5241.サウジの核武装と米シェール潰し



サウジの核武装と米シェール潰し
DOMOTO    2014/12/30
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735
【◆◆以下の記事は、11月27日に発信したものに加筆したものです】
【目次】
【1】 サウジの核武装と米シェール潰し
【2】 米国 イランとのテロ戦争での協力は危険

    【1】 サウジの核武装と米シェール潰し

まず、以下は2013年11月の報道です。

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 英BBC放送の報道番組「ニューズナイト」は(11月)8日まで
に、サウジアラビアがイランの核武装に備え、パキスタンから核兵
器を入手する準備を進め、いつでも輸入できる状態にあると伝えた。

サウジ、パキスタン両政府は報道を否定しているが、現実となれば
中東の軍事バランスを根底から揺るがす恐れがある。番組によると
、北大西洋条約機構(NATO)幹部が情報機関の報告の存在を確認。

イスラエルの元軍情報責任者は「サウジは核爆弾の代金を支払い済
みで、(必要になれば)1カ月もかからないだろう」と指摘した。
(ロンドン、イスラマバード 共同)

「サウジ、パキスタンから核入手準備」(11/09-2013 共同通信)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131109/mds13110914180005-n1.htm

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これから1年後の今月11月24日、米英仏独中露の6か国とイランは
、イラン核問題の包括解決を目指す交渉で最終合意を断念し、交渉
を来年7月1日まで再延長することを決めました。包括解決への協
議は今年2月から始まり、7月の期限が延長され、今回は再延長に
なります。

ワシントン中東政策研究所のサイモン・ヘンダーソン氏らによれば
、この交渉の結果次第では、湾岸諸国とヨルダンで動いている核計
画を加速させるだろう(may accelerate = 約50%)と警告してい
ます。

Regional Nuclear Plans in the Aftermath of an Iran Deal (11/21-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/regional-nuclear-plans-in-the-aftermath-of-an-iran-deal

ワシントン中東政策研究所は、米国の中東政策に影響を与えている
(とくに保守派の中東政策に)と言われます。サイモン・ヘンダー
ソン氏は、以前から多くの貴重な論文があり著名な研究者です。

サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール
、ヨルダンなどは、原子力発電所の新設計画を進めており、特にサ
ウジアラビアは導入に野心的だと言われています。

この中でもサウジアラビアは、明らかに原子力発電の核兵器への転
用を目標にしています。

サイモン・ヘンダーソン氏らによれば、湾岸諸国の指導者たちが、
イラン外交をどのように見ているのかを示す最も明確なシグナルの
一つは、サウジが今年4月に行った軍事パレードで、核兵器搭載可
能なミサイルを誇示したことでした。

One of the clearest signals of how Gulf leaders view Iran diplomacy 
was Saudi Arabia's decision to show off two of its nuclear-capable 
missiles at a military parade in April.

ヘンダーソン氏の今年4月29日の記事によれば、この2基の中国製
のミサイルDF-3は、イランへの外交的シグナルであると同時に、
おそらく米国へのシグナルでもあると言います。DF-3は核弾頭が
搭載可能な中距離弾道ミサイルです。

Saudi Arabia's Missile Messaging (『サウジのミサイル・メッセ
ージ』 4/29-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/saudi-arabias-missile-messaging

下記アドレスに、今年4月に行った軍事パレードでのDF-3ミサイ
ルの写真があります。
http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/add.14.4.Saudi%20Arabia%20displays%20ballistic%20missiles%20for%20the%20first%20time.jpg

これらのDF-3は1987年にサウジアラビアが中国から購入したもの
でしたが、リヤドの南方に保管されていました。

この軍事パレードの来賓にはパキスタンのシャリフ陸軍参謀長の姿
がありました。昨年11月の報道で、サウジが契約した核兵器の入手
先と見られる国の要人です。

『サウジのミサイル・メッセージ』と題したこの記事の中でヘンダ
ーソン氏は、湾岸諸国にはイランがこのまま核兵器保有国になって
しまうという懸念が支配的だと述べます。

ヘンダーソン氏はこの4月末の時点で、サウジによる核搭載可能な
ミサイルの誇示は、イランの増大する脅威への対抗の決意であるば
かりでなく、<米国の意思に関係なく、独立して行動する準備がで
きている>ことを示すと指摘しています。

Amid the Persian Gulf's prevailing diplomatic atmosphere -- 
dominated by concern that ongoing international negotiations 
will leave Iran as a threshold nuclear weapon state -- 
the missile display signals Saudi Arabia's determination 
to counter Tehran's growing strength, as well as its readiness 
to act independently of the United States.


原油価格(WTI)が6月中旬から急落を始めています。

これはサウジアラビアが米国のシェールオイルに価格競争を挑み、
シェール潰しの挙に出ているからだと推測する人が多いようです。
これに対しては異論もあるようですが、サウジが自身を守ってもら
わなければならないイラン核問題を抱えながら、米国と石油でケン
カを始めた強気は、まさに核武装を具体的に決断し、準備を始めて
いるところから出てきているのではないでしょうか。

コラム:サウジの価格戦略は米シェール革命を阻むか (11/13-2014 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKCN0IX0I220141113?rpc=188&sp=true

今年3月2日、ロシア軍はクリミア半島を掌握しました。
米ハドソン研究所の首席研究員である日高義樹氏は、この侵略を次
のように説明しています。

「オバマ大統領は、1994年のブダペスト条約に基づいてウクライナ
の安全を保障するという覚書による約束を破った」(※注-1)

「約束を破った」とは、米国が軍事介入しなかったことを指します。
ハドソン研究所の学者によると、サウジはこの「ウクライナ攻撃に
強い衝撃を受けた」そうです。

11月26日の産経によれば、ニューヨーク・タイムズ紙に「米・サウ
ジとロシア・イランの間で石油戦争が起きているのではないか」と
いう記事が掲載されたそうです。

しかし、<米国が安全保障の約束を破るのを見たサウジが>、巨大
な損失覚悟で米国と組んで、ロシア・イランとの石油価格戦争など
というオメデタイことをするでしょうか。

繰り返しますが、サウジをはじめ湾岸諸国には、イランがこのまま
核兵器保有国になってしまうという懸念が支配的だと言います。

共同通信によれば、「米情報機関によると、イランは現在も、その
気になればわずか2カ月で核兵器1個分の高濃縮ウランを製造でき
る」そうです。

※注-1:『「オバマの嘘」を知らない日本人』 (日高義樹著 2014.7.4刊 PHP研究所)


    【2】 米国 イランとのテロ戦争での協力は危険

イランは米国にとって長い間、宿敵でした。ところがいま、米国は
、「イスラム国が拠点とするシリアのアサド政権の後ろ盾であるイ
ランから一定の協力を引き出す」ことを模索しています
(9月23日 共同通信)。

11月24日に再延長された7カ国によるイラン核問題の交渉では、「
イラン側がイスラム国対応を絡ませて、譲歩を引き出そうとする」
のではという観測がありました。現に9月21日、複数のイラン政府
当局者がそのような交換条件を求める発言をしたとロイター通信は
伝えています。

また共同通信は次のような説明をしています。

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オバマ政権は、シリア領内への空爆拡大は「アサド政権ではなく、
イスラム国との戦いだ」と強調する。しかし、イランの革命防衛隊
の支援を受けるシリア政府軍が空爆に乗じて、イスラム国や反体制
派の支配地域を取り戻そうとすれば、内戦の激化を招き、制御不能
の状態に陥りかねない。

オバマ政権はイランと軍事面で調整を図る可能性は明確に否定して
いるものの、せめてシリア領内への空爆を黙認し、アサド政権がお
かしな動きを見せないようにらみを利かせてもらいたいというのが
本音とみられる。

オバマ米政権、宿敵イランに秋波 対イスラム国で協調模索 (9/23-2014 共同通信)
http://www.47news.jp/47topics/e/257331.php

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イランは上記のような、米国のオバマ政権の思うような、都合のよ
い方ばかりには動きません。

オバマ政権のこの方向での外交姿勢に対しては、米国の保守派から
批判が多く出ています。
ヘリテージ財団の中東専門家であるジェームズ・フィリップス氏は
、「イランは中東地域でのテロ戦争に対して「放火犯のように行動
してきたので、火消しをするのを信用して任せられない」と言って
います。

Why the US Can’t Trust Iran to Help Defeat ISIS (10/30-2014 ヘリテージ財団)
http://dailysignal.com/2014/10/30/us-cant-trust-iran-help-defeat-isis/

フィリップス氏によれば、2001年以降だけを見ても、イランは計画
的にスンニ派とシーア派の宗派戦争を煽って、中東情勢を非常に混
乱させてきたと言います。そしてそれがイスラム国の台頭に必要な
状況を作ったとも言っています。

Iran is a major part of the problem in both Iraq and Syria. 
It has fueled sectarian hostilities between Sunnis and Shiites 
that created the conditions for the rise of the Islamic State.

以下は、ジェームズ・フィリップス氏の記事の、最初の部分の抄訳
です。

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(抄訳開始)

イスラム国は、近隣の国家の政府すべてを転覆させようとしている。
イランと米国の戦略的協力を支持する者たちは、イスラム国の増大
を防ぐなかで、一定の共通の国益をイランと米国は共有していると
主張する。

しかし、この当然のように聞こえる両国の国益に基づいた考えは、
テヘランの政権がしばしば、イランがより広い国益を退けて、偏狭
なイデオロギーの利益を追求してきたという事実を無視している。

イランのイスラム革命の論理は、再三にわたりイランの国益の論理
に優ってきた。

イラクに対しても、イランと米国では全く違う目標を持っている。
米国がイラクに安定した民主主義を作ろうとしているのに対して、
イランはイラクを自分達の<衛星国にする>ことを目標にしている。

(抄訳終了)
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イランのイラクに対する企てと同様、フィリップス氏が、イランを
米国は信用してはいけないというのは、シリア政府軍をイランの革
命防衛隊などが支援しているからです。

イランの国家的な目標は、アジアでの中国の野望と同じで、中東地
域から米国を追い出し、地域の覇権を獲得することです。


      (了)


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