5253.資本主義の終焉と復活



スイス中央銀行がフラン上限撤廃をしたことで、安全資金への動き
が加速して、ドイツ国債や日本国債の金利が低くなり、日本の10
年物の国債金利が0.25%以下になる異常事態である。これをど
う見るか、検討したい。  津田より

0.異常な事態
スイス中銀は15日、過去3年にわたり維持してきたスイスフラン
の対ユーロの上限(1ユーロ=1.20フラン)を廃止すると突然
発表した。これを受けてスイスフランは対ユーロで一時40%急騰
。その後は上げ幅を縮小したが、投資家やスイス企業は騒然となっ
た。

スイス中銀は、政策のしっかりした信頼の置ける機関と考えられて
いた。しかし、3年間にわたって金融政策の拠り所としていたフラ
ンの上限設定に突如終止符を打ったことで、その土台はひっくり返
った。債務問題や低成長とマイナス金利で混沌とした世界では、他
国の中銀も同じように破壊的なやり方で考えを変える可能性がある。

スイス中銀のヨルダン総裁は15日チューリヒで記者団に「決定は市
場を驚かせたが、ほかのやり方はできなかった」と述べた。フラン
の上限維持は「持続可能な政策ではないとの結論に達した」と説明
した。ECBはちょうど1週間後の政策委員会で量的緩和(QE)
などの政策を協議するし、ギリシャのユーロからの離脱などが起こ
れば、これでもフランは高騰することになる。しかし、為替介入は
続けるとヨルダン総裁は述べ、フランの急激な上昇は抑えるようで
ある。

次の教訓は、デフレとの戦いで奇跡を期待してはいけないというこ
とだ。スイスの消費者物価はすでに年率でマイナスになっており、
原油安でその傾向には拍車がかかるとみられる。それでもスイス中
銀は、デフレ圧力を強めることになるフラン高の方が、まだましな
方策だと決断した。

これと並行して、ギリシャ問題が出ていて、 ECB理事会メンバー
のノボトニー・オーストリア中銀総裁は、ギリシャによるユーロ圏
離脱は、同国だけでなく欧州全体ににとり「非常に危険な」動きに
なるとした。
同総裁は、ギリシャがユーロ圏を離脱した場合について、「ユーロ
圏のみならず、欧州連合(EU)からも脱退することになるため、
ギリシャのみならず欧州全体にとり非常に危険な展開となる」とし
た。

このような状況から、円高になり1ドル=116円になり、かつ、
日本国債の10年物が、日銀が積極的に買っているので、品薄にな
り、過去最低の金利になり、0.25%以下になっている。また、
5年物以下は、マイナス金利になっている。

1.金利低下の原因
米欧日の長期金利が低下の一途をたどっている。市場では、ユーロ
圏経済の低迷や原油安を発端にしたリスクオフ心理の波及などが原
因として指摘されているが、世界経済を俯瞰してみれば、高いリタ
ーンが期待できる投資先が少なくなっているからではないだろうか。

また、年初から進んでいる急ピッチの原油安で、ロシアなどの産油
国経済が圧迫を受けるとの観測から、通貨と株価の同時安が進行。
合わせて米シェール業者の発行したハイイールド債や関連するプロ
ジェクトファイナンスへの懸念から、リスクオフ心理が広がり出し
ている。

米国では、このため、シェールガス事業のリストラが進み、その代
わりに低賃金の職が増えているので、米平均賃金が低下しているの
である。

高いリターンを見込める投資が実物経済に見当たらず、様々なマー
ケットに流れ込んだマネーも、最近の原油や非鉄金属などの価格急
落が起こるように、実物経済から逃げて安全資産に流れ込んでいる
。少なくとも、実物経済には高いリターンを見込める事業が少なく
なっていると言える。

2.資本主義の終焉
水野和夫教授の「資本主義の終焉と歴史の危機」の中で、「金利は
すなわち、資本利潤率とほぼ同じだと言える」とし、「利潤率が極
端に低いということは、すでに資本主義が資本主義として機能して
いない証拠だ」と主張。そのうえで「資本利潤率の著しく低い状態
の長期化は、企業が経済活動をしていくうえで、設備投資を拡大す
ることができなくなったということ」で、「裏を返せば、設備投資
をしても十分な利益を生み出さない設備、つまり過剰な設備になっ
てしまうことを意味する」と分析している。

また、違う言い方をすると「資本主義は死期が近づいている なぜ
なら地球上のどこにもフロンティアが残されていないから」といい
、資本主義とは、中心が周辺を収奪するシステムであるから、常に
収奪される(搾取される)自然や金融市場や人間がたくさんいて、
中心に富を持ち込む必要がある。

これができなくなり、国内で周辺を作り始めたのが、派遣労働者を
増やすことであるが、そのような周辺を作っても、世界の資本主義
は限界がきているようである。

このように考えると、米欧日の長期金利が、過去の水準よりも低い
トレンド線に推移して新たな均衡を形成するようなら、それは低成
長が長期化し、資本主義下での格差拡大ということになる。

これは、インド準備銀行総裁のラジャンも「Bracing for Stagnation」
で、長期の低成長に備えようと指摘している。

3.格差拡大と対策
ピケティ氏は、金融資産や不動産、工場、機械などの資本から得ら
れる収益率は経済の成長率を上回るというが、資本利潤率自体が低
いと、一層、富が一部に集中し、持てる者と持たざる者の格差が拡
大するという。現在、この事象が起きている。

このため、格差論議が往々にして「成長が先か、格差是正が先か」
といった二者択一論に陥りがちであるが、事実は簡単には成長でき
ないし、低成長で、安易に再分配政策に傾斜すると、全員が貧乏に
なり、日本の活力を失ってしまうことになる。

また、ゼロ金利、ゼロ成長の下で豊かさを意識できる社会に転換す
べきだという江戸時代後期と同じような社会を実現して、統制経済
的な体制にするべきという意見もあるが、これも全員が貧乏になる
だけである。

増田俊男氏は、現在の世界の政治体制は終焉し、新しい体制に向か
い、世界経済・金融体制は崩壊し新しい体制に移行する。これから
世界の市場を破壊し、世界を戦争に誘導し、知らぬ者の犠牲のもと
に知る者が新しい歴史を作る。と恐ろしいことを言っている。

しかし、経済が沈滞すると戦争というのが今までの歴史では当たり
前であった。イスラム教とキリスト教の戦いが今後、益々、拡大す
る可能性があり、また、中国とロシアなどが欧米に戦いを仕掛ける
可能性もある。

4.イノベーションしかない。
しかし、このような世界的な資本収益率が下がったら、その時に戦
争等で破壊するのではなく、戦争を起こさずに経済を活性化する方
法がもう1つあり、それがイノベーションである。

そして、トヨタの燃料電池車は、そのイノベーションを促進する大
きな可能性をもたらしたのである。

日本の使命は、このコラムでも述べているように、世界最終戦争を
止めることであり、そのためには、イノベーションを起こすことで
あり、それは、脱石油文明を作ることであると見る。

植生文明を真剣に作ることである。新しい世界を作ることしか、世
界を救えない。水素社会をまず作ることである。水素を製造するた
めには、エネルギーが必要であるが、ここは多様なエネルギーが利
用可能であり、再生可能エネルギー、トリウム溶融塩炉、田巻一彦
氏は、宇宙空間からプラズマを取り出してエネルギー化を提案する
が、多様なエネルギーで、水素を作れば良いのである。

ということで、大型のイノベーションを起こして、経済構造を変え
ることが重要になってきたように思う。

水素社会構築は、今後、多様な研究開発で多様な製品を生み出すこ
とになる。燃料電池というタネを作り、それから派生した多くのモ
ノを生み出せることになる。

今までのモノを一新することで、世界的な需要を作ることになると
感じる。

さあ、どうなりますか?


参考資料:
5248.「資本主義の終焉と歴史の危機」
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270113.htm

Bracing for Stagnation
http://www.project-syndicate.org/commentary/outlook-for-global-economic-growth-by-raghuram-rajan-2015-01

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通貨安競争回避へ協力を ダボス会議創設者が世界展望 
2015/1/17 23:31日本経済新聞 電子版
 世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)がスイス東部で21
日に始まるのを前に、同フォーラムの創設者クラウス・シュワブ会
長(76)がインタビューに応じた。今年の世界経済は「振れの大き
い一年になる」といい、参加者にダボス会議で世界各国に連携のあ
り方を語り合ってもらう考えだ。日本の財政問題には、柔軟な定年
退職制度の導入を提案した。
 ――世界経済の現況と展望をどうみますか。
 「まだ金融危機とその余波に…
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もてはやされるピケティ 格差論議で気がかりなこと
2015.1.17 11:00sankei
 経済格差の拡大は必然だとするフランスの経済学者、トマ・ピケ
ティ氏の大著「21世紀の資本」が話題を呼んでいる。年末に邦訳
版が出版されると、主要メディアがこぞって取り上げた。これをき
っかけに、格差論議がブームのような広がりをみせている。
 ピケティ氏の論をかいつまんで言うと、歴史的にみて、金融資産
や不動産、工場、機械などの資本から得られる収益率は経済の成長
率を上回る。このため、富が一部に集中し、持てる者と持たざる者
の格差が拡大するというものだ。その解決策として資本に対する国
際的な累進課税を提唱している。
 ピケティ氏の分析は、年末の経済協力開発機構(OECD)の調
査報告でも裏付けられる。
 それによると、過去30年、日本を含む先進国の多くで所得格差
が広がった。さらに1990年から20年間の経済を分析すると、
メキシコとニュージーランドでは格差拡大で成長率が10%以上押
し下げられたという。日本や英米などでも同様の傾向がみられる。
 これは、成長路線を突き進む安倍晋三政権にも重要な示唆を与え
る。行き過ぎた格差と、その固定化は、低所得世帯の教育機会を損
なうことなどを通じて経済全体の生産性向上を妨げるからだ。
 ただでさえ、アベノミクスの恩恵は家計や地方に行き渡っていな
い。所得格差への目配りは、社会不安を解消するだけでなく、成長
路線を強化し、経済を底上げするための政策としても、今の安倍政
権に欠かせぬ視点だろう。
 ここで気をつけたいのは、格差論議が往々にして「成長が先か、
格差是正が先か」といった二者択一論に陥りがちなことだ。
 社会全体の富や所得をどう再分配するかが問われる格差問題は政
治色の強いテーマだ。政権批判には格好のツールともなろう。
 問題は、その中身だ。
 アベノミクスで儲(もう)ける企業・富裕層の「強者」と、消費
税の増税や円安による物価上昇にあえぐ「弱者」という単純な構図
に色分けし、脱成長への路線転換を促す。そんな議論には注意すべ
きである。
 忘れてはならないのは、今の経済が、長期的な低迷期から脱して
力強さを取り戻せるかどうかの瀬戸際にあることだ。脱成長路線が
許されるほど足腰は強くない。
 経済のパイを広げる視点を欠いたまま安易に再分配政策に傾斜す
べきでないことは、3年間の民主党政権ではっきりしたはずだ。企
業活動を軽視する一方、生活者重視で実施した子ども手当などのバ
ラマキ政策は、財源を十分に確保できずに行き詰まった。
 先のOECD報告も、対象を適切に絞り込まないような再分配政
策は「資金の浪費と非効率の温床になりかねない」と警告する。極
度に悪化した日本の財政に、そんな余裕はまったくない。
 行き過ぎた格差に対処するうえで肝心なのは、誰もが成功に向け
て挑戦できるよう、教育や労働などの環境を整備して後押しするこ
とである。間違えても悪平等を蔓延(まんえん)させてはならない
。努力した人が十分に報われないようでは、社会の活力が確実にそ
がれる。それではとても本格的な人口減少社会を乗り切れない。
(論説委員 長谷川秀行)
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ドイツ10年債利回り過去最低、スイスフラン上限撤廃受け
2015年 01月 17日 04:42 JST
[ロンドン 16日 ロイター] - 16日のユーロ圏金融・債券市
場では、前日のスイス中銀によるフラン上限撤廃を受け資金が安全
資産に流れるなか、独10年債利回りが0.4%を下回り、再び過
去最低水準を更新した。フランス、ベルギー、オーストリアなど他
の中核国の10年債利回りも過去最低を更新した。
ただ、スイスフラン建て資産に対するエクスポージャーに備えるた
めの予備的な措置としてギリシャの大手行2行が同国の中央銀行に
緊急流動性支援を要請したことを受け、ギリシャ国債利回りは急上
昇した。
スイス国立銀行(中央銀行)が前日、過去3年にわたり維持してき
たスイスフランの対ユーロの上限を廃止したことを受けスイスフラ
ンが急騰。株式などの高リスク資産から国債などの安全資産に資金
が流れ、最高位の「AAA」に格付けされている独連邦債が大きな
恩恵を受けた。
独10年債利回りは一時0.380%まで低下。この他、フランス
、ベルギー、オランダ、フィンランド、オーストリアなどの10年
債利回りも過去最低を更新した。
一方、スイス10年債CH10YT=TWEB利回りはマイナス0.053%ま
で低下。先進国のなかで10年債利回りがマイナス圏に落ち込むの
はスイスが初めてのケースとなる。
市場関係者は、スイス国債を売って利回りが高い債券を買う動きが
出始めていると指摘。コメルツ銀行のアナリスト、マーカス・コッ
ホ氏は、スイス中銀の予想外の決定の影響が波及しているとしてい
る。
欧州中央銀行(ECB)が22日の理事会で国債買い入れ型の本格
的な量的緩和の実施を決定するとの観測が高まっていることから、
格付けの低いユーロ加盟国の国債利回りも低下。イタリア10年債
IT10YT=TWEB利回りが1.65%と最低水準を更新したほか、スペイ
ン10年債ES10YT=TWEBは1.505%に低下した。
ただ、ギリシャ国債利回りは急騰。ギリシャの銀行大手アルファ銀
行とユーロバンクがギリシャ中央銀行に緊急流動性支援(ELA)
を申請したことを受け、ギリシャ10年債GR10YT=TWEB利回り
は9.69%と、50ベーシスポイント(bp)を超えて上昇。3
年債GR3YT=TWEB利回りは12%近い水準まで上昇した。
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コラム:資本主義の「病気」がもたらす長期金利低下
2015年 01月 16日 17:31 JST
田巻 一彦
[東京 16日 ロイター] - 米欧日の長期金利が低下の一途をた
どっている。市場では、ユーロ圏経済の低迷や原油安を発端にした
リスクオフ心理の波及などが原因として指摘されているが、世界経
済を俯瞰してみれば、高いリターンが期待できる投資先が少なくな
っているということではないだろうか。
ある意味で資本主義の「病気」とも言え、この停滞感を突破するに
は、低コストのエネルギー源の開発などの抜本的なイノベーション
が不可欠だと考える。
<10年日本国債は一時0.225%>
16日の東京市場で、日本国債の10年最長期債利回りJP10YTN=JBTC
は一時、0.225%と過去最低水準を更新した。
15日のNY市場で10年米国債利回りUS10YT=RRは一時、1.756
%と1年8カ月ぶりの低水準を付け、30年債US30YT=TWEBは
2.393%までいったん低下し、過去最低水準を更新した。
15日の欧州市場では、スイス中銀の対ユーロ相場上限の撤廃を受
け、同中銀によるユーロ建て国債買入減少の思惑から、フランス、
ベルギーの国債価格が下落した。だが、10年独国債利回りDE10YT=
TWEBは過去最低の0.402%を付け、10年イタリア国債利回り
IT10YT=Tも1.74%と過去最低の1.71%近くで取引された。
<懸念される世界的な需要不足>
米欧日の長期金利低下には、多様な要因が指摘されている。短期的
には、15日のスイス中銀による対ユーロ相場上限の撤廃と利下げ
で、米国債や独国債に資金が流入したことや、スイスフラン高につ
れた円高の進行で、日本株に売りがかさんだなどのマネーフローの
波及が影響したと言えるだろう。
また、年初から進んでいる急ピッチの原油安で、ロシアなどの産油
国経済が圧迫を受けるとの観測から、通貨と株価の同時安が進行。
合わせて米シェール業者の発行したハイイールド債や関連するプロ
ジェクトファイナンスへの懸念から、リスクオフ心理が広がり出し
たことも、世界的に株価の下押し要因として意識されている。
さらに欧州中銀(ECB)の量的緩和決断観測の背景にある欧州経
済の低迷や、中国経済の不透明感の高まりも、世界的な需要不足に
対する不安感を強めている。
ただ、こうした多様な現象を俯瞰して見れば、米欧日の中銀による
超金融緩和政策でマネーが過去最大規模に膨れ上がっているにもか
かわらず、高いリターンを見込める投資が実物経済に見当たらず、
様々なマーケットに流れ込んだマネーも、結局のところ、最近の原
油や非鉄金属などの価格急落を見て、安全資産に流れ込んでいると
いうことではないか。
少なくとも、実物経済には高いリターンを見込める事業が少なくな
っている可能性が高いと言えるだろう。
<世界的な長期金利低下を予見していた水野氏>
このような未曽有の世界的な超低金利現象を「予見」していた経済
学者が日本にいる。日本大学・国際関係学部の水野和夫教授だ。昨
年3月に刊行され人気書籍の上位にランクインした「資本主義の終
焉と歴史の危機」の中で、「金利はすなわち、資本利潤率とほぼ同
じだと言える」とし、「利潤率が極端に低いということは、すでに
資本主義が資本主義として機能していない証拠だ」と主張している。
そのうえで「資本利潤率の著しく低い状態の長期化は、企業が経済
活動をしていくうえで、設備投資を拡大することができなくなった
ということ」で、「裏を返せば、設備投資をしても十分な利益を生
み出さない設備、つまり過剰な設備になってしまうことを意味する
」と分析している。
この水野教授の指摘に説得力を持たせるような現象が米国で起きて
いる。米連邦準備理事会(FRB)は、今年4─6月にも利上げに
踏み切るとの観測が盛り上がっていたが、米長期金利は2%台から
1.7%台まで低下している。
これまでの経験では、利上げ観測が台頭すると、その背後にある景
気上向きのトレンドをマーケットがとらえ、長期金利は上昇基調に
入る。
だが、足元の米債市場が示しているメッセージは、他の実物投資に
向かうよりも、米国債投資にマネーを向けた方が効率的だ、という
ことだ。つまり、米景気はFRBが予想しているトレンドよりも下
振れした推移を示す可能性があるということにほかならない。
<長期停滞の回避に必要なイノベーション>
米欧日の長期金利が、過去の水準よりも低いトレンド線に推移して
新たな均衡(ニューノーマル)を形成するようなら、それは低成長
が長期化することを意味する。したがって現在進行中の長期金利の
低下基調を「一時的現象」として、軽視するのは世界経済の長期的
な構造変化の動きを無視することになるだろう。
この「長期停滞」の動きを変えるには、どうしたらよいのか。
水野教授は「より速く、より遠くへ、より合理的に」という資本主
義を駆動させてきた理念を逆回転させ、「よりゆっくり、より近く
へ、よりあいまいに」という理念に基づき、ゼロ金利、ゼロ成長の
下で豊かさを意識できる社会に転換すべきだと述べている。
私は、この部分でやや意見を異にしている。最新の宇宙物理学では
、宇宙に存在しているのは、従来から言われていた漆黒の闇(ダー
クマター)ではなく、多様な波動を持ったプラズマという説が登場
している。
この説に従えば、宇宙空間からこのプラズマを取り出してエネルギ
ー化することができれば、ほとんどコストなしでエネルギーを利用
できるようになり、現在の経済構造が一変することになるだろう。
このような抜本的なブレークスルーが、どこかの分野で起きれば、
長期停滞を回避できると思うのだが、楽天的に過ぎるだろうか。
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コラム:スイスの「恐ろしい教訓」が示す中銀の限界 
2015年 01月 16日 12:23 JST
Swaha Pattanaik
[ロンドン 15日 ロイターBreakingviews] - 中央銀行は、高
い期待に応えなくてはならない。投資家や政治家が各国中銀に期待
するのは、インフレを抑制しつつデフレを回避し、成長を促進し、
金融システムの健全性を維持することだ。
スイス国立銀行(中央銀行)は、それらより単純な2つのこと、つ
まり約束を守り、為替相場の動揺を防ぐことに失敗した。他の国に
とっては恐ろしい教訓だ。
スイス中銀は15日、過去3年にわたり維持してきたスイスフラン
の対ユーロの上限(1ユーロ=1.20フラン)を廃止すると突然
発表した。これを受けてスイスフランは対ユーロで一時40%急騰
。その後は上げ幅を縮小したが、投資家やスイス企業は騒然となっ
た。
今回のスイス中銀の行動から得られる一番目の教訓は、中央銀行が
意志やガイダンスを明らかにしたとき、それを決して信用してはい
けないということだ。
スイス中銀は、政策のしっかりした信頼の置ける機関と考えられて
いた。しかし、3年間にわたって金融政策の拠り所としていたフラ
ンの上限設定に突如終止符を打ったことで、その土台はひっくり返
った。債務問題や低成長とマイナス金利で混沌とした世界では、他
国の中銀も同じように破壊的なやり方で考えを変える可能性がある。
次の教訓は、デフレとの戦いで奇跡を期待してはいけないというこ
とだ。スイスの消費者物価はすでに年率でマイナスになっており、
原油安でその傾向には拍車がかかるとみられる。それでもスイス中
銀は、デフレ圧力を強めることになるフラン高の方が、まだましな
方策だと決断した。
欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、ユーロ圏の物価押し上げ
にあらゆる手段を講じる意向を示している。しかしドラギ総裁がそ
れをやり遂げるのは無理かもしれない。
最後に、中央銀行が全能者だとは思ってはいけない。スイスの金融
政策は計画どおりには機能しなかった。日銀や、間もなく国債購入
に踏み切るとみられるECBも、スイス中銀以上には成功しないか
もしれない。米連邦準備理事会(FRB)とイングランド銀行(英
中銀)は、現時点では経済成長の刺激策を過度に気にかける必要は
ないが、もし必要になっても打つ手は多く残されていない。
政治家は、政治的に独立しているはずの中央銀行に、景気やインフ
レを刺激するための多くの難題を押し付けてきた。政治がもっとリ
スクを取るべき時が訪れている。
*筆者はロイターBreakingviewsのコラムニストです。本コラムは筆
者の個人的見解に基づいて書かれています。
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世界経済見通しさえず、原油安などの効果薄い=IMF専務理事
2015年 01月 16日 07:19 JST
[ワシントン 15日 ロイター] - ラガルド国際通貨基金(IM
F)専務理事は15日、原油安や米経済の回復に関わらず、今年の
世界経済見通しはさえないとの見方を示した。
専務理事は講演で、原油安が世界の消費者にとって恩恵となる一方
、主要国では米国が投資や消費で唯一、軟調なトレンドに抗う存在
となりそうだと指摘。ただ、「原油価格の値下がりや米経済の回復
の強まりで世界経済見通しが一段と上向くかと問われれば、その答
えはおそらく『ノー』だ」と語った。
ユーロ圏と日本には低成長と低インフレの期間が長引くリスクが引
き続き存在し、欧州ではデフレリスクが払しょくされていないと指
摘。さらに、中国の減速などで新興市場国の成長も減速する見通し
とした。
IMFは来週、世界経済見通しを公表する。
専務理事はまた、比較的堅調な米国の状況が一部の他国にとって負
の影響を及ぼすと指摘。米国の金融政策引き締め見通しが、ドル建
ての借り入れを増やしてきた銀行や企業を抱える国々を中心とする
金融市場に大幅な変動をもたらしかねないとした。
原油といった商品価格の下落が既にナイジェリア、ロシア、ベネズ
エラにとって「大きな通貨圧力」になっていると説明。「(原油安
は)刺激にはなるが、世界経済が立ち上がれないほど弱まっている
状況では助けにならない」と述べた。
一方で、エネルギー向け補助金を減らし、貧困削減向け政府支出を
増やそうとしている国々にとって、原油安は「絶好の機会」だとの
認識を示した。
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スイス中銀、フラン高抑制・経済防衛の主要手段を放棄
  (ブルームバーグ):スイス国立銀行(中央銀行)は15日、1
ユーロ=1.20スイス・フランに設定していたフラン相場の上限を撤
廃すると突然発表した。経済を守るための3年越しの政策を放棄し
た。
中銀はまた、市中銀行が中銀に預ける要求払い預金の一定額を超え
る残高に適用する金利をマイナス0.75%と、昨年12月に発表したマ
イナス0.25%からマイナス幅を拡大させた。さらに、政策金利であ
るフラン建て3カ月物ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)誘導
目標レンジもマイナス1.25%−マイナス0.25%に引き下げた。
欧州中央銀行(ECB)が近く国債購入を開始すればフランの上限
維持が立ち行かなくなる恐れがあり、スイス中銀は経済防衛の別の
方法を模索している。同国最大の銀行UBSグループなどの株価は
下落。腕時計メーカー、スウォッチ・グループの最高経営責任者(
CEO)は輸出業者への打撃を懸念した。ヨルダン中銀総裁は、驚
きの要素が必要だったと、突然の行動を擁護した。
ドイツ銀行のエコノミスト、ジョージ・バックリー氏は「こんなス
トイックな中銀が、長く維持した政策をこれほど突然に撤回すると
は驚きだ」と述べた。
ブルームバーグ・ニュースが9−14日にエコノミスト22人を対象に
実施した調査で、今年中のフラン上限撤廃を予想したエコノミスト
はいなかった。
フランはユーロに対して一時41%上昇し、1ユーロ=0.8517フラン
の過去最高値を付けた。チューリヒ時間午後4時5分現在は1.03782
フラン。対ドルは13%高の1ドル=0.8885フラン。
ヨルダン総裁は15日チューリヒで記者団に「決定は市場を驚かせた
が、ほかのやり方はできなかった」と述べた。フランの上限維持は
「持続可能な政策ではないとの結論に達した」と説明した。
ECBはちょうど1週間後の政策委員会で量的緩和(QE)などの
政策を協議する。QEが導入されればフランの上昇圧力は強まる。
スイス中銀は2011年9月にフランに上限を設けて以降、これを維持
するため巨額の資金を費やしてきた。ヨルダン総裁はこの日、今後
も介入する可能性はあると述べた。フランの過大評価は弱まったも
のの、相場は依然として高いと指摘し、水準を注視し続けると言明
した。
スイスは1970年代にもフラン高に悩まされたが、その際は外国人の
資産に対してマイナス金利を課す政策を取った。しかし奏功せず、
当時のドイツ通貨マルクに対しフラン相場の上限を設定した経緯が
ある。
更新日時: 2015/01/16 01:56 JST
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ギリシャのユーロ圏離脱、「非常に危険」=オーストリア中銀総裁
2015年 01月 16日 08:15 JST
[ウィーン 15日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)理事会
メンバーのノボトニー・オーストリア中銀総裁は、ギリシャによる
ユーロ圏離脱は、同国だけでなく欧州全体ににとり「非常に危険な
」動きとなるとの警戒感を示した。
同総裁はオーストリアのORFテレビに対し、ギリシャがユーロ圏
を離脱した場合について、「ユーロ圏のみならず、欧州連合(EU
)からも脱退することになるため、ギリシャのみならず欧州全体に
とり非常に危険な展開となる」との懸念を示した。
ギリシャで25日に実施される総選挙では、最新の世論調査でも緊
縮財政に反対する野党・急進左派連合(Syriza、シリザ)が
優勢。サマラス首相率いる与党・新民主主義党(ND)は遅れを取
っており、シリザが政権を奪取すればEU/国際通貨基金(IMF
)との確執が高まり、ギリシャのユーロ圏離脱につながるのではな
いかとの懸念が出ている。
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トヨタ、燃料電池車「ミライ」の受注1500台 年間目標の4倍弱 
2015/1/15 16:13nikkei
 トヨタ自動車は15日、燃料電池車(FCV)「ミライ」の受注が
発売からほぼ1カ月たった14日時点で約1500台に達したと発表した
。ミライは世界初のFCVの市販車として14年12月15日に販売を開
始。15年末に約400台としていた目標販売台数の4倍弱を既に受注し
たことになる。
 受注の内訳は官公庁や法人が約6割、富裕層などの個人客が約4
割。地域別では東京都や神奈川県、愛知県や福岡県が中心という。
15年は700台の生産を計画しており、今年中の納車は受注の一部にと
どまる見通し。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
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歴史の終わりに
増田俊男の「時事直言」第959号(2015年1月16日号)
我々が幸いにも21世紀に生を受けていることは驚くべきことである。
今日まで人間の歴史は変転を続けてきたが、歴史が終焉し、新しい
歴史誕生の時代に遭遇する人間は古今東西我々だけである。
我々はこの時、この世に生を与えてくれた神に感謝しなくてはなら
ない。
自然の恵みが100億人の欲望を満たせなくなった時、
生活水準が贅沢の段階になった時、
先進国の需要が後進国の供給を下回る時、
財政黒字が望めず国の借金が返済不能になる時、
中央銀行の資産の総てが国の借金〈国債〉になる時、
通貨価値がマイナスになる時、
物価が下がり続ける時、
中央銀行が金利と物価のコントロール能力を失った時、
マネーが成長でなく金融植民地主義に走る時、
暴力が法を超越する時、
核兵器が通常兵器になる時、
マスコミが無能化する時、
基軸通貨(ドル)の信認が喪失する時、
世界の警察(アメリカ)が消える時、
国連が無機能になる時、
政治がポピュリズムに走る時、
極右、ナショナリズムが台頭する時、
極左、サボタージ、ストライキが横行する時、
国家予算が特定個人資産を下回るような小さな国家になる時、
(以上は思いついた順)
現在の世界の政治体制は終焉し、新しい体制に向かい、世界経済・
金融体制は崩壊し新しい体制に移行する。
これから世界の市場を破壊し、世界を戦争に誘導し、知らぬ者の犠
牲のもとに知る者が新しい歴史を作る。
唐突に思われるだろうが、今にいろいろな形になって現れる。
知る者になる必要がある。
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ロシアが国有3行に資本注入、原資は国債売却資金
2015年 01月 15日 04:31 JST
[モスクワ 14日 ロイター] - ロシア財務省は国有銀行のガス
プロムバンク、VTB(VTBR.MM: 株価, 企業情報, レポート)、ロシ
ア農業銀行(ロスセリホズバンク)に対し資本注入を実施する。モ
イセーエフ次官が14日、明らかにした。
注入資金には国債売却を通して得られた資金を利用。モイセーエフ
次官によると、ガスプロムバンクには約700億ルーブル(10億
6000万ドル)が注入される。
その他の銀行に対しては、各行の2014年の決算結果を踏まえた
上で個別に対応するとしている。
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国債買い入れ、じわり慎重論
2015/1/15 6:00 nikkei
 「金融業界からの風当たりは日増しに強まっていますよ」。複数
の日銀幹部はこう漏らす。日銀は大規模な金融緩和によって大量の
国債を買い続けているが、長期金利が異例の水準まで下がるなどそ
の負の側面が表れてき…
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日本で軽視される石油安のリスクとは --- 岡本 裕明
2015年01月06日10:36agora
1月5日のニューヨークの株式市場は石油価格の下落傾向が止まらな
いことから大幅安となりました。石油がNY市場で50ドルを割り、金
曜日比で5%以上下げていることを嫌気しています。
一般に石油価格が下がると「マクロ的」には消費が伸び、経済には
プラスとされていますが、今回のように急速、且つ、産油国のコス
ト、ないし、国家予算の想定を大きく下回る状態になると「ミクロ
的」な産油国の経済に大きなブレが生じ、世界経済の不和を起こし
やすいと考えられています。特に今や、経済は投資マネーを含め、
世界が強く連携していることもあり、原油安→産油国不振→投資マ
ネーの遺棄→世界規模の経済激震というシナリオができやすいこと
は事実であります。
例えばあのギリシャが金融不安になった際、何があの小国の問題を
大きくしたかといえば投資マネーでありました。国債など所有して
いる投資簿価を何%に落とすか大きな問題になりました。あるいは
リーマン・ショックも結局はサブプライムローンとは何を指し、自
分が投資している先には不良債権が何%あっていくら損するか、こ
れが当初、皆目見当がつかなかったことが騒動の引き金の一つであ
りました。
つまり、今回の石油の価格下落についても産油国に様々な形で投資
しているマネーの価値が維持できないほど下落すれば投資家は強制
的に損失を計上することもあり、過去と全く同じシナリオの危機が
訪れないとは言い切れないのです。
日本の一部の株式アナリストはこのあたりに鈍感で、石油価格下落
は日本経済にとりプラスと言い切ってしまっている人もいるのです
が、それは木を見て森を見ず、つまり、日本を見て世界を見ず、で
あり、歴史から何も学んでいないという事になります。
下落する石油価格の第一原因は需給バランスの悪化であります。ロ
シアとイラクは2014年度、近年まれにみる産出量となりました。つ
まり、石油の産出しすぎをデータが示しています。更にアメリカで
もシェール減産の兆候はあまりないとされています。
風呂にお湯を溜めていて、程よい量を超えてバスタブからお湯が溢
れたらどうしますか? 普通は蛇口を閉めます。本来であればOPEC
という石油の産出量をある程度コントロールしていた国々は蛇口を
止めなくてはなりません。ところがこの石油風呂には蛇口がたくさ
んついていてサウジの蛇口やアメリカの蛇口、ロシアなどOPECに加
盟していない蛇口などがバラバラで全開状態なのでサウジの蛇口だ
け閉めても風呂のお湯はあふれるから「俺は蛇口を閉めたくない」
と言っているわけです。
この状態、どこに結末があるか、といえばアメリカが蛇口を閉めざ
るを得ない状態になる時であります。つまり、石油は儲からないと
認識した時でしょう。今、アメリカのシェール開発業者の判断は分
かれています。大幅に開発予算を削減した会社の株式は上昇し、削
減計画を見せない開発業者の株式は激しく下落しています。
では石油価格がバレル30ドル台や40ドル台で定着するか、といえば
それはないでしょう。なぜならその価格がニューノーマルとなれば
中東など一部の産油国以外は石油生産が止まり、供給不足が起きる
からです。カナダもアメリカも産油できないシナリオは商品市場の
世界にはあり得ません。ニューノーマルとは石油に代わる画期的代
替エネルギーが発見され、石油と対峙する関係になった時以外にあ
りえません。シェールは技術革新という意味では素晴らしいもので
ありますが、代替エネルギー源ではありません。アメリカでも石油
がたくさん取れるようになった、それだけの話です。
よって、石油価格が本格的に40ドル台に突入すれば市場がざわつく
はずです。そして、損をする会社、倒産する会社、はたまた破たん
する国家が表れた時、危機になりかねないという事です。我々は近
年、複数回の投資マネーのレバレッジによる想定を超えた損害を見
てきました。人間の英知、そしてプリベンティブ(予防的な)とい
う発想がある限りにおいて早々に根回しを行い、OPEC臨時総会を開
催すべきでしょう。
2015年の経済が安定感を持つかどうかはこの石油価格を安定させな
いことには何も始まらないとみています。
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世界全体の成長3%に下方修正
15年の世銀見通し
2015年01月14日 06時17分
 【ワシントン共同】世界銀行は13日発表した経済見通しで、
2015年の世界全体の実質経済成長率を3・0%と見込み、昨年
6月に予測した3・4%から引き下げた。米経済は好調が続くが、
日本や中国、ユーロ圏は振るわず、世界経済の足を引っ張ると予想
した。
 主力輸出品である原油の価格急落や米欧による経済制裁に直面す
るロシアは、2・9%のマイナス成長に陥る見通し。ロシア経済と
関係が深いユーロ圏は15年が1・1%、16年は1・6%と低成
長を予測し「景気低迷やデフレが長期化する懸念がある」と警告し
た。
 日本についても「デフレに後戻りするリスクがある」と指摘した。
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長期金利、一時0・255% 過去最低を更新
 連休明け13日の国債市場は、長期金利の指標である新発10年
債(337回債、表面利率0・3%)の利回りが一時0・255%
と、過去最低をつけた。終値は前週末比0・015%低い0・260
%で、3営業日連続で過去最低を更新した。
 東京株が一時、大幅下落すると安全資産とされる国債の買いが強
まった。日銀の購入策で国債が品薄となっていることが買いに拍車
を掛け、新発5年債の利回りは取引時間中に初めて0%まで低下し
た。
 原油価格が一段と下落しているため世界的に物価上昇が抑制され
るとの見方や、米国の利上げ時期が後ずれするとの観測も利回り低
下の要因となった。
2015/01/13 16:31   【共同通信】
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世界は、「超格差社会」の矛盾に震えている
「グローバル vs.非グローバル」が先鋭化
イアン・ブルマ :米バード大学教授/ジャーナリスト 2015年01月11日TK
移民、銀行の幹部、イスラム教徒、「リベラルなエリート」など、
何となく自分たちとは異質だと思う人への不満や憤りが世界中で増
幅しつつある。
米国では、オバマ大統領が、長期滞在をして働く不法移民に市民権
取得のチャンスを与えたが、政策を非難するティーパーティ一派に
後押しされた共和党が、政府機関を閉鎖すると脅している。英国で
はUKIP(英国独立党)が、移民の永住許可を5年間凍結せよと主張す
る。ロシアではロゴージン副首相が、移民労働者(大部分は旧ソビ
エト連邦内の共和国出身)を一掃する、と約束した。
移民は「災いの種」?
寛容さで知られるオランダやデンマークでさえ、移民を災いの種だ
と声高に非難する政党への支持が増えつつある。シンガポールは国
民のほぼすべてが移民の子孫だが、極小野党が人々の移民への不満
をかき立てて勢いを得ている。
経済状況が厳しくなる中、自分の仕事を守るのは、誰にとっても重
大だ。しかし、地方在住でティーパーティを支持する中年白人の米
国人が、メキシコからやってきた貧しい移民のせいで生活を脅かさ
れることは、ほとんどない。
移民排斥感情は、右派か左派かという従来からの壁を超え広がって
いる。ティーパーティやUKIPの支持者と、低賃金の外国人に仕事を
奪われると心底恐れている労働者には、共通点がある。それは、移
動性が高まり、超国家的な組織が出現し、グローバルにネットワー
ク化する世界で、自分は置き去りにされるのではないか、という不
安だ。
右派の側では、保守政党への支持が、移民や超国家的な組織が好都
合なビジネス界と、これらを脅威だと感じる人々とに分裂している
。だからこそ英国の保守党は、UKIPを非常に恐れている。
左派の側では、人種差別や不寛容に反対する人たちと、英国生まれ
の労働者階級の雇用を守り「連帯」を維持しようとする人たちとで
、意見が割れている。
民族、宗教、文化的なアイデンティティに、変化が生じつつある。
しかしそれは移民が原因というより、グローバル化した資本主義の
発展が主因である。
新たなグローバル経済においては、勝ち組と負け組がはっきりして
いる。高学歴の男女は、多様な国際的状況でうまくコミュニケーシ
ョンを取ることができ、利益を手にしている。その一方で、必要な
教育や経験に恵まれない人たちが苦労しているが、こちらが多数を
占める。
新たな階級区分は貧富の違いで決まるのではない。大都市の高学歴
エリートと、教育レベルが低く、柔軟性に乏しく、あらゆる点でグ
ローバル化から取り残されている地方在住者との違いにより、階級
が隔てられる。そして、疎外感を抱く人たちが、怨嗟を共有してい
る。
米国の国民は、あまり遠くない将来、白人が少数派に転落するとわ
かっているのだ。現時点でティーパーティらにできるのは、「祖国
を取り戻そう!」と叫ぶことくらいだ。もちろんこれは無理な要求
だ。人々は多様化する社会に生きることに慣れるしか選択肢はない。
経済のグローバル化は後戻りできない
経済のグローバル化も後戻りできない。ただ規制は活用すべきだ。
文化、教育、雇用を、市場の力による創造的破壊に全面的に委ねる
ことはすべきでない。
英国労働党の影の内閣のマクファデン欧州担当相は、グローバル化
が引き起こす諸問題を解決するための核心を正確に指摘している。
人々にグローバル化した世界の「恩恵を受ける手段」を与え、「グ
ローバル化した世界が人々に役立つ」ようにする、という処方箋だ。
しかし、この指摘は、教育程度が高くすでに特権を持つ人々の心に
は響くが、グローバル経済に疎外感を抱いている人々の共感は呼び
そうにない。
これは深刻な問題だ。左派政党は、大都市のエリートを代弁する傾
向を強めている。地方のポピュリズム派は大衆の憤りをかき立て、
伝統的な保守主義者をさらに右側へと押しやっている。



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