担保として、
トリウム溶融塩炉を研究することである。それまでは実験炉が完成
した高温ガス炉ということも考えられるが、ウランなので、今まで
と同じ問題が起きる可能性がある。また、冷却材にヘリウムを使う
ことである。

2.水素社会でも必要
しかも、水素社会になると、一番問題が水素の製造コストである。
このコストが低いのが、高温ガス炉やトリウム溶融塩炉などである。

というように、水素社会になってもトリウム溶融塩炉は価値が有る
ことになる。

安全性が高く、しかも水素製造もできるトリウム溶融塩炉の研究は
、実験炉を1970年に完成したが、水爆の原料となるプルトニウ
ムができないことで、米国での研究が中止させられた。そして、再
度、この炉を取り上げたのが日本人研究者である古川和男氏である。

今、実現に向けて、ベンチャー企業が実用研究を始めている。しか
し、この研究を日本政府が見向きもしない状況にある。

将来の可能性のために、この炉は重要である。構造が簡単であるた
めに、飛行機にも詰める可能性があり、米軍は飛行機を1年以上も
空中に待機させるために、この炉の実用化を目指したのである。

この炉は、宇宙空間での衛星に積み込めるのである。このため、長
期間、高出力でも衛星を作動させて置けることになる。宇宙空間の
デブが問題視されているが、それをレーザーで撃ち落とそうとして
いる。それにも使えるのである。

3.日本が研究を開始するべき
水素社会では再生エネルギーでの発電が多くなり、その蓄電にも有
効であり、また自動車などの輸送機械などにも水素が重要な要素と
なるが、この輸送機械では、燃料コストとして、石油との競争があ
る。その競争に勝つためには、製造コストが安いトリウム溶融塩炉
または高温ガス炉が必要になる。

この輸送機械用の燃料としての水素製造には、トリウム溶融塩炉が
必要になるはず。

というように今後の日本にとって、トリウム溶融塩炉の開発は必要
なのですが、研究者が少ないので、トリウムへ関心が起きないよう
である。

今までの原子炉研究者の転身は比較的容易であるが、トリウム炉は
化学反応を使うので、今までのウラン炉とは違う原理が使われてい
る。このため、今までの原子炉研究者は物理屋であるが、トリウム
炉では化学屋も必要になる。

このため、政府やそれを取り巻く研究者たちも、トリウムではなく
ウラン炉に関心が行ってしまうようである。

しかしトリウム炉こそが、次の日本に必要なことである。

さあ、どうなりますか?


参考資料
5328.核エネルギー革命の扉を開けた
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270343.htm

5313.トリウム熔融塩炉の開発が始まる
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270340.htm

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経産省案「原発比率20〜22%」は非現実的だ
どうする電源構成<3> 九州大学・吉岡教授
中村 稔 :東洋経済 編集局記者 2015年05月02日TK
経済産業省は4月28日の有識者委員会で、2030年の電源構成(エネ
ルギーミックス)の案を提示した。総発電電力量(1兆0650億キロ
ワット時)のうち、原子力発電は20〜22%、再生可能エネルギーは
22〜24%、火力発電は56%程度とした。再エネの内訳は、水力8.8〜
9.2%、太陽光7%、風力1.7%、バイオマス3.7〜4.6%、地熱1.0〜
1.1%。火力の内訳は、LNG(液化天然ガス)27%、石炭26%、
石油3%とした。委員会のメンバー14人のうち大半がこの案を妥当
と評価。だが、これまで政府は原発依存度をできるだけ低減し、再
エネを最大限導入するとしてきただけに、一部の委員からは「公約
違反だ」「再エネは積み増しの余地がある」などの異議も出た。
経産省は前日の27日には、電源構成を決める前提として、各電源の
発電コストの試算結果を公表している。それによれば、原発が1キ
ロワット時当たり10.1円以上なのに対し、石炭火力12.9円、LNG
火力13.4円、石油火力28.9〜41.6円で、再エネは陸上風力13.9〜21.9
円、洋上風力28.7〜33.1円、地熱19.2円、一般水力11.0円、バイオ
マス(混焼)13.3円、太陽光(メガソーラー)12.7〜15.5円、太陽
光(住宅)12.5〜16.4円などとされた(2030年のモデルプラントを
想定)。2011年に行われた前回試算(原発は8.9円以上)と同様、原
発が最も安く見えるが、福島原発事故の損害費用(12.2兆円と想定
)が今後増える可能性があるため、やはり下限値が提示された。一
部委員からは「コストは青天井であり、原子力がいちばん安いと言
うのは正確ではない」との意見も出た。
今回の経産省案をどう見るか、経産省の総合資源エネルギー調査会
原子力小委員会の委員で、東京電力福島原子力発電所における事故
調査・検証委員会委員も務めた吉岡斉・九州大学大学院教授(専門
は科学史、科学社会学)に聞いた。
再稼働と運転延長を過大想定
――経産省のエネルギーミックスの原案をどう見ますか。
多くの問題点がある。まず、原発比率20〜22%というのはあまりに
非現実的な数字だ。「可能な限り原発比率を低減させる」という政
府公約にも反する極端な内容で驚いている。
国内の原発は、大震災後に福島第一の6基のほか、最近の5基の廃
炉決定で43基が残っている。経産省案ではその43基と建設中の3基
(島根3号、大間、東京電力・東通1号)のほぼすべてを稼働させ
、運転期間を原則40年から60年に延長しようとしている。
しかし、それら46基のうち、実際には稼働できない原子炉が多いと
見られる。具体的には、東電の福島第二や柏崎刈羽、東通1号、日
本原電の敦賀2号や東海第二、中部電力の浜岡などだ。運転延長に
しても原子力規制委員会の審査次第であり、認められるかはわから
ない。それなのに、経産省案は動かす原発を線引きしないで、全部
動かすような想定にしている。つまり「20〜22%」というのは、単
なる計算から出た架空の数字にすぎない。中身は空っぽであり、非
現実的だ。
また、全体の電力需要量を決める際の経済成長率の前提(年率1.7%
)に高い政府目標を使っており、過大評価だ。経済成長の実績はそ
れを大幅に下回っている。もし実績をベースにすれば2割前後の差
が出るだろう。2030年にかけての労働人口の減少を考えれば、電力
需要は自然減で現状より2割ぐらい減ると考えられる。その分、CO2
(二酸化炭素)の排出量も減るはずだ。
――政府は「原発の新増設やリプレース(建て替え)は想定してい
ない」という民主党政権時からの方針を維持したまま。今回の有識
者委員会でも新増設やリプレースの議論は避けたが、「原発比率20
〜22%」という目標を理由に将来、政府方針を変更するのでは。
新増設の計画は、上関原発の新設や敦賀3・4号機、川内3号機の
増設などすでに10基近くあるが、経産省はこれらの計画を実現させ
るチャンスをうかがっていると思う。原子力小委でも福井県知事が
リプレースの必要性を強調しているように、立地自治体当局が計画
推進をプッシュしていて、原子炉メーカーも矢面に出ないだけで造
りたがっている。今回の経産省案には新増設、リプレースは書かれ
ていないが、今回の電源構成決定に合わせて、6月から再開される
原子力小委でリプレース案がひょっこり出てくる可能性がある。だ
が、実際にそれができるかは別の話だ。
信頼性低い発電コストの試算
――経産省が発電コスト検証ワーキンググループで出した発電コス
トの試算についてはどう思いますか。
こういう試算は無意味であって、歴史的にも政府は1980年代から常
に原発がいちばん安いという数字を出し続けてきた。電力会社が原
発や火力発電所のコストを比べられるようなデータを出していない。
いろんなコストがどんぶり勘定になっていて、実証的データがない。
こういう試算を政策の根拠にはすべきではない。民主党政権になっ
て(事故リスク対応費用や立地交付金など)いろんな費目を入れる
ようになったのは多少の改善だが、依然としてデータ自体の信頼性
が低い。バックエンド費用(廃炉や廃棄物処理の費用)があんなに
安く済むとは考えられない。大幅に高く振れる可能性は高い。
そもそも政府は「原発はコストが安い、経済性に優れている」と言
いつつ、原発の優遇制度はやめないできた。それどころか、固定価
格買い取り制度と同様のCfD(差額決済契約)制度の導入や核燃料再
処理への拠出金など、さらなる追加優遇策を検討している。極めて
矛盾した話であり、今回の試算に信用性のないことを自ら証明して
いるようなものだ。
――今回の原発コストの試算では、追加的安全対策費用が増えた一
方、安全対策の強化で過酷事故発生の確率は前回試算(1基当たり
2000年に1回、50基では40年に1回)から半分(1基当たり4000年
に1回)に低下すると想定し、事故リスク対応費用が減少する形に
なりました。
発生確率が2分の1になるという根拠も疑わしいが、たとえ半分に
なったとしても数十基が稼働し続けるならば発生確率は低くない。
原発はそれだけの事故リスクがあるということを改めて認識すべき
だ。
――ご自身は原発比率についてどう考えていますか。
私個人的には、原子力規制委員会の安全性審査をより厳しくする前
提で既設原発の再稼働は中期的に認めたうえで、2027年ごろまでに
原発ゼロを目指すべきだと考えている。即ゼロにすると、(設備の
一括償却に対する)補償金で国民負担が多大になりかねない。そこ
で、1997年以前に建設された原発については運転30年で建設費を回
収したうえで廃棄する。1998年以降に建設された原発は5基だから
、その程度であれば補償金も少なくて済む。
――再エネ比率の経産省案は22〜24%ですが。
世界での伸びの動向を考えると、3割という数字は無理がないので
はないか。(日本は)太陽には恵まれている。風力はいま一つだが
、水力を含めて3割は十分可能だと思う。
私はそもそも、エネルギーミックスという目標の立て方自体に疑問
を感じている。エネルギー消費の動向というのは、経済などの情勢
変化によって大きく変わるものだ。リーマンショックだけでエネル
ギー消費量は1割近く減っている。原油価格が上がれば、石油火力
は誰もやらなくなる。環境にいいものは優遇策を採り、環境に悪い
ものは罰則などをつけて、あとは民間の選択に任せるというのが本
来は望ましい。そのうえで、政府は将来のエネルギー動向について
一定の幅を持って推定するというのが正しいやり方だろう。それな
のに、一昔前の概念である「ベースロード電源」で6割近くを確保す
るといって、実質的に原子力と石炭火力を保護するようなエネルギ
ーミックスをつくるのは、時代遅れの発想であり、結論ありきの、
為にする議論といえる。
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太陽光発電業界を追い詰める「出力制御」ルール電力会社、再エネ
事業者、銀行・・・交錯するプレイヤーの思惑
2015.04.30(木)
宇佐美 典也
2012年の「固定価格買取制度」(FIT:再生可能エネルギーを用いて
発電した電力を、電力会社が一定価格で買い取ることを政府が義務
付けた制度)の導入以降、太陽光発電所の建設計画が急増したこと
で電力系統網の負担が増し、現在経済産業省において制度の見直し
が急ピッチで進んでいるのは既報の通りである。ここにきてその具
体的内容が徐々に示されてきた。
3つの太陽光発電の接続ルール
 まず太陽光発電の導入状況を簡単な制度説明とともにまとめてい
きたい。
 太陽光発電の導入量に関しては、
・経済産業省が、事業者の計画を認定した量によって計測する「認定量」
・事業者が電力会社に接続を申し込んだ量で計測する「全接続申込量」
・実際に太陽光発電所を電力系統網につないだ量で計測する「接続済量」
という3つの計測法がある。
 固定価格買取制度では、原則として電力会社が系統安定化を名目
に太陽光発電所に出力制限をかける場合、「年間30日」または「360
時間」という一定の上限が設定される。
 しかし上記のうち「全接続申込量」が、各地域で電源種ごとに設
定された「接続可能量」(電力会社側の設備容量の上限)と呼ばれ
た一定の閾値を超えると、その地域の電力系統網を管理する電力会
社は経済産業省からの指定を受けた「指定電力会社」となり、原則
とは異なるルールが適用される。具体的には、電力会社が後発の太
陽光発電所にどれだけ出力制限をかけても補償義務が生じなくなる。
 このように太陽光発電の接続にあたっては、「30日という“日数
単位”での出力制御の上限がつくケース」「360時間という“時間単
位”での出力制御の上限がつくケース」「無制限無補償の出力制御
を強いられるケース」の3パターンがあり、それぞれを「旧ルール」
「新ルール」「指定ルール」と呼ぶ。さらに、それぞれの条件で接
続をした事業者をそれぞれ「旧ルール事業者」「新ルール事業者」
「指定ルール事業者」と呼ぶようになっている。
・旧ルール事業者 =30日という“日数単位”の上限で出力を制御さ
れる。
・新ルール事業者 =360時間という“時間単位”の上限で出力を制
御される。
・指定ルール事業者 =無制限無補償の出力制御を強いられる。
 現在、太陽光発電については東京電力・中部電力・関西電力の三
大都市圏を除く大手電力会社の管内は、「全接続申込量 > 接続可
能量」となっている状態で、新規接続に関しては「指定ルール」に
移行している。
 現状、運開している太陽光発電の量を表す「接続済量」はまだ各
地域ともそれほど高くない水準なので、実際に出力制御が行われて
いるわけではない。だが、これらの地域では今年後半以降徐々に出
力制御が行われる見込みである。その経済的影響がどの程度のもの
か、ということは事業者にとって最大の関心事となっている。
 特に「指定ルール」下での運用を余儀なくされる後発組は、「無
制限に出力制御されて、太陽光発電所の赤字での運営を余儀なくさ
れるのではないか」と戦々恐々としている状況にある。
「出力制御恐怖論」で委縮する業界
 こうした指定ルール事業者の「出力制御恐怖論」の根拠となって
いるのが、各電力会社による出力制御の試算である。
 例えば九州電力の試算を見てみよう。817万kwの太陽光発電が導入
された場合、旧ルール事業者にどれだけ出力制御がかけられるかに
よって、指定ルール事業者に対する出力制御は次のように変わって
くる(資源エネルギー庁の資料「出力制御の運用ルールについて」
より)。
 旧ルール事業者が年間30日にわたり目いっぱい出力制御された場
合 → 指定ルール事業者の出力制御は年間35日間程度。
 出力制御日数が使い切れず、旧ルール事業者の出力制御が25日に
とどまった場合 → 指定ルール事業者への出力制御日数は18日増え
、53日もの出力制御を強いられることになる。
 指定ルール事業者としては、このような不安定な状況での投資は
当然受け入れられるものではなく、銀行も腰が引けている状況にあ
る。
 政府としてはこうした業界の委縮ムードを取り除くためにも「公
平な出力制御の在り方」を検討しているのだが、議論のポイントは
旧ルール事業者、新ルール事業者、指定ルール事業者の間のバラン
スをどのように取るか、という点になっている。先ほど示したよう
に、旧ルール事業者の出力制御の上限に余裕があるまま指定ルール
事業者の出力制御がなされると、指定ルール事業者が大きな不利益
をこうむることになるからだ。
 そこで旧ルール事業者と新ルール事業者と指定ルール事業者の間
のバランスを取る考え方としては、経済産業省からは以下の3点が示
されている。
(1)同一ルール内での均等な出力制御の実現
 現状、旧ルール、新ルール、指定ルール、という異なる3つの出力
制御ルールが混在するが、それぞれのルール内では均等に出力制御
を行うようにする。
(2)公平な出力制御
 原則として、旧ルールまたは新ルール下での接続事業者が出力制
御の上限に達するまでは、接続ルールに関係なく全ての発電事業者
に対して公平に出力制御を行うことを原則とする。
(3)旧ルール事業者の出力制御枠の最大限の優先活用
 指定ルール事業者に対して年間30日または360時間を超えて出力制
御を行う場合には、公平性の観点から、旧ルール事業者及び新ルー
ル事業者に対しては可能な限り上限まで出力制御を行うこととする。
 一言で言えば「なるべく全事業者に対して公平に、ただし旧ルー
ル・新ルールの出力制御の上限枠は十分使い切った上で、出力制御
を行う」というところである。
 これらは現状の制度からすると当たり前のことであろう。ただし
一方で、「これでは出力制御への恐怖が払拭されない」との観点か
ら、長期的な公平性を担保するために、短期的には指定ルール事業
者の方が事業収支上有利となるようなルールも検討すべき、という
指摘もなされている。
「バンキング」「ボローイング」の導入
 こうした議論の中でいくつかの制度的改正が議論に上っている。
1つ目は出力制御量の「バンキング」「ボローイング」である。
 それぞれ簡単に説明すると、「バンキング」とは「出力制御の未
実施分の繰り越し」のことを指す。ある年の出力制御量が上限に至
らなかった場合、その未実施分を翌年度に「バンキング」して繰り
越しすることを可能とする制度である。
 例えば旧ルール事業者がある年の出力制御が24日しかなかったと
したら、「30日−24日=6日」で6日分ほど「バンキング」されるこ
とになる。
 一方で「ボローイング」とは、その逆の「出力制御の事後的な調
整」のことを指す。ある年の出力制御量が年間上限を超えてしまっ
た場合、翌年度の出力制御を減らすことでその超過分を差し引いて
、事後的に調整する制度である。
 例えば旧ルール事業者がある年の出力制御が36日であったとした
ら、「36日−30日=6日」で6日分ほど「ボローイング」されて、翌
年度の出力制御の上限は「30日−6日=24日」で24日になるというわ
けだ。
 経済産業省はこの制度の導入に関してかなり前向きなようだ。関
係機関・有識者から大きな異論が見られないため、おそらく今年中
には関連法規の改正がなされるものと思われる。
見直しの要求が絶えない「接続可能量」
 これと併せて検討がなされているのが、冒頭に言及した「接続可
能量」の見直しである。接続可能量は制度の根幹に関わる非常に重
要な数値であるにもかかわらず、法律上の位置づけははっきりしな
いまま審議会での議論だけで設定された。そのため、その水準の適
切性については不満がくすぶっており、見直しの要望が絶えない。
経済産業省もこれは十分認識しており、3月には宮沢洋一経済産業大
臣が維新の党の高井崇志議員の質問に対して予算委員会において以
下のような答弁をし、接続可能量の定期的な見直しを確約している。
宮沢国務大臣 「接続可能量につきましては、委員おっしゃるよう
に、これがまず第一弾ということでございますので、定期的に検証
を行って、需要や電源構成の変化を当然反映させていかなければい
けないと思っております。
 そして、今接続連系についてもお話がございましたけれども、接
続連系につきましては、今の系統ワーキングの前提は、現行の各電
力会社間のルールを前提にしておりますけれども、今後、この4月か
ら、例えば広域的運営推進機関が設立されますので、そういう中に
おきましてもしっかり検討していっていただかなければいけません
し、その中で、例えば30分ごとの断面できめ細かく運用容量を決め
るとか、そういうこともやっていかなければいけないと思っており
ますので、定期的に見直していきたいと思っております」
 この宮沢大臣の答弁にもあるように、太陽光発電の接続可能量の
再算定に当たっては、“電源構成の変化”(特に原発の稼働水準)
と“地域間連携線を通じた各電力会社間の電力融通の活発化”の2点
が大きな影響を与えることになる。
 このうち地域間連携線の利用に関しては長期的な課題となるのだ
が、短期的には将来の電源構成に関するエネルギーミックスの議論
に5月中には何らかの結論が出ると目されているので、それに伴って
接続可能量の再算定が進むものと思われる。
 現状の接続可能量は原発がフル稼働することを前提に算定されて
いるので、いくつかの原発の廃炉が決まったことを踏まえると、再
生エネの接続可能量が増加することは確実である。
 経済産業省は、地熱・水力・バイオマス電源を優先的に接続する
意向を示しているので、太陽光発電の接続可能量にどの程度の恩恵
があるかは不透明だ。だが、太陽光発電協会など準公的な団体など
の試算などを見る限り、接続可能量が各地域で大幅に増加する可能
性も十分ある(参考:「太陽光発電の現状と展望」太陽光発電協会)。
 この際に、問題となるのが「拡大した接続可能量を、どのように
して各ルールの事業者に振り分けるのか?」ということなのだが、
これに関しても3つほどの案が出ている。
(1)指定ルールの下で接続した太陽光発電事業者を繰り上げて新ル
ールを適用するために活用する。
(2)今後新たに接続しようとする太陽光発電事業者に新ルールを適
用するために活用する。
(3)指定ルールで接続した太陽光発電事業者の出力制御量を減少さ
せるために活用する。
 このうち(1)(2)に関しては「特定事業者に利する」との批判
もあり、現状の議論では(3)の選択肢が有力となっている。しかし
一方で「日本では固定価格買取制度の運用の歴史が浅く、出力制御
の予測が困難なため、現実的には出力補償の上限がかからないとフ
ァイナンスがつかない」との批判もあり、どの案が採用されるかの
議論は白熱している。
電力会社と再エネ利権との間で板挟みになる経産省
 以上、太陽光発電業界にとって鬼門となっている「出力制御」に
関する政策、制度の改正の方向性に関する議論を眺めてきた。改め
てまとめると、大きな構造としては「出力制御の補償リスクを避け
るため、無制限無補償という指定ルールを保ちたい」という電力会
社の意向と、それに反する「出力制御に上限がなければファイナン
スが難しい」という銀行・事業者の意向の間で経済産業省が板挟み
になっている、という状況になっている姿が見て取れる。
 経済産業省としてはこれ以上制度を複雑化すると公平性を担保で
きなくなるため、本来は「無制限無補償」という現状の指定ルール
を貫きたいところだ。とはいえ、再エネ利権というものが確立して
くる中で「出力制御に上限を設けるべき」という事業者や銀行の声
も無視できず、エネルギーミックスの議論も巻き込んで知恵を絞っ
ているというところである。
 このような中で、旧ルール・新ルール事業者と指定ルール事業者
の間の公平性をどのように担保していくか、ということが大きな課
題となっている。短期的には指定ルール事業者の方が旧ルール事業
者・新ルール事業者よりも条件が良くなるようなケースを設定する
のか、ということが今後大きな焦点になってくるであろう。
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「原子力の技術と人材を維持することが重要」
どうする電源構成<2> 21世紀政策研・竹内氏
中村 稔 :東洋経済 編集局記者 2015年04月30日TK
経済産業省が審議している、2030年時点における電源構成のベスト
ミックス。有識者のインタビュー2回目は、日本経済団体連合会のシ
ンクタンクである21世紀政策研究所で研究副主幹を務め、NPO法
人国際環境経済研究所の理事・主席研究員でもある竹内純子氏に聞
いた。竹内氏は東京電力出身(1994〜2011年に在籍)で、近年『誤
解だらけの電力問題』を著すなど、エネルギー政策や地球温暖化対
策で活発に意見を発信している。
――電力市場の自由化が進む中で、2030年の電源のベストミックス
を決める意義をどう考えていますか。
2030年というと遠い将来のように考えられるが、電力業界にとって
15年後は「明日」のようなものだ。火力発電所を建設するにもアセ
スメントを含めて10年以上かかる。再生可能エネルギーの中でも地
熱などはやはり開発に長期を要する。東電の東通原発は誘致決議か
ら着工まで40年もかかっている。15年後の電源をどのように賄うか
を議論しておくことは、どのような制度改正があろうとも必要なこ
とだ。
――経産省は電源構成を決める前提としての2030年時点の電力需要
全体について、2013年度比約1%増の9808億キロワット時と試算しま
した。これは、年率1.7%の経済成長を前提に、省エネ対策で電力需
要を約17%削減することで実現するとしています。
2000〜10年のトレンドを見ても、GDP成長率と電力消費量はリンクし
ている。年率1.7%成長を前提とするならば、省エネ対策を織り込む
前の2030年時点の電力需要は本来なら1.3兆キロワット時になる。そ
れを1.17兆キロワット時に抑えたのは、妥当性に疑問がある。省エ
ネで17%削減というのも、期待値が高すぎはしないか。つまり、電
力消費量を少なく見積もり過ぎているのではないかと思う。
原子力25%が理想だが現実は厳しい
――電源構成の具体的な比率はどうあるべきと考えますか。
本来は電源別のコストを検証したうえで議論すべきだが、個人的に
電源構成は原子力25%、火力50%、再エネ25%ぐらいが理想だと考
える。すべてをバランスよく持つことが大切だ。
――原発比率25%が理想という理由は。
発電コストや安定供給・安全保障、CO2などさまざまな観点から、
日本は原子力を使わざるを得ない。今後、原子力が世界で導入され
ていく中で、3.11を経験した日本だからこそ、安全な技術を世界へ
提供していくならば、日本の中に技術や人材が維持されなければな
らない。そのために最低限、25%程度が必要ではないかと思う。
――「できるだけ原子力依存度を低減する」という政府公約からす
ると、25%は高すぎるのでは(震災前の2010年度は約29%)。
確かにそうした印象はあろうが、依存というのは1つの電源で50%
以上を占め、それが絶たれると立ち行かなくなるような状況と理解
すべきだ。民主党政権時のエネルギー基本計画(原子力比率約50%
)のようなことはしてはならない。四分の一(25%)というのは、
他で頑張ればカバーできる水準だ。
ただ、原子力25%まで戻すことは厳しいという現実もある。世論の
反対など政治的な不安定性、40年運転規制など原子力規制の不安定
性、電力自由化によるファイナンスの不安定性が主な理由だ。原子
力は膨大な投資の回収メドがなければできない。25%を維持する何
らかの補完措置があれば別だが・・・。
――原子力のコストをどう考えていますか。
発電コスト検証ワーキンググループで議論されてきたが、一般の感
覚からすると、防潮堤に何千億円、事故対策に何千億円もかかるの
に原子力が安いというのは絶対ウソだと思うのはよくわかる。しか
し、原子力が生み出す電力の膨大さを考える必要がある。燃料費が
安いのは動かしがたい事実であり、それを前提に考えるべきだ。
地域振興に結びつかない賠償制度は見直すべき
ただ、原子力損害賠償制度は早急に見直すべきと考えている。コス
トの観点というより、今の制度では対個人の賠償をいくら充実して
も、地域の復興にはなかなか結び付かない。原子力災害で問題なの
は広範な被害をもたらして、地域の復興が難しいこと。私自身、時
々福島を訪れて、そのことを感じる。この現状は何とかしなければ
と思う。
――核のゴミ問題の解決のメドがないまま再稼働することには世論
の反発が強い。
再稼働すると廃棄物を増やすから、そんな無責任なことをすべきで
はないという人の目の前で、電気代の高騰によって仕事を失おうと
している人がいる。生きていくすべを失おうとしている人がいる。
当面、中間貯蔵施設は重要になってくるが、何十年か先に必要とな
る最終処分場が決まっていないという理由で、再稼働を一歩もさせ
ないというのは短絡的な見方だと思う。
原発によって供給される、安定的で安い電気というメリットを受け
てきたのはわれわれ国民だ。温暖化の観点からも、CCS(Carbon 
dioxide Capture and Storage=化石燃料使用で排出されるCO2の地
中貯留)はまだ実験途上であり、再エネも重要だがコストが高い。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)でも、ありとあらゆる技術
を総動員すべきとされており、原子力なしでは現実的ではない。
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次世代原子炉「高温ガス炉」の実用化戦略を策定する産官学協、き
ょう都内で初会合
掲載日 2015年04月28日 nikkan  
 次世代原子炉「高温ガス炉」の実用化戦略を策定する産官学協議
会の初会合が、28日に東京都内で開かれる。原子炉・燃料メーカ
ーのほか、自動車メーカーなどが参加し、高温ガス炉による製造が
見込まれる水素の利用者側の声を交えて議論する。利用用途や海外
展開などの実用化像、研究開発の工程などを検討し、年内をめどに
取りまとめる。
 2030年頃の実用化を目指す高温ガス炉は、燃料の保護方法や
冷却材にヘリウムを使うことなどから、既存の軽水炉に比べて安全
性が高いとされる。取り出す熱は発電のほか、水素製造が見込まれ
、水素社会構築への貢献が期待されている。
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発電コスト:原発「最も安価な電源」 経産省の試算
毎日新聞 2015年04月27日 21時24分(最終更新 04月27日 23時22分)
 ◇2030年 過酷事故発生確率低下予想に疑問視する声も
 経済産業省は27日、2030年の原発や火力発電など電源ごと
の発電コストの試算を有識者委員会に示した。原発の発電コストは
、東京電力福島第1原発事故後の安全対策費の増加を反映し1キロ
ワット時あたり「10.1円以上」と算定、11年の前回政府試算
の「8.9円以上」から約1割上昇した。ただ、石炭や天然ガス火
力も燃料調達価格の値上がりを見込んだ結果、前回試算よりコスト
が上昇。「原発の発電コストはほかの電源を下回る」として、経産
省は原発を「もっとも安価な電源」と結論づけた。ただ、前提とな
る事故の確率を疑問視する声もあり、議論を呼びそうだ。
 試算結果は30年の電源ごとの総発電量に占める割合を示す電源
構成(エネルギーミックス)策定の参考にする。発電コストは、建
設費や燃料費など発電に必要なコストと運転期間中の総発電量から
算出した。
 福島原発事故の廃炉や賠償の費用増加を反映し、原発では事故対
応費を5.8兆円から9.1兆円に増額。一方、安全対策の強化で
、原発の過酷事故発生の確率は、前回試算の「50基のうち1基が
40年に1回」から「80年に1回」相当に低下すると想定、1基
当たりの毎年の費用負担は減少する形になった。また、原発の安全
対策費用は、原子力規制委員会の新規制基準への対応状況を踏まえ
、前回試算の1基194億円から601億円に増額。その結果、原
発の発電コストは1.2円上昇した。ただし、福島原発事故の対応
費用が今後1兆円増加するごとに、発電コストは0.04円上昇す
るため、「10.1円以上」として上限は算定しなかった。有識者
委からは「原発事故リスクは民間企業が負えるものではない。今回
の試算では原発のコストが小さくみえる懸念がある」との批判も出
た。
 一方、火力発電は、燃料相場の上昇や円安を想定した結果、石炭
火力は10.3円から12.9円、天然ガス火力は10.9円から
13.4円に上昇した。太陽光や風力など再生可能エネルギーは、
12年に導入された固定価格買い取り制度の買い取り価格を反映し
た結果、最も安価なケースでも、住宅用太陽光が前回の9.9円か
ら12.5円、陸上風力は8.8円から13.9円に上昇した。
【中井正裕】
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再生エネルギー比率30%が実現できる理由
どうする電源構成@東京理科大学の橘川教授
中村 稔 :東洋経済 編集局記者 2015年04月28日
2030年の望ましいエネルギーミックス(電源構成)をどうするか――
。経済産業省が今年1月末から有識者委員会を通じて行っている議
論がいよいよ大詰めを迎えようとしている。
電源構成は2010年度には火力61%、原子力29%、再生可能エネルギ
ー10%(うち水力9%)だった。それが東日本大震災後の2013年度に
は火力88%、原子力1%、再エネ11%(同)となっている。最大の焦
点は、”国策”とされる原子力と再エネのウエート。ドイツは2022
年までの原発ゼロを掲げているが、日本はどうすべきなのか。
この方向付けはエネルギー産業の長期的な投資行動に直結するほか
、発電所の安全面や電気料金などの経済面、二酸化炭素排出量など
の環境面など、国民の生活にも深くかかわってくる。5月中に結論
を出し、6月のサミットで宣言される電源構成目標のあり方について
、専門家や業界関係者にシリーズで聞く。
第1回は、エネルギー政策論の専門家で、電源構成を議論する有識
者委員会(総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小
委員会)の委員も務める橘川武郎・東京理科大学大学院教授に聞い
た。
原発依存を下げるという公約と乖離
――有識者委員会の第5回会合で「この小委の議論を聞いていると、
どうしても原発比率を上げたいという雰囲気を感じる」と発言して
います。
経産省の事務局は「ベースロード電源比率で6割」、そして「一次エ
ネルギーの自給率で2割」という2つの数字を望ましい目安として示
している。ベースロード電源については、石炭、原子力、水力、地
熱がそれに当たると経産省は定義し、LNG(液化天然ガス)火力
は外した。これで6割とすると、原子力は最低でも20〜25%という
ことになる。
一次エネルギーのうち電力は約4割なので、自給率に入れる原子力
と再エネの合計で全電力の約5割。再エネは2割強しか入らないと言
っているので、原発比率は25〜30%ということになる。このように
、経産省は非常に巧妙に原発比率を25%前後に持って行こうとして
きた。
しかし、これで本当に「できるだけ原子力依存度を低減する」とい
う政府の公約に沿ったものといえるのか。事務局は、東京電力の東
通原発1号機ですら、着工許可済みだとして「既設扱い(将来の稼
働を想定)」にしている。あの部屋(小委)の雰囲気と世論とはか
なりずれている気がする。
――ご自身は小委の中で「原子力15%、再エネ30%、火力40%、コ
ージェネ(熱電併給)15%」という電源構成を提唱していますが、
その理由は。
まず重要なのは再エネ30%ということだ。再エネ:原子力で2:1ぐら
いにする。再エネが2割強では、麻生政権時代の目標とあまり変わ
らず、「3.11(福島原発事故)」がまるでなかったかのような話に
なる。
「FIT(固定価格買い取り制度)だと国民負担が重くなるし、スペイ
ンもドイツもやめつつある。だからFITは行き詰まるから、再エネは
ダメだ」などとも言われる。しかし、FITは最初の立ち上げ段階での
効果を狙ったもので、2030年までFITに頼っていては再エネなんて入
らない。再エネをどうやって市場価格ベースで導入していくかが大
事だ。
私は再エネ30%のうち、水力、バイオマス、地熱で15%、太陽光と
風力で15%と考えているが、太陽光と風力は発電コストがかなり安
くなっており、あとは送電線のコスト。だが、コストを市場ベース
に引き下げる方法はある。
第一に、廃炉にする原発の送電設備の利用だ。40年運転規制で行け
ば30年には約30機が廃炉になる。もちろん、その送電線の一部は火
力用になるが、かなり余ってくるはずだ。これを太陽光、風力拡大
に使えばいい。おかしいと思うのは、廃炉会計の見直しを議論する
際には廃炉が前提になっているのに、メガソーラーの受け入れ見直
しの議論などでは廃炉を一切前提にしていないことだ。都合がいい
ように使い分けている。原発推進に有利なように土俵を替えながら
議論しているようなものだ。フェアではない。
再エネ比率30%は実現可能
第二には、そもそも送電線に乗せる量を減らすこと。分散型で地産
地消の再エネを増やすことで、送電線へ負荷をかけないことだ。事
務局は、太陽光、風力の出力変動の穴を埋めるのは全部火力であり
、しかも石油火力になるとコストが高いと脅しをかけているが、ま
ずは水力で埋めるべきだ。全国各地にあるダム式水力を動員するこ
とで、再エネを再エネで出力調整する。ちなみに、ニュージーラン
ドは全電力の75%をFITなしの再エネで賄っており、水力50%、地熱
15%、風力その他で10%といった構成だが、風力などの出力変動の
調整はすべて水力で行っている。
第三には、送電線をつくることをビジネスモデルとして確立するこ
とだ。東北や北海道で送電線をつくると費用がかさむというが、ち
ゃんと利用すれば十分回収できるはずだ。電力会社はネットワーク
でコアコンピタンスを追求するビジネスモデルに変えていく必要が
ある。個人的に東電は柏崎刈羽原発を動かせないと思うので、東電
あたりからそうした会社になっていくのではないか。発送電分離で
最も確実に儲かるのは送電事業だ。
こうした3つの対策をとれば、市場ベースで再エネ30%の世界は十
分実現できるはずだ。米国の中西部や豪州、ニュージーランド、北
欧の一部など、市場ベースでの再エネ普及を実現している地域こそ
ベンチマークとするべきだろう。
――原発比率15%を提唱する根拠は何ですか。
40年廃炉原則にのっとれば、2030年には原発比率は15%程度になる
。古い原発よりも新しい原発のほうが当然安全性は高いので、15%
の枠内でリプレース(建て替え)をしていくというのが私の考えだ
。運転40年を60年に延ばすのは延命措置のようなもの。今の小委は
、原発が重要で人材確保も必要だと言いつつ、リプレースの議論を
避けている。
――リプレースには反対しないと。
新設(新しい立地)は考えていないが、更新には反対していない。
ただし、2030年以降も長期的に15%を維持すべきかどうかは、バッ
クエンド(放射性廃棄物の処理)の問題次第だ。この問題が解決で
きないならば、2050年ぐらいに原発ゼロとなる蓋然性もかなり高い
のではないか。国が前面に出ようが出まいが、最終処分場を決める
ことは非常に難しい。本気で原発を維持していく気があるならば、
オンサイト(原発敷地内)の乾式中間貯蔵をいま真剣に議論する必
要がある。こうした議論のない原子力政策などありえない。
電気料金の帰趨決める火力のコスト削減法
――火力発電の課題はどう考えていますか。
電源構成の中では今後も火力が最大のウエートを占める。電気料金
の帰趨を決める最大要因は、原発でも再エネでもなく、火力の燃料
費といえる。火力燃料費を抑えるにはどうするか。一つは、一番コ
ストの安い石炭を使うことだが、ただちにCO2の壁にぶつかる。もう
一つは、シェールガス革命の中で、いかに安く天然ガスを買うかだ。
原発を2030年までに30機廃炉にすると約30ギガワットのベースロー
ド電源がなくなるが、電力総需要が変わらないとすると、5ギガワ
ット程度を石炭で、25ギガワット程度を天然ガスで埋めるのが現実
的だろう。ただ、石炭を5ギガ増やすのもCO2の問題からして大変な
ので、外国に技術移転してCO2を減らした分は国内に石炭火力を建て
ていいといった縛りが必要だろう。
天然ガスについては、東電と中部電力がLNGを年間約4000万トン共同
調達する方向だが、規模は大きいほうがいいわけだから、関西電力
や東京ガス、大阪ガスなどが対抗軸などとは言わずに一緒に7000万
トンのアライアンスを組めばいい。LNGの輸入量で1位の日本と2位
の韓国で全世界の50%を超えるので、日韓協力、さらに台湾、中国
を入れた東アジア諸国が協力してバイイングパワー(購買力)を効
かせる方法もある。本当はこういう議論をすべきであって、原発と
再エネばかりに目を奪われるのは問題だ。
経産省がベースロード電源の中に天然ガスを入れないのは、それを
入れると一発で原発の比率が下がってしまうからだ。しかし、3.11
以降に天然ガスが一部ベースロード電源として使われてきたのは紛
れもない事実であり、将来的にもミドル電源だけでなく、ベースロ
ード電源として使われるのは間違いない。
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2030年の電源構成、原発20−22%に―経産省、再生エネは
22−24%で調整
掲載日 2015年04月24日 nikkan  
 経済産業省が2030年の望ましい電源構成(エネルギーミック
ス)案について原子力発電比率を全電源の20―22%に設定する
方向で調整していることが23日に明らかになった。太陽光や風力
発電などの再生可能エネルギーの比率は22―24%にする方針だ
。原発比率は11年の東日本大震災前(10年度28・6%)から
低減させつつ、化石燃料利用増による電気料金高騰を抑えるために
は一定の原発稼働が必要と判断した。
 30年の原発比率を20―22%に維持するためには、現在全基
が停止中の原発の再稼働が前提となる。原子力規制委員会の安全審
査に合格した九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1号機が7
月の再稼働を目指す。一方で、関西電力高浜原発(福井県高浜町)
3、4号機は再稼働差し止め仮処分が出ており、11月の再稼働が
不透明な状況だ。
 産業界では経団連が30年の原発比率で25%超を求めるなど、
おおむね20%以上を要望する声が多い。一方で、再エネの比率は
13年度で10・7%にとどまっており、30年にかけて2倍以上
に高める目標を設定する見通し。太陽光や風力発電の大幅導入が不
可欠となるが、それに伴い国民負担の増大も予想される。
 経産省は今回の電源構成案を28日の総合資源エネルギー調査会
(経産相の諮問機関)の長期エネルギー需給見通し小委員会に提示
する方針だ。その後は与党との調整などを経て、正式に決定する見
込み。
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ドイツの脱原発コスト、9兆円に増加も=報道
2015年 04月 21日 16:00 JST
[ベルリン 20日 ロイター] - ドイツにおける原子力発電所の
停止と放射性廃棄物の最終処分場の建設に必要な費用は計700億
ユーロ(約9兆円)に増加する可能性があることが20日、明らか
になった。核廃棄物の処分場選定を担うドイツ政府のタスクフォー
スの責任者であるミハエル・ミュラー氏が日刊紙フランクフルター
・ランドシャウのインタビューに応じた。
独エネルギー大手のエーオン(EONGn.DE: 株価, 企業情報, レポート
)、RWE(RWEG.DE: 株価, 企業情報, レポート)、EnBW(EBKG.
DE: 株価, 企業情報, レポート)、スウェーデンの電力会社バッテン
フォールは、2011年の福島原発事故後にメルケル首相が定めた
期限の2022年までに原発の稼働を停止する予定だ。
エーオンによる事業再編と既存の発電設備の分離・独立(スピンオ
フ)の決定を受けて、原発の解体費用や廃棄物の貯蔵にかかる費用
の一部を最終的に納税者が負担する可能性があるとの不安が高まっ
ている。
ミューラー氏は「国家にとって重大な財政上のリスクが高まりつつ
ある」と指摘。その上で脱原発コストは700億ユーロに増加する
可能性があり、これは4社による360億ユーロ(420億ドル)
の引当金では不十分なことを意味する、と付け加えた。
エーオンとEnBWの広報担当者はそれぞれ声明を出し、企業によ
る引当金は十分であり、外部の監査人から定期的に承認を受けてい
ると説明した。
ガブリエル経済相は所属するドイツ社会民主党(SPD)議員に対
し、原発停止に関連した巨額のリスクを監視する公的機関の設置を
検討する意向を示した。
一方、政府は引当金が十分かどうかを検証するために4社をストレ
ステストの対象とする選択肢にも言及している。



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