5350.長期停滞型経済の見方



水野さんが辺境がなくなり、長期金利が下がり、資金が有効に活用
できなくなった。このため、世界は停滞期に突入したと「資本主義
の終焉と歴史の危機」で述べている。また、サマーズも需要が少な
く、新興国の供給が多く、全体バランスが崩れて、デフレになって
いる。このため、現時点は財政出動で、需要と増やしながら、イノ
ベーションを起こしやすくするために、規制緩和を行うことである
という。金融緩和は一時的な危機緩和処置であり、多いと国債の長
期金利上昇という弊害があると言っている。

そこにピケティが、r>gを持ち出して、企業利益より成長率が低
いので、貧富の差が拡大すると言い出した。しかし、水野さんの予
測とも違う。

この2つを整合させたのが、下にある武者 陵司さんで、r1>g>r2
という不等式が成り立っている。企業利益>経済成長>長期金利と
なり、企業の儲けが大きくなっている。株価が上がるが、一般庶民
の生活は楽にならない。というより、庶民生活はある程度のレベル
に達したら、それ以上の上昇はなく、一定にあるようだ。

米国の賃金は1970年以降、賃金水準が70年当時より低く、失
われた40年以上を経過していると村井さんはいう。

この時、どう国の経済を運営していくのかである。浜矩子さんの「
地球経済のまわり方」で、成長と競争と分配の3つが正三角形にな
るのが良いという。浜さんの説の多くは反対であるが、この正三角
形は賛成である。

国民の貧富の差を縮小させて、皆が最低皆が快適な生活ができるレ
ベルにして、国民の消費量を最大にすることである。GDPの60%が国
民消費であり、この部分が活性化しないと皆が豊かになれない。

かと言って、成長や競争をおろそかにすると、国民全体が貧乏にな
り、国の活力を失う。このため、産業でもムダがあるとか保護され
すぎであるとかの構造改革が必要になるのである。規制は既得権益
を持つ企業を利するが、新興企業には参入障壁になる。このため、
そのような規制はなくすことである。競争を仕掛ける必要がある。

例えば、理容と美容の違いがなくなり、消費の観点からは一緒にし
ても、問題がないはずである。

しかし、そろそろ、経済と倫理の両立が必要になってきている。米
国の金持ちたちが、貧乏人の福祉予算を出すのが嫌で、金持ちだけ
の自治体を作り、貧富の差を埋めることをしない。このため、米国
は移民が多くても、経済規模は大きくできないようである。

企業も、貧乏人を騙して、金を巻き上げる方向である。この良い例
がオバマケアであり、国民皆保険が米国でもできたと思いきや、保
険会社が介在するので、その保険で見てもらえる医者がほとんどい
ないということになっている。

このような国家では、大多数を占める国民が見捨てられた存在にな
る。企業だけが儲かる仕組みを国が支援するということになる。

米国は、このような状況で覇権国家から脱落しようとしている。中
国も米国と同様な共産党員以外は奴隷と見られている社会であり、
国家に楯突く者は、死刑に簡単にする国家である。

このように国民が幸せに過ごせる国ではない国家が覇権を争うとい
う世界の状況になってきた。

どちらにしても、貧乏人は救われない世界になるようである。

日本も米国のようになるのであろうか?

非常に心配な状況である。

さあ、どうなりますか?


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ピケティ氏、水野氏を超える論点、
r1>g>r2 をどう解くか
2015.4.8(水)  武者 陵司
ミラー 武者リサーチ、ディレクターのミラー和子です。武者さん
、現在の経済と市場を理解するうえで最も基本的な鍵は何か、非常
に抽象的な問いですが、なぜそのような問いが必要なのでしょうか。

武者 おそらく、どなたも今のマーケットや世界経済、そして政策
の動きに困惑していると思います。これが正しい見解で、こうすれ
ばこうなるという定見を、誰も持ち合わせていない。非常に多くの
人が異なる意見を言い、一般の方々は様々なオピニオンリーダーの
意見を聞いて、益々混乱してしまうということも起こっていると思
います。そこで、現在、経済・市場で展開されている最も大事なこ
とは一体何かということを少し私なりに説明してみたいと思います。
 その最大のポイントは、資本のリターンと成長との兼ね合いだと
思います。「r=資本のリターン」が「g=成長」よりも大きいとい
う、不等式「r>g」は皆さんよくご存知、大ブームになったトマ・
ピケティ氏の議論ですよね。トマ・ピケティ氏は、資本のリターン
が著しく高く、一方、成長が低いということによってどんどん格差
が拡大していく。このまま格差が拡大していくと、経済は退廃して
いくので、この格差拡大を是正する政策が必要だ。彼は、資本に対
する累進課税を国際的に導入するのが正しいのではないかと言って
いるわけです。
 確かにそういうことも起こっています。米国ではたった1%の人が
圧倒的富を支配しているということで、ニューヨークで「Occupy 
Wall Street」という運動も起きたわけです。格差論がブームになる
現実的な経済情勢というのがあるわけです。
 ならば、それだけで今の経済情勢が理解できるかというと、違い
ます。それは、現在起こっていることの半面です。もう1つ起こって
いる現実は、成長よりも資本のリターンが低いということです。
 資本のリターンには2通りあります。経済の成長率よりも高い資本
のリターン、これを「r1」とします。しかし他方で経済の成長率よ
り低い資本のリターン「r2」ということも起こっているのです。
 この「r2」は何かというと、長期金利です。各国の長期金利は史
上最低の水準です。日本の長期金利が今、0.3%台。ドイツの長期金
利は、もう0.1%台、米国でも2%未満というように空前絶後の低金利
が続いています。となると、一体何が起こっているのでしょうか?
 一方で、資本のリターン、企業の利益は経済の成長率よりもはる
かに大きい。従って、トマ・ピケティ氏が言っているように、お金
持ちが儲かる、企業が儲かる。これが不公平だという現実が起こっ
ているのです。

 同時に長期金利は経済の成長率より低いということが起こってい
ます。金利が経済の成長率よりも低いという現実を捉えて説明して
いるエコノミストもいます。例えば、水野和夫さんなどは、資本主
義はいよいよ終焉を迎えているということを言うんですけど、彼の
議論は、経済の成長率よりも資本のリターンがどんどん下がってい
る。長期金利の著しい低下は資本がリターンを上げられなくなって
いる証拠であり、資本主義経済の退廃そのものだと言うわけです。
水野和夫さんの議論はトマ・ピケティ氏とは全く逆の成長率よりも
資本のリターンが低いという議論です。こちらに着目すると、そう
いう議論が成り立つ。あちらを注目すると、トマ・ピケティ氏のよ
うに、どんどん持てる者が豊かになり、格差が拡大するということ
が起こっている。この両者は、実は今同時に起こっている現実です
。ということは、片一方の不等式だけで今の経済は説明できません。

 今の経済を説明する最も適切な不等式は一体どのようなものかと
言うと、「r1 >g> r2」、「r1」が企業の儲け、利潤率です。そし
て「r2」は企業の資本コスト、金利、利子率です。そして「g」が成
長。つまり、2つの不等式が同時に起こっているのが現在の情勢の大
きな特徴なんです。
 先ほど申し上げましたように、企業は大変儲かっている。利潤率
が高い。従って、配当率は2%、企業の益回りは、今6〜7%、そして
ROEは10%というように企業の利潤率は極めて高いです。では、企業
が商売をやる時に必要な資金の調達コストはというと、国債の金利
は日本もヨーロッパもゼロ・パーセント台。アメリカだって1%台で
す。つまり、この両者との乖離が著しく大きくなっている。これが
今の情勢の特徴です。
 普通は利潤率と利子率というのは、ほとんど連動すると考えられ
、実際そうでした。なぜなら、景気が良くて企業が儲かる時には当
然金利が上がる。従って利潤率と利子率は、本当は同じものです。
本来だったら「r1= r2」。これが普通の教科書的な経済の姿です。
 しかし、今起こっているのは「r1」と「r2」が極端に乖離し、そ
のサンドイッチになって成長率が停滞している。この現実をどのよ
うに解釈するかということが、今の経済情勢を理解する最も重要な
鍵なのです。
ミラー これは、武者リサーチの投資戦略推奨と連動していますか?
武者 連動していますよね。つまり・・・
ミラー 現金は手放せ。
武者 そうですよね。こちら「r2」にお金を投資したリターンはほ
ぼゼロ。こちら「r1」に投資したらものすごい高リターン。だった
ら、こちら「r2」を売って、こちら「r1」を買えばいいんですね。
あるいは、借金をして「r2」、こちら「r1」を買えば、もっとレバ
レッジが高まります。
 問題はこの高い利潤率と低い利子率が同時に進行しているという
ことが長期的に続くかどうかなんですけれども、実は、この利潤率
と利子率の乖離はもう10年続いています。
 ミラーさんも記憶にあると思いますが、今から10年前2005年、グ
リーンスパン、当時のFRB議長は「謎、コナンドラム(Conundrum)
」ということを言いました。彼がその時に「謎(コナンドラム)」
」だと言ったのは、経済は成長し企業利益が上がっている、さらに
FRBが金融引き締めをしている、にもかかわらず金利が上がらないと
いう現実を謎だと言ったわけですね。
 当時グリーンスパン議長が謎だと言い、その後リーマンショック
などがあって一時的にその謎が解消されたように見えたけれど、リ
ーマンショックが終わってみたら、何のことはない、また、利潤率
と利子率の大きな乖離が起こっている。つまり、これはもう10年に
わたって続いている現象です。
 ということは、10年前から何をすればよかったかというと、借金
をして株を買っていたら非常に大きなリターンが得られたというの
が、今起こっていることなんですね。
  さて、このような現実はトマ・ピケティさんのような、いわゆる
資本課税によって調整できるものなのかどうか。おそらくそれだけ
では解決できないことだと思います。あるいは水野和夫さんのよう
に、金利が下がっているということは、資本のリターンが著しく低
下しているわけで、資本主義がもう終わりだというようなことにな
るのかというと、そうではないですね。今起こっている現実、2つの
「r」それぞれが、成長率を挟むという不等式を、どう理解するかと
いうことを考えないと答えは出てきません。
 この答えをどう説明するか。これは端的に言って、非常に高い利
潤が非常な低金利をもたらしているというように理解すべきだと思
います。つまり、企業は大儲けしている。儲かったお金を再投資で
きなくて遊ばせている。だから金利が下がっている。つまり、高利
潤と低金利は、実は今進行している技術革新、グローバライゼーシ
ョンの結果起こっている、言ってみればメダルの裏表であるという
可能性が強いわけです。
 従って、このように企業が儲かり、金利が低いというこの現実の
先に何があるかというと、場合によっては経済がどんどん成長する
のにお金が遊んでいる状態は経済が退廃するということです。経済
はどんどん傷んでいくという可能性もあります。
 結論的に言いますと、お金が遊んでいるということは何を意味す
るかというと、実は労働も遊んでいるということなんです。お金と
人が遊んで、企業だけが儲かっていたら、経済は崩壊するという危
険もある。しかし他方で、遊んでいるお金を有効に活用して成長率
が高まれば、今度は経済はより発展し、人々の生活が良くなるとい
うことも起こり得ます。つまり、この不等式を正しい方向に使えば
、株価は上昇し経済は繁栄し、人々の生活が良くなるという展望が
描かれます。
 今、主要国で行われている量的金融緩和、QEというのはまさしく
、この両者の乖離を新たな需要を作ることによって、あるいはお金
を有効に使うことによって縮小していく政策です。
 しかし、乖離をそのまま放っておいたら、場合によっては、経済
は大恐慌のような破局的悪化に陥るという可能性もあるんですね。
この点についての十分な説明は別の機会にいたしますが、強調した
いポイントは、今多くの人があまり気付いていない、2つの不等式、
この不等式をどのように理解するかということが、株式投資や経済
の予想をしていく上で決定的に重要な鍵なのだということです。
 そして、その鍵を解くためにはトマ・ピケティさんや水野和夫さ
んのようなオピニオンリーダーたちの議論だけでは不十分なんだと
いうことを、ちょっと知っていただきたいと思います。やはりカギ
は遊休資本と遊休労働をフルに活用する需要創造にある、QEはそう
した政策の中枢にあると考えるべきです。それは今から80年前の金
本位制の廃棄と不換紙幣発行に比肩することなのではないかと思い
ます。
ミラー・武者 どうもありがとうございました。




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