5191.持続可能な農業とコモンズ再生



持続可能な農業とコモンズ再生

キューバの有機革命を見ると、ソ連の崩壊で、キューバのカロリー
摂取の57%がソ連から輸入されたものであり、蛋白質と脂肪では80
%以上を他国に依存していたが、それができなくなる。

この事態は1992年の米国の過酷な「キューバ民主化法」の実施によ
って悪化した。そして、1996年の皮肉に満ちたタイトルがついた「
キューバ自由民主連帯法」(ヘルムズ・バートン法)によって、それ
までの経済封鎖がさらに強化されることになる。

キューバは、農業を再構築することでこの危機を克服しようとする。

その解決策のひとつが都市農業だった。この政策の直接的な結果と
して、1998年にはハバナには8,000を越す公式に認定された菜園があ
り、30,000人以上の人々により耕され、可耕地の30%をカバーする
こととなった。

また、農業資材が輸入できなくなったことは、国内農業を多様化さ
せた。トラクターの代替として牛が導入され、入手できなくなった
農薬の代替として総合有害病害虫防除(IPM)が発展している。殺
虫剤、除草剤の輸入ができなくなったことへの対応だ。

そのほとんどがユニークなものだが、キューバは、寄生昆虫をベー
スとしたエコロジー的な害虫防除プログラムを発展させ始めており
、その取り組みは、天敵・昆虫腐敗菌生産センター(CREEs)の設
立で強化されている。

キューバでは国全域に173ヶ所のミミズ堆肥センターがあり、年間
93,000トンの堆肥を生産している。いまでは、輪作、緑肥、間作、
土壌保全とすべてが、あたりまえのこととなっている。

この農業形態をジュールス・プレティは、世界52カ国の事例をもと
に記述しているので、このキューバ有機農法が世界に広げることが
できる。

このため、キューバ有機農業グループが「オルターナティブ・ノー
ベル賞」を受け、そのプレゼンテーションが1999年の12月にはスウ
ェーデン議会でされるのだ。有機農業グループは工業的な農業から
有機農業に国が転換する際、つねに最前線に居続けのである。

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持続可能な農業とコモンズ再生
http://tayatoru.blog62.fc2.com/blog-entry-163.html
Author:田谷 徹のブログ

ジュールス・プレティ著 吉田太郎訳『百姓仕事で世界は変わる』
:持続可能な農業とコモンズ再生.2006年.築地書館.

エセックス大学環境社会学教授が、世界52カ国の事例をもとに、現
代の農のあり方をグローバルイシュー(特に環境問題)とともに考
察した本。

著者は、世界各地で営まれてきた伝統的な農業は、環境を破壊する
のではなく、それどころか自然を生み出してきた要素でもあるとい
う。原生自然についての議論においても、なんらかの人的な操作が
介在しているとし、自然と対置して人類を考える愚かしさを説く。
それを踏まえたうえで、近代的農業を鋭く批判する。モノカルチャ
ーと生産重視の農業が、如何に自然に、そして我々の生活環境に大
きな脅威になっていることを指摘する。

大量生産大量破棄のなかでは、農家自身の経営コストと流通価格の
みで、コストについて考えられているが、大量に同じものを生産す
ることで環境に負荷をかけたコストは常に表に出てくることは無い。

奇しくも白菜の大量廃棄の年でもあり、この記述には興味深く読め
た。メディアでは廃棄する農家の悲痛な映像が流れていたが、それ
ら農家がこのコストを考えることは無いのだ。全体の積み重なった
コストを考えれば、空恐ろしい。

本書では、途上国で進む有機農業革命も紹介されている。近代的農
業から有機農業や伝統的農業へのパラダイム転換を促している。特
に、立場の弱い農民(小作・土地なし農民・近代的農業において競
争力の無い農民)などは、このパラダイム転換によって大きな利益
を得るだろうと指摘する。日々の物資にも事欠く農民こそが、有機
農業や伝統的農法によって自らの手で食糧を確保できるのであると。

また地産地消やスローフード、遺伝子組み換え農産物、さらにはソ
ーシャルキャピタルとコモンズの再生まで、幅広く農業に関する問
題を取り扱っている。コンパクトによく1冊にまとめたものだ、と思
うのだが、それが本書を曖昧なものにしてしまっている。一つ一つ
の事例を検証することは、僕には不可能だが、インドネシアのケー
スにおいては、著者の記述は正しくない。総合病害虫防除(通称IPM
)のプログラムでは、農民のムーブメントがあるかのような記述が
あるが、実際には行政によるトップダウン型の押し付け農法でしか
ない。バリの事例(Jha, Nitish 2002 “Barriers to the Diffusion 
of Agricultural Knowledge: A Balinese Case Study”) では、
IPMという外部から権威付けられた農法と現地の伝統的リーダーによ
って支えられた農法との間に確執を生み、その間で苦悩する農民な
どが紹介されている。本ケースでは、普及員がIPMこそ正しいと思い
込みを強めることで、現地の多様な価値に気がつかないまま、現地
の農法を否定していく。このようなケースが、果たして近代的農業
と対置させて語られるに足る農業のあり方なのであろうか。

本書をよく読み勉強すればするほど、実は同じような失敗をする可
能性がある。農業自体に目をむけ、それがどこへ行っても同じ意味
を持つものだと勘違いをし、本書で紹介されている農法が正しいの
だと思ってしまえば、その人と関わる現地の人は不幸だ。実はこの
普遍性こそがモダニティなのであって、近代的農業がモダニティで
はないのである。普遍性あるものとして農業を捉え、有機農業や伝
統的農業と呼ばれているものこそ正しいと、逆にそれに普遍性を求
めれば、実はそれこそがまさにモダニティの問題なのである。52カ
国の事例を横断的に考察するという暴挙は、まさにその事例に普遍
性を捜し求める著者の姿勢がうかがえる。それこそ批判されるべき
ではないだろうか。

52カ国の事例は必要ない。その代わり、厚みのある記述で、1つの事
例についてのしっかりとしたケーススタディを求めたい。その視点
と調査方法論こそ、我々に新しい農業の可能性を示してくれるに違
いない。

余談だが、農村開発関連の良書をすべて引用しているが、なぜかチ
ェンバースのみがないのが不可解。仲が悪いのか?
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【目次】
序章 持続可能な農業への静かなる革命
第1章 世界の自然を守ってきた伝統農業
第2章 コモンズの破壊がもたらした光と陰
第3章 食の安全・安心と農業・農村の多面的機能
第4章 途上国で静かに進む有機農業革命
第5章 地産地消とスローフード
第6章 遺伝子組み換え農産物
第7章 社会関係資本とコモンズの再生
第8章 未来への扉を開く先駆者たち
訳者あとがき 世界の農業の新たなうねりが、日本の農業になげかける意味


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