5246.水素社会に向けて



トヨタ自動車から、燃料電池車ミライが発売されて、日本は水素社
会へ向けた第1歩を踏み出したようである。しかし、日本全体を、
水素社会にするためには、いろいろな技術革新をする必要がある。
この動きを見よう。  津田より

0.水素社会の姿
脱石油化社会には、再生可能エネルギーとしての太陽光、風力、水
力、波力、潮力、バイオマスなどが考えられるが、多くの再生可能
エネルギーが不安定である。この不安定さを安定化させる技術が、
再生可能エネルギー普及には、どうしても欠かせない技術であった。

この安定化させる技術として、燃料電池が出てきた。水素と酸素を
反応させて電気が作れるので、電気が余ったら、電気分解して水素
にして蓄積でき、電気が不足したら、水素を燃料電池で反応させて
電気を作ることが出来るようになる。

しかし、今まで、この燃料電池の陽極にプラチナが必要であり、ど
うしても高くなってしまった。そのため、今まで燃料電池車は1台
1億円もした。この燃料電池の価格が高いことによってそうなった
のである。

この燃料電池でプラチナの使用量を劇的に下げたことで、燃料電池
車ミライは価格700万円という値段が可能になったのである。こ
こまで燃料電池の価格が下がると、いろいろなところで燃料電池を
使うことができる。特に電気を蓄積して使用するという2次電池の
役割は大きいことになる。

しかし、この水素社会を作るためには、トヨタだけでは無理であり
、このため、トヨタ自動車は5日、同社が持つ燃料電池車の関連特
許約5680件をすべて無償で提供すると発表した。「究極のエコカー
」と呼ばれる燃料電池車を定着させるためには、トヨタ1社の努力
では不十分と判断。早期に普及させるためにライバル同士や業界の
垣根を超えた開発競争を促す、極めて異例の取り組みに打って出た。

水素社会に欠かせないのは、水素の効率的な製造方法、水素の蓄積
・輸送技術などで、広範な技術が必要になる。また、大量の電気を
生み出すためには、水素での発電のための水素タービン発電機が必
要になる。

このため、東芝は、再生可能エネルギーで製造した水素を使い、ガ
スタービン発電所を稼働させる新たな電力供給システムの開発を始
めた。

日本では、水素社会の構築で騒いでいるが、米国、ドイツは状況が
違うようである。

1.米国の現状
米国はシェールガスが大量に出ることになり、次世代エネルギーを
天然ガスとその見方をシフトさせている。もう1つが、EV車の市
場が広がり、燃料電池が活躍する部分は、冷凍倉庫でのホークリフ
トや据え置き型のブルーム・エナジーの燃料電池などであり、自動
車での燃料電池の利用は、当分視野にないようである。

というより、燃料電池技術は、日米の両国がトップの位置にあるが
、長期的な視野で自動車に燃料電池を積むような投資ができる会社
が米国にないことにもよる。トヨタはプリウスに次いで、燃料電池
でもトップバッターになるようだ。そして、燃料電池の応用範囲は
広いので水素供給ができると、爆発的に市場が広がることになる。

しかし、アメリカのバッテリー式電気自動車メーカー、テスラ・モ
ーターズのイーロン・マスク代表は、「水素燃料電池車はまったく
のクソだ。水素は非常に危険なガスだ。高性能ロケットにはふさわ
しいだろうが、車には向いていない」とこき下ろした。「意味のあ
る販売台数には達しないだろう。なぜなら、買うのがバカバカしい
代物だからだ」と、フォーブス誌は結んでいる。しかし、プリウス
の最初も、そのような評価をしていたようである。そして、フォー
ブス誌の予測と違って、日本ではミライは数年分の予約を得ている。

米国のトップランナーは、ブルームエナジーであるが、彼らは天然
ガスを燃料に使い、それを改質して水素を取り出して電気に変えて
いる。天然ガスを使うビジネスモデルである。

天然ガス車が米国は徐々に増えている。天然ガスの価格が安いこと
による。当分、米国は水素社会への取り組みをしないようである。
もちろん、燃料電池車への取り組みも遅れることになる。

2.ドイツの現状
ドイツはすでに再生可能エネルギー利用率が電気全体の30%に高
まっている。このため、この再生可能エネルギーの不安定性に一番
問題点を感じている。しかし、燃料電池技術では日米に遅れている。
このため、ドイツの方向は、電気で水素を作り、その後、2酸化炭
素と反応させて、メタンガスにして自動車燃料やガス・タービン発
電機で電気に戻すというパワーツーガス・プロジェクトを進めてい
る。その中心にいるのが、アウディである。

そして、水素エンジン車を出すのが、メルセデス・ベンツであり、
ドイツは多様な取り組みをしている。燃料電池については、ルノー
日産、フォード、ダイムラーの3社が連合を組み、トヨタとBMW、ホ
ンダとGMが組むことになっている。しかし、燃料電池の補給はドイ
ツ・メーカは日本企業から貰うしかないようである。

ということで、ドイツも燃料電池車には消極的な取り組みである。

3.日本は本気で取り組みべき
今までの燃料電池の研究開発では、世界的には日米独の3ケ国がト
ップを占めていた。ドイツのジーメンスが潜水艦に燃料電池を乗せ
、米国のユナイテッド・テクノロジーが燃料電池の軍用展開、ポー
クリフト用燃料電池を作っていたし、韓国現代自動車の燃料電池も
UTからのOEMであった。しかし、その米独が自動車への燃料電池搭載
をしないことで、日本の独壇場になる公算が高いことになる。

もし、この燃料電池が次世代エネルギーの本命になると、トヨタの
ミライが普及すると同時に、日本の多様な技術開発が可能になり、
そこで完成した製品やサービスが世界を席巻することになる。

日本が自国市場で製品開発をして市場を広げて、世界の最先端に立
ち、世界に展開することになる。この時の利益率は、非常に大きく
なる。

米国のベル研が発明したトランジスタが戦後50年以上も新しい電
気製品のタネとして、いろいろな応用製品を生み出し、それが戦後
の好景気になったのであるが、これをベル・エポックというが、こ
れに匹敵するタネを得ることになる。ジャパン・エポックが到来す
る。

日本の衰退は、人口減少もあるが、もう1つが新しい魅力的な製品
ができないことにあった。このため、価格競争になり新興国の安価
な労働力による製品の方が日本製造の製品より安くなり、このため
、日本は貧乏になり、かつ人口減少で消費も減り、日本は徐々に没
落している。

この状況を変えるのは、イノベーションで新しい産業を興して、日
本初の新しい製品群を出すことである。とうとう、トヨタがそれを
始めた。これに続いて、日本の各メーカは製品を続けざまに出して
いくことである。

千代田化工が、水素運搬、貯蔵の効率的な方法を開発した。トルエ
ンに水素を反応させて、液体にして運び貯蔵でき、水素化するのに
それほど手間がかからない手段を発明した。また、東芝や日立が大
量の水素発電が可能な発電機を開発している。というようにオール
日本で、開発して新しい産業を作ることである。

この技術を応用した水素ステーションを作り、JX日鉱やイワタニな
どが供給サービスを作って欲しいものである。そのまま、世界展開
をするつもりで行うことである。

そして、今、一番必要なのが大量に安価な水素を作る方法である。
自動車が燃料電池になると、大量の水素が必要になる。この時、ど
のような方法で、水素を大量に安価に作るのかが問われる。

水の電気分解での水素ではなく、水の熱分解の水素の方が安価であ
り、トリウム溶融塩炉なども視野に入れて研究開発することである。

さあ、どうなりますか?


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CO2ゼロで発電 東芝が平成32年度実用化へ 水素社会実現
2015.1.9 05:07sankei
 東芝が、再生可能エネルギーで製造した水素を使い、ガスタービ
ン発電所を稼働させる新たな電力供給システムの開発を始めたこと
が、8日分かった。理論上は二酸化炭素を出さずに発電できる。春
にも府中事業所(東京都府中市)に「水素エネルギー研究開発セン
ター」を設置し、平成32年度の実用化を目指す。
 海外で再生エネを使って水を電気分解し、得られた水素を国内に
運び、発電燃料とする仕組み。国内で大規模な風力や太陽光発電を
行う場合に比べ、安定的に電力が得られる。再生エネの全量買い取
りが中断するなど、エネルギー問題に注目が集まる中、東芝は環境
負荷の小さい発電システムへの需要が高まるとみて、「『水素社会
』の実現に取り組む」(田中久雄社長)考えだ。
 風力発電についてはロシア・サハリンや米アラスカなど候補地の
調査に乗り出した。自社で発電所をつくるほか、現地の企業と連携
するなどの手法を検討する。また、水から水素を取り出すため、セ
ラミックによる高温水蒸気電解装置の開発を進めている。従来の電
解方式などに比べ分解効率が高く、触媒などのコストも低減できる
という。水素の輸送は他社に委託する方針だ。
 あわせて東芝は、水素だけで発電するガスタービンの開発も進め
ている。既に水素と天然ガスを混合して用いる発電システムは実用
化しており、将来的には水素ガスタービン発電所で発電する方針だ。
 東芝はこのほか、国内の風力や太陽光発電でつくった水素を貯蔵
し、地域の電源として使う「地産地消型」システムを自治体などに
販売する構想も進める。春には川崎市と共同実証を開始し、公共施
設で非常時に約1週間分の電気と温水を供給する体制を整える。
 あわせて東京都府中市に研究開発センターを設け、再生可能エネ
ルギーによる水素製造など、「水素社会」をリードする技術開発を
進める。大田裕之統括部長は「水素を用いたインフラ事業で、エネ
ルギー問題の改善に貢献できる」と強調した。
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トヨタ、燃料電池車の特許5680件を全公開 
2015/1/6 6:30 nikkei
 【ラスベガス=杉本貴司】トヨタ自動車は5日、同社が持つ燃料
電池車の関連特許約5680件をすべて無償で提供すると発表した。「
究極のエコカー」と呼ばれる燃料電池車を定着させるためには、ト
ヨタ1社の努力では不十分と判断。早期に普及させるためにライバ
ル同士や業界の垣根を超えた開発競争を促す、極めて異例の取り組
みに打って出る。
 自動車メーカーが次世代技術の特許を不特定の企業や団体に対し
て全公開するのは極めて珍しい。ホンダと米ゼネラル・モーターズ
(GM)は燃料電池車で互いの特許を全公開する提携を結んだが、
対象は両社に限定している。
 トヨタもこれまでエコカー技術の特許を有償で公開したことがあ
るが、あくまで提携先の企業に対象を絞ってきた。ハイブリッド車
(HV)ではマツダや富士重工業、米フォード・モーターに一部特
許の使用を許可した上で、トヨタが主導してHVを開発することで
技術の流出を防いできた。燃料電池車ではこの方針を根本的に転換
する。
 今回、提供するのはトヨタが単体で保有する燃料電池車の特許。
グループの部品企業が持つ特許は対象外。水素と酸素を反応させて
発電させる中核部品の「スタック」と、燃料タンク、システム制御
関連の計5610件に関しては、2020年末までの特許実施権を無償とす
る。水素ステーションの関連特許約70件については、公共性が高い
ため無期限で無償提供する。
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「水素都市」になっていく東京
2015.1.2 20:00sankei
 2020年東京五輪に向け、日本の技術の粋が首都に投入される
。臨海エリアに、マリンスポーツを中心とした競技場が新設され、
外国人観光客を迎えるための交通網も整備される。深さ40メート
ル以上の大深度地下を使ったトンネルや、二酸化炭素(CO2)を
排出しない燃料電池バスも採用し、「環境型の都市」に進化を遂げ
る計画だ。
 1964年大会は、首都高や新幹線など多くの遺産を残した。舛
添知事は「2020年に私が残すのは、『水素社会』だ」と意気込
む。排ガスを出さない燃料電池車(FCV)の普及を加速。国の補
助金に上乗せする独自政策で、同年までに都内に燃料を補給する水
素ステーション35カ所を整備し、FCVが6千台走ることを目標
に掲げる。
 交通網もさらに整備し、都では20年までに東京メトロなどが「
虎ノ門ヒルズ」周辺につくる日比谷線の新駅と選手村、東京ビッグ
サイトをつなぐ「バス高速輸送システム」(BRT)の整備を計画
。FCVバスを走らせ、環境にも配慮する。
(伊藤鉄平)
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水素社会幕開け、FCV普及へエネ各社も後押し 商用分野でも活
用へ 
2015.1.1 07:25 sankeibiz  
 走行中に二酸化炭素(CO2)や排ガスを出さない究極のエコカ
ー「燃料電池車(FCV)」が2015年、いよいよ普及元年を迎
える。トヨタ自動車が昨年末に投入した世界初の一般向けFCV「
MIRAI(ミライ)」は既に納車まで1〜2年待ちの人気ぶり。
ホンダや日産自動車も量産モデルの発売を急ぐ。燃料電池はバスや
フォークリフトなど商用分野でも活用が進む見通しだ。エネルギー
各社も燃料となる水素の価格を抑えめに設定して普及を後押しする
ほか、本格的な「水素社会」の到来を見据えて重電メーカーも取り
組みを強めている。
 予想以上の引き合い
 「クルマの新しい可能性を切り開いてくれると期待している」。
東京トヨペットの斎藤秀幸取締役は12月15日に発売したミライ
に、自動車産業の未来を感じている。
 ミライは4人乗りのセダンタイプ。価格は723万6000円。
国の補助金を活用すれば購入者の実質的な負担は520万円程度に
なる。トヨタは15年末までに700台を生産し、このうち400
台を国内で販売する計画だ。ただ、予想以上に引き合いが多く、「
納期を伝えられない状況」(斎藤氏)が発売以来続く。トヨタは16
年以降、生産量を3倍程度に拡大する方向で検討している。
 一般向けのFCVを発売するのはトヨタだけではない。ホンダは
15年度中にセダン型の投入を予定する。日産も独ダイムラー、米
フォード・モーターと提携し、17年の発売を目指す。
 FCVはタンクにためた水素と空気中の酸素の化学反応で燃料電
池が発電し、モーターを回して走る仕組み。1回の充電に時間がか
かって航続距離も限られる電気自動車(EV)とは異なり、水素の
充填(じゅうてん)は数分間で済み、ミライは1回の充填で約650
キロを走行できる。排出するのは水だけで、先進国を中心に環境規
制が厳しくなる中、エコカーの本命と目されている。
 商用分野でも燃料電池の活用は進む。日野自動車は今年、路線バ
スとして燃料電池バスの実証運行に乗りだし、16年にも市販化す
る予定だ。
 不特定多数が乗り降りする大型バスは、乗用車以上の耐久性や動
力性能が求められる。日野は親会社のトヨタから燃料電池の供給を
受け、「1台に複数の燃料電池を搭載して出力を高める」(関係者
)という。
 トヨタグループの部品大手、豊田自動織機もトヨタから燃料電池
の供給を受け、15年度に燃料電池フォークリフトを新関西国際空
港会社に2台納入する予定。クリーンな作業環境が要求される医薬
品倉庫などで実証運用を始め、16年度以降に本格的に導入を進め
る計画だ。
 FCVはガソリン車と同様に関連産業の裾野が広く、水素タンク
に使う炭素繊維など日本が世界の最先端を行く技術も欠かせない。
部品点数が少なく、中国などの新興国メーカーでも量産が可能なEV
に比べて「日本が誇る高度なものづくり力が発揮しやすい分野」(
経済官庁幹部)でもある。
 資源に乏しく、エネルギーの大半を輸入した化石エネルギーに頼
る日本にとって、国産が可能な水素の有効活用はエネルギー安全保
障の観点からも重要となる。20年開催の東京五輪も見据え、政府
も新たな産業に育てようと補助金などでバックアップする。
 補給施設不足が課題
 普及に向けた課題の一つが、水素を補給する水素ステーションの
整備不足。一般の人が利用できる商用のステーションは14年度内
に全国で20カ所程度しか設置されず、優先して整備が進む東京、
大阪など4大都市圏以外では、FCVを入手しても「飾り物になっ
てしまう」(トヨタ関係者)状況だ。
 政府は15年度中に水素ステーションを100カ所程度に増やす
ことを計画し、エネルギー各社も対応を急いでいる。
 産業ガス大手の岩谷産業は既に兵庫県尼崎市と北九州市の2カ所
で営業を始めており、3月には東京・芝公園にも設置する。同社は
「水素社会の幕開けにとってFCVの普及は非常に重要だ」(上羽
尚登副社長)と位置づけており、15年度までに4大都市圏を中心
に水素ステーションを20カ所整備する計画を進めている。
 JX日鉱日石エネルギーは昨年12月、同社初の商用水素ステー
ションを神奈川県海老名市に開設した。今年度は東京、神奈川、埼
玉、千葉、愛知の1都4県で計11カ所を順次整備し、15年度ま
でに40カ所に拡大する計画だ。東京ガスも昨年12月、自社で運
営する東京都練馬区の天然ガススタンドに併設した。
 普及に向け、JXと岩谷はFCV向けの水素価格を当面の採算割
れを覚悟した水準に設定。税別でJXは1キロ当たり1000円、
岩谷は同1100円で販売する。「ハイブリッド車(HV)に必要
なガソリン代と同等」(JX)とした。
 政府は昨年6月に発表した水素社会の実現に向けたロードマップ
(工程表)で、水素価格について「20年にはHVの燃料代と同等
以下を実現する」との目標を掲げたが、JXと岩谷はHVのガソリ
ン代と同等の水素価格を前倒しで実現した。
 若者を中心に車離れが進み、全国でガソリンスタンドの閉鎖が相
次ぐ中、水素はエネルギー各社にとってもガソリンに代わる期待の
新商品となる。トヨタの豊田章男社長はFCVと水素ステーション
の関係について、互いに必要とする「花とミツバチ」にたとえ、エ
ネルギー業界に共闘を呼びかける。
 ■重電メーカー、関連技術開発に力
 水素を使った本格的な発電所をつくる構想もあり、重電メーカー
なども水素関連の開発に力を入れている。
 東芝は今春、府中事業所(東京都府中市)に「水素エネルギー研
究開発センター」を設置し、次世代エネルギーとしての水素関連技
術の開発や検証を加速させる。田中久雄社長は「クリーンなエネル
ギーを使う水素社会に向けた一歩だ」と話す。
 一方、川崎重工業は水素を大量に輸送・貯蔵する「水素液化シス
テム」などの開発を推進。昨年11月に播磨工場(兵庫県播磨町)
で水素液化プラントの試験操業を始めた。同工場は1日当たり約5
トンの水素を液化する能力がある。高速回転機械の開発で培ったタ
ービン技術などを活用。圧縮した水素ガスを、冷凍サイクルで冷や
された水素と熱交換しながら冷却することで、液化水素を製造する。
 村山滋社長は「本当に必要になるのは10年以上後かもしれない
が、日本のために、今のうちに水素を海外から運んでくる技術を磨
いている」と語る。
 水素の本格普及は緒に就いたばかりだが、FCVが街を走り出す
ことで水素社会への移行が静かながらも力強く動き出す。(田辺裕
晶、大柳聡庸、高橋寛次)
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水素社会の実現を目指す日本の取り組みに海外から賛否両論(海外の反応)
2014年12月16日livedoor
12月9日(ブルームバーグ):トヨタ自動車が燃料電池車の販売開始
を発表するなか、家庭用の燃料電池を使った発電・給湯機器のメー
カーも販売拡大に動き始めており、世界に先駆けて一般の消費者に
も水素の利用を広げる取り組みが進んでいる。 安倍晋三首相は成長
戦略で「水素社会の実現」を掲げており、パナソニックや東芝など
が製造している家庭用燃料電池「エネファーム」が水素活用の裾野
拡大の一翼を担っている。都市ガスなどから水素を取り出し、空気
中の酸素との化学反応で発電する装置だ。東京ガス は4月、これま
では戸建て向けだけだったエネファームを、マンション向けにも販
売を開始した。
海外の反応をまとめました。
経済産業省は6月、今後の水素エネルギー利用のあり方を示すため
、家庭用燃料電池を2020年頃に140万台、30年頃に530万台普及させ
る目標を示した工程表を発表。この工程表では20年頃に自家発電用
水素発電を導入し、30年頃には発電事業用にもこの発電方式を広げ
ることや、燃料電池車の普及を世界最速で目指すとの目標も掲げら
れた。同省は国内の水素関連市場の規模が50年に約8兆円に達する
としている。
長引く原発の停止で化石燃料を燃やす火力発電所の利用が大きく増
えており、温室効果ガスの排出増加傾向に歯止めがかからなくなっ
ている。そのため、クリーンな水素エネルギーに期待が集まった。
経産省の戸邉千広燃料電池推進室長は、家庭用部門が温室効果ガス
の排出が増えている分野のひとつとなっていることから、家庭用燃
料電池の利用拡大がエネル ギー効率を改善するための「有力な武器
のひとつ」と指摘。水素利用の推進は環境問題への対策だけでなく
、エネルギーの安定供給確保にもつながると話した。 
パナソニック燃料電池商品企画チームの辻英明チームリーダーは、
エネファームが住宅のそばで発電することで発電時の熱を有効に利
用できると話す。「大規模 発電所だと発電したときに熱は出るが全
部捨てられてしまい送電ロスもある。結局エネルギーのうち41%し
か使われていない」と指摘。一方のエネファームで は熱をすべてお
湯として利用できるため、エネルギー利用効率は95%と説明した。
大和総研の平田裕子研究員は、水素はガスや石油などさまざまな原
料から製造できることが強みだと指摘。エネファームが05年に首相
公邸に導入され、世界に 先駆け09年に販売が開始された。しかし、
希望小売り価格が約200万円と高額なため、販売開始から5年経って
も普及率は全世帯数の0.2%にとどまって いる。
ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスのアナリスト、
アリ・イザディ氏は「問題は低減が必要な装置のコストだけではな
い。燃料のコストも削減する必要がある」と指摘した。さらに停電
時にも装置を動かすために約60万円の蓄電池が必要になるなど、多
額の追加費用も足かせとなっている。(ブルームバーグ)
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トヨタ、赤字覚悟で水素燃料電池車発売へ イーロン・マスクや米
メディアは酷評
更新日:2014年4月18日newsphere
【当面は赤字覚悟で市場を開拓か】
 燃料電池車は、水素と酸素を組み合わせることによって生まれる
電力で駆動する電気自動車だ。排出されるのは安全な水蒸気のみで
、充電式の電気自動車に比べて航続距離が長いのが利点だ。市販車
としては、ホンダが2008年に『FCXクラリティ』を世界に先駆けてリ
ース販売している。
 ロイターは、トヨタが『2015FC』と呼ぶ発売予定の市販車につい
て詳しく報じている。燃料の触媒に用いる高価なプラチナ材料を大
幅に減らすことに成功し、コストダウンに成功したことが、一般販
売にめどがついた最大の理由だという。
 また、コイルに用いる銅線を幅広で平らな“フェットチーネ・ス
タイル”に改良したことにより、モーターの小型化に成功した。そ
れによって燃費とパワーが向上した結果、現在のガソリン車を上回
る700kmという航続距離を実現したという。
 販売価格は未定だが、世界でも最も排ガス規制が厳しいと言われ
る米カリフォルニア州であれば、助成金により「3万から4万ドルの
自己負担で買えるかもしれない」とロイターは予想する。しかし、
コストダウンを実現した今でも、燃料電池の推進システムだけで5万
ドル近くの生産コストがかかるという。そのため、専門家の間では
「初期のプリウス同様、トヨタは長期的な赤字も覚悟で市場の開拓
に挑むのではないか」と言われている。
【買うのがバカバカしい代物】
 比較的好意的な論調のロイターに対し、フォーブス誌のコラムは
辛らつだ。同誌は、アメリカ西海岸の水素スタンドの位置を示すグ
ーグルマップのリンク(ロサンゼルス周辺にわずかに4カ所しかない
)を掲載し、実用性に疑問を投げかけている。
 同誌が「ネガティブな面」として挙げるのは、おもに燃料補給の
困難さだ。新たに水素スタンドを作るには50万ドルから100万ドルか
かると実現性を疑問視。「効率的に配置すれば現在のガソリンスタ
ンドよりもずっと少ない数で済む」というFCV支持派の意見にも、「
人々はスタンドに行くためだけに、5分から10分のドライブはしない
」などと反論する。
 また、生産にエネルギーロスが多いとされることや、高い爆発性
といった水素燃料の欠点も指摘されている。ロイターによれば、ア
メリカのバッテリー式電気自動車メーカー、テスラ・モーターズの
イーロン・マスク代表は、「水素燃料電池車はまったくのクソだ。
水素は非常に危険なガスだ。高性能ロケットにはふさわしいだろう
が、車には向いていない」とこき下ろしたという。
「意味のある販売台数には達しないだろう。なぜなら、買うのがバ
カバカしい代物だからだ」と、フォーブス誌は結んでいる。
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水素を常温の液体に加工、大量輸送問題の解決へ
2014年12月24日 07時00分 更新itmedia
燃料電池車(FCV)など水素社会を論じる際、製造した大量の水素を
どのようにして運ぶかが課題になる。水素を液体として運ぶ、常温
・常圧で。このようなブレークスルーを実現しようとしている企業
がある。なぜ可能になったのか、技術に将来性があるのか、事業展
開や課題について聞いた。
[和田憲一郎(エレクトリフィケーション コンサルティング)
 水素には課題がある。その1つが効率よく大量輸送する手段が限ら
れていることだ。水素ガスのまま運ぶとあまりにもかさばる。例え
ば天然ガスと同じ量のエネルギーをもつ水素をガスのまま輸送しよ
うとすると、体積(輸送量)が天然ガスの3倍になってしまう。200
気圧に圧縮して運ぶと、体積は200分の1に縮む(現在のトレーラー
輸送の主流)。その代わり、圧縮時にエネルギーが必要だ。加えて
、高圧に耐える容器や装置が必要になる。
 低温で液化すると体積は800分の1になるものの、液化時にエネル
ギーが必要だ。−253度という温度を維持する装置も用意しなければ
ならない。
 水素を液体として運ぶ、常温・常圧で。このようなブレークスル
ーを実現しようとしている企業がある。なぜ可能になったのか、技
術に将来性があるのか、事業展開や課題について聞いた。
大陸間輸送計画から始まった
 今回は、水素を常温・常圧の液体にして運ぶことを可能にした千
代田化工建設の技術責任者である技術開発ユニット兼水素チェーン
事業推進ユニット 技師長である岡田佳巳氏に、話を聞く機会を得た。
和田憲一郎氏(以下、和田氏) どのような経緯から、水素を常温
・常圧の液体として運ぶ「水素貯蔵輸送システム」の開発が始まっ
たのか、教えて欲しい。
岡田氏 当社はエンジニアリング、つまりプラントを受注して設計
・建設することを得意とする企業である。しかし、受注産業は景気
に左右されやすいため、安定収益が得られるビジネスモデルを模索
していた。そのなかで、水素製造プラントの建設などで培った水素
技術を活用して展開できないかと考え、水素を液体でハンドリング
する技術開発を進めてきた。
 水素の液化を目指した研究には歴史がある。例えば1980年代に進
められた「ユーロ・ケベック計画」だ。カナダで余った水力電力を
用いて電解槽を動かし、水素を作る。これを、ヨーロッパに輸送す
るための国際研究開発プロジェクトである。大きく分けると3つのテ
ーマがあった。1つ目は−253度の液化水素を用いる案。2つ目が液化
アンモニアに変える案。3つ目がメチルシクロヘキサン(MCH)法に
よる液化案である。当時のMCH法では、MCHから水素を取り出す、い
わゆる脱水素反応に必要な触媒の寿命が2日程度。実用化が困難であ
った。このため、プロジェクトは10年続いたものの、1992年に断念
した。
 その後、日本でも新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
が進めた「ニューサンシャイン計画水素利用国際クリーンエネルギ
ーシステム技術(WE−NET)研究開発」の中で、1992年から2002年ま
で検討が進んだ。このプロジェクトの目的は、再生可能エネルギー
の導入普及を進めることにある。その際、水素を二次エネルギーと
して活用するための技術確立を目指して創設された計画だ。だが、
結果として実用化レベルには到達せず、2002年に終了した。その後
、燃料電池車(FCV)やエネファームの開発は進んだものの、大規模
に水素を貯蔵し、輸送するという課題が残ってしまった。
 当社が「SPERA水素」*3)プロセスの開発に着手したのは2002年
。2004年に横浜で開催された世界水素会議で初めて学会発表を行っ
た。その後、2005年から「水素サプライチェーン構想」(図2)の提
案を開始。2009年にはラボでの触媒開発を完了し、触媒の工業レベ
ルでの大量供給体制が整ったことから、2011年に実証プラントの建
設計画を開始。2013年4月に稼働し、延べ運転時間1万時間を達成し
ている。
どのようにして革新的技術を成功に導いたのか
和田氏 有機ケミカルハイドライド法による常温・常圧の「水素貯
蔵輸送システム」は、具体的にどのような発想から生まれたのか。
岡田氏 「水素貯蔵輸送システム」は2つの要素で成り立っている。
1つは水素を常温・常圧で液化する技術だ。トルエン*4)と水素を
化学反応させるとメチルシクロヘキサンという液体になる。これは
常温・常圧でそのまま運べるため、通常のタンカーやローリーの利
用が可能になり大量貯蔵や長距離輸送に適する。
 もう1つは、液体であるメチルシクロヘキサンから水素を取り出す
脱水素技術であり、従来、実用化は不可能といわれてきた。理由は
脱水素触媒の寿命が短いことであった。
 触媒の性能が劣化していく理由は分かっていた。水素を分解する
白金(Pt)粒子が分解生成物によって覆われる「コーキング」と呼
ばれる現象によって、反応が進まなくなることだ。当社は、触媒の
白金粒子のサイズを従来の5〜10nm(ナノメートル)から、1nm以下
(平均0.9nm)まで小さくした。この新しい白金触媒は、同量の白金
を利用した従来の触媒に比べて数百倍の触媒寿命を有する。そこで2
年に1度程度の触媒交換で済む反応器の設計を進めた。
*4) トルエンは塗料などの溶剤として有用な物質。さまざまな化
学物質を合成するための出発点となる原料でもある。
和田氏 今回の画期的な成功は、触媒を1nmまで細かくしたことによ
るのか。それとも、何か他の材料を配合したことの影響なのか。
岡田氏 実は触媒を細分化するだけでなく、硫黄(S)を配合したこ
とで、触媒の劣化を防いでいる。硫黄が触媒として劣化を防ぐこと
は以前から知られてきたが、白金への応用は初めてのことだ。図3に
示すように、1万時間を経過しても寿命試験による劣化度合いは極め
て少ない。よく「ナノテクノロジー」という用語が使われている。
われわれの技術は1nmを下回る、まさに「アンダー・ナノテクノロジ
ー」であることに特徴がある。
純度の高い水素は得られるのか
和田氏 船やタンクローリーを利用して運搬できるという特徴につ
いて聞きたい。メチルシクロヘキサン化した水素に輸送時の変化は
あるのか。
岡田氏 輸送時の変化は特にない。これが今回の最大の特徴である
。ガスのままだと漏れなどのリスクがある。当社の手法ではトルエ
ンと水素が炭素−水素結合を形成してしっかりとくっつき、メチル
シクロヘキサンという液体物質になっているため、輸送中に水素が
発生する心配はない。常温・常圧の運搬が可能だ。液化水素用のタ
ンカーではなく、通常のケミカルタンカーで大規模に輸送できる。
タンカーの建造費は液化水素に比べて数分の1で済む。タンクローリ
ーについても同様だ。
和田氏 よいことずくめの話だ。脱水素反応を利用して水素を取り
出す際、水素の純度はどの程度か。FCVの利用基準を満足しているの
か。
岡田氏 液体のメチルシクロヘキサンから脱水素する場合、現在の
水素純度は99.9%程度である。FCVで用いる水素の純度は、ISO(ISO
14687-2:2012年に国際規格発行)において99.97%必要と規定され
ている。従って精製工程が必要である。
和田氏 どのような追加の精製工程が必要なのか。水素ステーショ
ンに新たな設備機器を導入しなければならないのか。
岡田氏 都市ガス改質型の水素ステーションで既に利用されている
PSA(Pressure Swing Adsorption)ガス発生装置で精製できると考
えている。水素ステーション向けの供給価格に対しては、大きなコ
ストインパクトはないだろう。
液化水素よりもエネルギー効率は高いのか
和田氏 もう1つ疑問がある。気体から常温・常圧の液体に変え、脱
水素プロセスを経て、気体に戻すということは、エネルギー効率が
心配だ。いわゆる「Well-to-Tank」*5)部分、その中でも水素輸送
の部分に焦点を当てるとどのような水準なのか。
*5) 一次エネルギーの採掘(Well)から燃料タンク(Tank)に水
素が充填されるまでを分析の対象とすること。水素は天然に産出し
ないため、何らかの一次エネルギーを用いて水素を製造した後、輸
送し、FCVの水素タンクに注入する必要がある。
岡田氏 Well-to-Tankの中で、水素を作る過程は別として、水素の
輸送のみであれば脱水素プロセスなどシステム全体のロスが約20%
強、東南アジアから日本までの輸送を考えると、タンカーの燃料分
が10%強。輸送全体としてエネルギー効率は60%以上を有している。
和田氏 天然ガスを採取して改質によって水素を取り出し、その後
水素を液化する手法では液化の段階でエネルギーロスが大きい(お
よそ50%以上)といわれている。エネルギー効率は水素の液化より
も上回るということか。
 水素ステーションに運ぶ際、通常は水素を蓄圧器に貯める。水素
貯蔵輸送システムの場合、貯蔵方法はどのようになるのか。
岡田氏 ガソリンと同様に取り扱えるため、地下タンクへの貯蔵が
有効だと考えている。ただし、トルエンやメチルシクロヘキサンな
どの化学品には規制がある。現行規制では200Lが上限と定められて
いるため、規制の緩和が必要だ。
どの程度の規模で実用化できるのか
和田氏 実用化するには、どのような規模のプラントが必要なのか。
岡田氏 実用化に必要な技術は既に確立しており、いかなる規模へ
の対応も技術的に可能である。実際の商業プラントの建設費は規模
に依存する。水素化、脱水素プラントともに建設費は一般の化学プ
ラントとほほ同等水準だ。現在、川崎市にプラントを建設すべく、
検討が進んでいる。実現すれば日本で最初の量産プラントとなる。
 2014年4月に閣議決定された新たな「エネルギー基本計画」では、
水素を重要な二次エネルギーとして、発電への利用を推進すること
が盛り込まれている。発電部門では水素を利用することにより、高
い二酸化炭素排出削減効果が期待できる。これにより、水素の需要
が拡大することを期待している。
和田氏 火力発電で水素を利用する場合、水素の価格はどの程度な
のか。
岡田氏 2014年6月に公表された「水素・燃料電池戦略ロードマップ
」では2020年代半ばに、1Nm3当たり30円の価格が目標となっている
。われわれの目標でもある。この価格であれば、油だきの火力発電
よりも競争力があるとされているからだ。
和田氏 海外での展開はどのように考えているのか。
岡田氏 現在いろいろなところから問い合わせが来ている。当社の
技術を活用すれば、未利用のエネルギーを水素にして貯めておき、
必要な時に取り出すことができる。例えば、南米パタゴニアの風力
やカナダ、シベリアの水力を水素に変換して輸送できる。水素貯蔵
輸送システムを活用すれば、世界をつなげることが可能になる。水
素源から水素供給にわたる水素サプライチェーンのさまざまな場面
で、グローバルに展開していきたいと考えている。
画期的な技術開発をどうやって実行に移すか
 今回の取材を通じて複雑な心境にとらわれた。画期的な技術開発
だけに、どのようにすれば実行に移すことができるかという点にで
ある。
 「水素貯蔵輸送システム」の最大の特徴は、液化水素のように
−253度に冷却することなく、大量に液体として輸送が可能となるこ
とにある。タンカーしかり、タンクローリーしかりである。Well-to
-Tankでのエネルギーロスも比較的少なく、脱水素後に得られる水素
の純度も高い。
 しかし、技術開発から実用化に移行しようとすると、研究段階で
は見えにくかった幾つかの課題が浮かび上がってくるように思えた
。それについてコメントしてみたい。
大規模プラント建設が必要
 新子安(横浜市神奈川区)にある水素貯蔵輸送システムの実証装
置を見せていただいたが、かなりの大きさである。実際に量産型プ
ラントを作るとなれば、化学プラント並の本格的な規模になるとの
こと。最初は川崎に建設を予定しているものの、全国に効率よく水
素を運ぶためには、各地に複数箇所、同様なプラントが必要だ。プ
ラント建設に巨額の建設費がかかる。建設をどのタイミングで進め
るのかが、課題となるであろう。
小規模消費地域では、水素ステーション内に脱水素装置や地下タン
クを設置 プラントから遠く離れた場所や小規模消費地域では、タ
ンクローリーを使って、常温・常圧のメチルシクロヘキサンを液体
のまま運ぶことになる。その場合、貯蔵用の地下タンクや、脱水素
装置、さらには純度を上げるためのPSAガス発生装置なども必要だ。
 連載第6回で、当面はオフサイト方式*6)が主流になりそうであ
るとの感触を得た。そのような場所に、地下タンクや脱水素装置な
どの追加機器を設置しようとすれば、機器や土地のレイアウトの面
でコスト低減と逆行する。さらに脱水素時に得られるトルエンは、
法律により劇物に指定されており、回収時の取り扱いにも注意を要
する。もちろん、敷地内に水素製造装置を有するオンサイト方式と
比較すれば、さほど差がないかもしれない。
*6) 水素ステーションに他の物質から水素を製造する装置を置く
ことなく、水素の形で運び入れる方式。
 現在、政府や民間が一緒になって、設備仕様の統一を図り、規制
緩和を押し進めて水素ステーションの普及を図ろうとしている。も
しこれを第一世代と呼ぶのであれば、これからプラント建設を開始
する「水素貯蔵輸送システム」などは第二世代に当たるであろう。
恐らく今後も水素技術に関して技術革新が進み、新たな方法が生み
出されると思われる。第一世代で築いた機器とどのように共存・調
和していけるのか、その知恵が問われてくるのではないだろうか。
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【ドイツ発】グリーン電力を天然ガスに変えて貯蔵
2010/05/17eco-online
 世界中で、電力源がどんどんと風力や太陽光などに移っているが
、ドイツの研究者たちはこのたび、再生可能エネルギーによる電気
を天然ガスとして貯蔵することに成功した。これより、グリーン電
力の安定した供給が期待される。
 再生可能エネルギーが急速に増える一方で、貯蔵技術への需要は
ますます大きくなっている。エネルギー関連の施設や電力会社では
特にだ。風力が強い時は必要以上の電力が発電されるため、余剰分
は電力市場で安く取引される。新しい技術では、そのような時に電
気を天然ガスにして貯蔵できるようになる。
 太陽エネルギーおよび水素研究センター(ZSW)とフラウンホー
ファー研究所の風力・エネルギーシステム技術部門(IWES)とが協
力して開発したプロセスを使用すると、電気を合成天然ガスにする
ことが可能。オーストリアの協力会社Solar Fuel Technology社は現
在、実用化に向けて準備中だ。この技術の強みは既存のインフラを
使用できる点だという。2012年から、10メガワット規模の操業を予
定している。
 今回の技術は、水素の電気分解の技術と、メタン生成の技術を組
み合わせたもの。余剰再生可能エネルギーから電気分解で水を取り
出すと、残るのは水素と酸素。さらに水素と二酸化炭素を化学反応
させるとメタンが生成される。つまり合成された天然ガスができあ
がる。
 開発は2つの課題に後押しされた。1つは、どの方法が、十分な容
量を確保できる貯蔵方法としてふさわしいかということ。これにつ
いては、ドイツの天然ガスネットワークは巨大で、毎時200テラワッ
トもあり、数か月分の消費に耐えられる数字。一方、電力網はたっ
た毎時0.04テラワットしかない。2つ目は、既存のインフラを使用す
るのに一番良い方法は何かということ。これについても、合成天然
ガスは、従来の天然ガスと同じように貯蔵することが可能という。
 発電が、天候の変動に左右されることが課題のひとつとなってい
る再生可能エネルギーだが、貯蔵方法として、水素への変換のほか
に、合成天然ガスへの変換も既存のインフラを使えるという点では
うれしいニュースといえそうだ。



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