5334.中東大戦争から世界が混乱へ



中東のイスラム国、イエメンの内戦など中東の戦いが大きくなって
いく。この戦争には多くの金が必要であり、一方にはサウジ、イラ
ンの宗教対立があるが、それ以外にトルコの存在が大きいようであ
る。中東全体の大混乱が世界につながることを見ていきたい。
                          津田より

0.中東の軍事大国
中東の軍事大国は、イスラエル、トルコ、イランである。トルコは
NATOに加盟しているが、イスラム国への米空軍の攻撃を認めて
いないために、有志連合の米空軍は、サウジやカタールの空軍基地
から出撃している。イランは、シリア政府軍として反政府軍と戦い
、イラクではイスラム国との戦闘の前面で戦っている。イスラエル
はパレスチナのガザ侵攻後は、イラン軍の動きに神経をとがらせて
いる。

イエメンのフーシ派軍の動きを止めるために、アラブ連合軍をサウ
ジが中心で組織化したが、エジプト、パキスタン、ヨルダン、モロ
ッコ、スーダンの5カ国とイエメンのハディ政権と、サウジアラビ
アと共に宣言したバーレーン、クウェート、カタール、アラブ首長
国連邦(UAE)の4カ国と合わせ、10カ国で形成されている。

ここには、トルコが参加していない。アラブ連合軍は、中東の大国
トルコとイランに対応することが目的であるからだ。このアラブ連
合軍の目的は、イスラエルではなく、地域内のテロや体制改革をす
る勢力への対応としている。当面はテロ組織に対する攻撃をすると
いうが、イスラム国とイエメンに対する攻撃以外は、まだ合意でき
ていないと、al-monitor誌は述べている。

スンニ派の改革組織、同胞団、ハマス、シリア反体制派を応援して
きたのがトルコであり、トルコが「アラブの春」を主導してきたこ
とで、現在、中東はグジャグジャになってしまったのである。この
トルコの政策に乗ったのが欧米であり、このため、米国は旧同盟国
のサウジやイスラエルを捨てたのだ。

そして、シーア派の国や地域を応援してきたのがイランである。こ
の2つの軍事大国に、その他の中東諸国が1国では対応できないの
で、アラブ連合軍を組織したということである。

このため、イスラエルとサウジなどアラブ連合軍とは利害が一致し
ているのだ。しかし、パレスチナ問題などから連携は難しく、イス
ラエルは孤立を深めている。

1.トルコの夢、イランの夢
トルコの夢は、中東全体を従えたカリフ制オスマン・トルコ帝国の
再来であり、帝国内の異教徒に対しても寛大な民主主義カリフ制に
向けて、まずは大統領権限強化をした独裁体制の確立に動いている。

イランの夢は、中東全体を従えたペルシャ帝国の再来である。こち
らは、すでにカリフ制と同じ宗教指導者が最高権力者になっている
。このように、カリフ制はイスラム国の専売品ではない。

というように、屈辱を晴らすという中国の夢と同じ唐帝国再来が各
地で起こっているのである。特に中東で軍事力が強いトルコとイラ
ンは特にその傾向が強く出ている。そして、もう1つのイスラエル
がアラブ連合軍と利害一致関係にあるという不思議な関係を作り出
している。

2.トルコの今後
サウジ湾岸諸国、アゼルバイジャンとトルコの関係はよくない。こ
のため、トルコはロシアから石油を得ている。このため、ロシアと
の関係は良好であり、経済的な結びつきも大きく、ルーブルとリラ
での決済を調印した。サウジは中国に近寄り、イランは欧米に近寄
るという。この地域での3巴の戦いで世界的な関係の変革が起きて
いる。

トルコは、ウイグル(東トルキスタン)でのトルコ系民族を差別し
ているの中国との関係がよくない。また、NATO軍に参加してい
るが、トルコ移民を差別しているドイツに対して、昔ほどの親近感
がない。欧州もイスラム化が進むトルコとの距離を開けている。

欧州の一部は、トルコにおける権利と自由の崩壊は深刻であり、EU
加盟プロセスは停止すべきだと論じる。確かに、トルコがコペンハ
ーゲン基準を満たすのは難しいだろう。しかし、欧州はロシアを経
由しないパイプラインがトルコを通過するので、トルコとの関係を
壊すことはできないし、トルコも欧州向けがトルコの貿易のほぼ40
%、外国直接投資の70%、そして旅行産業の50%以上を占めている
ので、敵対関係にはできない。

米国は、再度、中東政策の見直しが必要であるが、米国の民主主義
絶対の思想からトルコが一番理想的であるが、そのトルコも独裁的
な政治制度に変更していくことになる。民主独裁はイランも同じで
あり、普通選挙をしているが、独裁的な権力になるということであ
る。

トルコは、自国が民主主義でイスラム化したので、他国でも民主化
すれば、イスラム化すると見ている。しかし、サウジなど湾岸諸国
やエジプトは、独裁国家であり、民主化を阻止している。そして、
トルコは、10年から20年で民衆の革命が成功すると見ているの
で、今後、独裁国家に対抗して行くはずである。しかし、現時点は
、イランのシーア派がスンニ派の内部対立でそのスキに勢力拡大を
しているので、当面はサウジとともにシーア勢力の減少を目指すこ
とのようである。

しかし、一度民主化を目指して民衆が立ち上がったことで、スンニ
派独裁国には、紛争の目ができているのでトルコはその芽を摘まな
いように支援することになる。

このため、一番先に破綻するシリアが外部勢力を呼び込んでしまう
ことになりそうである。反シリア軍がイスラム国軍に圧倒されて、
イスラム国とシリア軍が直接対決する時には、ロシアが出てくるこ
とができるようになる。トルコとイスラム国の関係は、良好ではな
く中立であるが、世界からの批判で、トルコは支援を止めている。

3.イランの今後
イラン核問題で、同国と国連安保理常任理事国(米英仏中露)にド
イツを加えた6カ国が、包括的な解決に向けた枠組みで合意した。

イランはトルコを見ている。地域で一番経済力ができたのは、欧米
の潤沢な資本が入り、国民が豊かになり、軍事力も大きくなってい
ることを見ている。

このため、欧米の制裁を無くして、欧米の資本を入れて、中国やト
ルコのように豊かになる必要があるということをやっと、認めた。

イランの夢を実現するために、乗り越えないといけない道であると
見る。欧米とは喧嘩しないで、シーア派の地盤を拡大することであ
る。スンニ派が分裂している今のうちに拡大することであるが、そ
のためには経済力を付ける必要があると認識したのである。

4.世界の混乱に
中東が宗教戦争と民主化戦争という二重の戦争状態になり、その戦
争に世界は関わることになる。サウジに米国が味方して、イランに
中国やロシアが味方し、トルコが民衆を啓蒙して、中東が混乱する
ことで、それに味方する世界の国も、敵対関係ができることで混乱
することになる。

石油による繁栄でサウジは、軍事力をつけているが、その石油価格
が下落することで、民衆の経済的な権利がなくなり、民衆が民主化
に目覚めると、トルコの思惑が実現することになる。

米国の覇権力が落ち、かつ世界的に投資が活発化したことで、中進
国、新興国の経済力ができ、その経済力ができたことで、それぞれ
の国で将来的な夢が語られ、その夢実現のために戦争が起きること
になっている。

中東では、2つの夢(トルコ、イラン)と3つの既得権益の保守(
サウジ湾岸諸国、エジプト、イスラエル)がぶつかり、今後、当分
、目が離せない状態が続くことになるようである。

「結局のところ、中東はボトムアップ型の奥深い革命を経験してい
る」とみるナイは、「現在の紛争の決着がつくまでには20−30
年の時間が必要になる」と今後を見通しているが、私もこの意見に
賛成である。

さあ、どうなりますか?

参考資料:
5323.シーア派対スンニ派の代理戦争勃発
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270327.htm

5333.トルコ総選挙後の内政・外交の展望
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270404.htm

The Erdogans' lavish lifestyle
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2015/04/erdogan-familys-attempt-to-appear-modest-backfire.html

Joint Arab force can't agree on 'terrorism'
http://www.al-monitor.com/pulse/security/2015/04/arab-pan-summit-yemen-gulf-terrorism.html

Yemen in freefall: How chaos could spiral into all-out regional war
http://edition.cnn.com/2015/03/30/middleeast/yemen-freefall-lister/index.html

Turkey ready to settle deals with Russia in local currencies - economy minister
http://rt.com/business/245277-turkey-russia-currency-trade/

Why the Conflicts in Tikrit and Yemen Signal a New Middle Eastern War
http://www.huffingtonpost.com/alastair-crooke/tikrit-yemen-new-middle-east-war_b_6950936.html

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多難のトルコ、「地域の希望の星」ではない
単独で無数の困難に立ち向かうことは無理
マルッティ・アハティサーリ/エンマ・ボニーノ/アルバート・ロ
ーハン
2015年04月05日TK
2015年、トルコは10回目を迎えるG20首脳会合の開催国となる。数奇
な巡り合わせで、トルコ自身の不安定さが拡大する中で、世界の舞
台で際立つ機会がやってくる。
現在トルコ周辺では2つの地政学的秩序が破綻している。ロシアとの
冷戦後の協調、および1916年のサイクス・ピコ協定と19年のベルサ
イユ条約で定められた中東地域の国境だ。EU(欧州連合)とトルコ
がお互いをこれほど必要としたことはかつてないが、これほど距離
を置くようになったこともほとんどない。
トルコは「地域の希望の星」ではない
トルコはもはや、エルドアン首相の12年におよぶ政権の前半のよう
な「地域の希望の星」ではない。今日、トルコは無数の課題に直面
している。
独裁政治の進展、見栄えのしない経済成長、よろめくクルド和平プ
ロセス。国境が900キロメートルにわたってシリアに接しているため
、200万人近いシリア難民を受け入れており、「イスラム国」からの
攻撃や侵入に対して脆弱だ。イランおよびイスラエルの双方との緊
張は深く定着してしまい、報復主義のロシアへのエネルギー依存が
ますます高まってきている。
トルコ単独でこれらの困難に立ち向かうことはできない。EU向けが
トルコの貿易のほぼ40%、外国直接投資の70%、そして旅行産業の
50%以上を占めている。同時に、南側の周辺諸国との経済的結び付
きは2011年のアラブの春以降徐々に弱まっている。
トルコの世論でもEUへの支持率は09年の34%から昨年の53%へと上
昇した。昨年秋にボズクルEU担当相によって発表されたトルコの
“EU戦略”は、この事実を暗に認めたものと受け取れる。
同時に、より安定し、民主的で、欧米風のトルコに欧州が今ほど大
きな関心を示したことは過去にない。分散によって安定したエネル
ギー供給を達成するためにも、EUはトルコとの堅実なパートナーシ
ップを必要としている。
にもかかわらず、EUとトルコは徐々に離れていってしまっている。
表現の自由、権力の分立、法治システムはエルドアン首相の下で徐
々に侵されてきた。この国はあえて、地域の宗派間紛争に巻き込ま
れ、ロシアの権威主義的誘惑の声を聴いている。
EUとトルコの関係は最悪
EUとトルコの関係は昨年末に最悪となった。トルコが、自主亡命し
たイスラム指導者のギュレン氏に近いマスコミに圧力を強めたのだ
。この弾圧はEUの激しい批判を引き起こし、エルドアン首相は怒り
を込めてそれを退けた。
欧州の一部は、トルコにおける権利と自由の崩壊は深刻であり、EU
加盟プロセスは停止すべきだと論じる。確かに、トルコがコペンハ
ーゲン基準を満たすのは難しいだろう。たとえば、トルコは国境な
き記者団の世界自由報道ランキングで154位に下落した(180カ国中)。
しかし、加盟交渉の公式停止は、民主化やEUとの協調を追求するよ
うトルコを動かす最後の誘因を失わせるだけだ。
現在に至るまで、キプロスがトルコの加盟の最大の障害となってき
た。EU加盟各国はキプロス政府に一層積極的にかかわって必要な変
化をもたらすべきである。キプロスほど、トルコの民主主義が安定
すれば多くを得られる国はない。
EUの加盟プロセスにとどまらず、信頼を再構築し、具体的利益を双
方にもたらす各種の手段が講じられなければならない。テロ対策、
シリア難民対策、およびリビアからウクライナまでの複数の危機に
おいてEUとトルコの関係を深めること、関税同盟の合意を改定し近
代化すること、そしてビザの自由化を追求することが含まれるべき
である。
トルコを取り込むことで、この国が危険な形でわれわれ欧州の共通
理念から漂い出るのを防ぐことができるだろう。
(週刊東洋経済2015年4月4日号)
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イラン核交渉:枠組み合意 イスラエル孤立化 米と距離、アラブ諸
国も突き放し
毎日新聞 2015年04月05日 東京朝刊
 【エルサレム大治朋子】イラン核問題で、同国と国連安保理常任
理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国が、包括的な解決に
向けた枠組みで合意したことに、イスラエルが焦燥感を募らせてい
る。
 ネタニヤフ首相はオバマ米大統領との関係悪化で米政権への影響
力が低下。「対イラン」では共通点のあるアラブ諸国ともパレスチ
ナ問題などから連携は難しく、イスラエルは孤立を深めている。
 米政府が明らかにした「合意内容」によると、イラン国内には遠
心分離機数千基や濃縮ウランが残される。戦術核を保有していると
されるイスラエルは、敵対するイランが秘密裏に核開発を再開する
のではないかと疑念を抱いている。
 ネタニヤフ首相とオバマ大統領は、最近の首相によるイランやパ
レスチナ問題をめぐる発言などで関係が悪化。首相は対イラン強硬
派の米野党共和党と連携してオバマ政権への圧力を高める構えだが
、大きな影響力行使は期待できそうにない。
 「最終合意までまだ数カ月あり、より良い内容にするためにも対
米関係を改善すべきだ」。イスラエル軍諜報(ちょうほう)部門の
元大佐でイラン核問題について多数の著書があるエフライム・カム
氏は毎日新聞の取材にそう強調した。「イランが核開発を再開して
も即座に知るすべはなく、最終合意で査察の実効性を高める必要が
ある」と訴える。
 他方、ネタニヤフ首相は3月30日、中東は「イスラエル対アラ
ブ」ではなく「イスラエルを含む中東諸国対イランだ」と言わんば
かりの声明を発表した。
 「今回の合意で(イランが国力を増し)最初に痛手を受けるのは
イスラエルなど穏健で責任感あふれる(中東)地域の国々だ。イラ
ン支援の武装組織がイエメンで侵略を拡大させているのに(核協議
が行われているスイスの)ローザンヌでは彼ら(米国など)はこれ
に目をつぶっている」
 だがアラブ諸国がイスラエルを「敵の敵=味方」と見なすほど事
態は単純ではない。
 イスラエルのテレビ「チャンネル10」で長年安全保障問題を担
当するアロン・ベン・デビッド記者は、地元マーリブ紙への寄稿で
「イスラエルはこの重要な時期に中東での影響力を持ちえていない
。穏健派アラブ諸国は対イランでイスラエルと共闘する用意はある
が、その前に(昨年春から)頓挫しているパレスチナとの和平を求
めている」と指摘。パレスチナへの強硬対応が米国やアラブ諸国と
の関係悪化を招き、イラン問題への対応を困難にしていると批判し
た。
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アデン交戦で185人死亡=民間人多数が犠牲−イエメン
 【カイロ時事】AFP通信によると、イエメン保健当局者は4日
、過去1週間以上にわたるイスラム教シーア派系武装組織「フーシ
派」などによる南部アデン攻撃に伴う交戦で、少なくとも185人
が死亡したと明らかにした。負傷者は1200人以上。
 死傷者の4分の3は民間人。フーシ派側の死傷者数は含まれてお
らず、サウジアラビア軍主導の空爆による死傷者数も除かれている
。(2015/04/04-19:37)
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イエメン、アルカイダ系勢力拡大 南部の軍基地制圧
2015年4月4日 09時29分
 【カイロ共同】フランス公共ラジオによると、イスラム過激派組
織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の武装集団が3日、
イエメン南部ムカラの軍基地を制圧した。AQAPは現地の刑務所
を襲撃し、約300人の受刑者を脱走させたばかりで、ムカラで急
速に勢力を拡大している。
 イエメンでは、事実上のクーデターで政権掌握を宣言したイスラ
ム教シーア派系の武装組織「フーシ派」に対し、ハディ暫定大統領
を支持するサウジアラビアが空爆を開始。AQAPはシーア派への
ジハード(聖戦)を呼び掛けており、混迷の度合いが増してきた。
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イエメン:サウジ主導軍、宮殿からフーシ撃退 空爆「計画通り」
毎日新聞 2015年04月04日 東京夕刊
 【カイロ秋山信一】サウジアラビアが主導するアラブ連合軍のア
シリ報道官は3日、イエメン南部アデンの大統領宮殿に侵入したイ
スラム教シーア派武装組織フーシの部隊をハディ政権側が撃退した
と明らかにした。国営サウジ通信が伝えた。報道官は、アデンを守
る政権側の部隊に空中から支援物資を供与したことも発表。9日連
続となった連合軍のイエメン空爆について「計画通りに進んでいる
」と強調した。
 アシリ報道官によると、フーシの小規模な部隊が2日に大統領宮
殿への侵入を図った。報道官は「フーシは攻撃を仕掛けたらすぐに
逃げる作戦だった。メディアを通じて混乱を広げるのが目的だった
」と指摘した。ロイター通信によると、フーシは一時攻め入ったア
デン中心部からも撤退した。
 一方、東部ムカラでは、国際テロ組織アルカイダ系の「アラビア
半島のアルカイダ」(AQAP)が軍基地や中央銀行支店を襲撃し
、武器などを奪った。AQAPは2日にムカラの刑務所を襲撃し、
拘束中の幹部ら約300人を脱走させていた。
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イラン大統領 核の枠組み合意「歴史に残る日」
4月4日 7時15分NHK
イランのロウハニ大統領は、核開発問題の解決に向けた枠組みで欧
米などと合意したことについて「歴史に残る日となる」と高く評価
したうえで、ウランの濃縮活動の継続などイラン側の主張を欧米側
に受け入れさせたとして交渉の成果を強調しました。
国連安全保障理事会の常任理事国にドイツを加えた6か国とイラン
は2日、核開発問題の最終的な解決に向けた枠組みで合意し、今後
はことし6月末を期限に最終合意の実現を目指すことになります。
イランのロウハニ大統領は3日、国民向けのテレビ演説で、今回の
合意について「歴史に残る日となる」と高く評価したうえで、アメ
リカなどの制裁はイランが最終合意の内容を実行したその日にすべ
て解除されることになると説明しました。
枠組みでは、ウランの濃縮活動について規模は制限されるものの、
認められる内容となっており、ロウハニ大統領は「イランによる濃
縮活動が脅威ではないことを示すものだ」と述べ、主張を欧米側に
受け入れさせたと成果を強調しました。
そのうえで、ロウハニ大統領は欧米との妥協を拒む国内の保守強硬
派の勢力を念頭に「大国とは戦うか降参するかのどちらかだという
意見もあるが、協力という第3の道がある」とけん制しつつ、最終
合意の実現を目指す考えを示しました。
ただ、枠組みでは制裁の解除など主要な争点を巡る双方の認識の違
いが浮き彫りとなっており、最終合意に向けた今後の交渉は難航が
予想されます。
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宗教人口、イスラムが最大勢力に 今世紀末、米調査機関が予測
 【ニューヨーク共同】世界の宗教別人口は現在キリスト教徒が最
大勢力だが、2070年にはイスラム教徒とキリスト教徒がほぼ同
数になり、2100年になるとイスラム教徒が最大勢力になるとの
予測を米調査機関ピュー・リサーチ・センターが3日までにまとめ
た。両者の勢力が伯仲するのは人類史上初めてだとしている。
 同センターは世界人口をキリスト教、イスラム教、ヒンズー教、
仏教、ユダヤ教、伝統宗教、その他宗教、無信仰の八つに分類。地
域別などに人口動態を調査し、10年から50年まで40年間の変
動予測を作成した。
2015/04/04 06:39   【共同通信】
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プレス・リリース 4月号
2015.04.02公開
中東の混乱と革命はあと30年続く
―― 30年戦争と中東革命の共通点
 ヘンリー・キッシンジャーとジョセフ・ナイという二人の外交専
門家が、ともに中東の混乱を、ヨーロッパでウエストファリアシス
テムが誕生する前の30年戦争に例えている。
 キッシンジャーは「国家が部族主義と宗派集団へ分裂していけば
、中東地域は、ウエスファリアシステムが誕生する前の宗教戦争的
対立に・・・覆い尽くされる」と指摘し、(1) ジョセフ・ナイ
も「中東はかつてのヨーロッパにおける30年戦争を思わせる混乱
のなかにある」と述べている。(2) それだけではない。米外交
問題評議会のリチャード・ハースも、現在の中東では17世紀のヨ
ーロッパ同様に、暴力的な政治・宗教抗争が国境線を越えて展開さ
れていると指摘し、この状態が30年間、あるいはそれ以上続くと
指摘している。(3)もはやイラクとシリアだけが中東紛争の舞台
ではない。イスラム国はイラクで押し返されつつも、シリアで攻勢
に出ているし、イエメンやリビア、そしてエジプトにも触手を伸ば
している。サウジは北の国境地帯でイスラム国、シーア武装集団の
脅威にさらされ、国境の南のイエメンは内戦状態にある。(4)リ
ヤドは最近軍事介入を決断し、フーシ派に対する空爆を実施してい
る。そして、かつてNATOが介入したシリアはすでに破綻国家と化し
ている。(5)この混乱のなかで世界最大の産油国としてグローバ
ル経済の鍵を握るサウジは持ち堪えられるのだろうか。「サウジは
革命の流れには巻き込まれない」と考える理由はどこにもない。原
油安だけでも、王国の政治ダイナミクス、社会契約そのものが脅か
される危険があるからだ。(6)「結局のところ、中東はボトムア
ップ型の奥深い革命を経験している」とみるナイは、「現在の紛争
の決着がつくまでには20−30年の時間が必要になる」と今後を
見通している。イラン(シーア派)とサウジ(スンニ派)の対立や
ライバル関係だけで、現在の中東の混乱は説明できない。「現在の
アラブ世界が識字率、科学技術、非石油部門の輸出など、多くの部
門で出遅れていること」を考慮する必要があると彼は言う。中東に
は「1789年のフランス革命にも似た」革命の流れが存在する。
(7)
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イラン核問題「枠組み」合意 製造能力10年以上制限へ
ローザンヌ=神田大介、奥寺淳2015年4月3日07時00分asahi
 イランの核問題解決を目指す米英独仏中ロとイランは2日夜(日
本時間3日未明)、イランが10年以上は核兵器が造れないレベル
まで核能力を制限し、国際社会の強制査察を受け入れることを柱と
する「枠組み」で合意に達した。欧米や国連安全保障理事会は、イ
ランがこれらを履行するのが確認できれば、制裁を解除する。6月
末までに細部を詰め、「最終合意」を結んだ後に実行する。
 米国のケリー国務長官とイランのザリフ外相が26日からスイス
・ローザンヌで断続的に協議し、29日までに全7カ国と欧州連合
(EU)の外相が集結。2日夜まで8日連続で外相級会合を開く異
例の展開をたどり、共同声明の発表にこぎつけた。
 「枠組み」の要点を示した発表文によると、イランは15年間に
わたり、国内に保有する低濃縮ウランを現在の約10トンから300
キロに削減し、核兵器の製造につながる高濃縮ウランはつくらない
。また10年間は、ウラン濃縮に使う遠心分離機を現有の約3分の
1にあたる6104基に減らす。
 こうした措置によって、イランが合意を破った場合でも、原子爆
弾1発分の濃縮ウラン製造に最低でも1年はかかるようにする。ま
た、イランは国際原子力機関(IAEA)の追加議定書を履行し、
強制的な査察を受け入れる。
 核問題を巡る対イラン制裁については、イランが合意を守ったこ
とをIAEAが確認できれば、すべてを停止するが、違反が見つか
れば元に戻す。国連安保理が2006年から6回採択した対イラン
決議もすべて解除するが、一部の効力は残すために新たな決議を採
択する――などとしている。
 オバマ米大統領は2日、ホワイトハウスで「歴史的な共通認識に
達した」と演説。その上で、「この枠組み(の共通認識)が、最終
合意につながり、米国や同盟国、世界がより安全になることを確信
している」と意義を強調した。
 周辺国はイランの核武装を強く懸念してきたが、合意が履行され
れば、紛争が続く中東地域の安定に向けた一歩となる。(ローザン
ヌ=神田大介、奥寺淳)
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最終合意なら「歴史的過ち」=イスラエル高官
 【エルサレム時事】イスラエル政府高官は2日、イラン核協議の
「枠組み合意」について、「悪い枠組みだ」と批判し、このまま6
月末に最終合意が実現すれば「世界をより危険にする歴史的な過ち
になる」と警告した。
 イスラエルは、イランの核開発能力が維持されたまま、経済制裁
が解除されることを危険視している。政府高官は「この取引により
、核エネルギーの平和利用ではなく、戦争に使われる」と指摘。イ
ランの核関連施設を解体させる代替案が必要だと訴えた。
(2015/04/03-07:09)
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ロシアに広がる「アジア・トレンド」
東に大きく舵を切るロシア、新たな趨勢の背景と将来
2015.4.3(金)  市野 ユーリア JBPRESS
 このところ、ロシアの外交政策およびロシアが国際社会の中で取
る行動において、「ロシアはアジアの大国だ」と言っているように
聞こえる強力な国家的トレンドが形成されつつある。ロシアが自国
の「アジアの未来」を宣言し、その下で急激な方向転換を図ってい
ると言っても過言ではないだろう。
ロシアの地政学の変遷
 歴史上、いわゆる「ユーラシア」という地政学的空間の理論が存
在した。これは20世紀初頭に発展し、旧ソ連の崩壊後に復活した理
論だ。
 だが、当時は、ユーラシアは西と東の間に位置するロシアのユニ
ークな立場と、異なる文明の架け橋の役目を果たす力を表すビジョ
ンだった。現在は「アジア」が「ユーラシア」をも圧倒している。
 欧米の制裁は1年前に発動されたが、ロシアの外交政策における
「アジア・トレンド」、そして、その結果としてロシアの商業関係
におけるアジア・トレンドが新たに語られるようになったのは、つ
い7〜8カ月前のことだ。制裁がこのプロセスを引き起こすきっかけ
になったように見える。
 最初は、西および東との関係に関するロシア政府の発言が変わっ
た。政府の発言はそれほど強烈な反欧米キャンペーンではなかった
。今でさえ、ロシアのプロパガンダは米国のそれほど活発でもなけ
れば高度でもないように思える。
 だが、制裁によって強力な感情的背景が生まれたのは確かで、ロ
シアの雰囲気全体が明らかに変わった。これを受け、アレクサンド
ル・ドゥーギンやセルゲイ・カラガノフをはじめとしたアナリスト
や政治学者がロシアの「東方シフト」について力強く語るようにな
った。
 だが、制裁によって瞬時に西側の資本市場から締め出されたロシ
ア企業と起業家は、新たなチャンスを模索することを余儀なくされ
た。東方シフトに関連する事業計画はすべて、政府の承認と支援を
得ている。
 そうした東方シフトは多くの意味でかなり難しいように見える。
過去4世紀にわたって、ロシアは欧州および西側をじっと見つめてき
たからだ。
 しかし、こうした東方シフトは正しく、有望な針路だと見られて
いる。ロシアの政財界では少しずつ、政治的にも経済的にも「欧米
との未来はない」という意見が形成されつつある。
 ロシアが前回、これほど強烈に西側を否定し、大きく東を向いた
のは、恐らくロシア革命後に内戦が繰り広げられていた1918〜25年
のことだ。
 当時のロシアは、ソ連に対抗する攻撃的な西側同盟と対峙してい
た。
 ここで興味深い疑問は、この「アジア・トレンド」が欧米諸国と
の関係が正常化した時にすぐに衰える短期的なアプローチなのか、
それとも本物の長期的なトレンドで、東アジア、東南アジア、南ア
ジア諸国との本格的なパートナーシップに発展するものなのか、と
いう問いだ。
 新たな「東方シフト」の兆しが見えてきたのは、2012年、ウラジ
ーミル・プーチン大統領がロシア国家の21世紀全体の概念として極
東シベリア開発を宣言した時のことだ。同じ年に極東開発省が創設
された。こうした段階を考えると、ウクライナ危機と欧米の制裁に
よってアジア・トレンドが引き起こされたと言うのは不適切かもし
れない。
アジア回帰への第一歩
 全ロシア社会団体「実業ロシア」のアレクセイ・レピク議長は今
年2月に東京を訪問した際、1990年代のロシアを振り返り、痛みを伴
う体制移行と完全な混乱状態の時代について語った。
 「あの当時は欧米との協力の方が容易に思えた。というのも、ロ
シアの支配階級は政治家も実業家も、合理的な西側のビジネス文化
に属する迅速な決断と迅速な成果を切に必要としていたからだ。ア
ジアでは、ずっと多くの時間と忍耐、長期的な計画立案が求められ
る」
 レピク氏の意見では、ロシアは環太平洋の重要性を理解するのが
遅く、この地域におけるロシアの活動は本来、数十年前に始まって
いるべきだった。ただ、ひとたび始まったら、そのプロセスは覆せ
ないと見ている。
 ウクライナ危機と経済制裁は間違いなく、経済・貿易の関係、外
交努力、人脈の力点を東アジア、東南アジア、南アジアへと再配分
する動きを加速させた。
 「ロシア・ベンチャー・カンパニー(RVC)」のユージーン・クズ
ネツォフ副社長は、タイムリミットは最短で3年だと判断している。
 「今が正念場だ。不安定な状況は我々に、より迅速かつ効果的に
行動することを迫っている。だが、もし今、ここで追い風に乗った
ら、ロシアはずっと豊かで開けた地平線を見渡すことになるだろう」
 では、日本にとって、このロシアのトレンドはどんな意味がある
のか。新しい政策の枠組みの中で、日本は自然で望ましいパートナ
ーの1つと見なされている。日本が米国の制裁を支持したという事実
でさえ、ロシアの政治家や実業家の気持ちを冷え込ませることはな
かった。
 日本による制裁は「名目上の措置」と呼ばれている。この措置を
日本の対米依存への深い後悔と併せて理解していることを表す呼び
方だ。
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過激派組織IS イラクで劣勢もシリアで攻勢
4月3日 4時21分NHK
過激派組織IS=イスラミックステートは、イラク北部の主要都市
から撤退し、劣勢が伝えられる一方で、隣国のシリアでは首都近く
で攻撃を仕掛けるなど、支配地域を拡大する動きを見せています。
イラクの政府軍は、アメリカなど有志連合による空爆の支援を受け
、北部の主要都市ティクリットの大部分を過激派組織ISから奪還
し、逃走するISの戦闘員の掃討作戦を進めるとともに、ISの最
大の拠点モスルの奪還を目指しています。
これに対し、ISは、イラクでティクリットから撤退し、劣勢が伝
えられる一方で、隣国シリアでは1日、首都ダマスカス郊外の反政
府勢力が拠点とする地区に攻撃を仕掛け、地元の活動家によります
と、戦闘は2日も続いているということです。
ISは、シリア北部や東部の広い範囲を支配していますが、アサド
政権や反政府勢力が勢力を維持している南部の首都の周辺に攻撃を
仕掛けるのは極めてまれです。
これについて、イギリスを拠点にシリア国内の情報収集をしている
「シリア人権監視団」は2日、NHKの取材に対して、「ISは、
シリア全土、特に首都ダマスカス周辺に勢力を広げていることを誇
示するねらいがある」と分析しています。
ISは、シリアがイラクとは異なり、有志連合と連携する地上部隊
が展開していないことから、支配地域の拡大に力を入れているもの
とみられます。
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米国のエジプト政策転換 
現実政治が理想主義を凌駕する
2015年04月03日(Fri)  岡崎研究所  WEDGE
ワシントンポスト紙のコラムニスト、イグネイシャスが、2月26日付
同紙のコラムにおいて、オバマ政権の対エジプト関与政策を歓迎し
、米国はエジプトの人権侵害を批判するべきだが、経済、政治、軍
事的援助を強化して、同盟国になるべきである、と述べています。
 すなわち、オバマ政権の高官はエジプト関与政策の決定は、「理
想主義に対する現実政治の勝利の事例」といったが、正しい政策的
選択である。
 確かに、シシ大統領の行動はその決定を難しくさせた。反対派へ
の弾圧は、今やムバラクに匹敵する。ムスリム同胞団に対する取り
締まりは、世俗的な活動家を含めるまでに拡大している。
 しかし、スンニ派アラブ世界が、イランとISという二つの地震に
揺さぶられている今、エジプトは重要である。オバマ大統領は、エ
ジプトに経済的、政治的、軍事的援助を供与すべきである。エジプ
トが滑り落ちるリスクの大きさは、責任ある政権であれば無視し得
ない。
 強いエジプトを望むのであれば、オバマは、二股をかけるべきで
はない。エジプト人は、米国が真の同盟国であることを知る必要が
ある。米国は、人権侵害への批判は続けるべきだが、エジプトの成
功を望む友好国としての批判であることを明確にすべきである。
 ケリー国務長官は、経済支援を重視している。エジプト経済は、
IMFの予測によれば、GDP成長率は過去4年の平均2%から今年は3.8
%に上昇し、徐々に5%に達するであろう。これは良いニュースであ
る。
 エジプトは、軍事援助も望んでおり、ISと戦っている今、その要
求には正当性がある。昨年12月の延期の後、議会は、F-16戦闘機、
エイブラムズ戦車などの武器のために、13億ドルを出すよう政権に
促した。米国により武器と訓練を受けた強力なエジプト軍は、地域
の安全保障にとりプラスとなる。
 米国の後押しを受けた強いエジプトは、スンニ派世界のバックボ
ーンを強化し、米国がイランとの新たな同盟を結ぼうとしていると
の懸念を和らげ得る。
 エジプトは、過激主義との戦いのイデオロギー的側面においても
、ますます重要な役割を果たしている。シシは、イスラム世界を救
うための「宗教革命」を提案した。カイロのアズハル大学の大イマ
ーム、Sheikh Ahmed al-Tayebは、イスラム教の「間違った解釈」を
正すべく、宗教教育の改革を呼びかけた。
 シシはジャーナリストや世俗的活動家を投獄してエジプトの名声
と利益を損ねているが、ここから脱却させる方法は、エジプトを無
視するのではなく、その力と誇りを取り戻すのを助けることである
、と述べています。
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シリア首都周辺を制圧か アルカーイダ系はヨルダン国境検問所
2015.4.2 21:04
 【カイロ=大内清】シリアの首都ダマスカス南部のヤルムーク地
区にあるパレスチナ難民キャンプで1日、イスラム教スンニ派過激
組織「イスラム国」とみられる武装集団と地元民兵が衝突、ロイタ
ー通信はイスラム国側が同キャンプの大部分を制圧したと伝えた。
事実なら、ダマスカス周辺で初のイスラム国拠点となる可能性があ
る。
 一方、シリア南部では同日、国際テロ組織アルカーイダ系の「ヌ
スラ戦線」を含む反体制派イスラム武装勢力が、ヨルダンとの国境
にあるナシブ検問所を襲撃し制圧した。
 ヌスラ戦線などは3月下旬、トルコ国境に近い北部イドリブ県の
県都イドリブも制圧。米欧の支援を受ける反体制派「自由シリア軍
」が指揮系統も確立できずにいる中、イスラム系組織の伸長が目立
っている。
 ヤルムーク難民キャンプには約50万人のパレスチナ難民が暮ら
していたが、同キャンプを拠点とする反体制派と政府軍の戦闘で避
難民が大量発生し、現在の人口は1万数千人程度。1日は、キャン
プに侵入したイスラム国とみられるグループと、パレスチナのイス
ラム原理主義組織ハマスの民兵らが交戦したもようだ。
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「アラブ合同軍」と協力=米国防長官
 【ワシントン時事】カーター米国防長官は30日、アラブ連盟に
よるアラブ合同軍の創設計画について「中東の安定に当事各国がよ
り力を尽くそうとするのは良いことだ」と評価し、設置されれば協
力していく方針を示した。訪問先のニューヨーク州の軍施設でロイ
ター通信などに語った。(2015/03/31-11:38)
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スンニ派とシーア派の両方を支援する米国の苦悩
2015.3.31(火)  Financial Times
(2015年3月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 米国とイランの核協議が合意に近づきつつあり、数十年に及ぶイ
ランと西側諸国との疎遠な関係に終止符が打たれる可能性が出てき
ている中、米国のオバマ政権は中東におけるイランの影響力を大慌
てで抑制しようとしている。
 この矛盾した行動は、中東全域に広がったカオス(混沌)の産物
だ。
 米国はスンニ派とシーア派に分断された中東で、あっけにとられ
てしまうほど複雑に入り組んだ危機に直面しており、一方の国では
スンニ派を支持しながら他方の国ではシーア派を支援するという状
況に置かれているのだ。
 この1週間、米国はイエメンでのサウジアラビア主導の軍事作戦を
支持し、イランのティクリートを巡る戦いでは戦闘に自ら介入した
。スイスに集まった外交官たちが核協議で詰めの交渉を行っている
まさにその時に、イランの利益を抑制する行動に出た格好だ。
 イランに対するこの新たな圧力は大きな戦略の一環なのか、それ
とも急展開した危機への対応でしかなかったのかは、まだ定かでな
い。ただ、交渉の背後に隠れた1つの力学を反映した動きではある。
 もし核協議で合意が成立すれば、この核外交がイランによる中東
支配の先駆けになることを恐れる中東諸国から、米国はイランに立
ち向かえという強い圧力を受けることになるのだ。
イランとの核協議を進める傍らで対抗姿勢
 米国は、深刻化するイエメンの内戦ではイランに対抗する立場を
取っているものの、イラクと「イラク・シリアのイスラム国(ISIS
)」との戦いではイランとともにイラク政府を支持して戦っている。
 さらにややこしいことに、米国と中東における最も親しい同盟国
――イスラエルとエジプト――との関係はかなり緊迫したものにな
っている。アフガニスタンについてもバラク・オバマ大統領は先週
、同国の安定維持に資するためには駐留する兵士の数を向こう18カ
月間、これまでの想定より増やす必要があることを認めざるを得な
かった。
 米国の対応は危機管理の域を出ておらず、総合的な戦略目標がほ
とんどないという批判もある。しかし、米国の直近の動きからは、
イランに対抗しようという姿勢がこれまでよりも強く感じられる。
 イランの支援を得てイエメンで勢力を伸ばしている武装組織「フ
ーシ」にサウジアラビアが空爆を始めた後、米国はこの攻撃への支
持を表明し、サウジアラビアと「合同作戦司令室」を設けることを
明らかにした。
 この作戦がどう展開するかによるが、米国は空中給油などの兵站
支援や空爆のための情報提供などを行う可能性がある。
 イエメンで長らく続いている内戦に介入するというサウジアラビ
アの判断は多方面で疑問視されているものの、イエメンでイランが
あからさまに影響力を強めていくのを座視するわけにはいかないと
いうサウジアラビアの心情には西側諸国も理解を示している。
 「サウジアラビアとしては、イランの支持する勢力がイエメンを
支配することは受け入れられない。だからこそ、あのような形で介
入しないわけにはいかないと彼らは考えたのだ」。英国のフィリッ
プ・ハモンド外相はこう語った。
 アブドラ前国王時代の最後の数カ月間に米国は大っぴらに批判さ
れたが、前国王が死去してからはオバマ政権がサルマン新国王との
関係修復を試みており、新国王即位の数日後にオバマ大統領がサウ
ジアラビアを急遽訪問したりしている。
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イエメンからの脱出本格化=中国など海軍艦船で支援
 【北京時事】サウジアラビア軍などの空爆を受けて治安情勢が急
速に悪化するイエメンから自国民を脱出させるため、中国など各国
が緊急の避難対策を本格化している。中国は既にソマリア沖アデン
湾で海賊対策に従事していた海軍艦隊の任務を一時中断し、急きょ
艦船をイエメンに派遣した。
 新華社電によると、ミサイルフリゲート艦「臨沂」などがイエメ
ンのアデン港とホデイダ港に入港。29日に中国人122人をアデ
ン港から隣国ジブチに脱出させ、30日には残る449人を乗せた
艦船がホデイダ港を出発した。避難が必要な中国人全員の脱出が完
了し、ジブチからは空路で帰国する。(2015/03/30-23:09)
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内戦への道を歩むイエメン 
――シーア派系フーシ派の目的は何か 
Who are Yemen's Houthis?
エイプリル・ロングレー・アレイ  国際危機グループ
 フォーリン・アフェアーズ リポート 2015年4月号
2015年1月、イエメンでイスラム教シーア派系武装勢力「フー
シ派」が権力を掌握し、議会を解散して暫定政府の樹立を宣言した
。しかし、政治的経験のないフーシ派には、政府を運営し、経済を
管理していく力はない。これまでの問題を批判するだけで、統治上
の責任はほとんど果たせずにいる。一方でイエメンのスンニ派系テ
ロ集団・アラビア半島のアルカイダ(AQAP)は、紛争を宗派抗
争へ持ち込もうと策謀している。実際、フーシ派を侵略者とみなし
ているイエメン中央部のバイダー県を含む地域では、いまやAQA
Pに多くの若者が参加しつつある。地方の部族がAQAPと手を組
む可能性もある。サウジは、外交的にフーシ派を孤立させ、彼らと
軍事的に対立している集団を支援し、フーシ派に明確に敵対する路
線をとっている。一方で、危機を緩和させるためにシーア派のイラ
ンが前向きな行動をみせるとも考えにくい。いまや宗派を軸とする
イエメン内戦のリスクが高まっている。・・・
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人道的介入で破綻国家と化したリビア
―― なぜアメリカは判断を間違えたのか 
Obama's Libya Debacle
アラン・J・クーパーマン  テキサス大学准教授(政治学)
 フォーリン・アフェアーズ リポート 2015年4月号
NATOが軍事介入するまでには、リビア内戦はすでに終わりに近
づいていた。しかし、軍事介入で流れは大きく変化した。カダフィ
政権が倒れた後も紛争が続き、少なくとも1万人近くが犠牲になっ
た。今から考えれば、オバマ政権のリビア介入は惨めな失敗だった
。民主化が進展しなかっただけでなく、リビアは破綻国家と化して
しまった。暴力による犠牲者数、人権侵害の件数は数倍に増えた。
テロとの戦いを容易にするのではなく、いまやリビアは、アルカイ
ダやイスラム国(ISIS)関連組織の聖域と化している。「もっ
と全面的に介入すべきだった。社会を再建するためにもっと踏み込
んだ関与をすべきだった」とオバマ大統領は語っている。だが、実
際には、軍事介入の決定そのものが間違っていた、リビアには軍事
介入すべきでなかった。
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アラブ軍「20〜30万人規模」 首脳会議 対テロ、創設合意
2015年3月30日 tokyo朝刊
 【シャルムエルシェイク(エジプト東部)=中村禎一郎】アラブ
連盟(二十二カ国・機構)は二十九日に開催した首脳会議で、テロ
リズムを含むあらゆる危機に対処することを目的とする「アラブ連
合軍」を創設することで合意した。エジプトのシシ大統領が演説で
明らかにした。連合軍創設は初めて。
 シシ氏は演説で「アラブの指導者は『アラブ連合軍』を創設する
決断をした」と述べた。一方、アラビ事務局長は首脳会談後の記者
会見で「連合軍の規模は二十万人から三十万人になるだろう。参加
するか否かは各国の選択となる」と話した。首脳会議では声明も発
表され、連合軍を「アラブの安全、とりわけテロリズムへの対策と
してわれわれは努力していく」と説明している。
 連合軍はリビアやエジプト東部で台頭する過激派組織「イスラム
国」(IS=Islamic State)を念頭にシシ氏が提唱
。イエメン情勢とは直接関連しないが、地上戦に突入するような事
態となれば、連合軍が軍事介入する可能性も否定はできない。
 一方、首脳会議の声明ではイエメン情勢にも言及。首都サヌアを
掌握し、ハディ暫定大統領が拠点とする南部アデンに進攻している
イスラム教シーア派系武装組織フーシ派の行動を「クーデター」と
表現している。
 「イエメンは国際社会の行動を必要としている。フーシ派が武器
を置き、イエメンが安定を取り戻すまで行動は続く」とも表明。サ
ウジアラビアが開始したイエメンへの軍事介入に賛同する姿勢が示
されている。
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エジプト大統領、アラブ連合軍に言及 対「イスラム国」 
2015/2/23 9:38 日経
 【カイロ=押野真也】エジプト大統領府は22日夜(日本時間23日
未明)、シシ大統領のテレビ演説を国営テレビを通じて発表した。
過激派「イスラム国」に対抗するため、サウジアラビアやヨルダン
などとの結束が重要だと強調し「アラブ諸国の軍が結束する必要性
が日に日に高まっている」と強調。アラブ連合軍として過激派の脅
威に対抗する必要を訴えた格好だ。
 演説は事前に録画されたもの。シシ氏はこれまでにサウジアラビ
アやヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)などがエジプトへの軍
事協力を表明したことを明らかにした。国境を越えて勢力圏を広げ
るイスラム国に対し、アラブ各国と軍事作戦上の連携を深めること
を探る。
 今月15日、キリスト教の一派であるコプト教徒のエジプト人21人
が、リビアで殺害された。エジプト軍は報復として、16日にリビア
領内のイスラム国の拠点を空爆。22日の演説でシシ氏は「(リビア
領内のイスラム国の拠点)13カ所を攻撃した」と明かし、今後も攻
撃を続ける意向を示した。
 22日にはリビアの首都トリポリにある駐リビア・イラン大使公邸
に爆弾が仕掛けられて爆発した。死傷者はいなかったが、中東の衛
星テレビはイスラム国に関連する組織の犯行の可能性が高いと報じ
ている。リビアでは、重要施設である外国の公館を標的としたテロ
が頻発している。
 リビアの治安悪化を放置すれば、隣国のエジプトやチュニジアな
どに武器や戦闘員が流入し、周辺国に悪影響が及ぶとして、警戒す
る声が強まっている。エジプトは今後、サウジやUAEなどととも
に、米国や欧州諸国にリビア問題で協調するよう呼びかける方針だ。



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