安倍晋三首相は18日夜、消費再増税時期の延期と衆院解散を表明 した。来年10月に予定されていた消費税率の10%への引き上げ は1年半先送りし、2017年4月から実施する。 デフレ脱却へ経済最優先で取り組んできたアベノミクスへの信任を 問う形での総選挙で国民の支持を得て、政策を前へ進めていく考え だ。解散は21日。総選挙は来月2日公示、14日投開票となる見 通し。 ということで、安倍首相が解散を表明した。 このコラムではアベノミクスは、失敗すると再三再四、述べている。 どうも、労働人口が減少して、潜在成長率がマイナスになっている 可能性がある。 とすると、このまま日銀の大幅な金融緩和策を続けるとますます円 安が進み、輸入物価が上昇し、潜在成長率はさらに低下する恐れが ある。 もう1つ、戦費でGDPの200%もの政府債務を抱えながら債務圧縮に 成功した例は第二次大戦後の米国と英国だけであり、米国は人口を 増加させて、成長力を高めに維持して、その上で長期金利を低めに 維持して、債務を返済した。 もう1つの英国は、2桁インフレの下で超低金利政策が継続され、大 幅なポンド安が進んだ。75年、英国のインフレ率は24%超。80年代 になってからも計画停電が行われてほどである。実質債務の減価を して、国民に我慢をさせた。 現状で、一番良いアベノミクスの行く先でも、英国の例と同じで、 完全雇用を達成してデフレから脱却するも、公的債務を圧縮できる までゼロ金利、量的・質的緩和を継続するというシナリオで、この 場合、大幅な円安が起こり、高いインフレが起き、日本の緩やかな 沈没である。 こうならないためには、ターゲットを決めた産業育成が重要になる が、そのアイデアを自民党が持っていないように見える。そこが問 題なのである。 というより、経済専門家も明確なアイデアがないために、世界も日 本も行く道をなくしているだけである。 しかし、目を凝らせば、日本の行き道は、明らかにされている。 どうして、その道に行かないのか不思議に思っているが、日本の政 治家も気が付いて欲しいものである。 ============================== 安倍首相が解散表明・消費再増税延期、来月14日投開票 2014年 11月 18日 21:41 JST [東京 18日 ロイター] - 安倍晋三首相は18日夜、記者会見 し、消費再増税時期の延期と衆院解散を表明した。来年10月に予 定されていた消費税率の10%への引き上げは1年半先送りし、 2017年4月から実施する。 デフレ脱却へ経済最優先で取り組んできたアベノミクスへの信任を 問う形での総選挙で国民の支持を得て、政策を前へ進めていく考え だ。解散は21日。総選挙は来月2日公示、14日投開票となる見 通し。 <アベノミクスの継続問う選挙、自公過半数割れなら退陣> 安倍首相は会見で、消費税引き上げ判断の際、重視するとしていた 7─9月の国内総生産(GDP)速報値について「成長軌道に戻っ ていない」との見方を示し、「アベノミクスの成功を確かなものと するため、消費税10%への引き上げを18カ月延期すべきである との結論に至った」との判断を示した。 首相は「国民生活にとって重い決断をする以上、速やかに国民に信 を問うべきであると決心した。今週21日に衆院を解散する」と明 言。「消費税の引き上げを18カ月延期し、2017年4月に確実 に10%へ引き上げるということについて、私たちが進めてきた経 済政策、成長戦略をさらに前に進めていくべきかどうかについて、 国民の判断を仰ぎたい」とし、自らが進めるアベノミクスの継続を 問う選挙になるとの見方を示した。 さらに首相は衆院選について「厳しい選挙となることは覚悟の上だ 」としたうえで、「自民、公明の連立与党で過半数が得られなけれ ば、アベノミクスが否定されたということになる。私は退陣する」 と明言した。 <経済対策を策定、通常国会に補正予算案> 安倍首相はまた、経済を成長軌道に戻すため「個人消費のてこ入れ と地方経済を底上げする力強い経済対策を実施する」と表明。次期 通常国会に必要となる補正予算を提出していく考えを示した。 首相は、会見前に行われた経済財政諮問会議で、甘利明経済再生担 当相に経済対策の取りまとめを指示。財政措置を伴うものについて は、麻生太郎財務相と内容を協議するよう求めた。 <2020年の健全化目標堅持、高いハードル> この日までに行われた消費増税の是非を判断するための有識者点検 会合では、6割を超す識者が予定通り消費税率を引き上げるべきと 主張していた。 安倍首相は、消費税先送りが財政再建に影響を与えるとの批判があ ることに対して「財政再建の旗を降ろすことは決してない」とした うえで、「2020年度の財政健全化目標を堅持する」と強調。増 税を再び延期するのではとの批判に対し、「再び延期することはな い。景気条項を付すことなく確実に実施する」と語った。 ただ、2020年度の基礎的財政収支の黒字化目標は、消費税を予 定通り引き上げていてもまだ達成不可能な数字で、市場では「黒字 化へのハードルは高く、若干疑問が持たれる」(SMBC日興証券 金融財政アナリスト、末澤豪謙氏)との指摘もある。 アベノミクスによるデフレ脱却はまだ道半ば。賃金の上昇よりも消 費税や円安に伴う物価上昇が先行、多くの国民は景気回復の実感を まだ得られていない。首相は「国民全体の所得をしっかりと押し上 げ、地方経済にも、景気回復の効果を十分に波及させていく。そう すれば消費税引き上げに向けた環境を整えることができる」との考 えを示した。 *内容を追加して再送します。 (石田仁志 編集:山川薫) ============================== 【解散・総選挙】アベノミクス・黒田日銀の細道 成功率は10% 潜在成長率はマイナスに転落? 木村正人2014年11月18日 05:55 安倍晋三首相は、7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値で予想外の 2四半期連続のマイナス成長になったことを受け、来年10月に予定 されていた消費税再増税を1年半先送りしたうえ、18日に衆院を解 散する意向を表明する見通しだ。 17日、ロンドンのザ・バークレイ・ホテルで時事通信ロンドン・ト ップセミナーが開かれ、債券のヘッジファンドでは世界最大級の資 産運用会社「キャプラ・インベストメント・マネジメント」の共同 創業者、浅井将雄さんが講演した。 筆者は進行役を務めたが、浅井さんの説明にかなり衝撃を受けた。 「キャプラ」は2005年の設立以来、旗艦ファンドの年率リターンは 9.88%を記録し、資産運用額は107億ドル(約1兆2400億円)。 浅井さんは日本人としては唯一、英紙タイムズのリッチ・リスト( 長者番付)に名を連ねる著名トレーダーだ。浅井さんのお話をうか がうようになって、かれこれ7年になるが、見通しが外れるのを聞い たことがない。 講演でまず衝撃を覚えたのは、7〜9月期のGDP速報値が実質の季節 調整値で前期比0.4%減、年率換算で1.6%減になったことについて 、潜在成長率がマイナスになっている可能性があると浅井さんが指 摘したことだ。 日銀の黒田バズーカ(異次元緩和)で、マネタリーベース(資金供 給量)は2014年末には270兆円まで拡大する見込みなのに、潜在成長 率がマイナスとは。これはトホホの状態と言わざるを得ない。 講演後、浅井さんに確認すると、「日本の国際競争力が落ちている ことと交易条件の悪化が原因です」という返事だった。交易条件と は平たく言えば輸出価格を輸入価格で割った比率のこと。たとえば 資源が値上がりすると高い価格で輸入せざるを得なくなり、交易条 件が悪化する。 黒田バズーカの限界 日銀は日本の潜在成長率を「0%台前半ないし半ば程度」とみる。 しかし、内閣府は今年7月、足元で0%台の潜在成長率について2% 台の「経済再生ケース」と1%台の「参考ケース」を想定してみせ た。 実際に潜在成長率がマイナスに転落していたとしたら、内閣府の見 込みがいかに甘かったかという批判は避けられない。 このまま日銀の輪転機を回し続ける(マネタリーベースを増やす場 合に使われる比喩的な表現で実際にお札を増刷しているわけではな い)とますます円安が進み、輸入物価が上昇し交易条件が悪化する。 潜在成長率はさらに低下する恐れがあるんじゃあなかろうか。アベ ノミクスで成長、みんなハッピーというストーリーはどこに行った んだろう。 浅井さんは解散に合わせて「5兆〜7兆円」の補正予算が組まれると 予想した。 アベノミクス最大の誤算はご存知の通り、円安が進んでも実質輸出 が回復しなかったことだ。失業率は3%台で完全雇用と言えるが、貿 易収支は大幅な赤字。エネルギー輸入増だけでなく、電力セクター の収益悪化も大きく響いている。 次にハッとさせられたのは黒田バズーカにも天井があるという指摘 だ。日銀のマネタリーベースは15年末に350兆円、16年末には430兆 円に膨らむ見通しだが、「GDPの90%、450兆円辺りが限界でしょう 」と浅井さんは予測する。 これも講演後に確認すると、「ゆうちょ銀行の保有額でも約121兆円 (今年6月時点)。日銀が市場から国債を買い集めようとしても限界 があります」と浅井さん。次の展開はどうなるのだろう。 戦費でGDPの200%もの政府債務を抱えながら債務圧縮に成功した例 は第二次大戦後の米国と英国だ。 一つは、米連邦準備制度理事会(FRB)が導入した国債価格支持政策 (Pegging Operation)。FRBは長期金利(25年債)を2.5%の上限内 に抑える政策をとった。 日銀にはたとえば、10年国債の金利に2%もしくは2.5%のキャップを かけるという手がある。戦後の米国には成長力があったが、現在、 日本の潜在成長率はマイナスに落ち込んでいる恐れがある。 もう一つは、1960〜70年の英国。2桁インフレの下で超低金利政策が 継続され、大幅なポンド安が進んだ。しかし、これが日本で起きた 場合はかなり辛い。75年、英国のインフレ率は24%超。80年代にな ってからも計画停電が行われていたからだ。 残されたベストシナリオ しかし、アベノミクスにもかすかな成功の道筋が残されている。 (1)デフレを脱却し、成長する 成功確率10%。アベノミクスの資産浮揚策が経済を活性化させ、デ フレ脱却と潜在成長率の押上げにも成功するというシナリオだ。 しかし、17日のGDP速報値をみる限り、潜在成長率がマイナスに転落 している恐れがあり、望み薄だ。カギは「第2のアップル」が日本 から生まれるかどうか。 悲観シナリオに取り憑かれるのは禁物だ。 (2)デフレ脱却と金融抑圧 確率40%。完全雇用を達成してデフレから脱却するも、公的債務を圧 縮できるまでゼロ金利、量的・質的緩和を継続するというシナリオ 。この場合、大幅な円安リスクが生じる。 今のところ、(2)の可能性が一番高いと浅井さんは言う。 (3)デフレ継続 総選挙後、スキャンダルなどで安倍政権が失速し、退陣リスクが生 じて円安効果がなくなるシナリオ。財政出動できる余地も限られて おり、デフレ脱却に失敗する。低金利、デフレ、低成長。確率30%。 (4)インフレシナリオ デフレ脱却に成功するも、超低金利政策を余儀なくされ、インフレ 率が上昇する。超インフレによる債務調整や円が切り下げられる。 最悪シナリオの確率20%。 総選挙が行われても、自民党がそこそこ勝って、円安・株高・低金 利というアベノミクスを取り巻く状況は短期的にはそれほど変わり そうにない。 年金は大丈夫? 浅井さんが強い懸念を示したのは、約130兆円の公的年金資金を運用 する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)までアベノミクスに 動員していることだ。 運用比率は国内株式25%、外国株式25%、外国債券15%。人為的に 作った相場はいずれ揺り戻しが来る。アベノミクス相場が終焉を迎 えたとき年金資金がたんまり増えていれば良いのだが、その保証は もちろんない。 黒田バズーカ、法人税引き下げ、GPIFの運用見直し、黒田バズーカ 2に、消費税の再増税先送り解散と、そこまでやるかのアベノミク ス。その前には海外リスクも待ち構える。 「キャプラ」のアナリストによると、原油価格が1バレル=70ドル まで下がる可能性があるそうだ。背後でサウジアラビアが米国のシ ェールガス潰しに動いている。 エネルギー価格が下がると日本経済には朗報だが、2%のインフレ を目標にする日銀と黒田東彦総裁は複雑だ。さらに、高利回りの金 融商品が人気を集めている中国では金融危機のリスクが高まってい る。 発散寸前の政府債務、膨らみ続ける社会保障費、人口減少と少子高 齢化、デフレと低成長。安倍首相が集団的自衛権の限定的行使容認 に関連する安全保障法制だけでなく、今度の解散で政権の長期化を 図り、憲法改正を本気で考えているとしたら。 アベノミクスの綱渡りはますます難しくなる。 (おわり)