5287.農業改革の成功には何が必要か?



農業が今後の日本産業として、大いに期待できるとこのコラムでは
、述べてきた。この産業を活性化するためには、どうすれば良いの
かを議論してこなかった。

安倍政権は、まずJA全中の改革、農協の改革を行い、上から改革し
ていく方向である。この方向を非難しないが、それだけでは農業の
活性化はできない。

今何が問題であるかを探ることが重要である。
農業を活性化するために、コメなどの大規模優位な農業か、農業技
術が優位性を高める園芸農業、それと観光農業の3つの行く道があ
る。このうち、観光農業は検討しない。すると、2つである。コメ
などの大規模農業と園芸農家である。

今まで、単位農協(地域農協)は半行政的機関であり、補助金等の
分配に当たっていて、多くの農協では、農業技術の指導などでの成
果がない。もちろん、浜中農協のように先端的な酪農技術を施行し
ている農協はあるが、少ない。

単位農協の組合員構成では、兼業農家が多く専業農家が少数である
ために、単位農協は兼業農家の便を図っていた。補助金もそのうち
の1つである。このため、専業農家にとって、補助金がありがた迷
惑になっていた事例もあるし、減反政策などは非常に迷惑であった。

このように単位農協が独占的な位置と行政的な位置にいたことで、
専業農家の邪魔をしていたのである。この単位農協を変革すること
が必要である。専業農家中心の組織化のために、専業農家しか正組
合員になれないことにするなどが必要である。

兼業農家の農業収入は年間50万円程度であり、農家というには少
なすぎである。農業収入が500万円以上の農家だけというような
縛りをかけて、農業の活性化に農協も取り組まないと、農協の生き
ていけなくなる。

もう1つが、昭和36年の日本の農地は609万haだったのが平成22年に
は459万haとなり、この減少の内訳は耕作放棄が44%で非農業転用が
55%となっている。

耕作放棄地が増えるのは、不在者地主が増えて、かつ非農業転用を
期待しているから保持しているのである。まず、耕作放棄地には、
農業地の減免を無くし宅地並の税金にすることと、非農地転用を出
来なくすることである。

現時点、人口減少時代であり、宅地での空家が多くなり、農地を新
しく宅地にする必要がない。また、1990年代までに郊外型スー
パーやアウトレット、モールなどが立ち、それもそろそろ限界にな
ってきた。その用地があるので、これ以上には農地転用は必要がな
いはず。

都市をコンパクト化するのであるから、農地転用は必要がない。
そして、これは、農地転売利益を目論む企業の農業参入も阻止する
ことにもなる。特に特養への転換は、つい最近は多かったが、これ
もそろそろ限界であり、家での介護と巡回診療などに切り替える必
要がある。このように農業用地の転用ができないことになると、本
気の企業しか農業への参入をしてくなくなる。

コメの農業技術はそれほど高くなくてもできるが、園芸農業は技術
力が必要で、そのために撤退する企業も多くあるし、利益が出ない
ことにもなる。農業は企業経営より難しい。このため、今までは家
庭農業が中心であったのである。

もう1つが、現時点の大規模農家の多くが、借地で規模を拡大して
いる。企業が強引に参入してくると、大規模農家の借地を狙ってく
る心配があり、このためには、農業委員会を専業農家が委員をして
阻止するなどの仕組みが必要になる。

また、コメ農業は、水利などを村全体で共用しているので、企業の
都合で水を独占したり、水利の共同作業などをしなかったりする心
配があるようだ。特に、撤退後の農地の管理をどうするのかなどが
重要であろう。

農業はそれほどには儲からないからである。企業の利点は外食産業
では自社農園からの食材ということで鮮度管理ができることである
。この例としてはサイゼリアのレタスがそうである。神戸物産やニ
コマートも自社商品の材料として安定的な価格が見込めることが良
いようである。

イオン、ローソン、イトーヨーカ堂なども自社農園の野菜を言うこ
とで、それなりの付加価値がるようだ。ワタミも食材という意味と
企業価値を上げるということというが、もう1つがワタミの老人ホ
ームへの農地転用の可能性が心配である。イオンも老人ホームを経
営しているので、その心配がある。

農林省も農業の構造を変化させることを明確にして、いろいろな法
律があるが、一度整理して、全体像を明らかにする必要があると見
る。

これから先、単位農協(地域農協)の営農支援を充実して専業農家
のための組織になることであり、農協にも競争原理を働かすことが
必要である。農家から高く買い、スーパーや海外などに高く売るか
の仕組みを考えることである。

まだまだ、改革はこれからである。

さあ、どうなりますか?

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減反5年後廃止を決定 首相「農業の構造改革推進」 
2013/11/26 13:48nikkei
 政府は26日「農林水産業・地域の活力創造本部」(本部長=安倍
晋三首相)で、国が農家ごとに主食米の生産量を割り当てて価格を
維持する生産調整(減反)を5年後の2018年度になくす方針を正式
決定した。首相は「農業の構造改革を進め、成長産業とする」と強
調。1970年から40年以上続いてきたコメ政策を転換する。
 環太平洋経済連携協定(TPP)をにらみ、農地集約を通じた農
業の競争力強化を促す。林芳正農相が本部で減反の見直し案を示し
、了承した。来年の通常国会に関連法案を提出する。政府は5年後
から都道府県ごとのコメの需要予測や売れ行き具合、在庫状況の情
報提供にとどめ、農家が自主的に経営判断してコメを作れるように
する。
 首相は「構造改革に逆行する施策を一掃する」と表明。減反に協
力する農家に配っていた補助金も段階的になくす。コメ農家の田ん
ぼ10アール当たり年1万5000円を配っていた定額の減反補助金は、
来年度から半分の7500円に減らして、4年間の時限措置にする。コ
メが基準価格を下回った時に差額分を翌年度に支給する変動補填交
付金は来年度になくす。
 一方、政府は主食米の作りすぎで米価が急落しないように対策を
とる。主食米の生産をやめて、麦、大豆、飼料用米などの生産に転
作した農家に配る転作補助金を増やす。飼料用米を作ると10アール
当たり年間で8万円受け取るが、収穫量に応じて支払う仕組みを取
り入れ、最大10万5000円にする。首相は「食糧安全保障に直結する
麦や飼料用米などの生産を振興する」と語った。
 農家の協力をとりつけるために、10アール当たり最大年5400円の
新たな補助金も設ける。農道の草刈りや水路の泥上げなどに協力し
た場合「農地維持支払い」として年最大3000円を配る。農村の景観
維持を手助けした場合には「資源向上支払い」として年最大2400円
を支給する。
 政府は補助金の見直し後に農家の所得が全国平均で13%増えると
した試算を示している。減反見直しと同時に農家の収入を安定させ
る新たな収入保険を導入する方針で、農家の理解を求める。
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TPP、低関税の輸入枠検討 牛肉など品目別に 
2015/2/1 2:00日本経済新聞 電子版
 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の妥結に向け、政府は牛肉
・豚肉、乳製品など重要農産品の関税を引き下げる「TPP枠」を
つくる検討に入った。項目ごとに低関税や無関税の輸入数量などを
設定し、枠を超えた分は関税を上げて輸入増を抑える。農産物市場
の開放を求める交渉国と、輸入増を警戒する国内生産者のそれぞれ
から理解を得ることを目指す。
 米通商代表部(USTR)のフロマン代表は1月下旬、TPP交
渉全体の妥結…
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政府、「日米実質合意」報道否定 TPP巡り異例の会見
藤田知也2014年5月3日00時37分
 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を担当する渋谷和久内閣審
議官は2日、記者会見を開き、日米の関税交渉について「進展はあ
ったが、合意に至っていない」と説明した。一部の報道機関がこの
日、「日米は実質合意している」と報道したのを受け、政府として
の「公式見解」を改めて強調したものだ。
 政府がわざわざ会見を開き、報道内容を否定するのは異例だ。読
売新聞は日米首脳会談の翌日の4月25日夕刊で「実質合意」と報
道。5月2日朝刊では、検証記事で「(農産物)5項目 前夜には
決着」とした。TBSも2日のニュース番組で、牛肉と豚肉の関税
の引き下げ幅で日米が基本合意したと流した。
 渋谷氏は会見で「交渉は進展以上、合意未満だ。実は合意してい
るが、それを隠しているということはない、と明快に言いたい」と
説明した。その上で「進展」の内容について、主に@途中段階も含
めた具体的な関税率A関税を引き下げる期間と方法B輸入が一定量
を超えた際にかける輸入制限措置「セーフガード」を発動する基準
などを、日米間で議論することを確認したと明らかにした。
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農業改革:首相、農協改革を指示 法人の農地所有、緩和へ
毎日新聞 2014年05月20日 東京朝刊
 安倍晋三首相は19日開かれた産業競争力会議で、農業強化に向
けて「農業委員会の見直しと農地を所有できる法人の要件見直しの
具体化を図りたい。農業協同組合(JA)の在り方についても抜本
的に見直し、3点の改革をセットとして断行する」と述べ、全国農
業協同組合中央会(JA全中)の改革への決意を表明した。6月に
まとめる新たな成長戦略に盛り込む方針で、環太平洋パートナーシ
ップ協定(TPP)の妥結もにらみながら、農業の競争力強化に強
い意欲を示した。
 同日の競争力会議では、政府の規制改革会議(岡素之議長)の作
業部会が14日に発表した農業改革案を報告。農協については、各
地の農協を指導・監督するJA全中を頂点とした中央会制度の廃止
のほか、▽農産物の集荷販売を担う全国農業協同組合連合会(JA
全農)の株式会社化▽農協の金融事業の農林中央金庫への移管??な
どを提案した。安倍首相は「地域の農協が主役となり、独自性を発
揮して、農業の成長産業化に全力投球できるように抜本的に見直す
」と強調した。
 規制改革会議は農地の売買・賃貸の許認可権限を持つ市町村の「
農業委員会」について、公職選挙法に基づく公選制を廃止し、市町
村が選ぶよう提言。また、企業の農業参入を促すため、農地取得が
可能な「農業生産法人」に対する企業の出資比率を現在の25%以
下から50%未満に緩めることを求めている。首相はこの日の会議
で、農家による加工販売事業への進出を支援する「官民ファンド」
の拡充や、生乳の販売ルートの柔軟化も含めて改革案とりまとめを
林芳正農相らに指示し、「今が農政転換のラストチャンス」と強調
した。
 ただ、JA全中は反対姿勢を示しており、JAの支持を受ける自
民党内の反発も予想される。【小倉祥徳】
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耕作放棄地の課税強化、農地集約を促進 固定資産税 
2014/9/10 2:00日本経済新聞 電子版
 政府は、耕作放棄地や点在する農地の集約を加速する方針だ。農
地を借り上げ、意欲ある生産者に貸す「農地中間管理機構(農地バ
ンク)」の活用を後押しする。農地を貸した農家の固定資産税をゼ
ロに引き下げる一方、耕作放棄地は増税する税制改正を検討する。
農地を貸し出した地域や個人への支援金の増額などと合わせ、農地
の大規模化を進め、農業の活性化につなげる。
 対策の目玉は固定資産税の活用だ。農地バンクに貸せば固定資…
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農協改革、JA全中が容認方向 実質決着へ、19年に社団法人化
2015年2月7日 19時34分
 政府、自民党が検討する農協改革が8日にも実質的に決着する見
通しとなったことが7日、分かった。全国農業協同組合中央会(J
A全中)は、政府案に盛り込まれた地域農協への監査や指導の権限
廃止や2019年3月までの一般社団法人化を受け入れる方向で最
終調整に入った。改革はJA全中の権限をなくし、地域農協が自由
に経営できるようにするのを促すのが狙い。
 農水省とJA全中は7日、細かな条件などを詰める事務レベルの
協議を実施した。8日にも自民党の農林系幹部とJA全中の万歳章
会長らが会談し、農協法改正案の骨格を実質的に固める見通しだ。
(共同)
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農協改革、早期に法制化 成長戦略の実行計画決定
 政府は10日、日本経済再生本部の会合を開き、新たな成長戦略
の検討方針と、各施策の進め方をまとめた実行計画を決めた。与党
との議論が9日に決着した農協改革は速やかに法制化する方針を示
した。農協法改正案を3月中にも通常国会に提出、農地集約や企業
参入の促進などにも一体的に取り組み、国内農業の競争力を高めて
いく。
 実行計画は会合後の閣議でも決定。検討方針案も含めて、12日
の安倍晋三首相による施政方針演説に反映される。
 農協改革は、全国農業協同組合中央会(JA全中)の一般社団法
人化や地域農協への監査権限の廃止が柱。
2015/02/10 09:13   【共同通信】
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政府の追加緩和要請後退 背景に「TPP交渉前進」  
編集委員 清水功哉 
2015/2/12 7:00日本経済新聞 電子版
 政府・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)との間で農
協改革をめぐる協議が決着した。決着に向けて弾みが付いた一因は
、環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる日米交渉に歩み寄りの
可能性が出てきていることだろう。農業分野は交渉のカギを握って
おり、交渉のさらなる前進に「農協改革」が必要な要素だったのは
事実だ。そして、この「TPP交渉前進」というファクターは、日
銀の金融政策の先行きを見通すうえでも重み…
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農業改革 これからが茨の道
岡本裕明2015年02月10日10:53agora
JA全中が全国700の農協の監査指揮権を手放し、2019年3月末までに
一般社団法人となることで政府側と合意したとのニュースは日本農
業の産業化の第一歩につながり、喜ばしいことであります。
日本の農業問題とは戦後の小規模農家の育成を目的に農協と農家の
一体化、それが最終的に強力な集金マシーンと化し、選挙の時には
票田となり、自民党は農協に足を向けて寝られない関係を築き、食
の自給率を盾にその牙城がなかなか切り崩せない状態が続いていた
ことであります。
しかし、ここにきて専業農家と兼業農家のインタレストの相違、農
業従事者の高齢化と耕作放棄地の増大が農協を取り巻く環境を激変
させつつあります。昭和36年の日本の農地は609万haだったのが平成
22年には459万haとなり、この減少の内訳は耕作放棄が44%で非農業
転用が55%となっています。
農協が既得権に執着し、海外との競争は端から諦めていたその姿勢
に若者などからは成長性などの魅力に乏しいと思われたこともなか
ったとは言えないでしょう。つまり、今の状況を作ったのは農協の
体制そのものにあったともいえ、JA全中の降臨は遅すぎたとも言え
るのであります。
さて、農業改革の幕は既に切って落とされてしばらくたちますが、
日本の農業は本当に一部で言うほど高い競争力を持っているのでし
ょうか?
個人的には品種改良など潜在能力としては極めて高いと思いますが
、マーケティング力、販売力、そして、それ以前に市場が洗練され
ていないことでまだまだ相当茨の道であると思っています。
日本の中にコメのブランドがいくつあるかご存じでしょうか?約300
とされています。なぜこのようなことが起きたのでしょうか?それ
は農協単位、あるいは県単位で競争する体質ができてしまったから
であります。「おらが村」的なスタンスにより隣に負けないコメ作
りに励んできたとも言えます。それは競争による品質向上には役立
ったと思いますが、大量生産によるコストダウンや効率化の点で劣
っています。
これが何を意味するかといえばこれからこれらのブランドが淘汰さ
れ、10-20年で3-5つ程度のブランドに集約されるプロセスを
取ることになります。その間、ジャポニカ米を競争力あるコメとし
て輸出するマーケティングをしなくてはいけません。これは誰がや
るのでしょうか?農協ですか?政府ですか?私には無理だと思いま
す。民間企業がかなり戦略的に行わなくてはいけないでしょう。
さて、世界には約1000種類のコメがあるとされていますが、日本の
コメは他国で流通している米とタイプが違うのはご存じでしょうか
?日本は炊飯する際に水をコメに吸収させることでふっくらと炊き
上げます。他国のコメは基本的にパサパサです。そして料理もパサ
パサのコメをベースに作られています。中国のチャーハン、インド
のカレー、スペインのパエリアどれもそうです。ジャポニカ米(ス
ティッキーライス=ぺちゃぺちゃのコメ)は世界では独特のコメで
、あえて言うなら、日本人が共感できるのは多分韓国のコメだと思
います。
つまり、このままではメードインジャパンのコメは海外では寿司な
どにしか転用が効かず、コメ市場を作り上げるには圧倒的な市場欠
如となるのです。それ故ジャポニカ米の特性を生かした美味しい料
理、レシピ、レストランのメニューを開発、啓蒙、市場発掘する本
当に長い道のりがこれから待っているのです。
農業がこれから産業界において期待の星であることには変わりあり
ません。しかし、これを数字として大きく伸ばすには相当組織だっ
た大がかりな仕掛けが必要でしょう。
ところで植物工場は日本が世界をリードする技術であります。こう
いう産業型の農業もありかと思います。また、人工光合成の技術が
進んできていますのでコメも建物の中で作られる時代が早晩やって
くるとみています。その時、本当の意味での耕作放棄地の対策が政
府レベルでは必要になるでしょう。
農協の作り出した栄光の後始末は数十年かかることになるとみてい
ます。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
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アベノミクス農政批判シリーズ3「見せかけの企業の農業参入 -本音
は農地の転売利益が目的-」
篠原孝2014年06月30日 17:13
<増加する株式会社の農業生産法人>
 規制改革会議は、6月13日またぞろどぎつい提言をまとめた。そこ
にみられるのはしつこい企業の農業への参入の主張である。しかし
、正確に言うと、企業の農業への参入ではない。
 今までも農業生産法人の要件は相当緩和されてきている。今回の
規制改革会議では更に役員の過半が農作業に従事から役員または重
要な使用人のうち一人以上が農業従事、そして構成要件の3/4以上が
農業関係者や農業関係者から1/2以上等、大幅に緩和するよう提言さ
れている。従って、今この提言が実行されれば、なおさら企業は農
業に参入しやすくなる。
<40年前の過ちをまた繰り返す>
 『血迷うアベノミクス農政』(14.06.06)で例示したとおり、旧ソ
連でも、あの効率一辺倒のアメリカでも雇用労働に頼る企業(的)農
業は成功していない。
 日本でも、三井物産等の総合商社を中心に1970年代に「東南アジ
アを日本の食料基地に」という掛け声とともに次々と農業に参入し
たが、すべて撤退している。1980年代の土光臨調の頃、副会長の井
深大ソニー会長は、日本に農業はいらないとまで言い切り、不買運
動まで起こされている。しかし日本から農業はなくならず、東南ア
ジアは食料基地にはならなかった。逆に世界に名を馳せたソニーは
、昨年家電メーカーで唯一赤字に喘いでいる。栄枯盛衰は世の習い
なのだ。
 それにもかかわらず、50年後の21世紀でも企業の農業参入が再び
声高に主張され、過ちをまた繰り返そうとしている。
<世界でも禁止されている企業の農地所有>
 企業の農地所有については、禁止している国と禁止していない国
がある。韓国は大体日本と同じで原則禁止だが、自ら農業に従事し
たり、執行役員の1/3が農業者の場合には許されている。
 アメリカの場合国レベルでは禁止はしていないが、穀倉地帯の中
西部では原則禁止しているところも多い。例えばアイオア州は3親等
以内で構成され、収入の60%以上が農業からの企業でないと農地の
所有が認められない。
<日本は明治政府が地租に頼って私的所有を認める>
 よく地主制といわれるが、それが神代の時代から存在したかもの
ではない。例えば、江戸時代は農地は全てお殿様のものであった。
だから四公五民とか五公五民とか言われていた。明治政府は、土地
の私有を認めて、土地への税(地租)から収入を得なければならな
かった。折しもヨーロッパは市民革命の最中で、市民の私有財産権
(私的所有権)が大幅に認められ始めた頃であった。特にその傾向
の強かったフランスのボアソナードが日本の法制度擁立の指南役と
なった。従って日本では土地に対する所有権が、フランスにならっ
て相当強く認められた。
<私有財産権が強すぎる日本>
 もともと土地は万民のものであるという考え方が、ヨーロッパ社
会にはある。日本でも律令制度の頃は、何もかも国家(天皇)のも
のであり、国民は口分田をもらい耕作していたにすぎなかった。江
戸時代には江戸幕府のものあるいは殿様のものとなったのだ。一方
、ヨーロッパではその後、ワイマール憲法等で再び土地の公有が全
面に出てきたのに対し、日本は明治以降の絶対的土地所有権がその
まま残されることになった。そして、いつの間にか地主に農地が集
中していったのである。第二次世界大戦の頃には途中から農村で実
力をつけた地主が次々に農地を買い、完全小作が3割、自小作(自分
の土地と小作地の両方)が7割というような状態になってしまった。
その結果、戦後の農地改革へとつながった。
<ヨーロッパは農地は使用貸借>
 農地の所有といっているが、欧米特にヨーロッパでは、所有とい
うよりも、我々の概念からは使用貸借のようなものにすぎない。従
って、農地は農業目的以外には販売されず農業をやらなくなったら
、農業をやる人に自動的に行く仕組みになっている。だから、日本
のような遊休農地や不耕作地は生じない。
 それからもう一つ大事なことであるが、まず農地は農地として取
引されるのが原則であり、いわゆる転売利益に当たるキャピタルゲ
インは所有者に行かない仕組みになっている。従って所有したとこ
ろでそう儲かるわけでもないので、農業をしたい企業は賃借で足り
ることになり、企業側からも農地所有をさせろといった要請はない。
 規制改革会議の提言は、転用規制が農地流動化の阻害要因だとし
、転用利益を地域農業に還元すべきだと、奥歯に物がはさまったよ
うなことをいっている。私は、農地の転売によるキャピタルゲイン
は全て地方税に行き、すべて農業振興に充てるようにすべきだと考
えている。そうなると、転売利益は一切出ないので、企業にも農地
所有を許してもよいことになる。その時多分ヨーロッパと同じく企
業の農地所有の声は全くでなくなるだろう。
<雇用労働に向く畜産と施設園芸>
 ここで私が問題提起したいのは、日本では畜産業への企業の参入
が少ないことである。肥育牛については、ある程度面積が必要だが
、耕種農業ほどではない。それに対し、酪農、養豚、採卵鶏、ブロ
イラーについては広大な農地を所有する必要ない。従って本当に企
業が農業への参入を図るとするなら、畜産にこそどんどん参入して
いいはずである。なぜならば、畜産は毎日餌をやり、酪農なら毎日
乳を搾り、ということで常に仕事があることから、雇用労働に馴染
むからである。
 同じことが施設園芸、特に軟弱野菜等にもある程度言える。人工
的管理技術が完成したキノコ栽培は、ホクトと雪国マイタケに代表
されるように、企業が成功を収めている。このように今後は施設園
芸で企業の参入が増大していくに違いない。
<企業参入がない畜産>
 6月18日の農林水産委員会の質問の折、農林水産省に畜産への企業
参入の事例を聞いたが、ろくな統計も持ち合わせていなかった。私
がネットを通じて探したところ、イトーヨーカ堂が岩手の遠野牛に
参入し、居酒屋チェーンの和民が北海道に牧場を有しているぐらい
である。それに対し、農地所有につながる耕種農業の分野では、今
回の提言を契機に虎視眈々と農地所有を目的とした農業参入を狙っ
ている。
 農業への企業参入を妨げているのは、農地の所有の規制だとよく
言われるが、真っ赤な嘘でしかない。最も企業経営に相応しい畜産
に企業参入がないのは、ついて回る農地の転売利益という旨味がな
いからである。日本の畜産は、外国の穀物を輸入して、畜産農家が
それを肉や卵や牛乳に変えているだけの加工畜産であり、穀物価格
が上がったら、すぐに赤字に転落してしまう。だから参入しようと
しない。こうした企業の参入分野の違いから企業が農業への参入と
いいつつ、本当の目的が何かは透けて見えてくる。
<農地所有が目的の農業参入>
 耕種農業は、畜産以上にもっと儲けが少ない。それでも企業が農
業参入や農地所有に固執するのは、農地を投機の対象としかみてい
ないからである。経済的にみておかしいのは、ただでさえ儲からな
い農業を、日本の高い農地を買って採算が合うはずがないことであ
る。本当に農業を経営する気があるなら、今でも農業生産法人化し
農地を借りていくらでも可能なのだ。農地を所有しなければ本当の
経営ができないというのは詭弁でしかない。
<預託という現代の小作>
 実際畜産の世界では、これまた詳細は省くが、「預託」といった
方法が猛然とした勢いではびこっている。元牛を買う財力のない零
細な農家が、大企業にあてがわれた子牛に、ただ餌をあげ太らせる
ことにより労賃をもらい、利益は企業経営にいくというやり方であ
る。その意味では、前述と異なり畜産への企業のいびつな参入が進
んでいるのである。私は2010年、宮崎県で発生した口蹄疫の現地対
策本部長として、この実態を初めて知った。
 今企業に農地所有を認めたら、明治以降と同じように20〜30年後
には日本の農地の大半は21世紀の新たな地主となる企業の手に渡り
、農家のものではなくなってしまっているだろう。そして、上記の
理由により日本の牛の大半も農家のものではなくなっているだろう。
 規制改革会議の提言は、これこそ『血迷うアベノミクス農政』で
述べたとおり「国際家族農業年」(2014年)や「国際協同組合年」
(2012年)の精神からズレた、時代錯誤なものと言わねばならない。


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