5202.日本国債の償還方法はどうするか?



日本国債が、日本のGDPの約2倍になり、普通の方法では返せないこ
とは、明らかである。しかし、国債をデフォルトさせると、国家経
済は破壊されるので、その方法はハードランディングであり、好ま
しくない。それではどうするのか?その方法を示唆するのが「国家
は破綻する――金融危機の800年」カーメン・ラインハートとケネス
・ロゴフの著書である。この検討。津田より

0.国家は破綻する
この本の中に使われている数式が違っていて、大きな話題なったが
ロゴフもラインハートもその数式の誤りは認めたが、この本の主張
は、そのまま正解であると言っている。

この本で歴史を見ると、発展途上国では、国債が返せなくなるとデ
フォルトさせてハードランディングさせているが、先進国では、世
界的な影響が大きく、そうはせずに国債が積み上げた時には、それ
を返すために、2つの方法を取っている。

英国は、過去2回、国家のGDPの2倍に国債を積み上げたことがある
が、2回ともに国債を償還している。しかし、第2次大戦後では長
期金利を低くして、15%程度の高インフレにして、国債の価値を
大きく毀損させて実質の金利をマイナス15%にして、国債を10
年でチャラにしたのである。そして、この方法を金融抑圧と言って
いる。

もう1回は、英国の覇権が確立する前のフランスとの戦争時代後で
あり、これは英国が繁栄して、植民地からの富を奪い、その富をベ
ースとして、国債を返したのである。

このようにしたことで、英国が国債を返した後の姿が大きく違うこ
とになっている。フランス戦争後では、英国は世界の覇権国家にな
り繁栄したが、第2次大戦後の英国は斜陽国家となり、通貨ボンド
の価値は、大きく下がってしまった。

今、日本も英国と同様な国債を積み上げた状態になっている。とい
うことは、この2つの選択肢のどちらかを選ぶしかないのである。

もちろん、それ以外に金融抑圧を緩和した方法もあるので、選択肢
は3つになる。

1.黒田総裁の意図
ロイターの記事で「コラム:日銀緩和中毒が招いた財政規律の喪失
=河野龍太郎氏」が出ているが、自民党が消費税を上げないなど、
財政規律を守らないなら、日銀の黒田総裁は、財務省の意向を知っ
ていて、国債の破綻を防ぐには、金融抑圧しかないと思っている。

このため、10%程度の高インフレにして、かつ金利を1%以下に
抑えて、実質金利をマイナス10%程度にして、そのため国債が売
れなくなるが、全額日銀が買取、長期金利を1%以下を維持して、
国債の価値を大きく減らして行くことを考えている。もちろん、高
齢者が持つ1500兆円もの預貯金の価値も金利を低くされるので
、大きく毀損することになる。一番よくない案である。

一方、現在のハッピーエンドシナリオである安倍政権が目標とする
「2%潜在成長率・2%インフレ」の案では、財政規律を確実にし
て行く必要がある。公的債務の対国内総生産(GDP)比を低下さ
せ基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字を確保することが
必要条件である。

しかし、自民党はバラマキを開始し、かつ消費税を延期したことで
、日銀は10月31日の追加緩和によって、市中発行額の9割に達
する長期国債の購入を開始した。それに伴い長期金利は低く抑えら
れ、かつ円安は加速している。

円安が加速すると、国内物価は上昇して悪性の高インフレになるの
で、これをもって、本格的な金融抑圧が始まったようである。

預貯金で持っていると、減価になるので、争って資産に変えること
になるので、今度資産の値上がりが加速することになる。このため
、株価は急上昇している。

資産の価格は上昇するが、土地などの固定資産類は、東京など大都
市圏以外は、人口減少で低下しているが、それが大きくなるので、
狭い範囲の資産に集中することになる。

というように、日本はとうとう、ハイパー・インフレと低金利政策
により、金融抑圧という日本沈没のルートに入ったようである。

これは、高齢者の積み上がった預貯金や国債を狙った財務省の収奪
行為であることを認識している必要がある。

とうとう、10年前から私が警告していたハイパーインフレと低金
利での国債のチャラ化が具体的に動き始めたことになる。

2.それ以外の道
日本沈没が見えてきたが、沈没させないためには、日本から新しい
産業を作り、日本を繁栄させることである。1人当たりのGDPを最高
まで高めて、それでもって、国債を返すしかない。

日本が繁栄する道は、イノベーションを起こして、石油など化石燃
料から離脱することを目標にしていくしかない。その準備ができて
いる。

このまま、地球温暖化で氷河がなくなると海面は、7m程度も上昇
すると警告されているので、今世紀末にはそうなる可能性がある。
そうすると、縄文時代と同じように、埼玉の深谷当たりまで、海に
なってしまう。東京都内に不動産を持っていても、資産価値が無く
なる可能性もあるのだ。

地球温暖化を止めるためにも、石油を使わないようにする必要が有
り、そのためには、ガソリンなど車の燃料としてはもちろんのこと
、プラスチックなどの石油製品も代替品に変えることが必要になる。

今までは、エネルギー系の方は、自然エネルギーなどで代替可能で
あると言われたが、プラスチックの代替が難しいと思われていた。

しかし、このプラスチック製品の代替は、木からの化合物で可能に
なったのである。これでやっと、脱石油が出来ることになる。

また、近畿大学でバイオコークスが発明されて、石炭の代わりにバ
イオマスの全般から生成可能であるバイオコークスが安価にでき、
石炭の約半分程度の価格になるというので、今でも原子力発電より
、安いと思われている石炭火力が益々、安くなり、しかもバイオな
ので、CO2を増やさないことになる。石炭火力が一番安く、かつ排出
ガスがない電気となる。

そして、木のリグニンからベンゼン、ヘミセルロースからはブタジ
エンが生成されるので、石油由来のいろいろなものを作ることがで
きることになってきた。

構造材としては、セルロース・ナノファイバーがあり、鉄などを置
き換えることや透明なプラスチック板などの置き換えもできる。広
範なプラスチック製品の置換えにもなり、応用範囲も広い。

しかも、森林は、日本の土地の68%を占め、戦後直ぐに植えた木
が育ち木質資源は豊富であり、かつ再生可能である。

もう1つが、中山間部の村々が人口流出して限界部落になっている
が、この部落を再生できるし、地方の活性化もできるのである。

というように、脱石油文明ができ、植生全般が石油代替になるので、
植生文明と私は命名したが、その文明を日本が率先して開拓して行
き、世界に広げることが必要である。

しかし、世界的に森林を伐採して畑としているので、森林資源はな
くなっているので、当初は輸出が大きく伸びるし、今後30年間は
欧州と日本が、その資源供給地となるはずである。

しかも、促成栽培できる木を王子製紙が開発して実用化している。
この木を使えば、5年程度で15m程度になり、パルプとして利用
可能になるというので、それを植えていけば、同じように化学薬品
や構造材、バイオコークスを安価に作ることができるようになる。

というように、日本は、この分野の全般で最先端にいるし、実用化
もできている。

どうして、このような大きな文明の転換を仕掛けないのであろうか?

それしか、日本を救う方法はないはずである。

選挙の機会であり、野党は自民党のアベノミクスの問題点を明らか
にして、日本を救うために文明転換を主張して欲しいものである。

さあ、どうなりますか?


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コラム:日銀緩和中毒が招いた財政規律の喪失=河野龍太郎氏
2014年 11月 20日 19:05 JST
河野龍太郎 BNPパリバ証券 経済調査本部長
[東京 20日] - 従来から筆者は、日本経済の中長期シナリオと
して、次の4つを掲げてきた。1)デフレ回帰、2)4―5%の比
較的モデレートなインフレ下での金融抑圧、3)10%程度の高イ
ンフレ下での金融抑圧、4)安倍政権が目標とする「2%潜在成長
率・2%インフレ」の定着である。
高水準の公的債務を抱える中で、財政・金融政策によってデフレ脱却
を目指せば、インフレ醸成後に財政従属に陥り、金融抑圧が不可避
となる。つまり、インフレ率が上昇しても、財政への配慮から長期
金利上昇を避けるために、ゼロ金利政策や長期国債の大量購入を止
められず、結局、インフレ・タックスによって公的債務の圧縮を図
ることになるというのが、アベノミクスがスタートした段階からの
筆者の想定であった。
基本シナリオは2番目だが、1番目のデフレ回帰シナリオ以外はい
ずれもインフレ醸成後、金融抑圧が採用され、ゼロ金利政策や長期
国債大量購入政策が継続される。4番目のハッピーエンドシナリオ
でも、内閣府が認めている通り、公的債務の対国内総生産(GDP
)比の低下を可能とする基礎的財政収支(プライマリーバランス)
黒字を確保することはできない。この場合でも財政調整を進めなけ
れば、金融抑圧の採用が不可避となる。
また、デフレ回帰シナリオについても、デフレ下で公的債務がさら
に積み上がり、財政調整も選択されないとすれば、最終的にはイン
フレ・タックスが不可避となる。デフォルトを避けようとすれば、
理論的にも歴史的にも、公的債務の圧縮は財政調整かマネタイゼー
ションによるインフレ・タックスの二つの選択肢しかないのである。
従来、2番目の基本シナリオでは、アグレッシブな財政・金融政策
の継続から完全雇用が定着し、2015年後半から賃金上昇を伴っ
たインフレ率の加速がスタート。長期金利急騰を避けるべく、日銀
が本格的な金融抑圧を開始すると予想していた。国債価格支持政策
による長期国債の無制限購入である。
しかし、長期金利が急騰する前に、日銀は10月31日の追加緩和
によって、市中発行額の9割に達する長期国債の購入を開始した。
これをもって、本格的な金融抑圧が始まったと解釈すべきだろう。
それゆえ、冒頭で述べた4シナリオの生起確率については、従来予
想から以下のように修正した。まずデフレ回帰シナリオについては
、35%から20%に引き下げ、代わりに2番目のマイルドインフ
レと3番目の高インフレのシナリオについて、それぞれ40%から
50%へ、20%から25%へ引き上げた。安倍政権が望む「ハッ
ピーエンド」である4番目のシナリオは、5%のまま据え置いた。
ポイントは、早期に金融抑圧が本格化したことから、想定以上に長
期金利の上昇が抑え込まれ、実質金利のマイナス幅拡大によって、
円安が一段と加速する可能性が高まったことである。詳しくは後述
するが、来年後半には1ドル=130円に達する可能性もある。
また、長期金利が抑制されることは、これまで以上に財政膨張への
歯止めが利かなくなることを意味する。消費再増税先送りもその現
れだ。以下、日銀追加緩和と増税先送り解散後の景気シナリオを点
検する。
<GPIFと日銀の協調PKO>
まず、生起確率変更のきっかけとなった10月31日の日銀追加緩
和について論じておく。読者の中には、ゼロ金利制約に直面してい
るのだから、いまさら日銀がバランスシートを拡大させても、イン
フレ醸成にはつながらないと考える人も少なくないだろう。
しかし、確実に効果を持つ経路がある。マネタイゼーション政策だ
。中央銀行ファイナンスによる追加財政を追求すれば、需給ギャッ
プは改善し、インフレ醸成も可能となる。2013年度に日本経済
が2.2%の高い成長を遂げたのも、そして消費税や円安の影響を
除いてもインフレ率が1%程度まで上昇したのも、まさにヘリコプ
ター・ドロップの効果だった。金融政策単独ではなく、マネタイゼ
ーションというパッケージで政策を捉える必要があり、それが昨年
取られた「アベノミクス・ラウンド1」の本質でもあった。
もちろん、この政策の主役は財政政策であって、金融政策は脇役で
ある。マネタイゼーションにおける金融政策の効果は、政府支出の
拡大がもたらす金利上昇圧力の吸収に他ならない。10月31日の
追加緩和も、やはりヘリコプター・ドロップというパッケージで捉
える必要がある(アベノミクス・ラウンド2)。
まず、今回の政策は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF
)によるリスク資産購入を中央銀行がファイナンスすることと事実
上、同じ効果を持つ。GPIFが保有する長期国債を売却し、その
資金で株や外債、外株などのリスク資産の購入を増やす一方で、日
銀がほぼ同額の長期国債を市場から購入し、金利上昇圧力を吸収す
る。一種の価格維持政策(PKO)だが、世界最大の公的年金を動
員するのだから、マグニチュードが違う。アロケーション変更によ
るGPIFの海外債券・海外株式の購入額も20兆円近く増額され
、規模は為替介入に匹敵する。
早晩、2014年度補正予算が編成されるが、結果的にそのファイ
ナンスも今回の日銀の措置によって行われる。追加財政なしでは、
15年度に日本版「財政の崖」が生じるため、その痛みの回避を目
的に、消費増税が先送りされても補正予算が編成されるのである。
さらに、増税先送りにもかかわらず、増税を財源に予定していた新
規の社会保障関連支出の大半が実行される見込みだが、これらも既
存の社会保障関連支出と共に、日銀が国債購入でファイナンスする
ことになる。
このように中央銀行ファイナンスによる政府支出が継続されること
によって、すでにゼロ近傍まで低下した潜在成長率を多少は上回る
成長が続き、失業率は低下する。すでに失業率は完全雇用の領域ま
で低下しているが、それが定着すれば賃金上昇が始まりインフレ期
待は確実に高まっていく。原油価格の低下で、当初想定よりインフ
レ率の上昇は遅れているが、底流では労働需給の逼迫を背景に、イ
ンフレ率のトレンドを左右する単位労働コストが徐々に上昇し始め
ている。
デフレ脱却にマネタイゼーション政策が有効であるなら、なぜ、安
倍政権以前は採用しなかったのか。それは、強い常習性を持ち、必
要な時に止められないから、財政当局や金融当局が発動を躊躇(ち
ゅうちょ)してきたためである。仮に初期の目的を達し、総需要刺
激策を手仕舞いしようとしても、麻薬中毒患者が感じるが如く強い
痛みが経済に走る。しかし、マネタイゼーションを継続すれば、中
央銀行が金利上昇圧力を吸収してくれるため、継続コストは全く感
じられない。むしろ、つかの間のユーフォリアを感じることができ
る。
政策効果は徐々に小さくなっていくため、発動の頻度も高まってい
く。これが、一度始めたマネタイゼーションを手仕舞することが困
難な政治的理由であり、だからこそ「マネタイゼーションの誘惑」
を遮断するために、先人は独立した中央銀行制度を確立したのであ
る。中毒症、依存症はますます強まり、止めどない公的債務の膨張
が続いていく。
公的債務が膨らむと、マネタイゼーションから抜け出すのはますま
す難しくなる。長期金利が上昇すると、利払い費が膨張し、財政危
機や金融危機をもたらすためである。結局、国債購入政策やゼロ金
利政策の停止どころか、テーパリング(緩和縮小)も開始できない
可能性がある。
もちろん、最終的な帰結が本当にマネタイゼーションであるかどう
かは、物価安定の観点から利上げが必要になった際に、日銀が財政
への配慮によって、ゼロ金利政策や長期国債購入政策の解除に踏み
切れないことを確認する必要がある。しかし、十分な財源もなく法
人税減税が検討され、経済危機でもないのに、すでに法制化された
消費増税が先送りされたのは、マネタイゼーション中毒が社会に広
がっていることの証左ではないだろうか。
<金融抑圧が生む円安とインフレの悪循環>
さて、今回の景気シナリオ見直しでは、前述の通り、2番目の「4
―5%のマイルドインフレ下での金融抑圧」と3番目の「10%程
度の高インフレ下での金融抑圧」の生起確率をそれぞれ50%と
25%に引き上げた。両シナリオに共通するのは、程度の差はあれ
、スタグフレーションであるということだ。現実に、名目賃金は上
昇しているが、インフレ上昇に追い付かず、実質賃金は減少してい
る。
もちろん、2番目のシナリオのように、最終的に4―5%の物価上
昇でとどまるのなら、資源配分の歪みも限られ、やむなしと言うべ
きかもしれない。財政調整が選択されないのだから、インフレ・タ
ックスは必然である。ただ、3番目のシナリオにおいては、二桁イ
ンフレとなり、資源配分や所得分配は大きく歪み、経済は大きく混
乱する。
両者の分かれ目となるのは、円安の進展度合いである。マイナスの
実質金利に直面した預金者が大量に資金シフトを始めれば、円安が
加速し、3番目のシナリオに近づく。過去20年も日本は名目ゼロ
金利による緩やかな金融抑圧を経験してきたが、それでも実質金利
は常にプラスであった。しかし、現在我々が経験しているのは、明
らかなマイナスの実質金利であり、それは今後も継続し、マイナス
幅は拡大していく。
従来は、2014年末に1ドル=115円、15年末に125円ま
で円安が進むと考えていたが、今回の追加緩和をきっかけに、15
年後半には130円を目指すのではないか。16年には円安がさら
に進む。来年後半以降は、もはや誰もが望まないような水準まで円
安が進む可能性がある。
3番目のシナリオでは、150円を超えるような劇的な円安によっ
て、二桁インフレが進むことを想定しているが、円安が当初の想定
よりも進むと考えているため、今回、生起確率を引き上げた。イン
フレ加速が始まっても、財政危機を回避するため、長期金利の上昇
を抑え続けると、実質金利のマイナス幅が拡大し、円安がさらに加
速、インフレが高進するスパイラルに陥る。そうした状況を回避す
るため、日銀は長期国債の大量購入を継続したまま、オーバーナイ
ト金利を引き上げるオペレーション・ツイストを余儀なくされる可
能性がある。
その場合、日銀当座預金に対する民間金融機関への付利の支払いが
嵩(かさ)み、損失拡大によって、債務超過に陥る可能性が高い。
理論上は中央銀行が債務超過に陥っても、流動性供給などに支障は
ないのだが、3番目のシナリオでは、国債や国債を裏付けとする日
銀券に対する疑念が生じているからこそ、劇的な円安が進むのであ
る。だとすると、日銀が債務超過になること自体が、さらなる円安
圧力につながるのではないか、心配である。
今のところ、筆者が3番目を基本シナリオとしていないのは、ほと
んどの先進国の潜在成長率が下方屈折し、自然利子率が低下してい
るためである。最も堅調な米国ですら、政策金利や市場金利が大き
く上昇することは想定されない。不幸中の幸いだが、先進各国とも
低金利が継続するため、日本の預金者がマイナスの実質金利に直面
しても、海外に資金の逃げ場はなく、当面は劇的な円安が避けられ
る。
とはいえ、2番目のシナリオに踏みとどまるには、極端なマネタイ
ゼーションを阻止する仕組みが不可欠となる。歳出削減や増税など
の財政調整が先送りされ続ければ、いずれはインフレと円安のスパ
イラルに陥る。
しかし、日銀の量的質的緩和によって財政規律はすっかり弛緩した
。2020年の東京オリンピックを控え、今後も財政需要は底なし
であり、政治的な財政膨張圧力に歯止めをかけることができるだろ
うか。財政膨張が止まらない一方、金融抑圧によって長期金利の上
昇が抑えられ、実質金利のマイナス幅が拡大、円安が加速、気が付
けば2番目のシナリオから3番目のシナリオへ移行していた、とい
うことも十分にあり得る。
なお、デフレ回帰シナリオの生起確率を現在も20%と比較的高め
に想定しているが、それは国内要因ではなく、主に海外からのショ
ックを念頭に置いているためである。例えば、日本経済の完全雇用
が定着する前に、中国経済がハードランディングするケースが考え
られる。その場合、デフレに舞い戻る可能性が高まる。
また、潜在成長率の低下に直面する米国が、数度の利上げに耐え切
れず、不況入りするケースもあるかもしれない。米金融緩和が再開
すれば、量的緩和第4弾(QE4)の導入になると思われるが、そ
れが急激な円高をもたらし、デフレが再燃する可能性がある。
*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエ
コノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友
銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一
生命経済研究所を経て、2000年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに
掲載されたものです。(こちら)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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政府債務を削減する政治的に賢い方法
2014年11月22日01:52agora
「財政が破綻して国債がデフォルトする」とか「ハイパーインフレ
が起こる」という話がよくあるが、たぶん現実はそれほど劇的では
ないだろう。今週の言論アリーナで亀井善太郎さん・小黒一正さん
と議論したように、日本の政府債務をチャラにする方法は、金利の
抑制とインフレによる金融抑圧しかない。
これは歴史的には、それほど珍しいことではない。ReinhartのNBER
論文はそれを詳細に分析している。GDPの2倍を超える政府債務を削
減するには課税しかないが、消費税でも所得税でも足りない。政治
的にもっとも安全な方法は、インフレ税である。大英帝国の場合は
、戦後のどさくさにまぎれて金利を3%程度に規制し、インフレを放
置することで大幅なマイナス金利を実現した。
Reinhartのデータで驚くのは、どこの国も同じ方法で政府債務を減
らしたことだ。オーストラリアやイタリアのほうが露骨な金融抑圧
で政府債務を減らした。終戦直後には、先進国の国債の実質金利は
−15%になった。いわば政府が、インフレで債務を清算したのだ。
日本も終戦直後に、400%以上のインフレで政府債務をパーにした。
おもしろいのは、このときも国債そのものはすべて返済したことだ
。先進国では、中南米のような債務不履行は起こらなかった。その
代わり日本の場合は、最大90%の「財産税」をかけて財産を没収し
た。
今の日本の政府債務は平時としては世界史上最大だが、長期金利は
世界史上最低である。この史上最大のバブルはいずれ「平均回帰」
するが、どういう形でそれが崩壊するかはわからない。安倍首相は
増税という方法がありえないことを示したので、残る方法はインフ
レで借金を踏み倒す金融抑圧しかない。それが黒田日銀のやってい
ることである。
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金融抑圧と金融抑制(*ややテクニカル)
池尾 和人(@kazikeo)
2011年06月06日23:11agora
世界的に公的債務が膨大に積み上がっている状況の中で、公的債務
を解消する手立ての1つとして「金融抑圧(financial repression)
」があり得ると、カーメン・M・ラインハートほかが指摘した(こ
の点については、岩本氏のブログ記事を参照の)ことから、改めて
「金融抑圧」の概念に関心が集まっている。金融抑圧とは、簡単に
いうと、市場実勢に比べて著しく低い水準に金利を規制する政策の
ことである。
金融抑圧という用語は、元々はマッキノンやショーといった国際経
済学者によって使われ始めたもので、(1980年代に始まる金融自由
化以前の)新興国の金融システムのあり方を特徴付けるためのもの
であった。ところが、ラインハートほかは、「実は金融抑圧は第2
次世界大戦後の先進諸国においても標準的なものであって、程度の
差はあれ1980年代までそうだった(financial repression was also 
the norm for advanced economies during the post World War II 
and in varying degrees up through the 1980s.)」と主張してい
る。
しかし私も、P・クルーグマン同様に、こうした主張(というか用
語法)には違和感を覚える。クルーグマンは、自身のブログ記事の
中で、次のように記している。
What's happening here is that Reinhart is using a term originally 
developed to describe an extremely distortionary policy 
in developing countries, and applying it to much more defensible 
policies pursued in advanced countries. It used to be common 
for third world governments to impose sharply negative 
real interest rates on savers year after year, driving saving down 
or pushing saving into unproductive channels. 

ここで起こっていることは、ラインハートは発展途上国における極端に
歪みを伴う政策を記述するために元々は作り出された用語を使っており
、その用語を先進国において追求されてきた、もっとより擁護可能な政
策に対して当てはめているということである。第三世界の政府が、長年
にわたって貯蓄者に対してきわめて大幅にマイナスの実質金利を課し、
結果として貯蓄を減少させる、あるいは非生産的な用途に貯蓄を振り向
けさせてきたことは、かつては一般的なことだった。

こうしたやりとりを見ていて思うのは、かのアメリカにおいても、過去
の研究は容易に忘れ去られるのだなぁ、ということである。それが、J
・E・スティグリッツのような高名な経済学者の研究であったとしても
である。

スティグリッツは、「金融抑制(financial restraint)」という概念を
提唱し、それを金融抑圧と混同すべきではないと述べている(参照しや
すいものとしては、J・E・スティグリッツ/B・グリーンワルド『新
しい金融論−信用と情報の経済学』東京大学出版会、2003年のpp.235-6
)。両者は確かに紛らわしいのだけれども、「金融抑圧は実質金利を大
きくマイナスにし、経済成長にマイナスの影響を与える。金融抑制のも
とでは、金利は、しばしば低いけれども、プラスに保たれる」という違
いがある。

実際的な効果としては、金融抑圧が、政府が民間の貯蓄者から収奪する
ことを意図したものであるのに対して、金融抑制は、民間部門の内部に
レント(超過利潤)獲得の機会を生じさせるものであり、民間金融機関
の誘因構造を変化させることを狙いとしたものである。こうした違いを
踏まえて、やはりスティグリッツ流に金融抑圧と金融抑制(しかし、実
に紛らわしい!)を区別し、戦後の先進国における金利規制等は、金融
抑制と呼ぶのが適切だと考える。

戦後日本のいわゆる「人為的低金利政策」に関しては、とくにそうだと
いう感じがする。日本政府の戦時債務は、戦後直後のハイパーインフレ
で実質的に解消されていたし、その後もしばらくは、ハイパーインフレ
の反省から均衡財政を続けていたので、日本政府が金融抑圧政策をとっ
て、公的債務の解消のために民間部門から自らに所得を移転させる必要
は(当時は)乏しかった。それゆえ、この頃の低金利政策に関しても金
融抑圧と呼ぶのは、ミスリーディングであると思われる。

多少の類似性はあるにしても、基本的にはかなり性格の異なる現象を同
一の用語で呼ぶのは混乱の元であり、たとえ紛らわしくとも用語を分け
て議論するのが適切である。



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