5301.習近平の汚職撲滅運動はどうなるか?



習近平の汚職撲滅の矛先が、党人から軍人に変化するようである。
胡錦涛の元秘書官の令計画や江沢民派の周永康が汚職で失脚したこ
とで、仲の悪い団派と上海閥が、一致団結し始め、太子党の習近平
を追い落とす可能性が出てきた。

このため、習近平は、それを嗅ぎつけて、今後、大トラの摘発はし
ないことにして、ハエを捕まえるようである。

これがわかるのは、「中央指導者が老同志を訪ねる」と題するこの
記事で、19日から始まる中国の旧正月を目前に、習近平主席など現
役の「中央指導者」らが、既に引退した江沢民や胡錦濤などの元指
導者(老同志)を訪ねて新年のご挨拶を行ったという内容である。注
目すべきなのは、訪ねられた「老同志」全員の名簿を、人民日報記
事が丁寧に掲載したことである。そして、このことは、曽慶紅・郭
伯雄両氏を含めた彼ら「老同志」全員に「腐敗摘発」の手が及ばな
いことを暗示している。

そして、その矛先を軍人に向けて、汚職撲滅大運動にするようであ
る。このため、中国メディアは、強力かつクリーンな軍の重要性を
説く記事を続々と配信し始め、そういう傾向は2015年に入っても続
いて、1月初めには、中国メディアは、軍高官が関与した16件の汚職
事件について報じた。

これまでの党人に対する反汚職運動の成功は、王岐山・中央規律検
査委員会書記に負うところが大きいが、軍には、汚職を検査する自
前の組織、中央軍事委員会紀律検査委員会がある。ごく最近まで、
両組織の間では協力が欠如していた。軍は党ほどには真剣ではなか
った。

しかし、汚職撲滅運動は、習近平の権力を高める側面と、失敗する
と失脚しかねない側面があり、権力構造のバランスを取りながら進
めるしかないようである。

もし、汚職撲滅の旗がなくなると、習近平の新しい旗が必要になる
が、経済的な進展はないし、国民不満の現状もあり、何か国民が望
む旗が新たに必要になる。

この時、習近平が安易な道を進むとすると、反日という旗が一番手
頃となり、また、日中関係が混乱することになる。汚職撲滅運動が
成功して欲しいのもである。

さあ、どうなりますか?


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行き詰まった習近平の「腐敗摘発運動」
2015年03月05日(Thu)  石平
2015年2月17日、中国共産党中央委員会の機関紙である人民日報が注
目すべき記事を一面トップで掲載した。「中央指導者が老同志を訪
ねる」と題するこの記事は、19日から始まる中国の旧正月を目前に
、習近平主席など現役の「中央指導者」らが、既に引退した江沢民
や胡錦濤などの元指導者(老同志)を訪ねて新年のご挨拶を行ったと
いう内容である。注目すべきなのは、訪ねられた「老同志」全員の
名簿を、人民日報記事が丁寧に掲載して公表した点である。
 それは、たとえば2014年の旧正月の対応とは全然違う。2014年1月
29日に同じタイトルと内容の記事が人民日報に掲載されたが、その
時、記事が名前を挙げた「老同志」は江沢民と胡錦濤の2名だけで、
全員の名簿の発表はなかった。それでは一体どうして、今年は「老
同志」全員の名簿を発表するに至ったのか。その背後にあるのは、
習近平指導部が進めている「腐敗撲滅運動」の変調ではなかろうか。
次の「トラ」と噂の
曽慶紅氏、郭伯雄氏にも挨拶
 習近平指導部が「ハエもトラも叩く」という壮絶なスローガンを
掲げて強力に進めてきた腐敗撲滅運動の中で、元共産党政治局常務
委員の周永康や軍の制服組のトップの徐才厚などの「大物トラ」が
次から次へと摘発されたことは周知の通りであるが、実は周永康と
徐才厚の失脚後、次に血祭りに上げられる「大物トラ」が一体誰な
のか、ずっと関心の的となっていた。
 その中で、周永康と同様に「石油閥」出身の元江沢民派大幹部の
曽慶紅氏や失脚した徐才厚と並んで軍の制服組のトップに居た郭伯
雄氏などの名前が取りざたされていた。この2人がもっとも危ないの
ではないかというのは中国国内外でもっぱらな噂となっている。も
ちろん、もし2人に対する摘発が現実となれば、その意味するところ
は、習近平国家主席の江沢民派に対する全面戦争が決定的な段階に
入るということである。
 だからこそ、つい最近までは、国内外のチャイナ・ウォッチャー
たちは固唾をのんでこの2名の行く末を見守っていたところであった
が、2月17日に公表された人民日報記事の「老同志」名簿には、この
2名を含めた江沢民政権と胡錦濤政権の政治局常務委員・政治局委員
の全員(既に失脚した周永康などを除く)があり、「老同志」として
習近平など現役指導者に訪ねられて新年挨拶を受けたことが判明さ
れた。だとすれば少なくとも2月17日の時点では、彼ら全員「腐敗摘
発」の追及を受けていないことが分かった。
 そして、人民日報記事が彼ら「老同志」全員の名簿を公表したの
はむしろ、今後、曽慶紅・郭伯雄両氏を含めた彼ら「老同志」全員
に「腐敗摘発」の手が及ばないことを暗示しているのではないかと
理解できよう。習近平指導部は、このような形で今後の「大物トラ
の摘発」に関する巷間の噂の取り消しに躍起になっているわけであ
るが、その意図するところは当然、党の上層部の疑心暗鬼を解消し
て江沢民派や胡錦濤派との「和解」をアピールしようとしているの
ではないかと思われる。したがって、習近平指導部の進める腐敗摘
発運動は、少なくとも党の上層部の範囲内ではすでに収束を迎えて
おり、今後は「大物トラ」の摘発はもはやないと見ることもできる
のではないかと思う。
腐敗摘発運動に対する
「三つの“誤った議論”」
 それでは習近平国家主席は一体どうして、自らの肝入りの「トラ
を叩く腐敗摘発」を断念するに至ったのだろうか。その背後には当
然、党内で隠然たる力をもつ江沢民派と胡錦濤派の反撃・反発があ
ったのではないかと思う。特に胡錦濤派の反撃に関しては、昨年12
月26日掲載の私の論文(「習近平VS胡錦濤 加熱する権力闘争」)が
指摘している通りである。おそらく、習近平指導部の無鉄砲な腐敗
摘発運動の推進に危機感を募らせた胡錦濤派と江沢民派が連携して
逆襲することによって、習近平氏はこれ以上の「トラ叩き」を断念
せざるを得ないところまで追い込まれたのではないかと推測できる。
 習近平国家主席に腐敗摘発運動の無制限な推進を思い止まらせた
もう一つの要因は、やはり中国共産党党内で腐敗摘発運動の展開に
対する反対機運が派閥を超えて高まっていることにあろう。つまり
今の共産党政権内では、指導部の進める腐敗撲滅運動に対し、「も
ううんざりだ」という気分が一般的に広がっているのだ、というこ
とである。
 実はそれは、同じ人民日報が今年1月13日に掲載した1本のコラム
を読めばすぐに分かる。
 「反腐敗運動推進のために打ち破るべき三つの“誤った議論”」
と題するこのコラムは、習近平指導部の推進する腐敗運動に対して
三つの「誤った議論」が出回っていることを取り上げ、運動推進の
ためにそれらの「誤った議論」を打ち破るべきだと論じたものであ
るが、この文面からは逆に、今の中国国内(とくに共産党政権内)で
習近平指導部の腐敗撲滅運に対する批判の声がかなり広がっている
現状が窺えるのである。
 コラムは「三つの誤った議論」をそれぞれ、「腐敗摘発やり過ぎ
論」、「腐敗摘発泥塗り論」、「腐敗摘発無意味論」と名付けてい
る。「腐敗摘発やり過ぎ論」とはその名称通り、「今の腐敗摘発は
厳しすぎる。摘発された幹部が多すぎる。いい加減手を緩めるべき
だ」との意見である。「腐敗摘発泥塗り論」とは要するに、共産党
の大幹部たちの驚くべき腐敗の実態を暴露した腐敗摘発運動は、逆
に共産党の顔に泥を塗ることとなって党のイメージタウンに繋がる
のではないかとの論である。そして「腐敗摘発無意味論」とは、「
政権内で腐敗は既に徹底的に浸透しているから、いくら摘発しても
ただの氷山の一角にすぎないので腐敗を根絶することは到底出来な
い、だからやっても無意味だ」という論である。
 コラムが挙げたこの「三つの誤った議論」はいずれも、習政権の
進める腐敗摘発運動に対する批判的意見であることは明らかである
が、一体誰がこのような批判の声を上げているのか、コラムでは触
れていない。しかし一般的に言えば、「腐敗摘発やり過ぎ論」と「
腐敗摘発泥塗り論」の二つはやはり、共産党政権内からの批判では
ないかと推測できる。つまり腐敗摘発運動の中で身の危険を感じた
り賄賂が取れなくなったことに不満を募らせたりしている党内の幹
部が、「それはやり過ぎではないか」という反発の声を上げている
一方、「党の名誉を守る」という大義名分を持ち出して腐敗摘発運
動を批判するような動きも始まっていることがこれで分かったので
ある。
 実際、人民日報のコラムもその文中で、「今警戒しなければなら
ないのは、一部の人が“腐敗摘発泥塗り論”をぶち上げて、反腐敗
運動の推進を阻止しようとしていることだ」と指摘しているのだが
、この「一部の人」は腐敗に染まっている党内の幹部を指している
のだろう。
 そして最後の「腐敗摘発無意味論」はむしろ、民間からの議論で
はないかと思う。多くの民間人は今の腐敗摘発を見て、「共産党幹
部は皆腐敗しているから、いくら摘発しても終わらないからそもそ
も無意味ではないか」と冷めた見方をしていることが推測される。
 つまり、習近平指導部が進めている現在の腐敗摘発運動は党内か
らの反発に遭遇して民間の一部からも冷ややかな目で見られている
ことが前述の人民日報コラムから窺える。さらにこういった批判的
な声が無視できるほどの少数派意見でないことも、人民日報がわざ
わざそれを取り上げて批判していることからも分かる。
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習近平の反汚職運動 
人民解放軍内にどこまで及ぶのか
2015年03月05日(Thu)  岡崎研究所  WEDGE
Diplomat誌のティエッツィ編集員が、1月31日付同誌ウェブサイト掲
載の記事で、習近平は人民解放軍を反汚職運動の次のターゲットに
しているようであり、これまで歩調がそろっていなかった、文民と
軍の規律検査組織が、新たな協力関係を模索する予兆がある、と報
告しています。
 すなわち、人民解放軍内の反汚職運動は、既に、徐才厚、谷俊山
という2匹の「トラ」を捕えたが、概して、軍においては文民組織ほ
ど活発には反汚職運動は進展していなかった。
 しかし状況は変化している。2014年7月の周永康・元政治局常務委
員の立件の後、習近平が人民解放軍を汚職撲滅の次のターゲットに
する兆候があった。中国メディアは、強力かつクリーンな軍の重要
性を説く記事を続々と配信し始め、そういう傾向は2015年に入って
も続いている。1月初めには、中国メディアは、軍高官が関与した16
件の汚職事件について報じた。
 楊宇軍・国防部報道官は、1月29日の記者会見で、人民解放軍にお
ける反汚職運動の多くの新しい展開について説明した。楊は、中央
軍事委員会の査察チームが、今年、全ての主要な軍の組織に対する
査察が実施することになろう、と述べた。つまり、軍においても党
の文民組織と同様、目標は、「トラもハエも捕まえる」のみならず
、汚職行為を防止し懲罰するための法的・制度的メカニズムを実際
に構築することにある。それは、予見し得る将来にわたり、反汚職
運動が持続されるようなメカニズムを作ろうということである。
 それがうまく行くかどうかは分からない。これまでの反汚職運動
の成功は、王岐山・中央規律検査委員会書記に負うところが大きい。
しかし、軍には、汚職を検査する自前の組織、中央軍事委員会紀律
検査委員会がある。ごく最近まで、両組織の間では協力が欠如して
いた。
 軍と文民の汚職検査機関の間で協力するための新たな取り組みが
出て来てはいる。反汚職運動が始まって2年経ち、中央軍事委員会紀
律検査委員が初めて中央規律検査委員会の本会議に出席した。それ
は、新たな協力の時代の予兆であり得る。楊報道官も、記者会見で
、軍事機密が保護されることを条件に、軍側として汚職事件につい
ての透明性を高めることを約束した、と述べています。
出典:Shannon Tiezzi,‘Graft Busters Take Aim at China's Military’(Diplomat, January 31, 2015)
http://thediplomat.com/2015/01/graft-busters-take-aim-at-chinas-military/
* * *
 本論説の主たる論旨は、習近平体制下で反汚職運動が人民解放軍
の中でも強まるであろうが、しかし、それらがうまくゆくかどうか
はわからない、ということです。
 これまで、習体制下において、「虎もハエも叩く」という威勢の
良い掛け声のもと、薄煕来、周永康、徐才厚など政治局員レベルの
幹部を含む多くの人々を訴追してきました。その主たる攻撃対象は
、ほとんどが党関係者であり、レベルの高い軍人としては徐才厚や
谷峻山に限られてきました。しかし、最近になって、中国メディア
も報道しているように、軍内にも摘発の対象を広げようとの動きが
出ています。
 これまで中国の権力構造の中では人民解放軍は一つの「聖域」で
したから、ここに手を入れることは、軍の強い反撥を引き起こす可
能性があり、習近平にとっても容易なことではないでしょう。
 これまでの反汚職運動のターゲットとなってきたのは、主として
江沢民や胡錦濤につながる勢力であり、習側近の「太子党」につな
がる人たちは入っていません。その意味では、この運動そのものが
権力闘争の色合いをもっており、今回の軍内の汚職摘発も当然その
延長線上にあるものと考えられます。
 今日の中国における幹部の腐敗・汚職の度合いは、中国側メディ
アの報道をそのまま信用するかどうかを別として、驚くべきレベル
に達しています。徐才厚(前中央軍事委員会副主席)の受け取った
とされる賄賂の額、その放恣な生活ぶりから、党と軍の間に大きな
違いがないことが分かります。
 かつて中国共産党は「党内の団結、党幹部の廉潔性、効率的な党
運営」を誇示してきましたが、今日の中国共産党は、グループ間で
分裂気味であり、また、幹部たちの腐敗汚職の程度は法外なものと
なっています。





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