5332.米国は核兵器でロシアに対抗するか



米国は核兵器でロシアに対抗するか
ーロシアの核戦力の強化と有事即応態勢の強化ー
DOMOTO    2015/04/01
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735

3月後半になって以下のような関連情報が入ってきました。
このような情報がロシア各地で3月15日以降、数日間にわたり集中
して出てきた背景的なことについては、3月26日の私の記事で解説
してあります。

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クリミアに核爆撃機投入=ミサイル原潜も臨戦点検?ロシア軍
2015.3.19. 時事通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150319-00000033-jij-int

【モスクワ時事】インタファクス通信によると、ロシア国防筋は18
日、北方艦隊などが実施中の軍事演習の一環として、ロシアが編入
したウクライナ南部クリミア半島に核兵器搭載可能なTU22M3
戦略爆撃機10機を投入すると明らかにした。

 また、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は18日、極北ムルマンス
ク州の北方艦隊基地を訪れ、弾道ミサイル原子力潜水艦が搭載する
潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の臨戦態勢を点検した。

 プーチン大統領は15日の国営テレビ特番で、昨年2月からクリ
ミアに軍事介入した際、核兵器の臨戦態勢に入る用意もあったと証
言した。一連の演習や点検には、核戦力を誇示し、北大西洋条約機
構(NATO)をけん制する狙いがあるもようだ。
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【◆◆以下の記事では、次のURLの地図(「西側とロシアの核兵
器の配置図」)を参考にしてください。】

http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/GALLERY/show_image_v2.html?id=http%3A%2F%2Fblogs.c.yimg.jp%2Fres%2Fblog-e3-f2%2Fbluesea735%2Ffolder%2F1119307%2F05%2F39313605%2Fimg_0%3F1427619840


■■西側とロシアの核兵器の配置図(※上記URL) ※nuke:核
兵器 base:基地
(出典:"THE EUROPEAN CHESSBOARD: Here's A Map Of The Russia-NATO Confrontation" Business Insider, SEP. 29, 2014)

【◆◆以下の記事は、2月26日に発信したものです】
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【目次】
【序】バルト3国、モルドバ、ロシアの標的に
【1】ゲラシモフ参謀総長の攻撃戦略
【2】クリミアに核兵器はあるのか
【3】米国は核兵器で対抗するか
【結語】

    【序】バルト3国、モルドバ、ロシアの標的に

ウクライナ情勢は、停戦発効後も戦闘が続き混沌としています。こ
の2月には米国による武器供与も検討され、ロイターなどでは、プ
ーチンが支配力を広げ、「欧州の地図を書き換える」ことを憂慮す
る記事もいくつか出てきています。

『ファロン英国防相は先週、プーチン大統領がエストニア、ラトビ
ア、リトアニアに「現実的かつ当面の脅威」を引き起こしていると
指摘。欧州委員会のドムブロフスキス副委員長も、ロシアが欧州の
地図を武力で書き換えようとしていると述べた。』

焦点:プーチン氏が描く「支配地図」、ウクライナで読み誤った欧
州(2/24-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jpUkraine/idJPKBN0LS0F520150224?sp=true

『米国防当局と軍の高官は(2月)25日、ウクライナに介入した
ロシアが次のステップとして、モルドバや北大西洋条約機構(NA
TO)加盟国であるバルト3国の不安定化を図る恐れもあると警告
した。』

バルト3国、ロシアの標的に=モルドバでも「情報戦」?米高官(2/26-2015 時事通信)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2015022600176

ジェームズタウン財団が、ロシアの1月28日の『ライフニュース』
誌の情報として伝えたところによると、NATOは、北はエストニ
アから南はブルガリアにかけての東欧・中欧圏に6か所の常時指揮
統制センターを新しく設置する予定です。

Russian Military Command Sees Need to
Counter Growing Western Threat (2/05-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43504&tx_ttnews%5BbackPid%5D=7&cHash=0f41c50c47d6760daaac051e92052909%20-%20.VOCgwPmsUxM#.VO1aBPmsUxM

これには米国からの参謀将校らも加っていますが、昨年からロシア
に対して準備を進めている5000人以上からなる緊急展開部隊の指揮
統制センターとなるそうです。
ウクライナの次は、エストニア、ラトビア、リトアニアなどのバル
ト三国(旧ソビエト連邦構成共和国)のどれかがロシアの侵略対象
になるということは2014年の夏ぐらいから言われていました。

米国もNATOも現在に至っては、すでにロシアの他国侵略の意思
はウクライナだけではないとして、万一の場合の戦争への備えをし
ているようです。

    【1】ゲラシモフ参謀総長の攻撃戦略
      ?ロシアの核戦力の強化と有事即応態勢の強化?

先に挙げた“Russian Military Command Sees Need to
Counter Growing Western Threat”の記事の執筆者、パベル・フェ
ルゲンハウアー氏が、重大な情報をロシアのマスコミ記事から集め
て掲載しています。フェルゲンハウアー氏はロシアの軍事と外交の
専門家です。

それはロシアのワレーリイ・ゲラシモフ参謀総長の、米欧・NATO
へ対抗した軍事戦略に関する発言です。

フェルゲンハウアー氏は、はじめに現在のロシアの財政難、そして
それにより軍事予算を削減しろという専門家たちの声があることに
ついて述べます。
そして、そのような財政下に置かれている、ロシア軍の資金も含め
た諸々の資源を、常時の即応(臨戦)態勢の強化と戦略核戦力の強
化に<集中させろ>というゲラシモフ参謀総長の発言を伝えていま
す。

これは1月の終わりにモスクワで開かれた、ロシア軍の幹部による
国防省の研究会で、ゲラシモフ参謀総長がそう発表したとのことで
す。

『西側との行き詰まりの中でゲラシモフ参謀総長は、劇的に有事即
応態勢を強化し、ロシアの陸海空での戦略核戦力の破壊力を劇的に
強化する、差し迫った取り組みに諸々の資源を集中させる必要性を
強調した。』(1月30日のロシア国内での報道)

In the standoff with the West, Gerasimov stressed the need 
to concentrate resources on an urgent effort to dramatically 
increase the battle readiness and firepower of
Russia’s strategic nuclear forces on land, sea and air.

以下は、フェルゲンハウアー氏の記事による、1月30日のロシア・
メディアによるゲラシモフ参謀総長の発言(発表)に関する部分の
抄訳と要約です。

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ゲラシモフ参謀総長:「ボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の
2隻の機能を向上させ、これらを太平洋艦隊から欧州方面へ移動さ
せ、2015年の内に<常時の即応態勢>をとらせる予定である。これ
らの潜水艦にはそれぞれ20発の弾道ミサイル(SLBM)が搭載
される。そしてこの戦闘に即応する態勢のボレイ級潜水艦の数は3
隻にするつもりである。」

ゲラシモフ参謀総長は、2015年の内に地上発射型の大陸間弾道ミサ
イル(ICBM)の新しい4個連隊が、<常時の即応態勢>をとる
部隊として配置される予定であると発表した。標準的な地上発射型
の戦略ミサイル部隊(RVSN)の連隊は10発のICBMから構
成される(10発のICBMの数は変わることもある)。
ゲラシモフ参謀総長は、2015年の内に50発以上のICBMを増や
す計画も発表した。

このほか空軍戦力についてゲラシモフ参謀総長は、長距離<核弾頭
>巡航ミサイルを搭載できる長距離爆撃機の有事即応態勢を80%
レベルまでに高めるという目標を断言した。これらの長距離爆撃機
は冷戦期に造られたものも多いが、それらは2015年に現代化するよ
うである。

Russian Military Command Sees Need to
Counter Growing Western Threat (2/05-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43504&tx_ttnews%5BbackPid%5D=7&cHash=0f41c50c47d6760daaac051e92052909%20-%20.VOCgwPmsUxM#.VO1aBPmsUxM

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    【2】クリミアに核兵器はあるのか
ゲラシモフ参謀総長の、米欧・NATOへ対抗した有事即応態勢の
整備と陸海空の核戦力の強化についての発表を見てきましたが、米
国の専門家はロシアの攻撃力についてどのような考えを持っている
のでしょうか。

オバマ政権を支える有力シンクタンクにブルッキングス研究所があ
りますが、そのシニア・フェローのスティーブン・パイファー氏は
、ロシアの核戦力には核戦力で対応してはいけないと言います。

パイファー氏は、元ウクライナ米国大使で国家安全保障会議(NS
C)のスタッフも務めた経歴をもち、ブルッキングス研究所では軍
備管理の問題とウクライナとロシアの問題に重点的に取り組んでい
ます。
パイファー氏は2月上旬、米国の元高官らとともに、米国によるウ
クライナへの軍事支援を支持する報告書を発表しています。2月19
日にはロイターに同氏の寄稿が掲載されています。

コラム:ウクライナへの武器供与、「第3次大戦」の引き金か(2/19-2015 スティーブン・パイファー)
http://jp.reuters.com/article/jpRussia/idJPKBN0LN0K020150219?sp=true

私が今回取り上げるのは、これとは別にパイファー氏がNATOに
よる核兵器の配備の是非を検討した記事です。

Russian Nukes in Crimea? A Better Way to Respond (2/02-2015 ブルッキングス研究所)
http://www.brookings.edu/research/opinions/2015/02/02-russia-nuclear-weapons-crimea-better-us-response-pifer?rssid=russia+and+eurasia&utm_source=feedblitz&utm_medium=FeedBlitzRss&utm_campaign=FeedBlitzRss&utm_content=Russian+Nukes+in+Crimea%3f+A+Better+Way+to+Respond

記事タイトルが「ロシアの核兵器はクリミアにあるのか?」となっ
ていますが、これは2014年の冬ぐらいから、クリミアにロシアが核
兵器を配備したという「うわさ」があるのを記事中で扱っているた
めです。

パイファー氏によれば、プーチンはすでに、クリミア半島に核攻撃
が可能な2つのシステム?イスカンデール-M短距離弾道ミサイルと
「バックファイアー」爆撃機?を置くことを承認しているそうです。
しかし、パイファー氏は、クリミアにこれらの兵器と核弾頭が配備
されているかについては不明であるとしています。ただし、クレム
リンは、クリミアに核兵器を置くことに拘束は受けないと強く主張
しているそうです。

米国科学者連盟のハンス・クリステンセン氏よれば、クリミアに核
兵器をおき、爆撃機「バックファイアー」に搭載すれば、南ヨーロ
ッパでの核攻撃能力が高まると指摘しています。

Rumors About Nuclear Weapons in Crimea (2014/12/18 米国科学者連盟)  
http://fas.org/blogs/security/2014/12/crimea/

ここで確認しておきたいのは、2014年12月下旬、ロシア大統領府の
サイトで発表された新軍事ドクトリンでは、核兵器による「予防攻
撃」の条項はなかったということです。しかし、プーチンの場合、
これはあくまでも原則論に過ぎないかもしれません。

ロシアの新軍事ドクトリンの主な条項(2014/12/26 ロシアの声)
http://japanese.ruvr.ru/news/2014_12_26/281735304/

昨年9月の私の記事でお伝えしましたが、ロシアのマスコミでは、
新しい軍事ドクトリンの条項に「予防的<核>攻撃」の文言が入る
かどうかで騒がれていたのです。

    【3】米国は核兵器で対抗するか
ロシアと西側との軍備管理が専門であるパイファー氏は、避難用の
航空機硬化シェルターを東欧に造り、核攻撃が可能な戦闘機(dual
-capable aircraft)とB61核爆弾を東欧に配備するのは、浅はか
な考えだと主張します。
(※注:米国科学者連盟によれば、米国は160?200個のB61
核爆弾をドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、トルコの6か所
の飛行場に持っています。)

その3つの理由として第一に、そのようなことをロシアのすぐ近く
の東欧ですれば、それらの核兵器やその運搬戦闘機を、ロシアの先
制攻撃に対してより脆弱にしてしまうことを挙げます。

First, locating dual-capable aircraft and B61 bombs 
in Eastern Europe would put them much closer to Russian 
territory and make them more vulnerable to preemptive attack.

次に、東欧に核兵器の能力を配備するのは、ロシアのすぐ隣であり
余りにも挑発的過ぎることを挙げています。

そして第三の理由として、次のことを挙げます。

『(NATOの)多くの同盟国が、東欧での核兵器の配備に反対す
るだろう。それはNATOの政策と矛盾する(であろう)からだ。
1997年、NATOは、加盟国を拡大させる時、新しい加盟国の領土
では核兵器の配備を「意図しない、計画しない、その理由がない」
という3原則を表明した。』

結論としてパイファー氏は、「米国の核兵器を先制攻撃に対してよ
り脆弱にし、NATOの同盟国内で核兵器の配備をめぐり意見が対
立するような行動は、米国のとるべき方法ではない」と言い、「米
国の核兵器を使わない通常戦力を東欧で強化することが、はるかに
理に適っている」と主張しています。

But an action that would make U.S. nuclear weapons more vulnerable 
to preemption and divide the Alliance is not the way to go. 
Strengthening U.S. conventional military power in Eastern Europe 
makes far more sense.

    【結 語】
ブルッキングス研究所は米国の民主党系のシンクタンクですが、そ
こに現在所属するスティーブン・パイファー氏の上のような結論も
また、良い悪いは別として民主党らしい方策であると思います。こ
れが政権に共和党がついていたら、もっと強硬な方策が多く主張さ
れていたことでしょう。

第1節のゲラシモフ参謀総長の戦略発表の記事を執筆した、ジェー
ムズタウン財団のフェルゲンハウアー氏が、グルジア侵攻の時を例
に挙げて最後にこう述べていました。

「何かを手に入れようとするたびに、核兵器を振りかざすロシア」

2014年3月の『ニューズウィーク』誌は、「ウクライナで打撃を受
けたのはアメリカの核戦略である」と言っていたそうです。

ロシアは中国とともに、米国の行動様式と異なる「新しい世界秩序
」を確立しようとしていますが、その中国は、このようなロシアの
行動と米国の対応を充分に研究して、その戦略に生かしてくると考
えます。

■■関連リンク

ロシアの核兵器戦力の準備とウクライナ?NATOを背後に?(2014/09/11 拙稿)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39024587.html

ロシア極東での大軍事演習?米国を想定した軍事演習「ボストーク2014」?(2014/10/09 拙稿)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39065595.html



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