環境問題と経済にご関心の高い皆様へ 平成27年(2015)3月14日(土) 「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治 縮小社会研究会会員 去る3月1日、私も会員である縮小社会研究会の第3回総会で「成長の 損益分岐点を考える〜大人には大人の経済学がある〜」と題する 浜 矩子氏(同志社大学教授)のお話を聞く機会がありました。多くを 学ばさせて頂き、全てではありませんが共感を覚えるところが多く ありましたので、報告させて頂きます。 このレポートは私の講演メモに基づいて記しており、経済は専門外 であり、一部誤解、理解不十分な点があるかも知れません。その場 合はご容赦下さい。 浜 矩子氏の講演 テーマ「成長の損益分岐点を考える〜大人には大人の経済学がある〜」 平成27年(2015)3月1日 於 同志社大学志高館=烏丸キャンパス 浜 矩子(はま のりこ)氏に関しては、内外メディアに執筆や出演 されている著名な方ですので、紹介は省略させて頂きます。 1.アベノミクス批判 講演の冒頭、安倍首相による、経済政策(アベノミクス)に対して 鋭い批判が飛び出しました。「アホノミクス」という呼び方をされ たでしょうか。浜氏を紹介するWikipediaにもこの表現がありました。 会場では「アホノミクス」という言葉に笑声が漏れていましたが、 多くの国民はアベノミクスを評価していると言えるでしょう。現に 昨年末、平成26年(2014)12月21日行なわれた第47回総選挙で、安倍 首相の下で戦った与党=自民・公明両党は326議席と現議席を維持し 、対する民主党は公示前の62議席から73議席と上回ったものの、海 江田代表が落選するなど、政権交代に至るレベルには遠く及びませ んでした。民主党は、国民が国政を託すに値する代替案を示すこと が出来ていないと言えるでしょう。国民の多くは年率2%以上の経済 成長を目指すと言うアベノミクスを支持したのでしょう。まだまだ 経済成長神話というか、大多数の国民は経済的に豊かになることを 期待していると言えます。 ただ、私は、経済成長主義には大いに疑問を持っています。 浜 矩子氏は、現在の仕組みのままでは、経済成長は富む人をます ます富ませるだけであり、貧困層はその成長の恩恵を受けないから という理由で批判的でした。 私は、むしろ地球環境容量に限界があり、特にエネルギー源を中心 とする地下資源が枯渇すれば、いずれは太陽光の下で成長する動植 物を活かしながら、生活し、経済活動をするレベルに落ち着かざる を得ないと予想しています。 仮に成長できても一時的なものであり、次世代に残すべき地下資源 を先に消費してしまうことに繋がる、と認識しています。 しかし、このアベノミクスへの批判以外では、浜 矩子氏からの話 は、大いに学ばさせて頂くものがありました。次項で述べさせて頂 きます。 2.大人には大人の経済学がある 浜 矩子氏の主張点(以下、私なりの理解で纏めてみます) 彼女の主張のポイントは「大人には大人の経済学がある」という 言葉に表現されているようです。そして成長には分岐点があり、「 低すぎても高過ぎても駄目」という考えです。 経済成長とは、経済規模が大きくなることを意味し、成長率は拡 大率と置き換えても良いが、それは経済の質的上昇をもたらさなけ ればならないのです。そこには頃合いの成長率があり、本来、人間 を幸せにするものであるはずだが、現実にはそうなっていないので はないでしょう。 経済活動は、人間社会のみに存在します、そしてそれは人間の、人 間による、人間にしか存在しない活動です。繰り返しますが、本来 、人間を幸せにすべきものであるべきです。 しかし、経済が発達し過ぎて、利益追求主義で人間性を損ねていま す。例としてブラック企業が挙げられます。経営者が利益ばかりを 追究し、そこで働く従業員に過酷労働、低賃金を強いているのです。 経済活動・経済成長が人間に取って良い方向に持って行ってくれる かが、大事なポイントでしょう。 経済が成長することが必要とする場面は3つあります。 @ 全てがこれから始まる時 社会全体が未だに貧しい時あるいは社会が若い時です。発展途上国 がこの段階に当てはまりましょう。 A 全てが失なわれた時 日本は、第2次世界大戦の敗戦時、大都市は焼け野原となりました。 そこから成長に向け再スタートしたのです。 ある段階までの中国もそうでした。7%成長率辺りがその分岐点であ ったと思われます。 B 多くの事実が隠蔽される必要性がある時 今の中国が当てはまりましょう。多くの矛盾を抱える中国は経済成 長を続ける必要性に直面しているのです。 不都合な真実があまりに多いからです。 現時点の日本の場合、下記の通りで、中国とは様相を異にします。 @ 既に豊かで、成熟した社会です。 A 多くのものが達成され、一定のレベルに達しています。 実例として、今講演させて頂いている、この新しく立派な同志社大 学至高館(烏丸キャンパス)の建物が挙げられましょう。 同志社大学至高館 正面 2012年建立 烏丸今出川 https://www.doshisha.ac.jp/information/campus/imadegawa/karasuma.html B 高度に自由な民主主義社会です。高成長を追究すべき社会 では最早ありません。2%の成長率でも高過ぎる成長率でありましょ う。アベノミクスはアナクロニズム(時代錯誤)と言えます。 2%経済成長すれば、完成された良い社会を崩す方向になると思 われます。十分に経済成長したので、成長によって得られるものが プラスマイナスする交差点である損益分岐点を通過した社会という 事でしょうか。 中国は、成長オンリーの状態でそれにより、多くの矛盾を隠してい ます。 日本で大事なのは分配です。資本主義の果実を如何に裾野まで分配 するかが課題なのです。日本では年収120万円以下の貧困層が16.1% も占めています。これは2012年のデータですが、日本の貧困層割合 は高く、世界で29位のレヴェルにあります。先進国とは言えません。 所得金額 (万円) 相対度数 (%) 100万円未満 6.6 100-200 12.7 200-300 13.9 300-400 13.3 400-500 10.0 500-600 8.9 600-700 7.1 700-800 6.2 800-900 5.1 900-1000 3.9 1000-1100 3.0 1100-1200 2.1 1200-1300 1.7 1300-1400 1.3 1400-1500 0.9 1500-1600 0.9 1600-1700 0.5 1700-1800 0.4 1800-1900 0.2 1900-2000 0.2 2000万円以上 1.2 筆者:彼女の主張に適合する適当な絵図などが見つからないのです が、左図に日本の1世帯あたりの所得分布グラフを示します。 左図 日本の世帯当たりの所得分布 (四捨五入などの関係で、相対度数をすべて足しても丁度100%には ならない。厚生労働省, 平成21年 国民生活基礎調査の概況 より) 大人の経済学は如何にあるべきか 歴史的先人に二人の先生がいます。一人は孔子、彼は「己(おのれ) の欲するところに従えども矩(のり)を踰(こ)えず」(論語)と言っ ており、収入を得てもある矩(のり)(基準)を超えないことを諭し ています。 西洋のアダム・スミスは、「共感性を持った人間が営むべき経済活 動が大事」(国富論)であり、それによって見えざる神の手が働き 、社会のバランスが保たれると言っています。人の不幸に同情する 共感性が欠かせないのです。 これらのために必要な三つの道具があります。下記の三つです。 耳⇒傾ける耳 眼⇒涙する眼 手⇒差し伸べる手 昨今、ピケテイー現象が顕著です。彼は富の集中化を、グローバル 経済の問題点として指摘しています。そして GDP(国内総生産)に 替わる指標が求められているのです。 上図:所得上位者による所得シェアーの増大(OECD 諸国のトップ クラスの収入と税金 筆者がインターネットよりダウンロード) 以下 質疑 ここで講演が終わり、質疑に入りました。時間の関係で質問は1件 のみでした。 質問:友人に給料をもらうより生活保護費をもらう方が得だと言っ ている人がいるが、どう思われますか? 回答:給料を上げるべきでしょう。 その財源としては累進課税率を元に戻すべきです。かつて所得税 率は最高75%であったが、現在は45%に過ぎません。 また、金利が低すぎます。この低金利は、国債を大量に発行するた めに維持されています。 以上