5276.イスラム国の現状と打倒には



湯川さんに続き、後藤健二さんも殺害されて、日本ではテロとの戦
いに参加するかどうかの議論がある。その検討をする前にイスラム
国の現状を見て、日本の立ち位置を探ろう。津田より

0.経緯
イスラム国は、2014年にアブ・バクル・アル・バグダディの下、ア
ルカイーダから分裂したアルカーイダ系テロ組織と、旧フセイン軍
の残党が融合した組織である。

2004年にアル=カーイダと合流して名称を「イラクの聖戦アル=カ
ーイダ組織」と改めたが、外国人義勇兵中心の彼らはイラク人民兵
とはしばしば衝突した。2006年1月にはイラク人民兵の主流派との対
立をきっかけに名称を「ムジャーヒディーン諮問評議会」と改め、
他のスンニ派武装組織と合流し、さらに2006年10月には解散して他
組織と統合し、「イラク・イスラーム国」と改称した。

バグダディは、2004年ころに米軍に身柄を拘束し収容所に入れてい
たことがあり、それまで特に悪いことをしていたというわけではな
く、あくまでフセインと同じバース党員だったものだから収容され
たというだけのことなのだが、米軍はその収容所の同一の棟に、イ
スラム過激派とフセイン軍の軍人らその他のイラク人を一緒に混ぜ
て収容していたものだから、結果として、バグダディが過激思想に
強く染まった。

当時その棟を担当していた監視員(監守)、同一棟に収容されてい
て親しく交流していた面々が、そのままイスラーム国の幹部の面々
になっている、ということを証言している。 

2012年3月20日、バグダードを含む数十都市で連続爆弾テロを実行し
、52人が死亡、約250人が負傷。2013年4月、バグダディが首長(ア
ミール)に就任。シリアへの関与強化。2013年7月21日アブグレイブ
刑務所とバグダード近郊のタージにある刑務所を襲撃し受刑者が脱
獄。2013年8月、アレッポ近郊のシリア空軍基地を制圧。

2013年5月にアイマン・ザワーヒリーの解散命令を無視してシリアで
の活動を続けているなど、アルカーイダやアル=ヌスラ戦線との不
和が表面化。2014年2月、アルカーイダ側が「イラクとシャームのイ
スラーム国」とは無関係であるとの声明。

2014年に入り、シリアの反アサド政権組織から武器の提供や、戦闘
員の増員を受けたため、急速に軍事力を強化。1月にラマーディーと
同県の都市であるファルージャ掌握。6月6日モースルに複数の攻撃
実施。

2014年6月10日に陥落した同国第2の都市モスルで6月29日、カリフ
制イスラーム国家の樹立を宣言し、名称を「Islamic State イスラ
ーム国」 とすると宣言した。ラッカが首都と宣言。

アメリカのヘーゲル国防長官も、2014年8月14日に「イスラム国」に
ついて、「テロリスト集団の域を超え、イデオロギーと、戦略や戦
術に長けた高度な軍事力、そして資金力がある。これまで目にして
きたどの組織とも違う。 われわれは万全を期さなければならないし
『アメリカの 敵対国リストの「ナンバーワン」に急浮上した』と語
った。

外国の傭兵を随時募集しており、2015年1月現在、兵士約31,000人の
うち、ほぼ半数の16,000人が外国人である。欧州からも数千名の人
が参加している。

2014年8月8日、アメリカ軍がイスラーム国の武装勢力に対して、限
定的な空爆開始。9月23日にはアメリカ主導の有志国によるシリア国
内も空爆開始。米軍と有志連合国は、イスラム国に空爆を2000
回以上も行い、イスラム国戦闘員を6000人以上を殺害したとい
う。

1.なぜ、アルカイダより有能なのか?
これは、イラク軍の将校などが参加して、精鋭のイラク軍の戦闘知
識を戦闘員に教えているためで、爆薬なども強力な物が使用されて
いる。

それと、恐怖政治の仕方を知っているので、統治をスムーズに行う
ことができる。イスラム国に逆らったら、皆殺しになるという情報
を地域に流して、反対者をなくしている。これもフセイン政権のや
り方を踏襲している。これまでのアルカイダは、プロ軍人がいずに
素人集団が、イスラムは、フセイン政権の軍人や官僚などが参加し
ているので軍事から統治までをプロの指導のもとに行っていること
が、今までのテロ組織とは違うのである。

このイスラム教過激派とフセイン政権の幹部を結びつけたのが、キ
ャンプ・ブッカ収容所であるというのが、悲劇の始まりというか、
イラク戦争で米国はその後の禍根も作ることになっているのである。

2.現在のイスラム国の現状
シリアのオマル油田をイスラム国が手にれて、オマル油田は日量7
万5000バレルの生産能力があり、日に7億円の資金が手に入っ
ていたが、空爆により、油田は生産停止状態になっている。

戦闘員も6000人殺されて、戦闘員不足が起きている。このため
、イスラム国はイラク北部から中部にわたる地域で支配の維持が困
難となり、イラク国内では勢力を西部アンバル州に集中的に投入さ
せつつある。このことで、イラクの首都バグダッドで、2003年
のイラク戦争後に発令され、現在まで続いていた夜間外出禁止令が
8日、解除された。北部からイスラム国戦闘員がいなくなったこと
による。

アンバル州支配を固めた上でイラク各地でテロ攻撃を繰り返すゲリ
ラ的な戦術に転換していく。主に自爆テロであるが、このテロ要員
として、領内の子供たちを誘拐して、戦闘員にするようである。
「8歳前後のかなり幼い子を少年兵として訓練させているビデオも
あった」と。

また、トルコとの国境に接するシリア北東部のクルド人街、コバニ
(アインアルアラブ)を巡る戦いに負け、レバノンにも撃退された。

3.空爆の効果
空爆のみでは累積戦略であり、1回の効果は大したことはないが、
累積してきているので、大きな重荷になっいるようである。普通は
、空爆と地上部隊を連携して、順次戦略化するのが一般的であるが
、それができない。このため、ライス大統領補佐官(国家安全保障
担当)は「対テロ戦は長期戦だ。後退もあるし、万能な解決方法が
あるわけでもない」という。

米軍の地上部隊を派遣しないとオバマ大統領は宣言しているために
、イラク軍かクルド人部隊を使うしかない。しかし、両軍ともに脆
弱である。このため、多くが空爆のみの攻撃になっている。しかし
、徐々に空爆の効果が出てきている。

これがわかるのは、イスラム国から逃げる戦闘員が出てきて、その
見せしめとして処刑もしているということである。徐々に戦闘員の
士気が落ちているのが分かる。

この上に、ヨルダン軍パイロットを焼殺したことで、ハーシム家の
ヨルダン王がイスラム国をイスラム教徒ではないと宣言した。ハー
シム家は、イスラム教の預言者ムハンマドの曽祖父ハーシムの一門。
アッバース朝もこの一門から出た。というようにヨルダン王は、預
言者ムハンマドの親戚子孫であり権威が高い。

今までは、米軍が中心でイスラム国を攻撃していたが、その中心が
ヨルダンになるようである。このように身内を敵にしたことで、米
国は、イスラム国の攻撃がやりやすくなってきた。このため、オバ
マ米政権は6日公表した国家安全保障戦略で、過激派「イスラム国」
の壊滅方針をあらためて宣言した。

イスラム国は、湯川さんと後藤さんで身代金目当てか仲間の釈放を
しようとしたが、ヨルダン国を引き入れたことで、イスラム教の敵
になってしまったようだ。

旧イラク軍人はフセイン政権を復活しようとして、イスラム教原理
主義を身にまとったが、同じイスラム教スンニ派の権威からも見放
されて、滅亡することになりそうだ。

4.日本の立ち位置
日本は、イスラム教徒がほとんどいなく、イスラム教の教えも知ら
ない。欧米のようにイスラム教徒の移民もいなく、中東やインドネ
シアからの商人がいるのみである。若者で、社会から阻害されても
イスラム教に入信する人もいないはず。

このため、日本からイスラム国に行きたいというのは、興味本位か
らしかない。イスラム過激派が取り付ける組織もない。

イスラム教地域が、欧米の侵略により屈辱を受けていることで、そ
うなるのであり、そうしないためには、イスラム教徒を今後も移民
で日本に入れないことである。心配なのがインドネシアからの介護
職員を入れていることである。現時点、国家試験に合格する人が少
ないことで、問題はないが、これ以上に入れてはいけない。

アジアには仏教徒やキリスト教徒がいるので、そちらから移民を受
け入れることである。そうしないと、日本でもテロ活動されて、重
警察国家にするしかなくなる。そうなることが欧州の現状を見ると
想像できる。

日本はイスラム国とは、なるべく戦闘とは関係ない状態で戦闘に加
わる周辺国を助けるしかない。欧米の常識であり、報道人の自由な
行動を制限ようであるが、身代金などの解放条件があり、迷惑にな
るので、仕方がない側面もあると思うが、そこまで制限していいの
であろうか疑問も残る。

さあ、どうなりますか?


==============================
夜間の禁足令解除=イラク首都
 【バグダッドAFP=時事】イラクの首都バグダッドで、2003
年のイラク戦争後に発令され、現在まで続いていた夜間外出禁止令
が8日、解除された。首都では依然テロが頻発しているが、アバデ
ィ首相は日常生活への制限を緩和するため解除を命じていた。
 夜間外出禁止令はテロ抑止を目的に設定され、最近では午前0時
から同5時までが対象だった。(2015/02/08-06:50)
==============================
イスラム国と全面戦争に=パイロット焼殺で「容赦ない報復」−ヨルダン
 【アンマン時事】過激組織「イスラム国」が、人質の後藤健二さ
んを殺害したとする映像を公開して7日で1週間。解放交渉の中で
、ヨルダン政府が「生存の証拠」を求めた同国軍パイロットが焼殺
されたとみられる映像も公開された。「容赦ない報復」を誓うヨル
ダンはイスラム国に激しい空爆を加え、全面戦争の様相を呈してい
る。
 後藤さんの殺害映像投稿に先立ち、イスラム国は、ヨルダンに収
監された女死刑囚と後藤さんとの「1対1の交換」を要求。応じな
ければヨルダン空軍パイロット、モアズ・カサスベ中尉も殺害する
と脅していた。
 カサスベ中尉の殺害映像が公開されたのは2月3日夜だが、ヨル
ダン政府は「1月3日に殺されていた」と断定した。墜落時にでき
たと思われる目の下のあざなど映像から読み取れる情報に加え、拘
束後にイスラム国戦闘員がソーシャルメディアに投稿した内容など
を分析した結果とみられる。元ヨルダン軍高官で軍事アナリストの
ファイズ・アルドワイリ氏によれば、戦闘員が殺害方法についてフ
ェイスブックで意見を募ったところ、回答の一つが「焼殺」だった。
 だが、イスラム国との交渉前に、ヨルダン政府がカサスベ中尉の
死亡を把握していたかというと「100%の確証はなかった」(フ
ァエズ元ヨルダン首相)。女死刑囚に関し「日本政府からの圧力を
受け、釈放を真剣に検討した」(イスラム国に詳しい専門家)とい
い、首都アンマンから対イラク国境の町に移動させていたもようだ。
 「わな」を仕掛けられたヨルダンは、中尉の殺害映像公開後、直
ちに死刑囚を処刑するとともに、イスラム国拠点への大規模空爆を
実施。イスラム国掃討作戦でヨルダンがさらに前面に出る形となり
、国民の間には「イスラム国がヨルダンに攻め込んでくるのでは」
という危機感すら生まれている。(2015/02/07-15:08)
==============================
米、イスラム国壊滅へ結束固め 空爆開始から半年
 【ワシントン共同】オバマ米政権は6日公表した国家安全保障戦
略で、過激派「イスラム国」の壊滅方針をあらためて宣言した。イ
スラム国空爆開始から8日で半年。さらなる長期戦が予想される中
、人質殺害などに揺れる米国内や有志国を引き締め、結束を固める
一助にしたい考えだ。
 シュルツ大統領副報道官は6日、対イスラム国武力行使を承認す
る新たな議会決議の草案をホワイトハウスが近く議会に伝達すると
記者団に表明。「大統領の優先事項だ」と強調した。
 現在の空爆は、01年の国際テロ組織アルカイダへの武力行使容
認決議が根拠。政権は結束誇示に向け、新決議を模索する。
2015/02/07 16:38   【共同通信】
==============================
西部アンバル州に勢力集中か=「イスラム国」ゲリラ戦へ傾斜−イ
ラク空爆半年
 【カイロ時事】米軍がイラクでイスラム教スンニ派の過激組織「
イスラム国」への空爆を始めてから8日で半年。イスラム国はイラ
ク北部から中部にわたる地域で支配の維持が困難となり、イラク国
内では勢力を西部アンバル州に集中的に投入させつつある。もっと
も、反撃の機会をうかがうための「戦術的撤退」の側面が強いとみ
られ、必ずしも弱体化が進んでいるとは言えない状況だ。
 アンバル州の東方に位置する首都バグダッドではイスラム国の関
与が疑われる自爆テロが相次ぐ。AFP通信によると、7日はレス
トランなどが標的となり、少なくとも27人が死亡した。イスラム
国は今後の戦闘長期化も視野に、支配地域の拡大よりも、アンバル
州支配を固めた上でイラク各地でテロ攻撃を繰り返すゲリラ的な戦
術に転換していく公算が大きい。
 イスラム国は昨年6月、イラク第2の都市モスルがある北部ニナ
ワ州のほぼ全域と、北部サラハディン州、北部キルクーク州、中部
ディヤラ州の多くの地域を一気に制圧。これに以前から支配を拡大
していた西部アンバル州や隣国シリアの北東部を加えた地域で「国
家樹立」を宣言した。
 しかし、米軍主導の有志連合の空爆に加え、イラク軍やクルド人
治安部隊、イスラム教シーア派民兵の反転攻勢に直面。有志連合と
は一線を画すイランの空爆にも遭い、勢力を縮小させている。
(2015/02/07-21:54)
==============================
対「イスラム国」空爆、UAEが再開か 米紙報道 
2015/2/7 19:28nikkei
 【ドバイ=久門武史】米紙ワシントン・ポスト(電子版)は6日
、米国務省高官の話として、アラブ首長国連邦(UAE)が近く過
激派「イスラム国」への空爆を再開する見通しだと伝えた。UAE
のアブドラ外相がケリー米国務長官に、数日中に表明すると述べた
としている。
 UAEは作戦中のヨルダン軍パイロットが搭乗機の墜落でイスラ
ム国に拘束された昨年12月以降、空爆を見合わせていると報じられ
ていた。米メディアによると、UAEは自国パイロットが拘束され
た場合に米軍が救出できるかを懸念。米軍は捜索救難部隊を戦闘地
域に近いイラク北部に移し、救出態勢を強化する姿勢を示した。
==============================
「イスラム国」壊滅へ戦略主導=同盟重視が軸−米国家安保戦略
 【ワシントン時事】米政府は6日、米外交・安保政策の指針とな
る「国家安全保障戦略」を発表した。オバマ政権発足後では、2010
年に続き2回目。同戦略は過激組織「イスラム国」への対応につい
て、イラクとシリア反体制派と協力しながら壊滅させる決意を明記。
安保上の懸案に対し、同盟国や友好国との協力を重視し、外交や圧
力を駆使して解決を主導する方針を示した。
 ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は6日、ワシントン市
内の講演で「対テロ戦は長期戦だ。後退もあるし、万能な解決方法
があるわけでもない」と指摘。イスラム国が日本人2人を殺害した
とする事件にも言及し、「彼らの蛮行は、(イスラム国壊滅への)
世界の決意を強固にするだけだ」と強調した。(2015/02/07-07:53)
==============================
イスラム国ではなく「ダーイシュ」、
弱点を突いて解体せよ
元バアス党員と元イラク軍人たちが夢想した世界とは
2015.02.06(金)  松本 太  JBPRESS
私たちの同胞が殺された今、我々はもはや塹壕に篭もっていてはな
らない。彼らの脅威から目を背けることは、次の犠牲を生むことに
なるからだ。目を見開いて、敵を見据えること。
 彼らのことを「イスラム国」ともはや呼ぶ必要はないだろう。「
イラクとシャームのイスラム国」のアラビア語の略称である「ダー
イシュ」(al-Dawla al-Islamiya fi al-Iraq wa al-Sham)と呼び
捨てにすることだ。この2月4日早朝に、ムアズ・カサスベ空軍パイ
ロットの残虐な殺戮に怒りを押し殺したアブドゥッラー国王が、ヨ
ルダン国民を前にしてテレビでそう呼び捨てたように。
 なぜなら、そうした共通の認識をとることこそが、「ダーイシュ
」が確信的に築き上げ、不要に膨張した彼らの共同幻想を打ち砕く
ことになるからだ。こうして、不幸な事件が連続する中で、ヨルダ
ン国民と私たちは1つになる。
 筆者は、すでにイスラム主義との戦いは、そのイデオロギーとの
戦いにあると述べた。(「本当に撃退すべきなのはイスラム国の暴
力ではなくイデオロギーだ イスラム国という疫病への処方箋」)。
今ここで改めて、彼らのイデオロギーとその戦略を一枚一枚剥がし
ていく必要がある。
 本稿では、わずか12年弱ほどのイラク戦争後の戦後史を明らかに
しつつ、ダーイシュの真の姿=その組織、戦略、そして戦術を皆さ
んと共有したい。そうすることによって、彼らが一体いかなる組織
なのか、彼らの行き着く先がどこなのか、白日の下にさらされるだ
ろう。
 これはダーイシュという幻の脱構築であり、その誤った認識論的
な存在に終止符を打つことである。
イラク元政権関係者が築きあげた「ダーイシュ」
 ダーイシュは実にイラク的なのだ。この認識を持つことが始まり
となる。彼らは、イラクという大地から生まれた過激派組織なのだ。
その秘密結社的な紐帯、そして、極度の残虐性。いずれもイラクと
いう土壌を抜きにしては語れない。
 そして、ダーイシュを成立させしめたのは、イラク南部にあった
米軍キャンプ「キャンプ・ブッカ」の拘置所であったことを決して
忘れてはならない。拘置所において、旧バアス党や旧イラク軍の関
係者がイスラム主義の過激なイデオロギーに目覚めていくのだ。
 それは彼らが心底からイスラム主義に感化されたというよりは、
むしろ、そのあまりの実利に気がついたといった方がより的確なの
かもしれない。その隠された歴史はいまだよく記述されていない。
しかし、私たちは、それがいかなるものであったのか、想像するこ
とはできる。
 イラク戦争後、自らが権勢をふるったかつての国家と社会から、
身ぐるみを剥がされるように追い出されたイラクのスンニ派の前政
権関係者たちは、根なし草となった。いかに、戦後を生き抜くか。
この大きな悩みこそが、彼らをイスラム主義の過激な思想に近づけ
ることになる。
 自称カリフのアブ・バクル・アルバグダーディをはじめとして、
現在の「ダーイシュ」の幹部の相当数が実際にキャンプ・ブッカの
出身者なのである。この点で、最近公表された元MI6のプロフェッシ
ョナル、ロバート・バレットによる「イスラム国」と名付けられた
詳細な分析は、巷で出版されている凡百の解説書や断片的な新聞記
事をその明晰さにおいてはるかに凌いでいる。
 彼らは、幸いにも拘置所や刑務所に入れられたがために、米軍と
イラク治安軍、そしてイラクの部族からなる覚醒評議会による徹底
的な攻撃(サージ)を生き延びることができた。その間に当時の「
イラクのイスラム国」が、その幹部を立て続けに失った結果、拘置
所にいた人々がその穴を埋め、世代交代が起きるのである。
 例えば、「ダーイシュ」のナンバー2とされるアブ・ムスリム・ト
ルコマーニは、同じキャンプ・ブッカの拘置所の出身者である。ア
ブ・ムスリムは、元々イラク特殊部隊および軍情報部の出身のバア
ス党員であり、現在は、イラク全体のオペレーションを担当してい
る(注:「バアス党」は汎アラブ主義を掲げる政党)。サッダーム
・フセインの側近として仕えた革命指導評議会副議長のイッザト・
イブラヒーム・アルドゥーリの子飼いと言ってもよいだろう。
 さらに、アブ・アブドルラフマーン・アルビラーウィとして知ら
れたアドナーン・アルドレイミーについて語る必要がある。なぜな
ら、同人の軌跡は、ダーイシュの成り立ちを語っているからだ。
 ビラーウィは、2014年6月5日にイラク治安軍によって殺されるま
で、イスラム国の軍事委員会のトップを務めていた男だ。ビラーウ
ィはアンバール州の最大部族ドレイムの出身で、イラクにおいて米
軍に抵抗した部族である。ビラーウィは1993年にイラク軍事アカデ
ミーを卒業、イラク軍に参加、大尉となる。
 イラク戦争開始後、ビラーウィは、イラクのアルカーイダに参加
、ザルカーウィと共闘したが、2005年に米軍に拘束され、キャンプ
・ブッカに長期間拘置されている。そして、2013年7月に当時の「イ
ラクのイスラム国」が襲撃したアブグレイブ刑務所から他の500人の
囚人とともに逃走したとされている。脱走後、イスラム国の軍事委
員会に参加、北イラクへの攻撃において主要な役割を担った。2014
年6月9日にモスルが陥落した際には、ダーイシュは、その軍事作戦
を「ビラーウィの復讐」と名付けたのである。
 ハッジ・バクルも興味深い人物である。同人はすでにシリアにお
いて2014年1月に死亡しているが、元々武器開発を担当するイラク陸
軍大佐であった。イラク戦争後のスンニ派による抵抗運動に参画す
るが、米軍に拘束され、キャンプ・ブッカの拘置所に入れられたこ
とをきっかけとして、ダーイシュの幹部となる。
 同人は、組織内パージを強行し、バグダーディを中心とするダー
イシュの組織化を図ったと見られている。同人に対しては、イスラ
ム主義者からは、あまりにも世俗的との批判すらあった。バグダー
ディをカリフの位置につけたのも、ハッジ・バクルの操作の結果に
よるものと考えてよいだろう。
 ここで、もう1人のナンバー2、アブ・アリ・アルアンバーリにつ
いても言及しておく必要があろう。アブ・アリは元々イラク軍の准
将まで務めた男だ。イラクのアルカーイダにおいて頭角を現し、現
在はダーイシュにおいてシリア全体のオペレーションを担っている。
一説によれば、アンバーリこそが、バグダーディを背後で操ってい
るとも見られている。
 もうお分かりのとおり、ダーイシュは、イラクの元政権に所属し
ていたスンニ派の人々が築き上げた組織なのだ。その意味で、例え
ば、カリフに任命されたバグダーディ本人にどれほどの権威や意思
決定権があるのか疑問も多い。
「ダーイシュ」の基本戦略はどこから来たのか
 ここに1冊の大著がある。イスラム主義者が熱心に読む戦略書だ。
『野蛮の作法』と名付けられたイスラム主義者のための一種の指南
書だ。もともと2004年にアブ・バクル・ナージという人物の名前で
、インターネット上に投稿されたものである。そこには、イスラム
主義組織が目指すべき戦略が赤裸々に提示されている。
 アブ・バクルは、ジハード諸組織にとって、イスラム諸国におい
て民族的・宗教的な復讐心や暴力を確信的に創り出し、それをマネ
ージすることが必要なのだと強調する。また、戦闘員をリクルート
し、殉教者を出す上で、大国からの軍事的反応を引き起こすことの
有益性も指摘されている。
 そして、長期的な消耗戦(War of Attrition)とメディアの操作
によって、米国という大国を消耗させるべきだと説くのである。ま
た、敵の心に絶望感を植え付け、敵が和解を求めるまで、いかなる
敵の攻撃に対しても、敵に対価を払わせ続けるべしと主張する。
 すなわち、恒常的な暴力をイスラム諸国で継続することにより、
これら諸国が弱体化し、結果として「混乱」、すなわち「野蛮」が
生じる。それに乗じて、シャリーアを広め、セキュリティと、食糧
や医療などの社会サービスを提供することで人々の人気を集め、そ
れらの領域に最終的にカリフ制に基づく「イスラム国」を打ち立て
ることを明確に提示したのである。
 例えば、人質の活用についても明確な提言を行っている。アブ・
バクルは、人質に関する要求が満たされない場合には、「人質は、
恐怖を煽るように処理されねばならない。これこそが、敵とその支
持者の心に恐怖を植え付けるのだから」と指摘するのだ。
 『野蛮の作法』によれば、暴力は恐怖をつくり出すだけではなく
、「大衆を戦闘に引きずり込む」ために活用される。この戦略にお
いては、ムスリムの世界を恐怖によって分裂させ、米国の支援を求
める穏健な人々にも、そのような希望はもはや無意味であると思わ
せることにある。
 また、同書には、敵が例えばアラビア半島やイラクで(イスラム
過激派に)攻撃を行う場合に、それへの対応(テロ行為)がモロッ
コやナイジェリア、インドネシアで起きれば、敵はそれに直接反応
できず、また、世界のムスリムに実践的なメッセージが伝わるであ
ろうという、いわば非対称戦略まで明快に指南されている。
 この指南書をよく読み込んだのがダーイシュの幹部であったのだ
ろう。実際、アブ・バクル・ナージの教えをなぞった考えが、ダー
イシュの発刊する『ダービク』という宣伝雑誌にうんざりするほど
出てくるのだ。実際、一連の人質の残虐な殺戮は、鮮明にこの戦略
そのものを実施していると言ってよいほどだ。今、ヨルダンの国論
に亀裂が入ったことを最も喜んでいるのは、彼らなのだ。
 実は、『野蛮の作法』の中では、敵を火刑にすることすら、7世紀
の初期イスラム時代に預言者ムハンマドの教友であったアブ・バク
ル(初代正統カリフ)も行ったことだとして、この極刑を推奨すら
している。
 「イスラム」を錦の御旗にすることで、世界の諸国から戦闘員を
リクルートし、暴力を拡大し、宗派間の対立を煽り、イラクという
国家を引き続き恐怖に引きずり込み、そして、アラブの春以降の力
の空白につけこみ、周辺の国々まで巻き添えにしようとする。この
ようにして「野蛮」な領域が拡がれば、拡がるほど、ダーイシュの
「幻想の国家」は大きくなっていくことになる。
 今や、彼らは日本や欧米諸国、全ての有志連合に参加する国々を
確信的に巻き込もうとしているのである。これは一言で言えば、サ
ラフィー・ジハード主義者とイラク戦争の敗者からなるハイブリッ
ドな組織による渾身の巻き返しなのである。
==============================
ISISは自滅への道を歩むか
アラブ人の対立を煽る作戦が裏目に出る可能性
2015.02.06(金)  Financial Times
(2015年2月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
思想的に歪んだ世界各地のジハード(聖戦)集団を除くすべての人
にとって、昨年12月に拘束されたヨルダン軍パイロット、モアズ・
カサスベ中尉を生きたまま燃やした殺害事件は、過激派組織「イラ
ク・シリアのイスラム国(ISIS)」が計り知れないほどの邪悪さを
持つことを証明した。
 だが、いま最も重要なのは、この自称イスラム異端審理に対する
地元のスンニ派と各部族の反応がいかに発展していくか、だ。これ
は果たして、ISISが策に溺れて自滅への道を歩む始まりになり得る
のだろうか。
ヨルダン人パイロットを残虐な方法で殺害した意図とは
 得意げにビデオ撮影されたカサスベ中尉の焼殺に対するヨルダン
の反応は、2005年にアンマンのホテルで起きたアルカイダによる自
爆テロ事件で有罪判決を受けたジハード主義者2人の死刑を執行する
ことだった。
 この2人は、すでに死亡したアブ・ムサブ・ザルカウィのネットワ
ークの一員だった。
 ザルカウィはヨルダン生まれのイラクのアルカイダ系組織の指導
者で、ISISの誕生に一役買い、数々の人の首を切る、地域で最も残
虐なジハード主義者と見なされていた。
 ザルカウィの組織がISISの前身だ。そのISISをいま率いるのは、
ザルカウィ以上に残忍な元部下で、戦闘部隊が制圧したシリア東部
とイラク西部の広大な地域で国家樹立を宣言した自称「イスラム国
」カリフ、アブバクル・バグダディだ。今回の忌まわしい殺害に対
する彼とISISの動機は検証することができる。
 ISISはこれまで、斬首、はりつけ、石打ち、むち打ち、奴隷化に
手を染め、シーア派、キリスト教徒、ヤジド派などの「異教」「背
教者」の小数派を一掃する意思を明言してきた。今回の殺害は、こ
うしたISISの残虐行為をさらに重ねることに加え、3つのことをしよ
うとしたように見える。
 ISISに対する米国主導の空爆作戦がもたらしている焦土化を衝撃
的なやり方で喧伝すること。この空爆作戦に対する無制限の全体主
義的対抗を表明すること。そして、ヨルダンなど、「十字軍」連合
と手を組むスンニ派アラブ諸国が負う潜在的なコストを浮き彫りに
することだ。
 だが、カサスベ中尉を殺害した卑劣な行為はほぼ間違いなく、近
隣諸国の間の断層を探ろうとするISISの取り組みの一部を形成して
いた。
 ISISはここへ来て、トルコとの国境に接するシリア北東部のクル
ド人街、コバニ(アインアルアラブ)を巡る戦いに負けた。だが、
戦術的には、トルコ人とトルコ国内のクルド人の間の激しい分裂を
呼び覚まし、30年間の武力闘争を経て少数派クルド族と和解しよう
とするトルコの新イスラム主義政府の努力を阻止することに成功し
た。
 同様に、ISISはレバノンにも撃退された。だが、イランの支援を
受けたレバノン国内の強力なシーア派民兵運動「ヒズボラ」をシリ
ア内戦に引き込むことには成功している。このことは、いまだに
1975〜90年の内戦の宗派対立の傷が癒えていないレバノン国内で不
和の種をまいた。ISISは、襲撃の際に拘束したレバノン人兵士、警
官を、宗派に基づいて斬首することで、宗派間の緊張を維持してい
る。
 ヨルダンの場合、ISISの意図は恐らく、アブドラ国王のハーシム
家の君主制を支える部族的基盤を打ち砕くことだったのだろう。
 カラク出身のカサスベ一族のようなヨルダン川東岸の大きな部族
に対する政府の政策への不満は、いまではイスラエルに占領されて
いるヨルダン川西岸からやって来たパレスチナ人が少なくとも国民
の半分を占める国にあっては、決して小さな問題ではない。
部族の心理を読み違えたか
 とはいえ、アブドラ国王は短期的に試練に直面するものの、ISIS
はさまざまな部族の気持ちを読み違えたように見える。実際にヨル
ダンで国民心理を読み違えたのだとすれば、イラクとシリアでも同
じ過ちを繰り返すかもしれない。
 それこそが、自分の血みどろの手を過信して行き過ぎたザルカウ
ィに起きたことだった。アルカイダとともに米軍占領と戦ったスン
ニ派の反乱勢力は、ザルカウィの工業規模の殺戮や宗派大虐殺への
欲求に嫌気を差し、極め付けに部族の特権を奪われたことで、2006
〜09年にアルカイダを攻撃するようになった。ISISよりも広く国境
をまたぐ現象であるスンニ派部族政治のコイルは、滑りやすかった
りするのだ。
 ISISが自滅への道を歩むこの動きを止めるものがあるとすれば、
それは西側が地域の独裁者、特にシリアのバシャル・アサド大統領
への依存に再び傾くことだ。ISISを前にして、一部の西側の軍実力
者はアサド体制に対して「(知らない悪魔より)知っている悪魔の
方がまし」というモードに入っている。
 シリアのスンニ派の心理を反ISISに変える助けになるのは、アサ
ド家を権力の座から降ろすことだ。そしてこれは、もしかしたら、
アサド体制の最大の支援国であるイランと米国との和解の好ましい
副産物として実現できるかもしれない。
By David Gardner
==============================
イスラム国、イラクで子供の人身売買や生き埋めも=国連
2015年 02月 5日 14:09 JST
[ジュネーブ 4日 ロイター] - 国連の「子どもの権利委員会」
は4日、過激派組織「イスラム国」が、イラクで誘拐した子供を性
奴隷として人身売買しているほか、生き埋めにするなどして殺害し
ていると報告した。
またイラクでは、18歳未満の少年がイスラム国の自爆攻撃要員と
させられたり、米国主導の空爆から施設を守るための人間の盾とし
て使われたりすることが増えているという。
同委員会のレナーテ・ウィンター氏は記者会見で「子供の拷問や殺
害を深く憂慮している」とし、クルド系ヤジディ教徒やキリスト教
徒のような少数派だけでなく、シーア派やスンニ派の子供も犠牲者
になっていると語った。
同氏はロイターに対し「精神障害を抱えている子供たちが、恐らく
理解できないままに自爆攻撃要員として使われているとの報告を受
けている」と説明。「8歳前後のかなり幼い子を少年兵として訓練
させているビデオもあった」と述べた。
イスラム国は3日、拘束していたヨルダン軍パイロットのモアズ・
カサスベ氏とみられる人物を火を付けて殺害する映像も公開した。
同委員会は、1998年以降で初めてイラクの状況を調査。イスラ
ム国が宗教的・民族的少数派に属する子供を組織的に殺害している
と非難し、「少年の集団処刑のほか、子供の斬首やはりつけ、生き
埋め」も報告されているとした。
また、なかには誘拐され、性奴隷とされる子供たちもおり、イスラ
ム国が「組織的な性暴力」に関与していると、同委員会は指摘。ウ
ィンター氏によると「少数派の子供は多くの場所で誘拐され、値札
を付けられて奴隷として市場で売られている」という。
報告書作成に参加した専門家18人はイラク当局に対し、イスラム
国の支配下にある子供の救出にあらゆる措置を講じるよう求めた。
==============================
「イスラム国」掃討に53億ドル 米国防予算案
2015年2月3日 chunichi夕刊
 【ワシントン=青木睦】米国防総省は二日、二〇一六会計年度(
一五年十月〜一六年九月)の国防予算案を発表した。戦費は、アフ
ガニスタン駐留軍の縮小により五百九億ドル(約五兆九千五百億円
)で前年度実績より減額要求となったが、過激派組織「イスラム国
」の掃討作戦には、イラク政府軍やシリアの反体制派への武器供与
・訓練支援(十三億ドル)も含め、二億ドル増の五十三億ドルを計
上。
 テロとの戦いを続ける国を支援する基金への拠出に二十一億ドル
を要求した。
 海外での戦費を除く基本予算(一般経費)は、要求ベースで前年
度より7・8%増の五千三百四十三億ドルとなった。
 中東に加え、ウクライナ紛争に伴う欧州の情勢不安定化に対処す
るとともに、アジア太平洋地域へのリバランス(再均衡)政策を継
続する方針を示し、地域的には三方面を見据えた内容。中国やロシ
アを念頭に、米国が圧倒的な優位を保つため、技術開発や兵器調達
・更新の費用も膨れ上がった結果、予算案は二年ぶりの増額要求と
なった。
 ステルス戦闘機F35を五十七機調達し、米海軍横須賀基地を母
港とする原子力空母ジョージ・ワシントンの改修費も盛り込んだ。
サイバーテロ対策には五十五億ドル、在沖縄海兵隊のグアム移転費
は一億二千六百万ドルをそれぞれ計上した。
 予算案は一三年に発動した歳出の強制削減措置の上限四千九百九
十億ドルを超えている。共和党が主導する議会が強制削減措置の撤
廃・緩和に応じ、要求額を認めるかどうかが焦点になる。
==============================
イスラム国の「真の狙い」など存在しない
錯綜した人質事件の情報(前篇)
2015.02.03(火)  黒井 文太郎  JBPRESS
2月1日、イスラム国はジャーナリストの後藤健二氏を殺害した映像
を公開した。残念な結果だが、これはイスラム国がかねて予告して
いたとおりのこと。後藤氏解放の条件としてイスラム国が要求して
いたのは、ヨルダン政府が収監中のサジダ・リシャウィ死刑囚の釈
放・引渡しだったが、ヨルダン政府がそれを拒否したことで、時間
切れとなったかたちだ。
 この間、さまざまな情報が飛び交い、あたかもヨルダンとイスラ
ム国の交渉が進んでいるかのような印象もあったが、そうした情報
はいずれも誤情報だったということになる。
 今回の人質事件をめぐっては、イスラム国の目的について「存在
感のアピール」とか「有志連合への揺さぶり」などとさまざまな説
が飛び交ったが、それには大いに疑問がある。実際のところ、すで
にこれまで何度も繰り返してきた外国人人質殺害によって、イスラ
ム国の存在感は国際的にも十分に大きなものとなっており、いまさ
ら新たな誘拐・殺人を重ねても、国際的な宣伝効果はさほど高くな
い。
 また、ヨルダンと日本を結びつけた今回の脅迫も、日本人の反イ
スラム国感情を高めこそすれ、有志連合を揺さぶるほどの効果など
最初から期待できない。つまり、イスラム国の「真の狙い」なるも
のが、本当にあったのか甚だ疑わしいのだ。
 イスラム国の本当の考えなど、外部の人間には分かるはずもない
が、彼らは脅迫映像でその主張を自ら公表している。われわれが知
り得るのは、その情報だけであることに留意する必要がある。
「やっていること、言っていること」を分析のベースに
 筆者は今回の事件において、イスラム国の出方を探るために必要
な状況分析に、根拠の薄い主観的推測と未確認情報が広く見られた
との印象を持っている。
 真実を探るうえで、考え得るさまざまな可能性を検討することは
重要だ。したがって、未確認情報でも「それが事実だったら?」と
の仮定で状況を分析する意味はある。主観的な推測も、なるべく多
くの想定に基づいて検討すべきだ。
 しかし、その前にまず行うべきは、実際にイスラム国のやってい
ること、言っていることをシンプルに分析する作業である。それが
ベースになって初めて、「もしかしたら他に狙いがあるのかも?」
と検討するという手順が必要だ。それが最初から、主観的推測と未
確認情報を前提にした分析がベースになってはいけない。
 今回の事件で言えば、主観的推測と未確認情報をいったん排除し
、実際のイスラム国の言動だけを検討しても、そこには一貫性があ
ることが分かる。
 繰り返すが、イスラム国の考えは外部には分からない。もちろん
彼らの言動に大きな矛盾があれば、隠された裏の狙いがあるといっ
た「穿った見方」も説得力を持つが、矛盾が見当たらなければ、ま
ずはストレートに考えることが必要だ。前述したように、もちろん
さまざまな可能性について考察することも重要だが、「穿った見方
」が先行しては、観念的な世界に囚われ、リアルを見失う。
 そこで、ここでは「イスラム国には特に隠された狙いなどなかっ
た」と仮定して、彼らの語ったこと、行ったことを検証してみたい。
その行動は完全にプロの誘拐団のもの
 まず、イスラム国の過去の行動を見れば、今回の人質事件は、こ
れまでイスラム国が何度も繰り返してきた「外国人誘拐ビジネス」
の延長にすぎないことが分かる。イスラム国は、特にシリアにおい
て、自分たちの手に入った外国人を片っ端から監禁している。
 監禁した外国人に対し、イスラム国はまずはスパイ容疑で尋問し
、その後はほぼ例外なく身代金目的の人質としている。そして、身
代金が支払われた人質は必ず解放し、支払われなかった人質は殺害
している。
 この方針は徹底したもので、例えば彼らが敵視しているキリスト
教主導先進国であるフランスの国民でも、身代金が支払われれば解
放している。米英の両国は国策として身代金支払い拒否を公言して
いるが、それでも例えばアメリカ人人質の家族に身代金が要求され
ていたケースがいくつか明らかになっている。たとえ敵国でも、解
放するか殺害するかは、完全に身代金支払いの有無によるのだ。
 これは、彼らが政治的アピールを最大の目的とはしていないこと
を示唆している。彼らの行動は完全に、営利目的のプロの誘拐団の
ものだ。彼らはただ1回だけ誘拐しているわけではなく、資金源とし
て誘拐をとらえている。彼らは自分たちの脅しが言葉だけでないこ
とを担保し、さらなる脅迫を円滑に行うために、必ず約束は守る。
少なくともイスラム国はこれまでの誘拐事件で、そのルールを一度
も破ったことがない。
 ちなみに、シリアで誘拐ビジネスが流行しだしたのは、内戦が泥
沼化した2012年半ばであり、イスラム国がその主役になったのは2013
年半ば頃からだが、現地での誘拐ビジネスには当初からそうしたル
ールがあったようだ。その背景には、かつて米軍駐留時代のイラク
で、地元富裕層に対する誘拐ビジネスが広く蔓延していたことがあ
るのかもしれない。誘拐ビジネスの手法が、イラクからシリアに持
ち込まれたという構図である。
 なお、シリアでは実際には外国人だけでなく、現地の人間も誘拐
ビジネスの対象になっているが、筆者がヨルダン在住のシリア難民
から直接聞いた話では、現地住民の身代金の相場は800ドル程度であ
り、平均して数億円が要求されている外国人人質の相場とはケタが
違うとのことだ。やはり外国人は、それだけ彼らにとっても大きな
資金源なのである。
 ともあれ、イスラム国は以上のように、外国人人質はまずカネに
換えることを考える。政治的な利用は二の次だ。その点で、イスラ
ム国は政治的なアピール、または駆け引きを重視するアルカイダの
ような既存のイスラム過激派とは一線を画している。「日本は人道
支援を行っているだけだ」と説得すれば対話が可能だという見方は
、イスラム国とアルカイダ等を混同している甘い見方であろう。
==============================
イスラム国の戦略―― ハイジャックされたアルカイダのイスラム
国家構想
ウィリアム・マッカンツ  ブルッキングス研究所フェロー
 フォーリン・アフェアーズ リポート 2014年10月号
イスラム国家の樹立構想を考案したのは、現実にイラク・イスラム
国の樹立を表明した「イラクのアルカイダ(AQI)」ではなく、
アルカイダのアイマン・ザワヒリだった。ザルカウィが死亡した後
にAQIの指導者となったアブ・アイユーブ・マスリはAQIを解
体し、現在のイスラム国の指導者とされるアブ・オマル・バグダデ
ィを「信仰指導者(アミール・ウル・モミニン)」として仰ぎ、そ
の忠誠を誓った。・・・2013年、イスラム国はシリアとイラク
の双方で権力を確立したと表明する。ザワヒリはイスラム国に対し
て、「主張を取り下げて、シリアを去り、イラクに帰るように」と
求めたが、イスラム国の指導者はこれを相手にしなかった。・・・
イスラム国家を樹立するというザワヒリの強烈なアイディアは彼の
手を離れて自律的な流れを作り出し、アルカイダを解体へと向かわ
せ、いまやイスラム国がグローバルなジハード主義の指導組織の地
位を奪いつつある。
==============================
「イスラム国」:恐怖拡散 死刑囚奪還、謀略外れ
毎日新聞 2015年02月02日 東京朝刊
 イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)による日本人人質事
件は、拘束されていた軍事関連会社経営、湯川遥菜さん(42)に
続き、フリージャーナリストの後藤健二さん(47)も殺害された
とみられる映像が公開され、最悪の事態となった。ISは、「平和
国家・日本」を脅し、世界に不気味な存在感を示した。一方で、交
渉先となったヨルダン政府には揺さぶりをかけられ、IS側の誤算
も垣間見える展開となった。
 「このナイフはケンジ(後藤健二さん)を殺すだけでなく、どこ
であろうとお前の国民を見つければ皆殺しにする。さあ、日本の悪
夢を始めよう」。現地時間1月31日に公開された映像で、IS戦
闘員とみられる男は、日本の全国民を脅した。
 ISは従来、有志国連合の対ISの空爆作戦を主導する米英仏豪
を名指しし、同様の脅しをかけてきたが、空爆に参加しない国には
初めてだ。ISはシリアやイラクでの領域拡大を優先してきたが、
今回の声明は、日本など空爆不参加の国も標的になるという明確な
意思表示といえる。
 過激派の動向に詳しいエジプト情勢研究所のアフマド・バン研究
主幹は、日本への脅しについて、「ISは世界中に恐怖を与え、存
在感を誇示することに成功した」と指摘する。また、「空爆に参加
していない国の人質は他にもいるはずだ。解放のための水面下での
交渉でISの脅迫は今後さらにすごみを増す」と述べた。
 31日の声明には不可解な面もある。日本政府と同様に脅迫して
いたヨルダン政府や、「(後藤さんよりも)先に殺害する」として
いた捕虜のヨルダン軍パイロット、モアズ・カサスベ中尉への言及
がない点だ。
 ISが後藤さんの解放条件として要求していた前身組織メンバー
、サジダ・リシャウィ死刑囚の釈放についても触れなかった。
==============================
シリア要衝からの「撤退」は激しい空爆が原因 戦闘員証言
2015.02.01 Sun posted at 15:31 JST
(CNN) クルド人民兵組織が先月26日、イスラム過激派「イラ
ク・シリア・イスラム国(ISIS)」が制圧していたシリア北部
の要衝アインアルアラブ(クルド名コバニ)市を奪還した戦果で、
ISIS戦闘員と名乗る男性2人は1日までに、米軍主導の有志連
合による絶え間ない空爆が同市からの撤退の原因と証言した。
シリアのISIS系の通信社「Amak」との会見で述べた。この
うち目出し帽を被っていた1人は、撤収は徐々に実行されたと指摘
。空爆で多数の戦闘員が殺害された事実も明かした。
背後に見られる破壊の跡を指さしながらも、オバマ米大統領へのメ
ッセージとして「ISISは存在し続ける」とも主張した。
別の1人はコバニを示す路上の標識近くで取材に応じ、空爆をしの
ぐ場所が市内になくなったと撤収の理由を説明。「ISISは市内
の7割以上の地区を押さえていたが、空爆で建っていたビルなどが
全て破壊された」と述べた。
「航空機は昼夜問わず襲来し、空爆した。全てが標的となり、オー
トバイさえ破壊された」と語った。その上で、「我々は戻るだろう
。数倍の規模で報復する」と宣言した。
コバニ制圧時については、同市周辺の360カ所にある村落を襲撃
したと証言。「村民はネズミのように逃げ去った」とも形容した。
民兵組織「人民防衛隊(YPG)」によるコバニ奪取の軍事作戦は
112日間続き、有志連合の空爆の支援も受けていた。
一方、英ロンドンに拠点を置くシリアの反体制派「シリア人権監視
機構」は1日までに、ISISはコバニの攻防戦で昨年10月6日
から先月26日までの間に戦闘員979人を失ったと報告した。
YPGの被害は324人で、同組織を支援する戦闘員12人も死亡
した。
車爆弾や自爆攻撃を仕掛けて死亡したISIS戦闘員は38人。
ISISによるコバニへの砲撃で殺害された一般住民は12人とし
ている。
同機構は、有志連合による同市内外の標的に対する空爆で殺された
ISIS戦闘員は数百人規模とした。
==============================
「イスラム国」、20人以上連れ去りか イラク北部を攻撃 
2015/1/31 23:11 nikkei
 【アンマン=佐野彰洋】過激派「イスラム国」は1月30日、イラ
ク北部の油田都市キルクークを攻撃した。クルド人治安部隊が応戦
し、31日までに撃退したが、近郊の油田から作業員20人以上が連れ
去られたとの情報もある。衛星テレビ局アルジャズィーラなどが報
じた。
 キルクークは原油産出が豊富な北部の要衝。住民の大半がクルド
人で、イスラム国が攻勢を開始した昨年6月以降、中央政府に代わ
ってクルド自治政府が実効支配している。
 イスラム国は米主導の空爆作戦を受けて、シリア北部のアインア
ルアラブ(クルド語名はコバニ)から撤退。原油価格の下落と支配
地域内の油田への空爆で、収入の減少にも直面している。
 勢力立て直しに向けてキルクークに奇襲攻撃を仕掛けた可能性が
高い。少なくともクルド人治安部隊員25人が犠牲になったほか、襲
撃を受けた油田施設などでも犠牲者が出ているもようだ。
 30日には、イラクの首都バグダッドやその近郊でも爆弾テロなど
が多発し、27人が死亡した。
==============================
「イスラム国」が英語圏でのテロ強化か、英語を話す戦闘員だけの
新キャンプ設営とも―英紙
Record China 1月29日(木)20時40分配信
2015年1月25日、南方都市報は英紙デイリー・メールの報道を引用し
、過激派組織「イスラム国」が英語を話す戦闘員だけで構成する新
たなキャンプを設営したと報じた。英語圏でのテロ行為が目的と説
明している。
新キャンプには11年に米国による空爆で命を落としたアンワル・ア
ウラキ師の名前が付いているもよう。海外でのテロ行為を唯一の目
的としており、戦闘員を訓練した後、海外に送り出す計画という。
ある欧州出身の戦闘員の「祖国でテロを起こすよう、すでに命じら
れている。今は帰国の準備をしているところだ」という声も伝えら
れた。
欧米からはこれまで、数千人が戦闘員として「イスラム国」に加わ
り、中には訓練を受けて帰国した者もいるとみられている。
(翻訳・編集/野谷)
==============================
ヨルダン敵視、不安定化の思惑鮮明=版図拡大狙う「イスラム国」
 人質に取る後藤健二さんを通じて「最後のメッセージ」を出させ
た過激組織「イスラム国」が、親米国家ヨルダンの不安定化を狙う
姿勢を鮮明にしてきた。内戦で「権力の空白」が生じたシリア北東
部とイラク北西部で国家樹立を宣言したイスラム国が版図拡大を狙
うとしたら、次の標的はヨルダンになるとの見方が有力だ。
 イスラム国は、後藤さんとヨルダンが収監するイラク人テロリス
トの女死刑囚との「1対1の捕虜交換」を迫ることで、イスラム国
が人質に取るヨルダン人操縦士を見捨てたとの印象をヨルダン国民
に抱かせ、くすぶる王家支配への不満を拡大させる思惑があるよう
だ。
 ヨルダンは治安機関の力が強く、テロ対策が徹底されているほか
、国内の不穏分子の監視も行き届いているとされる。ただ、2011
年の民主化要求運動「アラブの春」を受け、散発的にデモが繰り広
げられた経緯があり、南部マアンでは昨年、イスラム国支持者によ
る小規模なデモが起きたと伝えられる。
 イスラム国を含めたイスラム過激派が描く版図は、アンダルシア
(スペイン南部)から中国の一部である東トルキスタンといわれる。
過激派にとってはかつてのイスラム地域にある「腐敗した政権」が
聖戦(ジハード)の対象になる。特にイスラム国は、ヨルダンなど
の誕生につながった英仏、ロシアが第1次大戦中の1916年に結
んだオスマン帝国分割を約束した秘密協定、サイクス・ピコ協定を
受けて誕生した主権国家の破壊をもくろんでいる。(2015/01/28-14:49)
==============================
イラク軍、中部の県制圧…「イスラム国」と攻防
2015年01月27日 17時48分
 【カイロ=柳沢亨之】AFP通信によると、イラク軍幹部は26
日、イラク中部ディヤラ県でのイスラム国との戦闘の末、同県全体
を制圧したことを明らかにした。
 イスラム国は同日、シリア北部の要衝アイン・アラブからも撤退
しており、勢力拡大に陰りが出てきたとの指摘もある。
 同通信などによると、イラク軍やイスラム教シーア派民兵は23
日、ディヤラ県ムクダディーヤ周辺の複数の村でイスラム国を攻撃
し、25日に制圧。村々には多くの爆弾が残されていた。ロイター
通信によると、この戦闘による死者はイラク政府側が58人、イス
ラム国側が65人に上ったという。
 同県では昨年夏以降、各地でイスラム国との激しい攻防が続いて
いた。
2015年01月27日 17時48分 Copyright c The Yomiuri Shimbun
==============================
イラク危機、空爆されても進軍を続けるISIS
2014.08.12(火)  Financial Times
(2014年8月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米国が、2年半前に正式に見放し、実際はそれ以前からほぼ見捨てて
いた戦闘地域に舞い戻り、イラク北部のイスラム武装勢力に大規模
な空爆を数回行った。
 この空爆により、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」の封
じ込めに苦労しているクルド人の部隊とイラク政府軍への重圧は軽
減されている。ISISはアルカイダから分派した武装組織で、2カ月前
からイラク北部の領土を奪取・支配している。
 だがイラクの地上に降りてみると、空爆が最前線にもたらしたイ
ンパクトは限定的なものであることが分かる。ISISの部隊を後退さ
せるには至っておらず、むしろISISがプロパガンダで勝利を収めて
いると見なすこともできるからだ。
 ISISの指導者層はまだ無傷であるうえに、この空爆に乗じて、自
分たちの中東掌握を目指した戦いは米国と西側諸国によるこの地域
の支配に終止符を打つ戦いの一環なのだと主張できるようになって
いる。
==============================
武装組織、首都進撃を宣言 イラク情勢緊迫 
2014/6/13 1:34nikkei
 【ドバイ=久門武史】イラク北部で支配地域を広げるイスラム教
スンニ派の過激派武装組織「イラク・シリアのイスラム国」は12日
、首都バグダッドへの進撃を宣言し、首都北方で戦闘を重ねた。マ
リキ政権は統治力のもろさを突かれ、2011年の米軍撤退後、最悪の
窮地に陥った。宗派対立と政治の機能不全につけ込む武装組織の戦
力の供給源は、内戦が泥沼化する隣国シリアだ。
 「逃亡者は処罰する」。11日、反転攻勢を訴えたイラクのマリキ
首相の発言は、治安部隊の士気の低さを浮き彫りにした。10日に陥
落した同国第2の都市モスルでは、警官が持ち場を捨てて逃げたと
伝えられた。
 03年からのイラク戦争でフセイン政権と軍は崩壊。イスラム過激
派や各宗派の武装集団が、米軍に対抗する名目で各地に流れ込んだ
。オバマ政権が11年末に戦争終結を宣言し、米軍が撤退した後、力
の空白をイラクが自ら埋められるかには当時から懸念があった。
==============================
イラク過激派、首都60キロへ侵攻
2014年06月18日 00時55分Yomiuri Shimbun
 【カイロ=久保健一】AFP通信によると、イラクのイスラム教
スンニ派の過激派組織「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS
)は17日、首都バグダッドの北60キロにある都市バアクーバへ
の攻撃を開始した。
 市中心部の警察署付近でイラク軍と激しい戦闘になり、過激派メ
ンバーら44人が死亡した。市街地の一部を制圧したとの報道もあ
る。完全に制圧すれば、首都侵攻が現実味を帯びてくる。
 バアクーバは中部ディヤラ県の中心都市で人口約50万人。住民
の多くはスンニ派だ。



コラム目次に戻る
トップページに戻る