5174.追加緩和は有害無益



日銀の黒田総裁が、追加緩和を発表して、株式市場は暴騰し、大幅
な円安になっている。この面からすると、黒田総裁の唐突な発表は
成功したと言える。

しかし、今後の日本経済にとっては、危ないと言うしかない。金融
量的緩和自体が、時間の猶予をもらい、日本の将来を見た構造改革
を行わねばならないことである。しかし、その構造改革が進んだよ
うに見えない。

特に、円安でも輸出が伸びないので、新しい国内産業を早急に立ち
上げ、輸出企業にしていくことしかない。それも製造業であり、非
論理の世界での製品となるとで、このため、分野は限られることに
なる。

その分野を見出していないがために、次の時間稼ぎをする量的緩和
の追加策は、円安により国内産業のコストアップ要因になるだけで
、何もいいことがない。

食料などの価格も上昇して、消費者が益々、買い控えを行うことに
なる。そして、それは国内産の食料品が総体的な意味で安いことに
なる。国内の農業や林業にとっては良いことでもある。しかし、こ
の分野の構造改革が進んでいたことで、生産性向上が遅れている。

このため、当分は消費者の買い控えで、益々景気は悪くなるようで
ある。消費支出がGDPの60%にもなる日本の経済では、成長率が低下
することになる。

ということで、問題は「デフレ脱却」ではなく、円安とエネルギー
コストの上昇で成長率が低下していることなのだ。

黒田さんも、その他の政府関係者も日本の問題点を誤認しているよ
うである。

さあ、どうなりますか?


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量的緩和の効果はあるのか、ないのか
FEBの量的緩和第3弾終了で、改めて問う
小幡 績 :慶應義塾大学准教授 2014年11月01日TK
10月29日、FRB(米連邦準備制度理事会)が量的緩和第3弾(QE3)を
終了することを、FOMCで決定した。ただ、これは厳密な言い方では
なく、「資産買い入れを停止した」ということである。FED(FRBの
愛称)のバランスシートを直接使って、米国債と資産担保証券を大
量に保有するというバランスシートポリシーは継続し、満期分と利
子支払い分の再投資は継続する。
したがって、FEDが資産を保有するという金融政策は継続するのであ
り、本来であれば、緩和は継続というのが本質的なとらえ方である
。ただ、経済と金融市場の拡大に応じてマネーの供給は拡大するの
が中立的な金融政策であると考えるのであれば、資産保有規模が一
定となるのは、拡大とは言えず、量的な「緩和」は終了し、量的金
融政策は継続される、という捉え方もできる。

改めて、量的緩和とは何か
そこで、この際もう一度、量的緩和の定義を考えてみよう。本来は
、量的緩和とは、日本銀行が2001年3月から2006年3月までに実施し
たもので、日銀の当座預金勘定の金額を金融政策の目標変数とする
ものであって、従来の短期金利を操作目標とするのと異なって、日
銀のバランスシート上の金額、裏を返せば、短期金融市場に供給さ
れる量、これを目標にする金融政策のことである。操作目標である
短期金利がゼロになってしまったので、それ以上金利を下げること
ができず(実質マイナス金利という議論はあるが)、代わりに量を
目標としたのである。
このとき、金融緩和をさらに拡大するというスタンスを取るために
、この目標金額を増額していった。これが市場にオカネをじゃぶじ
ゃぶ溢れさせる、というイメージを与え、日銀がお札を刷りまくる
という金融緩和、量的緩和の世間的なイメージを作り上げた。
しかし、このイメージは誤ったものである。池尾和人・慶応義塾大
学教授が繰り返し指摘しているように、市中銀行が短期国債を日銀
への当座預金に置き換えるだけでは何も起こらないからだ。さらに
、お札の量は増えない。マネタリーベースの拡大ではなく、(現金
プラス当座預金額ではなく)当座預金額を拡大するのであるから、
お札は増えないのである。

日銀当座預金の増加と「実弾供給」の違いとは?
ゼロ金利の中で、日銀当座預金額を増やすことは、どんな意味があ
るのか。意味はない。それは、日銀の気合いを表しただけであり、
実際の効果はなく、実弾はないのであるから、何の変化も起きない。
一方、長期国債の買い入れは実弾供給である。長期国債はリスク資
産であり、市中の銀行が長期国債を中央銀行に売って、代わりに中
央銀行への当座預金額を増やすのであれば、これはリスク資産の減
少であり、長期資産の減少であるから、増えた無リスク資産あるい
は短期資産を、別の長期資産へ振り返る可能性があるからだ。別の
長期資産が株式であれば、株式は需要が増加することにより価格が
上昇するし、貸し出しに回れば、企業や個人の支出(消費または投
資)が増えることになり得る。
リスク資産の買い入れ、FEDであれば資産担保証券であり、日銀であ
れば、日本株ETF、J-REITの購入であるが、これはさらなる実弾供給
である。長期国債よりもリスクのある資産であるから、本来中央銀
行が行うと思われていないリスク資産を購入するわけであるから、
金融市場だけでなく、実体経済へ直接リスク投資することになる。
ただ、実際は、それが株式市場(およびJ-REIT市場)というセカン
ダリーマーケットへの流動性供給という形を取るから、この市場に
おける需給の変化が、これらのリスク資産の価格上昇だけにとどま
り、実体経済におけるリスク投資の変化をもたらさない可能性もあ
る。
さて、中央銀行の買い入れ資産の種類によって、中央銀行が供給し
ているもの、量的緩和と世間で呼ばれるものにより、市場にもたら
されるものの違いについて議論してきたが、実際のところ、この分
類はあまり関係ない。
本稿は、この分類が重要であって、量的緩和の定義をしっかり考え
よ、という論点から始まったはずなので、これでは本稿の議論の意
味が全くなくなってしまうのであるが、これまで、このような議論
をしても、あまり世間で日の目をみなかったのは、やはり意味がな
いからである。
もう少し正確に言うと、量的緩和と世間で広く呼ばれている金融政
策の効果は、その政策に対する市場における投資家(銀行を含む)
の受け取り方によって決まるから、実際に金融政策として中央銀行
が何を行うかと、その効果は異なるのだ。いわば、金融政策のファ
ンダメンタルズは、「金融政策効果の評価」という「市場価格」と
は無関係なのだ。
投資家が、これにより、株価が上がると思えば、株価は上がるし、
これにより、円が値下がりすると思えば下がるし、これで景気が良
くなると思って銀行が貸し出しを増やせば、マネーサプライは増え
る。逆に言えば、ベースマネーをいくら増やしても、マネーサプラ
イが増えない可能性は十分にある。
したがって、金融政策として何を行うかは、実際に何を行っている
か、それ自体とは関係なく、投資家たちの受け止め方によってすべ
て変わってしまう、より正確に言えば、変わるのではなく、そこで
初めて金融政策の意味が決まるのだ。この点では、日銀・黒田総裁
の異次元緩和、量的質的緩和は、量的質的というよりも異次元であ
ると投資家に受け止められたから効果を持ったのであり、これが副
作用から悪い結果をもたらすようになるかどうかも、受け止められ
方によるのである。

今回のFEDの発表は、市場にどう受け止められたのか
したがって、今回、FEDが量的緩和を終了したのか、継続しているか
は、投資家たちの認知によるのであり、それが悪いことなのかいい
ことなのかも、認知に基づく行動によって変わってくるのだ。
結局、株式市場としては、発表直後の下げを消すように動いたこと
から、ほとんど意味がないことになり、為替は大きくドル高に動い
たから、こちらでは意味があったことになるのである。動きが違う
から、どちらかが間違っているのではなく、金融政策のファンダメ
ンタルズは関係ない、という真実が明らかになったのである。
同様にして、日銀が大量の国債購入を行い、政府が歳出を拡大する
のは、実質財政ファイナンスに当たるかどうかは、投資家の認知に
よるのであって、それ以外は関係ない。
さらに言えば、メディアがどう言おうと、投資家の反応に乗るので
あって、米国では、量的緩和の定義について、米国民の4分の3以上
が正しい認識をもっていなかったという衝撃的なニュースに対して
、ある有識者が、ディーラーたちが正しく認識していれば関係ない
、と答えたのは、半分正しい。
半分間違っているのは、ディーラーたちの金融政策のファンダメン
タルズとしての意味、実体経済への意味の認識は正しくない、とい
うことで間違っており、さらに、それが正しいか正しくないかは関
係ない、という意味でも間違っているのだ。
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追加緩和は有害無益
池田 信夫2014年10月31日15:14agora
きょう日銀の追加緩和が発表された。今まで追加緩和についてノー
コメントだった黒田総裁の仕掛けたサプライズで、ドル/円は111円
台になったが、これはマネタリーベースの増加を「毎年60〜70兆円
」から「80兆円」にする戦力の逐次投入で、効果は限定的だ。
図1のように9月のコアCPI上昇率は、前月より0.1%下がって1.0%に
なった。コアコアは横ばいなので、この原因は明らかにエネルギー
(特に原油)価格上昇率の大幅な下落(今年に入ってほぼ半減)で
ある。
これは日本経済にとってはいいことだが、日銀の「2015年4月に2%
」というインフレ目標は達成不可能になった。追加緩和は円安効果
はあるが、その影響は図のコアコアでもわかるように大したことな
い。コアCPIの低下は原油相場が原因なので、日銀にはどうにもなら
ない。
ロイターによれば、日銀の岩田副総裁は参議院財政金融委員会で、
就任前に「2年程度で2%の物価目標が実現できない場合は辞職する
」と発言したことについて、「(達成できなければ)自動的に辞め
ると理解されてしまったことを、今は深く反省している」と語り、
「電車の時刻表のように、きちんとはできない」と説明したが、こ
れは嘘である。2013年3月5日の国会発言を正確に引用しよう。
岩田参考人 日本の場合、非常にデフレが長くて、デフレマインド
がもう定着しておりますので、これを金融政策である程度マイルド
なインフレに転換することが必要ですので、今言った中期的のうち
の2年は、遅くとも2年では達成できるのではないか、またしなけれ
ばいけないというふうに思っています。
彼は2013年に「遅くとも2年」という時刻表を設定したのだから、こ
れは「遅くとも2015年3月5日までに達成する」という意味である。
岩田氏の論文によれば、日銀当座預金残高が10%増えると、予想イ
ンフレ率は0.44%ポイント上がることになっているので、彼は「レ
ジームチェンジ」さえすれば物価は容易に上がると楽観していたの
だろう。
これは検証可能な命題なので、実際のデータでみてみよう。日銀当
座預金は、図2のように異次元緩和の始まった2013年4月の66兆円か
ら現在の160兆円に142%増えたので、岩田理論によれば、BEI(予想
インフレ率)は昨年4月の1.3%から0.44×14.2=6.2%増えて7.5%
になっているはずだが、逆に下がって今は1.1%だ。黒田総裁のお好
きなポパーの理論によれば、リフレ理論は反証されたのだ。
1年半で142%も日銀当座預金が増えてもコアCPIが下がっているのに
、その増加率を1割ぐらい増やしても効果はない。問題は「デフレ脱
却」ではなく、円安とエネルギーコストの上昇で成長率が低下して
いることなのだ。
幸い原油価格が大幅に下がったのでゼロ成長はまぬがれそうだが、
金利上昇リスクは大きくなった。追加緩和は有害無益である。










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