5275.イスラエルとサウジ/プーチンの再武力行使



イスラエルとサウジ/プーチンの再武力行使
                DOMOTO     2015/02/04
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735

【◆◆以下は1月8日に発信した記事に加筆したものです】

【目次】

【序】日本とペルシャ湾での中東冷戦

【1】イスラエルとサウジの軍事協力の可能性

   【付】終わらない米国の5つの戦争

【2】プーチンはいつ再び武力を行使するか


    【序】日本とペルシャ湾での中東冷戦

昨年10月まではロシアのプーチンの戦略について書くことが多かっ
たのですが、原油下落にともなうプーチンの勢いが鎮まるにつれ、
中東地域で「イスラム国」以外で、サウジとイランの「新中東冷戦
」の緊迫化が目立ってきています。
とくにサウジ政権を取り囲む国内外の中東情勢は、世界の原油価格
や私たちの暮らしに大きく関わってきます。

キッシンジャー氏などは、中東の現状においては「イスラム国」よ
りもイランの方がより重大で困難な問題であると言っています。ま
た戦略国際問題研究所(CSIS)のアンソニー・コーデスマン氏
は先月12月の長編レポートのなかで、中東での紛争国とそれに関わ
るテロ組織のすべてのなかで、イランの問題が一番重要だと言って
います。

私は日頃、戦略国際問題研究所(CSIS)の中東地域の新着記事
の題名にはなるべく目を通すようにしていましたが、11月からイラ
ンとサウジが対峙するペルシャ湾をはさんだ軍事的リスクに関する
レポートがいくつか出てくるようになりました。

(「新中東冷戦」という語はブルッキングス研究所のグレゴリー・
ゴーズ氏が、2013年7月ぐらいの記事から使っています。)

中東地域、とくにペルシャ湾をはさんだ戦争リスクでは、我が国で
は安倍政権が集団的自衛権の容認を推し進めようとしているので、
米国から協力しろとかなりの圧力をかけられるようになると思いま
す。


    【1】イスラエルとサウジの軍事協力の可能性

サウジをはじめとする湾岸諸国が、米国のオバマ政権に非常な懐疑
心や不満をもっていることは、昨年12月25日の記事でお伝えしまし
た。

とくにサウジは、中東での米国の軍事力とそのプレゼンスが弱まる
ことからくる、イランや「イスラム国」に対しての非常な脅威を持
っています。

イランに対してはイスラエルも核兵器開発への脅威を持っています
が、イスラエルは、サウジとイランが起こすペルシャ湾岸地帯の軍
事的リスクの高まりを非常に注視しています。

昨年12月2日に行われたワシントン中東政策研究所のディスカッシ
ョンで、イスラエルのイタマ−ル・ラビノビチ元駐米大使が、次の
ように言っています。

『イスラエルにとっての前向きな、先を見越した選択肢の一つは、
湾岸諸国をふくむスンニ派の国々と戦略的なパートナーシップを築
くことかもしれない』

ラビノビチ元駐米大使は、「サウジとカタールは、とくにイスラエ
ルとの協力に前向きである」という意見を述べています。

Rabinovich, … One proactive option for Israel moving forward 
may be to form strategic partnerships with Sunni Muslim states
, including those in the Gulf. Rabinovich expressed his belief
 that the Saudis and Qataris, in particular, would be willing 
to cooperate with Israel. 

Israel's Geostrategic Position at a Time of Regional Instability
 (12/2-2014 ワシントン中東政策研究所)  
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/2014-scholar-statesman-award-dinner

ラビノビチ元駐米大使が提示したイスラエルのこの戦略的オプショ
ンは、サウジなどスンニ派諸国がもつ、米国に対する信頼感の低下
から生まれるニーズを戦略に活用しようとするものです。
この記事の中では、その報告者がこう述べています。

『ISIS、イラン、そしてムスリム同胞団という共通の脅威を考
えると、イスラエルと湾岸諸国は、これまでにかなりの目立たない
協力をしてきた。しかし、これを率直で継続していくパートナーシ
ップに変えることができるかどうかは現時点では不明である』

このイスラエルとサウジを軸とした協力体制の構想は2013年にはも
うあったそうで、ブルッキングス研究所のブルース・リーデル氏が
、2013年11月の記事で取り上げています。リーデル氏は、CIAや
国家安全保障会議(NSC)のスタッフを長年務めた中東と南アジ
アの専門家です。

An Israeli-Saudi Axis? Not Likely 
(2013/11/29 ブルッキングス研究所)
http://www.brookings.edu/research/opinions/2013/11/29-israeli-saudi-axis-not-likely-riedel?rssid=saudi+arabia&utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+BrookingsRSS%2Ftopics%2Fsaudiarabia+%28Brookings+Topics+-+Saudi+Arabia%29

リーデル氏によると、イスラエルとサウジには、お互いの敵に対し
て暗黙に内密な協力をしてきた長い歴史があるそうです。しかし、
2013年11月時点ではサウジは、それ以上のどんな関心も持っていな
いと彼は見ていました。

リーデル氏の結論はこうでした。

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・・・しかし、両国(イスラエルとサウジ)がもつイランへの嫌悪
と米国への苛立たしさは、ユダヤ人の国とサウド王国のあいだの、
より接近した関係の前兆にはおそらくならない。イスラエルはより
接近した関係を歓迎する。しかしサウジアラビア人はイスラエルを
信用していない。サウジアラビア人はパレスチナ人の権利を支持し
、イスラエルの核プログラムが取り除かれるのを見るのを望んでい
る。
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しかしながら、リーデル氏のこの見解は2013年11月のもので、それ
から1年余りたった現在、イランにしてもISISにしても、サウ
ジにとって脅威の状況は少しも改善されていません。とくに昨年11
月以降の戦略国際問題研究所(CSIS)は、イランによるスンニ
派湾岸諸国への脅威が、よりいっそう増大していることをいくつか
の報告書で伝えています。


    ■終わらない米国の5つの戦争

現在アメリカは、アフガニスタン、ISIS、イラク、シリア、イ
エメンと「アラビア半島のアルカイダ」というように『5つの進化
している戦争』に参加しています。

戦略国際問題研究所の幹部であり、広範な軍事問題の研究と地域的
には中東と中国の専門家として知られるアンソニー・コーデスマン
氏は、これら5つの戦争について次のように述べています。

『米国が撤退し負けることを選ばない限り、これら5つの戦争のど
れもが、次の米国の大統領が就任する時までに、終わっている見込
みはほとんどない』

The Obama Administration: From Ending Two Wars to Engagement
 in Five ? with the Risk of a Sixth (12/03-2014 戦略国際問題研究所)
http://csis.org/publication/obama-administration-ending-two-wars-engagement-five-risk-sixth

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相変わらずプーチンが強気な行動を続けています。

焦点:強気姿勢崩さぬプーチン大統領、ウクライナ情勢緊迫で思惑も
(1/29-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jpRussia/idJPKBN0L20S220150129?sp=true

1月22日の記事でお伝えしましたが、現在のプーチンはウクライナ
問題と自国経済の悪化のなかで、中東地域と地中海への戦略・政策
へも力を入れています。それが目立ち始めたのは昨年の11〜12月の
ようです。2014年のアジアシフトからの更なるシフトです。

【◆◆以下の記事は1月8日に発信した記事の一部です】


    【2】プーチンはいつ再び武力を行使するか

※この節は12月11の記事、『プーチンは経済成長を捨てて侵略する
選択を』の続編にあたります。
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39183999.html


大幅な原油下落で経済的な苦境にたっているロシアのプーチンは、
いったい何を考えて行動しているのでしょう。
海外のアナリストには、プーチンのいまの最悪な状態がこのまま続
くと見る人もいれば、現状打破の手段として武力行使に出てくると
見るアナリストもいます。私はプーチンという政治指導者の資質と
性格から後者の見方をとっています。

後者のアナリストのなかには、ロシア経済の悪化が深まるなかで、
プーチンが軍事力を行使して権力の延命を計るのはいつぐらいの時
期かに言及している人もいます。

戦略国際問題研究所のアンドリュー・クチンス氏は、CNNへの寄
稿記事でこう言います。

『プーチンより前のロシアの指導者ミハイル・ゴルバチョフとボリ
ス・エリツィンが、主に国家経済の経済的困窮という結果で最後に
は不人気になったのと全く同じように、長期にわたる経済の下降は
、クリミア併合の強い高揚感の後の現在の人気の高まりを深くむし
ばんで(侵食して)いくだろう』

Will economy be Putin's downfall? (12/07-2014 CNN)
http://edition.cnn.com/2014/12/07/opinion/kuchins-putin-economy-problems/

この指摘から、いまのプーチンの高い支持率は(伝えられるところ
では80%)、<領土拡大の興奮>からまだ国民が覚めていない部
分が大きいことがうかがえます。

クチンス氏は記事の最後の方でこう言います。

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プーチンが2012年に大統領に戻った時、ほとんどのロシア人と海外
の観測筋は、彼の任期は少なくとももう12年続くことを(2024年ま
で)あきらめて観念したように見えた。しかし、現在の状況では、
最近の出来事が2018年の彼の再選に疑問を投げかけるだけでなく、
もし経済的下降が続くならば、2016年に予定されているロシアの国
会議員選挙はそのシステムをぐらつかせるだろう
(訳注:ロシア下院選挙)。

ロシアの歴史を学ぶ学生なら誰でも、ロシアの進路はしばしば非直
線的な出来事によって妨害されるという事を知っている。そして現
在、もうひとつの出来事が(訳注:侵略)この先数年後に起こるだ
ろうという危険性が、ますますあるように見える。

When Putin returned to the presidency in 2012, most Russians 
and outside observers seemed resigned to at least another 
12 years of his leadership, through 2024. But as things stand
, not only do recent events call his re-election in 2018 
into question, but if economic decline continues, 
the Duma elections scheduled for 2016 could shake the system.

Any student of Russian history knows that Russia's path is 
frequently disrupted by nonlinear events, and today it appears 
increasingly possible that another could happen even 
in the next few years.

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ロシア大統領の任期についてウィキペディアの説明を引用しておき
ます(大統領の連続3期の任期は法律で禁じられています)。

「2008年の憲法改正により、今任期から連邦大統領職の任期が6年と
なったため、任期満了は2018年となる。また、仮に次期大統領選挙
に出馬・再選された場合には、2024年まで在任することになる」

ウラジーミル・プーチン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3

CNN記事の上記の箇所のように、クチンス氏は2018年の次期大統
領選挙の前にプーチンが武力行使にでてくるだろうと予測していま
す。
これに対してアメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オ
ースリン氏は、ロシア経済の悪化が深まれば、それにより2015年が
プーチン政権にとって危険な年になるので、そうすれば今年中にも
軍事力行使を行うだろうと示唆しています。

Russian Caveat (12/23-2014 アメリカン・エンタープライズ研究所)
http://www.aei.org/publication/russian-caveat/

そしてオースリン氏は、経済悪化につれて起こる反政府的騒乱や暴
動に対しては、厳重な取り締まりを強化するだろうとも言っています。


■関連リンク

プーチンは経済成長を捨てて侵略する選択を(12/11-2014 拙稿)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39183999.html

プーチンは停戦を遵守するかー「ノヴォロシア」の復興ー(10/09-2014 拙稿)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39109236.html


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